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評価用ボード

型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。

  • EVAL-CN0354-PMDZ ($42.80) Low Power Multichannel Thermocouple Measurement System with Cold Junction Compensation
  • EVAL-SDP-CB1Z ($116.52) Eval Control Board
  • SDP-PMD-IB1Z ($64.74) PMOD to SDP Interposer Board
在庫確認と購入

デバイス・ドライバ

コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。

AD778x Linux GitHub Driver Source Code

AD7791 IIO Low Power Sigma-Delta ADC Linux Driver

回路機能とその特長

図1に示す回路は、柔軟性を備えた4チャンネル低消費電力熱電対測定回路で、総消費電力は8mW未満です。この回路は多重化フロントエンドを内蔵しており、その後段には冷接点補償(0℃~50℃)を行う計装アンプが接続されていて、5mV/℃という高精度のスケール・ファクタで熱電対出力を電圧に変換します。-25℃~+400℃の測定範囲における誤差は2℃未満で、これは主に熱電対の非直線性によるものです。非直線性補正アルゴリズムが、900℃以上の測定範囲における誤差を0.5℃未満に減らします。ノイズ・フリー分解能は0.1℃未満です。

信号は24ビットΣ-Δ ADCによってデジタル化され、SPIシリアル・インターフェースにデジタル値が出力されます。ラピッド・プロトタイピング用のPMODフォーム・ファクタを用いたこの設計は最小限のPCボード面積しか必要とせず、熱電対温度を高精度で測定することが求められるアプリケーションに最適です。

図1. マルチチャンネルKタイプ熱電対測定システム(簡略回路図:全接続の一部およびデカップリングは省略されています。)

回路説明

回路への4つの熱電対入力は、等温ブロックP2で終端されています。ADG1609相補型金属酸化膜半導体(CMOS)アナログ・マルチプレクサは、4つの熱電対チャンネルを1つのシグナル・コンディショニング・ブロックに切り替えることで、4つの熱電対入力を処理します。各スイッチはブレーク・ビフォア・メーク型のスイッチング動作を行い、チャンネル切替え時のトランジェントを最小限に抑えるために、チャージ・インジェクションが本質的に低く抑えられています。

等温ブロックの出力に生成される熱電対電圧は、測定熱電対の温度と等温ブロック(冷接点)の温度の差に比例します。

信号は、Kタイプ熱電対用に高精度の5mV/℃出力を提供できるようレーザ・トリミングされた高精度計装アンプAD8495によって増幅されます。AD8495は、0℃~50℃範囲の冷接点補償も行います。

図1に示す5番目の熱電対は、等温ブロックとAD8495の冷接点補償回路の間に存在する温度差によって生じる電圧を相殺するために追加されたものです。マルチプレクサが有効な状態では、等温ブロックの熱電対接続によって形成されるコンスタンタン(アルメル)銅接点は、リファレンス熱電対接続によって形成される銅コンスタンタン(アルメル)接点と直列です。ブロックが等温なので、この直列の組み合わせは、値が等しい逆方向の電圧を発生させます。ICのリファレンス接点は0℃~50℃の範囲になければならず、AD8495の内部冷接点補償回路はこの状態でリファレンス接点を補正します。したがって、通常は等温ブロックへAD8495を直接取り付ける必要がありますが、5番目の熱電対接続によってその必要もなくなります。

AD8495の出力は、145kHzの-3dBカットオフ周波数を持つ1.1kΩ/1nFの単極フィルタによってフィルタされます。このフィルタは、AD7787 ADC入力の広帯域ノイズを最小限に抑えます。

AD7787は、熱電対測定システムなどの低周波数測定アプリケーション用の24ビット低ノイズ低消費電力Σ-Δ ADCです。クロックを内蔵しているため外部クロックは不要で、ユーザーが出力データレートを設定できます。また、低い内部クロック周波数で動作するので、消費電力を減らすことができます。このデバイスには、差動入力とシングルエンド入力を1つずつ持つΣ-Δ ADCが含まれており、これらの入力はいずれもマルチプレクサ通過後にバッファすることもバッファしないことも可能です。

AD7787は内部クロックで動作します。そのため、デバイスに対するクロック・ソース供給は不要です。このデバイスの出力データレートは9.5Hz~120Hzの範囲でソフトウェア設定可能であり、低更新レートでのRMSノイズは1.1μVです。この回路のAD7787は9.5kHzの更新レートで動作します。内部クロック周波数は2、4、8分周できるため、消費電流を節約することができます。更新レート、カットオフ周波数、セトリング時間は、すべてクロック周波数によって決まります。

AD7787は2.5~5.25Vの電源で動作します。3V電源で動作する場合の消費電力は最大225μWです。このデバイスは10ピンMSOPパッケージで供給されます。


熱電対のシグナル・コンディショニング

熱電対は、広い温度範囲を必要とする温度測定に使われます。熱電対が測温抵抗体(RTD)よりも好まれるのは、この点と、コストが安いことによります。しかし、熱電対は非直線性です。つまり、熱電対によって生成される電圧は、異なる温度では異なる率で変化します。たとえば、Jタイプの熱電対の25℃における変化率は52μV/℃で、150℃では55μV/℃です。Kタイプの熱電対はこれより直線性が良好な傾向があり、0℃以上での変化率は約41μV/℃です。温度勾配に対する熱電対の電圧応答は、一般に6次以上の多項式で記述されます。

タイプの異なる熱電対の動作温度範囲に対するゼーベック係数を図2に示します。図2は、Kタイプの熱電対の温度範囲が最も広く、最大1250℃までの温度を測定できることを示しています。

図2. 熱電対のゼーベック係数の温度特性

 

熱電対は非直線性なので、正確な温度指示値を得るには、複雑なシグナル・プロセッシングとシグナル・コンディショニングが必要ですが、AD8495はこのような用途に最適です。

AD8495は、0℃~50℃のリファレンス接点範囲で冷接点補償を行えるようにトリミングされており、5mV/℃の直線的な伝達関数を備えています。−25℃~+400℃の測定範囲における最大出力誤差は±2℃で、出力電圧の計算には次の式を使用します。  

CN0354_Image1

AD8495は、回路内の5V単電源で動作します。PNPトランジスタの入力構造からして入力電圧は-200mVまで下げることができるので、負の温度も測定可能です。しかし、負の温度を処理するには出力電圧をオフセットさせる必要があり、これはリファレンス電圧入力ピン(REF)を使用して行います。

P1ジャンパを使ってREFピンを接地している場合、システムが測定できる最低温度は5℃です。P1ジャンパは、REFピンのバイアス電圧を1.2VのADR3412リファレンスに接続することもでき、その場合は−235℃までの測定が可能です。それぞれの条件に対応する温度範囲を表1に示します。どちらの場合も温度範囲は875℃です。REFピンは、誤差を防ぐために、電圧リファレンスやバッファ・アンプなどの低インピーダンス・ソースでドライブすることが重要です。

表1. REF = 0Vと1.2Vの場合の測定範囲、5V単電源使用時
REF Pin Voltage Temperature Range
0 V or Grounded 5°C to 880°C
1.2 V -235°C to +640°C

 

断線した熱電対の検出

AD8495は、断線または故障した熱電対を検出することができます。AD8495の入力はPNPトランジスタのベースです。したがって、入力からは常にバイアス電流が流れ出しています。どちらかの入力に断線がある場合、出力はどちらかの電源レールに等しくなります。負の入力を1MΩの抵抗経由でグラウンドに接続すると、熱電対が断線状態になった場合、AD8495の出力は上側のレール値となります。4つのチャンネルのうちのいずれかが使われていない場合は、そのチャンネルが接続された場合にAD8495の出力が正電源と同じ値にならないように、入力を短絡してください。1MΩの抵抗は、バイアス電流のグラウンドへのリターン・パスも提供します。

AD8495は高い同相ノイズ除去性能を備えており、長い熱電対配線による同相ノイズのピックアップを最小限に抑えます。このアンプは高インピーダンス入力なので、電磁干渉/無線周波数干渉(EMI/RMI)保護を強化するためのフィルタリング機能を容易に追加できます。


電力に関する考慮事項

図1の回路は5V単電源を使用し、ADG1609、AD8495、AD7787のVDDピン、REF194、ADR3412、およびADM8829に電力を供給します。

REF194はAD7787用の4.5Vリファレンスを供給します。また、ADR3412は、AD8495のREF入力用にオプションの1.2Vオフセット電圧を供給します。ジャンパP1により、REFピンを1.2Vまたはグラウンドに接続します。

ADM8829スイッチド・キャパシタ電圧インバータは、負の温度に対応するために、ADG1609マルチプレクサが必要とする-5Vを供給します。

回路内の各デバイスが消費する電流を表2に示します。これはデータシートの仕様に基づく値です。この設計では最大1.56mAの電流を消費します。電流を最も多く消費するのは、ADM8829スイッチド・キャパシタ電圧インバータです。ADG1609のVSSピンをドライブするための負の電流を他から供給できる場合はこのインバータを省略でき、合計電流は約556μAに減少します。

表2. 回路の電流消費
Part Number Maximum Current Consumption
AD8495 250 µA
AD7787 160 µA
ADG1609 1 µA
REF194 45 µA
ADR3412 100 µA
ADM8829 1000 µA

合計電流は1556μAです。


テスト結果

AD8495には熱電対の非直線性による温度誤差があり、その値は、リファレンス接点温度が0℃~50℃の時に、-25℃~+400℃の範囲で最大±2℃です。温度範囲を広げたり精度を高めたりするには直線性補正アルゴリズムが必要で、これはソフトウェアで実装できます。非直線性補正についてはアプリケーション・ノートAN-1087「AD8494/AD8495/AD8496/AD8497 を使用する際の熱電対の直線化」に説明があります。この補正アルゴリズムを実装した場合と実装していない場合の回路の直線性誤差を図3に示します。

図3. 補正アルゴリズムを実装した場合と実装していない場合の回路の直線性誤差

 

システムのノイズは、システムのノイズ・フリー・コード分解能を確認するために、温度が管理された環境でテストしました。図4はノイズ分布で、その幅は約1098コードです。24ビット分解能で幅が900℃の場合、分解能は1LSB = 900℃/224 = 0.07℃です。

CN0354_Image2

図4. AD7787の入力バッファを無効にした場合の回路のノイズ分布ヒストグラム(出力データレート= 9.5 Hz)

 

ノイズ・フリー・コード分解能は次式で計算します。

CN0354_Image3

バリエーション回路

CN-0354の回路は、この設計用に選択された部品の値を使って、優れた安定性と高い精度で動作することが実証されました。

この設計はAD594/AD595を使用して実装することもできます。AD594/AD595も、10mV/°C出力の熱電対用シングル・チップ・シグナル・コンディショニング・アンプです。

AD8495にはAD8494AD8496AD8497といった他のバリエーションもあり、これらは表3に示すように、熱電対タイプ、周囲温度範囲、測定温度範囲などが異なります。

表3. AD849xの精度±2℃の温度範囲
Device Thermocouple Type Maximum Error Ambient Temperature Range Measurement Temperature Range
AD8494 J ±2°C 0°C to 50°C -35°C to +95°C
AD8495 K ±2°C 0°C to 50°C -25°C to +400°C
AD8496 J ±2°C 25°C to 100°C 55°C to 565°C
AD8497 k ±2°C 25°C to 100°C -25°C to +295°C

回路の評価とテスト

必要な装置

以下の装置類が必要です。

  • EVAL-CN0354-PMDZ 評価用ボード
  • EVAL-SDP-CB1Z システム・デモンストレーション・プラットフォーム
  • PMD-SDP-IB1Z、SDP-I-PMOD、インターポーザ・ボード
  • CN0354 評価用ソフトウェア
  • 6V電源アダプタ
  • PC(Windows 32ビットまたは64ビットOS)


ソフトウェアのインストール

CN-0354評価用キットのCDには自動インストール型のソフトウェアが含まれています。このソフトウェアは、Windows® XP(SP2)、Windows Vista(32ビットおよび64ビット)、Windows 7(32ビットおよび64ビット)で使用できます。セットアップ・ファイルが自動的に起動しない場合は、CDからsetup.exeファイルを実行してください。PCに接続したときに評価システムが正しく認識されるように、評価用ソフトウェアは、評価用ボードとSDPボードをPCのUSBポートに接続する前にインストールしてください。このソフトウェアを使用すれば、シリアル・インターフェースの構成設定をすべて行うことができます。マスターとスレーブの構成は、システムが適切に動作するように行うことが重要です。

ソフトウェアの動作については、CN-0354ソフトウェア・ユーザー・ガイドに説明があります。


電源要件

EVAL-CN0354-PMDZ評価用ボードには、必ず5V電源を使用してください。少なくとも2mAを供給できる電源を推奨します。PMD-SDP-IB1Zインターポーザ・ボードから直接電源を取る場合は、十分にフィルタをかけてデジタル・ノイズを除去してください。


テスト・セットアップの機能図

セットアップの機能図を図5に、EVAL-CN0354-PMDZの写真を図6に示します。

図5. テスト・セットアップの機能図

 

EVAL-CN0354-PMDZ Evaluation Board

図6. EVAL-CN0354-PMDZ評価用ボード