ホット・ループという用語は、スイッチング・レギュレータとその電磁両立性(EMC)が関係する場合に必ず出てくる言葉です。これは、特にプリント回路基板においてパターン配線を最適化する場合に問題となります。ところで、ホット・ループとは正確には何を表すのでしょうか。
電流は、スイッチング・レギュレータの中で常に切り替えられています。通常、これらの電流は比較的大きい値を示します。電流が流れれば、必ず磁界が発生します。大きな電流が素早く切り替わると、交流磁界が発生します。さらに、一定の寄生パターン・インダクタンスを通じて電流が切り替わると、電圧オフセットが生じます。この電流は、隣接する回路部品と容量的に結合して、電源の放射ノイズを増大させる可能性があります。要するに、スイッチモード電源におけるノイズの主な原因は、スイッチング電流であると言うことができます。簡単な降圧コンバータのトポロジを図1に示します。連続電流が流れるラインはすべて青で、電流が急速に切り替わるラインはすべて赤で示されています。
図1に赤で示したパスがクリティカル・パスです。こうしたパスは電流ループのように見えるので、「ループ」と呼ばれます。ホット・ループとは、素早くスイッチングする電流が関係することから、特に重要なループを意味します。このループを詳しく見てみると、図1の赤いループにある2つのスイッチが同時に閉じることはないので、このループには実際には電流が流れないことが分かります。この部分は、一定時間だけ電流が流れ、それ以外のときは電流が流れない個々のラインの組み合わせに過ぎません。図2の矢印は、個々の接続ラインに電流が流れる方向を示しています。また、一定時間内のどの時点で電流が流れるのかを示す記号が示されています。それ以外のときに導線に電流が流れることはありません。
表1は、図2に示す赤いパターンのそれぞれにいつ電流が流れ、いつ流れないかを示しています。降圧レギュレータのデューティ・サイクルのオン時間にはハイサイド・スイッチがオン、ローサイド・スイッチがオフになり、入力コンデンサからハイサイド・スイッチを通って電流が流れますが、ローサイド・スイッチには流れません。デューティ・サイクルのオフ時間にはローサイド・スイッチに電流が流れ(グラウンドからスイッチ・ノードへ)、ハイサイド・スイッチには流れません。
降圧レギュレータのデューティ・サイクル | 図2の記号 | ハイサイド・スイッチ | ローサイド・スイッチ |
オン時間 | オン | オフ | |
オフ時間 | オフ | オン |
図2を見れば、ホット・ループは独立した電流ループではなく、2つの実際の電流ループを構成要素とする仮想的な電流ループに過ぎないことが容易に理解できます。
図3は回路構成の基本となる実際の電流ループを表すもので、一方のループを青で、もう一方を緑で示しています。これらの完全な電流ループの間で切り替わりが発生します。しかし、どちらのループでも一部のパスで電流方向が同じであるため、それらのパスが重なり合って連続電流を形成し、EMCに関する限りクリティカル・パスとはなりません。したがって、このようなパターンはホット・ループとは呼ばれません。
スイッチング・レギュレータのホット・ループは、スイッチング・レギュレータのトポロジによって異なります。ノイズの伝達だけでなく発生も最小限に抑えるためには、これらのループをできるだけ小さくするよう設計する必要があります。アナログ・デバイセズのSilent Switcher® 2技術は、ICパッケージに入力コンデンサを組み込むことでクリティカル・ホット・ループを可能な限り小さくしています。同様に、ホット・ループを2つの対称な形状に分割することにより、発生する2つの磁界の極性が逆になるようにして、放射ノイズの大部分が相殺されるようにしています。この技術を利用したスイッチング・レギュレータの一例が、Power by Linear™のLT8609Sです。