リニア・レギュレータの電源トラッキングを実現する

リニア・レギュレータの電源トラッキングを実現する

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Dan-Eddleman

Dan Eddleman

はじめに

LTC2923」は、電源のトラッキングやシーケンシングを実現するためのコントローラICです。これを使用すれば、スイッチング・レギュレータのパワーアップ動作やパワーダウン動作を対象とし、目的に応じた制御を簡単に実現できます。端的な例としては、複数の電源を使用する場合に、それらがマスタとなる電源の電圧をトラッキングするように制御するといったものが挙げられます。そのような場合には、各電源間の相対的な電圧が、DSPやマイクロプロセッサ、FPGA、ASICといったデジタルICのパワーアップに関する厳しい仕様を満たせるようにしなければなりません。「Versatile Power Supply Tracking without MOSFETs(MOSFETを使用することなく、多用途対応の電源トラッキングを実現する)」という記事で説明していますが、LTC2923はスイッチング・レギュレータを対象として機能するよう特別に設計されています。ただ、実際にはLDO(低ドロップアウト)レギュレータをはじめとする一般的なリニア・レギュレータにも簡単に適用することができます。そこで本稿では、LTC2923を使用してリニア・レギュレータを制御する方法を紹介することにします。

モノリシック型のレギュレータ

本稿の執筆にあたり、まずは3種のモノリシック型リニア・レギュレータ(LDOレギュレータ)を対象として、LTC2923を適用する方法の評価を行いました。表1は、それらのリニア・レギュレータについてまとめたものです。以下に説明するように、LTC2923を使用してこれらのレギュレータを制御するのは非常に容易です。

  • LT3020:入力電圧が1V~10V、出力電流が100mAのLDOレギュレータです。このICのADJピンは、多くのスイッチング・レギュレータのフィードバック・ピンと同じように使用します。そのため、LTC2923によってLT3020の出力をトラッキングするのは容易です。LTC2923のデータシートには、標準的な回路例と設計手順が示されています。LT3020に適用する場合には、特にその内容を変更する必要はありません(図1、図2)。 
  • LTC3025:300mAの出力電流に対応するCMOSベースのLDOレギュレータです。レギュレートの対象とする入力電圧は0.9V~5.5Vです。ただ、この製品には、それとは別に2.5V~5.5Vのバイアス電源から給電を行う必要があります。LT3020と同様に、LTC3025もADJピンを備えています。その使い方は、一般的なスイッチング・レギュレータのフィードバック・ピンと同様です。そのため、必要な負荷電流が300mA未満である場合、LTC3025とLTC2923を組み合わせれば、シンプルな電源トラッキング用のソリューションを実現できます(図1、図2)。
  • LTC1844:CMOSベースのLDOレギュレータです。入力電圧は1.6V~6.5Vで、最大150mAの負荷を駆動することができます。LTC2923と組み合わせる場合、LTC1844のデータシートの「Adjustable Operation」のセクションで説明されているように、フィードフォワード・コンデンサを使用するべきです。それ以外に特別な配慮は必要ありません。
表1. 3種のモノリシック型リニア・レギュレータ
品番 IOUT(MAX) (V) VIN(MIN) (V) VIN(MAX)(V) VDROPOUT(V)
LT3020 100mA 0.9 10 0.15
LTC1844 150mA 1.6 6.5 0.11
LTC3025 300mA 0.9 5.5 0.045
図1. LT3020とLTC3025にLTC2923を適用する例。パワーアップ/パワーダウンの際に、LT3020とLTC3025の出力をトラッキングすることができます。

図1. LT3020とLTC3025にLTC2923を適用する例。パワーアップ/パワーダウンの際に、LT3020とLTC3025の出力をトラッキングすることができます。

図2. 図1の回路の出力波形。LT3020とLTC3025の出力は、連動してランプアップ/ランプダウンしています。

図2. 図1の回路の出力波形。LT3020とLTC3025の出力は、連動してランプアップ/ランプダウンしています。

バイポーラ/モノリシック型のレギュレータ

続いて、表2をご覧ください。これは、「LT1761ファミリ」を含むバイポーラ・ベースのモノリシック型LDOレギュレータについてまとめたものです。ご覧のとおり、これらのレギュレータは広範な負荷電流に対応しています。また、非常に優れた過渡応答性能とノイズ性能が実現されているので、負荷電流が3A未満のアプリケーションでよく使用されています。

表2. バイポーラ/モノリシック型のリニア・レギュレータ
品番 IOUT(MAX)(V) VIN(MIN)(V) VIN(MAX)(V) VDROPOUT(V)
LT1761 100mA 1.8 20 0.30
LT1762 150mA 1.8 20 0.30
LT1962 300mA 1.8 20 0.27
LT1763 500mA 1.8 20 0.30
LT1963A 1.5A 2.1 20 0.34
LT1764A 3A 2.7 20 0.34

これらのレギュレータでは、OUTピンの電圧が約1Vを下回ると、ADJピンに過剰な電流が流れます。これは、LDOレギュレータでは通常は使用されない領域で動作させるということを意味します。しかし、トラッキングの対象となる電源の出力が1V未満になる状況では、LDOレギュレータはこの領域で動作することになります(図3)。この過剰な電流に対処しない場合、LDOレギュレータの出力は、1V未満の電圧をトラッキングする際、理想的な値よりわずかに高くなります。1V未満の出力に対して正常なトラッキングを実現する手法は3つ考えられます。以下、それらの手法について説明します。

図3. 可変出力を備えるLT1761/LT1962/LT1762/LT1763/LT1963A/LT1764Aの動作。本稿で説明する変更を加えない限り、1Vを超える電圧しかトラッキングできません。各LDOレギュレータのSHDNピンは、ランプアップ前とランプダウン後にアクティブな状態になります。

図3. 可変出力を備えるLT1761/LT1962/LT1762/LT1763/LT1963A/LT1764Aの動作。本稿で説明する変更を加えない限り、1Vを超える電圧しかトラッキングできません。各LDOレギュレータのSHDNピンは、ランプアップ前とランプダウン後にアクティブな状態になります。

まず、ドロップアウト電圧をさほど低く抑える必要がないケースが考えられます。その場合には、OUTピンに直列に2個のダイオードを接続するだけで構いません(図4)。この構成において、OUTピンの電圧は、この回路全体の出力と比べると、2個のダイオードによる電圧降下の分だけ高い値に維持されます。その結果、LDOレギュレータは、出力がグラウンド電位の付近になる場合でも、通常の動作領域にとどまります。出力に帰還抵抗が接続されていることから、LDOレギュレータはOUTピンの電圧ではなく、この回路全体の出力電圧をレギュレートすることになります。なお、ダイオードの順方向電圧は負荷電流と温度に依存して変動します。したがって、順方向電圧が最小の場合でも出力が十分に低下することを確認しなければなりません。同様に、入力電圧は、ダイオードの順方向電圧が最大の場合でも出力を十分にレギュレートできる高いレベルの値でなければなりません。このソリューションでは、リニア・レギュレータのドロップアウト電圧が、実質的に2個のダイオードによる電圧降下の分だけ増大します。そのため、ドロップアウト電圧が低くなければならないアプリケーションには、次に紹介するソリューションの方が適しています。

図4. OUTピンに直列にダイオードを接続した回路。LT1761は0Vまでトラッキングできるようになります。

図4. OUTピンに直列にダイオードを接続した回路。LT1761は0Vまでトラッキングできるようになります。

負荷電流が500mA未満でドロップアウト電圧を低く抑える必要がある場合には、ぜひLT1761/LT1962/LT1762/LT1763の採用を検討してください。固定出力の製品(LT1763-1.5など)でも、SENSEピンに1.5Vの電圧を帰還してADJピンのように扱うことにより、可変出力のLDOレギュレータとして使用することができます(図5)。可変出力の製品のADJピンとは異なり、固定出力の製品のSENSEピンには、OUTピンの電圧値にかかわらず約10µAの電流が流れます。帰還抵抗の値を選択する際には、上側の抵抗に現れるこの余分な電流を補償することによって出力誤差を最小限に抑えるようにします。また、小さな値の抵抗を使用することにより、0µA~20µAの電流(データシートに記載された規定値)による誤差を最小限に抑えてください。それと同時に、抵抗の値が小さすぎて、LTC2923の1mAのIFBでは出力をグラウンドまで駆動できなくなる状態も回避しなければなりません。これらの制約を満たすためには、2個の帰還抵抗に対応する並列合成抵抗の値が1.5kΩよりわずかに大きくなるように設定します。それにより、ほとんどの出力電圧に対して、SENSEピンの電流による出力誤差を約1%まで低減することが可能です。

図5. 固定出力のLT1763-1.5の使用例。この構成により、ドロップアウト電圧を低く抑えつつ、0Vまでのトラッキングを実現することができます。1.5Vを超える出力に対しては、抵抗分圧器を使用することにより対応可能です。

図5. 固定出力のLT1763-1.5の使用例。この構成により、ドロップアウト電圧を低く抑えつつ、0Vまでのトラッキングを実現することができます。1.5Vを超える出力に対しては、抵抗分圧器を使用することにより対応可能です。

より多くの負荷電流が必要で、ドロップアウト電圧も低く抑えなければならないアプリケーションも存在するでしょう。そのような場合には、固定出力の製品であるLT1963AやLT1764Aが適しているかもしれません。これらの製品であれば、それぞれ1.5A、3Aの負荷電流に対応できます。ただ、残念ながら、これらの製品ではSENSEピンに約600µAの電流が流れます。

これらの製品を使用する場合、図6のような回路を構成します。この例では、1.5Vの固定出力バージョンを使用しており、SENSEピンには帰還抵抗とオペアンプ回路を介して電圧をフィードバックしています。このオペアンプ回路の電圧ゲインは2に設定しています。1.5V出力のレギュレータをオペアンプ回路と組み合わせることで、この回路全体はリファレンス電圧が0.75Vの可変出力のレギュレータとして動作します。オペアンプ回路の入力は、このレギュレータ回路のADJ入力として機能することになります。直列ダイオードによる電圧降下を許容できない場合、この手法を採用することにより、LT1963A/LT1764Aの大電流出力を活かすことができます。また、この手法は、LT1761/LT1962/LT1762/LT1763にも適用することが可能です。すなわち、ADJピンに流れる10µAの電流によって、出力電圧に許容できないレベルの誤差が生じる場合にもうまく対処できます。

図6. LT1963-1.5をベースとした回路。オペアンプ回路と組み合わせることにより、出力電圧を下げつつ、SENSEピンに流れる電流が原因で生じる誤差を排除することができます。

図6. LT1963-1.5をベースとした回路。オペアンプ回路と組み合わせることにより、出力電圧を下げつつ、SENSEピンに流れる電流が原因で生じる誤差を排除することができます。

大電流対応のパス・トランジスタを使用するLDOレギュレータ

表3は、LT1575LT3150の仕様についてまとめたものです。これらのLDOレギュレータは、外付けのパス・デバイスであるNチャンネルのMOSFETを駆動する形で使用します。それにより、大電流/大電力に対応するアプリケーションを実現することができます。なお、LT3150は、外付けMOSFETのゲートを駆動する電圧を生成するための昇圧レギュレータを内蔵しています。

表3. 大電流対応のパス・トランジスタを使用するLDOレギュレータ
品番 IOUT(MAX)(V) VIN(MIN)(V) VIN(MAX)(V) VDROPOUT(V)
LT3150 10A* 1.4 10 0.13
LT1575 * N/A 22 *

*選択した外付けMOSFETに依存します。

LTC2923を採用すれば、標準的な使い方に特別な変更を加えることなく、LT1575/LT3150の出力をトラッキングすることができます。なお、LT1575/LT3150はMOSFETのゲート電圧を約2.6Vまでしか引き下げません。そのため、閾値の低いMOSFETを採用した場合、出力を数百mV未満には下げられない可能性があります。ただ、この制約は、ほとんどのアプリケーションで許容されるはずです。