柔軟性の高い産業用I/Oモジュール、ソフトウェアによってあらゆる構成に対応
I/Oモジュールやジャンクション・ボックスを使用する際には、様々な課題に直面することになります。これについては、プロセス制御装置で使う場合でも、産業用オートメーション・システムで使う場合でも違いはありません。装置の管理を担当する技術者は、それらを使用する工程において、どれだけのチャンネルをどのような組み合わせで使用できるようにするのか決定する必要があります。また、エレクトロニクス系の技術者は、プロジェクトに関連する様々なアナログ信号/デジタル信号を対象とし、最高の性能とコスト効率を達成可能なシステムをいかにして実装するかという決定を下さなければなりません。装置の導入を担当する技術者は、多種多様な製品や無数の配線を扱わなければならない状況に圧倒されてしまう可能性があります。そのような課題を生じさせる原因を回避すべく、最大限の柔軟性を備えたシステムを設計することができれば、多くの技術者の負担が軽減されるはずです。そうしたコンセプトに基づいてアナログ・デバイセズが開発したのが、ソフトウェアによる構成が可能なI/O(SWIO: Software Configurable Input/Output)です。その製品ファミリを使用すれば、任意のピンにおいて、任意のタイミングで、実質的にあらゆる機能をあらゆる組み合わせで実現することができます。それにより、技術者の負担を軽減するという目標を達成します。
プロセス制御やファクトリ・オートメーションの分野では、産業用のPLC(Programmable Logic Controller)やDCS(Distributed Control System)が利用されます。それらに対する要件は、最終的な顧客やアプリケーションに応じて異なります。プロダクト・マネージャにとって、適切な製品、戦略、最適化に関する定義や選択を行うのは大きな負担です1。4~20mAの通信のようなアナログ出力チャンネルを多用することが望まれるケースもあれば、デジタル入力を多用することが望まれるケースもあるでしょう。また、あるプラットフォームではアナログ・チャンネルを多用し、別のプラットフォームではデジタル・チャンネルを多用することが求められる可能性もあります。図1は、このようなジレンマの様子を表したものです。インダストリ4.0への移行が進むにつれ、メーカーはより柔軟性の高いシステムを必要とするようになりました。消費者の行動や需要に応じて変化する要件に対し、素早く簡単に適応したいからです。もはや、大量生産や予測可能な需要を前提として設計された固定的な大規模システムに頼ることはできません。素早く再構成を実施でき、ダウンタイムや設備投資を最小限に抑えられる柔軟なシステムが求められているのです。
SWIOではチャンネルのプログラムが可能です。入力、出力の選択が行えるだけでなく、アナログ、デジタルの選択もプログラムによって実現できます。また、2線式/3線式のRTD(測温抵抗体)や熱電対による温度の測定に対応できるよう迅速に設定することが可能です。
SWIOは、ブラウンフィールドの実装にも適用できます。具体的には、10BASE-T1Lに基づく産業用イーサネット・システムへのアップグレードに対応可能です。つまり、イーサネット・ベースの制御用ネットワークに対するブリッジとして機能させることができます。そのため、標準的な技術を利用した構成可能なフィールドI/O装置を開発することが可能です。例えば、HART®の4~20mA通信を使用する既存のセンサーやアクチュエータと、10BASE-T1Lや100mのファイバをベースとするバックホールの間の変換を実現するといった具合です。
図2に示したのは、クワッドチャンネルのSWIO製品「AD74413R」のブロック図です。プロセス制御、ファクトリ・オートメーション、ビルの制御といったアプリケーションを対象として設計されています(以下では、産業用途の入出力処理に焦点を絞って解説を進めることにします)。同ICは、完全統合型のモノリシックのソリューションです。主な構成要素として、分解能が16ビットのシグマ・デルタ型A/Dコンバータ(ΣΔ ADC)と同13ビットのD/Aコンバータ(DAC)を搭載しています。ADCの数は1個で、DACの数は4個です。動作温度範囲は-40°C~105°C、パッケージは9mm×9mmの64ピンLFCSPを採用しています。4つのチャンネルは、それぞれSPI(Serial Peripheral Interface)バスを介して構成用レジスタにデータを書き込むことで構成されます。SPIバスは、最高24MHzのクロック周波数に対応します。各動作モードのデフォルトの構成は、AD74413Rのレジスタ・マップによって調整できます。
AD74413Rが内蔵する16ビットのΣΔ ADCは、4つのチャンネルのうち1つ以上における電流/電圧の測定に使用できます。1つの変換要求に応じ、最大4種の診断用の入力を対象として測定を実施することが可能です。変換レートは最高4.8kSPSです。オプションで、50Hz/60Hzの成分を除去するフィルタを利用できます。
13ビットのDACは、チャンネルごとに用意されています。抵抗ストリング方式を採用しており、本質的に単調性と直線性を備えています。これらのDACは、最大25mAの電流出力に対応します。また、故障の診断を実現するものとして、オープン・サーキットの検出機能を備えています。更に、0V~11Vの電圧出力にも対応します。
AD74413Rは、コストを重視するアプリケーション向けにDAC/ADC用の高精度なリファレンスを内蔵しています。最高レベルの性能が必要な場合には、外付けのリファレンスも使用できます。
選択可能な機能、動作モード
表1に、AD74413Rの各チャンネルで利用可能な機能の概要をまとめました。ご覧のように、同ICは電圧出力、電流出力、電圧入力、電流入力(外部駆動)、電流入力(ループ駆動)、外付けRTDの測定、デジタル入力ロジック、デジタル入力(ループ駆動)に対応します。これら以外に、パワーアップ後/リセット後のデフォルトの機能としてハイ・インピーダンス・モードも備えています。
各チャンネルの機能(CH_FUNC_SETUPxレジスタによってプログラム可能) | 使用例 |
高インピーダンス | プルダウン(オプション) |
電圧出力 | 短絡保護 |
電流出力 | オープン・サーキットの検出 |
電圧入力 | プルダウン(オプション)、熱電対による温度測定 |
電流入力(外部駆動) | 短絡保護、HART互換モード |
電流入力(ループ駆動) | 短絡保護、HART互換モード |
抵抗の測定 | レシオメトリック測定、2線式(または3線式)のRTD |
デジタル入力ロジック | フィルタ付き/フィルタなしの電圧測定、デバウンス機能 |
デジタル入力(ループ駆動) | フィルタ付き/フィルタなしの電圧測定、デバウンス機能 |
電圧出力モードで使用されるアンプは、最大11Vのユニポーラ電圧を生成できます。同ICは低電圧に対応するチャージ・ポンプを内蔵しているので、電圧出力アンプは真の0V出力を生成することが可能です。このモードでは、外付けの検出抵抗によって電流がフィードバックされます(FVMI方式)。SENSEL_x(xはA、B、C、D。以下同様)ピンを介した負帰還により、正しい電圧レベルが得られるようレギュレートされます。
電流出力モードでは、DACによって電流( 通常は0mA~25mA)が出力されます。この出力は、センサー用の抵抗(SENSEL_xピンとSENSEH_xピンの間)に生じる電圧差を検出することによってレギュレートされます。抵抗性の負荷の値が小さい場合には、ダイの消費電力を少なく抑えるために、外付けのPMOSに0mA~25mAの出力電流を流す方法も使用できます。
電流入力モードは、外部駆動とループ駆動の構成に対応します。このモードでは、検出抵抗を流れる電流が16ビットのΣΔ ADCによって自動的に測定されます。この場合、フィルタを適用可能な検出ピン(SENSEHF_xとSENSELF_x)が使用されます。また、外部駆動の場合もループ駆動の場合も、230Ωの最小受信インピーダンスが保証されるHART互換モードを利用できます2。
電圧入力モードでは、フィルタ付きのポート(SENSELF_x)の1つとグラウンド・センスを介してADCによる電圧の測定が行われます。オプションとして、フローティング電圧をプルダウンすることが可能です。ADCには、熱電対による測定専用の入力範囲設定機能が用意されています。これを使って熱電対の測定値を取得することができます。
抵抗測定モードでは、2.5Vのバイアスから得られる電圧によって、外付けの2線式RTDをバイアスします。電圧をバイアスするプルアップ抵抗により、レシオメトリックな測定が正確に行われることが保証されます。励起電流が少ないことから消費電力は最小限に抑えられ、RTDの自己発熱も緩和されます。
デジタル入力モードは、IEC 61131-2のタイプI、タイプII、タイプIIIをサポートします。閾値は専用のレジスタによってプログラム可能です。各チャンネルは、専用の汎用出力(GPO)機能と、ユーザーがプログラム可能なデバウンス用のフィルタ機能を備えています。
堅牢性を高める診断機能
産業用アプリケーションに対応するために、AD74413Rはノイズの多い環境でも堅牢性を維持できるように設計されています。例えば、配線ミスやサージなどの事象によって生じる過電圧に耐えられるようになっています。オンチップのライン・プロテクタにより、ネジ端子の電位がAVDDピンよりも高くなっても、同端子からICに電力が供給されることはありません。また、TVS(Transient Voltage Suppressor)を追加すれば、大きなサージから入出力端子を守ることができます。加えて、堅牢性を高めるために、AD74413RのSPI回路にはCRC(Cyclic Redundancy Check)機能が組み込まれています。
AD74413Rには、正しい動作を維持するために複数の診断機能が用意されています。それらの機能は、最も一般的な障害のシナリオに対応して警告を発します。監視の対象になるのは、電源電圧、リファレンス、ダイの温度(値に応じてアラートまたはシャットダウン)、ネジ端子です。ネジ端子の診断機能は、その電圧がAVDDよりも高くなるか、0Vよりも低くなるような障害が発生した場合に、そのことを検知します。この機能は配線ミスの検出に利用できます。外付けの検出抵抗は、診断機能だけでなく正常な動作を維持することにも役立ちます。例えば、電圧出力モードにおける短絡の検出や、電流出力モードのレギュレーションを実現できます。AD74113Rでは、電圧/電流を強制的に印加し、フィールド・デバイスからの電流/電圧の応答を取得することが可能です。そのため、ユーザーは、接続されたセンサー/アクチュエータのテスト用に独自の診断ルーチンをプログラムすることもできます。
アラートの条件が成立すると、ALERTピンがアサートされます。また、ALERT_STATUSレジスタによって障害の原因が特定されます。
併用可能なソリューション
多くのアプリケーションでは、I/OモジュールやPLCをマイクロプロセッサから絶縁することが求められます。あるいは、I/OモジュールやPLCに、バス側から制御するための電子ユニットを実装することが求められるケースもよくあります。そうした場合には、電源とデータをガルバニック絶縁しなければなりません。電源、データの絶縁を実現できるようにするために、アナログ・デバイセズはSWIO製品に専用のアイソレータを提供しています。そうした製品の例としては、高性能の絶縁型パワー・マネージメント・ユニット「ADP1032」が挙げられます。これは、絶縁型フライバック・レギュレータ、降圧レギュレータ、データ絶縁チャンネルで構成されています(図3)。
電磁干渉(EMI)は、2つのレギュレータの位相をずらすことによって大きく低減されています。電流モードのフライバック・コントローラを使えば6V~28Vを供給可能です。また、低電圧ロックアウト(UVLO)、過電流/過電圧保護、イネーブル制御、ソフト・スタート、スルー・レート制御の各機能も備えています。加えて、低消費電力のデジタル絶縁チャンネルを計7つ(SPI用に4つ、汎用通信用に3つ)搭載しています。
I/Oモジュールに対しては、一般的に求められる機能がもう1つあります。それは、リレーやランプを駆動する機能です。AD74413Rは、特別なデジタル出力(DO)としてもプログラム可能なGPOを備えています。電流制限を実現するコントローラ「ADM1270」と外付けのPMOSを併用すれば、GPOピンによってリレーやランプを駆動するための数百mAの電流をレギュレートすることが可能です。ADM1270は、そうした誘導性/抵抗性の負荷を対象として、突入電流の制限機能と過電流保護の機能を提供します。標準的なアプリケーションの例は、AD74413Rの評価用ボードに見ることができます。
HART向けの変調機能が必要な場合には、「AD5700」を使用するとよいでしょう。それにより、AD74413Rをベースとするシステムにモデム機能を組み込むことが可能になります。
本稿では産業用のアプリケーションに焦点を絞ったので、主にAD74413Rについて説明しました。このファミリの製品としては、AD74413Rを軽量化した「AD74412R」という製品も提供しています。AD74412Rはビルの制御をターゲットとしており、動作温度範囲を-40°C~85°Cに絞っています。また、電流入力と電流出力の精度も抑えられています。電源電圧は最大26.4Vです。
まとめ
適切なSWIO製品を採用すれば、複数の固定機能を備える旧来のI/Oモジュールを置き換えることが可能なプラットフォームを開発することができます。また、SWIO製品は、装置のI/Oが変更される可能性がある複数のアプリケーションに適用することも可能です。従来の多くのシステムは、複数のI/Oモジュールを備えた制御キャビネットに依存しており、チャンネルの種類ごとに配線を規定する必要がありました。そのようなシステムに代わり、制御室からプログラムが可能な単一のモジュールを導入できるようになれば、ハードウェアの追加/変更が不要になります。その結果、製品の管理、物流、製造、サポート関連のコストが削減されます。SWIOの技術は、既に導入済みの装置に対しても適用できます。つまり、イーサネット・ベースの制御用ネットワークに対するブリッジとして機能させることも可能です。
著者について
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