質問:
TVSダイオードやヒューズを置き換えられる能動型の保護ソリューションはありませんか?
回答:
サージ・ストッパと呼ばれるICを使うとよいでしょう。
概要
あらゆる業界において、メーカーは常に最高の性能を追求しています。その一方で、革新的なソリューションと実績のある堅牢なソリューションをうまく使い分けるようにも努めています。システムの設計を行う際には、複雑さ、信頼性、コストの間でバランスをとるという困難な課題に直面します。特に、電子機器の保護に使用するサブシステムについては、その性質上、新しい技術の導入が進みにくい傾向があります。ただ、最近のシステムには、異常に対して敏感で高価な電子デバイス(FPGA、ASIC、マイクロプロセッサ)が数多く使われています。それらの故障率をゼロに抑えるためには、適切な保護機構を適用しなければなりません。
電子デバイスを保護する手法としては、従来から実績を積み重ねてきたものがいくつも存在します。代表的な例としては、保護用ダイオードやヒューズ、TVS(Transient Voltage Suppressor)ダイオードなどが挙げられます。これらは、現在も定番としての地位を維持しています。しかし、効率が悪く、かさばり、メンテナンスが必要になるといった欠点を抱えていることも事実です。そうした問題に対処するためには、新たなソリューションの導入を検討するとよいでしょう。例えば、現在では能動型(アクティブ)でインテリジェントな保護用ICが商品化されています。それらの多くは、従来の手法に求められていた要件を満たしつつ、より高い堅牢性を発揮します。保護用ICとしては多様な製品が提供されているので、設計者にとっては、いかに適切なソリューションを選択するかということが難易度の高い課題になります。
本稿では、選択肢を絞る上で役立つように、従来の保護手法とアナログ・デバイセズの保護用IC製品群を比較します。それを通して、各保護用IC製品の機能や、それぞれを適用すべきアプリケーションについて説明します。
はじめに
あらゆる業界で、より多くの電子システムが使われるようになっています。そうした機器では、高価なFPGAやプロセッサによって実現される機能が増えています。その結果、過酷な動作環境からそれらのデバイスを保護する必要性がより高まっています。そのための保護機構には、小型のフォーム・ファクタ、高い信頼性、サージ(過電圧、過電流)に対する高速応答を実現することが求められます。本稿では、そうした保護が必要になる理由と、多くのアプリケーションで直面するであろう課題について説明します。また、従来の代表的な保護手法について解説します。その上で、精度、信頼性、設計の柔軟性に優れた新たなソリューションと従来の手法を比較します。
なぜ、保護用のデバイスが必要になるのか?
車載、産業、通信、航空といった分野では、多くの電子システムが使用されます。それらのシステムは、様々な電源サージが生じる環境下で動作する必要があります。各分野では、そうしたトランジェントに関する規格が定められています。例えば、車載分野のトランジェントについては、ISO 7637-2やISO 16750-2で定義されています(図1)。両規格では、予想されるトランジェントの詳細について定めています。また、それらに対する耐性を検証するためのテストの手順も説明されています。
サージの種類ならびにそれぞれのエネルギーの量は、電子デバイスが使用される条件よって異なるはずです。例えば、あらゆる電子回路は、過電圧、過電流、逆電圧、逆電流にさらされる可能性があります。多くの回路は、図1に示すようなトランジェントに見舞われると、正常に動作するどころか耐えることすらできません。そのため、回路が直面し得るあらゆるイベントについて考慮し、入力されるサージ電圧/電流から保護するための仕組みを実装する必要があります。
設計上の課題
電子システムに加わる過渡電圧や電流サージは、様々な原因によって発生します。ただ、電子システムの稼働環境の中には、他の環境に比べてトランジェントが起こりやすいものがあります。車載、産業、通信の各分野は、電子システムにとって有害なイベントが生じる可能性がある環境としてよく知られています。こうした環境では、下流の電子デバイスにも重大な影響が及ぶ可能性があります。とはいえ、サージはそうした環境でしか発生しないわけではありません。サージに対する保護回路が必要になるアプリケーションとしては、次のようなものがあります。高電圧/大電流に対応する電源が必要なアプリケーションや、ホット・プラグに対応するアプリケーション、モータを使用するアプリケーション、雷によって誘起されるトランジェントにさらされる可能性があるアプリケーションなどです。高電圧のイベントは、マイクロ秒~数百ミリ秒という広範な時間にわたって発生する可能性があります。そのため、下流の高価な電子デバイスの寿命を確保するためには、柔軟性と信頼性に優れる保護機構が不可欠となります。
図1に例として示したように、自動車ではオルタネータ(バッテリを充電)がバッテリから瞬間的に切り離される際にロード・ダンプ(負荷ダンプ)が発生する可能性があります。その際にはオルタネータからの全充電電流が電源レールに印加され、数百ミリ秒にわたって電源レールの電圧が非常に高いレベル(100V以上)に上昇します。
また、通信分野のアプリケーションでは、様々なことが原因となってサージが生じる可能性があります。例えば、通信カードのホット・スワップや、屋外設備への落雷といった事象が発生し得るからです。大規模な施設では、長いケーブルに誘起電圧のスパイクが発生することもあります。
このような状況に対応するには、デバイスが動作する環境について理解しなければなりません。その上で、各種の規格に定められた内容を満たすようデバイスやシステムを設計する必要があります。設計者は、堅牢性が高く邪魔にならない最適な保護機構を用意しなければなりません。そして、下流の電子システムが最小限の中断時間で安全な状態に戻り、正しく動作するように設計を行う必要があります。
従来の保護手法
考慮すべき電気的なイベントには様々な種類があります。敏感な下流の電子システムを保護するためには、果たしてどのような手段を講じるべきなのでしょうか。
従来の手法では、1つのデバイスではなく様々なデバイスを組み合わせて回路の保護を実現していました。例えば、過電圧保護用のTVSダイオード、過電流保護用のインライン・ヒューズ、バッテリ/電源の逆接続に対応するための直列ダイオード、エネルギーの小さいスパイクを排除するためのLCフィルタを組み合わせるといった具合です(図2)。このようなディスクリート構成の手法でも、各種の規格を満たす(下流の回路を保護する)ことは可能です。しかし、それでは実装が複雑になることに加え、フィルタリング用の素子の値を決めるまでに何度も試行錯誤を繰り返さなければならなくなります。
以下では、上記の各デバイスについて、それぞれの長所/短所に触れながら詳しく解説していきます。
過渡電圧サプレッサ
過渡電圧サプレッサは比較的シンプルなデバイスです。電源に生じた高電圧のスパイクから下流の回路を保護するために使用されます。いくつかに分類することができ、それぞれに様々な特徴があります。表1では、応答時間の順に各種の過渡電圧サプレッサを列挙しました。TVSダイオードと呼ばれる製品は、過渡電圧サプレッサの一種です。
過渡電圧サプレッサの種類 | 応答時間 |
TVSダイオード | 約1ピコ秒 |
金属酸化物バリスタ(MOV) | 約1ナノ秒 |
アバランシェ・ダイオード/ツェナー・ダイオード | 1マイクロ秒未満 |
ガス放電管(GDT) | 5マイクロ秒未満 |
各過渡電圧サプレッサの構造や特性は様々ですが、すべて同様に動作します。いずれも、電圧がサプレッサの閾値を超えたら過剰な電流をシャントします。電圧/電流の経路に付加されたTVSダイオードは、ピコ秒のレベルで出力電圧を定格レベルにクランプします。一方、GDTの場合、応答に数ミリ秒かかることがありますが、はるかに大きなサージに対応できます。
図3に示したのは、下流の回路を保護するためにTVSダイオードを適用した例です。通常の状態ではTVSは高インピーダンスになっており、入力電圧がそのまま出力に現れます。入力に過電圧が発生すると、TVSダイオードは導通状態になります。それにより、過剰なエレルギーがグラウンドにシャントされます。その結果、下流の負荷にかかる電圧がクランプします。このとき、電源レールの電圧は標準値よりも高くなります。とはいえ、下流の回路にとって安全なレベルにクランプされるので、回路が損傷したりすることはありません。
TVSダイオードは、非常に高い電圧を抑制したい場合に有効です。しかし、持続的な過電圧にさらされると、同ダイオード自体が損傷してしまう可能性があります。そのため、同ダイオードは定期的にモニタしたり、交換したりする必要があります。同ダイオードが故障して短絡が生じると、電源から多大な電流が流れてしまうかもしれません。また、エネルギーの量によっては、マージンを確保するためにTVSダイオード製品の中でも物理的に大きいものを使用しなければならなくなります。そうすると、ソリューションのサイズも大きくなってしまいます。なお、TVSダイオードとして適切なサイズのものが適用されている場合でも、下流の回路はクランプされてはいるものの、通常よりも高い電圧に対応しなければなりません。そのため、下流の回路の電圧定格についても、より厳しい要件が課せられます。
インライン・ヒューズ
過電流に対する保護は、一般的なインライン・ヒューズを使用することで実現できます。ヒューズの溶断定格は、最大定格電流よりも20%高い値といった具合に、公称値に対してある程度のマージンを持たせるように設定されています。マージンの適切な値は、回路の種類や標準的な動作状態における負荷の値によって異なります。言うまでもなく、ヒューズの最大の欠点は溶断すると交換しなければならなくなることです。ヒューズを採用した設計は容易なので、時間とコストを削減できます。しかし、メンテナンスに関してかなり複雑な配慮が必要になります。特に、アプリケーションが物理的に手の届きにくい場所にあるケースでは、後になって追加の時間やコストが生じることになりかねません。ヒューズの代替品を使えば、メンテナンスの必要性を低減することが可能になります。例えば、通常のヒューズをリセッタブル・ヒューズに置き換えるといった具合です。リセッタブル・ヒューズは、通常よりも多くの電流が流れた場合に、正の温度係数を利用してその経路を遮断します。電流量が増加すると温度が上昇し、それに伴って抵抗値が急激に高くなるということです。
メンテナンスの必要性だけでなく、ヒューズには応答時間の面でも問題があります。この応答時間は、選択するヒューズの種類によって大きく異なります。とはいえ、速断ヒューズと呼ばれる製品でも、溶断時間(経路が遮断されるまでの時間)は数百マイクロ秒から数ミリ秒にも達します。ヒューズを使う場合には、そのような長い時間にわたって解放されるエネルギーについて考慮しなければなりません。下流の電子システムがそれに耐えられるよう設計を行う必要があります。
直列ダイオード
バッテリ駆動の機器などでは、回路に電源が接続されたり、切断されたり、再接続されたりする可能性があります。再接続される際には、必ず正しい極性で電源が接続されるとは限りません。逆接続(電源の極性を取り違えて逆に接続してしまった状態)に対する保護は、回路の正の電源ラインに直列ダイオードを追加することによって実現できます。図4に示したのは、図3の回路を修正したものです。TVSダイオードに加えて、逆接続/逆電圧から保護するため直列ダイオードを追加しています。ご覧のように、シンプルかつ効果的に逆接続に対処できるのですが、この手法に問題がないわけではありません。直列ダイオードで生じる電圧降下によって、電力損失が発生してしまうのです。この損失は、電流が比較的少ない回路であれば大きな問題にはならないかもしれません。しかし、多くの電流が流れる最新の機器には、これとは異なるソリューションが必要になります。
LCフィルタ
ここまでに取り上げた受動型(パッシブ)のソリューションは、いずれも何らかのイベントによって生じる大きな電圧/電流を制限します。言い換えると、大きなイベントには対応できるものの、小さなスパイクなどには反応しないということもあり得ます。そうした小さなトランジェントでも、下流の回路に損傷を及ぼす可能性はあります。このような問題を回避するには、保護の対象となる経路をクリーンな状態に保つ必要があります。そのために使用されるのがパッシブ・フィルタです。この種のフィルタは、ディスクリートのインダクタとコンデンサを使えば構成できます。それらの値は、問題になりそうな周波数の電圧を減衰するように設定します。フィルタを設計する際には、インダクタとコンデンサの値を適切に設定するためにテストを実施する必要があります。また、この手法を採用する場合、部品を追加することによるコストと実装スペースの増加は受け入れなければなりません。更に、時間と温度の変化に対応できるようにするために、部品の許容誤差についてやや過剰な配慮が必要になります。
能動型のサージ・ストッパによる保護
ここまでに説明したように、回路の保護を実現するための受動型のソリューションには、様々な課題や欠点があります。それらを克服する方法の1つが、IC化された能動型のサージ・ストッパを採用することです。サージ・ストッパ(コントローラIC)を使用する手法では、電圧/電流の経路に直列に配置するNチャンネルMOSFETを組み合わせて使用します。それにより、TVSダイオード、ヒューズ、インダクタ、コンデンサといったかさばるシャント用の部品が不要になります。サージ・ストッパを使用する場合、部品の値の決定や特性の見極めはほとんど必要ありません。つまり、システム設計を大幅に簡素化することができます。
サージ・ストッパは、入力される電圧と電流を継続的に監視します。通常の状態では、NチャンネルMOSFETのゲートが完全にオンの状態になるようにコントローラが制御します。つまり、入力から出力までのパスの抵抗値が小さい状態になります。過電圧/サージが発生したら、そのことがコントローラによって検出されます。その検出には、出力に付加されたフィードバック回路で決まる閾値が使われます。過電圧/サージが検出されたら、サージ・ストッパはNチャンネルMOSFETのゲートを制御し、抵抗分圧器によって設定されたレベルに出力電圧をクランプします。
図5に、サージ・ストッパICの使用例を示しました。併せて、公称12Vの電源レールに100Vのサージが入力された場合の応答も示しています。この回路の出力は、サージが継続している間、27Vにクランプされています。サージ・ストッパ製品の中には、直列の検出抵抗(図5の回路ブレーカ)を使って過電流を監視するタイプのものもあります。その監視結果に応じてNチャンネルMOSFETのゲートを制御し、負荷に流れる出力電流を制限します。
サージ・ストッパは、過電圧に対する応答によって、大きく以下の4つに分けることができます。
- リニア・サージ・ストッパ
- ゲート・クランプ型のサージ・ストッパ
- スイッチング・サージ・ストッパ
- 出力遮断型の保護用コントローラ
アプリケーションの性質に応じ、どのタイプのサージ・ストッパが適切であるかは異なります。以下では、それぞれの動作と長所について説明します。
リニア・サージ・ストッパ
リニア・サージ・ストッパは、リニア・レギュレータとよく似ています。直列MOSFETを駆動し、出力電圧をあらかじめ設定された安全な値に制限します。余分なエネルギーはMOSFETで消費されます。MOSFET自体を保護するために、容量を利用したフォルト・タイマーが使われることもあります。それにより、電力損失が大きい状態にMOSFETがとどまる時間を制限します。
ゲート・クランプ型のサージ・ストッパ
ゲート・クランプ型のサージ・ストッパは、内部/外部で設定したクランプ値(内部は31.5V/50V、外部は調整可能)を使用して動作し、ゲート・ピンをそれらの電圧に制限します。出力電圧に対する制限は、MOSFETの閾値電圧によって決まります。例えば、内部のクランプ値が31.5VでMOSFETの閾値電圧が5Vである場合、出力電圧は26.5Vに制限されます。外部で設定したクランプ値を使用すれば、より広範な電圧に対応できます。このタイプのサージ・ストッパの使用例を図7に示しました。
スイッチング・サージ・ストッパ
大電力を扱うアプリケーションには、スイッチング・サージ・ストッパが適しています。スイッチング・サージ・ストッパも、基本的にはリニア・サージ・ストッパやゲート・クランプ型のサージ・ストッパと同様に機能します。通常動作時にはMOSFETが完全にエンハンスメント状態になり、入出力間の経路の抵抗値が小さくなります(電力損失が最小限に抑えられます)。リニア・サージ・ストッパやゲート・クランプ型のサージ・ストッパとの主な違いは、サージを検出したときの動作にあります。スイッチング・サージ・ストッパは、サージが発生したら、スイッチング方式のDC/DCコンバータと同じように外付けのMOSFETをスイッチングします。それによって出力電圧をクランプします。
出力遮断型の保護用コントローラ
出力遮断型の保護用コントローラは、厳密に言えばサージ・ストッパではありませんが、サージの阻止に利用することができます。サージ・ストッパと同様に、この種のコントローラは過電圧と過電流の状態を監視します。ただ、それらのイベントが発生した場合、出力をクランプ/制御するのではなく、即座に出力までの経路を遮断することで下流の電子システムを保護します。このシンプルな保護用回路には、実装スペースが非常に小さいという長所があります。そのため、バッテリ駆動の携帯型アプリケーションに適しています。図9に、出力遮断型の保護用コントローラIC「LTC4368」の使用例を示しました。併せて、過電圧に対する応答も示しています。この種の保護用コントローラには、多くのバリエーションがあります。
上述したように、出力遮断型の保護用コントローラも入力される電圧を監視します。同コントローラのOV/UVピンには抵抗分圧器を接続します。それによって有効な電圧範囲を表すウィンドウを定義し、入力電圧がその範囲内にあることを確認できたら、通常の出力動作を行います。一方、入力電圧がこのウィンドウの範囲外にある場合には、バック・ツー・バック接続されたMOSFETによって出力を遮断します。それらのMOSFETにより、逆接続に対する保護も実現できます。更に、出力側の検出抵抗によって順方向の電流を継続的に監視することにより、過電流保護の機能も実現します。ただ、タイマーをベースとするライドスルー動作には対応していません。
サージ・ストッパの各種機能
アプリケーションに最適なサージ・ストッパを選択するためには、どのような機能を利用でき、それがどのような課題の解決に役立つのかを知る必要があります。パラメトリック・テーブルを利用すれば、適切な製品を選択するのが容易になります。
遮断かライドスルーか
アプリケーションによっては、サージが検出された際には入力と出力を遮断することが求められます。つまり、過電圧に対応して遮断を実現しなければならないということです。一方、サージが発生しても出力の動作を維持し、下流の電子システムのダウンタイムを最小限に抑えなければならないケースもあります。その場合、サージ・ストッパに求められるのはサージをライドスルーする機能です。リニア・サージ・ストッパやスイッチング・サージ・ストッパであれば、この機能を実現することができます(但し、この機能に対応可能なトポロジを採用しており、扱う電力量が、選択したMOSFETに対応できるレベルである場合に限ります)。
フォルト・タイマー
ライドスルー動作を利用する場合、持続するサージから何らかの方法でMOSFETを保護する必要があります。MOSFETを安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)で使用するためには、タイマーを利用するとよいでしょう。基本的なタイマーとしては、グラウンドに接続された外付けコンデンサが使用されます。その場合、過電圧の状態が生じたら、内部の電流源によってコンデンサに対する充電が始まります。コンデンサの充電レベルが特定の閾値電圧に到達すると、フォルト・ピン(デジタル・ピン)の出力がローになります。これは、過電圧の状態が続いているので、MOSFETを間もなくオフにするということを表します。タイマー・ピンの電圧がもう1つの閾値まで上昇したら、ゲート・ピンの出力がローになってMOSFETがターン・オフします。
タイマーの電圧の変化率は、MOSFETにかかる電圧によって変化します。つまり、電圧が高いとタイマーの設定時間が短くなり、電圧が低いと長くなります。この便利な機能により、サージ・ストッパは短時間の過電圧に対してはライドスルー動作によって下流のデバイスの機能を維持します。一方、過電圧が長時間持続する場合には、MOSFETが損傷しないよう保護されます。サージ・ストッパ製品の中には、リトライ機能を備えているものもあります。この機能を使った場合、クール・ダウンの期間を経た後、サージ・ストッパは再度、通常の出力動作を開始します。
過電流に対する保護
多くのサージ・ストッパは、電流を監視して過電流からの保護を実現する機能を備えています。この機能は、直列検出抵抗の両端に生じる電圧降下を監視し、その値に応じて適切に処理を行うことによって実現されます。MOSFETを保護するために、突入電流を監視/制御することも可能です。これは、過電圧に対応する場合と同様の動作によって実現します。回路が対応できるレベルの電力に対してはライドスルーし、そうでなければラッチ・オフによって遮断するという制御が行われます。
逆接続に対する保護
サージ・ストッパは、広範な電圧に対応します。製品によっては、グラウンド電位より60Vも低い電圧に耐えることが可能です。この能力のおかげで、逆接続に対する保護も実現できます。図10の回路は、逆接続に対する保護機能も提供します。この機能は、バック・ツー・バック接続したMOSFETを利用して実現されます。通常動作時には、GATEピンにより、MOSFETであるQ1とQ2はターン・オンしています。NPNトランジスタQ3は特に影響を受けていません。一方、逆接続の状態になった場合には、Q3がターン・オンし、Q2のゲートがプル・ダウンされます。その結果、Q1が分離されます。このような動作によって保護を実現します。
サージ・ストッパの出力ピンは、堅牢性の高い保護能力を備えています。それにより、出力ピンは逆電圧からも保護されます。使用する製品にもよりますが、グラウンド電位より20Vも低い電圧に対応することが可能です。
広い入力電圧範囲に対応しなければならないアプリケーションでは、フローティング・トポロジを採用したサージ・ストッパを選択してもよいでしょう。サージが発生すると、サージ・ストッパICにはその大きな電圧が印加されます。各ICが対応可能な電圧範囲は、製造プロセスに応じて制限されています。「LTC4366」のようにフローティング・トポロジを採用したサージ・ストッパICは、出力電圧のすぐ下のレベルでフロート状態になります。そのため、一般的なサージ・ストッパと比べて動作電圧範囲が格段に広くなります。リターン・パス(VSS)には抵抗が接続されており、サージ・ストッパICは電源電圧に対してフロートの状態になります。そのため、入力電圧に対する制限は、外付けコンポーネントとMOSFETの電圧に対する能力によって決まることになります。下流の負荷を保護する図11の回路は、非常に高いDC電源によって動作させることが可能です。
アプリケーションに適したデバイスの選択
サージ・ストッパは、本質的に高い堅牢性を備えるように設計されます。そのようなサージ・ストッパを採用すれば、保護回路の設計を簡素化することができます。ここまでに示したようなアプリケーションで、各部品の値を決める際には、サージ・ストッパのデータシートが非常に役に立ちます。最も難しいのは、最適なサージ・ストッパ製品を選択することかもしれません。
適切な製品を選択するためには、システムに求められる要件について正しく理解する必要があります。これは、どのような種類の製品を選択する場合にも当てはまることです。サージ・ストッパを選択する際に考慮すべき重要な事柄としては、想定する入力電圧、下流の電子デバイスの耐圧(クランプ電圧を定める上で重要)、設計において大きな意味を持つ特定の機能などが挙げられます。
選択肢を絞るためには、以下のようなステップを踏むとよいでしょう。
- 【ステップ1】アナログ・デバイセズのサイトにアクセスし、保護用製品ファミリのパラメトリック・テーブルを開きます。
- 【ステップ2】入力電圧範囲を選択します。
- 【ステップ3】チャンネル数を選択します。
- 【ステップ4】必要な機能によってフィルタリングすることで、選択肢を絞り込みます。
例として、パラメトリック・テーブルにおいてフィルタリングを行った結果(リンク)を以下に示しておきます。
上記のリンクをクリックし、更に検索用のパラメータに変更を加えれば、迅速に選択肢を絞り込むことができるでしょう。
まとめ
IC化されたサージ・ストッパを採用すれば、TVSダイオード、フィルタ用のインダクタ、コンデンサといったかさばる部品が不要になります。その結果、ソリューション全体の実装面積を低減できると共に、低背化も可能になるでしょう。サージ・ストッパを採用すれば、TVSダイオードを使う場合よりも高い精度で出力電圧をクランプできます。具体的には、1%~2%の精度が得られます。そのため、過剰にマージンを確保した設計を行う必要がなくなり、下流のデバイスとしても許容誤差がより小さいものを使用できます。
アナログ・デバイセズが提供する保護用製品ファミリを採用すれば、実装スペースを抑えつつ、下流のデバイスに対して信頼性が高く柔軟性に優れる保護を実現できます。産業、車載、航空、通信といった分野では、特に過大な電圧や電流が生じるおそれがあります。アナログ・デバイセズのサージ・ストッパICを使えば、そうした条件にも対応可能な保護回路を実現することができます。
参考資料
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「Fuseology(ヒューズ学)」Automotive Passenger Car Solutions Catalog、Littelfuse、2014年
Jim Kalb「Total Clearing Time(全溶断時間)」Technical Bulletin、OptiFuse、2010年1月
David Megaw「車載エレクトロニクスに対する給電と保護、スイッチング・ノイズを排除しつつ99.9%の効率を達成」Analog Dialogue、Vol. 54、No. 1、2020年2月
Bin Wu、Zhongming Ye「過酷な車載環境向けの包括的な電源システム、小型/高効率/低EMIを実現」Analog Dialogue、Vol. 53、No. 3、2019年8月