工場から手術室まで、堅牢性/安全性が求められる現場に適した通信システム

工場から手術室まで、堅牢性/安全性が求められる現場に適した通信システム

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Richard Anslow

Richard Anslow

Neil Quinn

Neil Quinn

インダストリ4.0には、信頼性の高い通信インフラが必須です。そうしたインフラが存在することで、機械やフィールド・デバイス、工場から有用なデータを抽出することが可能になります。ロボットやHMI(Human Machine Interface)の信頼性を確保するには、基盤技術の選択肢について十分に理解しておかなければなりません。

ここで、工場の製造フロアと病院の手術室を思い浮かべてみてください。おそらく、両者の共通点を即座に見いだすのは難しいのではないでしょうか。しかし、製造フロアでも手術室でも、使用される設備には信頼性が高く正確な動作が求められます。また、それらの設備はミッション・クリティカルなものであることが多いはずです。よりスマートなシステム、より多くのデータ、より高い忠実度が必要になることから、帯域幅に対する要件は厳しくなります。また、通信インターフェースの高速化を図る場合には、周囲に存在する危険や電磁両立性(EMC:Electromagnetic Compatibility)の問題に配慮して高い信頼性と安全性を確保しなければなりません。EMCは、電磁ノイズに関するシステムの能力を表す指標です。システムのEMC性能が高ければ、周囲に影響を及ぼすレベルの電磁ノイズを発生したり、周囲からの電磁ノイズによって過度に影響を受けたりすることはありません。

ロボットとマシン・ビジョン

視覚誘導型のロボットを利用すれば、高い価値を生み出す製造環境の柔軟性と信頼性を高めることができます。視覚誘導機能を備えていないロボットは、プログラムし直すまで同じ作業を繰り返すことしかできません。それに対し、マシン・ビジョン・システムを備えたロボットであれば、より高度な作業を行うことができます。例えば、製造ラインにおいてベルト・コンベアをスキャンして不良品を見つけ出し、ロボットがその不良品をピックアップするといった具合です(図1)。一般に、FA(Factory Automation)施設などは、EMCの面で過酷な環境だと言えます。そうした環境で使われるビジョン・システムとロボットの間のインターフェースについては、高い信頼性と有効性が求められます。そうした性能は、選択するワイヤード・リンク技術によって決まります。マシン・ビジョン・システムに組み込むカメラ用のインターフェースについては、使用する通信技術としていくつかの選択肢が考えられます。例えば、USB 2.0/3.0、CameraLink、ギガビット・イーサネットなどです。

図1. マシン・ビジョン・システムとロボットの連携。インターフェースには、イーサネット、USB、CameraLinkなどの技術が使われます。

図1. マシン・ビジョン・システムとロボットの連携。インターフェースには、イーサネット、USB、CameraLinkなどの技術が使われます。

表1は、いくつかの重要な指標に基づいてUSB、産業用イーサネット、CameraLinkを比較したものです。これを見ると、産業用イーサネットは特に多くの長所を備えていることがわかります。2対のケーブルを使用する100BASE-TXや4対のケーブルを使用する1000BASE-T1では、通信可能な距離は最長100mに達します。また、10BASE-T1Lでは高いEMC性能を備える1本のツイスト・ペア・ケーブルによって最長1kmの通信を実現できます。USB 2.0/3.0では、専用のアクティブUSBケーブルを使用しない限り、ケーブル長は5m以下に制限されます。また、EMC性能については保護用ダイオードやフィルタを使用して強化を図らなければなりません。ただ、あらゆる産業用コントローラはUSBポートを備えています。また、帯域幅は最高5Gbpsに達するので、システムによってはUSBが有望な選択肢になる可能性もあります。

表1. マシン・ビジョン・カメラ向けの通信インターフェース規格
パラメータ USB 2.0 USB 3.0 産業用イーサネット CameraLink
帯域幅 1.5Mbps(Low Speedモード)
12Mbps(Full Speedモード)
480Mbps(High Speedモード)
5Gbps(SuperSpeedモード) 10Mbps、100Mbps、1Gbps 2.04Gbps(Baseモード)
4.08Gbps(Fullモード)
6.8Gbps(Decaモード)
ケーブル長 5m 3m 最長1km(10Mbps) 最長100m(100Mbps/1Gbps) 10m
1本のケーブルによる電力/データ伝送 可能 可能 可能。 PoE(Power over Ethernet)/PoDL(Power over Data Lines)を利用できる 可能
フレーム・グラバの要否 不要 不要 不要 必要
ケーブルのコスト
EMC性能 低(保護用素子、フィルタ、信号/電力の絶縁が必要) 低(保護用素子、フィルタ、信号/電力の絶縁が必要) 高(磁性部品であるトランスはイーサネットの仕様に盛り込まれている) 中(LVDSによる効果)。最高性能の実現には信号/電力の絶縁が必要

CameraLinkを使用する場合、産業用コントローラにフレーム・グラバという専用のハードウェアを取り付ける必要があります。一方、USBやイーサネットでは、産業用コントローラにフレーム・グラバ・カードを追加する必要はありません。CameraLinkの規格は2000年に初めて策定されました。それ以来、マシン・ビジョン用のインターフェース技術として最も一般的に使用されてきました。現在では、USBやイーサネットをベースとしたマシン・ビジョン・カメラの方が広く使われるようになっています。しかし、メインCPUの負荷を軽減するために複数のカメラにおいて前処理を行う必要があるアプリケーションでは、現在もCameraLinkとフレーム・グラバが使われています。CameraLinkでは、通信距離は短く制限されるものの、Baseモードでもギガビット・イーサネットと比べて2倍の量のデータを伝送することができます。CameraLinkの物理層(PHY)は、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)をベースとしています。各ワイヤに混入するコモンモード・ノイズはレシーバーで効果的に相殺されるため、EMCの面で高い堅牢性が得られます。その堅牢性は、磁気絶縁を使用することで更に強化することも可能です。

産業用カメラとロボットについては、時刻同期をとった状態での動作が求められることがあります。その場合には、カメラとロボット両方のリンクでイーサネットを使用し、IEEE 802.1 TSN(Time-Sensitive Networking )に対応するスイッチを搭載した産業用コントローラを使う方法が最適です。TSNは、スイッチド・イーサネット・ネットワークにおける時間制御型のデータ・ルーティング向けに初めて定められたIEEE規格です。アナログ・デバイセズは、イーサネット技術向けのスイート製品を提供しています。それには、物理層に対応するトランシーバーとTSN向けのスイッチに加え、システム・レベルのソリューション、ソフトウェア、セキュリティ機能などが含まれています。

HMIの実現形態

本稿で取り上げている種類のシステムでは、HMIはPLC(Programmable Logic Controller)からのデータを人が読めるように視覚的に表示する役割を果たします。標準的なHMIを使用すれば、機械の出力や主要な性能評価指標を監視しながら製造の状況を追跡することができます。設備のオペレータは、HMIを使用することにより、スイッチのオン/オフ、プロセスにおける圧力/スピードの増減など、様々な作業を実施することが可能です。一般的なHMIはディスプレイを備えています。ただ、外付けのディスプレイを使用できるHMIには、いくつかの長所があります。例えば、HDMI(High-definition Multimedia Interface)ポートを備えるHMIユニットであれば小型化が可能です。監視の対象であるPLCの取り付けにも使用する標準的なDINレールを使うことで、制御ラックにHMIユニットを簡単に設置することができます。

HDMIでは、最長15mのケーブルを使用できます。そのため、タッチスクリーン画面や制御室まで簡単に配線することが可能です(図2)。産業環境でHDMIのケーブルを延長しようとすると、ケーブル接続に電磁ノイズの悪影響が及びます。そのため、延長が容易であるとは限りません。また、DINレールに取り付けられたPLCにモータやポンプが接続されている場合、HMIに間接的に過電圧(トランジェント)が印加される可能性もあります。

図2. 産業用システムの構成例。HMIは、イーサネット/RS-485に対応する入力とHDMIに対応する出力を備えています。

図2. 産業用システムの構成例。HMIは、イーサネット/RS-485に対応する入力とHDMIに対応する出力を備えています。

システムの堅牢性を確保するためには、インターフェース技術を慎重に選択しなければなりません。CAN(Controller Area Network)やRS-485といったフィールド・バス技術が一般的だと言えますが、産業用イーサネットの採用も急速に進んでいます。業界関係者によれば、現在世界中にはRS-485(PROFIBUS®)のノードが6100万以上設置されていると言います。また、PROFIBUSを利用したプロセス・オートメーションの例は、前年比7%の増加を示しています。一方で、PROFINET(産業用イーサネットの実装)のノード数は2600万に上り、2018年だけで510万台の機器が設置されています1。IEEE 802.3のイーサネット規格では、磁性部品について規定しています。すべてのノードに磁性部品を適用する必要があるので、イーサネット・ベースの技術では高いEMC性能が得られます。また、RS-485に対応する機器の場合、磁気絶縁が適用されるのでノイズ耐性が高まります。加えて、保護用ダイオードをIC上に集積するか、通信用のプリント基板上に配置することにより、静電気放電や電圧トランジェントに対する堅牢性を高めることができます。

一般に、HMIにはESD(Electro Static Discharge)に対処するために保護用ダイオードが適用されます。それにより、信号の堅牢性を高めるということです。また、産業用のHMIには、強化絶縁を適用することでオペレータを電気的な危険から保護します。イーサネットやRS-485では、合理的な絶縁ソリューションを利用できます。現在、ビデオ・リンクについては、Gbpsレベルの伝送速度を実現できる高価な光ファイバによって絶縁が実現されています。アナログ・デバイセズは、1Gbpsを超えるデータ・レートに対応できるアイソレータ「ADN4654/ADN4655/ADN4656」を提供しています。進化を遂げた磁気絶縁技術により、魅力的でより低コストのソリューションを利用できるようになっています。

内視鏡を支える通信技術

内視鏡など、外科の分野で使用されるイメージング機器は、独特のアプリケーションだと言えます。患者の安全性を確保しながら、高精細のイメージ(画像、映像)を提供するという課題に対処しなければならないからです。旧来の内視鏡は、ビデオ内視鏡として知られていました。ガラス製のレンズと導光体を使用することで、画像を撮像ヘッドからCCD(Charge Coupled Device)センサーまで伝えます。可視光を媒体として使用し、患者から内視鏡までイメージを伝えるという仕組みなので、危険な電流が流れないように厳格に絶縁を施す必要がありました。この種の内視鏡は、製造コストと画質の面で重大な欠点を抱えていました2

それらの課題を解決するために、最近の外科用イメージング機器ではデジタル化が進んでいます。CCDセンサーについても、サイズのスケーリングが容易でカメラのヘッドに組み込むことが可能であることから、CMOSイメージ・センサーへの移行が進められています。CMOSセンサーを採用したカメラを使用する場合、複数のレンズを直列に配置する必要がありません。そのため、全体的に画質が向上します。また、製造コストを下げられれば、使い捨ての内視鏡を実現できます。そうすれば、滅菌に関する課題を解決することが可能になります。カメラのヘッドを更に小型化できれば、より侵襲性の低い手術の実現につながります3

内視鏡のデジタル化に伴い、患者に接触するCMOSセンサーとCCU(Camera Control Unit )の間には、高速の電気的インターフェースが必要になります。この相互接続(インターコネクト)に使うPHY技術としては、LVDSやSLVS(Scalable Low Voltage Signaling)が一般的になりつつあります。これらを使用すれば、帯域幅を広げつつ、消費電力を比較的少なく抑えられるからです4。この種のインターフェースは、ビデオ内視鏡で使われていたインターフェースとは異なる電気的なものです。そのため、危険な電流が伝達される可能性があります。光学的な媒体のような本質的な絶縁機能は存在しないので、危険を生じさせる可能性があるすべての電流から患者を分離できるようにシステムを設計する必要があります。

図3. CMOSセンサーを備えるデジタル内視鏡の電気的インターフェース

図3. CMOSセンサーを備えるデジタル内視鏡の電気的インターフェース

コンセントにつないで使用するタイプの医療用システムでは、何よりも患者の安全が優先されます。そうした医療機器向けの規格がIEC 60601です。同規格では、危険な電圧から患者を保護する手段(MOPP:Means of Patient Protection)を提供するコンポーネントについて厳しい要件を定めています。システムを設計する際には、そうした厳しい要件を満たすと共に、撮像データを伝送するための広帯域幅のソリューションを実現しなければなりません。このような要件を満たすのは容易ではないはずです。CMOSセンサーから内視鏡のCCUまでの電気的なビデオ・リンクには、安全性が確保された高速な接続が必要になります。アナログ・デバイセズは、IEC 60601-1で定められた要件を満たしつつ、絶縁バリアを介した広帯域幅のリンクを実現するための独自のソリューションを提供しています。

医療用機器のディスプレイ

人工呼吸器や心電計などの医療用機器は、患者に直接装着して使用します。それにより、呼吸の支援や心拍のモニタリングが実現されます。患者に関する情報は、医療用機器が備えるグラフィック・ディスプレイによって関係者に提供されます。医療用機器が内蔵するディスプレイは、それ自体がIEC 60101に準拠した医療用機器として扱われます。高い信頼性を実現する必要があり、認証の取得も求められます。市販の外付けディスプレイ/テレビなどを使用した場合、同等の保証が得られるわけではありません。患者の安全を確保するためには、医療用機器と周辺機器をつなぐ外部接続にも、患者を保護するための絶縁バリアを設ける必要があります。RS-232、RS-485、CANなど、旧来の低速インターフェースを使用する場合であれば、標準的なデジタル・アイソレータを使うことで簡単に絶縁を実現できます。

一方、外付けディスプレイ向けのビデオ・ポートに絶縁を施すのは容易ではありません。ディスプレイ用のインターフェースについては、各種の規格が定められています。そうしたインターフェースに対する帯域幅の要件は、合理的な数のフォトカプラや標準的なデジタル・アイソレータによって実現できるレベルをはるかに超えています。ビデオ用インターフェースのシグナル・チェーン全体を絶縁しようとすると、更に複雑さが増します。例えば、HDMI 1.3aのプロトコルでは、ビデオ・データを伝送するためにTMDS(Transition Minimized Differential Signaling)が使われます。それだけでなく、ビデオ/フォーマット情報の交換、回路への給電、ディスプレイ(シンク側)機器の接続/非接続の検出を行うための双方向制御信号なども扱わなければなりません5。ガルバニック絶縁を適用する際には、これらすべてについて考慮しなければならないということです。このことは、システムを設計する際に大きな障壁になります。上述したようなディスプレイ・ポートに絶縁を施すのは、従来の方法では不可能なケースが少なくありません。そのため、医療用システムでは、外付けディスプレイ向けのビデオ・ポートはあまり使われません。アナログ・デバイセズは、HDMI 1.3aなどの一般的なビデオ用プロトコルを使用する場合にガルバニック絶縁を適用するためのリファレンス設計を提供しています。これを利用することにより、患者を保護するための保護機構をドロップイン方式で追加することができます。

Gbps対応のデジタル・アイソレータ

先ほど触れたADN4654ファミリは、LVDSに対応するデジタル・アイソレータです(図4)。広い帯域幅と高い安全性の両方が必要なビデオ・システム/カメラ・システムを設計する際、新たな選択肢として活用できます。各製品は、1チャンネルあたり最大1.1Gbpsのデータ・レートに対応する2チャンネルの絶縁機能を備えています。デジタル・アイソレーションの高速化という期待に、飛躍的な技術の進化によって応えた製品です。トータルで2.2Gbpsのスループットを実現しつつ、20ピンのSSOPという小型のパッケージを採用しています。そのため、従来のデジタル・アイソレータをベースとするソリューションと比べて、実装面積を大幅に削減することができます。

図4. ADN4654のブロック図。LVDSに対応するデジタル・アイソレータです。

図4. ADN4654のブロック図。LVDSに対応するデジタル・アイソレータです。

例として、1920×1080(1080p)の解像度で24ビットの色信号を60Hzで伝送するビデオ・リンクについて考えましょう。絶縁バリアを越えて必要な情報を伝送するためには、トータルで4.4GHzの帯域幅が必要になります。標準的な光ファイバを使用するソリューションであれば、十分な帯域幅が得られます。しかし、銅製の媒体から光ファイバへの変換を実施するには、シリアライザ、デシリアライザ、電気‐光変換器が必要です(図5)。また、標準的なデジタル・アイソレータを使用する方法を採用した場合にも、シリアライザ、デシリアライザが必要になります。しかも、150Mbpsで動作する30以上のチャンネルに対して絶縁を施さなければなりません。どちらのソリューションを採用したとしても、帯域幅の広い単純なインターフェースに絶縁を施すことがシステム設計上のオーバーヘッドになってしまいます。

それに対し、Gbpsレベルのデータ・レートに対応するADN4654を採用すれば、システムの複雑さが軽減されます。例えば、同製品を2個使用すると、トータルで4.4Gbpsの帯域幅を実現できます。同製品は2つのチャンネルを備えているので、1.1Gbpsで動作する計4つのチャンネルを使用できるということです。各チャンネルの帯域幅が広いことから、シグナル・チェーンにSERDES(Serializer Deserializer)ブロックを設ける必要はありません。複数のビデオ用インターフェースを絶縁する必要があるシステムで、実装スペースと複雑さの問題を解消するのは容易ではありません。ADN4654は、そうした課題の解決に役立ちます。

1Gbpsより高いレートで動作する物理層のインターフェースには、信頼性の高い通信を確保するために、ピーク・ジッタとスキューについて厳しい要件が課せられています。デジタル・アイソレータなど、シグナル・チェーンに追加するコンポーネントでは、システムの性能に影響を及ぼすことがないようジッタとスキューを最小限に抑えなければなりません。過剰なジッタやスキューが生じると、レシーバーで実行するサンプリング処理のマージンに影響が及びます。その結果、全体的なビット誤り率が増大する可能性があります。ADN4654は、各チャンネルで最大100ピコ秒、デバイス間で600ピコ秒という業界トップ・レベルのスキュー性能を備えています。そのため、帯域幅の広いインターフェースの絶縁に最適です。ADN4654によって加わるジッタも最小限に抑えられます。PRBS(Pseudo Random Binary Sequence)-23パターンを使用した場合のランダム・ジッタ性能は最大4.8ピコ秒、確定的ジッタのピークtoピーク値は最大116ピコ秒です。パターンのラン・レングスは、23ビット未満であることが一般的です。8b/10bなど、ラン・レングスが少ないエンコーディング方式を用いるプロトコルでは、上記の値を上回るジッタ性能を得ることが可能です。

ADN4654/ADN4655/ADN4656は、LDO(低ドロップアウト)レギュレータを内蔵しています。そのため、柔軟に電源を構成できると共に、様々なチャンネル構成で使用することが可能です。ADN4654のパッケージは、20ピンのワイドボディSOICまたは省スペースの20ピンSSOPです。SOICのパッケージは、5kVrmsの絶縁耐性、7.8mmの沿面距離/クリアランス距離に対応しています。そのため、IEC 60601に準拠した250Vrmsのコンセントに対する1MOPPとして最適です。ポッティングによって沿面距離/クリアランス距離を8mm以上に拡張すれば、2MOPPの絶縁システムを実現するコンポーネントとして使用することもできます。

図5. 絶縁インターフェースの実現方法。ADN4654を使用することにより、広帯域幅のインターフェースを簡単に絶縁できます。

図5. 絶縁インターフェースの実現方法。ADN4654を使用することにより、広帯域幅のインターフェースを簡単に絶縁できます。

HDMIの絶縁を実現するリファレンス設計

ビデオ用のインターフェースに絶縁を施す場合、そのプロトコルの複雑さが問題になります。ビデオ信号、制御信号、電源を絶縁するためのソリューションを考案する必要があるからです。このことは、装置メーカーにとって頭痛の種になります。その課題の解決に、ドロップイン型のソリューションを提供するリファレンス設計を利用すれば、開発時間を短縮することができます。

HDMIは2002年にリリースされました。現在では、商用の高精細テレビやディスプレイで使用される事実上の標準技術になっています。HDMIが広く普及した理由としては、その機能セットと信頼性の高い相互運用性が挙げられます。

アナログ・デバイセズが提供するリファレンス設計の中核を担うのは、評価用ボード「EVAL-CN0422-EBZ」です(図6)。HDMI 1.3aに対応する既存のビデオ・ポートにガルバニック絶縁を追加したい場合、同ボードをドロップイン型のソリューションとして利用することができます。この設計では、絶縁技術としてiCoupler®を採用した製品を使用しています。それにより、絶縁バリアを越えて、高速のビデオ信号、制御信号、電力を伝送することが可能になっています。

図6. EVAL-CN0422-EBZによるHDMI 1.3aの絶縁

図6. EVAL-CN0422-EBZによるHDMI 1.3aの絶縁

HDMI 1.3aのビデオ・データは、TMDSに対応する4本のレーン(3本のデータ・レーンと1本のクロック・レーン)を使って伝送されます。これらのレーンは、個々に絶縁する必要があります。従来のデジタル・アイソレータは、TMDSの広い帯域幅にも差動形式にも対応していません。そのため、この用途には適していません。TMDSはLVDSとは少し異なりますが、簡単な受動部品を使うだけで、LVDSに準拠した機器との互換性を得ることができます。それらの受動部品とADN4654を併用すれば、TMDSに対応する4本のレーンをすべて絶縁することが可能です。最高110MHzのピクセル・クロック周波数を使用し、60Hzのフレーム・レートで720pの解像度に対応できます。

HDMIのプロトコルには、制御に使用する低速の信号が含まれています。それがDDC(Data Display Channel)、CEC(Consumer Electronics Control)、HPD(Hot Plug Detect)です。DDCは、ソース側のデバイスがディスプレイのEDID(Extended Display Identification Data)データをEEPROMから読み出し、該当するフォーマット情報を交換するために使用されます。CECは、接続されている複数のソース側デバイスとシンク側デバイスの間で機能を共有するために使用します。HPDは、シンク側デバイスがソース側デバイスの接続を検出するとアサートされて伝送されます。これらの制御信号は、2個の「ADuM1250」によって絶縁されています。同製品を使えば、必要に応じて各信号を双方向で絶縁することができます。双方向の絶縁チャンネルの実装に伴う設計上の課題を大幅に簡素化することが可能になります。

このリファレンス設計では、絶縁型のDC/DCコンバータ「ADuM5020」を使用しています。これにより、ディスプレイ(シンク側のデバイス)への給電を行います。また、規格で求められているように、シンク側のデバイスに対応するためにHDMIのケーブルには275mWの電力を供給します。このリファレンス設計は、HDMIのソース側デバイスを絶縁することを目的としていますが、絶縁型の電源回路を簡単に構築してシンク側デバイスに絶縁を施すことが可能です。

産業用イーサネット向けの製品群

アナログ・デバイセズは、マシン・ビジョン向けにマルチプロトコル対応のイーサネット・スイッチ製品やイーサネットの物理層に対応するトランシーバー製品を提供しています。また、数多くのプラットフォーム・ソリューションにより、シームレスな接続と運用効率の確保に貢献します。

REM(Real-time Ethernet Multi-protocol)スイッチ・ファミリ「fido5100/fido5200」は、産業用イーサネットに対応する2ポートの組み込みスイッチです。これらを使えば、ARM®などのあらゆるプロセッサやアナログ・デバイセズの通信コントローラ「fido1100」に接続することができます。

産業用イーサネットに対応するfido5100/fido5200は、アプリケーションに適したプロセッサを選択できるように配慮して設計されています。また、使用するプロトコル・スタックは、特定のベンダー製のものに限定されることはありません。fido5100/fido5200は、プロセッサのメモリ・バスに接続され、そのバス上の他のペリフェラルと同様に振る舞います。両製品のメモリ・サイクルは、最小32ナノ秒(32ビットのバスの場合125Mbps)で、EtherCATとPROFINET IRTのサイクル時間(それぞれ12.5マイクロ秒と31.25マイクロ秒)に対応しています。スイッチとのデータのやり取りは、Priority Channelキューを使って行われます。それにより、リアルタイム・データの転送は非リアルタイム・データの転送に割り込んで遅延なく実行されます。これらのキューはスイッチ・ドライバによって管理され、プロトコル・スタックとインターフェースによって最も効率的なデータ転送が実現されます。つまり、アプリケーション・ソフトウェア側では、スイッチの管理、下位レベルのレジスタの設定、複雑な時間管理のプロセスのトラッキングを行う必要はありません。

fido5100/fido5200は、もう1つ性能上の長所を備えています。それは、Priority Channel技術を使うことで、ネットワークの負荷の影響を受けずに済むようになるというものです。この長所のおかげで、アプリケーションを常に稼働している状態に保つことができます。fido5100/fido5200は、パケットをインテリジェントにフィルタリングし、プロセッサからの不要なトラフィックを抑制します。また、プロセッサの負荷に基づいて優先度の低いトラフィックを管理し、パケット全体の負荷に依らず優先度の高いパケットが適切なタイミングで送信されるようにします。

アナログ・デバイセズは、産業用イーサネットに対応するPHYデバイスとして、「ADIN1100/ADIN1200/ADIN1300」も提供しています。これらの製品は、過酷な産業環境で堅牢性を発揮できるように設計されています。様々なEMCのテストや堅牢性に関するテストを十分に行った上で製品化されました。いずれの製品も、予測が可能で安全性の高い通信が求められるアプリケーションに最適です。業界をリードする低遅延/低消費電力のPHY技術を採用しており、10Mbps/100Mbps/1Gbpsのデータ・レートに対応しています。データ伝送と信号の完全性が最大限になるよう設計されており、複数種のMAC(Media Access Control)インターフェースに対応しています。小型のパッケージを採用し、産業環境の広範な温度範囲にわたって動作します。現在/将来の産業用イーサネット・アプリケーションに採用すれば、最高レベルの信頼性が得られます。ADIN1100は、10BASE-T1Lに対応するPHYデバイスです。これを採用すれば、最長1kmのツイスト・ペア・ケーブルを1本使うだけで10Mbpsのイーサネット接続を実現できます。Ethernet-APL(Advanced Physical Layer)に対応しており、危険区域(ゾーン0)を対象とするユース・ケースにも適用できます。ADIN1100は、危険区域で動作するHMIや、産業用のビデオ・カメラ、サーマル・カメラなど、本質安全の認証が求められる機器に対するイーサネット接続を可能にします。

アナログ・デバイセズは何を提供しているのか?

ここまでに説明したように、産業分野/医療分野で使われるビデオ/カメラ用インターフェースには、広い帯域幅、高い安全性/堅牢性が求められます。重要な性能を維持しながら、そうしたインターフェースを実装するための主要な技術には、いくつかの選択肢があります。アナログ・デバイセズは、それらの分野に対して以下のような革新的なソリューションを提供しています。

  • Gbps レベルに対応する業界初のデジタル・アイソレータ:ADN4654/ADN4655/ADN4656 は、帯域幅の広いインターフェースに絶縁を施すための新たな選択肢になります。
  • ガルバニック絶縁を施した業界初のビデオ/カメラ・ポート:光ケーブルを使用するソリューションに比べ、コストや複雑さ、実装スペースを削減することができます。
  • システムに対する適合性を実証済みのソリューション:それらを利用することで、テストや適合性に関する課題を軽減することが可能になります。その一例が、HDMI の規格に準拠した検証済みのリファレンス設計です。
  • 産業用イーサネットに対応するスイート製品:現実世界の情報を、工場のネットワークや、その先のクラウドに伝送するために設計された技術、ソリューション、セキュリティ機能が含まれています。

まとめ

アナログ・デバイセズは、その深い専門知識と先進的な技術により、産業用機器をネットワークに接続する際に生じる課題に対応します。例えば、Gbpsレベルの通信に対応可能なガルバニック絶縁技術を業界に先んじて提供しています。その技術は、産業分野や医療分野の多様なアプリケーションにおいて、ビデオ/カメラ用インターフェースを絶縁するための有効な手段になります。また、イーサネット向けのソリューションとしては、TSNをサポートするイーサネット・スイッチや、低遅延/低消費電力で長いケーブルに対応可能な物理層のトランシーバーを提供しています。それらを使用することにより、過酷な産業環境で稼働するアプリケーションにおいて、重要なデータを確実に伝送することが可能になります。