Thought Leadership
電気機械アクチュエータ向けのスマートなドライバIC、よりインテリジェントなエッジを実現可能
概要
エッジのインテリジェンスを強化するにはどうすればよいのでしょうか。注目すべき要素は、電気機械アクチュエータ用のドライバICです。非常に高度でスマートなドライバICを採用することにより、目的を達成することができます。実現したいのは、アクチュエータとセンサーの機能を併せ持つスマート・エッジ・デバイスを構成することです。そうすれば、マシンのレベルでリアルタイムの優れた意思決定が行えるようになります。また、上位の制御レベル、クラウド、あるいはAIによって生産性の向上を図るソリューションに対し、エッジから情報をフィードバックすることができます。本稿では、アナログとデジタルが交わるインテリジェントなエッジに必要な技術とスマート・ドライバ・ソリューションについて説明します。
はじめに
エッジのインテリジェンスを高めるためには、電気機械アクチュエータ(EMA:Electromechanical Actuator)のようなデバイスをよりスマートなものにしなければなりません。それにより、マシンにおいて、より優れたリアルタイムの意思決定を行うことが可能になります。センサーと同じような機能も備えるスマートなEMAを実現すれば、スマートで価値のあるフィードバックを豊富に提供できるようになります。インダストリ4.0やその後の進化の鍵を握るのは、そのようなエッジ・デバイスです。よりスマートなEMAは、ロボットの制御に使われるだけでなく、工場のプロセス制御や自動化においても一役を担います。つまり、デジタルの情報を物理的な動きに変換するだけでなく、より高いレベルのインテリジェンスや自己認識の機能も提供します1。一般に、アクチュエータは物体を操作するために使用されます。一方、センサーは現実の世界のパラメータを測定して定量化する役割を果たします。つまり、センサーは物理的な値をデジタルのデータに変換するためのものだと言えます。このような一般的な概念に基づき、アクチュエータとセンサーは全く異なるデバイス/コンポーネントだと認識されてきました。
多くの場合、EMAの実体はステッパ・モータまたはソレノイドです。それらは、あらゆる工場の製造フロアや、車載システム、ラボラトリ・オートメーションなどで使用されています。ステッパ・モータとソレノイドの世界市場は数十億米ドルの規模で成長を続けています。その市場は、ラボ用アプリケーション、医療用アプリケーション、産業用アプリケーション、車載アプリケーションによって牽引されています。そうしたアプリケーション分野では、より高度な自動化や、アクチュエータとドライバ(アクチュエータの駆動用エレクトロニクス)の小型化に注目が集まっています。従来のドライバ・ソリューションは、こうした新たなニーズには合致していません。特に、センシングの機能が不足している点が問題になります。
cDriver™は、シリコンをベースとする最新のソリューションです。このソリューションは、スマートなコントローラとドライバで構成されています。EMAの制御機能とセンサーと同様の機能が単一のコンポーネントに統合されており、組み込みモーション・コントロールのソリューション内で使用できるようになっています。そのため、エッジ向けのインテリジェントなEMAを実現することができます2、3。システムのパラメータや状態変数の中には、EMAの内部でしか直接利用できないものがあります(例えば、温度、ソレノイドの反応時間、モータの負荷の値など)。あるいは、EMAが配備されているその場でしか直接利用できないものも存在します。cDriverを採用すれば、そうしたシステムのパラメータや状態変数を適切な場所で測定/評価することが可能になります。
このようにEMAの制御機能とセンサー機能を融合すれば、EMAにはパラダイム・シフトがもたらされます。そうしたEMAは、単純な電力変換システムから自己認識型のセンサーへと進化します。また、EMAを完全に制御しつつ、その場で取得したデータを上位の制御レベル、クラウド、あるいはAIによって生産性の向上を実現するソリューションに提供することが可能になります。このように、EMAがセンサーとしても機能するようになれば、大きなメリットが得られます。
EMAの概要
ここでは、EMAの概要について説明しておくことにします。ステッパ・モータとソレノイドは、いずれも車載、産業、医療といった広範なアプリケーション分野で使用されています。また、両者には多くの共通点があります。最も大きな共通点は、どちらも銅のコイルに電流を流すことで機械的な動きを得る点にあります。
通常、2相ステッパ・モータは、2つの電流源によって制御されます。それらの電流源は、位相が90°ずれたsin波とcos波の形状の電流を2つの相に誘導します。ステッパ・モータでは、コイル(ステータ)を流れる電流によって磁界の方向が決まります。ロータの向きは、ステータの磁界の中でコンパスの針のように揃います。磁界の回転を電気的に制御することにより、ロータの向きが磁界内で揃って回転が生じます。図1に示したのはステッパ・モータの実例です。標準的なハイブリッド・ステッパ・モータのステータ/ロータの構成と、数種類のステッパ・モータの外観を示しています。
上述したように、ソレノイドにはステッパ・モータと似た部分があります。ソレノイドでも、コイルに電流を流すことによって機械的な動きを得ます。ソレノイドの可動部分は、回転する磁石ではなく金属製のプランジャです。これは直線的な動きを提供します。制御の観点からは、ソレノイド・バルブはオン/オフ型(スイッチング型)と比例弁型の2種類に分けられます。スイッチング型のソレノイドは、空圧バルブや油圧バルブのオン/オフ機能を実現するために使用されます。ソレノイドのコイルが通電すると、磁界が発生して金属製のプランジャが磁界の方向に移動します。プランジャを動かすためには、非常に多くの初期電流(ヒット電流)が必要になります。ただ、プランジャを所定の位置に保持するために必要な電流(ホールド電流)の量は少なく抑えることが可能です。コイルの通電が停まると、磁界が消失してプランジャが自由な状態になります。その際、プランジャは外部の力(バネ、重力など)を受けて元の位置に戻ります。図2に示したのは、スイッチング・バルブを駆動する際の代表的な電流プロファイルです。電流の立ち上がりフェーズ(エナジー時間)を見ると、その量がわずかに低下している部分があります。この状態は、プランジャの移動によって発生した逆起電力(BEMF:Back Electromotive Force)によって生じます。励磁時間が終了すると、電流量はホールド電流のレベルまで引き下げられます。この電流により、必要な時間だけプランジャを所定の位置に保持することができます。比例弁は、エネルギーの流れを制御することによって、ソレノイドに流れる電流の量を調整します。それにより、プランジャを任意の位置に保持します。通常、これは閉ループの制御システムとして実現され、特定のシステム変数(圧力、風量、流量など)の制御が行われます。
なぜ、EMAの制御に新たなアプローチが必要なのか?
現在、市場では様々なドライバICを入手することができます。ただ、それらはソレノイドの駆動や、効率的で経済的な実装を実現できるよう最適化されているとは限りません。例えば、組み込み型の制御用シーケンサ、アプリケーション固有の機能、診断機能、保護機能などが欠如しているケースが多いでしょう。高度な制御機能(ドライバ用のシーケンサ、ディザリング、高速消磁、電流測定)や高度な診断機能(プランジャの移動の検出4、オン/オフの状態の検出、インダクタンスの測定、オープン負荷の検出)が必要な場合には、次善の策となる回路を追加したりする必要があります。結果としてシステムの複雑さが大幅に増大します5、6、7、8。設計者は、1つ1つのブロック(デジタル・コントローラ、電流検出回路、シグナル・コンディショニング回路、出力段、保護用回路)を設計し、それらを相互に接続します。その際には、筐体/基板上の実装スペース、設計期間の長期化、アプリケーションの信頼性の低下、部品点数(BOM:Bill Of Material)の増加、柔軟性の欠如といった多くの課題に対応しなければなりません。
以下では、EMA用の組み込みコントローラ/ドライバに対する新たな要件やニーズにつながる世界的なトレンドについて確認することにしましょう。
小型アクチュエータの進化
医療用機器、化学工業で用いられる装置、ラボラトリ・オートメーション機器、半導体製造装置、食品/飲料の分野で用いられる装置、産業用機器、車載機器などでは、小型化が大きな課題になります。EMAは、この課題の解消に貢献できるコンポーネントだと言えます。なぜなら、コスト効率とスペース効率の面で優れているからです。ここで図3をご覧ください。これは、小型化されたバルブ、マニホールド、ハイブリッド・ソリューション(ステッパ・モータ+ソレノイド)の例を示したものです。そのサイズは、直径わずか数mmのレベルまで抑えられています。小型のEMAがもたらすメリットにより、その市場の成長は加速すると予想されます。その一方で、様々な追加の要件も寄せられるようになりました。例えば、実効寿命の延伸、耐久性と信頼性の向上、実装スペースを削減するための小型の組み込みコントローラ/ドライバの供給、取り扱いと制御の簡素化といった新たなニーズが生じています。
診断機能の強化
EMAを長期にわたって動作させると劣化が生じやすくなります。また、電気的な問題(コイルの不具合、コイルの残留電力、過熱、絶縁不良など)や機械的な問題(バルブの部分的な閉鎖や開放、マニュアル・オーバーライド、圧力の差の影響、汚れの付着、バルブ機構の損傷、グリースの乾燥など)によって障害が発生する可能性もあります。これらの課題は、EMAまたはそれを使用するシステムの性能、寿命、稼働率に影響を及ぼします。このことが理由となって、デジタル化に関連する極めて重要な要求が生じています。アクチュエータとそれを制御する電子回路の健全性を監視する機能が求められているのです。具体的には、ローカルのシステムのパラメータに関する詳細かつ正確な診断情報をフィードバックする仕組みが必要とされています。それにより、エッジから上位の制御レベルに、未処理のデータや前処理を施したデータの形で診断情報を伝達できるようにしたいということです。そうすれば、ローカルのマシンのレベルで、変化に対応するためのより適切な判断が行えるようになります。ドライバからの単純なエラー・フラグと比べてはるかに価値の高いフィードバック情報を生成し、診断を実施できるようにすることが求められています。
エネルギー効率の改善
温室効果ガスの排出量の削減に向けて、カーボン・フットプリントという指標が大きな役割を果たすようになりました。エネルギー効率については、世界的な環境政策、コスト、アプリケーションの制約によって左右されるという側面があります。エネルギーは、世界で最も貴重な資源の1つであり、それに関連するコストは上昇し続けています。このような背景から、アクチュエータの消費電力についても、最適な制御によって最小限に抑えなければならないことは明らかです。そうすれば、副作用として別の好影響がもたらされます。その副作用とは、消費電力を効果的に制御することにより、アプリケーションにおいてソレノイドやステッパ・モータが低い温度に保たれるというものです。結果として、システムを冷却するための負担が軽減されます。加えて、温度の影響を受けやすいラボ用アプリケーションなど、温度に対する要件が厳しい特定の用途でも問題なくEMAを使用できるようになります。
TTMの短縮
システムが複雑化している一方で、製品を市場に投入するまでにかかる時間(TTM:Time to Market)については更なる短縮が求められています。この問題に対処する上では、高度に統合されており、実績があり、すぐに使用できるビルディング・ブロックやサブシステムが役に立ちます。それらを利用すれば、全体の複雑さを軽減したり、複雑さが表に現れないようにしたりすることが可能になります。それだけでなく、設計上のリスクを軽減し、TTMや開発サイクルを妥当なレベルに維持することができます9。システム設計においては、通信インターフェースと、ソフトウェア中心の視点がますます重要になっています。そのため、アクティブなシステム・コンポーネントやビルディング・ブロックを選択する際には、通信インターフェースや制御インターフェースの柔軟性と機能に注目する必要があります。
TCOの削減
製品のライフサイクル全体に関連する総コストは、一般に総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)と呼ばれています。TCOに含まれるのは、開発費やその他の非反復エンジニアリング・コストだけではありません。エネルギー(エネルギー効率)、保守、稼働率、サプライ・チェーンにおけるリスクなどに関連する直接的/間接的なコストが含まれます。エネルギーに関するコストは直接的に測定/算出することが可能です。一方、保守コストは事前に見積もることができます。産業分野や医療分野など、製品の寿命が長い市場セグメントでは、TCOを考慮し、それを最小限に抑える必要があります。
EMAとセンサーを融合するcDriver
ここまで、様々な世界的なトレンドを紹介してきました。それらを踏まえると、EMA向けのcDriverのような製品にはセンサーに似た機能が必要であることがわかります。実際、そうした機能を備えるマルチチップのソリューションやモノリシックのチップ・レベルのソリューションが続々と登場しています。一般に、その種のドライバ製品は、アナログのドライバ機能だけではなく、センシング機能や、強化されたデジタル機能、意思決定機能、通信インターフェースなども備えています。アクチュエータとセンサーの機能が融合されることにより、多くのニーズが満たされます。言い換えれば、ソレノイドやステッパ・モータをベースとするアプリケーションに様々なメリットがもたらされるということです。
EMAを小型の組み込みハードウェアへと進化させる
小型のバルブ、マニホールド、多軸ステッパ・モータを駆動/制御するためのものとして、高度に統合された組み込みハードウェア・ソリューションがあれば非常に便利です。コントローラやドライバをコンパクトに実現すれば、EMAのサブシステム全体を小型化することができます。つまり、スペースに制約のあるアプリケーション分野で競争力を得ることが可能になります。
ここで図4をご覧ください。これは、単一のソレノイド、マニホールド、多軸ステッパ・モータを使用するシステム向けの代表的な組み込みハードウェア・ソリューションの概要を示したものです。ご覧のように、通信用のバス・インターフェース、アプリケーション制御用のマイクロコントローラ(MCU)、1つ以上のコントローラ/ドライバ・ユニットで構成されています。
通信インターフェースとMCUとしてどのようなものが最適であるかは、アプリケーションとシステム全体のアーキテクチャに依存します。通常、これらはユニットごとに1つしか必要ありません。一方、アクチュエータのコントローラ/ドライバ段は、マニホールドや多軸システムによっては複数必要になることがあります。このことは、コントローラ/ドライバ段が最適化の対象になる可能性が最も高くなるということを意味します。ソレノイド用に実装された一般的なドライバの中にも、拡張機能を提供するものは存在します。しかし、そうした製品を使用すると、多くの部品と多くの実装スペースが必要になります5、6、7、8。
それに対し、制御/センシング用の拡張機能を単一のコンポーネントに完全に統合すれば、基板上の実装スペースを最小限に抑えることができます。例えば、電流検出の機能を統合したソリューションでは、大きな外付けのセンス抵抗や追加のシャント・アンプが不要になります。また、オン抵抗の小さいドライバ段を統合すれば、最高の効率が得られ、熱損失を低減できます。その結果、冷却用に必要なスペースを削減することができます。また、重要なアプリケーション環境に対しても好影響がもたらされます。
図5は、超小型なソリューションとして実現されたマニホールドの例です。これを採用すれば、部品点数を削減し、実装スペースを節約することができます。また、アプリケーションで使用するコンポーネント、プリント回路基板、ハウジング材料に関するコストを削減することも可能になります。
ソレノイド向けのものと同様に、ステッパ・モータ向けのソリューションでもドライバ部は大きなスペースを占めます。高度に統合されたステッパ向けのcDriverであれば、質の高い制御を実現しつつ、実装スペースを大幅に削減することができます。診断機能やフィードバック機能に加えて、モーション・コントローラ、パワー段10、11、完全に統合された電流検出機能12、13も備えています。
スイスのHombrechtikon Systems Engineeringでプリンシパル・エレクトロニクス・エンジニアを務めるReto Himmler氏は、次のように述べています。
「当社は、ADI Trinamic™技術を採用したアナログ・デバイセズのステッパ・モータ・ドライバを10年以上使用しています。それらのドライバは、業界をリードする機能を備えているからです。特に、『TMC5240』13は、私たちが待ち望んでいた製品だと言えます。このICを使用すれば、小さなフォーム・ファクタでモータに多くの電流を供給することができます。また、電流検出機能も内蔵しています。そのため、当社のラボラトリ・オートメーション用の装置において、基板上の貴重な実装スペースを節約することが可能になりました。加えて、オン抵抗が小さいことから損失を少なく抑えられ、機械設計の自由度が高まります。更に、8点のランプ波形も非常に優れています。既存の製品が提供する6点のランプ波形でも、当社のアプリケーションのニーズを十分に満たします。しかし、TMC5240のランプ波形が高い評価に値することは明らかです」。
強化された診断機能、予知保全と自己認識への道を開く
スマートなデバイスであるcDriverを使用すれば、センサーと似た機能によってデータを収集することができます。それらのデータはローカルで利用することが可能です。では、それらの豊富な情報によって何を実現できるのでしょうか。
cDriverを使用すれば、次のようなパラメータの値を取得できます。すなわち、ドライバの温度、コイルの抵抗値と温度、コイルのインダクタンスの推定値、電源電圧、コイルに流れる電流、BEMFなどの情報です。また、cDriverに統合されたスマートな機能とアルゴリズムを利用すれば、システムに関する次のようなパラメータの値を導出したり、状態を検出したりすることができます。例えば、システムとアプリケーションの状態、ソレノイドの反応時間/移動時間、局所的な電流の低下、オープン負荷、過電流と短絡、部分的な閉鎖やプランジャの移動、プランジャの変位の測定値、リアルタイムの電流値などの情報が得られるということです。ステッパ・モータについては、StallGuard™に基づく実際の負荷の情報とCoolStep™による電流の低下レベルも取得することができます14、15。多くのアプリケーションでは、StallGuardで取得した負荷の値が極めて貴重な情報になります。長期的なドリフトは、機構やギアの劣化、あるいはアプリケーション内の機械的なエンド・ストップ(端部停止機能)の障害の兆候である可能性が高いからです。StallGuardで取得した値は、モータ・シャフトにかかる負荷の状態に直接関連しています。その値は、モータの加速、外力に応じ、アプリケーションや時間の経過によって変化する可能性があります。StallGuardで取得した値を利用すれば、モータのストールが発生する前にその兆候を検出することも可能です。こうしたことから、StallGuardで取得した値は、センサーレスのエンド・ストップ検出やアプリケーションのキャリブレーションに利用することができます。
cDriverを採用すれば、検出機能や診断機能をローカルで実行することが可能になります。また、その場でフィードバック情報を利用することもできます。そのため、以下に示す3つのレベルの予知保全と自己認識への道が開かれます(図6もご覧ください)。
- cDriver のコンポーネント内というローカルのレベル
- 組み込みサブシステムのローカルの MCU が実行するアプリケーションのレベル
- 製造フロア、プラント制御システム、クラウドといった上位のレベル
cDriverでは、ローカルの監視機能と自己診断機能によって、コントローラ/ドライバの内部でより優れたリアルタイムの判断を直接行うことができます。それにより、構成が可能な過熱保護、構成が可能な短絡検出、障害発生時のドライバの保護、ヒット電流からホールド電流への自動的な切り替え、即時の障害レポート(ソレノイドのプランジャが固着した場合など)などの機能を実現可能です。
ローカルのMCUを使用すると、アプリケーションのコンテキスト内で、センサーと同様の機能によって取得したデータを解釈することができます。この仕組みを利用すれば、より精緻な機能を実装することが可能になります。また、cDriverのシリアル・インターフェースを介したリアルタイムの監視も行えます。診断情報とパラメータの値は、EMAとcDriverから継続的にフィードバックされます。つまり、ストリームとして扱えます。これを利用すれば、より具体的な状態の監視、長期的な障害の特定、パターン検出などを実現できます。また、反応時間/移動時間の測定、局所的な電流の低下の探索、プランジャの変位の検出、負荷の値の取得といった処理も実行可能です。これらのパラメータの値は、時間の経過に伴って変化することがあります。そうしたドリフトは、アクチュエータの経年劣化の兆候だと言えます。このことから、動作寿命中に予防保全を適用する必要があることがわかります。加えて、センサー機能によって取得したデータを集計することも可能です。アプリケーションにおける統計値を利用すれば、障害を単純に検出するのとは異なる効果が得られます。集計した統計値は、前処理と適切なフォーマット変換を適用した上で、通信バス・インターフェースを介して上位の制御レイヤに伝達することができます。バス・インターフェースとしては、IO-Link®やCANopen、各種の産業用イーサネットなどが使われます。
分散した個々のアクチュエータ、マニホールド、多軸システムからのデータは、上位の制御レイヤに対してストリーミングされます。製造フロアの各ブロックの連携を図れば、制御方法の改善、システムの健全性の監視、メンテナンスの簡素化、それらに関するメタデータを備えたコンテキストへの変換といったオプションを提供することも可能です。例えば、マニホールドの反応時間/移動時間を把握すれば、複数のバルブの同期をとることができます。また、相互作用とスループットを改善するために、ソレノイドをはじめとするEMAのオーケストレーションを改善することもできるでしょう。その結果、障害のあるEMAを識別し、その位置を特定するといったことも行えるようになります。
優れた制御によるエネルギー効率の改善
ソレノイドの反応時間/移動時間を測定する機能や、電流の局所的な低下を検出する機能は、消費電力の削減に役立ちます。目標とする電流値やスルー・レートといった制御用のパラメータを調整し、反応時間/移動時間を最適化することが可能になるからです。また、あらかじめ設定された静的なヒット時間のウィンドウを使用するのではなく、最適な時点でヒット電流からホールド電流への切り替えを自動的に実行することも可能です。つまり、ソレノイドのコイルに供給される無駄なエネルギーを節約できるということです。その結果、ソレノイドのユニットの効率が更に向上します。特に、ホールド状態が機械的な方法(バネなど)で維持されるバイステーブル・パルス・ソレノイド・バルブ(ラッチ・バルブ)では大きな効果が得られます。その場合、ホールド電流はゼロとなり、励磁ヒット電流だけがトータルの消費電力に影響を及ぼすことになります。
ステッパ・モータのアプリケーションでは、負荷の値を取得するStallGuardだけでなく、ADI TrinamicのCoolStepも利用できます14、15。このことは、エネルギーの大幅な節約につながります。CoolStepを利用すれば、モータ・シャフトの実際の負荷を考慮し、電流のレベルをセンサーレスで動的に制御できます。シャフトの負荷が軽い場合、モータに対して公称値どおりの目標電流を供給する必要はありません。その目標電流の値を必要最小限に抑えるように調整しても構わないということです。同様に、負荷が増大する場合にも、目標電流の値を調整してモータのトルクを高めることができます。また、ピーク負荷も捕捉可能です。そのため、モータに損傷を与えることなく、一時的に目標電流を公称値以上に増加させることもできます。このような制御を行えば、ステッパ・モータを駆動する際の電流量を最小限に抑えられます。その結果、モータが消費する電力を最大90%削減することが可能になります。
このようにしてエネルギー効率を改善すると、発熱や熱ストレスも低減されます。そうすれば、ソレノイド・バルブ16やステッパ・モータの寿命を延ばすことができ、信頼性と機能の可用性が向上します。EMAを低温に保つことができれば、適用可能なアプリケーションの幅が広がります。例えば、ラボ、化学、医療など、温度が上限値に達しないよう適切に制御する必要がある分野もターゲットになり得るということです。
制御機能の簡素化/使いやすさによって、TTMを短縮する
cDriverは、インターフェースを中心とするアーキテクチャを採用しています。双方向性を備えるインターフェースを活用することで、cDriverの内部で利用可能なセンサーのデータやパラメータの取得、アプリケーションに応じた制御パラメータの設定/適応を実現できます。cDriver自体はサブシステムです。ソレノイド/ステッパ・モータの制御にすぐに使用でき、様々な構成が可能なハイエンドのビルディング・ブロックとして機能します。ソレノイド/ステッパ・モータを対象とするソフトウェアの開発は基本的には不要であり、必要な場合でも最小限に抑えられます。つまり、ソレノイドやステッパ・モータの制御の専門家が担当しなくてもよいということです。言い換えれば、アプリケーションに固有の機能や通信機能に重点を置いて開発を進められます。通信を中核に据え、インターフェースに重点を置くという考え方により、ソフトウェア定義型のハードウェアが実現されました。このことは、システム設計者やソフトウェア技術者だけにメリットをもたらすわけではありません。TTMを短縮し、設計リスクを最小限に抑えることにもつながります。
TCOの削減も可能に
ここまでに説明したとおり、cDriverは高度に統合されたスマートなコンポーネントです。これを採用すれば、TCOの削減も図れます。エネルギー・コスト、保守コスト、リスクを軽減するための計画外のコストという3つの方向からの効果が見込めます。
エネルギー効率を高めて消費電力を削減する機能は、運用コストに直接影響を与えます。消費電力の削減はコストの削減につながるということです。
多様な診断データとセンサー機能によるフィードバック情報を利用すれば、予知保全を実現できます。障害の発生個所を容易に特定できるので、計画外の保守コストを削減し、保守のプロセスを簡素化することが可能になります。EMAのサブシステムから継続的にストリーミングされるフォードバック情報は、システムの状態監視に役立ちます。そのことは、稼働率の向上につながります。製造ラインのダウンタイムを削減できるということは、追加コストの発生を回避できるということを意味します。
cDriverは、様々な機能を備える集積度の高いコンポーネントです。これを採用すれば、部品点数を大幅に削減することができます。これは決して見逃すことができない極めて大きな長所です。これによって得られるメリットは、単に部品コストを削減できるということにはとどまりません。貿易摩擦やその他の世界的な出来事が原因となって、グローバルなサプライ・チェーンには綻びが生じています。また、工場のキャパシティの低下や、半導体/電子部品の不足によって、製品を製造/出荷する能力にも支障が生じています。こうしたことは、リスクではなく、既に生じている現実の問題です。部品点数を削減すれば、他社に対する依存度を下げられます。加えて、コントローラ/ドライバの予期せぬ再設計とその後の再適格性確認によって発生する膨大な負荷を回避することにつながります。
まとめ
cDriverは、センサーとアクチュエータの融合を実現するコンポーネントです。これを採用すれば、エッジに適したスマートなEMAを利用できるようになります。cDriverは、単にソレノイドを切り替えたり、モータを回転させたりするために開発されたものではありません。多様な診断機能を提供することに加え、cDriver自体が一種のセンサーとして機能します。そのため、前処理を適用済みのデータを使ってローカルで意思決定を行い、安全機能や監視機能を実行することができます。このようなセンサー機能を備えたスマートなEMAは、機械的な課題を解決し、複雑さを覆い隠します。また、数多くの診断機能を提供すると共に、より高度な処理を行うための豊富な情報を上位の制御レイヤに伝達します。更に、コストと消費電力の削減を図れることから、将来のサイバーフィジカル・システムや製造フロアに対して新たな付加価値がもたらされます。cDriverは新たなレベルのデジタル化を提供するものであり、エッジにおけるEMAの制御に関するパラダイム・シフトを実現します。ドイツのMEV Elektronik Serviceは、モーション・コントロールに関する高度な専門知識を有するディストリビュータです。デザインインのサポートの面でも定評があります。同社でモーション・コントロール分野のプロダクト・ライン・マネージャを務めるGuido Gandolfo氏は、「アナログ・デバイセズは、ステッパ・モータ用のドライバの新たな製品ファミリを提供しています。それらを採用した当社のお客様は、より小型で、よりスマートな製品を、より迅速に、より高い効率で開発できるようになります。ADI Trinamicのドライバは最高レベルの製品ですが、お客様にもたらされるメリットよって、その地位は更に高まることになるでしょう」と述べています。
参考資料
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