AN-1604: LFCSP パッケージおよびフランジ・パッケージに収容された RF アンプの温度管理計算

はじめに

無線周波数(RF)アンプは、リード・フレーム・チップ・スケール・パッケージ(LFCSP)またはフランジ・パッケージに収容し、技術の確立したリフロー・ハンダ処理プロセスを用いてプリント回路基板(PCB)に実装した状態で使用することができます。PCBはデバイス間の電気的接続を実現するために機能するだけでなく、パッケージ下面の金属スラグを使用してアンプから熱を逃がすための主要経路としても機能します。

本アプリケーション・ノートでは、熱抵抗の概念について述べ、LFCSPパッケージやフランジ・パッケージに収容された代表的なRFアンプの、ダイからヒート・シンクまでの熱流をモデル化する手法を説明します。

熱の概念の復習

熱流


材料間で温度差がある場合、高温領域から低温領域に向けて熱が流れます。このプロセスは、回路の高電位側から低電位側に電流が流れるプロセスと同様のものです。


熱抵抗


すべての材料は、ある程度の熱を伝導します。熱伝導率は、材料の熱を伝導する能力を示す標準的な尺度です。熱伝導率の値は、通常、メートル・ケルビン当たりのワット数(W/mK)またはインチ・ケルビン当たりのワット数(W/inK)を単位として指定されます。材料の熱伝導率がわかると、材料のその体積での熱抵抗(θ)が、ºC/WまたはK/Wを単位として次のように計算できます。

数式1

ここで、

  • Length はメートルを単位する材料の長さまたは厚さ。
  • は材料の熱伝導率。
  • Area は m2 を単位とする断面積。

温度


熱流は電流に例えるアナロジーを使用すると、熱抵抗とそこを流れる熱流がある材料の温度差は、次のようになります。

数式2

ここで、

  • ΔTは材料に発生する温度差(KまたはºC)。
  • Qは熱の流れ(W)。
  • θは材料の熱抵抗(ºC/WまたはK/W)。

デバイスの熱抵抗

デバイスの熱抵抗は複合的で、多くの場合温度に対し非線形になります。そのため、デバイスの熱モデルは、有限要素解析を使用して創り出されます。動作中のデバイスのジャンクション温度とパッケージの温度は、赤外線写真技術を利用して求めます。このような分析と測定に基づき、等価熱抵抗が求まります。等価熱抵抗は、デバイスを測定する特定の条件下で有効で、この条件は通常、最大動作温度です。

代表的なRFアンプの絶対最大定格については、表1を参照してください。

表1. 代表的なRFアンプの絶対最大定格
Parameter Rating
Drain Bias Voltage (VDD) 60 V dc
Gate Bias Voltage (VGG1) −8 V to 0 V dc
Radio Frequency (RF) Input Power (RFIN) 35 dBm
Continuous Power Dissipation (PDISS) (T = 85°C) (Derate 636 mW/°C Above 85°C) 89.4 W
Thermal Resistance, Junction to Back of Paddle (θJC) 1.57°C/W
Temperature Range  
Storage −55°C to +150°C
Operating −40°C to +85°C
JunctionTemperature (TJ) to Maintain 1,000,000 Hour Mean Time to Failure (MTTF) 225°C
Nominal Junction Temperature (TCASE = 85°C, VDD = 50 V) 187°C

LFCSPパッケージとフランジ・パッケージについては、パッケージのケースをパッケージ下面の金属スラグとみなします。

最大ジャンクション温度

与えられたデータシートの最大ジャンクション温度は、製品ごとの絶対最大定格表で仕様規定され、デバイスの半導体プロセスによって異なります。表1では、1,000,000時間のMTTFを維持する最大ジャンクション温度は225ºCと仕様規定されています。この仕様温度は、窒化ガリウム(GaN)デバイスでは典型的な温度です。この限界値を超えると、デバイスの寿命は短くなり、デバイスの故障が早まることになります。

動作温度範囲

デバイスの動作温度(TCASE)は、パッケージの基部で仕様規定されます。すなわち、TCASEは、パッケージ下部の金属スラグの温度になります。動作温度は、デバイス周囲の温度とは異なります。

TCASEとPDISSがわかれば、ジャンクション温度(TJ)は容易に求めることができます。例えば、TCASEが75ºCで、PDISSが70ワットの場合、TJは次式を用いて計算できます。

数式3

TJは、デバイスの信頼性を考慮すると最も重要な仕様で、決してこれを超えてはいけません。対照的に、PDISSを下げることでTJを最大許容レベル以下に維持できるのであれば、TCASEは仕様規定された絶対最大定格を超えることも可能です。ディレーティング仕様(この場合は636mW/ºC)を使用すると、ケース温度が仕様規定された最大レベル(85ºC)を超える場合の最大許容PDISSを計算できます。例えば、表1のデータを使用すると、PDISSを83Wに制限すれば、95ºCのTCASEを許容できます。このPDISSは次式を用いて計算されます。

数式4

次式を用いて計算すると、このPDISSの値から、ジャンクション温度は225ºCとなります。

数式5

デバイスとPCBを合わせた環境での熱モデル

デバイス周りの熱環境を完全に理解するには、デバイスの熱経路と材料をモデル化することが必要です。図1に、PCBとヒート・シンクにマウントされたLFCSPパッケージの断面図を示します。この例では、熱はダイで発生し、パッケージとPCBを通じてヒート・シンクに伝搬しています。デバイスのジャンクション温度を求めるには、熱抵抗を計算する必要があります。熱抵抗と熱流を組み合わせると、ジャンクション温度が計算できます。そして、デバイスが高い信頼性で動作するかどうかを判定するため、このジャンクション温度を仕様規定された最高ジャンクション温度と比較します。

図1. PCBおよびヒート・シンク上にマウントしたLFCSPパッケージの熱モデル

図1. PCBおよびヒート・シンク上にマウントしたLFCSPパッケージの熱モデル

図1では、デバイスのジャンクションからヒート・シンクに至る熱経路が、次のように定義されています。

  • θJAは、デバイスのジャンクションからパッケージ上部周辺の空気までの熱抵抗。
  • θJCは、ジャンクションからケース(パッケージ下部の金属スラグ)までの熱抵抗。
  • θSN63は、ハンダの熱抵抗。
  • θCUは、PCB上の銅めっきの熱抵抗。
  • θVIACUは、ビア・スルー・ホールの銅めっきの熱抵抗。
  • θVIASN63は、ビア・スルー・ホールを充填するハンダの熱抵抗。
  • θPCBは、PCB積層材料の熱抵抗。

通常の回路基板では、複数のビア・ホールやPCB層があります。システムの熱抵抗の計算のセクションでは、熱回路を用いて各熱抵抗を計算し、直列熱抵抗と並列熱抵抗を組み合わせてデバイスの全体的な熱抵抗を求めます。

システムの熱抵抗の計算

それぞれの熱経路の熱抵抗を、式1を用いて計算します。各熱抵抗を求めるには、その材料の熱伝導率を知る必要があります。PCBアセンブリで一般的に用いられる材料の熱抵抗については、表2を参照してください。

表2. 一般的なPCB材料の熱伝導率
Material Thermal Conductivity (W/inK)
Copper (Cu) 10.008
Aluminum (Al) 5.499
Rogers 4350 (RO4350) 0.016
FR4 or G-10 Laminate 0.008
Alumina (Al2O3) 0.701
SN63 Solder 1.270
Thermally Conductive Epoxy 0.020
Gallium Arsenide (GaAs) 1.501
Plastic Mold Compound 0.019

図1の熱モデルに基づく等価熱回路を、図2に示します。TPKGは、パッケージ基部の温度、TSINKは、ヒート・シンクの温度です。図2において、パッケージ周辺の温度(TA)は一定と仮定しています。実際のアセンブリでは、閉じた空間にあるため、TAは電力の消費と共に増加する可能性があります。金属スラグを備えたLFCSPパッケージやフランジ・パッケージでは、θJAはθJCより十分大きいため、この解析においては周辺温度への熱経路は無視しています。

図2. 等価熱回路

図2. 等価熱回路

熱抵抗の例:HMC408LP3評価用ボード


HMC408LP3パワー・アンプは、Rogers RO4350積層材料で構成された、厚さが0.010インチの評価用ボードを使用しています。図3に示したグラウンド・パッドのレイアウトは、面積が0.065インチ× 0.065インチで、直径0.012インチのビア・ホールが5個あります。この回路基板の上面と下面のめっきは、1オンスの銅(厚さ0.0014インチ)です。ビア・ホールは、1/2オンスの銅(厚さ0.0007インチ)でめっきされています。アセンブリの間にビア・ホールはSN63ハンダで充填されます。解析によると、熱流はほぼすべて、ビア・ホールを充填するハンダを介して流れます。そのため、回路基板レイアウトのその他の部分については、この解析では省略します。

図3. グラウンド・パッドのレイアウト

図3. グラウンド・パッドのレイアウト

それぞれの熱抵抗を、式1を用いて計算します。θSN63を計算するには、SN63ハンダの熱伝導率を1.27W/inK、長さ(ハンダ接合の厚さ)を0.002インチ、面積を0.004225平方インチ(0.065インチ× 0.065インチ)とします。

数式6

次にPCBの上部の銅めっきについて同様に計算します。銅の熱伝導率は10.008W/inK、長さは0.0014インチ(1オンスの銅)、面積は0.00366平方インチ(in2)です。

数式7

ビア・ホールの銅めっきの面積は次式で計算できます。

数式8

ここで、

  • rOは、外径。
  • rIは、内径。

外径が0.006インチ、内径が0.0053インチとすると、面積は0.00002485in2となります。ビアの長さは、基板の厚さ(0.010インチ)で、銅の熱伝導率は10.008W/inKです。

数式9

5個のビアが並列に配置されているので、抵抗はこれを5で割った値になります。そのため、θVIACU = 8.05ºC/Wとなります。

ビアを充填するハンダについても同様に計算できます。

数式10

充填されたビアは5個あるので、等価熱抵抗は、θVIASN63 = 17.85ºC/Wとなります。

次に、PCB材料の熱抵抗を、長さ0.010インチ、Rogers RO4350の熱伝導率0.016W/inK、面積0.00366in2として計算します。

数式11

図2の等価熱回路から、3つの熱抵抗(θPCB、θVIACU、θVIASN63)を並列にした場合、5.37ºC/Wとなります。ビアをハンダで充填することで、熱抵抗は、8.05ºC/Wから5.37ºC/Wに減少します。最後に、熱抵抗の直列成分を加えると、PCBアセンブリ全体の熱抵抗は次のようになります。

数式12

ここで、θASSYは、アセンブリの熱抵抗です。

消費電力の計算

熱抵抗値を求めた後は、熱流(Q)を求める必要があります。RFデバイスの場合、Qの値は、デバイスに入力される合計電力とデバイスが出力する合計電力の差になります。合計電力にはRF電力とDC電力が含まれます。

数式13

ここで、

  • PINTOTALは、DC電力とRF入力電力の合計。
  • POUTTOTALは、デバイスが出力する電力で、POUTRFと同じ。
  • PINRFは、RF入力電力。
  • PINDCは、DC入力電力。
  • POUTRFは、負荷に印加されるRF出力電力。

HMC408LP3パワー・アンプの場合、式11を使用すると、図4に示したPDISSを計算できます。アンプの次のような特徴が図4に示されています。

  • RF入力信号がない場合、デバイスはおよそ4Wの電力を消費する。
  • RF信号が印加された場合のPDISSは、周波数によって異なる。
  • デバイスの消費電力が最小となる入力電力がある。

図4. HMC408LP3の消費電力と入力電力の関係。

図4. HMC408LP3の消費電力と入力電力の関係。

等価熱抵抗θTOTALとQから、ジャンクション温度は次式を用いて計算できます。

数式14

数式15

RF入力電力のない静止条件では、Q = 4Wなので、

equation16

HMC408LP3の最高ジャンクション温度の仕様規定値は150ºCであるため、PDISSが4Wの場合、ヒート・シンクの温度は71.6ºC以下(すなわち、78.4ºC + 71.6ºC = 150ºC)である必要があります。

HMC408LP3パワー・アンプが通常動作している(例えば、入力パワーが5dBm以下)場合、消費電力は4Wを下回るため、ヒート・シンクの温度は71.6ºCをわずかに超えても許容できることが示唆されます。ただし、入力パワーが15dBmで圧縮が大きいような状況でアンプが動作する場合は、PDISSが増加するため、ヒート・シンクは71.6ºCより低い温度となることが必要です。

表3. 熱ワークシート
Description Value Unit Comments
Heat Sink Maximum Temperature 70 °C
θASSY 5.81 °C/W Calculated from equivalent thermal circuit
θJC 13.79 °C/W From data sheet
θTOTAL 19.6 °C/W Add θASSY and θJC
Q 4.0 W
Resulting Junction Temperature 148.4 °C Heat sink maximum temperature + (θTOTAL × Q); do not exceed maximum channel temperature listed in data sheet

信頼性

部品の予想寿命は動作温度に大きく依存します。最高ジャンクション温度より低い温度で動作すると、デバイスの寿命は長くなりますが、最高ジャンクション温度を上回ると寿命は短くなります。そのため、熱解析を行うことで、予想される動作条件の下で仕様規定された最高ジャンクション温度を超えないようにする必要があります。

まとめ

ジャンクションからケースまでの熱抵抗が小さいLFCSPパッケージやフランジ・パッケージに収容された表面実装RFパワー・アンプでは、PCBがデバイス間のRF用配線としてだけでなく、パワー・アンプからの熱を外部に逃がす主要な熱経路としての役割も果たします。

その結果、LFCSPパッケージやフランジ・パッケージの熱抵抗の主要な指標として、θJCがθJAに置き換わります。

こうした計算の最も重要な指標は、RFアンプのジャンクションまたはチャンネルの温度(TJ)です。最高ジャンクション温度を超えない限り、TCASEなど、その他の公称制限値を超えることは可能です。

著者

Eamon Nash

Eamon Nash

Eamon Nashは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション・ディレクタです。様々な現場や工場で、ミックスド・シグナル製品、高精度製品、RF製品に関する業務に携わってきました。現在は、衛星通信/レーダーなどで使用されるRFアンプやビームフォーマ製品に注力しています。アイルランドのリムリック大学で電子工学の学士号を取得。5件の特許を保有しています。