LDOレギュレータ向けのVIOC機能【Part 1】その利用方法、得られるメリット
要約
本稿では、電圧入出力制御(VIOC:Voltage Input-to-Output Control)機能を利用するシステムについて2回に分けて解説します。一般に、この種のシステム(VIOCシステム)は、VIOC機能を備えるLDO(低ドロップアウト)レギュレータとスイッチング方式の降圧コンバータを組み合わせることで構成されます。今回(Part 1)は、VIOCシステムを設計するための指針を提供します。その中で、LDOレギュレータと降圧コンバータの推奨される組み合わせを列挙したリストを提示します。併せて、それらを組み合わせるべき理由を明らかにします。更に、LDOレギュレータのVIOC機能を使用することで得られるメリットについて解説します。具体的には、LDOレギュレータの出力ノイズの低減、消費電力の最適化、障害が発生した際のシステムの保護、起動時や過負荷時における適切な動作の確保といったことに注目します。なお、Part 2では、VIOCシステムを設計する際の指針について更に詳しく説明します。また、VIOCの動作原理やその背景にある事柄について解説を加えます。
はじめに
パワー・マネージメントの分野において、LDOレギュレータは非常に重要な役割を担うデバイスです。特に、電子コンポーネントに対して高い精度で電力を供給したい場合に役立ちます。LDOレギュレータには、出力ノイズが非常に小さいという特徴があります。そのため、高精度のアナログ回路、RFシステム、医療用機器など、ノイズの影響を受けやすいアプリケーションにとって不可欠なものになっています。実際、これらのアプリケーションにLDOレギュレータを適用すればクリーンな電力が得られます。また、干渉を最小限に抑えて信号の完全性を高めることが可能になります。実は、LDOレギュレータによって得られる効果を更に高める方法があります。それは、VIOC機能を備えるLDOレギュレータと同レギュレータに給電する降圧コンバータを組み合わせるというものです。この構成により、LDOレギュレータの性能を更に引き出すことが可能になります。本稿では、この構成の電源回路をVIOCシステムと呼ぶことにします。このシステムを採用すれば、LDOレギュレータの入出力電力の差を常に最適な値に維持することができます。それにより、高い電源電圧変動除去比(PSRR:Power Supply Rejection Ratio)を実現し、ノイズを最小限に抑えた電源回路を構成することが可能になります。また、高い効率、優れた性能が得られるだけでなく、保護機能を有効に活用できるようになります。但し、VIOC機能を利用する場合には実装が複雑になります。本稿では、この点について詳しく説明します。また、その結果として得られるメリットについて解説すると共に、実用的なアプリケーションを紹介します。重要なのは、VIOC機能によって得られる相乗効果について理解することです。それにより、多様な電子デバイス向けのパワー・マネージメント・ソリューションを最適化することが可能になります。
VIOC機能を備えるか否かにかかわらず、LDOレギュレータはパワー・マネージメント製品のカテゴリに分類されます。このカテゴリには、アンプ、データ・コンバータ(A/DコンバータとD/Aコンバータ)、プロセッサといった電子的な負荷に電力を供給するレギュレータICやコンバータICが含まれます。つまり、LDOレギュレータはパワー・マネージメントICの一種です。同レギュレータは、電子的な負荷に直接電力を供給するために最適なデバイスとして設計されています。その結果、LDOレギュレータが果たす役割は広く認識されました。実際、LDOレギュレータを使用すれば、負荷である電子デバイスの性能を最大限に引き出すことができます。また、複数の負荷の間で生じる不要な相互作用を最小限に抑えられます。更に、システム内のパワー・マネージメントICと負荷の適切な電源シーケンス(電源の投入/遮断)を保証することも可能になります。
図1に、VIOC機能を備えるLDOレギュレータ「LT3073」と降圧コンバータ「LT8609A」を組み合わせた回路を示しました。これは、VIOCシステムの具体的な例です。ご覧のように、スイッチング方式の降圧コンバータはLDOレギュレータに電力を供給します。このLDOレギュレータは、降圧コンバータの出力を制御するための信号を提供するための回路を内蔵しています。それにより、LDOレギュレータの入出力電圧の差が一定に保たれます。これがVIOC機能の概要です。LDOレギュレータは、リニア・レギュレータのカテゴリに含まれます。リニア・レギュレータは、ノイズを小さく抑えた状態で電力を供給することが可能なトランジスタ回路です。但し、入出力電圧の差の影響を受けやすい点が短所だと言えます。その差によって効率が左右されるからです。一方、スイッチング方式の降圧コンバータは、パワー・トランジスタ(スイッチ)を高速にオン/オフし、インダクタを利用することでエネルギーを伝達します(ダイオードも使用されることがあります)。図1の構成では、降圧コンバータに入力される電圧を基にして、LDOレギュレータへの給電に適した電圧が高い効率で生成されます。
VIOCシステムによる性能の向上
上述したように、VIOCシステムは、VIOC機能を備えるLDOレギュレータと、それに電力を供給するスイッチング方式の降圧コンバータで構成されます。それにより、降圧コンバータの高い効率とLDOレギュレータの優れたノイズ性能を活かせる強力なシステムを実現できます。降圧コンバータは、入力電圧を基に、それよりも低く安定した出力電圧を高い効率で生成します。降圧コンバータは、英語では「buck converter」、「step-down converter」といった名称で呼ばれます。また、スイッチング・レギュレータの一種であることから、「switcher」と呼ばれることもあります。
VIOCシステムを構築する場合には、その最初のステップとしてLDOレギュレータと降圧コンバータを選択することになります。アナログ・デバイセズは、VIOC機能を備える様々なLDOレギュレータを提供しています。特に「LT3045-1」と「LT3041」のシリーズや、L T3073、「LT3074」、「LT3078」のシリーズは、最新のVIOC機能を搭載しています。リニア・レギュレータであるLT3045-1とLT3041の出力電流は500mA~1A、入力電圧は約2V~20Vです。両ICが必要とする入力電圧は1つだけです。一方、LT3073、LT3074、LT3078の出力電流は3A~5A、入力電圧は0.6V~5.5Vです。これら3製品は、入力として低電流のバイアス電圧を必要とします。各LDOレギュレータと組み合わせられるのは、フィードバック(FB)ピンを備える降圧コンバータです。設計に使用する降圧コンバータを選択する際には、以下に列挙する事柄について検討してください。
- VIOC機能を備えるLDOレギュレータは、あらゆるトポロジのスイッチング・レギュレータと共に使用できます。その中でも、降圧コンバータと組み合わせて使用するケースが最も多くなります。
- LDOレギュレータのLT3045-1とLT3041は、VIOCピンの電圧が1Vという条件で動作させられるように、FBピンの電圧が1V以下の降圧コンバータと組み合わせる必要があります(詳細についてはデータシートを参照)。
- 補償用のピンを備える降圧コンバータを使用すれば、同ピンを備えていない降圧コンバータを使用する場合よりも、VIOCシステムの安定性を実現するのが容易になるはずです。
- VIOCシステムのハードウェアの動作を評価する際には、降圧コンバータの評価用ボードとLDOレギュレータの評価用ボードを使用すると便利です。
- VIOC機能を備えるLDOレギュレータは、Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ) 3(SS3)を採用した降圧コンバータと組み合わせることはできません。SS3に対応する降圧コンバータにはFBピンが存在しないからです。
- 上側の帰還抵抗を内蔵するμModule®レギュレータを使用した場合、一般的なVIOCシステムのように入出力電圧の差を一定に保つことはできません。
- VIOC機能を使用する回路には、多くの電圧レールをサポートする段ではなく、LDOレギュレータの前段になる専用の電圧レールが必要です。
- VIOCシステムを構成する場合、スタンドアロンのLDOレギュレータを使用する設計と比較して必要な部品点数が多くなります。VIOCシステムに追加する必要があるのは、降圧コンバータ用の帰還分圧器で使用する抵抗です。また、通常は同コンバータ用の出力コンデンサも追加する必要があります。
設計プロセスを簡素化するために、アナログ・デバイセズはVIOC機能を備える特定のLDOレギュレータと組み合わせるのに適した降圧コンバータについての指針を提供しています。表1は、VIOC機能を備えるLDOレギュレータと降圧コンバータの適切な組み合わせについてまとめたものです。各LDOレギュレータについては、主な仕様も示してあります。これらの組み合わせは、先述した考慮すべき事柄に基づいています。そのため、VIOCシステムを設計する際には、ここまでに説明した内容と表1に示した指針を活用してください。なお、表1に示したLDOレギュレータのデータシートには、VIOCシステムの複数のリファレンス設計に関する記載があります。
表2は、表1で取り上げた降圧コンバータの仕様についてまとめたものです。この情報は、電気的な要件を満たすだけでなく、各降圧コンバータの入力電圧範囲、負荷に対する電流能力、動作電流といった制約に適合したLDOレギュレータを選択する上で役に立ちます。また、表2には降圧コンバータのFBピンの電圧、利用可能なモード、評価用ボードの品番、補償用のピンの有無といった情報も記載してあります。
VIOC機能によるノイズの最小化、PSRRの向上
先述したように、VIOCシステムを構成すればLDOレギュレータの性能を更に引き出すことができます。LDOレギュレータの入出力電圧の差を常に適切な値に維持でき、高いPSRR性能を実現してノイズを最小限に抑えられるようになるからです。
| LDOレギュレータの品番 | 説明 | 推奨される降圧コンバータ(その1) | 推奨される降圧コンバータ(その2) | 推奨される降圧コンバータ(その3) |
| LT3041 | 20V、1A、超低ノイズ、超高PSRRのVIOC機能搭載リニア・レギュレータ | lt8608 | LTC3307A | LTC3626 |
| LT3045-1 | 20V、500mA、超低ノイズ、超高PSRRのVIOC機能搭載リニア・レギュレータ | LT8608 | LTC3307A | LTC3626 |
| LT3073 | 3A、超低ノイズ、高PSRR、超高速でドロップアウト電圧が45mVのリニア・レギュレータ | LT8609A | LTC3309A | LTC8640 |
| LT3074 | 5.5V、3A、超低ノイズ、高PSRRでドロップアウト電圧が45mVのPMBus対応リニア・レギュレータ | LT8609A | LTC3309A | LTC8640 |
| LT3078 | 5.5V、5A、超低ノイズ、高PSRR、超高速でドロップアウト電圧が55mVのリニア・レギュレータ | LTM4658 | LTC3309A | LT8642S |
| 降圧コンバータの品番 | 説明 | FBピンの電圧(VFB) | パルス・スキップ・モードまたは強制連続モードに設定可能か | 評価用ボード | 補償用のピンを備えているか | 備考 |
| LT8608 | 42V、1.5A、同期整流方式で自己消費電流が2.5μAの降圧コンバータ | 0.778 V | はい | DC2458A | いいえ | |
| LT8609A | 42V、3A、同期整流方式で自己消費電流が2.5μAの降圧コンバータ | 0.782 V | はい | DC2195B-A | いいえ | |
| LT8640 | 42V、5A、同期整流方式で自己消費電流が2.5μAの降圧Silent Switcher | 0.97 V | はい | DC2202A | いいえ | |
| LT8642S | 18V、10A、同期整流方式の降圧Silent Switcher 2 | 0.597 V | はい | DC2560A | はい | パルス・スキップ・モードはなし |
| LTC3307A | 5V、3A、同期整流方式の降圧Silent Switcher(2mm×2mmのLQFN、1.6mm×1.6mmのWLCSP) | 0.5 V | はい | DC2990A | いいえ | |
| LTC3309A | 5V、3A、同期整流方式の降圧Silent Switcher(2mm×2mmのLQFN) | 0.5 V | はい | DC2745A | いいえ | |
| LTC3626 | 20V、2.5A、同期整流方式で電流/温度監視機能を備えるモノリシック型降圧レギュレータ | 0.6 V | はい | DC1768A | はい | パルス・スキップ・モードはなし |
| LTM4658 | 低入力電圧、10A、高効率のμModule降圧コンバータ | 0.5 V | はい | DC2861A | はい |
LDOレギュレータの出力電圧を変更できるようにしたいだけで、LDOレギュレータに給電する降圧コンバータの出力電圧を調整するような複雑な仕組みは必要ないというケースもあるでしょう。図3に示した回路は図1の回路とよく似たものですが、VIOC機能は使用していません。LDOレギュレータの出力を高くしたり低くしたりしても、降圧コンバータの出力は一定のままです。図2に示したのは、この回路のLDOレギュレータが出力する電圧を観測した結果です。これを見ると、図3の回路のPSRR性能はLDOレギュレータの出力電圧が高いほど悪化することがわかります。図3の回路では、LDOレギュレータの出力電圧を高く設定しても、LDOレギュレータの入力電圧がそれに応じて高くなるわけではありません。そのため、LDOレギュレータの出力では降圧コンバータの出力電圧リップルに起因するノイズが増大します。
図2、図3と比較することにより、図1に示した回路のVIOC機能がもたらすメリットについて確認してみましょう。図1のVIOCシステムでは、LDOレギュレータの出力電圧を変更した場合でも入出力電圧の差が一定に保たれます。また、PSRR性能を高く維持し、ノイズを最小限に抑えることが可能です。この回路では、LDOレギュレータの出力電圧を下げた場合、降圧コンバータの出力電圧が低くなるよう自動的に調整されます。一方、LDOレギュレータの出力電圧を高くした場合、降圧コンバータの出力電圧が自動的に高くなります。図4に示したのは、LDOレギュレータの出力電圧を変更した場合の観測結果です。出力電圧が3種類のうちどの値であっても、降圧コンバータの出力電圧リップルに起因してLDOレギュレータの出力に現れるノイズは低いレベルで維持されています。
VIOCが効率/保護/機能に関してもたらす効果
VIOCシステムでは、最適な入出力電圧の差が常に維持されることから、PSRR性能が向上し、ノイズが最小限に抑えられます。それだけでなく、効率、回路の保護、機能の面でもメリットが得られます。先述したように、図3の回路ではLDOレギュレータの入力電圧は一定のままです。この状態でLDOレギュレータの出力電圧を下げると、同レギュレータの消費電力が増加して効率が低下します。それに対し、図1に示したVIOCシステムでは、LDOレギュレータの出力電圧を変更しても、VIOC機能によって同レギュレータの入出力電圧の差が一定に保たれます。そのため、消費電力も変化しません。つまり、VIOC機能を利用すれば効率について明らかなメリットが得られます。
VIOC機能を使用しないシステムでは、何らかの条件や障害によって、LDOレギュレータの入出力電圧の差が望ましくない値まで増大するおそれがあります。例えば、降圧コンバータの出力電圧とLDOレギュレータの出力電圧の両方が比較的高い値に設定されていたとします。その状態で障害が生じ、LDOレギュレータの出力が短絡すると、入出力電圧の差が非常に大きくなるでしょう。VIOC機能を使用しない場合、降圧コンバータの出力電圧を強制的に下げることはできません。つまり、LDOレギュレータの入出力電圧の差を設定された値に維持することはできないということです。そのため、LDOレギュレータの出力が短絡した場合には入出力電圧の差が増大してしまうのです。その結果、LDOレギュレータの消費電力が大幅に増加します。それに伴い、同レギュレータの動作温度が推奨範囲を超えてしまう可能性があります。そうすると、信頼性が低下してしまうかもしれません。
また、LDOレギュレータの出力が短絡して入出力電圧の差が大きくなると、障害が解消された後にも同レギュレータが正常な状態に回復しなくなる可能性があります。この問題には、高電圧に対応する多くのLDOレギュレータが備える電流制限フォールドバックと呼ばれる機能が関係します。
電流制限フォールドバックは、電源回路や電圧レギュレータで使用される保護用の機能です。過電流や短絡が発生した場合、同機能は出力電流を低減するように動作します。障害が発生した際に一定の電流値を維持する単純な電流制限の機能とは異なり、電流制限フォールドバックでは出力電圧と出力電流の両方を低下させます。そのため、回路で使用しているコンポーネントの消費電力を抑えられます。その結果、電源とそれに接続されたデバイスを、過剰な発熱や電流による損傷から保護することが可能になります1。
図5は、LT3041(LDOレギュレータ)の電流制限フォールドバックによる効果を表したものです。同レギュレータは入出力電圧の差が11Vを超えると出力電流を減少させます。この点に注目してください。アナログ・デバイセズが提供する多くのLDOレギュレータのデータシートには「Overload Recovery(過負荷状態からの回復)」というセクションが設けられています。そのセクションには、LDOレギュレータの出力電圧が比較的高く設定され、負荷が比較的大きい場合についての説明が記載されています。LDOレギュレータの出力の短絡が解消された際には、電流制限フォールドバックに起因して適切な出力電圧への回復が妨げられます。同セクションにはその理由が記されています。
VIOCを使用しない回路では、電流制限フォールドバックによって高電圧に対応する回路の適切な起動が妨げられる可能性もあります。電源を投入した際、通常の動作によって出力電圧が所望の値に上昇するまでは、出力電圧が0Vになるからです。電源を投入した際の入力電圧が比較的高い場合、電流制限フォールドバックによってLDOレギュレータの電流が過度に制限されることがあります。そうすると、LDOレギュレータの出力電圧が所望の値まで上昇することが妨げられるかもしれません。それに対し、VIOC機能を利用する場合、降圧コンバータの出力電圧は自動的に適切な値に維持されます。それにより、LDOレギュレータの入出力電圧の差が適切なレベルに保たれます。この機能により、起動時にも障害の発生時にも適切な動作が得られることが保証されます。
まとめ
本稿では、VIOC機能を備えるLDOレギュレータと降圧コンバータを組み合わせたVIOCシステムについて説明しました。それを通して、効率が高くノイズが小さい電源システムを設計する方法をご理解いただけたはずです。本稿で説明したのは、現代のアプリケーションで最も普及しているVIOCシステムの構成方法だと言えます。また、本稿ではLDOレギュレータと降圧コンバータの推奨される組み合わせとその理論的な根拠についても言及しました。必要な製品を慎重に選択することで、VIOCシステムの性能を大幅に高められます。加えて、VIOC機能を活用することにより、出力ノイズの低減と熱効率の向上も実現できます。更に、起動時と過負荷時にシステムを適切に回復させるための保護機能の強化/性能の向上を図れることも示しました。
次回(Part 2)は、VIOC機能によってLDOレギュレータの入出力電圧の差が一定に保たれる仕組みについて説明します。また、VIOCシステムの実装を簡素化する実用的なツールを紹介します。
参考資料
1T.K. Hareendran「Foldback Current Limiting - Little Secrets(フォールドバック電流制限 - 小さな秘密)」Codrey、2021年11月