高精度のウィンドウ電圧監視ICにより、電源用のウィンドウの最大化を図る

概要

技術の進歩に伴い、高速かつ大規模なICのコア部では、より低い電源電圧が使用されるようになりました。そうしたICの例としては、FPGAやマイクロプロセッサ、DSP、ASICなどが挙げられます。では、なぜ低いコア電圧が使用されるのでしょうか。その目的は消費電力を低く抑えることです。また、消費電力の削減は、高速かつ大規模なICの性能に影響を及ぼす熱の課題に対処することにも直結します。ただ、コア電圧を下げると、その許容範囲も小さくなります。つまり、その種のICの動作電圧範囲が狭くなるということです。コア電圧を下げることが大きなトレンドになった結果、ICの適切な動作を確保するために非常に精度の高い電源回路が求められるようになりました1。この種の用途に用いる電源回路では、主にスイッチング・レギュレータが使われます。しかし、完璧なスイッチング・レギュレータというものは存在しません。この理想と現実のギャップを埋めるために利用されるようになったのがウィンドウ電圧監視ICです。ウィンドウ電圧監視ICは、高速かつ大規模なICを適切なコア電圧によって安定した状態で動作させることに役立ちます。但し、コア電圧のウィンドウを適切に設定するためには、ウィンドウ電圧監視ICで使用する閾値(スレッショルド)の精度に十分な注意を払う必要があります2

本稿では、大規模かつ高速なデジタルICのコア電圧を対象とするウィンドウ電圧監視ICの使い方を紹介します。高精度のウィンドウ電圧監視ICを使用すれば、デジタルICに適用する電源用のウィンドウを最大化することができます。そうすれば、コア電圧の有効範囲をより広く確保し、その範囲内におけるICの適切な動作を保証することが可能になります。

はじめに

ポータブル機器やバッテリ駆動の機器に対する需要は高まり続けています。その結果、デジタルICの消費電力がより大きな課題として浮上しました。最近では、その種の機器でも、より複雑なコンピューティング機能やプロセッシング機能が必要とされます。このニーズに対応するためには、FPGAやマイクロプロセッサ、DSP、ASICなど、より高速な処理を実現できる大規模なICが必要です。ただ、そうした複雑な処理を実行すると、より多くの電力が消費されます。その消費電力は、IC自身の発熱の問題を引き起こします。ここで図1をご覧ください。これは、ICのプロセス技術と電源電圧の関係を示したものです。これを見ると、現在のテクノロジー・ノードはnmの領域に達しており、微細化が大きく進んだことがわかります。それに対応し、ICで使用する電源電圧も低下し続けています。電源電圧を下げることが、処理速度を最適化しつつ、ICの動作寿命を延ばすための有効な策になるということです3。以下では、そうした微細プロセスによって製造されるFPGAやマイクロプロセッサ、DSP、ASICなどを「大規模IC」と総称することにします。

Figure 1. Supply voltages of integrated circuits lower with evolving technology process. 図1. プロセス技術と電源電圧の関係。微細化が進むにつれて、ICではより低い電源電圧が使用されるようになりました3。
図1. プロセス技術と電源電圧の関係。微細化が進むにつれて、ICではより低い電源電圧が使用されるようになりました3

上述したようなプロセス技術の進化と最適化のトレンドに伴い、より精度の高い電源回路が求められるようになりました。電源回路の実際の性能についての考慮を怠ると、システム性能の面でリスクが生じる可能性があります。ほとんどのスイッチング・レギュレータ製品は精度が十分に高いとは言えません。それが原因で、大規模ICに供給されるコア電圧が動作電圧範囲を下回ったとします。すると、そのICの処理にエラーが生じ、システムに障害が発生してしまう可能性があります。また、大規模ICを連続動作させている際、コア電圧がドリフトして動作電圧範囲の上限値を超えてしまったとします。その場合、ロジック回路でホールド・タイムの障害が生じてしまうかもしれません。場合によっては、大規模ICが損傷してしまうおそれもあります。これらのリスクは、負荷の条件、動作温度、経時劣化に起因してもたらされる可能性があります1。以下では、大規模ICの例として主にFPGAを取り上げることにします。ただ、他の大規模IC(コンピューティングICやプロセッシングIC)についても同じことが言えます。

「許容範囲」という言葉の定義

ICで使用する電源電圧には許容可能な幅があります。つまり、ICの電源電圧については動作電圧範囲と呼ばれる「許容範囲」が存在するということです。一方、電源回路の出力電圧も公称値からズレていたり、条件の変化に応じて変動したりします。電源回路側から見れば、そのズレや変動は、出力電圧の「許容誤差」と表現することができるでしょう。大規模IC用の電源回路を設計したり、その出力電圧を監視したりする際、電源電圧の幅については観点に応じて異なる扱い方をされることがあります。この点には注意が必要です。以下では、本稿における「許容範囲」、「許容誤差」の意味について説明することにします。

コア電圧の許容範囲

大規模ICのコア電圧の許容範囲は、そのICの仕様として定義されています。表1に、コア電圧の仕様の例を示しました。これはIntelの「Arria 10 FPGA」について定められたものです。コア電圧の最小値と最大値の範囲は、公称値の±3.3%に相当します。このICを最小値より低いコア電圧や最大値より高いコア電圧で動作させようとすると、機能や性能に問題が生じます。大規模ICを使用する際には、最適な性能と消費電力の削減を実現しつつ、安定した動作を維持できるようにしなければなりません。したがって、マージンを確保するために、実際に印加する電圧の範囲は、ICの仕様として定められた許容範囲よりも狭く設定することが求められます。

表1. Arria 10 FPGAのコア電圧の仕様
記号 説明 条件 最小値 代表値 最大値 単位
VCC コア用の電源電圧 標準電力 0.87 0.9 0.93 V
低電力 0.92 0.95 0.98 V

電源回路の許容誤差

電源回路から見た出力電圧の実際の範囲は許容誤差と呼ぶことができるでしょう。これは、電源回路の出力偏差または出力レギュレーション性能に相当します。電源回路の許容誤差を小さく抑えるには、専門的かつ高度な設計が必要です。そのような設計を行ったとしても、使用する部品の劣化といった外的な要因により、許容誤差は時間の経過に伴って変化する可能性があります。アプリケーションにおいては、電源回路の許容誤差がコア電圧の許容範囲内に収まっている必要があります。電源回路の出力の振る舞いによっては、FPGAをはじめとする大規模ICに問題が生じる可能性があります。スイッチング・レギュレータ製品によっては、許容誤差が仕様として明記されているかもしれません。ただ、そのレギュレータの実際の出力電圧は、仕様で定められた代表値(許容誤差の中央値)になっているとは限りません。仕様は満たしているものの、ある程度の誤差を含む値を出力している可能性があるということです。では、なぜそのような誤差が生じるのでしょうか。その原因の例としては、フィードバック・ループで使用する抵抗が挙げられます。その抵抗には、固有の許容誤差が定められているはずです。つまり、その抵抗の値は許容誤差の範囲内でばらつきます。あるいは、リファレンス電圧の安定性に起因した誤差が発生することもあるでしょう。更には、フィードバック・ループの補償のために施された最適化の結果として、DC誤差が生じることもあり得ます。ここで、スイッチング・レギュレータによってFPGAのコア電圧を供給するケースを考えます。そのスイッチング・レギュレータについては、許容誤差が±2%だと明記されていると仮定しましょう。この場合、そのスイッチング・レギュレータの出力は、4%の幅を持つウィンドウ内のどこに位置していても自身の仕様を満たしていることになります。例えば、-2%以内であれば公称値を下回っていても構わないということです。しかし、その場合、FPGAにおいてタイミングの問題が生じてしまう可能性があります。逆に、レギュレータから、+2%の上限値に近い電圧が出力されていることもあり得ます。その場合、FPGAの仕様を満たしていたとしても、最適な動作条件が得られているとは言えません。なぜなら、多くの電力が無駄に消費されてしまうからです1。つまり、スイッチング・レギュレータの出力電圧が許容誤差の範囲内にあっても、FPGAは推奨範囲外のコア電圧で動作することになるかもしれません。そうすると、より深刻な問題が生じる可能性があります。結論として、そのような状況を避けるためには、スイッチング・レギュレータの出力電圧を監視しなければならないということになります。

ウィンドウ電圧監視ICの許容範囲

ウィンドウ電圧監視ICについても、「許容範囲」という概念が使われます。その種のICは、電源回路の出力が許容範囲に収まっているか否かを監視します。その許容範囲はウィンドウと呼ばれます。このウィンドウは、低電圧(UV)側の値と過電圧(OV)側の値によって定義されます。それぞれの値は、対象とする電圧の公称値に対するパーセンテージで表現されます。それらの値を、UVの閾値、OVの閾値と呼びます。例えば、監視の対象となる電圧の公称値が1V、ウィンドウ電圧監視ICのウィンドウの範囲が±3%であったとします。その場合、UV側の閾値は1V×0.97に設定され、OV側の閾値は1V×1.03に設定されます。ここで重要なのは、UV/OVの閾値自体にも許容誤差が存在するという事実です。この許容誤差は閾値の精度と呼ばれます。

ウィンドウ電圧監視ICの使い方

ウィンドウ電圧監視ICを使用するには、UV/OVの閾値を設定します。それにより、FPGAなどの大規模ICに、許容範囲内の電源電圧(コア電圧)が供給されていることを確認できます。その場合、大規模ICは適切に動作し、必要な処理を実行します。UV/OVの閾値で設定された範囲(ウィンドウ)からコア電圧が外れると、ウィンドウ電圧監視ICはリセット信号を出力します。それによりシステムのエラーを防止すると共に、大規模ICを損傷から保護します。図2に示したタイミング図は、監視の対象となる電圧がUVの閾値を下回った場合とOVの閾値を上回った場合に、リセット信号が出力される様子を表しています。ウィンドウ電圧監視ICのアーキテクチャには、いくつかのオプションがあります2。アーキテクチャの種類に関わらず、UV/OVの閾値を設定し、最適な動作を得るための許容範囲を選択することになります。

Figure 2. A timing diagram showing a reset output in the event of UV and OV. 図2. リセット出力に関するタイミング図。入力電圧がUV/OVの閾値を超えた場合の動作を表しています。
図2. リセット出力に関するタイミング図。入力電圧がUV/OVの閾値を超えた場合の動作を表しています。

ただ、ウィンドウ電圧監視ICを選択して最適に使用するのはそれほど簡単ではありません。特に、ウィンドウとしては、利用可能なバリエーションの中から最適なものを慎重に選択する必要があります。先述したように、リセット信号を得るためのUV/OVの閾値については、それら自体の精度に関する仕様が存在します。通常、閾値の精度はパーセンテージで表されます。その値は、計算によって得たリセット用の閾値または目標とするリセット用の閾値に対する実際の閾値の適合度合いを表します。この閾値の精度は、ICに集積される抵抗分圧器とバンドギャップ回路の設計によって決まります4。リファレンス電圧と抵抗値が安定しているほど、達成できる精度は高くなります。図3は、ウィンドウ電圧監視ICにおけるウィンドウと閾値の精度の関係を表したものです。UVとOVの実際の閾値(それぞれUV_THとOV_TH)は、精度の最大値と最小値の範囲内に収まりますが、それらの中央に位置するとは限りません。

Figure 3. The undervoltage and overvoltage threshold variation with its accuracy specification. 図3. ウィンドウと閾値の精度の関係。UV/OVの実際の閾値は、その最大値と最小値の間のどこかに位置します。
図3. ウィンドウと閾値の精度の関係。UV/OVの実際の閾値は、その最大値と最小値の間のどこかに位置します。

システムを設計する際には、多くの場合、電源の性能に関するバジェットの検討を行うことになるでしょう。FPGAのコア電圧の許容範囲(動作仕様)が±3%である場合、次のようにバジェットを策定することができるでしょう。すなわち、±1%を電源のDCレギュレーションの誤差に、±1%を出力リップル電圧に、残る±1%を過渡応答の許容値に割り当てるといった具合です。電源回路によっては、レギュレーションの精度が低く、誤差が±2%に達するケースなどもあるはずです。そのような電源回路を使用すると、過渡応答に割り当てられる許容値が小さくなります。その電源回路からコア電圧を直接供給すると、大規模ICが誤動作するリスクが高まります。コア電圧にトランジェントが生じ、許容範囲から外れる可能性があるからです。このような場合には、ウィンドウ電圧監視ICを使用してFPGAを安全にリセット・モードに移行させるようにします。そうすれば、エラーを回避することができます。

適切なウィンドウを選択する

先述したように、ウィンドウ電圧監視ICを使いこなすのは必ずしも容易ではありません。難易度の高い作業の1つとしては、適切なウィンドウの設定/選択が挙げられます。ユーザは、コア電圧の仕様とウィンドウの仕様が合致している電圧監視ICを選びがちです。例えば、コア電圧の許容範囲が±3%である場合に、±3%のウィンドウに対応するウィンドウ電圧監視ICを選択するといった具合です。しかし、閾値の精度の問題から、FPGAのコア電圧の許容範囲とウィンドウの範囲が同じである場合、OVの最大閾値OV_TH (max) やUVの最小閾値UV_TH (min)の近くでリセット出力がトリガされて誤動作が生じる可能性があります。図4(a)の例では、監視の対象となる電圧がコア電圧の許容範囲を超える可能性があります。閾値の精度を考慮していない場合、生じ得る実際の閾値が適用されることで、ウィンドウ電圧監視ICによって問題を検出できない可能性があるのです。結果として、±3%を超える電圧が大規模ICのコアに供給されることになります。このような事態を避けられるよう、より適切なウィンドウを選択しなければなりません。リスクを回避するためには、OV_TH (max)とUV_TH (min)がコア電圧の±3%の許容範囲内に含まれるようにする必要があります。但し、そのようにすると、本来であれば使用可能な範囲の一部が侵食され、図4(b)に示すような狭いウィンドウが設定されてしまいます。

Figure 4. Window voltage supervisor tolerance setting (a) same with core voltage tolerance and (b) within the core voltage tolerance. 図4. 閾値の精度に関する考慮。(a)はコア電圧の許容範囲と同じ値のウィンドウを備えるウィンドウ電圧監視ICを使用した場合の例です。(b)ではコア電圧の許容範囲内にウィンドウを設定しています。
図4. 閾値の精度に関する考慮。(a)はコア電圧の許容範囲と同じ値のウィンドウを備えるウィンドウ電圧監視ICを使用した場合の例です。(b)ではコア電圧の許容範囲内にウィンドウを設定しています。

閾値の精度の影響

閾値の精度が異なる2つのウィンドウ電圧監視ICによって、同じコア電圧を監視するケースについて考えます。精度が高いウィンドウ電圧監視ICの実際のUV/OVの閾値は、精度が低い方の実際の閾値と比べて、期待されるUV/OVの閾値に対する偏差が少なくなります。図5(a)に示したのは、閾値の精度が低い方のウィンドウ電圧監視ICを使用した場合の例です。ご覧のように、コア電圧がUV/OVの閾値で設定したウィンドウ内に位置する場合でも、リセット信号がアサートされることがあります。つまり、閾値の精度が低いと、実質的なウィンドウの幅が狭くなることに注意してください。アプリケーションで使用する電源の精度が低く、高いレギュレーション性能が得られないケースもあるでしょう。その場合に、閾値の精度が低いウィンドウ電圧監視ICを適用すると、システムがより敏感になり、発振しやすくなる可能性があります。図5(b)に示したのは、閾値の精度が高いウィンドウ電圧監視ICを使用した場合の例です。図5(a)と比較して、より広いウィンドウを使用できることがわかります。その結果、システムがより安定した状態で動作するようになり、より高い性能が得られます。

Figure 5. Allowable power supply window and reset response (a) with low threshold accuracy and (b) with high threshold accuracy. 図5. ウィンドウとリセット信号の関係。(a)は閾値の精度が低いウィンドウ電圧監視ICを使用した場合、(b)は閾値の精度が高いウィンドウ電圧監視ICを使用した場合の例です。
図5. ウィンドウとリセット信号の関係。(a)は閾値の精度が低いウィンドウ電圧監視ICを使用した場合、(b)は閾値の精度が高いウィンドウ電圧監視ICを使用した場合の例です。

図6に示したのは、閾値の精度の異なる2つのウィンドウ電圧監視ICを使用した場合のより具体的な例です。ここでは、±5%の許容範囲で2.5Vのコア電圧を監視するケースを考えます。なお、この例で使用しているウィンドウは、実際に利用できるオプションではない可能性があります。ここでは、閾値の精度について説明することを目的としてこのウィンドウを使用しています。ウィンドウ電圧監視ICの閾値の精度は、図6(a)と図6(b)に示すように、それぞれ±1.5%と±0.3%です。図6(a)に示したように、閾値の精度が±1.5%である場合、誤動作の領域ができるのを回避するためには±3.5%のウィンドウを選択するのが最適です。そうすると、ウィンドウの有効な範囲は100mVまで狭まってしまいます。一方、閾値の精度が±0.3%の場合、図6(b)に示したように、誤動作のリスクを回避しつつ有効な範囲を最大化することが可能なのは±4.7%のウィンドウを設定した場合です。そうすると、ウィンドウの有効な範囲は220mVまで広がります。つまり、有効な範囲が2倍以上に改善しています。このように、閾値の精度は非常に重要な意味を持ちます。

Figure 6. Effective operating power supply window with (a) ±1.5% threshold accuracy and (b) ±0.3% threshold accuracy. 図6. 閾値の誤差の影響。(a)は閾値の精度が±1.5%の場合、(b)は閾値の精度が±0.3%の場合の例です。
図6. 閾値の誤差の影響。(a)は閾値の精度が±1.5%の場合、(b)は閾値の精度が±0.3%の場合の例です。

図6に示した各値は、「WindowVoltage Monitor Calculator」というツール(スプレッド・シート)を使用することで計算できます。このツールは、ウィンドウ電圧監視ICの様々なパラメータについて理解したり、可視化したりすることに役立ちます。また、このツールを使用すれば、ウィンドウ電圧監視ICの仕様が電源のウィンドウをはじめとする設計上の要件に適合しているか否かを確認できます。このツールは、「MAX16138」、「MAX16191」、「MAX16193」、「MAX16132/MAX16133/MAX16134/MAX16135」、「MAX16137」の製品ページからダウンロードできます。

コア電圧の低下に対応するために、ウィンドウ電圧監視ICのアーキテクチャや性能は継続的に改善されています。現在では、閾値の精度として±1.5%~±0.3%という値が実現されています。また、より高い精度を得るために、公称監視電圧とウィンドウが出荷時に調整されている製品も提供されています25。MAX16193は、閾値の精度が±0.3%でデュアルチャンネルのウィンドウ電圧監視ICです。この製品は、2024年の時点で、様々な温度にわたって業界最高レベルの閾値の精度を達成しています。また、出荷時に±2%~±5%に調整済みのウィンドウも用意されています。そのため、産業用アプリケーションや車載アプリケーションなどの様々な電源電圧と許容範囲に対応することが可能です。図7に示したのは、MAX16193の代表的なアプリケーション回路例です。入力チャンネル1(IN1)は、閾値の範囲が0.6V~0.9Vの低いコア電圧を±0.3%の精度で監視します。一方、入力チャンネル2(IN2)は、閾値の範囲が0.9V~3.3Vの高いシステム電圧を±0.3%の精度で監視するために使用します。

Figure 7. Typical application circuit of MAX16193, industry’s window supervisor with the highest threshold accuracy across temperature monitoring the core and input/output supply voltage of an MCU. 図7. MAX16193の代表的なアプリケーション回路例。このウィンドウ電圧監視ICは、全温度範囲にわたり業界最高レベルの閾値の精度を達成しています。この回路により、マイクロコントローラのコア電圧とI/O電圧を監視することができます。
図7. MAX16193の代表的なアプリケーション回路例。このウィンドウ電圧監視ICは、全温度範囲にわたり業界最高レベルの閾値の精度を達成しています。この回路により、マイクロコントローラのコア電圧とI/O電圧を監視することができます。

MAX16193の閾値の精度は、-40℃~125℃の温度範囲全体にわたって仕様を満たします。図8(a)と図8(b)を見ると、2つの入力IN1とIN2において、広い温度範囲にわたり、高い閾値の精度が得られていることがわかります。繰り返しになりますが、このICは最低動作温度から最高動作温度までの範囲で高い精度を保証しています。他のウィンドウ電圧監視ICは、特定の範囲でしか最適な性能を発揮することはできません。

Figure 8. UV and OV threshold accuracy plots over temperature for (a) IN1 and (b) IN2. 図8. 閾値の精度の温度特性。(a)はIN1、(b)はIN2におけるUV/OVの閾値の精度をプロットしたものです。
図8. 閾値の精度の温度特性。(a)はIN1、(b)はIN2におけるUV/OVの閾値の精度をプロットしたものです。

まとめ

プロセス技術の進化に伴い、大規模ICではより低いコア電圧が使用されるようになりました。その目的は、消費電力を削減しつつ、速度などに関する最適化の要求に応えることです。結果として、大規模ICにおけるコア電圧の許容範囲は次第に狭くなりました。ウィンドウ電圧監視ICは、そうした大規模ICが抱える深刻な課題を解消するためのものです。但し、大規模ICのコア電圧の許容範囲に対して最適なウィンドウを設定するためには、ウィンドウ電圧監視ICの閾値の精度について十分に理解しておかなければなりません。閾値の精度が高ければ、大規模ICのコア電圧に対して最適なウィンドウを設定できます。その結果、不要なリセット動作が頻繁に生じたり、システムが発振したりするのを防止することが可能になります。

※初出典 2025年 TECH+(マイナビニュース)

参考資料

1 Nathan Enger「FPGAの電源に対する“世話と餌やり”――正しい方法とその理由」Analog Dialogue、Vol. 52、No. 11、2018年11月

2 Camille Bianca Gomez、Noel Tenorio「適切なウィンドウ電圧監視ICを選択し、システム設計の最適化を図る」Analog Dialogue、Vol. 58、No. 3、2024年9月

3 Mohammed Mahaboob Basha、Kota Venkata Ramanaiah、Palakolanu Ramana Reddy「Design of Near Threshold 10T-Full Subtractor Circuit for Energy Efficient Signal Processing Applications(ニア・スレッショルドの10トランジスタ全減算器回路の設計、エネルギー効率の高い信号処理アプリケーションに向けて)」International Journal of Image,Graphics and Signal Processing、2017年12月

4 Noel Tenorio「電圧監視ICを使いこなす - 電源のノイズやグリッチの影響を回避するには?」Analog Dialogue、Vol. 57、No. 4、2023年11月

5 「Voltage Monitors and Supervisors Product Highlights(電圧モニタ/監視製品のハイライト)」Analog Devices

6 「Keep the Product Working-Microprocessor Supervisors Offer Big Insurance in Small Packages(製品の動作を維持する - 小型パッケージのマイクロプロセッサ用監視回路が心強い保険に)」Analog Devices Inc.、2001年11月

7 Pinkesh Sachdev「FPGAパワー・システム・マネージメント」Analog Devices、2020年3月

8 Caroline Hayes「Designing Supply Voltage Supervision for Multirail Boards(マルチレールのボードに適した電源電圧の監視回路を設計する)」Electronic Specifier、 2015年10月

著者

Noel Tenorio

Noel Tenorio

Noel Tenorioは、アナログ・デバイセズ(フィリピン)のプロダクト・アプリケーション・マネージャです。複数の市場を対象とし、電源監視用の高性能IC製品を担当しています。入社は2016年8月。その前は、スイッチング電源の研究開発に携わる企業に設計エンジニアとして6年間所属していました。バタンガス州立大学で電子/通信工学の学士号を取得。マプア工科大学ではパワー・エレクトロニクスを専攻し、電気工学の大学院学位と電子工学の理学修士号を取得しました。監視IC製品を担当する前は、熱電冷却器で使用するコントローラ製品のアプリケーション・サポートを担当していました。

Camille Bianca Gomez

Camille Bianca Gomez

Camille Bianca Gomezは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション・エンジニアです。2022年3月に入社しました。現在は、マルチマーケット・パワー・イーストに所属。高性能の監視製品のサポートと製品開発を担当しています。以前は、自動車メーカーで設計エンジニアとして3年半勤務していました。デ・ラ・サール大学ラグナ校で電子工学の学士号を取得しています。