スイッチング電源の出力電圧の精度

概要

スイッチング電源の出力電圧が完全な精度を達成するということは起こり得ません。出力電圧のレギュレーション精度には、様々な許容誤差(公差)などからの影響が及ぶからです。本稿では、出力電圧の精度を低下させるいくつかの要因について解説します。その上で、スイッチング電源全体としての許容誤差がどのようにして決まるのかを明らかにします。

はじめに

通常、スイッチング電源には出力電圧を設定するためのフィードバック・ピンが設けられます。そして出力電圧は、電源回路全体の効果によって所望の値にレギュレートされます。では、その出力電圧はどれくらいの精度を達成できるものなのでしょうか。

図1は、降圧処理を担うスイッチング電源の概念図です。

図1. 降圧処理を担うスイッチング電源の概念図
図1. 降圧処理を担うスイッチング電源の概念図

通常、スイッチング電源はレギュレートされていない電源電圧(入力電圧)を基にして、可能な限り高い精度でレギュレートされた出力電圧を生成します。

その精度は、許容誤差を含むいくつかの要因によって決まります。

DCの許容誤差

スイッチング電源のDC出力電圧は所望の値にレギュレートされます。とはいえ、実際にはある程度の偏差が生じます。その偏差は、まずスイッチング電源の主要な要素であるリファレンス電圧の精度に依存します。リファレンス電圧を生成するIC(またはパワー・コンバータICなどが内蔵するリファレンス回路)は、電源電圧の変動、ICの製造バラツキ、動作温度の変化といった異なる条件の下でもわずかな偏差しか生じないように設計されます。パワー・コンバータICの許容誤差の値は、その製品のデータシートに記載されています。ただ、許容誤差の値は様々な方法で規定されます。例えば、リファレンス電圧のライン・レギュレーション、出力電圧の負荷レギュレーション、レギュレートされたフィードバック電圧などを利用して表現されます。リファレンス電圧の精度だけでなく、パワー・コンバータICのフィードバック・ピンにおける固有のDC許容誤差なども影響を及ぼします。

一般に、スイッチング電源では、出力電圧のノードとフィードバック・ピンの間に抵抗分圧器が配置されます。スイッチング電源のDC許容誤差には、同分圧器で使用される抵抗(図1のRfb1とRfb2)の値の偏差も含まれます。市販の抵抗には、様々な許容誤差が規定されています。実際の抵抗の値は、最も誤差が大きい状態になっていることが多いでしょう。なぜなら、誤差の小さい抵抗は製造段階で検出/ピックアップされ、より精度の高い抵抗製品として販売されるケースがあるからです。

出力電圧のリップル

スイッチング電源の出力電圧には、常にある程度の電圧リップルが生じています。このリップルは、スイッチング動作に起因して発生します。その詳細は、同電源の構成要素であるインダクタを流れる電流の立ち上がりと立下がり、出力コンデンサの値とその等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)によって決まります。インダクタンスが大きいコイルとESRが小さい大容量の出力コンデンサを使えば、そのリップルを低減できます。それでも、スイッチング電源の出力電圧に現れるリップルを完全に排除することはできません。

負荷過渡応答

出力電圧の精度に影響を及ぼす3つ目の要因は、負荷過渡応答の挙動です。負荷電流が変化すると、出力電圧は上下に変動する可能性があります。負荷過渡応答における電圧の変動が大きく急激であるほど、出力電圧には短い時間にわたって、設定した値からの大きな偏差が生じます。

この出力電圧に対する影響を最小限に抑えるには、制御ループの速度を向上させる必要があります。パワー・コンバータ回路のループを最適化するためのツールの例としてはアナログ・デバイセズの「LTpowerCAD®」が挙げられます。

図2は、降圧レギュレータIC「LT8642S」の負荷過渡応答を示したものです。この例では、負荷電流を500ナノ秒以内に100mAから5Aまで増加させ、250マイクロ秒後に再び急激に減少させています。それに対する出力電圧の変動のピークは約27.5mV、ディップは約26.4mVです。

図2. 時間領域で取得した負荷過渡応答。LTpowerAnalyzerを使用して測定しました。
図2. 時間領域で取得した負荷過渡応答。LTpowerAnalyzerを使用して測定しました。

図2に示した負荷過渡応答の測定には、アナログ・デバイセズの評価用ボード「LTpowerAnalyzer」を使用しました。このハードウェアを使用すれば、様々な電流レベル、様々な遷移時間を対象として負荷過渡応答を容易に測定できます。

図3は、スイッチング電源の許容誤差に影響を及ぼす様々な要因についてまとめたものです。

図3. 電源の出力電圧の精度に影響を及ぼす様々な要因
図3. 電源の出力電圧の精度に影響を及ぼす様々な要因

まとめ

電源回路としてどのようなものを選択するのかを検討する際には、アプリケーションに必要な出力電圧の精度を決定することが不可欠です。その精度は、様々な部品の選択に影響を及ぼします。例えば、DCの精度に対しては、パワー・コンバータICや抵抗(分圧器)が影響を及ぼします。一方、出力電圧のリップルや負荷過渡応答にはインダクタ、出力コンデンサなどの影響が及びます。適切な部品を選択したら、負荷過渡応答に可能な限り適切に対応できるように制御ループを最適化します。例えば、電圧オフセットを最小限に抑えるといった具合です。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。