PLCを構成するためのIC製品群、低消費電力/小型/低コストでより高い精度を実現

PLC(Programmable Logic Controller)は、コンピュータをベースとする制御用の小型電子システムです。デジタルやアナログの入出力モジュールを使用して、機械やプロセスなどの分野で使われるコントロール・モジュールの制御を行います。PLCは、様々な種類の電気信号や電子信号を受信(入力)/送信(出力)できるようになっています。そうした信号を使用することで、あらゆる種類の機械的/電気的システムの制御や監視を実現します。PLCは、備えているI/O機能の数によって分類されます。例えば、I/O機能の数が32未満のものはナノPLC、32~128のものはマイクロPLC、128~256のものはスモールPLCと呼ばれます。代表的なPLCの構成方法を図1に示しました。

Figure 1
図1. 様々なI/Oモジュール機能を備えるPLCのアーキテクチャ

PLCは、入力モジュール、出力モジュール、入出力モジュールで構成されます。デジタル方式のものであったとしても、入出力の多くは実世界のアナログ変数を必要とします。そのため、PLCのハードウェアを設計する際には、次のようなことに注目する必要があります。すなわち、D/Aコンバータ(DAC)とA/Dコンバータ(ADC)の要件、入出力用のシグナル・コンディショニング、入出力モジュールにおけるコントローラからの配線の絶縁やそれら相互の絶縁といった事柄です。

通常、I/Oモジュールの分解能は、12ビットから16ビット程度です。工業用温度範囲にわたり0.1%の精度が求められます。アナログ出力の電圧/電流の範囲としては、±5V、±10V、0V~5V、0V~10V、4~20mA、0~20mAなどが使われます。DACのセトリング時間の要件は、アプリケーションによって10マイクロ秒から100ミリ秒までといった具合に様々です。アナログ入力範囲も出力側に合わせて設計することになります。出力側の仕様も、ブリッジ型のトランスデューサではわずか±10mVほどの電圧、アクチュエータ・コントローラでは±10Vもの電圧、工業用プロセス制御システムでは4~20mAの電流といったように様々です。変換時間について、必要な精度とADCのアーキテクチャに応じ、1秒あたり10サンプルから数百キロサンプルといった多様な値になります。

システムのフィールド側のADC、DAC、シグナル・コンディショニング回路は、フォトカプラや電磁アイソレータなどのデジタル・アイソレータを使用してデジタル側のコントローラから絶縁します。システムをアナログ側で完全に絶縁しなければならない場合、入出力の各チャンネルにコンバータが必要になります。なぜなら、チャンネル間の絶縁性を最大限に高めなければならないからです。また、トランスやアナログ・デバイセズのisoPower技術を適用した絶縁型電源も必要になるでしょう1

iCMOSプロセス

PLCの入出力部で使用されるアナログ・デバイセズの多くの製品は、高性能の製造プロセスであるiCMOS®のメリットを活かして設計されています2。この製造プロセスは、高電圧に対応するシリコンをベースとし、サブミクロンのCMOS技術と相補型のバイポーラ技術を組み合わせたものとなっています。

それにより、5Vで動作するCMOS回路と16V/24V/30Vという高い電圧で動作するCMOS回路を混載したシングルチップを実現することができます。つまり、単一のチップに複数の電源から電力を供給することも可能です。iCMOSで製造されるサブミクロンのデバイスは、複数のコンポーネントと複数の動作電圧を組み合わせることによる柔軟性を備えています。そのため、旧世代の高電圧対応の製品と比べて、性能の向上、集積度の向上による機能の拡充、消費電力の削減が図られ、基板上の実装面積も大幅に低減できます。また、バイポーラ技術も併用することで、正確なリファレンス、優れたマッチング、ADC/DACの高い安定性、オフセットの小さいアンプなども実現されています。

薄膜抵抗については、初期状態では12ビット相当、トリミングを使えば16ビット相当のマッチングを達成できます。温度係数と電圧係数は、ポリシリコンで形成した抵抗と比べて最大20倍優れています。そのため、高精度/高確度のDACの実装に最適です。また、オンチップの薄膜ヒューズを利用すれば、高精度のコンバータの積分非直線性、オフセット、ゲインのキャリブレーションにデジタル的な手法を適用することができます。

PLCの出力モジュール

一般に、産業環境ではPLCのアナログ出力は、アクチュエータ、バルブ、モータの制御に使用されます。そのため、±5V、±10V、0V~5V、0V~10V、4~20mA、0~20mAといった標準的なアナログ出力範囲に対応しています。多くの場合、アナログ出力用のシグナル・チェーンには、デジタル・アイソレータが適用されています。それにより、コントローラのデジタル出力と、DACやアナログのシグナル・コンディショニング回路の絶縁を実現します。システムに搭載するコンバータとしては、主に3線式/4線式のシリアル・インターフェースを使用できるものが選択されます。それにより、デジタル・アイソレータやフォトカプラの数を最小限に抑えます。

一般に、PLCのアナログ出力モジュールについては、2種類のアーキテクチャが使われています。チャンネルごとにDACを用意するものと、チャンネルごとにサンプル&ホールドを使用するものです。前者のアーキテクチャでは、各チャンネルに専用のDACを配置し、アナログの制御用電圧/電流を生成します。DACには様々な種類があるので、チャンネルあたりのコストを抑えながら実装スペースを節約できるようにします。チャンネル間の絶縁が必要なケースでは、通常はシングルチャンネルのDACが使われます。図2に示したのは、このアーキテクチャの典型的な構成例です。最もシンプルなDACとしては、低電圧の単一電源で駆動するタイプのものが挙げられます。2.5V~5.5Vの電源電圧で動作し、0V~VREFの範囲で電圧を出力するタイプの製品です。その出力にはシグナル・コンディショニング回路が適用され、必要な電圧範囲または電流範囲に対応させます。一方、バイポーラ出力のDACには2つの電源が必要になります。バイポーラの出力電圧範囲に対応する必要がある出力モジュールでは、その種のDACが使用されます。

Figure 2
図2. チャンネルごとにDACを配置するアーキテクチャ

稿末に付録として示した表1は、マルチチャンネルの代表的なDACについてまとめたものです。PLCの出力モジュールの実装に適した16ビットの製品をリストアップしています。これらの製品は、バイポーラまたはユニポーラの出力に対応し、10マイクロ秒のセトリング時間を実現します。これら16ビットの製品とピン互換性があり、分解能が12ビット、14ビットの製品ファミリも提供しています。そのため、ハードウェアを変更することなく、ソフトウェアに最小限の変更を加えることにより、必要に応じて12ビット、14ビット、16ビットのDACを使用(変更)することができます。ほとんどの製品はリファレンス回路を内蔵しており、完全に集積化された出力ソリューションとして利用できます。

非絶縁型のマルチチャンネル出力回路を設計する際には、クワッドDACが最適です。シグナル・コンディショニング回路を付加することで、最大4種類の出力構成を実現することができます。例えば、図3では16ビット、電圧出力のクワッドDAC「AD5664R3を使用しています。同DACは0V~5Vの出力範囲に対応していますが、クワッドオペアンプを付加することによって、様々な標準出力電圧に対応しています。また、右下のような回路を構成することで、電流シンク出力を実現することも可能です。バイポーラ出力の構成では、内蔵リファレンスの出力ピンを使用することにより、トラッキングに必要なオフセット電圧を提供しています。AD5664Rは、5Vの単一電源で動作します。また、2.5V、5ppm/°Cのリファレンスを内蔵しています。パッケージとしては、3mm×3mmという小型サイズのLFCSPを採用しています。

Figure 3
図3. マルチチャンネルDACの活用法。±5V、±10V、0V~10V、0V~5Vの電圧出力を供給できます。右下の回路を使えば、電流シンク出力も実現可能です。

図4に、シングルチャンネルのDACの使用例を示しました。これは、4~20mAの電流ループ制御に使用する絶縁型の回路に対応したものです。「AD56624のパッケージはSOT-23であり、アナログ出力チャンネルの間に完全な絶縁が必要なアプリケーションに最適です。

Figure 4
図4. 4~20mAの電流制御回路

AD5662の最大出力電圧は5Vです。この値は、電圧リファレンス「ADR025によって決まります。ADR02を使用することにより、変化するループ電圧を基にしてレギュレートされた正確な電源を得ています。DACの出力は、オペアンプとトランジスタ回路によって4~20mAの電流出力に変換されます。オペアンプの非反転入力(N1)は仮想グラウンドになるので、電流ISがレギュレートされ、抵抗RS、R3の両端の電圧降下が等しい値で維持されます。そのため、次式が成立します。

Equation 1

また、ノードN2におけるトータルの電流がループ電流になるので、次式が成り立ちます。

Equation 2

ノードN1におけるトータルの電流は、次式で表されます。

Equation 3

ループ電流の4mAのオフセット成分はリファレンスによるものであり、次式で表されます。

Equation 4

一方、ループ電流のプログラム可能な0~16mAの成分はDACによるものであり、次式で表されます。

Equation 5

チャンネルごとのサンプル&ホールド

もう1つのアーキテクチャは、チャンネルごとにサンプル&ホールドを行うというものです。図5の回路では、スイッチド・キャパシタとバッファを組み合わせサンプル&ホールド・アンプを実現しています。それにより、単一のDACからの出力を保持します。アナログのマルチプレクサを使用することでコンデンサを選択し、どの経路でどの値を保持/出力するのかという切り替えを行います。この場合、ホールドの精度はコンデンサのドループ・レートで決まります。したがって、所望の精度を維持するために、チャンネルは頻繁にリフレッシュされることになります。DACとしては、出力の要件に応じ、低電圧/単一電源の製品かバイポーラ出力の製品が使われます。バッファはシグナル・コンディショニングの役割を担うこともあり、コンデンサに対しては高い入力インピーダンスを、出力負荷の駆動に対しては低い出力インピーダンスを提供します。

Figure 5
図5. シングルDACとサンプル&ホールド回路を使用するアーキテクチャ

稿末に示した表2は、分解能が16ビットの代表的なシングルチャンネルDACについてまとめたものです。フルスケールにおけるセトリング時間が4マイクロ秒から10マイクロ秒までのものをリストアップしています。それらのDACは、サンプル&ホールド出力のアーキテクチャに最適な製品です。いずれも、フォーム・ファクタの小さい表面実装パッケージで提供されています。

スイッチとマルチプレクサ

データ・アクイジションのアプリケーションでは、サンプル&ホールド方式のアーキテクチャが採用されることがあります。多くの場合、グリッチと電荷の注入を抑えて小さな容量のスイッチングを行うことが求められることになるでしょう。アナログ・デバイセズは、そのような用途に最適なスイッチ製品を提供しています。それはiCMOSで設計/製造された±15V対応のスイッチ/マルチプレクサ「ADG12xx/ADG13xxファミリ」です。

また、非常にオン抵抗RONが小さい製品が必要なアプリケーションには、±15Vに対応するマルチプレクサ「ADG1408」、「ADG1409」が適しています。これらの製品を使用すれば、全信号範囲にわたりオン抵抗を最大9Ωに抑えられます。加えて、電圧レベルに対する優れた平坦性も得られます。想定どおりの性能を確実に得るためには歪みが小さいことが不可欠なアプリケーションに対しては、これらの製品が理想的なソリューションになります。

表3に、iCMOSベースの代表的なスイッチ/マルチプレクサについてまとめました。それぞれの容量値、電荷注入量、オン抵抗の値を示してあります。旧来の製品と比較できるように、「ADG508/ADG509」の値も示しておきました。

電源とデジタル信号のガルバニック絶縁

PLCは、プロセス制御システム、データ・アクイジション・システム、制御システムなどで使用されます。各システムでは、様々なセンサーから取得した結果であるデジタル・データが中央のコントローラに送信され、処理/分析が行われます。ユーザ・インターフェースにおいて安全な電圧を維持しつつ、トランジェントが発生源から伝わるのを防止するためには、ガルバニック絶縁を適用する必要があります。一般的に使用されている絶縁用のデバイスとしては、フォトカプラ、トランスを使用したアイソレータ、容量結合型のアイソレータが挙げられます。

一般的なフォトカプラは、電気信号をそれに対応する強度の光に変換するLEDと、光信号を電気信号に戻すフォトディテクタで構成されます。一般に、LEDは変換効率が低く、フォトディテクタは応答が遅いという欠点を抱えています。また、フォトカプラは寿命が限られていることに加え、温度、速度、消費電力に対して性能の変動が大きすぎる傾向があります。更に、フォトカプラ製品のほとんどは1チャンネル品または2チャンネル品であり、完全な機能を実現するためには外付け部品も必要になります。

アナログ・デバイセズは、そうした課題を解決するために、絶縁機能を実現する全く新たな製品を開発しました。それは、チップスケールのトランスとCMOSベースの入出力ICを組み合わせたiCoupler®デバイスです。それらの製品には、フォトカプラと比べて小型、低コスト、低消費電力で使いやすいという特徴があります。iCoupler製品としては、標準的なCMOSインターフェースを備えた様々なチャンネル構成/性能レベルのものが用意されています。外付け部品は不要で性能が高く、温度、電源電圧、寿命に対して高い安定性が得られます。図6に示したのは、iCoupler技術を採用した代表的なアイソレータIC「ADuM2400」のブロック図です6。ご覧のように、インターフェースと結合トランスを備えたクワッド品として実現されています。

Figure 6
図6. クワッドアイソレータであるADuM2400のブロック図

iCoupler製品は、一般的に使用されている高速フォトカプラと比べてデータ・レートとタイミングの面で2倍から4倍高速だと言えます。また、フォトカプラのわずか1/50の消費電力で動作するので、発熱が少なく、高い信頼性が得られます。加えて、コストも低く抑えられています。表4に、代表的な製品のチャンネル構成などについてまとめました。

完全な絶縁型システムでは、システム側とフィールド側を分離するために絶縁型の電源を使用する必要があります。このことは、新たなソリューションにおける課題の1つだと言えます。従来、絶縁バリアを越えて電力を送るための手法としては、かなり大型で高価なセパレートのDC/DCコンバータが使われていました。あるいは、設計の難易度が高くインターフェースが扱いにくいディスクリート構成の手法などが使われることもありました。それに対し、現在では必要なあらゆる要素を備え、最大50mWを給電できる完全集積型の絶縁ソリューションを利用できます。そのソリューションでは、マイクロトランスを使用することにより、絶縁バリアをまたいで信号と電力を伝送することができます。例えば、isoPower製品ファミリの「ADuM524x」の場合、1つのコンポーネント内で、信号と電源の両方に対して最大5kVの絶縁を実現しています(図7)。これを採用すれば、セパレートの絶縁型電源は必要ありません。そのため、絶縁システムのトータルのコストと基板上の実装面積、設計時間を大幅に削減することができます。アナログ・デバイセズが提供する各製品は、いずれもUL、CSA、VDEの安全認証を取得しています。

Figure 7
図7. デュアルチャンネルのアイソレータ「ADuM52427のブロック図(チャンネルの信号方向:0/2)。DC/DCコンバータも内蔵しています。

PLCの入力モジュール

PLCのアーキテクチャと入力モジュール製品の選択は、監視の対象となる入力信号のレベルによって左右されます。各種のセンサーから得られる信号(プロセス制御変数)のレベルは、±10mV~±10Vといった具合に様々です。下の表は、いくつかの信号源とその代表的な入力範囲についてまとめたものです。

アナログ入力モジュールに入力される信号の範囲

入力 ±10 mV ±25 mV ±50 mV ±80 mV ±0.25 V ±0.5 V ±1 V ±1.25V ±2.5 V ±5 V ±10 V
ストレイン・ゲージ

 
             
熱電対
K


 
             
T                    
J                    
N                    
E                    
R                    
S                    
B                    
U                    
L                    
抵抗
48 Ω
                   
150 Ω                    
300 Ω          
         
600 Ω                    
6 kΩ                    
RTD
Cu10(標準)
                   
Ni St/Kl           Ni100 Ni120/200   Ni500 Ni1000  
Pt(標準)

 
    Pt100
Pt200 Pt500 Pt1000
空調用         Pt100 Pt200   Pt500 Pt1000    

PLCを使用する産業用アプリケーションでは、様々な種類のADCが使われます。例えば、逐次比較型(SAR)、フラッシュ/並列型、積分型(シグマ・デルタ型を含む)、ランプ/カウンティング型といった種類があります。特定のアプリケーション向けにADCを選択する際には、主に入力側のトランスデューサの仕様に注目します。また、入力信号範囲、必要となる精度、信号の周波数成分、最大信号レベル、ダイナミック・レンジなども考慮しなければなりません。なお、特に広く使用されているアーキテクチャとしては、SAR型とシグマ・デルタ(ΣΔ)型が挙げられます。

SAR ADCは、分解能が12ビットから18ビット程度で、高いスループット・レートを提供します。多くの入力チャンネルをかなり高いサンプル・レートで監視しなければならないマルチチャンネルの多重化アプリケーションに最適です。

ΣΔ ADCは、16ビット~24ビットの分解能を備えています。高いオーバーサンプリング・レートとデジタル・フィルタによる処理を組み合わせることにより、高い分解能と精度を実現します。但し、達成できるスループット・レートはSAR型よりも低くなります。ΣΔのアーキテクチャでは、フロント・エンド部にPGA(Programmable Gain Amplifiers)が組み込まれることが少なくありません。その場合、チャンネルごとにADCを配置するアプリケーションでは、シグナル・コンディショニング回路が不要になります。つまり、センサーとADCを直接接続することができます。

熱電対、ストレイン・ゲージ、ブリッジ型圧力センサーから出力されるのは非常に小さな信号です。そうした信号を測定する際には、同相モードの干渉を除去し、ノイズが存在していても安定に信号を検出できるようにしなければなりません。つまり、差動型の測定を実施する機能が必要です。例えば、産業用のアプリケーションでは、モータ、AC電源ラインなどのノイズ源からADCのアナログ入力に注入される同相モードのノイズや干渉を、差動入力を使用することによって相殺します。

シングルエンド入力のADCを使えば、差動入力のADCと比べて、コストを抑えつつ、同じ入力ピン数で2倍の入力チャンネル数を実現できます。チャンネルあたり1つのアナログ入力しか必要なく、すべて同じグラウンド・ポイントを基準にすることになるからです。シングルエンド入力のADCは、主に信号レベルが高く、ノイズが少なく、共通グラウンドが安定しているアプリケーションに適しています。

図8に示したのは、PLCで使われる絶縁型入力モジュールの構成例です。ディスクリート構成の実装の場合に使用される可能性がある多くの要素を示しています。ご覧のように、励起用の電流源、入力用のシグナル・コンディショニング回路、多数の入力信号を処理するフォルト保護機能付きのマルチプレクサ、PGA、ADCなどが使われています。以前、これらの機能の多くはICや受動素子を個別に組み合わせて実現されていました。しかし、現在では様々な機能を集積し、特性の評価も完了したADCやアナログ・フロント・エンドICを利用できるようになっています。

Figure 8
図8. PLCの入力モジュールのブロック図。ディスクリート構成の代表的な例を示しています。

アナログ・デバイセズは、iCMOSで設計/製造されたPulSAR®ADCファミリ「AD761x」、「AD763x」を提供しています。分解能は前者が16ビット、後者が18ビットであり、いずれもリファレンスを内蔵しています。また、両ファミリの製品では、入力電圧範囲をプログラムできるようになっています(0V~5V、0V~10V、±5V、±10V)。そのため、オンザフライで入力範囲を変更することができます。すべての切り替え処理は内部レジスタを介して行われ、データの遅延を伴うことなく、チャンネルの切り替えを高速に実施することが可能です。表5は、PLCアプリケーションに最適な16/18ビットのPulSAR ADCについてまとめたものです。

更に集積度の高い例としては、ΣΔ ADCファミリの「AD7792/AD7793/AD7794/AD7795/AD7798/AD7799」などが挙げられます。このファミリの製品は、いずれも超低ノイズ(40nV)で消費電力が少ない(400μA)という特徴を備えています。オンチップのPGA(ゲインは1~128)、電圧リファレンス、センサーの励起用電流源、クロック回路などの機能も備えていながら、小型のTSSOPで提供されます。非常にノイズ性能が高く、消費電力が少ないため、高精度の測定が必要なアプリケーションに最適です。

これらのADCは、多くのアプリケーションにおいて、センサーのインターフェースに直接接続することができます。例えば、温度センサー、重量センサー、圧力センサー、流量センサーによる測定を伴う一般的な計測器やPLCなどに対応可能です。更新レートは4Hz~500Hzの範囲でプログラムすることが可能であり、選択した更新レートに対応して50Hzと60Hzの信号を同時に除去することができます。表6は、AD779xファミリの製品が提供する機能と特徴についてまとめたものです。

図9に示したのは、AD7794/AD7795の使用例です。ブリッジ型のトランスデューサや抵抗ベースの温度センサーからの信号を測定する場合の代表的な構成を示しています。

Figure 9
図9. AD7794/AD7795によって構成した小信号の測定用回路

多くのPLCや産業用のI/Oでは、最大±10Vの電圧入力に対応して高精度のアナログ測定を行えるようにする必要があります。また、フォルト保護機能を備えた状態で、スループットの高い複数のチャンネルを提供しなければならないケースも少なくないでしょう。そのような場合には、2チャンネルの完全差動入力に対応する「AD7732」、4チャンネルのシングルエンド入力に対応する「AD7734」、4チャンネルの完全差動入力または8チャンネルのシングルエンド入力に対応する「AD7738」が最適です。

図10に示したのは、AD7734によって構成した高電圧信号の測定用回路です。プロセス制御をはじめとするPLCアプリケーションで一般的に使用される代表的な構成を示しました。このアナログ・フロント・エンドは、ユニポーラまたは最大±10Vの真のバイポーラ入力範囲に対応可能な4チャンネルのシングルエンド入力を備えています。また、アナログ電源としては、5Vの単一電源しか必要ありません。アナログ入力部は、隣接するチャンネルの性能を低下させることなく±16.5Vの過電圧を許容できます。加えて、オーバーレンジ、アンダーレンジの検出を行うことも可能です。

Figure 10
図10. AD7734によって構成した高電圧信号の測定用回路

電圧リファレンス

PLCアプリケーションによっては、安定性に優れ、精度が高く、ノイズの小さいスタンドアロンのリファレンスが非常に重要になることがあります。表7は、高性能の電圧リファレンス製品についてまとめたものです。ハイエンドの産業用アプリケーションには、高精度、低ノイズのリファレンスが必要になります。一方、バッテリ駆動の携帯型アプリケーションには、汎用性が高く低消費電力のリファレンスが適しています。アナログ・デバイセズは、そうしたあらゆるニーズに対応可能な製品を提供しています。

計装アンプとオペアンプ

計装アンプ(In-Amp)は、両方の入力に共通する信号を除去しつつ、2つの入力電圧の差を測定するために使用されます。ゲインの値は、固定のものとプログラマブルなものがあります。出力としては、リファレンス端子に印加された電圧でバイアスされたシングルエンドの信号が得られます。同相ノイズ除去(CMR)の性能が十分でない場合、時間的に変動する大きな誤差が生じるおそれがあります。これを出力で除去するのは困難なので、最新の計装アンプでは、DCと低い周波数帯において80dB~120dBのCMRが実現されています。計装アンプは、データ・アクイジション、PLC、産業用のプロセス制御といったアプリケーションで使用されます。その場合、トランスデューサなどの信号源からの小さな信号を取り出すという重要な役割を担います。DCアンプと同様に、計装アンプのDCオフセット電圧とドリフトは低く抑えられていなければなりません。

AD82208は、汎用性の高い計装アンプの一例です。代表的な用途としては、ストレイン・ゲージなどのセンサーとADCの間のシグナル・コンディショニングが挙げられます。それ以外にも、医療用アプリケーション、PLC、データ・アクイジション・カード、アナログI/Oカードなど、様々なアプリケーションで使用可能です。ゲインの値は、抵抗を使うことによって1から1000までの範囲で設定することができます。CMRは80dB、オフセットは1mV、ドリフトは10μV/°Cです。

オペアンプは、アナログ回路の主役とも言えるデバイスです。アナログ・デバイセズは、現在のオペアンプの市場において最大級の品揃えを誇ります。高電圧に対応するiCMOSや高性能のiPolarといった製造プロセスと革新的な設計により、産業市場向けの製品も多数提供しています。それらの製品は、古い世代のプロセス・ジオメトリを採用した製品よりも飛躍的に性能が向上しています。基板上の実装面積を1/4に抑えつつ、はるかに優れた機能性を提供します。表8、表9は、PLCアプリケーションでよく使用されるオペアンプ製品についてまとめたものです。それぞれ、シングルチャンネルの製品とマルチチャンネルの製品の概要を示しています。一般に、±10Vの出力電圧に対応するためには、高い電源電圧が必要になります。これらの製品は、その要件に容易に対応することができます。また、オフセット電圧が小さく、電源電流が少ないことを特徴とし、小型パッケージで提供されています。

まとめ

産業用途向けにPLCベースのシステムを設計する場合には、予算が縮小するなか、基板面積を抑えつつ、高い性能と多くの機能を実現しなければなりません。アナログ・デバイセズは、こうした厳しい要件を満たすことが可能な数多くのICを提供しています。シグナル・チェーン内で重要な意味を持つすべてのICにおいて競争力を高めるために、数々の製造プロセスを開発しました。例えば、iCMOSは、高電圧に対応するシリコン、サブミクロンのCMOS、相補型のバイポーラを組み合わせたプロセス技術です。これにより、多くの産業用アプリケーションで求められる30Vでの動作が可能なアナログICを、小型、高性能、低コストで実現できます。また、絶縁技術であるiCouplerを利用すれば、チップスケールのトランスとCMOS回路を組み合わせたアイソレータを実現することが可能です。同技術を採用した製品を使用すれば、LEDとフォトダイオードに代わるものとして、低コストで絶縁を実現することができます。更に、トレンチ・アイソレーション・プロセスであるiPolarを利用すれば、最大±18Vの電源電圧に対応しつつ、従来のバイポーラ製のアンプよりも飛躍的に性能を高めた製品を提供可能です。それだけでなく、消費電力を半減させつつ、パッケージのサイズを最大75%縮小することができます。これらの技術は、現在のニーズを十分に満たすものですが、輝かしい未来に向けたものでもあります。

付録:セレクション・テーブル これらの表の最新バージョンは、http://www.analog.comでご覧いただけます。関心のある製品があれば、その品番をクリックしてください。

表1. 16ビットのマルチチャンネルDAC。チャンネルごとにDACを使用するアプリケーションをターゲットとした製品を挙げています。

品番 チャンネル数 出力範囲
INL〔LSB〕 リファレンス セトリング時間〔マイクロ秒〕 パッケージ
AD5668 8 ユニポーラ
8 内部/外部
6 TSSOP
AD5678 4×12ビット
4×16ビット
ユニポーラ
8 内部/外部
6 TSSOP
AD5544 4 ユニポーラ/バイポーラ
4 外部
2 TSSOP
AD5664 4 ユニポーラ
6 外部
4 LFCSP、MSOP
AD5664R 4 ユニポーラ
8 内部/外部
4 LFCSP、MSOP
AD5666 4 ユニポーラ
32 内部/外部
6 TSSOP
AD5764 4 バイポーラ
内部/外部
8 TQFP
AD5663 2 ユニポーラ
6 外部
4 LFCSP、MSOP
AD5663R 2 ユニポーラ
8 内部/外部
4 LFCSP、MSOP

表2. 16ビットのシングルチャンネルDAC

品番 出力範囲
INL〔LSB〕 リファレンス セトリング時間〔マイクロ秒〕 パッケージ
バイポーラ
ユニポーラ
ユニポーラ
ユニポーラ
ユニポーラ/バイポーラ
ユニポーラ
ユニポーラ
0.4
16
8
0.5
1
1
0.5
外部
内部
外部
外部
外部
外部
外部
12
8
8
4
4
4
4
SSOP
MSOP、SOT-23
MSOP、SOT-23
SOT-23
MSOP
SOT-23
SOT-23

表3. iCMOSベースのスイッチ/マルチプレクサ

品番 機能
チャンネルあたりの容量〔pF〕 QINJ〔pC〕 RON〔Ω〕
SPSTスイッチ(クワッド)
SPSTスイッチ(クワッド)
SPSTスイッチ(クワッド)
SPSTスイッチ(デュアル)
1.2
1.2
1.2
1.6
–0.3
–0.3
–0.3
–1
260
260
260
260
4:1のマルチプレクサ
8:1のマルチプレクサ
4:1のマルチプレクサ(デュアル)
8:1のマルチプレクサ
4:1のマルチプレクサ(デュアル)
8:1のマルチプレクサ
4:1のマルチプレクサ(デュアル)
4.2
7
4.5
15
10
90
45
–0.7
0.4
0.4
2
2
20
20
260
270
270
300
300
9
9
ADG508F 8:1のマルチプレクサ 50 4 400
ADG509F 4:1のマルチプレクサ(デュアル) 25 4 400

表4. デジタル・アイソレータ

品番 チャンネル数
チャンネル構成(順方向/逆方向) 絶縁定格〔kV rms〕
1
2
2
3
3
4
4
4
4
4
4
1/0
2/0
1/1
3/0
2/1
4/0
3/1
2/2
4/0
3/1
2/2
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
5
5
5

表5. 16/18ビットのPul データ・バスのインターフェース SAR ADC。入力範囲がプログラマブルな製品を挙げています。

品番 分解能〔ビット〕
データ・バスのインターフェース サンプル・ レート〔kSPS〕 電源電圧範囲〔V〕 最大動作電力〔mW〕 アナログ入力範囲リファレンス(内部/外部) ピン数とパッケージ
16
シリアル/パラレル
250
±16.5
38 0V~10V、±5V、±10V 48ピン LQFP/LFCSP
16
シリアル/パラレル
750
±16.5
100 0V~10V、±5V、±10V
48ピン LQFP/LFCSP
AD7631 18
シリアル/パラレル
250 ±16.5 100 0V~10V、±5V、±10V
48ピン LQFP/LFCSP
AD7634 18
シリアル/パラレル
670 ±16.5 100 ±10Vのユニポーラ、±20Vのバイポーラ、差動 48ピン LQFP/LFCSP
リファレンス〔V〕= 5 for all parts

表6. ΣΔ ADCであるAD779xファミリが提供する機能

品番 分解能
チャンネル数 PGA リファレンス/
電流源 /
温度センサー
リファレンス検出 センサー検出
16
24
24
16
16
24
3
3
6
6
3
3
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
なし
なし
なし
なし
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり

表7. 電圧リファレンス

ファミリ名 特徴
電圧出力のオプション〔V〕 主な仕様
ADR43x XFETR®シリーズのリファレンス 2.048、2.5、3.0、4.096、4.5、5
±0.04%の精度
3.5mV p-p(0.1Hz~10Hz)
ADR0x 超小型、高精度 2.5、3.0、5、10
±0.1%の精度
低ドリフト:SOIC:3ppm/°C
TSOT-23、SC70:9ppm/°C
ADR39x 高精度、マイクロパワー・シリーズのリファレンス 2.048、2.5、4.096、5
±6mVの精度
低消費電力:最大120μA
5mV p-p(0.1Hz~10Hz)
ADR5xx 高性能のシャント型リファレンス 1.0、1.2、2.048、2.5、3.0、4.096、5
±0.2%の精度
温度係数:40ppm/°C
ADR36x 高精度、低消費電力シリーズのリファレンス 2.048、2.5、3.0、3.3、4.096、5
±3mVの初期精度
自己消費電流:190μA以下
8.25mV p-p(0.1Hz~10Hz)
ADR44x 超低ノイズ、LDO型XFETシリーズのリファレンス 2.048、2.5、3.0、4.096、5
±0.04%の精度
1.0mV p-p(0.1Hz~10Hz)
温度係数:Bグレード:3ppm/°C

表8. シングルチャンネルのオペアンプ。PLCやシグナル・コンディショニング・アプリケーションでよく使用されるものを挙げています。

製品 電源電圧〔V〕
オフセット〔mV〕 スルー・レート〔V/マイクロ秒〕 ISUPPLY〔mA/アンプ〕 パッケージ
36
36
36
36
36
36
36
36
0.075
0.050
0.075
0.060
0.15
1
0.5
0.075
4
1
0.6
0.7
0.2
3
5
0.2
3
3
1.2
0.4
0.4
0.8
0.7
0.2
MSOP
MSOP
TSOT
MSOP
SOT-23
MSOP
SC70
SOIC

表9. マルチチャンネルで高い電源電圧に対応するオペアンプ。PLCやシグナル・コンディショニング・アプリケーションでよく使用されるものを挙げています。

製品 電源電圧〔V〕
Offset
(mV)
スルー・レート〔V/マイクロ秒〕 ISUPPLY〔mA/アンプ〕 パッケージ
36
36
36
26
36
36
36
26
36
0.100
0.060
0.4
0.5
3
0.06
0.4
0.5
0.1
2.7
0.7
3
5
8.5
0.7
3
5
0.2
1.7
0.4
0.8
0.7
0.25
0.4
0.8
0.7
0.3
LFCSP
TSSOP
TSSOP
TSSOP
SOIC
TSSOP
SOIC
TSSOP
TSSOP

著者

albert-ogrady-blue-background

Albert O'Grady

Albert O'Gradyは、アナログ・デバイセズのオートメーション&エネルギー・グループ(AEG)に所属するシステム・アプリケーション・マネージャです。アイルランドのリムリックを拠点とし、主に産業用オートメーションやプロセス制御を対象とするシステム・レベルのソリューション開発を担当しています。以前は、高精度のデータ・コンバータをサポートするプロダクト・アプリケーション・エンジニアの業務に携わっていました。リムリック大学で産業分野を対象とする電子技術の学位と電子工学の学士号を取得しています。