今回はコンバータ・ノイズについて!― 第1部

質問:

今回はコンバータ・ノイズについて!― 第1部

RAQ:  Issue 51

回答:

コンバータの観点からは、ノイズ指数(NF)とS/N比(SNR)は同じ意味合いで用いられ、お互い計算式を使って換算できます。NFはノイズ密度を理解するのに最適ですが、SNRは対象帯域内におけるノイズの総量を示します。NFについて、もっと詳しく見てみましょう。トレードオフの判断を誤る場合が往々にしてあり、NFが低くても、コンバータから見たフロントエンド・ノイズが必ずしも低いとは限らないのです。

カスケード接続されたシグナル・チェーンを設計する際にダイナミック特性を把握するには、NFが 便利です。ソース抵抗が4倍になるとNFは6dBだけ改善されますが、抵抗の増大は同時にコンバータから見たジョンソン・ノイズ(抵抗熱ノイズ)の増大をもたらします。ソース抵抗がさらに増大し、コンバータのアナログ・フロントエンド(トランスやアンプなど)に入力される信号がフルスケール入力信号の半分ほどになると、対象帯域内の全域でのノイズ管理はさらに難しくなり、その結果、コンバータの性能が低下します。

これはなぜでしょう? トランスまたはアンプへのフルスケール入力が低い場合、ゲインを高める必要があります。理論上はこれで良さそうに見えます。トランスの場合は、アンプよりもゲイン帯域幅への依存性が高くなります。したがって、たとえば、高インピーダンス比のトランスを用いてNFができるだけ低くなるよう最適化すると、100MHz以上の一般的な高IFアプリケーションを実現することは困難になります。

アンプでの問題も同様です。アンプのゲインを高くすると、アンプは信号を増幅するだけでなく、自らの内在ノイズも増幅します。したがって、コンバータの性能は急激に低下します。性能を保持するには、より複雑な(高次の)アンチエリアシング・フィルタが必要となり、抵抗や「ロス」の多い部品をふんだんに使う羽目になります。

フロントエンドの設計時には、代わりにノイズ・スペクトル密度(NSD)に注目してください。これは一般にnV/rt-Hzの単位で表記され、コンバータにとっては特に重要な値です。なぜなら、デジタル領域においてこのNSDが伝達され処理され、帯域内でこの値が「抽出」されてしまうからです。

要するに、必要に応じてゲインを設定することにより、シグナル・チェーン全体を通して、すべての入力および出力フルスケール信号を最大限にすることを忘れないでください、ということです。どんなシグナル・チェーンにおいても、減衰器や抵抗器の追加はNFとの良いトレードオフとはいえません。なぜなら、電力を浪費し、抵抗に起因するノイズを増やすことになるからです。第2部では、抵抗ノイズとコンバータ・ノイズの比較を取り上げます。

ADCのノイズ指数の式は、NF=Pfs(dBm)+174dBm-SNR-10×log(BW) となります。ここで、Pfs=使用した入力ネットワークのフルスケール電力です。

 


 

著者

Rob Reeder

Rob Reeder

Rob Reeder は、1998年以降、米国ノースカロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ/RFグループで上級コンバータ・アプリケーション・エンジニアとして働いています。これまでに、さまざまなアプリケーションのためのコンバータ・インターフェイス、コンバータ・テスト、アナログ・シグナル・チェーン・デザインに関する多数の記事を執筆しています。また、航空宇宙および防衛グループのアプリケーション・エンジニアであり、5年間にわたってさまざまなレーダー、EW、および計装アプリケーションに注力していました。これまでには、高速コンバータ製品を9年間担当していました。それ以外にも、アナログ・デバイセズのMultichip Products グループのテスト開発とアナログ設計エンジニアリングも担当していました。そこでは、宇宙、軍事、および高信頼アプリケーションのアナログ信号チェーンモジュールを5年間設計しました。 イリノイ州デカルブの北イリノイ大学で1996年にBSEE(電気工学士)、1998 年にMSEE(電気工学修士)を取得しています。余暇には、音楽のミキシング、美術を楽しむほか、2人の息子とバスケットボールをしたりします。