自動校正機能を備える 導電率測定システム

はじめに

環境に対する関心の高まりを受け、水質にはより厳しい目が向けられるようになりました。その結果、現在では水質の監視に関連するセンサーやシグナル・コンディショニング回路が数多く開発されるようになっています。水質は、細菌の数、pH値、化学物質の含有量、濁度といった項目で評価されます。これらに加え、全ての水溶液はある程度の導電性を有することから、導電率も重要な指標の1つとして位置づけられています。塩、酸、塩基などの電解質を純水に加えると、抵抗率が低下し、導電率が高まります。本稿では、この導電率の測定方法について説明します。

純水は電解質をほとんど含まないため、電圧を印加してもわずかしか電流は流れません。つまり、導電率が低いということになります。一方、試料に大量の電解質が含まれている場合には、導電率が高くなり、より多くの電流が流れます。

電気の伝導度と抵抗は互いに逆数の関係にあります。そのため、電気の伝導性については、より理解が容易な抵抗によって考える方法が一般的です。材料や液体の抵抗率ρは、立方体の材料の対向面に完全に電気を通す接触面がある場合の抵抗値であると定義されます。それ以外の形状の抵抗Rは、次の式で計算できます。

Equation 1

ここで、L は接触面間の距離、A は接触面の面積です。

抵抗率ρの単位はΩmですが、慣例的にΩcmもよく使用されます。抵抗率が1 Ω c mの材料の場合、1cm×1cm×1cmの立方体の対向面を接触面にすると、その抵抗値は1 Ωになります。

上述したように、電気伝導度と抵抗は互いに逆数の関係にあります。つまり、導電率は上記の抵抗率の逆数として表されます。電気伝導度の単位としてはS(ジーメンス)、導電率の単位としてはS/cm、mS/cmまたはμS/cmがよく使用されます。

本稿では、S/cm、mS/cmまたはμS/cmの単位で測定された導電率を表す一般的な記号としてYを使用することにします。ただし、多くの場合、単位の中の距離の部分は便宜上省略します。つまり、導電率を単にS、mSまたはμSで表すということです。

導電率セルによる導電率の測定

図1に示すように、導電率の測定システムでは、溶液に浸されたセンサーに接続された電子回路によって測定が行われます。この用途に使用されるセンサーは導電率セル(以下、セル)と呼ばれています。

Figure 1
図1 . 導電率セルと電子回路(EVAL - CN0359 -EB1Z)

このシステムでは、電子回路によって交流電圧を印加し、流れる電流を測定することで導電率を算出します。導電率は温度係数が大きい(最大4% /℃)ので、回路に組み込まれた温度センサーを使って標準的な温度(一般に25℃)に対応するように測定値を調整します。試料が溶液である場合には、水の導電率の温度係数も考慮する必要があります。温度を正確に補償するためには、必ず2つ目の温度センサーと補償回路が使用されます。

通常、接触式のセンサーは互いに絶縁された2つの電極を使って構成されます。一般に電極には316系ステンレス鋼、チタンパラジウム合金、グラファイトが使用され、セル定数が既知の値になるようにサイズと距離が調整されます。セル定数が1.0/cmの場合、2つの電極の面積がそれぞれ1cm2であるとすると、互いの間の距離は1cmとなります。セル定数は、測定システムの稼働条件に応じて設定する必要があります。例えば、セル定数が1.0/cmのセンサーを導電率1μS/cmの純水中で使用すると、セルの抵抗値は1MΩになります。一方、同じセルを海水中で使用した場合、その抵抗値は30Ωになります。このように、両者の抵抗値の比はあまりにも大きな値になります。一般的な計測器では、これだけ大きく異なる試料を対象として1つのセルだけで正確に測定を行うのは困難です。

1μS/cmの溶液を対象として測定を行う場合、セルは、電極の面積を大きく、距離を短くするように構成します。例えば、セル定数が0.01/cmである場合、セルの抵抗値は1MΩではなく約10kΩとなります。抵抗値は1MΩであるよりも10kΩである方が容易かつ正確に測定を行うことができます。定数の異なる複数のセルを使用することにより、超純水と導電率の高い海水の両方に対して、セルの抵抗値を同じ範囲に抑えて計測器を動作させることが可能になります。

セル定数Kは、電極間の距離Lと電極の面積Aの比として以下のように定義されます。

Equation 2

セルの電気伝導度Yは次のようにして求められます。

Equation 3
液体の導電率YXは、以下のように算出できます。

Equation 4

図2に示すように、セルには2電極式のものと4電極式のものがあります。電極は極と呼ばれることもあります。

Figure 2
図2 . 2電極式のセルと4電極式のセル

精製水のように導電率の低い試料や、各種生物の体液、薬剤の測定には、2電極式のセルの方が適しています。一方、4電極式のセルは、廃水や海水など、導電率の高い試料に適しています。

2電極式の場合、セル定数は約0.1/cm~ 1/cmです。一方、4電極式の場合にはセル定数は1/cm~10/cmとなります。

4電極式セルでは、電極の分極に起因する誤差や、測定に干渉を及ぼす恐れのある電界効果の影響を排除できます。

電極は、図2に示したような単純な平行板ではなく、平行リングや同軸導体などによって構成されることもあります。

セルの種類とは関係なく、電極にはDC電圧を印加しないことが重要です。液体内のイオンが電極の表面に蓄積することで、分極や測定誤差、電極の損傷が生じる恐れがあるからです。

同軸センサーのように、シールドされたセルは慎重に扱わなければなりません。シールドは必ず液体が入った金属容器と同じ電位に接続します。容器が接地されている場合、シールドは回路基板のグラウンドに接続する必要があります。

さらに、セルの定格の励起電圧や定格の電流を超えないように注意してください。図3に示す回路では、励起電圧を100mV~10Vの範囲でプログラムできます。セルに流れる最大電流は直列抵抗R23(1 k Ω)によって制限されます。

回路の詳細

図3に示したのは、高精度の導電率測定システムを実現する回路です。マイクロプロセッサによって制御される完全に自己完結型のシステムとなっています。液体に含まれるイオンの成分の測定や、水質の分析、産業分野で行われる品質管理、化学分析に最適です。

シグナル・コンディショニング用に高精度の部品を慎重に選定して組み合わせることにより、校正を行うことなく0.1 μS ~ 10 S(10 MΩ ~ 0.1 Ω) の導電率(抵抗率) に対して0.3%以下の精度を達成することができます。

この測定システムは、100 Ωまたは1000 Ωの白金ベースの測温抵抗体(Pt RTD)に対する自動検出機能を備えています。それにより、導電率を室温に換算することができます。

2電極式または4電極式のセルに加え、2/3/4線式のRTDに対応するので、システムの精度と柔軟性を高めることができます。

この回路は、DCオフセットを最小限に抑えて正確なAC励起電圧を生成します。それにより、導電電極の損傷につながる分極電圧を防ぎます。AC励起電圧の振幅と周波数は、ユーザーがプログラムすることができます。

この回路では、革新的な同期サンプリング手法によって励起電圧と電流のピークt oピーク振幅をDC値に変換します。それにより、2つの24ビットΣΔ型A/Dコンバータ(ADC)を内蔵する高精度アナログ・マイクロコントローラによる処理を実行しやすくするとともに、処理の精度を高めます。

加えて、この回路は、液晶ディスプレイ(LCD) と押しボタン付きエンコーダにより、直感的な操作が可能なユーザー・インターフェースを提供します。さらに、必要に応じ、RS - 485を介してPCと通信することも可能です。4V~7Vの単一電源で動作します。

Figure 3
図3 . 高性能の導電率測定システム
(一部の接続とデカップリング・コンデンサは省略している)

セルの励起に使用する方形波は、アナログ・デバイセズ のマイクロコントローラ「ADuCM360」のPWM出力を使用し、アナログ・スイッチ「ADG1419」により+VEXCと-VEXCの間で電圧をスイッチングすることによって生成します。ここで重要なのは、方形波のデューティ・サイクルを正確に50% とし、DCオフセットを極めて小さく抑えることです。小さなDCオフセットでも、時間の経過とともにセルに損傷を与える可能性があるからです。

図4に示すように、+VEXCと-VEXCの電圧はオペアンプ「ADA4077-2」(U9A、U9B) によって生成します。その振幅はADuCM360のDAC出力によって制御されます。

Figure 4
図4 . 励起電圧源

ADA4077-2 の標準オフセット電圧は15 μ V (A グレード) 、バイアス電流は0.4 nA、オフセット電流は0.1nA、出力電流は最大±10mA、ドロップアウト電圧は1.2V未満です。オペアンプ U9Aは、8.33のクローズドループ・ゲインで、ADuCM360のDAC出力(0V~1.2V)を0V~ 10Vの+VEXCに変換します。一方、オペアンプU9Bは+VEXCを反転させて-VEXCの電圧を生成します。R22の値は、R22=R24||R27となるように選択しています。この抵抗により1次バイアス電流を除去します。U9Aの15 μ Vのオフセット電圧による誤差は、概算では(2×15μV)÷10V=3ppmとなります。したがって、反転段で生じる誤差は、主にR24とR27のマッチング誤差ということになります。

ADG1419は、オン抵抗が2.1 Ω のSPDTアナログ・スイッチです。オン抵抗が±10Vの範囲で50mΩという平坦度を備えているため、±VEXCから対称的な方形波を生成するには理想的です。ADG1419による対称性誤差は、一般的には50 m Ω ÷ 1 kΩ = 5 0 ppmとなります。また、抵抗R23は、センサーに流れる最大電流を10V/1kΩ=10mAに制限します。

セルに印加される電圧V1は、計装アンプAD8253」(U15) によって測定されます。U15の非反転入力には、「ADA4000-1」(U14) によってバッファリングされた信号が印加されます。導電率が低いと電流も少なくなります。そうした微小電流を測定する際の誤差を最小限に抑えるために、バイアス電流がわずか5pAのADA4000-1を使用しています。AD8253の反転入力についてはバッファリングは不要です。

U14とU15のオフセット電圧は、同期サンプリング段によって除去されるため、測定精度に影響を与えません。

U15に加え、U18にもAD8253を使用しています。AD8253 は、帯域幅が10MHz、スルーレートが20 V / μ s 、ゲイン誤差が0.04% 未満の計装アンプです。ゲインGは、1 、10、100、1000のいずれかにプログラムすること可能です。ゲインが1000の場合、0.001%までのセトリング時間は1.8 μ sです。同相ノイズ除去性能は標準で120dBです。

U19( 「ADA4627-1」を使用) のブロックは、高精度の電流/電圧コンバータです。これにより、セルを流れる電流を電圧に変換します。ADA4627-1のオフセット電圧は120 μ V(Aグレードの標準値)、バイアス電流は1pA(標準値)、スルーレートは40V/μs、0.01%までのセトリング時間は550 n sです。バイアス電流とオフセット電圧が小さいため、ADA4627-1はこのブロックに最適です。120μVのオフセット電圧によって生じる対称性誤差は、わずか120μV/10V=12ppmとなります。

U22AとU22B( 「AD8542」を使用) の各バッファは、1.65Vのリファレンス電圧を計装アンプU18 、U15に供給します。

以下では、電圧チャンネルの残りの信号パス(U17A 、U17B 、U10 、U13 、U12A 、U12B)について説明します。なお、電流チャンネル(U17C、U17D、U16、U21、U20A、U20B)の動作も同様です。

ADuCM360は、ADG1419のスイッチングに使用する方形波信号PWM0と、同期サンプリング段用の同期信号であるPWM1、PWM2を生成します。図5はセルの電圧と3つの信号のタイミングの関係を示したものです。

Figure 5
図5 . セルの電圧とトラック& ホールド用のタイミング信号

U15(AD8253)の出力により、並列に構成された2 つのトラック&ホールド回路が駆動されます。同回路は、「ADG1211」(U17A、U17B) 、直列抵抗(R34、R36)、ホールド用コンデンサ(C50、C73)、ユニティ・ゲイン・バッファ(U10、U13)で構成されています。

ADG1211 は、電荷注入が少ないクワッド・タイプのSPSTアナログ・スイッチです。±15V の電源電圧、±10Vの最大入力信号で動作します。スイッチングによって注入される最大電荷量は4pCで、電圧誤差はわずか4pC÷4.7μF=0.9μVに抑えられます。

PWM1の信号により、トラック&ホールド回路のバッファU10はセル電圧における負のサイクルのトラッキングを開始し、次のトラックのサイクルまでそれをホールドします。U10の出力は、セル電圧の方形波における負の振幅に対応したDCレベルになります。

同様に、PWM2の信号によってトラック&ホールド回路のバッファU13はセル電圧における正のサイクルのトラッキングを開始し、次のトラックのサイクルまでそれをホールドします。U13の出力は、セル電圧の方形波における正の振幅に対応するDCレベルになります。

トラック& ホールド回路のバッファには「ADA4638-1」を使用しています。その標準バイアス電流は45pAです。また、ADG1211の標準リーク電流は20pAです。したがって、4.7μFのホールド用コンデンサではワーストケースのリーク電流が65pAとなります。励起周波数が100Hzである場合、周期は10msです。65pAのリーク電流に起因して半周期間(5ms)に生じる電圧降下は、(65pA×5ms)÷4.7μF=0.07μVとなります。

ゼロドリフト・アンプであるADA4638-1の標準オフセット電圧はわずか0.5μVなので、それによる誤差は無視できます。

シグナル・チェーンにおけるADCの直前の段には「ADA4528-2」(U12AとU12B) で構成した反転減衰器を配置しています。この回路のゲインは-0.16、コモン・モード出力電圧は1.65Vです。ADA4528-2の標準オフセット電圧は0.3 μVなので、それによる誤差は無視できます。

この減衰回路により、±10Vの最大信号は±1.6Vに抑えられます。その時のコモン・モード電圧は1.65Vです。この出力電圧の範囲は、ADuCM360が内蔵するADCの入力電圧範囲に対応しています。その入力電圧範囲は、電源電圧AVDDが3.3Vの場合で0V~3.3V(1.65V±1.65V)です。

この減衰回路はノイズ除去性能も備えています。-3dB周波数は約198kHzです。

電圧チャンネルVOUT1の差動出力は、ADuCM360のAIN2ピンとAIN3ピンに入力されます。電流チャンネルVOUT2の差動出力は、ADuCM360のAIN0ピンとAIN1ピンに入力されます。

VOUT1、VOUT2の出力は、それぞれ以下の式で表されます。

Equation 5

Equation 6
セル電流は、次の式で得られます。

Equation 7
V2P-Pは、次の式で得られます。

Equation 8
式(8)からI P-Pを求めて式(7) に代入すると、YXは次のようになります。

Equation 9

式(5)と式(6)からV1P-PとV2P-Pを求めて式(9)に代入すると、次の式が得られます。

Equation 10

Equation 11

式(11) から、導電率の測定はG1、G2、R47、そしてVOUT2とVOUT1の比に依存することがわかります。つまり、ADuCM360が内蔵するADC向けに高精度のリファンレスは必要ないということです。

AD8253のゲイン誤差は0.04%未満です(G1、G2)。R47としては、許容誤差が0.1 % 以下のものを選択します。

そうすると、システムの全体的な精度は、VOUT1とVOUT2のシグナル・チェーンで使用している抵抗に左右されることになります。

なお、各AD8253のゲインは、ソフトウェアによって次のように設定します。

  • ADCのコードがフルスケールの94%を超える場合、次のサンプルでAD8253のゲインを1/10に下げる
  • ADCのコードがフルスケールの8 . 8%未満である場合、次のサンプルでAD8253のゲインを10倍に高める

システムの精度の測定

電圧チャンネルVOUT1の精度を左右するのは、R19、R20、R29、R31の4つの抵抗です。

電流チャンネルVOUT2の精度を左右するのは、R47、R37、R38、R48、R52の5つの抵抗です。

9個の抵抗の許容誤差がいずれも0.1% であるとすると、AD8253のゲイン誤差0.04 % と合わせて、ワーストケースの誤差は約0.6% となります。この誤差に関する解析結果は、「CN-0359 Design Support Package (CN-0359:設計サポート・パッケージ)」に含まれています。

実際には、抵抗はRSS(残差平方和)の形式で結合する可能性が高くなります。正または負のシグナル・チェーンにおいて抵抗の許容誤差に伴って生じるRSS誤差は√5×0.1%=0.22%となります。

セルのシミュレーションを行うために、1Ω~1MΩ(1S~1μS)の高精度抵抗を用いて精度の検証を実施しました。図6はその結果を示したものです。これを見ると、最大誤差は0.1% 未満に抑えられることがわかります。

Figure 6
図6 . 1μS~1Sの導電率に対するシステムの誤差

RTDによる測定

導電率の測定システムでは、温度補償によって精度が決まります。一般的な溶液の温度係数は1% /℃から3% /℃以上とまちまちです。そのため、調整が可能な温度補償の仕組みを備える計測器を使用する必要があります。通常、溶液の温度係数はやや非線形であり、実際の導電率によっても変動します。そのため、最高の精度を得るには、実際の測定温度で校正を行う必要があります。

ADuCM360は、マッチングのとられた2つの励起用電流源を備えています。ソフトウェアによる個別の構成が可能であり、10μA ~ 1mAの電流を出力することができます。その誤差は0.5% 未満に抑えられています。ADuCM360を使用すれば、それらの電流源によってPt100またはPt1000のRTDを用いた2/3/4線式の測定を容易に行うことができます。RTDがPt100とPt1000のうちどちらであるかということも、ソフトウェアによって自動的に検出することが可能です。

以下では、簡略化した回路図を示しながら、異なる構成のRTDを使用する場合の動作について説明します。モードの切り替えは全てソフトウェアで行うことができ、ジャンパーの設定を変更する必要はありません。

図7に、4線式RTDを使用する場合の構成を示します。

Figure 7
図7. 4 線式RTDを使用する場合の構成

リモートのRTDまでの各配線には寄生抵抗RPが存在します。励起電流IEXCは1.5 k Ωの高精度抵抗を介してRTDに流れます。ADuCM360が内蔵するADCによってRTDの両端の電圧(V6-V5)が測定され、R13の両端の電圧(V7-V8)がリファレンスとして使用されます。

ADuCM360では、AIN7ピンにおける最大入力電圧がAVDD-1.1Vを超えないようにする必要があります。この条件を満たすように、R13の抵抗値とIEXCの励起電流値を選択することが重要です。さもなければ、電流源IEXCは正しく動作しません。

RTDの両端の電圧は、AIN6ピンとAIN5ピンに接続された2本のセンス線を使って正確に測定されます。入力インピーダンスは約2 M Ω( バッファなしのモード、PGAのゲインは1 ) なので、センス線の抵抗を流れる電流による誤差は最小限に抑えられます。RTD両端の電圧(V6-V5)はADCによって測定されます。

RTDの抵抗は、以下のようにして計算されます。

Equation 12

この測定は、電源電圧に比例するレシオメトリックなものになります。外部リファレンス電圧には依存せず、1.5 k Ω の抵抗の許容誤差にのみ依存します。また、4線式の構成では配線の抵抗に起因する誤差も除去されます。

ADuCM360では、入力をバッファするかしないかという選択が行えます。内部バッファを有効にする場合には、入力電圧を100mV以上にする必要があります。1kΩ/36Ωの抵抗分圧回路により、バッファ付きの動作を可能にする115mVのバイアス電圧を生成しています。このバイアス電圧はRTDにも供給されます。バッファなしのモードでは、J3の4番ピンを接地します。その際には、接地シールドに接続することでノイズを除去することが可能です。

続いて、図8に3線式のRTDを使用する場合の構成例を示しました。この方法も、配線抵抗による誤差を抑えるために一般的に使用されています。

Figure 8
図8 . 3 線式RTDを使用する場合の構成

J3の3番ピンに直列に存在する配線抵抗には、マッチングのとれたもう1つの電流源IEXC(AIN5/IEXC) による電圧が生じます。その電圧により、1番ピンの直列配線抵抗による電圧降下が相殺されます。したがって、測定される電圧(V8-V5)の値は、配線抵抗による誤差の影響を受けません。

図9に示したのは、2線式RTDを使用する場合の構成例です。この構成では、配線抵抗による影響はまったく補償されません。

Figure 9
図9 . 2 線式RTDを使用する場合の構成

2線式のRTDを使用すれば、最も低コストで回路を構成できます。要件が厳しくない場合や、RTDまでの配線が短くて済む場合、Pt1000のように抵抗値が大きいRTDを使用する場合に適しています。

電源回路の構成

システムに関する要件を簡素化するために、必要な全ての電圧(±15Vと3.3V)は4V~7Vの単一電源から生成します(図10)。

3.3Vの電源電圧は、降圧型レギュレータ「ADP2300」によって生成します。この設計は、「ADP230x Buck Regulator Design Tool(降圧型コンバータADP230x用の設計ツール」( ダウンロード可能) に基づいています。

一方、15Vの調整電源と-15Vの無調整電源は、昇圧型レギュレータ「ADP1613」を基に生成します。-15Vの電源はチャージ・ポンプを併用することで生成します。この設計は、「ADP161x Boost Regulator Design Tool(昇圧型レギュレータADP161x用の設計ツール) 」に基づいています。

スイッチング・レギュレータのノイズがアナログ回路に影響を及ぼさないようにするために、適切な方法でレイアウトと接地を行ってください。詳細については、「Linear Circuit Design Handbook(リニア回路設計ハンドブック)」、「The Data Conversion Handbook(データ変換ハンドブック) 」、チュートリアル「MT-031MT-031」、「MT-101」を参照してください。

Figure 10
図10 . 電源回路

図11に、LCDのバックライトの駆動に使用する回路を示しました。

Figure 11
図11. L CDのバックライトを駆動するための回路

AD8592」はデュアルオペアンプICです。同ICが内蔵する各オペアンプは、LCDのバックライトに電流を供給する60mAの電流源として動作します。AD8592は最大250mAのソース/シンクが可能です。100nFのコンデンサによってソフト・スタートアップを保証しています。

ハードウェア、ソフトウェア、ユーザー・インターフェース

Circuits from the Labでは、ソフトウェアを含む完全な回路をリファレンス・デザイン「CN-0359」として提供しています。評価ボード「EVAL-CN0359-EB1Z」には、導電率の測定に必要なコードがプリロードされています。実際のコードは、CN0359-SourceCode.zipというZIPファイル内のCN-0359 Design Support Packageに含まれています。

ユーザー・インターフェースは直感的な操作で簡単に使用できるようになっています。ユーザーによる入力は、全て押しボタン付きロータリエンコーダの機能によって行います。エンコーダのつまみは、時計回りまたは反時計回りに回すことができます(機械式の停止機構なし)。また、押しボタンとしても使用可能です。

図12として、EVAL-CN0359-EB1Zの外観写真を示しました。これを見れば、LCDとエンコーダのつまみの位置を把握できると思います。

Figure 12
図12 . EVAL - CN0359 -EB1Zの外観
( 測定モードにおけるホーム画面が表示されている)

セルとRTDを接続すると、評価ボードに電源が投入されます。その結果、LCDの画面が図12のような表示になります。

エンコーダのつまみは、励起電圧、励起周波数、セルの温度係数、セル定数、セットアップ時間、ホールド時間、RS-485のボーレートとアドレス、LCDのコントラストなどの入力に使用します。図13に、LCDの表示例を示しました。

Figure 13
図13. LCDの表示例

EVAL-CN0359-EB1Zは、6Vの電源を生成するEVAL-CFTL- 6V- PWRZを使用するように設計されています。EVAL-CN0359-EB1Zは、電源のほかに、外付けのセルとRTDを接続すれば使用できます。

またEVAL-CN0359-EB1Zは、外部のPCに接続するためのRS- 485 コネクタ(J2) を備えています。さらに、ADuCM360のプログラミングやデバッグを行うためのJTAG/SWD用インターフェースとして、コネクタJ4が用意されています。

図14はPCに接続する場合の一般的な構成を示したものです。RS-485はUSBアダプタに接続されています。

Figure 14
図14 . PCに接続する場合の機能ブロック図

まとめ

本稿では、アナログ・デバイセズがCN-0359として公開しているリファレンス設計を基に、導電率の測定システムを構成する回路について解説しました。回路ノート、詳細な回路図、部品表、レイアウトの情報、ガーバー・ファイル、ソース・コードを含むドキュメント一式は、http://www.analog.com/CN0359-Design Supportからダウンロードできます。



参考資料

計装アンプの設計ガイド 第3版 、Analog Devices

CN-0359 回路ノート「Fully Automatic High Performance Conductivity Measurement System (自動校正機能を備える導電率測定システム)」Analog Devices

CN-0359 「Design Support Package(設計サポート・パッケージ)」www.analog.com/CN0359-DesignSupport,Analog Devices

Linear Circuit Design Handbook (リニア回路設計ハンドブック)Analog Devices/Elsevier

MT-031 チュートリアル「データ・コンバータのグラウンディングと、「AGND」および「DGND」に関する疑問の解消」Analog Devices

MT-101 チュートリアル「Decoupling Tecniques(デカップリング手法)」Analog Devices

Op Amp Applications Handbook (オペアンプ・アプリケーション・ハンドブック)Analog Devices/Elsevier

Section 7: Temperature Sensors” in Sensor Signal Conditioning(センサー向けのシグナル・コンディショニング 第7章:温度センサー)」Analog Devices

The Data Conversion Handbook (データ変換ハンドブック)Analog Devices/Elsevier

データシート

AD8253のデータシート

AD8542のデータシート

AD8592のデータシート

ADA4000-1のデータシート

ADA4077-2のデータシート

ADA4528-2のデータシート

ADA4627-1のデータシート

ADA4638-1のデータシート

ADG1211のデータシート

ADG1419のデータシート

ADM3075のデータシート

ADP2300のデータシート

ADP1613のデータシート

ADuCM360のデータシート


著者

Robert Lee

Robert Lee

Robert Lee は2013年1月からアプリケーション・エンジニアとしてアナログ・デバイセズに勤務しています。中国電子科技大学(UESTC)で2004年に電気工学学士号、2009年に電気工学修士号を取得しています。10年以上にわたって組み込みシステム設計に携わっています。

Walt Kester

Walt Kester

Walt Kester は、アナログ・デバイセズのコーポレート・スタッフ・アプリケーション・エンジニアです。長年にわたるアナログ・デバイセズでの業務の中で、高速ADC、DAC、SHA、オペアンプ、アナログ・マルチプレクサの設計/開発/アプリケーション・サポートに従事してきました。多数の論文や記事の執筆に加え、アナログ・デバイセズの国際的な技術セミナー・シリーズ向けに11冊のアプリケーション・ブックの編集/制作も手掛けました。それらの中では、オペアンプ、データ変換、電源管理、センサー向けのシグナル・コンディショニング、ミックスドシグナル回路、実用的なアナログ設計手法などを取り上げています。最新の著書である「Data Conversion Handbook(データ変換ハンドブック)」(発行:Newnes社)では、データ変換について約1000ページにわたり包括的に解説しています。ノースカロライナ州立大学で電気工学学士号、デューク大学で電気工学修士号を取得しています。