モータ駆動用の小型フィードバック・システム、高速応答の光学式エンコーダに対応

概要

本稿で取り上げるのは、産業用オートメーションなどで使われるモータ制御システムです。この種のシステムには、モータの回転位置を検出するためのインターフェースが必要になります。その設計を担当する技術者は、おそらく共通の課題に直面することになるでしょう。その課題とは、高速化、小型化が求められるアプリケーションにおいて、位置検出を可能にすることです。本稿では、その方法に関する知見を提供します。ロボットをはじめとするオートメーション機器を正常に動作させるには、エンコーダを使用してモータの回転位置を正確に計測する必要があります。分解能が高く高速で同時サンプリングが可能なデュアルA/Dコンバータ(ADC)を使用することにより、そうした位置検出システムを構築することが可能になります。

はじめに

オートメーションの分野には、続々と新しいアプリケーションが導入されています。産業用オートメーションの代表的なアプリケーションの例としては、微細な部品をプリント回路基板に実装するピック&プレース・マシンが挙げられます。そうしたシステムには、高い精度を実現可能なドライバやコントローラが必要になります。そして、多くの場合、位置、速度、方向というモータの回転に関する情報を正確に取得できるようにすることが求められるでしょう。特に、医療分野で使われる手術用のロボットや航空宇宙/防衛分野で使われるドローンのような新たなアプリケーションでは、高精度のモータ制御システムを小型化することも求められます。モータ・コントローラを小型化できれば、産業用/商業用の設備向けに新たなアプリケーションを開発することも可能になります。設計者にとっての課題の1つは、高速アプリケーションにおいてセンサーによって取得した位置情報をフィードバックするシステムの高精度化を実現することです。併せて、ロボット・アームに代表される小さな筐体に収容できるよう、必要なすべての部品を実装面積が限られた基板上に実装できるようにしなければなりません。

図1. モータ制御システムの概念図。クローズドループのフィードバック機構を実現しています。
図1. モータ制御システムの概念図。クローズドループのフィードバック機構を実現しています。

モータの制御

図1に、モータ制御システムの概念図を示しました。この種のシステムは、モータによって回転軸を回転させ、それに応じて機械のアームを動作させるといった用途に適用されます。主な構成要素としては、モータ本体、モータ・コントローラ、位置情報をフィードバックするためのインターフェースが挙げられます。モータ・コントローラは、モータの回転、停止、回転の継続といった動作のタイミングを指示する役割を担います。位置インターフェースは、モータの回転速度と位置の情報をコントローラに伝達するために使用されます。これらの情報は、システムを適切に動作させる上で非常に重要です。ピック&プレース・マシンを含む多くのアプリケーションでは、回転する物体に関する正確な位置情報が必要になります。

位置センサーとしては、非常に分解能が高いものを使用しなければなりません。ピック&プレース・マシンの例で言えば、モータの軸の位置を正確に検出し、微小な部品を正しくピックアップして基板上に正確に配置しなければならないからです。また、モータの回転速度が高速になるほど、ループの帯域幅をより広くし、遅延をより小さく抑える必要があります。 

位置情報のフィードバック・システム

ローエンドのアプリケーションの場合、位置検出には、インクリメンタル・センサーとコンパレータを併用するだけで十分かもしれません。しかし、ハイエンドのアプリケーションには、より複雑なシグナル・チェーンが必要になります。具体的には、データがデジタル領域に達するまでの部分として、位置センサー、シグナル・コンディショニング用のアナログ・フロント・エンド、ADC、ADC用ドライバで構成したフィードバック・システムが必要です(図2)。非常に高い精度を得るためには、位置センサーとして光学式のエンコーダが使用されます。光学式エンコーダは、LED光源、モータの軸に取り付けられるエンコーダ・ディスク、光検出器で構成されます。これらの構成要素のうち、エンコーダ・ディスクは光を遮る不透明な領域と光を通す透明な領域を設けたマスク・パターンを備えています。光検出器は、エンコーダ・ディスクを通過した光を検出し、光の有無を表す電気信号を生成します。

光学式の絶対位置エンコーダを使用する一般的なシステムでは、回転するディスクのパターンに連動して、光検出器からmV~μVのレベルのsin波とcos波の信号が生成されます。通常、それらの信号は、単体のオペアンプやアナログPGAを使って構成されるシグナル・コンディショニング回路に入力されます。そして、ADCの最大ダイナミック・レンジを活かせる入力電圧範囲に適合させるために、1Vp-pまで増幅されます。増幅されたsin/cos信号は、同時サンプリングに対応するADC用のドライバ・アンプにそれぞれ入力されます。 

ADCは、sin/cos信号を同一のタイミングで正確に捕捉して出力データを生成します。それらのデータのペアが軸の位置情報を表すことになるので、ADCとしては、同時サンプリングを実現できる機能/チャンネルを備えたものを選択しなければなりません。ADCによる変換結果は、ASICまたはマイクロプロセッサに引き渡されます。モータ・コントローラは、PWMサイクルごとにエンコーダの位置情報を問い合わせます。それによって得られたデータを基に、モータを駆動するための命令を発します。従来は、基板面積の制約に対応するために、ADCの変換速度とチャンネル数のうちどちらかを優先し、どちらかを犠牲にしなければなりませんでした。

図2. 位置情報のフィードバック・システム
図2. 位置情報のフィードバック・システム

フィードバック機構の最適化

技術の進化に伴い、高精度の位置検出が求められるモータ制御アプリケーションにも革新がもたらされました。通常、光学式エンコーダの分解能は、微細リソグラフィ技術によってディスクに刻み込まれた数百から数千のスロット数に基づいて決まります。より高速/高性能のADCを使って、sin/cos信号を取得する速度を高めれば、エンコーダ・ディスクを含むシステム全体に変更を施すことなく、分解能をより高めることができます。仮に、エンコーダのsin/cos信号をより低いレートでサンプリングすると、取得されるサンプルの数が減少します(図3)。そうすると、位置情報の精度が低下することになります。ここで、図3の構成のままADCのサンプリング・レートを高めると、時間分解能がより高い状態で値を取得できます。その結果、より高い精度で制御を実施することが可能になります。また、より高速なADCを使用すれば、オーバーサンプリングも適用可能です。そうすると、ノイズ性能が向上し、デジタル領域での後処理の一部が不要になります。加えて、ADCの出力データ・レートを下げられるため、シリアル信号の周波数もより低く設定でき、デジタル・インターフェースを簡素化することが可能になります。モータの位置情報をフィードバックするシステムは、モータのアセンブリ内に実装されます。このアセンブリは、アプリケーションによってはかなりサイズが抑えられます。当然のことながら、フィードバック・システムのサイズは、エンコーダのモジュールの限られた基板スペースに実装できるレベルまで小型化することが不可欠です。複数のチャンネルを備え、単一の小型パッケージを採用したADC製品は、小型化を図る上でも極めて有力な選択肢となります。

図3. サンプリング・レートと取得結果の関係
図3. サンプリング・レートと取得結果の関係

フィードバック・システムの設計例

ここまで、光学式エンコーダを使用して位置情報をフィードバックするシステムについて説明してきました。最後に、最適化済みのソリューションの一例を示します。図4に示した回路を光学式の絶対位置センサーに接続すれば、エンコーダからのsin/cos信号(差動信号)を簡単に取得することができます。フロント・エンドで使用しているのは、デュアルチャンネルで低ノイズの完全差動アンプ「ADA4940-2」です。これにより、後段のSAR(逐次比較型) ADC「AD7380」を駆動します。AD7380はデュアルチャンネルの完全差動型製品です。分解能は16ビット、サンプリング・レートは4MSPSで、オーバーサンプリング用の機能も備えています。パッケージは3mm×3mmの小型LFCSPです。AD7380は2.5Vの電圧リファレンスを内蔵しているので、この回路は最小限の部品しか必要としません。ADCのVCCとVDRIVEならびにドライバ・アンプの電源電圧は、「LT3023」、「LT3032」の各LDO(低ドロップアウト)レギュレータを使って供給します。例えば、この回路に1024スロットの光学式エンコーダを接続したとします。この場合、エンコーダ・ディスクが1回転すると、1024周期のsin/cos波が生成されます。分解能が16ビットのAD7380は、エンコーダの各スロットに対応する信号をサンプリングして216諧調のコードを生成します。エンコーダの分解能は、全体として26ビットまで向上します。サンプリング・レートは4MSPSなので、sin/cos波の周期を詳細に取得して、エンコーダによる位置情報を確実に更新することができます。また、サンプリング・レートが高いことから、オーバーサンプリングも適用可能です。そうすれば、エンコーダによる正確な位置情報をモータに伝達するデジタルASICやマイクロコントローラの待ち時間を削減できます。AD7380が備えるオーバーサンプリング機能と分解能向上機能を使用すれば、分解能を2ビット拡張できます。その結果、システムの分解能を28ビットまで向上することが可能になります。AN7380のオーバーサンプリング機能と分解能向上機能については、アプリケーション・ノートAN-2003をご覧ください。

図4. 最適化されたフィードバック・システム
図4. 最適化されたフィードバック・システム

まとめ

モータ制御システムについては、高精度化、高速化、小型化を求める声が高まっています。そうしたシステムでは、高い精度を実現することを目的とし、モータの位置検出に光学式エンコーダが使用されます。その種のエンコーダに対応するシグナル・チェーンにも高い精度が求められるのは当然のことです。高速でスループットの高いADCを使用すれば、モータの位置情報を表す正確なデータを生成して、コントローラに引き渡すことができます。AD7380は速度、精度、サイズの面で業界の要求に応えることが可能な製品です。これを採用すれば、位置情報をフィードバックするためのシステムの高精度化と最適化を実現することができます。

著者

Jonathan Colao

Jonathan Colao

Jonathan Colaoは、アナログ・デバイセズの高精度コンバータ技術グループに所属するプロダクト・アプリケーション・エンジニアです。2006年にプロダクト・エンジニアとしてフィリピン支社に入社しました。フィリピンのザビエル大学で電子工学の学士号を取得しています。