プロセッサ/マイクロコントローラや消費電力の多いデバイスに最適な電源トポロジ
要約
本稿では、電源のトポロジを選択する際に役立つ包括的な指針を示します。給電の対象としては、プロセッサ、マイクロコントローラ、ならびに消費電力の多いシグナル・チェーンを想定することにします。これらに対しては、効率と信頼性に優れる電力変換デバイスを適用することが非常に重要です。実際、多様な電子機器のアプリケーションでは、コンパクトでありながら強力な電力変換デバイスが求められます。民生用のアプリケーションでも産業用のオートメーション・システムでも、プロセッサやマイクロコントローラなどは非常に重要な処理ユニットとして機能します。それらの最高の性能を引き出すためには、安定性が高く正確にレギュレートされた電源が必要です。つまり、シームレスかつ最適な動作を確保するためには、適切な電源トポロジを選択することが重要になります。これについては、本稿で示す指針を通してご理解いただけるはずです。
はじめに
本稿では、大きく分けて2種類の電源トポロジを取り上げます。1つはリニア・レギュレータ、もう1つはスイッチング電源(SMPS:Switched-mode Power Supply)です。後者のSMPSは、更に降圧コンバータ、昇圧コンバータ、昇降圧コンバータ、SIMO(Single Inductor Multiple Output)コンバータに細分化されます。これらについて、実用性の観点から詳しく解説していきます。また、これらを適用すべき用途、重要性、長所、短所についての比較を行います。本稿の目的の1つは、実用的な知見を提供することにより、設計時に適切な情報に基づいた判断を行えるようにすることです。
重要なのは、コア電圧の安定性
電源のトポロジについて解説する前に、重要な事柄を指摘しておきます。それは、プロセッサやマイクロコントローラについては、コア電圧の安定性を維持することが非常に重要だというものです。以下、その安定性に関する事柄について説明します。
- 性能:コア電圧が安定していれば、信頼性の高い状態でデバイスの高い性能を一貫して維持することができます。言い換えれば、予期せぬクラッシュ、不具合、不安定な動作を防ぐことが可能になります。
- 電力効率:コア電圧が適切にレギュレートされていれば、電力の浪費を最小限に抑えられます。その結果、システム全体のエネルギー効率が高まります。
- 寿命:電圧の変動は、デバイスの早期劣化につながり、寿命を縮める原因になり得ます。
- 電磁環境適合性(EMC):コア電圧が安定していると、電磁干渉(EMI)が低減されます。そのため、EMC の規格を満たすのが容易になります。医療用機器や航空宇宙システムといったノイズに敏感なアプリケーションの場合、この種の規格に準拠することが不可欠です。
- ノイズ耐性:コア電圧が適切にレギュレートされているということは、デバイスが外部の電気的ノイズから保護されているということを意味します。それにより、ノイズの多い環境における信頼性が向上します。
一般的な電源トポロジ
マイクロプロセッサやマイクロコントローラでは電源のトポロジとしてリニア・レギュレータやSMPSがよく使用されます。リニア・レギュレータの中でも、ドロップアウト電圧が比較的小さい(入出力電、圧の差が小さい)ものはLDOレギュレータと呼ばれます。一方、SMPS(スイッチング・レギュレータ)は、降圧、昇圧、昇降圧、SIMOといったトポロジに細分化されます。各トポロジには、それぞれ長所と短所があります。以下、各トポロジについて詳しく解説します。
リニア・レギュレータ
リニア・レギュレータは、シンプルで費用対効果の高いソリューションです。必ずしも多くの電力を供給する必要がないアプリケーションに適しています。リニア・レギュレータを使用すれば、入力電圧が変動しても一定の出力電圧を供給することができます。但し、過剰な電圧(エネルギー)が熱として放散されることになります。特に、多くの電流を消費するアプリケーションでは電力損失が多くなり、効率が低下します。図1にリニア・レギュレータ(LDOレギュレータ)の使用例を示しました。
LDOレギュレータを使用して電源回路を設計する際には、多くの事柄について考慮しなければなりません。表1は、LDOレギュレータの長所と短所についてまとめたものです。
長所 | 短所 |
LDOレギュレータは、入力電圧が所望の出力電圧に近い値であっても安定した状態で動作します。つまり、入力電力が低い場合でも、高い信頼性で必要な性能が得られます。 | LDOレギュレータでは、入力電圧と出力電圧の値が大きく異なると効率が低下します。つまり、余分な電力が熱に変換されることになります。そのような場合には、SMPSの方がエネルギー効率に優れる選択肢になるかもしれません。 |
LDOレギュレータは 最小限の出力ノイズしか生成しません。そのため、高精度のアナログ回路やノイズに敏感なマイクロコントローラなど、クリーンで安定した電圧の供給を必要とするアプリケーションに対する優れた選択肢になります。 | LDOレギュレータは、SMPSと比べて電流の供給能力が劣ります。そのため、大電流/大電力を必要とするアプリケーションには適していません。 |
LDOレギュレータでは、SMPSを使用する場合と比べて、必要な外付け部品の数を少なく抑えられます。そのため、設計の複雑さが軽減されると共に、基板上の実装面積を削減できます。 | LDOレギュレータは、特に大電力を供給する場合、電力損失による放熱量が多くなります。過熱を防ぐためには、適切な温度管理が不可欠となります。 |
LDOレギュレータは、負荷の変動に迅速に対応できます。そのため、マイクロコントローラやデジタル・プロセッサなど、動作(負荷)が大きく変化するアプリケーションにも対応できます。 | LDOレギュレータは、所望の出力電圧よりも高い入力電圧を必要とします。そのため、バッテリ駆動の機器において、バッテリの電圧が所望の出力電圧に近すぎると使用が難しいことがあります。 |
静止電流が非常に少ないLDOレギュレータを使用すれば、バッテリ駆動の機器において待機時の電力を最小限に抑え、高い効率を維持することができます。 | 多くのアプリケーションでは、LDOレギュレータが費用対効果の高い選択肢になります。しかし、大電流や高効率が求められるアプリケーションでは、SMPSと比べてより低コストの選択肢になるとは限りません。 |
LDOレギュレータを使用すれば、高い精度で出力電圧を得ることができます。そのため、高精度のレギュレートを必要とするアプリケーションに適しています。 | 入力電圧が所望の出力電圧よりも大幅に高い場合、LDOレギュレータを効果的に機能させるには、ヒート・シンクや複雑な保護用回路などを追加しなければならない可能性があります。 |
SMPS
SMPS(Switched-mode Power Supply:スイッチング電源)を使用すれば、高い効率を得ることができます。そのため、マイクロプロセッサやマイクロコントローラ用の電源として最もよく使用されています。SMPSでは、パワー・デバイス(通常はトランジスタ・スイッチ)を高速にオン/オフすることで、入力電圧を所望の出力電圧に変換します。この方法により、電力損失を最小限に抑えつつ、出力電圧を高い精度でレギュレートします。図2に、SMPSの各種トポロジの概念図を示しました。ここでは、降圧、昇圧、昇降圧の3種を取り上げています。
SMPSを使用して電源を設計する場合、その長所と短所を踏まえて様々な事柄に配慮する必要があります。表2にSMPSの長所と短所をまとめました。
長所 | 短所 |
SMPSでは 高い効率が得られます。つまり、リニア・レギュレータと比べて熱として浪費される電力の量が少なくなります。このことから、SMPSは高いエネルギー効率が求められる機器やバッテリ駆動の機器に適しています。 | SMPSの回路の設計/実装は、リニア・レギュレータを使用する場合よりも複雑になります。いくつもの外付けの部品や高度な制御回路が必要になるからです。この複雑さが理由となって、開発コストが増大したり、信頼性の面で問題が生じたりする可能性があります。 |
SMPSは、広い入力電圧範囲に対応できます。そのため、変動や不安定さを伴う電源を使用するアプリケーションに適しています。 | SMPSが原因で、近くの部品に影響を及ぼす電磁干渉が生じる可能性があります。この潜在的な問題を軽減するために、フィルタやシールドを追加する必要があるかもしれません。 |
SMPSは コンパクトかつ軽量です。サイズや重量の面で制約のあるアプリケーションでは、リニア・レギュレータよりも優れた選択肢になります。 | SMPSを使用する場合、設計によっては、リニア・レギュレータを使用する場合よりも出力電圧リップルが大きくなる可能性があります。このことは、ノイズを可能な限り小さく抑える必要があるアプリケーションでは大きな課題になります。 |
SMPSでは、入力が変動したり一定レベルでなかったりする場合でも安定した出力電圧が得られます。それにより、SMPSは電子機器に確実に給電するという重要な役割を果たします。 | SMPSを選択すれば高い効率が得られますが、そのためには、いくつかの部品や制御回路を使用する必要があります。そのため、設計/製造コストが高くなることがあります。 |
SMPSでは 高速な過渡応答が得られます。そのため、負荷の変化に対して出力電圧が迅速に回復することが求められるアプリケーションで非常によく使われます。 | SMPSは 万能のソリューションではありません。特に、電気的なノイズや干渉が懸念されるアプリケーションや、純粋なDC出力が不可欠なアプリケーションには対応できない可能性があります。 |
SMPSには 汎用性が高いという重要な長所があります。広範な出力電圧/出力電流の要件に応じて調整可能なので、多様なアプリケーションに適用できます。 | SMPSが出力できる最大電流の量は、その設計に応じて制限されます。大電力が必要なアプリケーションでは、より大規模で複雑なSMPSシステムが必要になることがあります。 |
SMPSでは 発熱量を最小限に抑えられます。そのため、熱の管理方法を簡素化できることが重要なアプリケーションに適しています。 |
SMPSの種類
ここまでにも少し触れましたが、SMPSのトポロジは更に細分化されます。以下、代表的なものについて詳しく説明します。
降圧コンバータ
各種のSMPSの中で最も代表的なものは降圧コンバータです。同コンバータは、入力電圧を基に、それより低い出力電圧を生成する機能を提供します。この種の製品は、マイクロコントローラや低消費電力のマイクロプロセッサ向けのものとして広く使用されています。降圧コンバータは、スイッチ(通常はトランジスタ)をオン/オフさせることで動作します。インダクタとコンデンサにエネルギーを蓄積しておき、適切に制御された方法によってそのエネルギーを出力に供給します。図3に示したのが降圧コンバータの構成例です。これは、高い入力電圧(電源レール)から3.3Vを効率的に生成するためのシステム・レベルのソリューションです。
降圧コンバータを使用して電源回路を設計する場合には、その長所と短所について十分に検討することが重要です。表3に、同コンバータの長所と短所についてまとめました。
長所 | 短所 |
降圧コンバータは 変換効率が高いことで知られています。リニア・レギュレータと比べると、熱として浪費されるエネルギーの量が少なくなります。 | 降圧コンバータを適切に動作させるためには複雑な制御回路が必要です。つまり、設計の複雑さが増します。また、潜在的な信頼性の問題に関するリスクが増大する可能性があります。 |
降圧コンバータは 効率が高く、発熱を抑えられます。これは、温度の管理について懸念があるアプリケーションにとって重要な特徴です。 | 降圧コンバータのスイッチング動作に伴って電磁干渉が発生する可能性があります。そのため、フィルタやシールドによる対策を追加しなければならなくなるかもしれません。 |
通常、降圧コンバータは リニア・レギュレータよりも小型かつ軽量です。そのため、サイズと重量に制約のあるアプリケーションに適しています。 | 降圧コンバータの場合、その設計によっては、リニア・レギュレータと比べて出力電圧リップルが大きくなる可能性があります。このことは、ノイズをできるだけ小さく抑えることが求められるアプリケーションでは問題になる可能性があります。 |
降圧コンバータは 広い入力電圧範囲に対応できます。そのため、変動する電源や不安定な電源が入力である場合でも問題なく動作します。 | 降圧コンバータの主機能は 入力電圧を降圧することです。つまり、入力電圧よりも高い出力電圧を生成するためには使用できません。 |
降圧コンバータは 過渡応答が高速です。そのため、負荷の変動に対して出力電圧が迅速に回復することが求められるアプリケーションに適しています。 | 降圧コンバータが出力可能な最大電流の値は、その設計に応じて決まります。多くの電力を供給する必要があるアプリケーションでは、降圧コンバータとしてより複雑な構成のものが必要になることがあります。 |
降圧コンバータは、入力電圧が変動したとしても、適切にレギュレートされた安定した出力電圧を供給できます。 | 降圧コンバータの設計や部品の選択は容易ではありません。インダクタの選択、スイッチング周波数の設定、制御ループの設計といった事柄について慎重に検討する必要があります。 |
降圧コンバータは、エネルギー効率が重要なバッテリ駆動の機器でよく使用されます。電力損失を最小限に抑えられるので、バッテリの寿命を延ばすことができます。 |
SIMOコンバータ
SIMOコンバータは革新的なパワー・マネージメント技術です2。インダクタを1つ使用するだけで、レギュレートされた複数の出力電圧を得ることができます。従来のパワー・マネージメント回路では、1つの出力に対して1つのインダクタを使用する必要がありました。そのため、複数の出力電圧が必要な場合には、部品点数、基板面積、エネルギー損失が増大していました。それに対し、SIMOコンバータでは複数の出力チャンネルで単一のインダクタを共有します。それにより回路が簡素化され、全体の実装面積が削減されます。しかも、高い効率を得ることが可能です。図4に、複数の電圧を出力するSIMOコンバータの設計例を示しました。
SIMOコンバータを使用して電源回路を設計する場合、様々な事柄について検討する必要があります。表4は、SIMOコンバータの長所と短所についてまとめたものです。
長所 | 短所 |
SIMOコンバータでは、複数の出力によって単一のインダクタを共有します。それにより、エネルギー損失を削減して電力効率を高めます。これは、バッテリ駆動の機器にとって大きなメリットになります。 | SIMOコンバータでは、従来の電源ソリューションと比べて制御とレギュレーション用の回路の実装が複雑になります。複数の出力に対する安定性と信頼性を確保するためには、細心の注意を払って制御回路を設計しなければなりません。 |
SIMOコンバータでは、複数の出力に対して1つのインダクタしか使用しません。そのため、基板上の実装面積を削減できます。このことは、小型でスペースが限られるアプリケーションにとって大きなメリットになります。 | SIMOコンバータでは、複数の出力で単一のインダクタを共有します。ただ、通常は使用可能な出力チャンネルの数は限られます。そのため、多くの種類の電圧レベルが必要なアプリケーションに対しては、最適な選択肢にならない可能性があります。 |
SIMOコンバータを採用すれば、部品点数を削減でき、回路がシンプルになります。そのため、製造コストの削減、故障のリスクの低減、機器の信頼性の向上を図れます。 | SIMOコンバータの設計では、多様な出力電圧の要件に応じて、共有されるインダクタの調整を行うことになります。このことが理由となって、急激な負荷の変動に迅速に応答するのが困難になる可能性があります。 |
SIMOコンバータでは 高い効率が得られるので、発熱量を抑えられます。そのため、温度を管理するための複雑な手法を適用することなく動作温度を低く抑えられます。結果として、機器の寿命を延ばせる可能性があります。 | SIMOコンバータの設計においては、出力チャンネルの数、効率、部品点数について比較/検討を行い、微妙なバランスを取ることが課題になります。個々のアプリケーションにおいて、このトレードオフに関する適切な判断を下すのは容易ではありません。 |
SIMOコンバータを使用すれば、小型でエネルギー効率の高い電源ソリューションを実現できます。そのため、ウェアラブル機器や、IoT(Internet of Things)対応機器、スマートフォンなどに最適です。 | 既存の機器にSIMOコンバータを適用しようとした場合、大幅な設計変更や事実上の再開発が必要になるかもしれません。このことは、シームレスな統合を図る上で障害になる可能性があります。 |
昇圧コンバータ
昇圧コンバータもSMPSのトポロジの1つです。入力電圧を基に、それより高い出力電圧を生成します。昇圧コンバータは、マイクロコントローラやマイクロプロセッサに適用されることはあまりありません。より高いコア電圧が必要なアプリケーションが主な用途になります。図5に昇圧コンバータの使用例を示しました。この回路は、高電圧で動作する高精度アンプ向けに24Vの出力電圧を生成します。
昇圧コンバータを使用して電源回路を設計する場合には、いくつかの事柄について考慮する必要があります。表5は、昇圧コンバータの長所と短所についてまとめたものです。
長所 | 短所 |
高電圧を使用するアプリケーションに最適:昇圧コンバータは、入力電圧よりも高い出力電圧を必要とするアプリケーションで使用されます。 | 降圧コンバータと比べると低効率:昇圧コンバータは、入力電圧より高い出力電圧を生成するので、通常は降圧コンバータと比べて効率が低くなります。 |
入力電圧を効率的に昇圧:昇圧コンバータを使用すれば、入力電圧を所望の出力電圧まで効率的に高められます。 | エネルギー効率が優先されるバッテリ駆動の機器には不向き:昇圧コンバータは、エネルギー効率が優先されるバッテリ駆動の機器にとって最適な選択肢だとは言えません。消費電力が多く、バッテリの消耗が早くなる可能性があるからです。 |
昇降圧コンバータ
昇降圧コンバータは、降圧コンバータと昇圧コンバータの両方の機能を兼ね備えています。つまり、入力電圧を降圧または昇圧し、レギュレートされた出力電圧を供給することができます。このような柔軟性を備えていることから、電圧に関する様々な要件が存在するアプリケーションに対応可能な汎用性の高い選択肢となります。図6に示したのは、昇降圧コンバータを使用して構成した回路の例です。この回路では、電源としてバッテリ・セル・スタックを使用するケースを想定しています。再充電が可能なバッテリの場合、その出力電圧(バッテリ電圧)が充放電に伴って変化します。昇降圧コンバータを使用すれば、そのような入力電圧を基にしてレギュレートされた出力電圧を得ることができます。例えば、バッテリ・スタックが充電動作に移行すると、バッテリ・セルの電圧は1.5V~2.7Vに低下する可能性があります。一方、放電動作におけるバッテリ電圧は4.5V~5V程度です。このように入力電圧が変化することから、後段の回路に給電(図6の回路の例では3.3Vを出力)する手段としては昇降圧コンバータが優れた選択肢になるということです。
昇降圧コンバータを使用して電源回路を設計する場合、いくつかの事柄について考慮する必要があります。表6は、昇降圧コンバータの長所と短所についてまとめたものです。
長所 | 短所 |
様々な入出力電圧に対応可能な汎用性:昇降圧コンバータは、広範な入出力電圧に対応できます。そのため、電力に関する様々な要件を満たさなければならないアプリケーションに適しています。 | 単純なコンバータに比べてやや複雑:昇降圧コンバータは、降圧用、昇圧用といった単機能のコンバータよりも複雑なものです。そのため、設計時に考慮すべき事柄が多くなります。また、部品もより慎重に選択しなければなりません。 |
バッテリ駆動の機器に最適:再充電が可能なバッテリで駆動する機器の場合、そのバッテリ電圧の値は大きく変化する可能性があります。昇降圧コンバータを使用すれば、バッテリの充電レベルに関係なく出力電圧を効率的にレギュレートすることができます。 | |
単一の電源に対応可能:昇降圧コンバータを使用すれば、単一の電源に対応して昇圧も降圧も実現できます。そのため、電源を1つしか使用できないアプリケーションに適しています。 |
トポロジを選択する際に考慮すべき事柄
マイクロプロセッサやマイクロコントローラに最適な電源トポロジとはどのようなものなのでしょうか。ここまでに説明したように、その選択にあたっては、様々な要因について考慮する必要があります。以下、なかでも特に注視すべき事柄を列挙します。
- 電力効率:まず、電力に関する機器の要件を決定します。その上で、エネルギーの消費量/発熱を最小限に抑えるために、高い効率が得られるトポロジを選択します(図7)。
- 入力電圧範囲:動作環境において機器に入力される可能性がある電圧範囲について検討します。その上で、選択したトポロジがその範囲に対応できることを確認します。
- 出力電圧:マイクロプロセッサやマイクロコントローラに必要なコア電圧を決定します。これについては、昇降圧コンバータのようなトポロジであれば柔軟に対応できます。
- サイズと重量の制約:アプリケーションにスペースや重量の面で大きな制約がある場合、小型で軽量なソリューションを実現できるトポロジを選択します。
- コスト:プロジェクトにおけるコスト上の制約について評価します。低電力のアプリケーションにおいては、リニア・レギュレータを選択することで高い費用対効果が得られる可能性があります。それに対し、大電力が必要なアプリケーションでは、SMPS ベースのソリューションを採用することで費用対効果を高められるケースが多いでしょう。
- EMCについて考慮すべき事柄:アプリケーションによっては、EMC の規格に準拠することが必須の要件になります。その場合、選択した電源のトポロジに対して適切なレイアウトとフィルタリングを適用することにより、要件を満たせることを確認します。
- 過渡応答:電源の過渡応答についての検討も必須です。マイクロプロセッサやマイクロコントローラでは、負荷が突然大きく変化することがあります。電圧ドループやオーバーシュートを防ぐためには、高速で安定した応答が得られるトポロジを選択することが不可欠です。
- 信頼性: アプリケーションの信頼性に関する要件を評価します。リニア・レギュレータのようなトポロジであれば、部品点数を少なく抑えられます。そのため、特定の状況においては信頼性を高められる可能性があります。
- 環境に関する条件:機器が動作する環境について検討します。バッテリ駆動のアプリケーションではエネルギー効率が重要になります。一方、産業用アプリケーションの場合、堅牢性やノイズ耐性がより重要な要件になることがあります。
実装に向けた実用的なヒント
電源のトポロジを適切に選択できたとします。ただ、適切な実装を行わなければ、最高の性能を引き出すことはできません。そこで以下では、実装を成功に導くための実用的なヒントを示します。
- 部品の選択:信頼性が高く安定した動作を実現するために、インダクタ、コンデンサ、トランジスタなどの部品としては高品質のものを選択します。
- レイアウトとルーティング:プリント回路基板については、電源回路に関連するレイアウトとルーティングに対して細心の注意を払います。ノイズを低減し、EMC性能を向上させるために、ループの面積を最小限に抑えつつ、適切なグラウンディング手法を適用します。
- フィルタリング:必要に応じて入力と出力にフィルタを適用します。それにより、電磁干渉を抑制し、クリーンで安定した出力電圧が得られるようにします。
- 保護: 過電圧、低電圧、過電流に対する保護機構を適用します。それにより、マイクロプロセッサやマイクロコントローラを潜在的な要因による損傷から保護します。
- テストと特性評価:様々な動作条件の下で電源回路の徹底的なテストを実施します。それにより、特性を綿密に評価し、所望の性能を満たしていることを確認します。
- 温度の管理: 電力損失が多い場合、過熱を防止するために、ヒート・シンクをはじめとする温度管理用のソリューションを追加することを検討します。
まとめ
機器を設計する際には、使用するマイクロプロセッサやマイクロコントローラに適した電源トポロジを選択することが非常に重要です。本稿で説明したように、それぞれのトポロジには固有の長所と短所があります。そのため、トポロジの選択はアプリケーションに固有の要件に基づいて実施しなければなりません。電力効率、入力電圧範囲、出力電圧の安定性といった事柄について、正しい情報に基づいた検討を行ってください。それにより、最終的な機器を確実かつ効率的に動作させられるようにしましょう。
また、トポロジの選択だけではなく、実装も重要であるということに注意してください。選択した電源トポロジの潜在的な能力をフルに引き出すには、適切な部品の選択、慎重なレイアウト/ルーティング、徹底的なテストなどが不可欠です。つまり、細部にわたって注意を払わなければなりません。それにより、マイクロプロセッサやマイクロコントローラに対して効率的に給電できるようになります。結果として、それぞれのアプリケーションで最高の性能を得ることが可能になります。
参考資料
1 「An Introduction to Switch-Mode Power Supplies(スイッチング電源の基本)」Maxim's Engineering Journal、Vol. 61、2007年9月
2 Cary Delano、Gaurav Mital「SIMO Switching Regulators:Extending Battery Life for Hearables and Wearables(SIMOスイッチング・レギュレータで、ヒアラブル機器/ウェアラブル機器のバッテリ寿命を延ばす)」Maxim Integrated(現在はアナログ・デバイセズに統合)、2017年11月
著者について
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