LTspiceにより、 MEMSセンサー用のシグナル・チェーンや電力/データ伝送回路の性能を確認する

概要

本稿では、LTspice®を使って、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサー用のエンジニアド・パワー・ソリューションの性能を確認する方法を説明します。ここでいうエンジニアド・パワーとは、データ・ラインを介した電力伝送のことです。そのソリューションを最適化する際、LTspiceを使用すれば、シグナル・チェーン全体を対象として性能を解析することができます。特に、アナログ出力型のMEMSセンサーを使用する場合には、オペアンプ回路のモデルやA/Dコンバータのモデル、更にはMEMSセンサーの周波数応答を表現するモデルも含めてシミュレーションを実施することが可能です。

より少ない労力で、より多くの成果を

本稿では、エンジニアド・パワー(EP:Engineered Power)を取り上げます。これは、同一のワイヤを使用して、電力とデータLTspiceにより、 MEMSセンサー用のシグナル・チェーンや電力/データ伝送回路の性能を確認する著者:Richard Anslow、システム・アプリケーション・エンジニアを伝送する技術です。この種の技術についてはいくつかの規格が存在します。代表的な例としては、PoDL(Power over Data Lines)向けのIEEE 802.3buや、PoE(Power over Ethernet)向けのIEEE 802.3afなどが挙げられます。これらの技術では、専用のパワー・インターフェース・コントローラが使用されます。各規格に従うことにより、検出、接続の確認、分類、ターン・オン/オフに伴う故障の監視といった機能によって制御された電源システムを実現することができます。また、数Wから数十Wの電力を安全に供給することが可能になります。PoEやPoDLについては、多様なアプリケーション向けの標準的な仕様が策定されています。それとは対照的に、EPでは、データ・ラインを介した電力供給の仕組みをカスタムで設計することになります。通常、EP用の回路は単一のアプリケーション向けに設計されます。そうしたアプリケーションの1つが、最新のセンサー・システムです。なお、モータ制御に使用するエンコーダ向けには、Hiperface DSLという仕様が策定されています1

一般に、電力とデータを共有するインターフェースでは、信号のDC成分を低減するためにエンコーディングが実施されます。その結果、AC信号成分の伝送を行うシステムの設計が容易になります。ただ、デジタル出力型のセンサーの場合、インターフェースとしてはSPIやI2Cなどが使用されます。通常、それらのインターフェースではエンコーディングは行われません。つまり、信号のDC成分が変動することになります。したがって、データと電力を共有する設計に、そうしたインターフェースをそのまま取り込むのは容易ではありません。また、SPIやI2Cにエンコーディングを適用するには、図1に示すようにマイクロコントローラを追加する必要があります。そうすると、ソリューションのコストとサイズが増大します。通常、設計者は、より少ない労力でより多くの成果が得られるようにすることを望みます。つまり、エンコーディングを適用したりマイクロコントローラを追加したりすることなく、必要な機能を実現したいと考えます。そのためには、EP用の回路の設計とシミュレーションを慎重に実施しなければなりません。通常、EP回路は、インダクタ、コンデンサ、保護回路で構成します。これらが一体となって、フィルタ機能が実現されます。

図1. MEMSセンサー向けのEPソリューション。サイズと設計の複雑さにはトレードオフの関係があります。

図1. MEMSセンサー向けのEPソリューション。サイズと設計の複雑さにはトレードオフの関係があります。

EPが求められる背景

EPを適用したシステムでは、電力とデータがインダクタとコンデンサで構成された回路とワイヤを介して伝送されます。周波数の高い信号(データ)は、直列コンデンサを介してデータ・ラインに結合します。このコンデンサは、通信に使用するトランシーバーをDCバス電圧から保護する役割も果たします。一方、電力はデータ・ラインに接続されたインダクタを介してメインのコントローラに伝送されます。また、電力はケーブルの遠端にあるセンサー・ノードにおいて、インダクタによりフィルタリングされます。

インダクタとコンデンサで構成された回路はハイパス・フィルタとして機能します。DCデータ成分の存在が望ましくないデータ・ラインには、カップリング用のソリューションを追加する必要があります。ただ、SPIなどのインターフェースでは、DC成分を除去することを目的として物理層でエンコーディングを実施することはありません。その場合、システム設計においては、DC成分について最も条件の厳しいシナリオを考慮する必要があります。つまり、データ・フレームで送信されるすべてのビットがロジック・レベルのハイである場合(DC成分が100%)を想定しなければなりません。また、使用するインダクタについては自己共振周波数(SRF:Self-resonant Frequency)が規定されているはずです。SRFを超える周波数では、インダクタンスの値が低下し、寄生容量が増加します。そのため、EP回路はローパス・フィルタとしてもハイパス・フィルタとしても機能することになります(バンドパス特性を示します)。シミュレーション・ベースのモデリングは、システム設計者がこの制約について理解する上で非常に役に立ちます。

SPIを使って長距離にわたる伝送を行う場合、ケーブルとコンポーネントはシステム・クロックとデータの同期に影響を及ぼします。SPIの最大クロック周波数は、システムの伝搬遅延によって決まります。システムの伝搬遅延には、ケーブルによる伝搬遅延と、メイン・ノードとサブノードのコンポーネントによる伝搬遅延が含まれます。本稿では詳細には触れませんが、設計者はこのような制約が追加されることを認識しておかなければなりません。詳細については、「堅牢な有線接続により、インダストリ4.0向けの状態基準保全システムを構築する【Part 2】」をご覧ください2

図2に、EP回路の構成を簡略化して示しました。この図を基に、フィルタの解析や、ドループ電圧/ドループ時間の解析を実施することができます。データ用のワイヤを介した電力供給(以下、電力/データ伝送)を実現するEP回路では、インダクタンスによって通信バスの電圧が低下(ドループ)します(図3)。ドループ電圧がピーク電圧の99%を超えると、ネットワークにおいてビット・エラーが発生します。そのため、ドループの解析は重要です。システムを設計する際には、ドループ電圧とドループ時間の仕様を満たすようにしなければなりません。例えば、1000BASE-Tに対応するイーサネットでは、図3に示すように、500ナノ秒の間に27%のドループ電圧が生じることを想定しています3

図2. 解析のために簡略化したEP回路

図2. 解析のために簡略化したEP回路

図3. ドループ電圧とドループ時間

図3. ドループ電圧とドループ時間

以下に示す式(1)~式(6)を使えば、目標のドループ電圧とドループ時間を達成可能なインダクタンス/コンデンサの値を算出することができます。ドループ時間の間は、DCブロッキング・コンデンサの両端の電圧の変化を無視できると仮定すると、直列LR回路のドループ電圧は次の式で表されます。

数式 01

この式から、目標のドループ電圧、ドループ時間、抵抗に基づいてインダクタンスの値を導出することができます(以下参照)4

数式 02

直列RLC回路の減衰係数は、次式で決まります。

数式 03

臨界減衰システムにおいてζが1であると仮定すると、コンデンサの値は次の式で求められます。

数式 04

ハイパス・フィルタのカットオフ周波数は、CとLに関する上記の式を用いると、次のように表されます。

数式 05

臨界減衰システムでは、次式のようになります。

数式 06

EP回路のシミュレーションにLTspiceを使用する理由

EP回路のシミュレーションにはLTspiceが適しています。その理由を以下に列挙します。

  • 寄生成分を含む現実的なインダクタのモデルを使用できます。そのため、シミュレーションにより、現実の回路の性能に近い結果が得られます。LTspice のライブラリには、数千種にも上るインダクタのモデルが用意されています。Würth Elektronik、村田製作所、Coilcraft、Bourns など、様々なメーカーの製品に対応しています。
  • アナログ・デバイセズが提供するトランシーバー製品(物理層)のモデルを利用でき、CAN(Controller Area Network)、RS-485 など様々なインターフェース規格に対応できます。そうしたモデルを提供している半導体メーカーは限られます。
  • 柔軟性の高い LTspice の波形ビューワにより、設計した電力/データ伝送回路の各種数値の評価を迅速に実施できます。
  • LTspice の強力な機能により、LDO(低ドロップアウト)レギュレータやスイッチング・レギュレータといったパワー・デバイスのシミュレーションを、通常の SPICE シミュレータと比べて非常に高速に実行できます。ほとんどのスイッチング・レギュレータの信号波形をわずか数分間で確認することが可能です。
  • LTspice 上ですぐに実行できるデモ用回路のデータが用意されているので、回路図の作成にかかる時間を短縮することができます。
  • アナログ・デバイセズのパワー製品のモデルが 1000 種類以上、オペアンプ製品と ADC 製品のモデルが 200 種類以上提供されています。また、抵抗、コンデンサ、トランジスタ、MOSFET のモデルも用意されています。そのため、あらゆる回路を構成し、シミュレーションを実施することが可能です。

LTspiceによるドループの解析

図4に、電力/データ伝送を実現するEP回路を簡略化して示しました。本稿では、この回路を例にとってLTspiceによるシミュレーション方法を説明します。シミュレーションでは、RS-485に対応するトランシーバー「LTC2862」のマクロモデルと1mHのインダクタ(Würthの「74477830」)のモデルを使用します。LTspiceには、寄生成分を含む現実的なインダクタのモデルが用意されています。そのため、現実の回路の性能により近いシミュレーション結果が得られます。DCブロッキング・コンデンサの値は10μFです。一般に、インダクタとコンデンサの値を大きくすると、通信ネットワークのデータ・レート性能が低下します。シミュレーションでは、データ・レートを250kHzに設定しました。これは、RS-485のインターフェースを介して、クロックに同期したSPIポートと100mのケーブルを使って通信を行うケースを想定した設定です2。シミュレーションに使う入力電圧波形は、最も厳しい条件のDC成分に対応しています。すなわち、16ビットのワードにおいて、すべてのビットがハイになっている状態を模擬します。シミュレーションの結果を図5に示しました。リモートで電力供給を受けるデバイスの出力VOUTは、入力電圧波形VINと一致しています(通信エラーは発生していません)。図6は、ドループの解析を行うために、バス電圧の差動電圧波形(ノードAとノードB)を拡大したものです。インダクタL2から抽出されるリモート・センサー・ノード用の電源V(pout)は、5V±1mVとなっています。

図4. LTspiceによるシミュレーションに使用するEP回路。RS-485に対応するLTC2862と1mHのインダクタ(Würthの74477830)を使って構成しました。

図4. LTspiceによるシミュレーションに使用するEP回路。RS-485に対応するLTC2862と1mHのインダクタ(Würthの74477830)を使って構成しました。

図5. 図4の回路のシミュレーション結果。RS-485に対応するバスの差動電圧V(A,B)には、X、Yのドループ・ポイントが現れます。

図5. 図4の回路のシミュレーション結果。RS-485に対応するバスの差動電圧V(A,B)には、X、Yのドループ・ポイントが現れます。

図6.ドループ・ポイントX、Yの拡大図

図6.ドループ・ポイントX、Yの拡大図

図5、図6を基に、VDROOP、VPEAK、TDROOPの値を取得します。そうすれば、式(2)と式(4)を使ってLとCの値を計算することができます。Lの値の計算結果は、表1に示すように約1mH~3mHとなります。但し、波形のどの部分の値を使用するかによって、異なる計算結果が得られる可能性があります。この例の場合、ポイントXの値を使用するのが最も適切であり、約1mHという正しい結果が得られます。式(6)に示したように、ハイパス・フィルタのカットオフ周波数は、ドループ電圧とドループ時間の関数になります。ポイントXでは、周波数は、1ビット(クロックの半周期)に対してほぼ250kHz/32に等しく、図5に示した入力波形V3と一致しています。

図4の回路のシミュレーションを実行する際には、コンデンサC8の使用が推奨されます。このコンデンサは、センサーにおける電圧(電力を抽出するノードに現れるVPOUT)のオーバーシュートを低減する役割を果たします。その結果、オーバーシュートは最大47mVになります。そして、1.6ミリ秒以内に所望の値である5VDC±1mVに落ち着きます。C8を使用しないでシミュレーションを実行すると、システムが不足減衰の状態になります。その場合、オーバーシュートは600mVに達し、5VDCという目標値から100mVも外れた振動が永続的に生じます。

表1に示すように、Cの値は0.4μF~1μFとなります。DCブロッキング・コンデンサの10μFという値より小さいのはなぜでしょうか。その理由は、この回路には直列コンデンサ(1μF、100μF)が追加されており、過減衰の状態になる可能性があるからです。その場合、式(1)~式(6)で表されるのとは異なる状態になります。

表1. ドループの解析結果。VDROOP、VPEAK、TDROOPの値を使って回路のインダクタンスと容量の値を求めました。
シミュレーション上の
ドループ・ポイント
シミュレーション波形から求めた値 式(1)~式(6)によって求めた値
VDROOP〔V〕 VPEAK〔V〕 VDROOP/VPEAK TDROOP〔µs〕 R〔Ω〕 L 〔mH〕 C 〔µF〕
X 2.85 6.06 0.47 7.54 107 1.1 0.4
Y 5.14 6.06 0.85 63.6 107 3.6 1.2

より複雑な電力/データ伝送回路のシミュレーション

センサー・ノードにLDOレギュレータまたはスイッチング方式のDC/DCコンバータを追加するケースを考えます。そうすると、メイン・ノードから12VDCや24VDCといった産業分野で標準的に使われる電源電圧を供給することが可能になります。選択すべきLDOレギュレータまたはDC/DCコンバータは、アプリケーションの要件によって異なります。12VDCの電源を使用するアプリケーションには、センサー・サブノードで生じる消費電力が許容できるレベルであるなら、超低ノイズのLDOレギュレータが適しています。24VDCの電源を使用する場合には、電力損失を抑えるために、より効率の高いDC/DCコンバータを使用することが推奨されます。アナログ・デバイセズは、Silent Switcher®アーキテクチャを適用した低ノイズのDC/DCコンバータ製品を提供しています。それらを使用すれば、高い電力効率と優れたノイズ性能を得ることができます。

24VDCは、鉄道、産業用オートメーション、航空宇宙/防衛といった分野のアプリケーションで広く使用されています。鉄道で使われる電子機器を対象としたEN 50155では、公称入力電圧を24VDCと規定しています5。ただ、入力電圧の変動についても、0.7VIN~1.25VINという公称値が規定されています。更には、0.6VIN~1.4VINという拡張範囲も設けられています。したがって、この分野のアプリケーションで使用するレギュレータには、14.4VDC~33.6VDCという広範な入力電圧に対応することが求められます。

LTM8002」は、Silent Switcherを採用したμModule®レギュレータです。この製品は、実装スペースに制約がある鉄道車両で使用される振動監視用のセンサーに最適です。6.25mm×6.25mmのBGAパッケージを採用しており、3.4VDC~40VDCという広い入力範囲に対応しているからです。

図7に示した回路は、図4の回路にLTM8002を追加したものです。この回路では、メイン・ノードから24VDCの電源電圧をサブノードのセンサーに供給します。シミュレーションでは、LTM8002において5VDC±1%という所望の出力電圧に達するまでに1ミリ秒のランプ時間がかかっています。そのため、システムを起動してメイン・ノードとサブノードの間で通信を開始するまでには、2ミリ秒~3ミリ秒の時間を確保するとよいでしょう。そのようにすることで、センサー・ノードの出力において有効なデータを確実に得ることができます。

図7. 図4を改変したEP回路。センサーのサブノードにSilent Switcherを採用した低ノイズのデバイスであるLTM8002を適用しています。それにより、電源設計における柔軟性が高まります。

図7. 図4を改変したEP回路。センサーのサブノードにSilent Switcherを採用した低ノイズのデバイスであるLTM8002を適用しています。それにより、電源設計における柔軟性が高まります。

図8. 図7の回路のシミュレーション結果。VPOUTが所望の5VDCに達するまでには1ミリ秒のランプ時間がかかります。VOUTから有効なデータが出力されるまでには2~3ミリ秒の時間を要します。

図8. 図7の回路のシミュレーション結果。VPOUTが所望の5VDCに達するまでには1ミリ秒のランプ時間がかかります。VOUTから有効なデータが出力されるまでには2~3ミリ秒の時間を要します。

MEMSセンサーのシグナル・チェーン全体のシミュレーション

アナログ・デバイセズは、数多くのデザイン・ノートを公開しています。そのなかには、MEMSセンサーを扱ったものもあります。それらは、MEMSセンサー用のシグナル・チェーンの設計を完成させ、LTspiceによってシミュレーションを実施する際にも役立ちます(図9)。MEMSセンサーの多くはデジタル出力を採用していますが、アナログ出力を採用した高性能のセンサーも数多く存在します。オペアンプとADCを含むシグナル・チェーンのシミュレーションを実施すると、ハードウェア設計を完成させる前に貴重な知見を得ることができます。

図9. MEMSセンサー用のシグナル・チェーン。LTspiceによって、これら全体のシミュレーションを実施することができます。この図は簡略化したものであり、すべての接続や受動部品を網羅しているわけではありません。

図9. MEMSセンサー用のシグナル・チェーン。LTspiceによって、これら全体のシミュレーションを実施することができます。この図は簡略化したものであり、すべての接続や受動部品を網羅しているわけではありません。

センサーから得られた信号に、ローパス・フィルタ、アンプ、ADCが及ぼす影響について解析するためには、稿末の参考資料6で紹介されているLTspice用のリファレンス回路を参照するとよいでしょう。シミュレーションでは、分解能が18ビットの逐次比較型(SAR)ADC「AD4002」、「AD4003」、同16ビットの「LTC2311-16」のモデルを使用できます。LTspiceを使ってADCのモデルをカスタムで開発する方法については、稿末の参考資料7を参照してください。

オペアンプについては、「ADA4807」や「ADA4805」などのシリーズに対応する200種以上のモデルを使用できます。「ADR4525」、「LTC6655-5」といった電圧リファレンスや、「ADA4807-1」などのリファレンス・バッファのマクロモデルも提供されています。

稿末の参考資料8では、状態基準保全(Conditional Based Maintenance)システムで取得した振動データの周波数成分をLTspiceによって解析する方法を説明しています。この記事には、センサーによって取得したデータのフォーマッティングや解析に役立つヒントが含まれています。

図10に、LTspiceで加速度センサーの周波数応答を解析するためのモデルの例を示しました。これらは、±50gの測定範囲に対応する低ノイズのMEMS加速度センサー「ADXL1002」を対象としています。LTspiceのラプラス・モデルを使えば、直列LRC回路によってMEMSセンサーの周波数応答をうまく近似することができます。シミュレーション用のモデルは、データシートに記載された標準的な性能とよく一致しています。例えば、共振周波数が21kHzで3dB帯域幅が11kHzといった具合です。AC解析については、LTspice上で回路のラプラス・モデルを使用するとよいでしょう。一方、トランジェント解析によって最良のシミュレーション結果を得るためには、ディスクリートのRLC素子を使う必要があります。

図10. 周波数応答を取得するためのモデル。(a)は、MEMSセンサーの周波数応答を取得するためのラプラス・モデルです。(b)のプロットを見ると、共振周波数が21kHzで、3dB帯域幅が11kHzであることがわかります。

図10. 周波数応答を取得するためのモデル。(a)は、MEMSセンサーの周波数応答を取得するためのラプラス・モデルです。(b)のプロットを見ると、共振周波数が21kHzで、3dB帯域幅が11kHzであることがわかります。

ADXL1002は、アナログ出力の加速度センサーです。その帯域幅は、DC(または低い周波数)加速度に対する応答が-3dBまで低下する信号周波数によって定義されています。図11は、図10の周波数応答モデルをベースとしていますが、オペアンプを使って構成したフィルタ回路も含まれています。このフィルタ回路により、MEMSセンサーの周波数応答において、より広い3dB帯域幅が得られるようになります。フィルタを付加していないMEMSセンサーの出力は、11kHzで3dBに達します。一方、図11のプロットを見ると、フィルタ回路からのVOUTは17kHzで3dBに達することがわかります。

図11. オペアンプ回路を含むモデル。(a)はMEMSセンサーとフィルタに対応しています。(b)の周波数応答を見ると、3dB帯域幅が17kHzまで広がっています。図10(b)では11kHzでした。

図11. オペアンプ回路を含むモデル。(a)はMEMSセンサーとフィルタに対応しています。(b)の周波数応答を見ると、3dB帯域幅が17kHzまで広がっています。図10(b)では11kHzでした。

図12には、MEMSセンサーのモデル(図10のRLC回路)、オペアンプを使用したフィルタのモデルに加え、16ビットのSAR ADCであるLTC2311-16のモデルが含まれています。このようなモジュール方式を採用することにより、シグナル・チェーン全体のシミュレーションを実施することができます。有線のインターフェース回路とEP回路は、別のブロックとして追加しています。

図12. シグナル・チェーン全体のモデル。MEMSセンサー(図10のRLC回路)、オペアンプで構成したフィルタ、16ビットのSAR ADC(LTC2311-16)のモデルが含まれています。

図12. シグナル・チェーン全体のモデル。MEMSセンサー(図10のRLC回路)、オペアンプで構成したフィルタ、16ビットのSAR ADC(LTC2311-16)のモデルが含まれています。

トランジェント解析を行う場合、LTC2311-16のDIGITAL_OUTノードをプローブすると、MEMSセンサーからの電圧VINに対応するデジタル出力を確認することができます。また、LTC2311-16のモデルは、シリアル・クロックとCNVのインターフェースのタイミングを短縮するように修正することができます。更に、デジタル出力のリファレンスであるOVDDは、1.71V~2.5Vの任意の電圧に変更することが可能です。「LTC2865」のように、RS-485トランシーバーの中には、ロジック電源ピンVLを備えているものがあります。このピンには1.8V/2.5Vの電源電圧を入力できるので、ADCが出力するデジタル・データの有線ストリーミングの仕様と一致させることが可能です。RS-485に対応するインターフェースについては、LTC2865のVCCピンを使って3.3V/5.0Vの電源を個別に供給することができます。つまり、ケーブルの駆動用により高い電圧を使用することが可能です。

図13. 図12の回路のシミュレーション結果。MEMSセンサーのモデルからの電圧VIN、フィルタリング後にデジタル化された出力電圧DIGITAL_OUTをプロットしています。

図13. 図12の回路のシミュレーション結果。MEMSセンサーのモデルからの電圧VIN、フィルタリング後にデジタル化された出力電圧DIGITAL_OUTをプロットしています。

MEMSセンサーとEP回路の評価用プラットフォーム

アナログ・デバイセズは、状態基準保全向けのプラットフォームを提供しています。これは、3軸振動センサー「ADcmXL3021」を使用して構成した産業用ワイヤード・リンクのソリューションです。同センサーを含むシグナル・チェーンとインターフェース・ボードは、SPIと割り込み信号で接続されます。SPIの信号は、数mのケーブルを介してリモートのメイン・コントローラ・ボードに送信され、RS-485の物理層に対応する信号に変換されます。SPIからRS-485の物理層への変換は、絶縁型/非絶縁型のインターフェース・ボードを使用して実現します。それらのボードは、iCoupler®に対応するアイソレータ「ADuM5401/ADuM110N」とRS-485/RS-422に対応するトランシーバー「ADM4168E/ADM3066E」を搭載しています。このソリューションでは、電力とデータの伝送ラインが1本の標準的なケーブルに統合されています。つまり、EP回路を適用しています。そのため、リモートのMEMSセンサー・ノードに必要なケーブルとコネクタの数を削減できます。つまり、コストの削減が可能です。専用ソフトウェアが提供するGUI(Graphical User Interface)を使えば、ADcmXL3021の構成を簡単に行い、長いケーブルを介して振動データを取得することができます。また、GUIを使うことで、未処理のデータを時間領域の波形や周波数領域のプロットとして可視化することも可能です。

図14. 有線の振動監視用プラットフォーム。電力/データ伝送を適用しています。

図14. 有線の振動監視用プラットフォーム。電力/データ伝送を適用しています。

まとめ

最新のMEMSセンサーは、高い集積度によって小型化が実現されています。そのため、振動源の近くに設置して振動の周波数を測定することができます。時間の経過に伴って周波数が変化したら、モータや発電機などの振動源に問題が生じていることがわかります。状態基準保全においては、このような周波数の測定が不可欠です。また、EPソリューションを適用すると、MEMSセンサーに必要なコネクタやケーブルの数を削減できます。つまり、コストの削減が可能です。LTspiceは、EP回路を設計する際に使用できる無償の強力なシミュレーション・ツールです。LTspice向けには、Silent Switcherを適用したLTM8002をはじめ、数千種にも上るコンポーネントのモデルが用意されています。それらを使用することで、設計を完成させることができます。ADC、オペアンプ、MEMSセンサーのモデルも利用できるため、シグナル・チェーン全体のシミュレーションを実施することが可能です。

参考資料

1Hiperface DSL® - the Digital Evolution(Hiperface DSL - デジタルによる進化)」SICK Sensor Intelligence、2020年10月

2 Richard Anslow、Dara O'Sullivan「堅牢な有線接続により、インダストリ4.0向けの状態基準保全システムを構築する【Part 2】」Analog Devices、2019年11月 

3IEEE 802.3bu-2016 - IEEE Standard for Ethernet - Amendment 8: Physical Layer and Management Parameters for Power over Data Lines (PoDL) of Single Balanced Twisted-Pair Ethernet(IEEE 802.3bu-2016 - IEEEイーサネット規格 - 修正案8:平衡型のシングル・ツイストペア・イーサネットにおいてPoDLを実現するための物理層と管理パラメータ)」IEEE、2017年2月 

4 Andy Gardner「PoDL: Decoupling Network Presentation(PoDL:デカップリング回路の提案)」Linear Technology、2014年5月 

5 「EN 50155:2017 Railways Applications Electronic Equipment Used on Rolling Stock(EN 50155:2017 車両で使用する鉄道アプリケーション向けの電子機器)」 

6 Gabino Alonso、Kris Lokere「LTspice: Simulating SAR ADC Analog Inputs(LTspice:SAR ADCのアナログ入力のシミュレーション)」Analog Devices、2017年11月 

7 Erick Cook「Use LTspice to Simulate Mixed Continuous and Sampled Systems(LTspiceによる連続/サンプリング混在システムのシミュレーション)」EDN Asia、2020年1月 

8 Simon Bramble「LTspiceで状態基準保全システムの振動データを解析」Analog Dialogue、Vol. 54、No. 2、2020年6月

Richard Anslow

Richard Anslow

Richard Anslow。アナログ・デバイセズのオートメーションおよびエネルギーのビジネスユニットにおいて、モーション・ロボティクス統合チームのシステム・アプリケーション・エンジニアを務める。専門は状態基準保全および工業用通信設計。アイルランドのリムリックにあるリムリック大学で工学学士と工学修士の学位を取得。