アプリケーションに最適な MEMS 加速度センサーの選択【Part 2】

はじめに

アプリケーションには、それぞれに異なる要件が存在します。各アプリケーションに最適な加速度センサーを選択するのは、必ずしも容易なことではありません。メーカーごとに加速度センサーのデータシートの内容が大きく異なっていて、何が最も重要な仕様なのかわからなくなってしまうことがあるからです。本稿では、Part 1 とPart 2 の 2 回に分けて、その選択方法について説明します。Part 2 となる今回は、ウェアラブル機器、状態基準保全、IoTの各アプリケーションに適した加速度センサーの仕様と機能について説明します。

ウェアラブル機器

主要な要件: 低消費電力、小型、消費電力の削減に有効な機能の集積、使いやすさ

バッテリ駆動のウェアラブル・アプリケーションに使用される加速度センサーについては、消費電力が少ないことが最も重要な仕様になります。バッテリの寿命をできるだけ延伸できるように、消費電流はマイクロアンペアのレベルであることが求められます。その他の主要な要件としては、サイズが挙げられます。また、予備の A/D コンバータ(ADC)チャンネル、アプリケーションにおける電源の管理/機能を支援する多段 FIFO(First In, FirstOut)といった機能を集積していることも要件の 1 つになります。このような理由から、一般にウェアラブル・アプリケーションには、MEMS(Micro Electro MechanicalSystems)ベースの加速度センサーが使用されます。表 1は、いくつかのバイタル・サイン・モニタリング(VSM:Vital Sign Monitoring)アプリケーションと、それぞれに対応する設定をコンテキスト別にまとめたものです。一般に、ウェアラブル・アプリケーションに使用される加速度センサーは、モーションの識別、自由落下の検出、システムの起動/停止/スリープの制御につながるモーションの有無の判定、心電図(ECG)などの VSM 用データ・フュージョンの支援を行います。また、ワイヤレス・センサー・ネットワークや IoT(Internet of Things)アプリケーションでも消費電力が少ないことが必須の要件になることから、同様の加速度センサーが使用されます。

表 1. VSM 向けウェアラブル・アプリケーションにおけるモーション検出の要件
  歩数計 落下 光学式心拍計 タップ(SW) スリープ モーションの切り替え ECG ADXL362/ADXL363
g の設定 2 g 8 g 4 g または 8 g 8 g 2 g 2 g 4 g ~ 8 gg 2 g ~ 8 g
出力データ・レート〔Hz〕 100 400 50 未満 400 12.5 6 100 未満 400
消費電力 1.8 µA 3 µA   3 µA 1.5 µA 0.3 µA   10 nA ~ 3 µA
FIFO(サンプル・セットまたは時間) 150 段数が多いほど良い 1 秒 段数が多いほど良い 20 なし 1 秒 512 秒 または13 秒
ADC なし なし あり なし なし なし あり なし/あり
ノイズ〔mg/√Hz 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 175 µg ~ 500 µg
データの収集 24/7 24/7 散発的 24/7 動作時   運動中に連続的に すべて
必須の要件 RSS、8 ビット トリガ・モードの FIFO   トリガ・モードの FIFO ノイズが小さい MCU のオフ   RSS を除くすべて

超低消費電力であることが求められるアプリケーションでは、加速度センサーを選択する際、データシートに記載されている消費電力で使用できる機能を確認することが不可欠です。確認すべき重要な事柄の 1 つは、帯域幅とサンプル・レートが、有効な加速度データを測定できないレベルまで低減されていないかどうかということです。アナログ・デバイセズと競合する企業の製品の中には、1 秒おきに電源の起動/遮断を行うことで消費電力の削減を実現しているものがあります。ただ、そうすると実質的なサンプリング・レートが抑えられ、重要な加速度データを見逃してしまうことになります。そうした製品を選択した場合、人間の一連の動きをリアルタイムに測定するために、結局は消費電力が大きく増える条件で動作させなければならなくなるのです。「ADXL362」と「ADXL363」では、アンダーサンプリングによる入力信号の折返しは発生しません。すべてのデータ・レートでセンサーの全帯域幅に対するサンプリングを行います。図1 に示すように、消費電力はサンプル・レートに応じて直線的に変化します。ここで注目すべきは、これらの製品がわずか 3 µ A に消費電流を抑えつつ、最大 400 Hz でのサンプリングが可能であるということです。データ・レートが高いことから、タップ/ダブルタップの検出など、ウェアラブル機器のインターフェースにより便利な機能を追加することができます。サンプリング・レートを 6 Hz まで落とし、機器を手に取った時やモーションを検出した時に機器を起動することにより、平均消費電流を 270 nA に削減することができます。このような特徴から、ADXL362/ADXL363 は、簡単にはバッテリを交換できないアプリケーションにとっても魅力的な製品となります。

Figure 1
図 1. ADXL362 の消費電流と出力データ・レートの関係

アプリケーションによっては、加速度センサーを使って 1 秒間に 1 回から数回加速度を記録できればよいというものもあります。そのようなアプリケーション向けに、ADXL362/ADXL363 は、消費電流がわずか 270 nAのウェークアップ・モードを備えています。ADXL363は、3 軸 MEMS 加速度センサー、温度センサー(一般的なスケール係数は 0.065°C)、外部信号を同期変換するための ADC 入力を備えています。また、3 mm × 3.25mm × 1.06 mmという小型/薄型のパッケージを採用しています。加速度と温度のデータは、512 サンプルのマルチモード FIFO バッファに最大 13 秒分保存できます。

アナログ・デバイセズは、バッテリとスペースの面で制約のあるアプリケーションの例として VSM 用の時計を開発しました(図 2)。これは、ADXL362 をはじめとするアナログ・デバイセズの超低消費電力製品の能力を実証するためのデモを目的としたものです。

Figure 2
図 2 . デモ用に開発された VSM 用の時計。アナログ・デバイセズの一連の製品を使用することにより、消費電力が非常に少なく、小型で軽量な製品を実現できることを示すためのものです。

ADXL362 は、モーションのトラッキングに加え、他の測定において生じた不要な成分を除去するためのモーションのプロファイリングにも使用されます。

状態基準保全(CBM)

主要な要件: 低ノイズ、広帯域幅、信号処理機能、測定レンジ、低消費電力

状態基準保全(CBM: Condition Based Monitoring)は、異常が生じる可能性を検出して提示することを目的としたものです。この目的に向けて、機械の振動などのパラメータを監視します。CBM は予知保全の主要な要素でもあります。その手法は、タービン、ファン、ポンプ、モーターなどの回転機械に一般的に適用されています。CBM で使用される加速度センサーについては、ノイズが小さいことと、帯域幅が広いことが主要な要件になります。本稿執筆の時点で、帯域幅が 3.3 kHz を超える MEMS 加速度センサーを提供する競合企業はほとんど存在しません。一部の専門メーカーから最大 7 kHz の帯域幅の製品が提供されているだけです。

インダストリアル IoT の進化に伴い、超低消費電力のワイヤレス技術を活用し、ケーブル配線を減らすことに注目が集まっています。MEMS 加速度センサーには、サイズ、重量、消費電力、インテリジェントな機能を集積可能といった面で、圧電式の加速度センサーを上回るメリットがあります。ただ、CBM に最も一般的に適用されているのは圧電式の加速度センサーです。なぜなら、圧電式の加速度センサーは、直線性と S/N 比に優れ、高温での動作が可能だからです。しかも、帯域幅は 3 Hz ~ 30 kHzと広く、数百 kHz に及ぶ製品もあります。ただし、圧電式の加速度センサーは DC 付近での性能が高くありません(図 3)。特に風力タービンのような回転数(RPM)の低いアプリケーションでは、DC から低周波までの範囲でかなり多くの異常が発生する可能性があります。また、圧電式のセンサーは、その機械的な性質から MEMS加速度センサーのように量産することはできません。加えて、インターフェースと電源の面で MEMS 加速度センサーよりもコストがかかり、汎用性に劣ります。

容量性の MEMS 加速度センサーは、集積度と機能の面で圧電式の加速度センサーよりも優れています。セルフテスト、ピーク加速、スペクトル・アラームなどの機能に加え、FFT の機能やデータ用のストレージ機能も備えます。また、最大 10000 g の耐衝撃性と DC 応答を備え、小型かつ軽量です。「ADXL35x」ファミリーの「ADXL354/ADXL355」と「ADXL356/ADXL357」は、ノイズが非常に小さく、温度に対する安定性に優れていることから、状態監視アプリケーションに非常に適しています。しかし、帯域幅がネックとなって、診断に向けたより詳細な解析は実行できません。確かに、帯域幅は限られているのですが、重要な測定に適用可能な製品でもあります。例えば、装置が非常に低速で回転する風力タービンの状態監視では、DC までの応答が必要になるからです。

Figure 3
図 3 . 回転装置の異常振動成分

ADXL100x」は、新たな 1 軸加速度センサー・ファミリーです。産業分野の状態監視向けに最適化されており、最大 50 kHz という広い測定帯域幅、最大 ±100 gの測定レンジ(以下、g レンジ)、超低ノイズ性能を特徴とします。これらの性能は、圧電式の加速度センサーに匹敵します。アナログ・デバイセズが提供する容量性の MEMS 加速度センサーと圧電式の加速度センサーの詳細比較については、「性能を向上させ、さらに応用範囲を広げたMEMS加速度センサー」という記事をご覧ください。

図 4 に示したのは、「ADXL1001/ADXL1002」の周波数応答です。回転機械で生じる異常は、スリーブ・ベアリングの損傷、位置ずれ、不平衡、擦れ、緩み、歯車の異常、ベアリングの摩耗、キャビテーションなどがほとんどです。これらは、すべて状態監視用の加速度センサー・ファミリーであるADXL100xの測定範囲内で発生します。

Figure 4
図 4. ADXL1001/ADXL1002 の周波数応答。高周波(5 kHz 以上)の部分で振動性の応答が見られます。高い精度を得るために、ADXL1002 のパッケージを基準とするレーザー振動計コントローラを使用しています。

一般に、圧電式の加速度センサーはインテリジェントな機能は備えていません。それに対し、ADXL100x のような容量性の MEMS 加速度センサーには、オーバーレンジの検出回路が組み込まれています。この回路により、規定された g レンジの約 2 倍以上のオーバーレンジが生じるとアラートが発せられます。インテリジェントな測定/監視システムを開発する場合には、この機能が不可欠です。ADXL100x は、インテリジェンスを適用して内部クロックを無効にすることにより、モーターが故障した場合など、オーバーレンジの状態が持続している状況下でセンサー素子を保護するように機能します。それによりホスト・プロセッサの負荷が軽減され、センサー・ノードにインテリジェンスを追加で適用することが可能になります。状態監視とインダストリアル IoT のソリューションでは、こうした機能が強く求められます。

容量性の MEMS 加速度センサーは、性能の面で著しい進化を遂げています。実際、ADXL100x は、これまで圧電式のセンサーが使われてきた分野に進出を果たし、そのシェアを侵食しつつあります。先ほど触れた ADXL35xは、業界で最高水準の超低ノイズ性能を達成しています。そのため、こちらも CBM アプリケーションのセンサーを置き換えつつあります。CBM に対する新しいソリューションやアプローチは、IoT のアーキテクチャと組み合わせられることで、より優れたセンシング、接続性、ストレージ機能、解析機能を備えたシステムへと収束しています。アナログ・デバイセズが提供する最新の加速度センサーを使用すれば、エッジ・ノードにおけるよりインテリジェントな監視機能を実現可能になります。それらの製品は、工場の管理者が完全統合型の振動監視/解析システムを実現できるよう支援しています。

この種の MEMS 加速度センサーをさらに補強するのが、CBM 向けの第 1 世代サブシステム「ADIS16227」と「ADIS16228」です(図 5)。これらの振動解析システムは、半自律型、完全統合型、広い帯域幅を特徴とします。このシステムは、6 つのスペクトル帯域にわたるプログラマブルなアラーム機能、警告と故障について定義するための 2 レベルの設定機能、調整が可能な応答遅延によるフォールス・アラームの低減機能、ステータス・フラグ付きの内部セルフテスト機能などを備えています。各軸に対する 512 ポイント/実数値の FFT や、FFT の平均化といった周波数領域の処理によって、ノイズ・フロアの変動を抑え、より高い分解能を実現しています。完全統合型の振動解析システムである両製品を利用すれば、設計時間を短縮し、コストを抑え、プロセッサに対する要件とスペースに関する制約を緩和することができます。そのため、CBM アプリケーションに対する理想的な選択肢となります。

Figure 5
図 5 . F F T ベースの解析機能とストレージ機能を備えるデジタル 3 軸振動センサー

IoT/ワイヤレス・センサー・ネットワーク

主要な要件: 低消費電力、インテリジェントな節電と測定を可能にする機能の集積、小型、多段 FIFO、適切な帯域幅

IoT がいかに有望なものであるかは、十分に理解されていると言えるでしょう。その潜在的な能力を現実のものとして活用するためには、今後数年間のうちに無数のセンサーを配備する必要があります。それらの大半は、屋根、街灯、塔、橋の上、重機の内部など、アクセスしにくい場所やスペースに制約のある場所に取り付けられるはずです。それにより、スマート・シティ、スマート農業、スマート・ビルといった概念が具現化されるのです。ただ、そうした制約が存在することから、多くのセンサーにはワイヤレス通信の機能を付加する必要があります。また、電源としてはバッテリを使用したり、何らかの形のエナジー・ハーベスティングを利用したりしなければならなくなります。

IoT アプリケーションでは、クラウドやローカルのサーバーにデータを送信し、保存したり解析したりする必要があります。その際、ワイヤレスで送信するデータの量を最小限に抑えることが、この分野のトレンドとなっています。すべてのデータをワイヤレスで送信するといった方法では、多くの帯域幅を消費してしまい、コストが増加するからです。センサー・ノードでインテリジェントな処理を行うようにすれば、有用なデータとそうでないデータを区別することができます。それにより、大量のデータを送信する必要性を最小限に抑え、帯域幅とコストを低減することが可能になります。そのためには、消費電力が非常に少ない状態を維持しつつ、センサーにインテリジェントな機能を付加する必要があります。図6 に IoT の分野で使用される標準的なシグナル・チェーンを示しました。アナログ・デバイセズは、ゲートウェイを除くすべてのブロック向けのソリューションを提供しています。すべてのソリューションでワイヤレスでの接続が必要になるというわけではありません。多くのアプリケーションでは、RS-485、4 ~ 20 mA、産業用 Ethernetといった有線のソリューションが引き続き使われます。

ノードにインテリジェンスな機能を付加すれば、有用なデータのみをシグナル・チェーンを介して送信することが可能になります。それにより、電力と帯域幅を節約できます。CBM において、センサー・ノードでローカルに実行される処理の量は、複数の要因に左右されます。例えば、機械のコスト/複雑さと、状態監視システムのコストを比較するといったことが必要になります。送信するデータは、規定された範囲を外れたことを通知するアラームのデータだけである場合もあれば、データ・ストリームである場合もあります。ISO 10816 などの標準規格では、定められたサイズの機械の中で、特定の回転速度で動作するものに対する警告の条件が規定されています。その種の規格に準拠するシステムでは、振動速度があらかじめ設定されていた閾値を超えると、アラームの信号が出力されます。ISO 10816では、ワイヤレス・センサー・ネットワークのアーキテクチャを実装しやすいものにすることを 1 つの目的としています。その目的に向けて、測定の対象となるシステムとその回転要素であるベアリングの耐用年数を最適化し、送信するデータの量を最小限に抑えられるようにするための規定を設けています。

ISO 10816 に準拠するアプリケーションで使用される加速度センサーに対しては、g レンジが 50 g 以下であることと、低周波領域においてノイズが少ないことが求められます。この種のアプリケーションにおいて、加速度センサーは、加速度のデータを定期的に積分し、mm/秒(実効値)を単位とする 1 つの速度ポイントを取得するために使われます。加速度センサーからのデータが低周波領域のノイズを含むものであった場合、それらを積分した結果、速度データを出力する際に誤差が直線的に増加する恐れがあります。ISO の規格では、測定範囲は 1Hz ~ 1 kHz と規定されていますが、個々のユーザーが0.1 Hz まで積分したいと考える場合もありえます。電荷の結合をベースとする圧電式の加速度センサーは、低周波領域におけるノイズ・レベルが高いという欠点を持ちます。そのため、0.1 Hz といった範囲を対象として測定を行うのは困難でした。アナログ・デバイセズの次世代加速度センサーでは、DC までの範囲でノイズ・フロアが低く維持されます。これを使用すれば、制約要因となるのは、シグナル・コンディショニングに使用される電子部品の 1/f ノイズだけです。これは、慎重に設計すれば 0.01 Hz までの範囲を対象として抑えることができます。MEMS 加速度センサーは、圧電式のセンサーよりも小型で低コストです。そのため、装置のコストを抑えなければならない CBM アプリケーションにも適用できますし、それ以外の組み込みソリューションで使用することも可能です。

Figure 6
図 6 . アナログ・デバイセズが提供するエッジ・センサー・ノード向けのソリューション

アナログ・デバイセズは、さまざまな種類の加速度センサーを提供しています。その中には、可能な限り消費電力を抑えることが求められる、インテリジェントなセンサー・ノードでの使用に理想的な製品もあります。それらの製品は、バッテリの寿命を延伸し、使用する帯域幅を少なく抑えてコストを削減するためのあらゆる機能を備えています。IoT アプリケーションのセンサー・ノードでは、消費電力が少ないこと(ADXL362、ADXL363)と、エネルギーの管理や特定のデータの検出を可能にする豊富な機能を搭載すること(「ADXL372」、「ADXL375」)が主要な要件になります。ここで言う特定のデータとしては、閾値を超える動作、周波数プロファイルに対するアラーム、加速度のピーク値、極端に長いアクティブ/インアクティブの状態などに対応するデータが挙げられます。

これらの加速度センサーは、加速度のデータを FIFO に保存してアクティビティ・イベントの発生に備えて待機しつつ、システム全体の電源をオフの状態に保つことができるようになっています。衝撃に対応するイベントが発生した場合、そのイベントより前に収集されたデータは FIFO 内で保持されます。FIFO を備えていない場合、イベントの前に発生したサンプル・データを取得するには、加速度の信号をプロセッサで連続的にサンプリングして処理しなければなりません。その結果、バッテリを著しく消耗してしまうことになります。ADXL362/ADXL363 の FIFOは、13 秒分のデータを保存することができます。そのため、アクティビティ・トリガの前に発生していたイベントについて、明確に把握することが可能です。間欠動作を利用するのではなく、すべてのデータ・レートで帯域幅全体に対してサンプリングを行い、入力信号の折返しを防ぐアーキテクチャを採用しています。なおかつ、消費電力を非常に少なく抑えています。

アセット・ヘルス・モニタリング

主要な要件: 低消費電力、インテリジェントな節電と測定を可能にする機能の集積、小型、多段 FIFO、適切な帯域幅

アセット・ヘルス・モニタリング(AHM: Asset HealthMonitoring)とは、価値の高いアセット(資産)に問題が生じていないかどうかを監視するというものです。アセットとしては、静的なものもあれば動的なものもあります。また、出荷用のコンテナに積み込まれた商品、遠隔地にあるパイプライン、民間人/軍人、高密度のバッテリなど、アセットの中には衝撃の影響を受けやすいものがあります。IoT は、アセットの機能や安全性に影響を及ぼす可能性のある事象について報告するための理想的なインフラです。AHM に使用されるセンサーについては、消費電力を非常に少なく抑えることが重要な要件になります。また、アセットに対する g の大きい衝撃や衝撃に関するその他のイベントを測定する能力を備えることも重要な要件です。このようなセンサーをバッテリ駆動のアプリケーションや可搬型のアプリケーションに組み込む際には、サイズ、オーバーサンプリング、高周波成分を適切に処理するためのアンチエイリアシング(折返し誤差防止)機能といった主要な仕様について検討しなければなりません。また、ホスト・プロセッサのスリープ時間をできるだけ長くとるとともに、割込みによって駆動されるアルゴリズムを使って衝撃のプロファイルを取得できるようにすることで、バッテリの寿命を延伸するインテリジェントな機能についても考慮する必要があります。

ADXL372は、±200 g に対応する 超低消費電力の MEMS加速度センサーです。AHM 向けの IoT アプリケーションにおけるインテリジェントなエッジ・ノードをターゲットとしています。特に AHM の市場を対象とし、システム設計の簡素化とシステム・レベルの節電を目的として開発された複数の機能を備えています。g の大きい衝撃などのイベントは、広い周波数範囲にわたって加速度成分に大きな影響を及ぼします。このようなイベントについて正確に把握するには、広い帯域幅が不可欠です。不十分な帯域幅で測定を行うと、イベントの大きさが実質的に抑えられた状態で記録が行われ、不正確な結果しか得られないからです。したがって、データシートでは、このパラメータについて十分に確認する必要があります。また、サンプリング・レートについては、ナイキスト基準が満たされていない製品も存在します。ADXL372 と ADXL375 には、詳細な解析を行えるようにするために、ホスト・プロセッサが介入することなく衝撃のプロファイル全体を把握できるようにするためのオプションが用意されています。これは、衝撃に対応する割込みレジスタを加速度センサー内部の FIFO と組み合わせて使用することによって実現されます。図 7を見ると、トリガになるイベントが生じる前に衝撃のプロファイル全体を検出するためには、十分な量の FIFOが必要であることがわかります。衝撃に対応するイベントについて詳細な解析を行うには、相応の量のデータが必要になります。FIFO の容量が不足していると、必要な量のデータを記録/保持することができません。

Figure 7
図 7. 衝撃に対応するプロファイル。正確に取得するためには十分な容量の FIFO が必要です。

ADXL372 は、消費電力を非常に少なく抑えつつ、最高3200 Hzの帯域幅で動作します。帯域外の成分の抑制には、フィルタの急峻なロールオフ特性が有効です。このことから、ADXL372 には アンチエイリアシング・フィルタとして 4 極のローパス・フィルタが組み込まれています。アンチエイリアシング・フィルタが存在しなければ、出力データ・レートの 1/2 を超える周波数の入力信号は、すべて測定の対象となる帯域に折り返す可能性があります。つまりは、正確な測定が行えないということです。4 極のローパス・フィルタについては、その帯域幅をユーザーが選択できるようになっています。このことは、ユーザーのアプリケーションに対して最大限の柔軟性が提供されるということを意味します。

ADXL372は、インスタント・オン衝突検出の機能を備えています。これは、消費電力を極めて少なく抑えつつ、閾値を超える衝撃イベントを捉えるように同 IC を構成するための機能です。この加速度センサーは、衝撃のイベントが発生すると、衝撃のプロファイルを正確に把握するためにフル測定モードに切り替わります(図 8)。

Figure 8
図 8 . デフォルトの閾値を使用するインスタント・オン・モード

衝撃に対応するイベントが発生した際、加速度のピーク値だけを記録できればよいアプリケーションも存在します。それだけの情報で十分な用途もあるということです。ADXL372 の FIFO には、各軸の加速度のピーク値を保存する機能があります。そのFIFO には、最長で1.28 秒(400 Hz の出力データ・デートで、1 軸のサンプルを 512 個)にわたり連続してデータを保存することが可能です。出力データ・レートが 3200 Hz、3 軸のサンプルを 170 個扱うとすれば、50 ミリ秒にわたってデータを格納できることになります。これであれば、衝撃の標準的な波形を十分に取得できます。イベントのプロファイル全体を必要とするわけではないアプリケーションであれば、加速度のピーク値の情報を保存するだけで済みます。そのため、FIFO に対する読み出し時間の間隔を大幅に延長することができます。その結果、消費電力の削減が図れます。FIFO に 512 個分のサンプルを格納できるということは、以下のような条件に対応できるということを意味します。

  • 1 軸当たり 170 サンプルで、3 軸のデータを同時に取得
  • 1 軸当たり 256 サンプルで、2 軸のデータを同時に取得(軸はユーザーが選択可能)
  • 1 軸のデータを 512 サンプルにわたって取得
  • 1 軸のデータを 512 サンプルにわたって取得衝撃のイベントのピーク・データ(x、y、z)を 170セット取得

FIFO を適切に使用すれば、加速度センサーが自律的にデータを収集している間、ホスト・プロセッサを長時間スリープの状態にすることができます。それにより、システム・レベルで消費電力を削減することが可能になります。また、データの収集に FIFO を使用すれば、ホスト・プロセッサの負担が軽減されます。その結果、ホスト・プロセッサによって他のタスクを実行できるようにもなります。

高い測定性能を備える加速度センサーは他にも提供されています。しかし、それらの製品は、帯域幅が狭く、消費電力が多いので、AHM や SHM( Structural HealthMonitoring: 構造ヘルス・モニタリング)向け IoT アプリケーションのエッジ・ノードには適していません。製品によっては、低消費電力の動作モードが用意されていることもあります。ただ、一般的にはそれらのモードでは帯域幅が狭く、正確な測定が行えません。ADXL372であれば、AHM/SHM に対応可能な性能を備えているため、そうしたアプリケーションに対する有望な選択肢になるでしょう。

まとめ

アナログ・デバイセズは、あらゆるアプリケーションに対応できるよう、さまざまな種類の加速度センサーを提供しています。本稿では取り上げていませんが、推測航法、姿勢計測(AHRS)、慣性計測、自動車の安定化/安全性の確保、医療機器の調整機能などのアプリケーションも想定しています。当社の次世代 MEMS 加速度センサーは、ノイズと消費電力が少なく、安定性に優れ、温度が変化しても高い性能が得られます。また、補償を最小限に抑えることも可能です。システムの性能を高めつつ、設計の複雑さを緩和するためのインテリジェントな機能を備えていることを求めるアプリケーションに対しては、理想的なソリューションになります。アナログ・デバイセズは、アプリケーションに最適な製品を選択できるようにするために、すべての関連情報をデータシートに記載しています。本稿で紹介したものを含むすべての製品は、即座に評価や試作に使用できます。詳細については、analog.com/jp/MEMSをご覧ください。

参考資料

著者

Chris Murphy

Chris Murphy

Chris Murphy は、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。アイルランド ダブリンに拠点を置く欧州中央アプリケーション・センターに所属しています。2012年の入社以来、モーター制御や産業オートメーションに関連する製品の設計サポートを担当しています。電子工学の修士号とコンピュータ工学の学士号を取得しています。