モバイル機器のバッテリ駆動時間延長と小型化に最適な電源管理IC - SIMOレギュレータ

2023年08月04日
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ウェアラブルデバイスなどのモバイル機器では、高機能化、高性能化が進んでいます。それに伴って実装面積や発熱の問題など、設計上のさまざまな課題が生じています。

本稿では、これらの課題を解決できるウェアラブルデバイス向けパワー・マネージメントIC「単一インダクタマルチ出力(SIMO)レギュレータ」の機能や特徴を紹介します。SIMOレギュレーターとは、1つのインダクタでマルチ出力可能な電源管理ICです。

 

ウェアラブル機器の設計課題

ウェアラブルデバイスにおける設計課題は多岐にわたりますが、代表的なものを以下に挙げます。

  • バッテリ駆動時間(自己消費電流・効率)
  • 実装面積の制限
  • EMI・リップルノイズの発生
  • 使用時・充電時の発熱

ウェアラブルデバイスを設計する上ではこれらの課題を同時に解決する必要があります。しかし、回路上の限界により従来の電源ICでは解決が難しいものでした。

 

SIMOの概要

アナログ・デバイセズは、これらの設計課題を解決するために複合電源IC(PMIC)のひとつであるSIMOレギュレータを開発しました。SIMOとは、「シングル・インダクタ・マルチプル・アウトプット」の略称です。その名称の通り、インダクタ1つで複数の負荷に対して電力を供給できるのが特徴です。

それでは、SIMOレギュレータがどのような回路構造をしているか説明しましょう。

図1.SIMOレギュレータの動作イメージ
図1.SIMOレギュレータの動作イメージ

図1はSIMOレギュレータの動作イメージ、図2は一般的なHブリッジ型の昇降圧レギュレータの回路構成(トポロジー)を示しています。SIMOレギュレータは、図2にあるHブリッジ型の昇降圧レギュレータを基本構造とし、そこに出力FETを複数追加した構成です。

図2.Hブリッジ型の昇降圧トポロジー
図2.Hブリッジ型の昇降圧トポロジー

図2では、FET A/Bが降圧用で、FET C/Dは昇圧用となり、これら4つのFETがスイッチングを行って昇降圧の動作を行います。一方、SIMOレギュレータは、複数の負荷それぞれにDのスイッチが付いているようなイメージで動きます。

 

SIMO導入により得られるメリット

それでは、SIMOレギュレータの特徴や導入によって得られるメリットを紹介します。

 

バッテリ駆動時間の延長

SIMOは高効率かつ低消費電流を実現しているため、ウェアラブル端末のバッテリ駆動時間を延長する効果が得られます。特に効率については、出力電圧によらず高効率を実現しています。

図3.SIMOの効率特性
図3.SIMOの効率特性

実際に測定した結果を見ると、出力電圧が0.8Vで83%、1.2Vで87%、1.8Vでは90%の効率となっており、出力電圧を問わず高効率であることが分かります。

続いて、消費電流については、静止電流(負荷に電流を供給せず入力電圧のみを印加した場合にIC自体が消費する電流)は5μA程度で、未使用時の損失を最低限に抑えることができます。

図4.静止電流とバッテリ電圧の関係
図4.静止電流とバッテリ電圧の関係

図4は、実際の静止電流の測定結果を示しています。SBB0/1/2はそれぞれ出力チャンネルを表しており、全てのチャンネルをイネーブルにした状態でも静止電流は5μA程度に抑えられていることが分かります。

静止電流が抑えられることで、待機状態でのバッテリの減りが大きく抑制されるため、ウェアラブル端末を長時間使えるようになります。

 

実装面積を50%削減

もうひとつのメリットは、実装面積を大きく削減できることです。従来のPMICとSIMOをそれぞれ使用した場合の実装面積と部品点数の違いを図5に示します。

図5.従来のPMICの構成とSIMOの実装面積・部品点数の比較
図5.従来のPMICの構成とSIMOの実装面積・部品点数の比較

従来は、出力の数に合わせてインダクタを追加する必要がありました。そのため、図5のようなウェアラブルデバイスを実現するには、PMICや受動部品を合わせると21個もの部品、66平方mmの実装面積が必要でした。

一方、充電制御、バッテリ残量計測機能やLDOが統合されたSIMO(MAX77658)を使えば、1つのデバイスで設計が完結するため、部品数は13個に、実装面積は50%にまで低減できます。

 

出力リップルの低減

設定により出力リップルを低減できるのもSIMOの特徴です。SIMOでは、各出力チャンネルに対してピークインダクタ電流を設定できるようになっており、これを調整することでリップル電圧を調整できます。

図6.チャネルごとにピークインダクタ電流を設定し、出力リップルを最適化
図6.チャネルごとにピークインダクタ電流を設定し、出力リップルを最適化

図6は、4チャンネルに対してピークインダクタ電流を設定し、電流を流した際の波形を示したものです。グレーは1A、イエローは750mA、ブルーは500mA、レッドは330mAにピーク電流を設定しており、特にピーク電流を抑えたレッドの出力では、リップルが20mVp-pと非常に抑制されているのが分かります。

さらに、ピーク電流に応じてスイッチング周波数が変化するため、ピーク電流を抑えて周波数を高くすることで、好ましくない周波数帯域を避けることも可能です。

 

放射ノイズの低減

SIMOレギュレータは、放射ノイズを低減できるという特徴も持っています。SIMOと競合他社のPMICの放射ノイズを比較すると、SIMOは高調波成分によるノイズのピークがほぼ無いことが分かります。

図7.放射ノイズの競合比較
図7.放射ノイズの競合比較

これは、SIMOが負荷に応じてランダムに電流を供給しているためです。負荷が重くなると、他の出力よりも優先してスイッチングするので周波数は高くなり、その分他の出力におけるスイッチング周波数は低くなります。

負荷に応じて各チャンネルの周波数が変化するということで、スペクトラム拡散を行っているのと同じ効果が得られるため、特定の周波数でピークノイズが出なくなります。実際に、固定周波数で動く競合他社デバイスと比べると、高調波が全く発生していないことから、ノイズ低減に高い効果が見込めます。

 

発熱量の低減

最後の特徴は、従来のPMICを利用する場合と比べて発熱量を大きく抑制できることです。下図のように、PMIC、降圧レギュレータやLDOなどを組み合わせて電源系統を設計すると、損失が多く発熱も大きくなります。

図8. 従来のPMICとSIMOの発熱比較
図8. 従来のPMICとSIMOの発熱比較

一方、SIMO(MAX77659)を使うと、1デバイスで設計が完結し、デバイス自体の効率も良いため発熱量が大きく低減できます。図8はTWSの回路図を示しており、イヤフォンのバッテリを充電した際、従来のディスクリートで組んだ構成とSIMOでの発熱の違いを表しています。従来品では温度が25°Cも上昇していたものが、5°Cの温度上昇で済むという結果が得られています。

また、発熱が抑えられる分、充電電流を増やして充電速度を向上させることも可能です。

図9.MAX77659と従来品の充電速度の比較
図9.MAX77659と従来品の充電速度の比較

実際に、充電速度を重視した設計を行った場合、従来品と同程度の発熱で約4倍の速さで充電が行えるといった結果も得られており、利便性の向上に大きく貢献できます。

 

SIMOレギュレータの製品ラインアップ

最後に、SIMOの代表的なラインアップについて紹介します。SIMOの製品ラインアップは、SIMO単体と、LDOや充電制御機能、バッテリ残量測定機能(ModelGauge)が統合されたSIMO PMICの、2つの製品に分かれます。

図10.SIMOレギュレータの製品ラインアップ
図10.SIMOレギュレータの製品ラインアップ

 

まとめ

今回は、ウェアラブルデバイスにおける課題を解決するPMICである「SIMOレギュレータ」を紹介しました。

SIMOの最大の特徴はインダクタ1つで複数の負荷に対して電力を供給できることです。インダクタなどの受動部品が削減できるため、従来のPMICと比べて実装面積を大幅に低減できるほか、バッテリ駆動時間の延長、放射ノイズの抑制などさまざまなメリットが得られます。

著者について

長谷川 諒汰
デジタルインフラストラクチャグループ
アプリケーションエンジニア

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