パススルー動作が可能な 昇降圧レギュレータ

システムによっては、回路に供給される電源電圧が大きく変動することがあります。その場合、負荷(回路)にとって電源電圧が高すぎたり、低すぎたりといった状況が発生します。この問題は、昇降圧レギュレータを使って回路に給電するようにすれば回避することができます。アナログ・デバイセズは数多くの昇降圧レギュレータ製品を提供していますが、それらの中にはPassThruという動作モード(以下、パススルー・モード)を備えているものがあります。本稿では、その種の昇降圧レギュレータの有用性について説明します。特に、電源の効率とEMC性能を高めたい場合に、パススルー・モードを備える昇降圧レギュレータ(または昇圧レギュレータ)がどのように役立つのか詳しく解説します。

アプリケーションによっては、レギュレータを追加することなく、既存の電源電圧によって負荷である回路を直接駆動できることがあります。ただ、異常な動作状態が発生した際には、その電源電圧が大きく変動する可能性があるというケースも存在します。つまり、負荷にとって電源電圧が高すぎたり、低すぎたりといった状況が発生するということです。そのような例としては、産業分野で使われる24V系のシステムが挙げられます。そのシステムの負荷は24Vの供給電圧によって駆動されるのですが、24Vの電源レールでは、供給電圧が38Vまで上昇したり15Vまで下降したりすることがあると仮定しましょう。そして、そうした電圧は負荷の許容範囲外にあるとします。このようなアプリケーションでは、大元の電源電圧を基にして許容範囲内の電圧を得るために、標準的な昇降圧レギュレータ(または昇圧レギュレータ)が使用されることがあります。

図1は、上記のようなシステムの構成を表したものです。図中の携帯型の無線機器には、バッテリから電源電圧が供給されます。この負荷は10V~14Vの電源電圧に対応できますが、電圧源の出力は8V~16Vの範囲で変動することがあります。そこで、電圧源と無線機器の間に昇降圧レギュレータを配置することによって、電圧源からの電圧を12Vに変換するようにします。電圧源からの電圧が12Vよりもやや低い場合、レギュレータは昇圧モードで動作します。一方、電圧源からの電圧が12Vよりも高い場合には、レギュレータは降圧モードで動作します。

図1.昇降圧レギュレータの使用例。負荷の許容電圧範囲が電圧源の出力電圧範囲よりも小さいシステムに同レギュレータを適用しています。

図1.昇降圧レギュレータの使用例。負荷の許容電圧範囲が電圧源の出力電圧範囲よりも小さいシステムに同レギュレータを適用しています。

パススルー・モードによる改善

図1に示したシステムは問題なく機能します。しかし、改善すべき点も存在します。仮に、ほとんどの時間、電圧源からは負荷が許容可能な電圧が得られるとしましょう。そのような条件下では、パススルー・モードを備える昇降圧レギュレータを使用することで大きな改善が得られます。その場合には、電圧源から入力された電圧を、昇降圧レギュレータからそのまま出力しても構わない電圧範囲(レギュレータへの入力電圧範囲)を規定します。電圧源から入力される電圧がこの範囲内にある場合、レギュレータはパススルー・モードで動作することになります。同モードでは、入力電圧をそのまま出力するので、レギュレータにおいてスイッチング損失が生じることはありません。したがって、非常に高い効率が得られます。また、パルス電流も発生しないので、電磁放射を極めて低く抑えることができます。

図2に示したのは、パススルー・モードを備える昇降圧コントローラ「LT8210」を採用した電源の出力段です。パススルー・モードでは、Hブリッジを構成する2つのハイサイドのスイッチは常にオンになり、2つのローサイドのスイッチは常にオフになります。このような動作により、100%に近い効率を得ることができます。

図2. パススルー・モードにおける昇降圧レギュレータ(LT8210)の動作。入力電圧がそのまま出力されます。

図2. パススルー・モードにおける昇降圧レギュレータ(LT8210)の動作。入力電圧がそのまま出力されます。

LT8210は昇降圧型のソリューションですが、パススルー・モードに対応する昇圧レギュレータも提供されています。Silent Switcher®技術を適用した昇圧レギュレータ「LT8337」はそのタイプの製品です。図3に示したように、同レギュレータがパススルー・モードで動作する際、ハイサイドのスイッチは常にオンになり、ローサイドのスイッチは常にオフになります。

図3. パススルー・モードにおける昇圧レギュレータ(LT8337)の動作。このレギュレータには、Silent Switcher技術も適用されています。

図3. パススルー・モードにおける昇圧レギュレータ(LT8337)の動作。このレギュレータには、Silent Switcher技術も適用されています。

昇圧レギュレータでは、ハイサイドのスイッチとしてフライバック・ダイオードが使われることが少なくありません。そのため、レギュレータへの入力電圧が所望の出力電圧よりも高い場合、その電圧はインダクタとフライバック・ダイオードを通過してそのまま出力されます。但し、その場合にはダイオードにおける電圧降下によって損失が生じます。それに対し、昇圧レギュレータをパススルー・モードで動作させた場合には、ハイサイドのMOSFETが能動的にオンに制御されます。そのため、損失を大幅に削減することが可能です。また、LT8337のパススルー・モードでは、不要な機能がすべてオフになります。その結果、同レギュレータの自己消費電流はわずか15µAに抑えられます。このような製品は、特にバッテリ駆動のアプリケーションにとって非常に有用です。

まとめ

パススルー・モードは、効率とEMC性能の向上に大きく寄与します。電圧源から供給される電圧が負荷の許容範囲内に収まる期間が長いアプリケーションでは、パススルー・モードによって大きなメリットを得ることができます。なお、パススルー・モードでは、定義済みの閾値の範囲内で出力電圧のレギュレーションが行われるわけではありません。ただ、多くのアプリケーションでは、このことは問題にならないはずです。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalはドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスを専攻しました。2001年にパワー・マネージメント分野の仕事に就き、アリゾナ州フェニックスでの4年間にわたるスイッチモード電源業務への従事を含め、様々なアプリケーション分野を担当しています。2009年にアナログ・デバイセズに入社し、現在はミュンヘンにあるアナログ・デバイセズのパワー・マネージメント担当フィールド・アプリケーション・エンジニアです。