概要
本稿では、絶縁型、双方向のDC/DCコンバータを実現する優れた方法を紹介します。その実装においては、マイクロコントローラではなく、専用のデジタル・コントローラを活用します。それにより、標準的な順方向の電力伝送(FPT:Forward Power Transfer)に加えて、逆方向の電力伝送(RPT:Reverse Power Transfer)も実現できるようにします。本稿の目的は、その概念の実現可能性と有用性を実証することです。それに向けて、システムのモデリング、回路設計、シミュレーション、評価結果の詳細を紹介します。結論として、この手法を用いれば、両伝送方向において94%を超えるレベルの変換効率を実現することができます。
はじめに
電力の有効活用を実現するための重要な要素として、モジュール式のバッテリをベースとする蓄電システム(ESS:Energy Storage System)に注目が集まっています。実際、その種のESSは、再生可能エネルギーの効果的な利用に役立ちます。そのため、グリーン・エネルギーのエコシステムを構築する上で鍵になる技術だと考えられています。ESSの分野で急速に普及しつつあるのが、セカンドライフ・バッテリのアプリケーションです。この市場では、廃棄されるバッテリの最大80%が、定置型のグリッド・サービスを実現するためのESSで再利用されるようになると予想されています。それにより、バッテリの耐用年数は5年から15年に延びることになります。また、ESSを活用すれば、2030年にはグリッドの容量が最大1TWh増大するとの予測もあります1。近い将来、エネルギーの市場において、この新たなアプリケーションが更に重要なものになることは間違いありません。
標準的なESSは、様々なバッテリ・モジュールをスタックすることで構成されます。バッテリに蓄積されたエネルギーは、パワー・コンバータを介して集中型(centralized)のACバス/DCバスに伝送されます。その後、それらのエネルギーは何らかの形で負荷に対して送出されることになります。ESSでは、各モジュールのバッテリ・ケミストリ、容量、経年変化のプロファイルに差異があることが課題になります。従来のモジュール式のトポロジでは、最も能力が低いモジュールがスタック全体の総容量に影響を及ぼしていました(図1)。
図2に示したのは、上記の課題に対応可能なアーキテクチャです。この場合、スタック内のエネルギーは、各バッテリ・モジュールに専用のパワー・コンバータを介して共通の中間DCバスに伝送されます。そして、それらのエネルギーはメインのパワー・コンバータを介して中間電圧(medium voltage)を扱う集中型のACバス/DCバスをサポートするために使用されます。なお、図2ではESS製品の標準的な電圧値/電力値を使用しています。具体的には、48Vのバッテリ・モジュール、400VDCの中間DCバス、20kW以上の大電力に対応できるメインのパワー・コンバータ、最大1500Vに対応する集中型バスで構成しています2。
この構成では、スタックされる各モジュールのグラウンド基準が異なる値になります。そのため、各バッテリ・モジュール用のDC/DCコンバータは絶縁型のものでなければなりません。また、このESSは、セカンドライフのバッテリをベースとするハイブリッド型のシステムです。このようなシステムでは、電力を双方向に伝送するDC/DCコンバータを使用しなければなりません。それにより、各モジュールの独立した充放電や、充電のバランシングを容易に実現することが可能になります。結論として、このアプリケーションでは、電力の双方向のやり取りに対応可能な絶縁型のDC/DCコンバータが重要な意味を持つということになります。
通常、電力変換用のデジタル・コントローラは単方向の電力伝送を実現できるように設計されます。以下では、そうしたコントローラを双方向の動作に適応させることにより、DC/DCコンバータの双方向動作を実現する方法を紹介します。それにより、安全性と信頼性に優れ、実装に適した双方向/絶縁型のDC/DCコンバータを利用することが可能になります。
電力変換専用のデジタル・コントローラ
現在、大電力(1kW以上)に対応可能なDC/DCコンバータでは、スイッチング・デバイスをデジタルで制御する手法が標準的に使用されています。その場合、通常はマイクロコントローラ・ユニット(MCU)を利用して必要な機能を実現します3。ただ、産業分野のアプリケーションでは機能安全(FS:Functional Safety)に対する関心が高まっています。その点を考慮した場合、一般的なMCUではなく、専用のデジタル・コントローラを使用する方が理に適っているケースがあります。システム設計の観点から見ると、モジュール式の実装では、機能安全の認証が容易であることが大きなメリットになります。なぜなら、設計プロセスが簡素化され、事業化(収益の実現)を達成するまでの時間を短縮できるからです。MCUと比べて専用デジタル・コントローラの方が有利であることには、それ以外にもいくつかの理由があります4。以下、それらの理由について簡単にまとめておきます。
- MCU はソフトウェアに依存するので、多くの状態が存在し得ます。従来は、そのことが不安定さにつながると考えられていました。そのため、IEC 61508 が策定されるまでは、機能安全が求められるシステムで MCU を使用することは許可されていませんでした。MCU を採用した場合、機能安全に向けた取り組みの多くは、ソフトウェアの開発に費やされることになります。
- ソフトウェアだけでなく、MCU 自体の認証も得る必要があります。
- 専用デジタル・コントローラ(構成が可能なデバイス)は、データ駆動型のデバイスです。その構成のプロセスには、MCU に特有の完全可変言語(FVL:Full Variability Language)とは対照的な制約可変言語(LVL:Limited Variability Language)が使用されます。
- 専用デジタル・コントローラの機能は、シーケンシャル・デジタル・マシンだと見なし、テストによって完全に検証することができます。一般に、MCU のソフトウェアを対象としてこれと同じことを行うのは不可能です。専用コントローラを使用する場合、中核となる安全機能をデバイスに統合することが可能です。
- 専用コントローラを採用する場合、統合された安全機能を利用することができます。それと比べると、MCU によって安全機能を実装する場合には、かなりのハードウェアを追加しなければならなくなるかもしれません。例えば、故障モード影響診断解析(FMEDA:Failure Modes, Effects, and Diagnostic Analysis)を使用する場合、システムがより複雑なものになる傾向があります。
- 専用コントローラを使用する場合、更なる安全性を実現する必要が生じたら、MCU を外付けで追加することができます。その MCU にプログラムを実装し、必要な新機能を実現するということです。この手法は、通常はシステムのレベルで利用されます。
アナログ・デバイセズの「ADP1055」は、大電力を扱う必要がある絶縁型のDC/DC変換向けに開発されたデジタル・コントローラです。同製品は、効率と安全性を高めるための様々な機能を備えています。例えば、プログラムが可能な過電流保護(OCP:Overcurrent Protection)、過電圧保護(OVP:Overvoltage Protection)、低電圧ロックアウト(UVLO:Undervoltage Lockout)、過熱保護(OTP:Overtemperature Protection)といった機能です。多くの競合製品と同様に、ADP1055は、FPT向けのものとして設計されています。このコントローラを使用してRPTも実現し、双方向の変換に対応できるようにするには、アプリケーション全体をRPTに適応させる必要があります。以下では、まずFPTモードとRPTモードの両方で重要な意味を持つ1つの指標について検討します。これについては、上記の適応のプロセスに先立って理解しておく必要があります。その指標とは、DC/DCコンバータの効率です。
効率的なエネルギー変換の実現
絶縁型/双方向のDC電力の伝送は、様々な技術で実現できます。なかでも、図3(a)に示したアーキテクチャは、実装が容易であることから、非常に広く利用されています5。
図3(a)のアーキテクチャにおいて、FPTの動作については、センタータップの同期整流器に対して電圧を供給するフルブリッジ回路であると見なすことができます。一方、RPTの動作ではフルブリッジの同期整流器に電流を供給するプッシュプル・コンバータだと捉えることが可能です。以下では、1kW以上の大電力を扱うケースを考えます。1次側(DCバス)で400VDC、2次側(バッテリ・モジュール)で48VDCを使用するものとし、その場合に生じる一般的な課題について解説することにします。それに向けて、LTspice®による効率のシミュレーションを実施しました。具体的には、図3の回路によって、ワイド・バンドギャップのパワー・デバイスを100kHzでスイッチングするケースを例にとりました。表1は、シミュレーションに使用したパラメータについてまとめたものです。
表1. シミュレーション用のパラメータ
回路のパラメータ | 値 |
定格DCバス電圧 | VBUS = 400 V (DC) |
定格バッテリ電圧 | VBATT = 48 V (DC) |
スイッチ MA、MB、MC、MD | SCT3017AL:650V/118A対応のSiC MOSFET |
スイッチ MSR1、MSR2、MCLAMP | IPB065N15N3:150V/130AのMOSFET |
トランス | Np/Ns = 6:1、Lm = 50µH、LLEAK = 0.1µH~1µH |
チョーク・インダクタ | Lo = 50 μH |
クランプ・コンデンサ | CCLAMP = 1 μF |
バス・コンデンサ | Co = 10 μF |
スイッチング周波数 | 100kHz(実効200kHz) |
図3(b)の結果からは、通常のハード・スイッチング(HS:Hard-switching)のPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)を使用した場合、電力レベルが高くなると効率が急激に低下することがわかります。このことは、RPTとFPTを比較するとより明白になります。この動作の改善するためには、2つの主要な損失メカニズムに対処する必要があります。以下に示す2つのスイッチング技術を使用すれば、それらの損失の問題を軽減できます。
- ソフト・スイッチング:図 4(a)は、リークの少ないインダクタンスを使用した設計において、通常の PWM を使用した場合の例です。1 次側のスイッチ MA と MB がスイッチングし、パッシブな状態からアクティブな状態に遷移する際には、高速にターンオフするわけではないということが見てとれます。そうすると、システムのスイッチング損失が増加することになります。この問題については、位相シフト PWM(PS PWM:Phase-shifted PWM)が対処策として使用されます。PS PWM は、ゼロ電圧スイッチング(ZVS:Zero-voltage Switching)、ソフト・スイッチング(Soft-switching)とも呼ばれます。それにより、遷移中のドレイン‐ソース間電圧をゼロに下げることができます。これは、負荷に応じて適切なデッド・タイムを設け、スイッチのドレイン‐ソース間容量に蓄積された電荷を完全に放電できるということを意味します。このPS PWM を適用した結果を図 4(b)に示しました。
- アクティブ・クランプ:図 5(a)は、2 次側のスイッチMSR1、MSR2 がターンオフする際、ドレイン‐ソース間電圧に大きなスパイクとリンギングが生じている様子を表しています。こうした過渡的な現象は、スイッチの完全性を脅かし、エネルギーを浪費します。また、EMI(電磁干渉)の原因にもなり得ます。この問題を解消する技術がアクティブ・クランプです。図 3 の MCLAMP のようなスイッチを追加し、それをデジタル制御することで、スパイクによる悪影響を軽減することができます6。その結果、このアーキテクチャの効率を高めることが可能になります。図 5(b)に示したのは、アクティブ・クランプを適用した場合のシミュレーション結果です。
これらの手法を適用すると、5kWのRPTにおけるコンバータの効率は80%未満から90%以上に向上します。図3(b)に示したように、このようなシミュレーションによる検討結果から、FPTとRPTの両方で同様の効率が得られることが予想されます。
ADP1055は、これらの機能を実装するために、スイッチング用のタイミングを生成できるようになっています。それには、プログラムが可能な6つのPWM出力と、アクティブ・クランプ用のスナバとして構成可能な2つのGPIO(General-purpose Input/Output)を使用できます。どちらの機能も、GUI(Graphical User Interface)を使って容易にプログラムすることが可能です。このデジタル・コントローラが備える各種の機能については「ADP1055-EVALZ User Guide」(以下、ADP1055のユーザ・ガイド)で詳しく説明しています。その中では、主に標準的なFPTアプリケーションについて解説しています。
ここまでで、このアプリケーションのFPTモードとRPTモードの両方に適した効率向上のためのメカニズムについて確認することができました。それらによって、実現可能な効率のレベルも把握できたので、本題であるRPTへの適応について説明していくことにします。
RPTへの適応
続いては、このアプリケーションにおけるRPTの動作について検証します。ここでは、概念実証向けに低電圧を使用する評価環境を構築しました。この評価環境はADP1055のユーザ・ガイドで取り上げているハードウェアに基づいています。そのハードウェアは、もともと48VDCから12VDC/240WへのFPT用に設計されたものです。標準的なケースの例として、メインのコントローラであるADP1055は125kHzのスイッチング周波数fSWで動作させることにします。RPTの動作に適応させるためには、ハードウェアとソフトウェアの両方を修正する必要がありました。図6の上側は、本稿で提案するハードウェアのシグナル・チェーンを表しています。これについては、以下のような点に注目してください。
- 4 つの 1 次側スイッチは、マッチングした 2 つの絶縁型ハーフ・ブリッジ・ゲート・ドライバ「ADuM3223」によってオン/オフされます。このドライバでは高い精度でタイミングを制御できるため(アイソレータとドライバの伝搬遅延は最大 54 ナノ秒)、PWM 機能に制御信号を正確に反映させることができます。
- ADP1055 のユーザ・ガイドで取り上げている絶縁型の電源ユニットについては配線を修正しています。具体的には、補助的な高精度の LDO「ADP1720」を追加しています。そして、システム内の 2 つのグラウンド基準を考慮し、アプリケーションで使用する全 IC に電力を供給します。
- 測定側では、シャント抵抗の電流測定用の端子を入れ替えています。その目的は、トランスの 2 次側の出力電流を、コントローラの CS2+/CS2- ピンによって正しい方向で測定されるようにすることです。
- FPT では、バッテリ側の電圧が制御された出力になります。一方、RPT モードについては、絶縁アンプ「ADuM4195」を使用することで、可変出力である DC バスの電圧を安全かつ正確に測定できるようにしています。
ADuM4195をベースとする測定方式は、制御ループを構成するハードウェアに対して追加した事柄の中で最も重要な意味を持ちます。ADuM4195は、5kVの絶縁電圧(高電圧の1次側から低電圧の制御側まで)によって安全性を確保します。また、最大4.3Vの広い入力範囲、約0.5%という高精度のリファレンス電圧、200kHzの最小帯域幅という特徴を備えています。それにより、シャント・レギュレータとオプト・カプラを用いるソリューションよりも高速のループ動作が可能になります。つまり、優れた過渡応答を実現できるということです。このような動作は、125kHzのスイッチング周波数を使用するアプリケーションでは不可欠です。図7は、最終的な評価環境の外観を示したものです。この環境は、ADP1055のユーザ・ガイドの評価ボードにADuM4195を追加することで構成しています。ADuM4195をベースとする測定用のドータ・カードに、図6に示した追加のハードウェアが実装されています。
図6の下側に示したのは、RPTに適応させるためのソフトウェア側の構成です。デジタル制御システムについて詳細に検討した結果、いくつかのブロックを組み合わせることにより、必要なプロセスを実現することにしました。以下、その概要について説明します。
- 定常状態の適切な応答は、PWM の設定を、2 次側のインダクタの充電状態に比例したデューティ・サイクルに変更することで実現しました。これは、このアーキテクチャにおいて RPTモードで実行される昇圧型の動作に対応しています。
- ラプラス領域におけるプラントの伝達関数 Gp(s) は、ADP1055 のユーザ・ガイドに記載されている LCL ベースの出力フィルタを参考にし、AC 小信号等価回路の手法を使うことで特定しました7。FPTとは異なり、RPTにおけるプラントは、右半平面ゼロ(RHZ:Right-half Plane Zero)を備える 2 次システムの応答を示します。これは、連続電流モード(CCM:Continuous Current Mode)の昇圧コンバータにおいては典型的なものです。この種のシステムは本質的に不安定なので、誤差アンプの帯域幅を狭くする必要がある点に注意してください。
- フィードバック測定の関数 Gm(s) は、MATLAB®の System Identification Toolbox を使用してモデル化しました。そのモデルは、絶縁型のフォロワとして動作する ADuM4195の周波数応答をベースとしています(図 8)。ご覧のとおり200kHz 付近に支配的な極が存在し、制御システムの目標帯域幅(観測可能な 2 倍の周波数である 250kHz の約 10%)を上回る高速な応答が保証されます。
- 本稿の例では、コントローラの標準のデジタル補償器に極を追加するオプションを用意しました。それを使用すれば、この非最小位相昇圧のようなコンバータ・プラントで必要になる制御システム全体の帯域幅を狭めることができます。それに対応し、以下の式で表されるデジタル・コントローラを使用しました(定数はADP1055のユーザ・ガイドで定義されています)。
ラプラス領域で解析を行うために、デジタル制御理論9に従って、Gc(z)の連続時間モデルGc(s)を作成しました。最初に遅延を追加し(×z-1)、タスティン近似z = (4fsw + s)/(4fsw - s)とパデ近似を使用して離散PWMの遅延(Tsa/2 = 1/4fsw)をモデル化しました。それにより、連続時間での最終的な表現として次式が得られました。
- 最後に、MATLAB の Control System Designer を通常の連続時間の制御ループとして使用し、安定な応答が得られるよう設計するために、オープンループの伝達関数 Gol(s) = Gp(s)Gm(s) Gc(s) を得ました。
この検討で得られる主要な所見の1つは、制御においてFPT用のものと同じ定数を使用した場合、RPTの応答は不安定になるということです。従って、信頼性の高い動作を得るためには、Gc(s)の定数を適切な値に設定することが不可欠です。適切な設計によって安定なオープンループの伝達関数を実現できれば、コントローラによる完全なデジタル領域の制御が行えます。図9の左側に示したのは、設計したデジタル・フィルタGc(z)の周波数応答です。このフィルタは、図9の右側に示したADP1055のGUIによってグラフィカルかつ容易に構成することが可能です。
先述したように、効率の向上を図るためには、適応型のデッド・タイムとアクティブ・クランプを備えたPS PWMを利用するべきです。そこで、これらを適用した構成での評価も行いました。その結果、RPTについてアクティブな状態からパッシブな状態への遷移時に適切なZVSを実現するには、PWMのシーケンスにおいてデッド・タイムの値を修正する必要があることがわかりました。そこで、電流の適切な反転を可能にするために、アクティブな状態からパッシブな状態に遷移する前に2次側のスイッチのターンオンが生じるよう修正を行いました9。
2次側の12Vの入力から1次側で48Vが得られたという結果から、RPTに適応できたことが確認されました。図10(a)は、負荷、入力電圧の変化に対する出力電圧の評価結果です。それぞれ相対標準偏差(RSTDEV:Relative Standard Deviation)が0.1%、0.02%という非常に優れた値が得られました。図10(b)、図10(c)は、それぞれ変換効率と、負荷が50%ステップ状に変化する場合の応答を表しています。RPTの効率のレベルは、FPTの場合と同様です。いずれも、中間レベルの電力範囲で最大94%という値が得られています。ステップ応答のパラメータ(オーバーシュートとセトリング時間)は、FPTでは2%、800マイクロ秒であるのに対し、RPTでは1%、1.5ミリ秒となっています。実験を行った結果、セトリング時間をわずかに長くとれば、オーバーシュートを低く抑えられ、安定した過渡応答が得られることがわかりました。これらの結果から、双方向の電力変換にデジタル・コントローラを適応させるための設計プロセスの妥当性が確認できました。つまり、この概念を具現化することによって、優れた結果が得られることが実証されたということです。
まとめ
電力変換向けの専用デジタル・コントローラは、エネルギーの市場に対して、安全性と信頼性の高いアプリケーションを提供するための優れた手段です。そうしたコントローラを使用すれば、MCUを採用する場合と比べて、機能安全に関する認証を取得することが容易になります。そのため、システム・レベルの設計を完了してから事業化するまでの時間を短縮することができます。通常、デジタル・コントローラは単方向の電力伝送向けに設計されています。そこで、本稿ではそれを双方向に対応できるようにする方法を紹介しました。具体的には、概念の構築にはじまり、モデリング、シミュレーション、実機による評価までの詳細を詳しく説明しました。それにより、バッテリ・ベースのESSに適した絶縁型/双方向のDC/DCコンバータを実現できることを実証しました。つまり、FPT、RPTのどちらでも同等の性能が得られ、アプリケーションの実現可能性と有用性の高さを証明することができました。
参考資料
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2 Gerard Reid、Javier Julve「Second Life-Batterien als flexible Speicher fur Erneuerbare Energien.(再生可能エネルギーの貯蔵先としてバッテリのセカンドライフを活用する)」Bundesverband Erneuerbare Energie e.V. (BEE)、2016年4月
3 Hrishikesh Nene、Toshiyuki Zaitsu「Bi-directional PSFB DC-DC Converter with Unique PWM Control(独自のPWM制御による双方向PSFB型DC/DCコンバータ)」IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC)、2017年
4 Tom Meany「The Ideal Power Supply Monitor for Functional Safety(機能安全のための理想的な電源モニタ)」EngineerZone、2020年6月
5 Yu Du、Srdjan Lukic、Boris Jacobson、Alex Huang「Review of High Power Isolated Bidirectional DC-DC Converters for PHEV/EV DC Charging Infrastructure(PHEV/EV用のDC充電インフラで用いるDC/DCコンバータ、必要な要件は絶縁型/双方向/大電力対応)」IEEE Energy Conversion Congress and Exposition、2011年
6 Subodh Madiwale「Digital Control Enables High Reliability DC-to-DC Power Conversion with Active Snubbing(デジタル制御型のアクティブ・スナバにより、信頼性の高いDC/DC変換を実現する)」Analog Devices、2016年9月
7 Robert W. Erickson、Dragan Maksimovic「Fundamentals of Power Electronics, 2nd ed(パワー・エレクトロニクスの基礎 第2版)」Springer、2001年1月
8 Simone Buso、Paolo Mattavelli「Digital Control in Power Electronics, 2nd ed(パワー・エレクトロニクスのデジタル制御 第2版)」Morgan & Claypool Publishers、2015年5月
9 Guipeng Chen、Yan Deng、Hao Peng、Xiangning He、Yousheng Wang「An Optimized Modulation Method tor Full-Bridge/Push-Pull Bi-Directional DC-DC Converter with Wide-Range ZVS and Reduced Spike Voltage(フルブリッジ/プッシュプル型の双方向DC/DCコンバータに最適な変調方式、広範囲のZVSによってスパイク電圧を低減)」ECON 2014. 40th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society、2014年