Thought Leadership

Vikas Choudhary,

Strategic Marketing Manager for Battery Formation and Test products

著者について
Vikas Choudhary
Vikas Choudharyは、アナログ・デバイセズにおいて、バッテリの組み立て/テスト製品を担当する戦略マーケティング・マネージャを務めています。マサチューセッツ州ウィルミントンの事業所に勤務しています。バッテリの組み立てとテストという比較的新しい分野において、製品と事業戦略を開発する役割を担っています。20年以上にわたって半導体事業に携わっており、RF IC、高速インターフェース、MEMS、リニア/高精度信号処理ICの分野で、システム・アーキテクト、技術統括、管理業務を担当してきました。その間に5件の特許を取得しています。「MEMS:Fundamental Technology and Applications」(MEMS:その基礎技術とアプリケーション)という書籍の編集を担当したこともあります。また、専門誌やカンファレンスの論文集に複数の論文が採用されています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で理学修士号を取得しています。
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バッテリ用の高度な組み立て/ テスト・システム、電気自動車の増産で 求められる新たな手法


Figure 1

CO2に対する規制の強化と消費者のエコ意識の向上に牽引され、電気自動車(EV)への移行のペースはますます加速しています。現時点では、バッテリ駆動の車両は自動車の総販売台数の1%にも達していません。しかし、2025年までには、最大で10%を占めるようになると予想されています1。しかし、バッテリはコストが高いという大きな課題を抱えています。実際、未だに車両のコスト全体のうち約半分をバッテリのコストが占める状態にあるのです。

バッテリのメーカーにとって、コストを左右する要因は数多く存在します。言い換えると、コストを大きく削減できる可能性のある領域はいくつかあります。その1つが、バッテリを製造する際の最終工程です。具体的には、バッテリの組み立て工程とテストの工程がそれに当たります。これらの工程にかかるコストは、EV用バッテリのコストの20%を占める場合もあります。

Bバッテリの組み立てとテストは時間のかかる作業です。バッテリの化学反応を引き起こすためには、充電と放電を何度も繰り返す必要があります。その作業には丸2日を要することもあります。バッテリを使用可能な状態にし、その信頼性と品質を保証するためには、この工程が必須です。バッテリ製造のスループットを向上すれば、全体的なコストを削減できるのですが、この時間のかかる工程が、それを妨げる重大なボトルネックになっています。そこで、EV用バッテリのメーカーは、バッテリの組み立てシステムとテスト・システムに関する専門技術を有するサプライヤとの提携を進めています。それにより、バッテリの高度な化学反応に必要な精度を維持しつつ、組み立て/テストという重要な工程にかかる時間とコストを削減すべく取り組みを行っています。

スループットの向上によるバッテリ・コストの削減

バッテリ・メーカーは、バッテリのコストを削減するために包括的なアプローチを導入する必要があります。まずはサプライヤが有するシステム・レベルの専門技術を活用することにより、チャンネル数を増加させつつ、バッテリ用のテスト回路の全体的な実装面積を削減します。ここで重要なのは、安全性、性能、信頼性に対する要求を満たすことを保証しつつ、バッテリの組み立て/テスト(計測)における確度、精度、信頼性を両立させることです。

上述したことを実現するのは容易ではありません。フロント・エンドでは、バッテリ用の充電回路を駆動する電源をきめ細かく制御する必要があります。バッテリの組み立て/テストを行うには、バッテリが利用されている間に適用される電流と電圧のプロファイルを慎重にモニタリングし、過充電と過放電を防ぐ処理が必要になります。それにより、テストを実施している際の安全性が確保されるだけでなく、バッテリの寿命を最大限に延伸できます。バッテリの寿命が長ければ、エンド・ユーザーにとっての総所有コストは大きく削減されます。

上記のとおり、テストの工程において、バッテリの性能を計測する作業は非常に重要です。工場の過酷な条件下において、バッテリの充放電電流を±0.05%よりも高い精度で測定するには、非常に優れた性能の計装アンプ(イン・アンプ)とシャント抵抗が必要です。動作温度範囲の全体にわたって電圧のモニタリングに使われる差動アンプにも、それと同程度の精度が求められます。

これらの部品を1つの完全なソリューションに組み込むための方法は、数多く存在します。ただ、システムの性能を最大限に高めつつ、実装面積を最小限に抑えるのは至難の業です。このような理由から、アナログ・デバイセズは「AD8452」というICを開発しました。同ICには、アナログ・フロント・エンド、電源制御回路、モニタリング回路が集積されています。このICにより、バッテリの逆流防止、スイッチによる過電圧保護、バッテリの過充電を防ぐスマートな制御を実現できます。また、そうした一連の機能の実装面積を50%縮小することが可能です。このICを採用することにより、バッテリ・メーカーは、より多くの機能をテスト・システムに搭載することができます。同時に、製造フロアのスペースをより有効に活用することが可能になります。より多くの機能を備え、より小型で、より堅牢なテストを実行できるシステムを設計できるようになるということです。

電力変換を効率的に行えば、システム性能の更なる向上につながる別の機会が生まれます。高度なスイッチング・アーキテクチャをテスト・システムに採用することで、電力網との双方向のエネルギー交換が可能になり、消費電力を抑えることができます。また、効率的な電力変換が行えれば、システムの全体的なコストと消費電力の増大につながる熱管理装置の要件を緩和できます。それにより、無駄に浪費される電力と、製造コストを減らすことが可能になります。効率的な電力変換を実現するには、高速スイッチングの要件に対応するシステム機能について評価する必要があります。システム機能の例としては、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を用いた新たなパワー・スイッチング技術に対応する絶縁型ゲート・ドライバなどが挙げられます。

システム・レベルの専門技術と幅広い製品群を有するサプライヤと密に連携すれば、バッテリ・メーカーは、より洗練された部品やビルディング・ブロックを活用できます。それだけでなく、システムのアーキテクチャに対応するリファレンス・デザインも利用可能です。バッテリ・メーカーは、簡単に導入できるように設計されたリファレンス・デザインを活用することで、組み立てシステムやテスト・システムをゼロから開発する場合と比べて、市場投入までの期間を1/3~1/4に短縮できます。

世界レベルで見たEVの需要は、2021年までに21%のCAGR(年平均成長率)で増え続けると予想されています2。そのため、現在はバッテリ・メーカーとサプライヤの密な連携が非常に強く求められています。サプライヤは、実績があり、信頼性が高く、メーカーのシステムに対して新たなレベルの効率をもたらすソリューションを提供する必要があります。最良のサプライヤと手を組むことによって、バッテリ・メーカーは、より迅速に新たなシステムを完成させることができます。結果として、バッテリならびにそれを使用する電気自動車の生産量を最大限に拡大することが可能になるでしょう。