要約
スイッチモード電源はDC-DC変換に人気のある、かつ時として不可欠な電源タイプです。これらの回路はDC電源を変換する代替の方法と比較すると、注目すべき利点とトレードオフがあります。このアプリケーションノートでは、スイッチモード電源の利点とトレードオフを簡単にまとめ、またそれらの動作や理論の簡単な概略も提供しています。
このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 61」 (PDF、1.02MB)にも掲載されています。
多くの電子デバイスに必要な複数のDC電圧レベルを検討するとき、設計者は標準的な電源の電位を負荷で決まる電圧に変換する手段が必要になります。電圧変換は、用途が広く、高効率で、信頼性の高いプロセスでなければなりません。スイッチモード電源(SMPS)は、最新のアプリケーションに必要な様々なレベルのDC出力を供給するために頻繁に使用されるもので、効率と信頼性の高いDC-DC電力変換システムを実現する上で不可欠です。
なぜSMPSか?
電子機器のDC負荷の大多数は標準的な電源から給電されます。残念ながら、特に電源電圧が安定化されていないとき、標準的な電源電圧はマイクロプロセッサ、モータ、LEDなどの負荷に適合しない場合があります。バッテリ駆動機器はこの問題の代表例で、標準的なLi+ (リチウムイオン)セルやNiMHを積み重ねた標準電圧は従来のアプリケーションで使用するには高過ぎたり低過ぎたり、あるいは放電中に下がり過ぎたりします。
汎用性
幸いなことに、SMPSの汎用性は、標準的な電源電圧を指定された有効な出力電圧に変換する問題を解決します。SMPSのトポロジーは非常に多く、基本的なカテゴリに分類すると、これらの電源は入力電圧のステップアップ、ステップダウン、反転、さらにはステップアップとダウンとなります。入力をステップダウンすることしかできないリニアレギュレータとは異なり、SMPSはトポロジーをほとんどすべての出力電圧に適合するように選択することができるため魅力的です。
カスタム化
さらに、最新のSMPS ICは様々な集積レベルで設計されるため、エンジニアは各種トポロジーの中からICに集積される一般的なSMPS機能選択によって複雑にもシンプルにもすることができます。その際、メーカーは一般に使用されているアプリケーション固有の電源について設計負担を軽減するか、またはカスタムプロジェクトには基本的なSMPS ICをエンジニアに提供することによって、広く使用されているデバイスの汎用性を高めます。
効率
エンジニアは、ほかに、DC電源をいかに効率よく変換するかといった一般的な問題にも直面します。たとえば、出力電圧を下げるために入力電圧をステップダウンする必要がしばしばあります。簡単なソリューションはリニアレギュレータを使うことです。このデバイスは適切な温度管理を必要としますが必要とするコンデンサが少なくて済むからです。しかし、そのように単純に済ませてしまうと、非効率であることが問題になり、電圧差が大きくなると、効率の悪さは許容し難いレベルにまで至ります。
リニアレギュレータの効率は、そのパストランジスタで消費される電力に直接関係します。この電力降下は、消費電力がILDO x (VIN - VOUT)に等しいため膨大な損失になる場合があります。たとえば、3.6Vのバッテリから100mA負荷で1.8Vの出力までステップダウンするとき、リニアレギュレータ両端で0.18Wの降下が生じます。この電力降下によって、効率が50%に下がり、(理想的な動作を仮定すると)バッテリの寿命が50%短くなります。
この効率損失が分かると、エンジニアは改善されたソリューションを実現せざるを得なくなり、ここでSMPSの出番となります。優れた設計のSMPSであれば、負荷と電圧レベルにもよりますが、90%以上の効率を実現することができます。リニアレギュレータの代りに図1のステップダウンSMPSを使用する前記の例では、90%の効率が得られます。これは、リニアレギュレータに対して40%の効率改善になります。ステップダウンSMPSの優位性は明らかで、他のSMPSトポロジーにおいても同等または同等以上の効率が見られます。
高効率はSMPS設計の最も重要な長所ですが、電力損失を最小にした直接的な結果として、当然、他の利点も出てきます。たとえば、効率の低い他の電源と比べてSMPSでは、熱を考慮に入れた実装面積が小さくなります。この長所は、温度管理の条件が緩和されたことと同等です。また、さらに重要なことは、効率の低いシステムの場合のように部品が過度の熱にさらされることがないため、信頼性の向上によって寿命が延びることです。
SMPSトポロジーと変換理論
前項で述べたように、SMPSは、回路トポロジーに応じてDC入力電圧を異なるDC出力電圧に変換することができます。エンジニアリングの世界では多くのSMPSトポロジーが使用されていますが、3つのトポロジーが基本で、これらは最もよく見かけるものです。これらのトポロジー(図2に示す)は、これらの変換機能に従って分類されており、ステップダウン(バック)、ステップアップ(ブースト)、およびステップアップ/ダウン(バックブーストまたはインバータ)があります。図2に示すインダクタの充電/放電経路を、次の段落で説明します。
3つの基本的なトポロジーはすべて、MOSFETスイッチ、ダイオード、出力コンデンサ、およびインダクタを含んでいます。MOSFETは、回路内で能動的に制御される部品であり、コントローラ(図示していない)に接続されます。このコントローラはパルス幅変調された(PWM)方形波信号をMOSFETのゲートに印加し、これによってこのデバイスをオン/オフします。一定の出力電圧を維持するために、コントローラはSMPS出力電圧を検出し、方形波信号のデューティサイクル(D)を変化させ、各スッチング期間(TS)にMOSFETがオン状態にある時間を決定します。Dの値は、方形波のオン時間とそのスイッチング周期の比(TON/TS)で、SMPS出力電圧に直接影響を与えます。この関係を式4と式5に示します。
MOSFETのオンとオフの状態はSMPS回路を充電期間と放電期間の2つの期間に分けられ、これらはいずれもインダクタのエネルギー移動を表しています(図2の閉路を参照)。充電期間にインダクタに蓄えられたエネルギーは、放電期間に出力負荷とコンデンサに移動します。コンデンサは、インダクタが充電中に負荷をサポートして出力電圧を維持します。回路内でエネルギーが循環的に移動することによって、トポロジーに従って出力電圧を適正な値に保ちます。
インダクタは、各スイッチングサイクル間の電源から負荷へのエネルギー移動の中心となります。インダクタがなければ、MOSFETが切り替わったときにSMPSとして機能しないことになります。インダクタ(L)に蓄えられたエネルギー(E)は、その電流(I)によって決まります。
したがって、インダクタのエネルギー変化はその電流の変化(ΔIL)によって測定され、電流の変化は一定期間(ΔT)にわたってインダクタ両端に印加される電圧(VL)によって起こります。
ΔILは、一定電圧が各スイッチング期間の間にインダクタの両端に印加されるとき、直線的な傾斜になります(図3)。各スイッチング期間のインダクタ電圧は、各極性とVIN/VOUTの関係に注意を払ったキルヒホッフの電圧閉路によって決定することができます。たとえば、放電期間のステップアップコンバータのインダクタ電圧は-(VOUT - VIN)です。VOUT > VINであるため、インダクタ電圧は負になります。
充電期間、MOSFETはオンで、ダイオードは逆方向にバイアスされており、エネルギーは電圧源からインダクタに移動します(図2)。VLは正であるため、インダクタ電流は上昇していきます。また、出力容量は、一定の出力電圧を保つために前のサイクルで蓄えたエネルギーを負荷に移動させます。放電期間、MOSFETはオフになり、ダイオードは順方向バイアスされるため導通します。電源はもはやインダクタを充電していないため、インダクタはエネルギーを負荷に放電するとともに出力コンデンサに電荷を補給するとき、インダクタ端子の極性は反転します(図2)。インダクタがそのエネルギーを放出する際、インダクタ電流は前述と同様の移動調和を保って下降していきます。
充電/放電サイクルが繰り返されて定常的なスイッチング状態が維持されます。回路が定常状態に移行する間、インダクタ電流はその最終レベルまで立ち上がります。最終レベルはDC電流と2つの回路の間に発生した傾斜状のAC電流(またはインダクタのリップル電流)を重ね合わせたものです(図3)。DC電流レベルは出力電流に関係しますが、SMPS回路内のインダクタの位置によって変わります。
完全なDC電流を出力に供給するために、リップル電流をSMPSによって完全に除去する必要があります。このフィルタ動作は、高周波AC電流に対する抵抗がほとんどない出力コンデンサによって行われます。不要な出力リップル電流は出力コンデンサを通過しますが、この電流はグランドに流れるためコンデンサの電荷が維持されます。したがって、出力コンデンサも出力電圧を安定化します。しかし、理想的でないアプリケーションでは、出力コンデンサの等価直列抵抗(ESR)によって、出力電圧リップルはコンデンサを流れるリップル電流に比例するようになります。
以上を要約すると、エネルギーは、ソース、インダクタ、および出力コンデンサの間を往復して一定の出力電圧を維持し負荷に給電します。しかし、SMPSのエネルギー移動によって出力電圧変換比はどのように決定されるのでしょうか?この比は、定常状態から周期波形を見ると容易に計算されます。
定常状態が維持されるためには、周期TSで繰り返される変数は各周期の最初と最後で等しいことが必要です。インダクタ電流は前述の充電期間と放電期間によって周期的であるため、PWM周期の最初のインダクタ電流は最後のインダクタ電流と等しいことが必要です。つまり、充電期間のインダクタ電流の変化(ΔICHARGE)は放電期間のインダクタ電流の変化(ΔIDISCHARGE)に等しくなければなりません。充電期間と放電期間に対するインダクタ電流の変化を等しいものとすると、電圧時間積と呼ばれる興味深い結果が得られます。
端的に言えば、各回路の間のインダクタの電圧時間積が等しくなります。これはすなわち、図2のSMPS回路を見ると、理想的な定常状態の電圧/電流変換比が容易に分かります。ステップダウン回路の場合は、充電期間回路付近のキルヒホッフ電圧閉路から、インダクタ電圧がVINとVOUTの差であることが分かります。同様に、放電期間回路の間のインダクタ電圧は-VOUTです。式3の電圧時間積のルールを使用すると、以下のように電圧変換比が決定します。
さらに、理想回路では入力電力(PIN)は出力電力(POUT)に等しくなります。したがって、電流変換比は次のようになります。
これらの結果から、ステップダウンコンバータではVINが1/Dに低下しますが、入力電流は負荷電流のD倍になります。表1は図2に示したトポロジーに対する変換比を示します。一般に、すべてのSMPS変換比は式3と式5を解く際に使用する方法で求めることができますが複雑なトポロジーになると分析が困難になる可能性があります。
Topology | Voltage-Conversion Ratio (°C) | Current-Conversion Ratio (°C) |
Step-down | VOUT/VIN = D | IIN/IOUT = D |
Step-up | VOUT/VIN = 1/(1 - D) | IIN/IOUT = 1/(1 - D) |
Step-up/down | VOUT/VIN = D/(1 - D) | IIN/IOUT = D/(1 - D |
SMPSの短所とトレードオフ
当然、SMPSが提供する高効率には不利な条件が伴います。スイッチモードコンバータに関しておそらく最もよく問題とされるのは、電磁干渉(EMI)を起してノイズを伝えやすい傾向があるということです。電磁放射は、SMPS回路に存在する電流と電圧のスイッチング波形が高速で遷移することによって生じます。インダクタノードにおいて高速で変化する電圧は放射電界を発生しますが、充放電ループの高速スイッチング電流は磁界を発生します。しかし、SMPS入力/出力容量とPCBの寄生成分がスイッチング電流に対して比較的高いインピーダンスを呈するときは、伝導ノイズが入出力回路に伝播します。幸い、部品配置とPCBレイアウトの方法が適切であれば、EMIを効果的に阻止してノイズを軽減することができます。
また、SMPSはきわめて複雑で外付け部品の追加を必要とする場合があり、これらはいずれも電源の総コストの増加につながる可能性があります。幸い、多くのSMPS ICメーカーはデバイスの動作についてだけでなく、正しい外付け部品の選定についても詳しい資料を提供しています。さらに、最近のSMPS ICの高レベルの集積化によって必要な外付け部品数を減らすことができます。
前述のような問題があるとはいえ、SMPSは多くのアプリケーションで広く使われています。前記の短所はうまく対処可能で、これらの使用によって得られる効率の良さと汎用性は大いに魅力的で、かつ多くの場合絶対条件となっているからです。