電源のシステマティック故障に対処する【Part 1】出力放電機能の活用

Figure 1

   

要約

IEC 61508は、「電気・電子・プログラマブル電子安全関連系(E/E/PE SRS:Electrical/Electronic/Programmable Electronic Safety-Related System)の機能安全」という名称でも知られる規格です。この規格が対象とするE/E/PE SRSを支えるものとしては、電源用の回路ブロックが極めて重要な要素になります。実際、電源回路はE/E/PE SRSを安全な状態に移行させる上で極めて重要な役割を果たします。電源回路の堅牢性と決定論的能力(Systematic Capability)を高めることで、同回路に関連するシステマティック故障の発生を回避できます。今回(本連載のPart 1)は、一般的なシステマティック故障に対応するための電源ソリューションを紹介します。具体的には、電源回路の出力部に放電機能を追加するための3種類の方法について解説します。

はじめに

電源回路は、電子システムにとって極めて重要な機能を提供します。その動作は、電源の投入時、電源の遮断時、定常的な給電時、故障の発生時といった様々な状況におけるシステムの動作に影響を及ぼします。そのため、電源回路の動作は、機能安全のアプリケーションにおいて安全な状態を実現する上で極めて重要になります。基本的な機能安全規格であるIEC 61508に準拠するためには、3つの主要な要件を満たす必要があります。そのうちの1つが決定論的能力です。決定論的能力では、システマティック故障の防止と制御に重点が置かれます。そして、システマティック故障は設計上の欠陥、仕様の誤り、不適切な管理プロセスなどが原因で発生します。上記の要件を満たすためには、電源のシステマティック故障に対処することが不可欠です1、2

電源に起因するシステマティック故障を排除するにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、適切な仕様を定義し、必要なシーケンスを実現する手段を用意し、負荷が常に設計マージンの範囲内に収まることを保証しなければなりません。ここで図1をご覧ください。この例において、センサーを使用するサブシステム内にはイメージ・センサーが実装されています。そしてロジック用のサブシステムには、マイクロコントローラが配置されています。これらは、安全関連システムの中でも特に様々な事象からの影響を受けやすいコンポーネントだと言えます。適切な対策が施されていない場合、システムがリセットされてこれらのサブシステムへの給電が自動的に再開された結果、いずれかのコンポーネントが損傷してしまう可能性があります。

図1. AMR(自律走行搬送ロボット)のサブシステムの例1
図1. AMR(自律走行搬送ロボット)のサブシステムの例1

イメージ・センサーを使用する場合、電源の投入サイクルまたは遮断サイクルが不完全なものであると、給電先の回路にストレスがかかります3。システムの電源をオフにする場合には、イメージ・センサーの電源もできるだけ早く遮断しなければなりません。そうすれば、回路内のどこにも電圧がかかっていない理想的な状態で、イメージ・センサーを即座に再起動できます。ここで、一般的なリニア・レギュレータによってセンサーへの給電が行われるケースを考えます。そして、同レギュレータに給電する電源がオフになったとしましょう。しかし、同レギュレータの出力電圧は、出力コンデンサによってしばらくの間、保持されることが多いはずです。つまり、イメージ・センサーの電源は投入されたままの状態で維持されます。その結果、電源を投入/遮断する際、システムにとって望ましい状態が損なわれる可能性があります。図2(a)に示したのは、LDO(低ドロップアウト)レギュレータを使用して3.3Vの電圧を供給する電源回路の例です。その出力部には10μFの出力コンデンサが付加されています。この電源回路をオフにする際の挙動について、「LTspice®」によるシミュレーションを実施しました。それによれば、図2(b)に示したように、負荷が10kΩである場合の放電時間は160ミリ秒に達します。

図2. LDOレギュレータを使用した電源回路の例(a)。(b)のシミュレーション結果は、出力コンデンサに蓄積された電荷が放電される様子を表しています。
図2. LDOレギュレータを使用した電源回路の例(a)。(b)のシミュレーション結果は、出力コンデンサに蓄積された電荷が放電される様子を表しています。

有効なのは出力放電機能

電源回路をオフにする際、出力部に蓄積された電荷を完全かつ迅速に放電するにはどうすればよいのでしょうか。そのための方法として有効なのが出力放電機能です。この機能を使用すれば、システムの電源をオフにする際、電源回路の出力がフローティングの状態になることで生じる問題を回避できます。つまり、電源の投入/遮断サイクルに関する問題が緩和されます。出力放電機能は、正確な電源シーケンスと、より短いターンオフ時間が求められるアプリケーションにとって不可欠なものだと言えます。図3は、出力放電機能の有無によって出力電圧の挙動にどのような差が出るのかを示したものです。

図3. 出力放電機能の効果
図3. 出力放電機能の効果

放電用のMOSFET回路を追加する

パワー・マネージメントの分野には1つのトレンドがあります。最近では、付加機能を備えるLDOレギュレータが数多く提供されるようになりました。付加機能の代表的な例としては、パワーグッド信号(PGOOD)を出力する機能が挙げられます。PGOOD信号はLDOレギュレータの状態を表します。この信号を使用する目的は、出力電圧が適切にレギュレートされた状態に達し、それが維持されていることをシステムに通知することです。ほとんどの実装において、PGOOD信号は、LDOレギュレータの状態に依存して状態が変化するオープンドレインのMOSFETから出力されます。LDOレギュレータの出力がレギュレーションの範囲内にある場合、PGOOD信号に対応するMOSFETはオフになります。その結果、PGOODピンの出力は高インピーダンスになり、同ピンの電圧はハイにプルアップされます。図4(a)はその様子を示したものです。一方、LDOレギュレータの出力がレギュレーションの範囲から外れた場合、PGOOD信号用のMOSFETはオンの状態になります。それによる低インピーダンスのパスを介して、PGOODピンの電圧はローにプルダウンされます。図4(b)はこの動作を表しています。このような構成により、様々なロジック・レベルや電源電圧を使用する回路でPGOOD信号を容易に利用できるようになります。つまり、PGOOD信号は汎用性が高く、広範な用途で活用可能だということです。

但し、PGOOD信号を利用するに当たっては設計上の課題が生じることがあります。その課題は、LDOレギュレータのPGOOD信号の出力に用いられるオープンドレインのMOSFETに関連するものです。その種のMOSFETは、主にハウスキーピング機能を実現するために設計されています。そのため、わずかな電流しかシンクできません。つまり、出力コンデンサから直接多くの電流をシンクする用途を想定しているわけではないということです。特にLDOレギュレータがディスエーブルまたはシャットダウンされた際、出力コンデンサを迅速に放電したいケースには適していません。そのような用途で使用すると、目指す効果が得られないという結果を招くことになります。あるいは、デバイスが損傷に至る可能性もあります。

図4. 出力電圧とPGOOD信号の関係。(a)はアサート時、(b)はデアサーション時の動作を表しています。
図4. 出力電圧とPGOOD信号の関係。(a)はアサート時、(b)はデアサーション時の動作を表しています。

では、PGOOD信号を利用することで、より堅牢性の高いソリューションを構築するにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、適切に制御された放電パスとして機能するMOSFET回路を外付けで使用するとよいでしょう。図5に、そのような回路の例を示しました。この回路で使用している抵抗R1は、放電用のものとして機能します。この抵抗により、出力コンデンサの放電時間が決まります。つまり、所望の放電時間に応じてこの抵抗の値を設定すればよいということです。抵抗値が大きいほどコンデンサの放電時間は長くなります。逆に、抵抗値が小さいほど放電時間は短くなります。この回路で使用しているQ1(MOSFET)は、LDOレギュレータがEN/UVピンによってディスエーブルに設定されたときにオンになる放電用のスイッチとして機能します。一方、Q2はLDOレギュレータからのPGOOD信号の論理を反転する役割を果たします。それにより、Q1がアクティブになるタイミングが適切に制御されます。この構成により、カスタマイズが可能なアクティブ出力放電の機能を実現できます。この機能は、LDOレギュレータの状態に応じて求められる役割を果たします。

図5. LDOレギュレータ(LT3045)と外付けのMOSFET回路を組み合わせた例(a)。LT3045のPGOOD信号を使用して放電用の外付けMOSFETをトリガします。負荷が10kΩである場合の放電時間は3.2ミリ秒です(b)。
図5. LDOレギュレータ(LT3045)と外付けのMOSFET回路を組み合わせた例(a)。LT3045のPGOOD信号を使用して放電用の外付けMOSFETをトリガします。負荷が10kΩである場合の放電時間は3.2ミリ秒です(b)。
図6. LT3063を使用した回路例(a)。負荷が10kΩの場合の放電時間は0.5ミリ秒です(b)。
図6. LT3063を使用した回路例(a)。負荷が10kΩの場合の放電時間は0.5ミリ秒です(b)。

上記のようにアクティブ出力放電用の外付け回路を使用すれば、PGOODピンを備えるあらゆるLDOレギュレータの動作を効果的に改善できます。より高い柔軟性が得られることから、電源の放電プロファイルを微調整することが可能になります。但し、外付け部品を追加することによってコストが増加します。また、基板上ではより多くの実装スペースが消費されてしまいます。つまり、この方法を採用するとトレードオフが生じることになります。それでも、精密な放電制御が重要なアプリケーションにとって、この手法はカスタマイズが可能で大きなメリットをもたらすソリューションになり得ます。

放電機能を集積したLDOレギュレータを使用する

アナログ・デバイセズは、アクティブ出力放電の機能を備えるLDOレギュレータも提供しています。それらの製品を活用すれば、外付け回路を使用することなく要件を満たせます。アクティブ出力放電の機能を備える製品の例としては「LT3063」が挙げられます。この製品を採用すれば、設計プロセスの簡素化、部品点数の削減、基板上の実装スペースの節約を図りつつ、迅速な放電を実現できます。図6(a)に示したような形でLT3063を使用すれば、図5の例と同じ条件下で放電時間を0.5ミリ秒に抑えられます。つまり、図5の例と比べて大幅な改善効果が得られます。

図7. LTC2928を使用した回路例(a)。負荷が10kΩの場合の放電時間は6.5ミリ秒です(b)。
図7. LTC2928を使用した回路例(a)。負荷が10kΩの場合の放電時間は6.5ミリ秒です(b)。

電源監視ICを活用する

安全性が極めて重要なアプリケーションでは、より高い信頼性を実現しつつ、十分な独立性を確保したいことがあります。その場合、レギュレータICと共に、独立した電源監視ICを使用するとよいでしょう。「LTC2928」などの電源監視ICは、機能安全規格に準拠するために必要な過電圧/低電圧の監視機能、電源のシーケンス機能、出力放電機能を備えています。LTC2928は、図7(a)のような構成で使用します。「MAX16050」や「MAX16051」などの電源監視ICも出力放電機能を備えています。

まとめ

本稿で説明したように、機能安全を実現する上では電源回路の出力部の放電性能が重要になります。この課題に対処するための適切な方法を選択するには、設計に関する要件と動作条件について徹底的に評価しなければなりません。アクティブ出力放電の機能はいくつかの方法で実装できます。それぞれの方法には明確な長所とトレードオフが存在します。特定の出力条件や特定のアプリケーションのシナリオでは、あるソリューションが非常に効果的なものとして機能するかもしれません。しかし、異なる条件下では別の方法がより優れた性能をもたらすものになる可能性があります。したがって、最適な実装を確実に行うには、各方法に固有の特性と限界を理解することが不可欠です。

通常、外付けのMOSFET回路を使用する方法は、高い出力電圧が求められるアプリケーションや最大限の柔軟性が求められるアプリケーションに適しています。但し、追加のインバータ回路によるコスト/基板面積/電力損失の増加といったトレードオフを受け入れなければなりません。一方、消費電力の削減を求められる場合や実装スペースに制約がある場合には、出力放電機能を内蔵するLDOレギュレータが最適な選択肢になる可能性があります。その場合、追加の部品は不要であり、追加の電力損失も最小限に抑えられます。但し、この方法については同機能を備えるLDOレギュレータ製品の種類が少ないという欠点があります。つまり、選択肢/入手可能性が限られることになります。また、複数の電源出力を使用し、それらのシーケンシングも重要になる場合には電源監視ICの利用が適しています。但し、電源監視ICが内蔵するMOSFETによってシンクできる電流の量は限られているはずです。その場合、大容量の出力コンデンサに対して効果的なものにはなりません。それでも、シーケンシング、システムの調整、機能安全を考慮しつつ、ある程度の独立性が求められる場合、電源監視ICは優れた選択肢になり得ます。いずれにせよ、アプリケーションの出力電圧、実装スペース、放電時間、シーケンシングの要件などについて十分に検討することが重要です。それらの仕様や要件と各ソリューションの長所と短所を照らし合わせた上で、どれを選択するのかを決定する必要があります。

参考資料

1 Bryan Borres、Noel Tenorio「産業向け機能安全に対応する電源の設計 【Part 1】IEC 61508が教えてくれること」Analog Devices、2025年7月

2 IEC 61508 All Parts, Functional Safety of Electrical/Electronic/Programmable Electronic Safety-Related Systems(IEC 61508 電気・電子・プログラマブル電子安全関連系の機能安全 - 全パート)、International Electrotechnical Commission、2010年

3Linear Regulators with Active Output Discharge Target Systems Needing Fast Power Down(アクティブ出力放電機能を備えるリニア・レギュレータ、迅速なパワー・ダウンを要するシステムに最適)」Analog Devices、2014年7月

4 Bryan Borres and Christopher Macatangay「高性能の電圧監視ICにより、産業分野向け機能安全規格への準拠度を高める 【Part 1】」Analog Dialogue、Vol. 58、No. 3、2024年8月

著者について

Bryan Angelo Borres
Bryan Angelo Borresは、アナログ・デバイセズのシニア機能安全エンジニアです。TÜV認定の機能安全エンジニアとして、産業分野を対象とした機能安全に関する業務を担当。コンポーネントの設計者やシステムの設計者がIEC 61508などの産業分野向け機能安全規格に準拠したパワー製品を設計できるよう支援しています。7年以上にわたり、効率が高く堅牢性に優れるパワー・エレクトロニクス・システムの設計に携わってきました。IEC
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