AN-2622: アナログ・デバイセズ製RF 低ノイズ・アンプの選択

はじめに

図1 に、10MHz~9GHz で動作する低ノイズ・アンプ(LNA)、HMC8413 の周波数応答を示します。図には、ゲインとノイズ指数に加えて1dB 圧縮ポイント、2 次および3 次歪みが含まれています。このデバイスは6 オクターブ以上にわたって平坦な応答を示します。LNA のノイズ指数と周波数範囲は非常に重要ですが、図1 に示す他のすべての仕様がエンド・アプリケーション内におけるLNA の性能に影響を与える可能性があり、これによってRF LNA の選択プロセスが難しくなることが予想されます。更に、アナログ・デバイセズのポートフォリオは200 を超える同様製品で構成されており、そこに含まれるすべてのデバイスの違いを認識するのが難しいということも考えられます。

図1. HMC8413(10MHz~9GHz LNA)の周波数応答
図1. HMC8413(10MHz~9GHz LNA)の周波数応答

このアプリケーション・ノートは、アナログ・デバイセズの広範かつ多様なRF LNA のポートフォリオを構成するデバイスをRF 回路設計者が理解し、適切なデバイスを選択する際の助けとすることを意図したものです。ここでは、アナログ・デバイセズのポートフォリオの概要を示すことから始めます。これには、比較的長い歴史を持つ各種製品ファミリの紹介と、部品番号体系に関するガイドラインが含まれています。その後は、LNA の選択に影響を与える様々な検討事項について述べていきます。このアプリケーション・ノートは、最初から最後までを通じて読むこともできますし、特定の項目に関する参考資料として使用することもできます。

デプレッション・モードLNA と正の単電源を使用するエンハンスメント・モードLNA

アナログ・デバイセズか提供する数多くのLNA において基本的な違いの1 つが、それらがどのようにバイアスされるかという点、特に静止動作電流がどのように設定されるかという点です。デプレッション・モード・プロセスで製造されたLNA のドレイン-ソース間(またはVDD – グラウンド間)抵抗は、ゲート電圧がオープン状態の場合、あるいは0V に等しい場合は、ほぼ0Ωです(図2 を参照)。VDD とグラウンド間のこの低い抵抗値は抵抗計を使って物理的に計測可能ですが、デバイスの損傷や破損を示すものとして誤解されることも少なくありません。

図2. デプレッション・モードLNA
図2. デプレッション・モードLNA

メイン・トランジスタにバイアスをかけるには、負のゲート電圧を加える必要があります。この電圧は通常−0.5Vから−2Vまでの間であり、VDD がオンになる前に印加してVDD がオフになった後に除去するように、慎重にシーケンシングすることが求められます。

代表的なエンハンスメント・モードLNA 用のアプリケーション回路を図3 に示します。この場合、動作バイアス電流はRBIASピンとVDD の間に抵抗を接続することによって設定します。アナログ・デバイセズの比較的新しいLNA はすべてこの回路アーキテクチャを使用しており、HMC841X 、ADL7XXX 、ADL8XXX という形式の製品番号が付与されています(例えばHMC8414ADL7078ADL8100)。これらのLNA にとって電源シーケンシングは決定的に重要なものではなく、負の電源電圧も不要なので、デプレッション・モード・デバイスより扱いやすくなっています。

図3. エンハンスメント・モードLNA
図3. エンハンスメント・モードLNA

より古い、固定バイアス設定のLNA 群もあります。通常、これらのデバイスは正の単電源を使用し、静止バイアス電流は固定されていて調整できません。

アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオ

アナログ・デバイセズ製LNA のポートフォリオは、長年にわたり開発してきた製品ポートフォリオと買収した製品ポートフォリオの組み合わせです。約200 種類のデバイスからなるファミリの概要を表1 にまとめます。新しいデバイスや製品ファミリは表の上側に、古いデバイスは下側になっています。 

表1. アナログ・デバイセズ製RF LNA のポートフォリオlio
Part Numbering Frequency Coverage Frequency Bands Target End Applications Example Comments Approximate Number of Generics
ADL81XX 10MHz to 54GHz VHF to V General purpose ADL8100 Single supply with RBIAS 20
ADL7XXX 1GHz to 20GHz, 50GHz to 95GHz L to KU, V, E General purpose ADL7078 2
ADL900X 10 MHz to 28GHz VHF to K General purpose ADL9005 Single supply 4
HMC841X 10MHz to 11GHz HF to X General purpose HMC8411 Single supply with RBIAS 9
HMC840X 10MHz to 30GHz HF to K General purpose HMC8400-DIE Requires negative gate voltage 3
ADL8111X, HMC8414 10MHz to 25.5GHz HF to K High dynamic range receivers, bidirectional circuits, test and measurement equipment ADL8113 LNA with bypass and bidirectional operation, single supply with RBIAS 4
ADLXXXX-CSL, ADLXXXX-CSH 30KHz to 31GHz LF to KA Commercial space low, commercial space high ADL8141- CSL Single supply with RBIAS 5
ADHXXXS 10MHz to 65GHz HF to V Traditional space ADH903S QMLV space qualified 18
ADL57XX 6GHz to 24GHz C, X, KU, K Differential Rx mixer driver, ADC driver ADL5721 Single-ended to differential amp, single supply 5
MAX-XXXX 40MHz to 4GHz VHF, UHF, L, S GPS/GNSS, automotive FM radio, general purpose MAX2694 Single supply silicon based devices 40
HMC-ALHXXX 500MHz to 86MHz L to E General purpose HMCALH244-DIE Older portfolio, die product only 15
HMC1XXX,HMC2XX,
HMC3XX, HMC4XX,
HMC5XX, HMC6XX,
HMC7XX, HMC9XXX,
ADL55XX
30KHz to 36GHz LF to V General purpose HMC1126, ADL5521 Older portfolio, mostly require negative gate voltage 57

比較的新しいデバイス( 例えば製品番号がADL8XXX 、ADL7XXX、HMC8XXX などのもの)は、総じて広帯域で内部的にマッチングされており、正の単電源で動作します。これらにはAD7XXX 、ADL8XXX 、ADL9XXX 、HMC840X 、HMCH41X といった形式の製品番号が付与されています(例えばADL7078、ADL8102、ADL9005、HMC8402、HMC8411)。図4 に例を示します。

図4. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、HMC8412
図4. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、HMC8412

製品番号形式がHMC8414 およびADL811X(例えばADL8112)のデバイスはバイパス動作モードと双方向動作モードを備えたLNA で、高ダイナミック・レンジのレシーバ・アプリケーション、双方向レーダー回路、試験および計測機器になどに有効です(図5 の例を参照)。

図5. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADL8111
図5. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADL8111

これらの比較的新しいデバイスの大部分は正の単電源で動作し、外部抵抗(RBIAS)によってバイアス電流を設定します。 

アナログ・デバイセズの商業宇宙用LNA ファミリの製品番号末尾には、-CSL ( Commercial Space Low ) または-CSH(Commercial Space High)という記号が付与されています(図6の例を参照)。また、アナログ・デバイセズの宇宙用品質を完全に満たしている伝統的な製品には、「ADH」で始まり「S」で終わる製品番号が付与されています(図7 の例を参照)。商業用および宇宙用品質の両方のバージョンが用意されているヒッタイト( Hittite ) デバイスの製品番号は、商業用がHMCXXX 、宇宙用がADHXXXS です( 例えば、HMC9036GHz ~17GHz LNA の商業用品質バージョンの製品番号はHMC903LP3E、宇宙用品質バージョンの製品番号はADH903S)。

図6. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADL8141-CSL
図6. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADL8141-CSL
図7. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADH463S
図7. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADH463S

ADL57XX ファミリはシングルエンド入力、差動出力のLNA です(例えばADL5721)。代表的なデバイスを図8 に示します。6GHz~24GHz で動作するこれらのデバイスは、差動入力のRFミキサーや、アナログ・デバイセズのミックスド・シグナル・フロント・エンド(MxFE)ファミリのようなRF サンプリングA/D コンバータ(ADC)を駆動するために開発されたものです。これらシリコン・ベースのデバイスはすべて内部的にマッチングされており、正の単電源で動作します。

図8. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADL5721
図8. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、ADL5721

MAX に続く4 ~ 5 桁の数字で表される製品番号( 例えばMAX2657MAX12000)は、そのほとんどが車載FM ラジオ用、全地球測位システム(GPS)用、全球測位衛星システム(GNSS)用レシーバなどの特定アプリケーション用に開発されたデバイスからなる、比較的古いファミリです。これらシリコン・ベースのデバイスはすべて内部的にマッチングされており、正の単電源で動作します(図9 の例を参照)。

図9. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、MAX2691
図9. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、MAX2691

HMC-ALHXXX-DIE ファミリ(例えばHMC-ALH216-DIE)は比較的古いデバイスです。ダイ形態でのみ提供されており、その周波数範囲は500MHz~86GHz です(図10 の例を参照)。これらのデバイスは内部的にマッチングされており、負のゲート・バイアス電圧を必要とします。

図10. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、HMC-ALH482
図10. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、HMC-ALH482

3 桁の製品番号を持つLNA ( 例えばHMC311ST89 ) とHMC1XXX およびADL55XX は、比較的古い汎用デバイスで構成される大きなファミリに属しています(図11 の例を参照)。これらのデバイスの大部分は内部的にマッチングされていますが、すべてがマッチングされているわけではありません。更に、これらのデバイスの大多数は負のゲート電圧を必要としますが、それら以外は固定バイアスの正の単電源で動作します。

図11. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、HMC311ST89
図11. アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオに含まれる代表的デバイス、HMC311ST89

約200 種類のLNA からなるアナログ・デバイセズのファミリのうち、約70 種類はダイ・フォーム・ファクタです。これらのデバイスはパッケージ・バージョンのデバイスと同様の機能を備えていますが、集積回路(IC)パッケージではありません。ダイ形態のLNA はゲインと帯域幅がわずかに高い傾向にあり、ノイズ指数は同等のパッケージ・バージョンより低くなっています。ダイ形態のLNA の製品番号には一貫性がほとんどありません。例えば、ADL8106CHIPSHMC1040-DIEHMC1127 は、すべてダイ形態のLNA の製品番号です。適切なデバイスを選んで比較するには、アナログ・デバイセズのパラメトリック検索ツールを使用し、パッケージ・オプションを介してソートします。 

生産年数と生産状況に基づくデバイスの選択

LNA を選択する際に、そのデバイスの生産年数と生産状況をチェックするのは有効な方法です。この情報は、デバイスの製品ページまたはパラメトリック検索テーブルに記載されています。生産開始日は、そのデバイスの大量生産がいつ開始されたかを示します。一般的には、技術的要求に合致する最新のデバイスを選択することが推奨されます。表2 に、生産状況を示す様々な指標とその意味を示します。 

表2. アナログ・デバイセズの生産状況の定義
生産状況 意味
新設計に推奨 この製品は市場投入されています。アナログ・デバイセズは、新規計にはこれらの製品を使用することを推奨します。
生産中 この製品ファミリは1 モデル以上の生産が継続中で、購入が可能です。この製品は新設計にも適していますが、より新しい別の製品が存在することがあります。
新設計には非推奨 これは、アナログ・デバイセズが新設計用には広く推奨していない製品を示します。
最終販売 このデバイスは間もなく生産が終了する予定です。現在まだこのデバイスを使用中の場合は、在庫を確保しておくことを推奨します。
廃版品 この製品ファミリのモデルは既に購入できません。通常、このデバイスの製品ページには代替品が提案されています。

LNA とゲイン・ブロックとドライバ・アンプ

LNA、ゲイン・ブロック、およびドライバ・アンプという用語は業界で広く使われていますが、その定義は明確ではありません。何をもってLNA とするのか、という定義についての合意はありません。つまり、デバイスのノイズ指数をどのレベル未満にすればLNA と言えるのか、ということを決める閾値は存在しません。 

一般に、ゲイン・ブロックとは比較的低電力のRF アンプで、内部的にマッチングされており、比較的広い動作周波数範囲(例えば5 オクターブ以上)を示すものと理解されています。 

しかし、アナログ・デバイセズの多くのLNA はこの基準を満たしています。一般に、ドライバ・アンプはADC やRF アンプの駆動に使われます。どちらのケースでも、3 次インターセプト・ポイント(OIP3 ) 、2 次インターセプト・ポイント(OIP2)、1dB 圧縮ポイント(OP1dB)などの出力仕様は、エンド・アプリケーションにとって非常に重要です。しかし、アナログ・デバイセズのLNA ポートフォリオの場合は、多くのデバイスが優れた出力換算仕様を備えているので、ドライバ・アンプとして使用できます。このことは、デバイスを探すときに重要なのは、そのデバイスが上記いずれの製品として定義されているかではなく、目標仕様であることを示唆しています。これらの仕様については、以下のセクションで詳しく検討します。

低ノイズ・アンプ選択の基準

周波数範囲

LNA の仕様に規定された周波数範囲は、そのデバイスが良好に動作するとアナログ・デバイセズが判定した範囲です。この仕様周波数範囲は、主に周波数に対するそのデバイスのゲイン、ノイズ指数、および反射損失の挙動によって決定されます。使用周波数範囲の外側におけるこれらの特性の低下は、一般に穏やかです。また、多くのデータシートやS パラメータ・データ・セットには、仕様周波数範囲を超えた部分のデータが含まれています。これによりエンド・ユーザは、そのデバイスを仕様範囲外でも使用できるかどうかを判断することができます。HMC8413(10kHz~10GHz LNA)のゲインおよび反射損失と周波数の関係を図12 に示します。このプロットは、10GHz を超えた場合の挙動が分かるように12GHz まで測定されています。 

ほとんどのデバイスは内部で広帯域マッチングされているので、一般に、外部マッチング回路を使ってデバイスの周波数範囲を拡大することはできません。外部ドレイン・バイアス・インダクタ(HMC8413 など)を必要とする広帯域デバイスの場合、インダクタの選択によっては動作周波数範囲が狭くなることがあります。AN-2061:アプリケーション・ノート0402 SMD 部品を使った広帯域バイアス・ティーの設計には、このトピックについての詳細が示されています。このアプリケーション・ノードは、外部バイアス・インダクタを必要とする帯域アンプ用に、20GHz を超える周波数でも平坦な応答性を持つ表面実装バイアス・ティー回路について説明しています(バイアス・ティーはDC バイアス電流とAC カップリングを提供するために使われる回路で、通常は正の電源に接続される直列コンデンサとシャント・インダクタで構成されます)。

図12. ADL8122 のゲインおよび反射損失と周波数の関係
図12. ADL8122 のゲインおよび反射損失と周波数の関係

ゲイン

通常、LNA のゲインは固定されています。正確なゲインが必要な場合にこれを実現する最も実用的な方法は、必要なゲインよりわずかに高いゲインのアンプを選んで、回路に減衰機能を加えることです。これは、アンプの入力や出力にT 型減衰器(直列抵抗とシャント抵抗の後にもう1 つの直列抵抗を配置して構成される抵抗ベースの減衰器)またはPi 型減衰器(シャント抵抗と直列抵抗の後にもう1 つのシャント抵抗を配置して構成される抵抗ベースの減衰器)を使用するか、シグナル・チェーンにデジタル・ステップ減衰器(DSA)を含めることによって実現できます。ノイズ指数の影響が最も大きいシグナル・チェーンの起点またはその近くにLNAがある場合は、LNAの後段に、何らかの形でゲインを下げる減衰器を配置する必要があります。 

バイアス電流の調整はゲインにわずかに影響しますが、一般的には、ゲイン制御メカニズムとしての使用は避けるべきです。通常は、比較的小さいゲイン変化であったとしも、その変化を実現するにはバイアス電流を大きく変える必要があります。しかも、バイアス電流を調整した場合は、ゲイン圧縮と歪みへの影響が大きくなる傾向があります。

消費電流、IDQ とIDD

最近のアナログ・デバイセズのLNA データシートは、静止消費電流とダイナミック消費電流を区別しています。静止電流(IDQ)は、アンプのバイアスはオンになっていながらRF 信号が存在しない状態での消費電流ですダイナミック消費電流(IDD)は、RF信号が存在する状態での消費電流です。通常、IDD はIDQ より大きな値となりますが、常に大きいわけではありません。パワー・マネージメント・システムをどの程度のものにするかを決定するときは、予想される最大RF 出力電力をサポートできるだけの十分な電流を見込むことが重要です。これにはアクティブ・バイアス制御回路が含まれます。この回路では、予想最大出力電力をサポートするために連続バイアス電流を設定する必要があります。ADL8107(6GHz~18GHz LNA)の消費電流、ゲイン、出力電力、および電力付加効率(PAE)と入力電力の関係を図13 に示します。この場合のIDQ は90mA で、IDD が123mAの最大値に達するのは、入力電力が+5dBmで出力電力が+20dBmのときです。出力電力に対するIDD の挙動は、信号周波数と共に変化する傾向があります。

図13. 12GHz でのADL8107 の電力スイープ
図13. 12GHz でのADL8107 の電力スイープ

ノイズ指数

周波数範囲の後は、LNA のノイズ指数が最も重要な仕様です。データシートの最初のページにはノイズ指数の代表値が様々なスポット周波数における仕様と共に仕様表に記載されており、代表的な性能特性のセクションにはノイズ指数と周波数およびその他の変数との関係を示すプロットが示されています。 

周波数が大きくなるにつれ、ノイズ指数は一定して悪化する傾向にあります。逆に周波数が小さくなるにつれてノイズ指数は徐々に改善していきますが、一定のブレーク・ポイントに達すると急激に上昇します。通常、その位置は数十から数百MHz です。アナログ・デバイセズのほとんどのLNA は内部的にマッチングされているので、外部マッチング回路を使ってこの性能を改善することはできません。 

電源電圧範囲を調整できるデバイスでは(例えば3V または5V)、電源電圧の調整がノイズ指数に影響する可能性があります。更に、バイアス電流の調整がノイズ指数に影響する場合もあれば、しない場合もあります。ノイズ指数と周波数およびバイアス電流との関係を示す代表的なプロットを図14 に示します。この例では、バイアス電流を20mA から45mA に増やすと、ADL8140(10GHz~18GHz LNA)のノイズ指数は約0.3dB 改善されます。バイアス電流を35mA に維持したままこのデバイスの電源電圧を1.2Vから3.5V に変更した場合、そのノイズ指数の改善は0.1dB に止まります。しかし、電源電圧やバイアス電流を調整しても、ノイズ指数にほとんど影響が見られないデバイスもあります。したがって、使用を検討しているデバイスのデータシートを参照して、そのデバイスがどのような挙動を示すかを確認するのが最善の方法です。

図14. ADL8140(10GHz~18GHz LNA)のノイズ指数と周波数およびバイアス電流との関係
図14. ADL8140(10GHz~18GHz LNA)のノイズ指数と周波数およびバイアス電流との関係

残留位相ノイズ

残留位相ノイズは、アンプによってどれだけの位相ノイズが加わるかを示す尺度です。これは、ローカル発振器のバッファやレーダーの受信機として使われるアンプにとって非常に重要な仕様です。なぜなら、アンプはシステムに位相ノイズを発生させることによって、その感度を低下させるからです。残留位相ノイズは、アンプの出力における位相ノイズを観測して、アンプを駆動する入力信号のノイズと相殺することによって測定します。残留位相ノイズは、アンプのRF 出力電力レベルと共に変化する傾向があります。このノイズは多くの場合、出力電力圧縮ポイントの十分手前でアンプが動作しているときよりも、出力電力が圧縮ポイントや飽和ポイントにあるときの方が改善されます。ただし、この挙動は普遍的なものではありません。 

通常、比較的新しいデバイスのデータシートには残留位相ノイズが記載されており、PSAT 時、OP1dB(dBm 単位の出力1dB 圧縮ポイント)時、および圧縮ポイントから約10dB 手前の出力電力時の複数周波数に対するプロットとして示されます。プロット例を図15 に示します。この例では、出力電力の増加と共に位相ノイズが改善しています。しかし飽和時は、圧縮時の位相ノイズと比較すると、ある程度の周波数オフセットで位相ノイズがわずかに悪化します。1MHz オフセット周波数を超える周波数での明らかな位相ノイズの増加は、十中八九、セットアップ時のソース位相ノイズの相殺が不完全であることによって生じる測定アーチファクトです。

図15. AD8154(10MHz~6GHz 低位相ノイズLNA)の残留位相ノイズ
図15. AD8154(10MHz~6GHz 低位相ノイズLNA)の残留位相ノイズ

2 次および3 次相互変調

一般に、OIP2(dBm 単位の出力2 次インターセプト・ポイント)およびOIP3(dBm 単位の3 次インターセプト・ポイント)と呼ばれる2 次および3 次インターセプト・ポイントは、そのデバイスが生成する2 次(F1 + F2、F1 − F2)および3 次(2F1 − F2、2F2 − F1)相互変調積の指標です。アナログ・デバイセズのLNA のOIP2 とOIP3 は、通常、1MHz 離れた2 つの入力搬送波を使い、1dB 圧縮ポイントより通常10dB~20dB 低い電力レベルで測定されます。このレベルは仕様表に規定されており、一部のデータシートには、異なる電力レベルでのIP3 とIMD3 のデータ(dBm単位とdBc 単位)も記載されています。 

2 次および3 次高調波

広帯域アプリケーションや、LNAがADCを駆動するアプリケーションでは、2 次および3 次高調波のサイズが重要になることがあります。アナログ・デバイセズの一部のデータシートには2次および3 次高調波と周波数の関係を示すプロットが記載されていますが、ほとんどのデータシートには記載されていません。高調波に関するデータがない場合は、2 次および3 次相互変調の仕様を使い、以下の式によって2 次および3 次高調波の大きさを推定できます。

an2622 数式 01
an2622 数式 02

ここで、

PO は基本波の電力(dBm)、 

OIP2 とOIP3 は2 次および3 次インターセプト・ポイント(dBm)です。

なお、HD2 は2 次高調波(dBc)、HD3 は3 次高調波(dBc)です。 

圧縮と飽和

RF アンプへのRF 入力電力を増加させていくと、それに比例して出力電力も上昇していき、やがて圧縮が始まります。1dB 圧縮ポイントは、RF 出力電力レベルとゲインが、あるべき値より1dB 低くなるポイントです。アナログ・デバイセズでは、一般に、出力換算1dB 圧縮ポイント(OP1dB)の仕様を規定しています。出力換算圧縮と入力換算圧縮(IP1dB)の関係は次式で表されます。

an2622 数式 03

出力飽和ポイント(PSAT)は、入力電力が増加してもRF 出力電力が増加しなくなるポイントです。通常、GaAs デバイスとシリコン・デバイスのPSAT は圧縮ポイントより1dB~3dB 高くなります(GaN デバイスではOP1dB とPSATの差が大きくなる傾向がある)。 

電源電圧が変化し得るLNA(例えば3.3V 動作と5V 動作をサポートするLNA)では、一般に電源電圧が高くなるとOP1dB とPSAT も高くなります。バイアス電流を調整できるデバイスでは(負のゲート電圧またはRBIAS 抵抗を使用して調整)、バイアス設定がOP1dB に大きく影響し、一般にバイアス電流が大きくなればOP1dB も大きくなります。その例を図16 に示します。

図16. ADL8108(1GHz~8GHz LNA)のOP1dB とバイアス電流の関係
図16. ADL8108(1GHz~8GHz LNA)のOP1dB とバイアス電流の関係

電源電流が大きいとPSAT も大きくなる傾向がありますが、PSATとバイアス電流の関係はデバイスごとに異なります。電流を大きくするとPSAT が大きくなる場合もありますが、その他のデバイスのPSAT レベルはバイアス電流を大きくしてもそれほど変化しません。その例を図17 に示します。

図17. ADL8108(1GHz~8GHz LNA)のPSAT とバイアス電流の関係
図17. ADL8108(1GHz~8GHz LNA)のPSAT とバイアス電流の関係

オーバードライブ回復

オーバードライブ回復は、アンプが深い飽和状態まで駆動された後、そのアンプがいかに迅速に通常動作に戻るかを示す基準です。この場合、RF 入力電力はアンプを飽和状態まで駆動できるだけの十分に高い値ですが、RF 入力電力の最大絶対定格仕様を超える値ではありません。オーバードライブ回復は、アンプを飽和状態に置く大電力信号(多くの場合はブロッキング信号と呼ばれる)と、その後に続いてアンプを線形動作に戻す低レベル信号(通常は異なる周波数)の間で入力レベルを切り替えることによって測定します。測定するのは、出力が深い飽和状態から線形動作に切り替わるのに要する時間です。 

ブロッキング信号が存在する場合は、測定された入出力ゲインが大きく低下します。ブロッキング信号を除去すると、最終的に、入出力ゲインはその仕様規定された小信号レベルに戻ります。オーバードライブ回復は、通常、ブロッキング信号が除去されてから、ゲインがその小信号値の90%に戻るまでの時間として定義されます。 

オーバードライブ回復時間は、ブロッキング信号のレベルの関数として変化する傾向があります。結果としてデータシートには、通常、仕様表に仕様値を示すのではなく、オーバードライブ回復時間とブロッキング・レベルの関係を示すプロットが記載されます(例については図18 を参照)。通常、データシートには1 つのオーバードライブ回復プロットが含まれており、これは1 つの周波数について示したものです。広帯域デバイスの場合、周波数、電源レベル、あるいはバイアス電流設定が変化しても、オーバードライブ回復挙動はそれほど大きく変化しません。

図18. オーバードライブ回復とブロッキング信号レベルの代表的な関係を示すプロット(ADL7078 のデータシートから引用)
図18. オーバードライブ回復とブロッキング信号レベルの代表的な関係を示すプロット(ADL7078 のデータシートから引用)

イネーブル/ディスエーブル応答時間

省電力が重視されるアプリケーションでは、LNA を使用しないときはディスエーブルする必要があります。ADL8108 などの比較的新しいLNA にはデジタル入力ピンがあり、このピンを使用すれば15ns でデバイスをパワーアップしたり、10ns でパワーダウンしたりできます。この機能を使用できない場合は、RBIASピンをイネーブル/ディスエーブル機能として使用できます。ただし、イネーブル/ディスエーブルの応答はデバイスのアーキテクチャによって異なることがあります。その詳細は、AN-2599:アプリケーション・ノートUsing the RBIAS Pin of SinglePositive Supply RF Amplifiers as a Fast Enable/Disable Input に記載されています。 

入力電力に対する耐性と最大RF 入力電力

ノイズ指数と入力感度はRF レシーバの最も重要な仕様ですが、入力電力に対する耐性も重要です。特に、高出力信号による意図的な電波妨害が一般的なレーダーや電子戦などのアプリケーションでは入力耐性が重視されます。LNA の入力耐性は、データシートの絶対最大定格のセクションにdBm 単位で仕様規定されています。比較的高い入力電力レベルに耐え得るLNA は、高い入力耐性を備えた製品として製品説明に明記されています。 

RF 入力信号がパルス状の場合は、LNA の入力耐性がわずかに高くなる傾向にあります(通常1dB~3dB)。一般に、耐性とパルス入力電力の関係は、デバイスのデータシートに仕様規定されていません。耐性が仕様規定されている場合は絶対最大定格のセクションに記載されています。

静電放電(ESD)定格

LNA のESD 耐性に関する情報は、データシートの絶対最大定格のセクションに記載されています。ほとんどのデータシートには人体モデル(HBM)仕様だけが記載されています。様々なHBM ESD クラス分類の電圧定格を表3 にまとめます。例えばあるデバイスがクラス1A に分類されている場合、これは、そのデバイスが250V のHBM パルスには耐え500V のパルスでは損傷してしまうことを意味しています。データシートにESD 定格が含まれていない場合は、クラス0 と見なしてください。

表3. HBM ESD のクラス分類
HBM ESD Class Voltage Range
Class 0 0V to <250V
Class 1A 250V to <500V
Class 1B 500V to <1,000V
Class 1C 1,000V to <2,000V
Class 2 2,000V to <4,000V
Class 3A 4,000V to <8,000V
Class 3B ≥ 8,000 volts

熱抵抗

集積回路の熱抵抗は、ダイ内部で発生した熱をどれだけ容易に外部へ放出できるかを示す尺度です。比較的新しいLNA のほとんどは金属スラグの上にダイが置かれた構造になっていて、このスラグがデバイスの下面側に露出しています(図19 を参照)。結果として、ダイから金属スラグ、更にそこからプリント回路基板(PCB)へ、という熱経路が主となります。これは、デバイスの金属スラグとPCB 上層の金属パッドが良好な熱的接触を保っていること、およびPCB にもそれ以降の熱伝達経路(例えば、基板を貫通してヒートシンクに繋がっているビア)が確保されていることが前提となります。このシナリオでは、ダイから空気中への熱伝達、つまり、パッケージ上面からの放出や、ダイからピンへの移動はごくわずかです。結果として、ほとんどのRF アンプのデータシートにはジャンクションからケースへの熱抵抗だけが仕様規定されています。

図19. 代表的なリード・フレーム・チップ・スケール・パッケージ(LFCSP)
図19. 代表的なリード・フレーム・チップ・スケール・パッケージ(LFCSP)

ジャンクションとケース間の熱抵抗が高いことは、必ずしも問題とはなりません。熱抵抗計算の最終的な目標は、ダイが、その仕様に規定された最大ジャンクション温度(通常、GaAs アンプの場合は175ºC)を超えないようにすることです。ジャンクション温度の計算式は次のとおりです。

an2622 数式 04

例えば、θJC が100ºC/W で消費電力が100mW の場合、ケースがその最大温度85ºC のときのジャンクション温度は95ºC です。この場合、デバイスの熱抵抗は大きいのですが、消費電力が比較的小さいのでジャンクション温度は安全なレベルに収まっています。このトピックについては、AN-2591:アプリケーション・ノートWhen It Comes to Long-Term Reliablity of RF Amplifier ICs, Focus First on Die Junction Temperature に詳細が述べられています。 

ほとんどの熱はパッケージ下面を通じてPCB に伝達されるので、一般にヒートシンクはPCB の下面に実装されます。ヒートシンクをパッケージ上面に取り付けることもできますが、ジャンクションからケース上面への熱抵抗は、ジャンクションからケース下面への熱抵抗(θJC)よりはるかに大きいので、利点はほとんどありません。

電源の要件とシーケンシング

デプレッション・モード・プロセスとエンハンスメント・モード・プロセスで作成されたLNA には、重要な違いがあります。デプレッション・モード・デバイスには負のゲート電圧が必要ですが、エンハンスメント・モード・デバイスには必要ありません。このことは電源設計に大きく影響するので、デバイスの選択時に考慮する必要があります。 

エンハンスメント・モードLNA の代表的なパワー・マネージメント回路を図20 に示します。この例では、LT8607 降圧レギュレータを使って12V レールを5.5V に降圧し、それをLT3042 低ドロップアウト(LDO)リニア・レギュレータに加えて低ノイズの5V 出力を生成すると共に、降圧レギュレータから生じるスイッチング・スプリアスを抑制しています。LT8607 は42V までの入力電圧を受け入れて、最大750mA の電流をソースできます。LT3042 低ドロップアウト・レギュレータは、最大200mA の電流をソースできます。電源電圧が、複数の部品に電力を供給するバス電源として構成されている場合は、より大電流の部品を使用できます。LT8608 およびLT8609 降圧レギュレータは、それぞれ最大で1.5A と3A の電流をソースできます。これらのデバイスはLT8607 とピン互換です。LT3045 リニア・レギュレータはLT3042 とピン互換で、最大500mA の電流をソースできます。

図20. 抵抗で設定可能なバイアス制御を使用する単電源LNA 用の一般的なパワー・マネージメント回路
図20. 抵抗で設定可能なバイアス制御を使用する単電源LNA 用の一般的なパワー・マネージメント回路

図21 にADL8106(18GHz~54GHz LNA)のアプリケーション回路を示します。この回路には、正の電源電圧(VDD)と負のゲート電圧(VGG)を生成するためにHMC920 アクティブ・バイアス・コントローラが使われています。アクティブ・バイアス・コントローラはこれら2 つの電圧を安全にシーケンスし、必要な設定値のドレイン電流が流れるようになるまで負帰還を使ってゲート電圧を調整します。この電流はHMC920 に接続した抵抗(回路図のR4)によって設定されますが、常時流れるアプリケーションの最大予想ドレイン電流を供給できるだけの十分大きい値に設定する必要があります(この場合は140mA)。HMC920 は5V~16.5V の電源電圧で動作可能で、3V~15V のドレイン電圧を生成できます。使用可能なゲート電圧範囲は0V~−2.5V で、ドレイン電流は0mA~500mA の範囲に設定できます。

図21. HMC920 を使用してアクティブ・バイアス制御を行う負ゲート電圧のADL8106 広帯域LNA
図21. HMC920 を使用してアクティブ・バイアス制御を行う負ゲート電圧のADL8106 広帯域LNA

アクティブ・バイアス制御回路の代替として、ADP5600 のような固定負電圧発生器と正のLDO を組み合わせて使用することもできます。しかし、この方法はいくつかの理由から推奨できません。ゲート電圧を固定するということは、デバイスによるドレイン電流の違いに影響されることを意味します。ドレイン電流と仕様値(圧縮や歪みなど)は、ゲート電圧と仕様値よりも密接な関係にあります。複数のデバイスに同じゲート電圧を加えた場合、それぞれのドレイン電流にはわずかな差が生じます。これについては、AN-1363:アプリケーション・ノートMeeting Biasing Requirements of Externally Biased RF/Microwave Amplifiers with Active Bias Controllers に詳しく述べられています。したがって、複数デバイスが同じゲート電圧の下で同じドレイン電流となるようにするのが望ましい方法です。更に、シーケンシングにも注意する必要があります。負ゲート電圧発生器からゲートへのパワーグッド(PG)出力を使用して、正電源をイネーブルしてください。これにより、ドレイン電圧よりも先にゲート電圧が加わるようにすることができます。

外付け部品の数

必要とされるパワー・マネージメント回路に加えて、LNA に必要な外付け受動部品の数も考慮すべき重要な項目です。外付けのAC カップリング・コンデンサとバイアス・インダクタが必要になる場合もありますが、内蔵されている場合もあります。一般に、そのデバイスによってカバーされるオクターブ数が増えるほど、外部AC カップリング・コンデンサとバイアス・インダクタが必要になる可能性も高くなります。例えば、HMC8412 は400MHz~11GHz の範囲で動作し、AC カップリング・コンデンサとバイアス・インダクタを内蔵しています。これに対し、ADL8101 は10KHz~22GHz で動作しますが、外付けのコンデンサとバイアス・インダクタが必要です。広帯域外部バイアス回路の設計に関する詳細は、AN-2061:アプリケーション・ノート0402 SMT 部品を使った広帯域バイアス・ティーの設計に示されています。KHz 範囲までの動作が求められる場合は、物理的に大きい部品が必要になります。 

LNA の選択時は、外部マッチング部品の必要性についても考慮しなければなりません。アナログ・デバイセズ製LNA の多くは内部的にマッチングされていますが、安定性を確保したり入力や出力の反射損失を改善したりするために、外部マッチング部品を必要とするデバイスもあります。 

よくある質問の1 つに、データシートに仕様規定されている電源デカップリング・コンデンサの数を減らしてもそのデバイスを動作させることができるのか、というものがあります。データシートの基本接続回路に示されている電源およびゲート電圧カップリング用のコンデンサは、そのデバイスの特性評価と性能確認のために使われる構成の一部として使われています。そのコンデンサ数を減らす必要がある場合は、まず、デバイスから最も遠く最も大きいコンデンサを除去するか1 つにまとめて、ノイズや安定性に影響が出ないかどうかを確認することを推奨します。 

一般に、すべてのVDD ピンとVGG ピンには少なくとも1 個のコンデンサが必要です。

シミュレーション・モデルの使用

アナログ・デバイセズは、そのすべてのLNA についてデバイスの製品ページにS パラメータを示しています。更に最新のデバイスについては、複数の温度におけるS パラメータ・データを示しています。S パラメータのヘッダ・ファイルに別途記載されている場合を除き、S パラメータは評価ボードの入力コネクタから出力コネクタまでの間で測定され、入力および出力配線パターンによる損失を補償するために「ゲイン/S21」のスカラー補正が加えられます。ADL8102(1GHz~22GHz LNA)のSパラメータ・データ・セットの一部を図22 に示します。

図22. ADL8102(1GHz~22GHz LNA)の代表的なS パラメータ・データ・セット
図22. ADL8102(1GHz~22GHz LNA)の代表的なS パラメータ・データ・セット

アナログ・デバイセズは、Keysight 社のGenesys とSystemVue で使用するSys-Parameter モデルも提供しています。これらのモデルには、S パラメータ・データに加えて、ノイズ指数、圧縮、OIP2、OIP3、PSAT が含まれています。ADL8102 のSys-Parameterデータ・セットの一部を図23 に示します。Sys-Parameter モデルの最新ライブラリは、www.analog.com/sys-parameters からダウンロードできます。最新デバイスのS パラメータのzip ファイルには、ノイズと歪みのデータが格納されたCSV ファイルも含まれています。このファイルは、他のシミュレーション・プラットフォームのノンリニア・モデル作成に使用できます。AN-2560:アプリケーション・ノートCreating Amplifier2 Models in Keysight ADS Using Genesys and System Vue Sys-Parameter Modelsには、Sys-Parameter モデルを、Advanced Design System(ADS)で使用できるAMP2 ノンリニア・モデルに変換するために必要な手順が示されています。

図23. ADL8102(1GHz~22GHz LNA)の代表的なSYS パラメータ・データ・セット
図23. ADL8102(1GHz~22GHz LNA)の代表的なSYS パラメータ・データ・セット

データシートのプロット同様、S パラメータとSys-Parameter のデータ・セットには多くの場合、そのデバイスの仕様に規定された周波数範囲を超える範囲のデータが含まれています。 

LNA 選択のためのチェックリスト

要求に最も適したデバイスを選択するための要求事項を決定して選択肢を絞り込んでいくにあたっては、以下のチェックリストをステップバイステップ・ガイドとして使用してください。 

  1. 以下のパラメータによって、エンド・アプリケーションの基本的な仕様を決定します。
    • ゲイン
    • 周波数範囲
    • ノイズ指数
    • OIP3 およびOIP2
    • 電源電圧および消費電流
  2. アプリケーションに必要なのは、ダイ部品かパッケージ部品かを決定します。
  3. アナログ・デバイセズ・ウェブサイトの製品選択ツールを使い、4~5 種類のデバイスまで選択肢を絞り込みます。できるだけ「生産中」または「新設計に推奨」としてリストされているデバイスを選択し、「新設計には非推奨」や「最終販売」のものは避けてください。
  4. デバイスのデータシートから、2 次的仕様の値を決定します。 
    • RF 入力電力に対する耐性
    • オーバードライブ回復時間
    • 残留位相ノイズ
    • ESD 定格
  5. シミュレーションを予定している場合は、デバイスの製品ページからS パラメータをダウンロードします。Keysight のGenesys とSystemVue のユーザは、www.analog.com/sysparametersから最新のSys-Parameter ライブラリをダウンロードできます。 
  6. 最終的なデバイス選択を決定します。

まとめ

アナログ・デバイセズはLNA の広範なポートフォリオを用意しています。選択を絞り込んでいくにあたっては、正の単電源で動作する最新のデバイス(生産状況が「新設計に推奨」または「生産中」のもの)に焦点を当ててください。これらのデバイスは動作が単純で、必要な外付け受動部品も少数に止まります。負のゲート電圧が必要なLNA を選択した場合は、HMC920 によってバイアシングと安全なシーケンシングを行うことができます。 

参考資料

Soc, Ivan. Nash, Eamon. AN-2061:0402 SMD 部品を使った広帯域バイアス・ティーの設計Analog Devices, 2024. 

Soc, Ivan.Nash, Eamon. AN-2591 :When It Comes to Long-Term Reliability of RF Amplifier ICs, Focus First on Die Junction Temperature. Analog Devices, 2024. 

Bedrosian, Jim.Nash, Eamon. AN-2560: Creating Amplifier2 Models in Keysight ADS Using Genesys and SystemVue Sys-Parameter Models. Analog Devices, 2023. 

Kaya, Kagan. AN-1363: Meeting Biasing Requirements of Externally Biased RF/Microwave Amplifiers with Active Bias Controllers. Analog Devices, 2022. 

Smith, Dorant. AN-2599: Using the RBIAS Pin of Single Positive Supply RF Amplifiers as a Fast Enable/Disable Input. Analog Devices, 2024. 

著者

Eamon Nash

Eamon Nash

Eamon Nashは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション・ディレクタです。様々な現場や工場で、ミックスド・シグナル製品、高精度製品、RF製品に関する業務に携わってきました。現在は、衛星通信/レーダーなどで使用されるRFアンプやビームフォーマ製品に注力しています。アイルランドのリムリック大学で電子工学の学士号を取得。5件の特許を保有しています。