低EMIのSilent Switcher 2技術を特長とする小型高効率モノリシック・レギュレータによる先進のSoCおよびマイクロプロセッサへの電源供給

自動車、電気通信、データ通信、および各種工業用システムでは、先進的なSoC(システム・オン・チップ)、FPGA、マイクロプロセッサなどを使用するソリューションが増え続けています。消費電力の大きいコンポーネントが追加され、電子通信、オーディオ、ビデオなどのデータのライブ・ストリームに対応するためにデータ処理速度が増大し続けていることから、それぞれのSoCおよびFPGAのパワー・バジェットは、世代を追うごとに拡大しています。これらの需要を満たすことができるのは、高効率、高電力密度、低電磁放射といった特性を備えた堅牢で使いやすい低電圧電源に限られます。

SoCやFPGAには、DDR用の1.1V電源、コア用の0.8V電源、I/Oデバイス用の3.3V/1.8V電源を含め、複数の低電圧電源が必要です。通常、広範な自動車用バッテリや工業用バスの電圧から1V未満の電源を供給するには、2つの段が必要です。すなわち、12Vまたは5Vまでの中間調整段と、もう1つの低電圧段です。全体的な電源システムが、自動車用、電気通信用、データ通信用、工業用の厳しい仕様を満たすようにするには、個々の変換が効率的で、なおかつEMI標準を満たせるものでなければなりません。

従来の降圧レギュレータを使ってサイズ、効率、およびEMIに関する設計目標を満たすには、困難が予想されます。従来、1V未満の降圧レギュレータは、サイズが大きくEMIノイズも多いPWMコントローラとMOSFETに依存していました。自動車用および工業用システムでは、よりコンパクトで電流容量が大きく、高効率なデバイスが必要とされますが、更に重要なのはEMI性能が優れていることです。LTC7150SおよびLT8642SファミリのPower by LinearモノリシックSilent Switcher® 2降圧レギュレータは、EMI、サイズ、熱に関する制約を満たしながら、先進的SoCの電源条件を高い信頼性と堅牢性で満たすことができるように設計されています。

優れたEMI性能を発揮するSilent Switcher 2アーキテクチャ

現在定められているEMI標準の要求を従来のDC/DCコントローラによって満たすのは難しいため、可能であればEMIの問題に最初に対処するのが標準的な手順です。EMIに関する問題がシステムの設計開発段階の終盤で発生すると、トラブルシューティングと再設計に多大の費用と時間を費やすことになります。プロジェクトの遅延、市場の喪失、企業の評判低下といった損害が発生する可能性を残したままにするのは、リスクが大きすぎます。電源設計プロセス全般を通じてEMI性能を確保するためには、多くの場合、EMIの抑制が優先されます。場合によってはオーバースペックとなって、他の必要な性能、具体的にはソリューション・フットプリント、全体的な効率、信頼性、シンプルさなどが犠牲になってしまうこともあります。

従来の手法では、スイッチング・エッジを遅くしたり、スイッチング周波数を下げたりすることによってEMIを制御していました。例えば、ゲート抵抗やスナバを追加してスイッチング・エッジのオン/オフを遅くすれば、スイッチング周波数を下げてEMIを抑制することができます。しかし、これらの方法には、最小オン時間の増大、電圧変換比の制約、ソリューションの大型化などの大きなトレードオフが伴います。サイズの大きいEMIフィルタや金属製シールディングといった代替手法による低減には、ボード・スペースの増大、部品数の増加、アセンブリが複雑になるといった欠点が伴い、熱の管理やテストの面でも複雑さが増してしまいます。これらの方法では、コンパクトなサイズ、高い効率、低EMIといったSoCパワー・バジェットに関する厳しい条件を満たすことはできません。

LT8642Sは、18V/10Aの降圧モノリシックSilent Switcher 2レギュレータで、4mm × 4mmのLQFNパッケージで提供されます。12Vから1.2V/10AへのLT8642S降圧ソリューションと、その超低EMI性能を図1に示します。LT8642Sは、フェライト・ビーズと入力コンデンサだけを入力EMIフィルタとして使用することで、自動車業界で広く使われている厳格なCISPR 25 Class 5の放射EMI仕様を十分なマージンで満たすことができます。コンスーマ・エレクトロニクス製造に多用されているもう1つのEMI仕様が、CISPR 32です。LT8642Sは、入力EMIフィルタなしでも、CISPR 32 Class Bの放射EMI仕様を容易に満たすことができます。

図1. LT8642Sを使用した超低EMIの1.2V/10Aアプリケーション

図1. LT8642Sを使用した超低EMIの1.2V/10Aアプリケーション

LTC7150Sはこの種のデバイスの最初のもので、電磁放射を最小限に抑えるためにSilent Switcher 2技術を採用した20Aの高効率降圧レギュレータです。このデバイスはEMIフィルタの設計とレイアウトを大幅に簡略化し、ノイズに敏感な環境に最適な製品となっています。アナログ・デバイセズ独自のSilent Switcher 2アーキテクチャは、モノリシック・レギュレータのACスイッチング損失を最小限に抑えながら、非常に優れたEMI性能を実現します。このICには、ホット・ループ・コンデンサが含まれています。このコンデンサは、内蔵のMOSFETと組み合わせることで、ノイズの多いアンテナを大幅に小型化することが可能となり、EMIを最小限に抑えます。

極めて高速のスイッチ・エッジでスイッチング・ノードのリンギングが最小限に抑えられ、高周波ノイズと、それに伴ってホット・ループに蓄積されるエネルギーが減少しています。また、EMIを相殺するために、ホット・ループが2つに分割されて対称にレイアウトされています。先進の運転支援システム(ADAS)や自律走行システム用に強力なSoCが採用された自動車環境は、ノイズに敏感ですが、上記のような対策により、自動車環境用に低ノイズの電源を実現します。更に、次世代のSoC、CPU、マイクロプロセッサに電力を供給するために高効率の低ノイズ電源が必要とされる電気通信、輸送、および工業用のシステムに関する条件も満たします。

LTC7150Sは、図2に示すように簡単なEMIフィルタをフロント側に取り付けることで、CISPR 25の放射EMIピーク限界値を満たすことができます。図2では、フェライト・ビーズを使った簡単なフィルタが取り付けられています。CISPR 25による放射EMIテストの結果を図3に示します。この結果は、CISPR 25クラス5のピーク限界値を満たしています。

図2. LTC7150S、EMIフィルタ使用

図2. LTC7150S、EMIフィルタ使用

図3. LTC7150Sの放射EMI性能

図3. LTC7150Sの放射EMI性能

複数コンバータの並列化による出力電流の増大

自律走行や自動駐車などの先進的機能は、ライブ・ストリーム・ビジュアルや人工知能を実現するために、より強力なSoCを必要とします。同様に、電気通信機器やビッグ・データ設備の計算システムやサーバー・システムには高性能のSoCソリューションが含まれており、これらは従来よりも多くの電力を必要とします。20A以上の電流容量を必要とするプロセッサ・システムでは、複数のLTC7150Sを並列化し、異なる位相で動作させることができます。

LTC7150Sは、外部クロックへの同期を可能にする同期機能が特長で、内部PLL(フェーズ・ロック・ループ)を使用すれば、マルチチャンネルの多相動作用に異なる位相でLTC7150Sを動作させて、リップルを減らすことができます。CLKOUT信号を後続のLTC7150SのMODE/SYNCピンに接続すれば、システム全体の周波数と位相の両方を揃えることができます。多相動作にはPHMODEピンを使用します。PHMODEピンをINTVCCピンまたはSGNDピンに接続するかフロート状態のままにすると、MODE/SYNCピンに加えたクロックとCLKOUTの間に位相差が生じます。それぞれの場合の位相差は180°、120°、あるいは90°で、これらは2相動作、3相動作、または4相動作に相当します。それぞれのLTC7150SのPHMODEピンを異なる電圧レベルにプログラムすることによって、合計12チャンネルを互いに異なる位相で動作させることも可能です。

1.2Vで40Aの出力を得るために並列に接続した2個のコンバータを図4に示します。マスタ・ユニット(U1)のCLKOUTをスレーブ・ユニット(U2)のMODE/SYNCに接続することによって、U1のクロックがU2に同期されます。マスタのPHMODEピンはグラウンドに接続し、スレーブのPHMODEピンはフロート状態のままにします。これによって2つのチャンネル間に180°の位相差が生じ、入力電流リップルが減少します。定常状態とスタートアップ時に良好な電流分担を維持できるように、ITH、FB、TRACK/SSは相互に接続されています。ローカルRT抵抗は必要ですが、これらの抵抗は互いに接続しないようにする必要があります。また、帰還精度とノイズ耐性を向上させるために、ケルビン接続を推奨します。最下層へのグラウンド・ピン付近には、熱性能を改善するため、できるだけ多くの電源ビアを配置してください。入力ホット・ループ用のセラミック・キャップは、VINピンの近くに置く必要があります。

図4. 出力電流容量を40Aとするために2個のLTC7150Sレギュレータを並列に接続。

図4. 出力電流容量を40Aとするために2個のLTC7150Sレギュレータを並列に接続。

図5. 図4に示す40A回路の効率

図5. 図4に示す40A回路の効率

図6に示すように、インダクタ電流はスタートアップして定常状態となるまでに平衡状態に達します。効率は、3.3V入力時に32Aで89%という高い値が得られます。

図6. 並列ソリューションのインダクタ電流波形

図6. 並列ソリューションのインダクタ電流波形

高スイッチング周波数がコンパクトな高効率ソリューションを実現

Silent Switcher 2アーキテクチャは、LT8642Sソリューションの卓越したEMI性能を実現するだけに止まらず、高速でクリーンなスイッチング・エッジも提供して、スイッチング損失を軽減します。最小限のスイッチング損失とわずか20nsの最小オン時間によって、高効率と高スイッチング周波数、そしてソリューションの小型化を実現します。例えば、12Vから1.2VへのLT8642Sソリューションでは、88%以上の効率と2MHzのスイッチング周波数を実現することができます。更に、LT8642Sは、その高速ピーク電流モード・アーキテクチャにより、過負荷状態あるいは短絡状態でインダクタが飽和した場合でも、安全に動作させることができます。したがって、インダクタを出力負荷条件に基づいて選ぶことができます。

通常、コンパクトな電源ソリューションは熱性能の面で問題を抱えています。LT8642Sは、この典型的なトレードオフを、高い効率と優れた熱性能を実現するパッケージングを通じて解決しています。1MHzでスイッチングを行う5V/10AのLT8642Sソリューションを図7に示します。12V入力の場合、出力電力50Wで動作時のLT8642Sのケース温度上昇は47℃未満で、ピーク効率は97%以上に達します。

図7. LT8642Sを使用した50W(5V/10A)ソリューション

図7. LT8642Sを使用した50W(5V/10A)ソリューション

図8は3MHzのLT8642Sソリューションです。高周波動作によって小型インダクタと小容量の出力コンデンサを使用できるので、ソリューション・サイズが最小に抑えられます。

図8. LT8642Sを使用した3.3V、3MHzアプリケーション

図8. LT8642Sを使用した3.3V、3MHzアプリケーション

LT8642Sはイネーブル制御、パワー・グッド・インジケータ、ソフト・スタートなどの機能も備えています。これらの機能は、SoCやFPGAの電源に必要なシステム・パワー・シーケンシングに不可欠です。

アナログ・デバイセズのPower by Linearポートフォリオには、先進のSoC、FPGA、マイクロプロセッサのパワー・バジェット条件を満たす広範な降圧レギュレータが含まれています。これらのデバイスの一部と、その電流容量を表1に示します。

表1. 大電流モノリシック・レギュレータ
入力電圧 (V) 入力電圧 (V) 電流 (A) 周波数 (MHz) 最小 Ton
(ns、代表値)
パッケージ
LT8642S 2.8 to 18 1 10 0.2 to 3 20 4 mm × 4 mm LQFN
LTC3636 3.1 to 20 2 6/6 0.5 to 4 30 4 mm × 5 mm QFN
LTC7124 3.1 to 17 2 3.5/3.5 0.5 to 4 50 3 mm × 5 mm QFN
LTC7150S 3.1 to 20 1 20 0.4 to 3 20 6 mm × 5 mm BGA
LTC7151S 3.1 to 20 1 15 0.4 to 3 20 4 mm × 5 mm LQFN

まとめ

工業環境や自動車環境における高度なインテリジェント機能、自動化機能、検出機能が求められることで、より高性能の電源を必要とする電子システムが広く使われるようになってきています。結果的には低EMIに最も高い優先度が置かれていますが、ソリューション・サイズ、高効率、熱対策、堅牢性、使いやすさといった特性も依然として重要です。

アナログ・デバイセズのモノリシック・レギュレータはこれらの領域について優れた特性を備えており、自動車、電気通信、データ・センター、工業分野において求められる条件を満たしています。特に、LTC7150SとLT8642Sを含む高性能モノリシック・レギュレータのファミリは、独自のSilent Switcher技術を採用することによって、コンパクトな形状で厳格なEMI標準を満たしています。内蔵MOSFETと内蔵熱管理機能は、最大20Vの入力範囲で、数アンペアから20Aまでの確実かつ信頼性の高い電流供給を実現します。イネーブル制御、パワー・グッド・インジケータ、ソフト・スタート機能がすべて含まれているので、電源設計を完了させるのに必要なコンポーネント数はわずかで済みます。



Ying Cheng

Ying Cheng

Ying Cheng graduated from Missouri University of Science and Technology (formerly University of Missouri-Rolla) with aPhD degree in electrical engineering. She has been with Linear Technology for 6 years as a senior applications engineer in the Power Products group, working on DC/DC switching regulators and LDOs.

Zhongming Ye

Zhongming Ye

Zhongming Yeは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州ミルピタス)でパワー製品を担当するシニア・アプリケーション・エンジニアです。2009年にLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズの傘下)に入社して以来、降圧/昇圧/フライバック/フォワード型コンバータを含む様々な製品のアプリケーション・サポートを担当しています。車載、医療、産業の各分野を対象とし、効率/出力密度/EMI性能に優れるパワー・コンバータやレギュレータなどのパワー・マネージメント製品に取り組んでいます。それ以前は、Intersilに3年間勤務し、絶縁型パワー製品向けのPWMコントローラを担当していました。カナダのキングストンにあるクイーンズ大学で電気工学の博士号を取得しています。IEEE Power ElectronicsSocietyのシニア・メンバーを務めていました。