AN-1087: AD8494/AD8495/AD8496/AD8497 を使用する際の熱電対の直線化

概要

AD8494/AD8495/AD8496/AD8497 熱電対アンプは、熱電対温度測定のシンプルな低価格ソリューションを提供します。これらのアンプを使うと、熱電対測定の多くの困難を克服することができます。固定ゲインの計装アンプが小さい熱電対電圧を増幅し、内蔵の温度センサーが冷接点補償を行います。

AD849x は、次式により 5 mV/°C のリニア応答を持つように J タイプおよび K タイプの熱電対信号を測定/増幅するように最適化されています。

数式1

ここで、TMJは熱電対の測定接点温度。

AD849x 出力は、表 1 に記載する全測定範囲と全周囲温度で 2°C以内を維持し正確です。このアプリケーション・ノートでは、AD849xを使って、規定範囲外の温度で動作または温度測定する際に精度を向上させる方法について説明します。

熱電対の非直線性

熱電対により発生される電圧は、本来非直線性を持っています。例えば、J タイプ熱電対は 25°Cでは 52 µV/°Cで変化し、150°Cでは 55 µV/°Cで変化します。 K タイプ熱電対の直線性はこれより優れており、温度が 0°Cより上ではほぼ 41 µV/°Cを維持しています。温度勾配に対する熱電対の電圧応答は、6 次以上の多項式で記述することができます (図 1)。

図 1.熱電対ゼーベック係数の温度特性

図 1.熱電対ゼーベック係数の温度特性

AD849x は、熱電対信号(冷接点補償済み)を直線的に増幅します。これは、出力信号が熱電対からの入力信号と同様に非直線性を持っていることを意味します。

アプリケーションによっては、その温度範囲で熱電対から直接出力される場合より、優れた非直線性 (より高精度)が必要になることがあります。このような場合、熱電対測定の直線化すなわち補正が必要になります。

熱電対測定で直線化が必要か否かは、選択する熱電対タイプ、所要システム精度、測定温度範囲に依存します。熱電対信号の非直線性は、良く理解されており、特定の熱電対タイプに対して一定です。このため、測定システムでそれを補償することができます。

AD849X 熱電対の非直線性補償

AD849x では熱電対非直線性をアクティブに補正していませんが、アンプは J タイプと K タイプの熱電対伝達特性に一致するように高精度な調整が行われています。これは、AD849x では熱電対カーブの特定部分を選択することにより非直線性を補償し、この部分に直線近似を適用して 5 mV°/C 出力を発生していることを意味します。

表 1 に選択した温度範囲を示します。これにより、熱電対非直線性誤差が±2°C以下になっています。 図 2 に、非直線性誤差のグラフを示します。

表 1.AD849x の±2°C 精度温度範囲
Part Thermocouple Type Max Error Ambient Temperature Range Measurement Temperature Range
AD8494 J ±2°C 0°C to 50°C −35°C to +95°C
AD8495 K ±2°C 0°C to 50°C −25°C to +400°C
AD8496 J ±2°C 25°C to 100°C +55°C to +565°C
AD8497 K ±2°C 25°C to 100°C −25°C to +295°C
図 2. 熱電対非直線性から生ずる AD849x 出力誤差

図 2. 熱電対非直線性から生ずる AD849x 出力誤差

AD849x ファミリーの各デバイスは、特定の測定温度範囲および周囲温度範囲に対して特定熱電対タイプの直線動作範囲を最適化するために高精度な調整が行われています。最小誤差で5 mV/°C 出力を実現するために、次の 3 つのパラメータが調整されています。

  • アンプのゲイン
  • アンプのオフセット (25°C で 125 mV を実現する 0°C での誤差電圧)
  • 温度センサー/冷接点補償のスケール・ファクタ

熱電対電圧 VTCは、熱電対タイプ、測定接点温度 (TMJ)、リファレンス接点温度 (TRJ)の関数です。

数式2

AD849xを使って測定する実際の熱電対電圧を求めるときは、次の伝達関数を使う必要があります (各デバイスの特定の値については 表 2 を参照)。

数式3

ここで、
CJC は冷接点補償スケール・ファクタ。
VOFFSETは、25°C で 125 mV を実現するための 0°C での誤差電圧。
VREFはユーザ入力電圧。
Gain は、アンプのゲイン。

表 2.AD8494、AD8495、AD8496、AD8497 の伝達関数値
Part Gain CJC Factor (mV/°C) Offset (mV)
AD8494 96.7 5 0
AD8495 122.4 4.95 1.25
AD8496 90.35 4.8 20.2
AD8497 122.4 5.0392 −0.98

直線性補正アルゴリズム

熱電対非直線性は、一般にマイクロコントローラを使いデジタル領域で補正されます。2 種類の補正アルゴリズムを使うことができます。

AD849x出力のルックアップ・テーブル


最初の方法は 表 3 を使う方法であり、この表にはAD849xの理論出力電圧を規定接点温度を持つJ タイプおよびK タイプの熱電対温度の関数として記載してあります。

例えば、AD8495 を室温 (25°C) で、リファレンス・ピンをグラウンドに接続し、 K タイプ熱電対に接続すると、1 Vを出力します。 5 mV/°Cの伝達関数を使うと、1 Vは 200°Cを表わします。これより高い精度の場合は、1 V 出力に対応する温度を次のように計算する必要があります。

  1. 表 3 から、測定接点温度 200°Cで実際の AD8495 出力は0.999 Vになり、測定接点温度 220°Cでは、1.097 Vになることが分かります。
  2. これら 2 ポイント間を直線外挿すると、1 V で 200.2°C となることが分かります。

NIST 熱電対電圧のルックアップ・テーブル

2 つ目の方法では次に示す式を使います。ここで、TMJは熱電対測定接点の温度、fNISTは標準ルックアップ・テーブルまたはNational Institute of Standards and Technologyから公表された式に基づく mv 対温度関数 ( 熱電対データベースはhttp://srdata.nist.gov/its90/mainに記載されています)。

VTC ∝ TMJ − TRJ の関係があることに注意してください。すなわち、

数式4

中間温度に対する出力値は、AD849x の出力式と 0°C 基準のNIST 熱電対電圧表を使って内挿または計算することができます。

AD8494 の場合、式は次のようになります。

数式5

AD8495 の場合、式は次のようになります。

数式6

AD8496 の場合、式は次のようになります。

数式7

AD8497 の場合、式は次のようになります。

数式8

最初の方法と同じ例を使うと (室温の AD8495 を、リファレンス・ピンをグラウンドに接続し、K タイプ熱電対に接続すると、1 Vを出力)、補正手順は次のようになります。

数式9
  1. 標準 K タイプ熱電対表から、測定接点温度 200°C で、熱電対の熱電対電圧が 8.138 mV であること、測定接点温度201°C で、熱電対電圧が 8.178 mV であることがそれぞれ分かります。
  2. 直線外挿を行うと、最終結果として 200.5°C が得られます。
表 3.熱電対非直線性を反映した実際の AD849x 結果
Measurement Junction Temperature (°C) AD8494/AD8495 Output, TA = TRJ = 25°C AD8496/AD8497 Output, TA = TRJ = 60°
Ideal Output (V) Actual Output (V) Ideal Output (V) Actual Output (V)
AD8494/AD8495 AD8494 Output with J Type AD8495 Output with K Type AD8496/AD8497 AD8496 Output with J Type AD8497 Output with K Type
−260 −1.3 −0.786 −1.3 −0.785
−240 −1.2 −0.774 −1.2 −0.773
−220 −1.1 −0.751 −1.1 −0.751
−200 −1 −0.719 −1 −0.718
−180 −0.9 −0.714 −0.677 −0.9 −0.642 −0.676
−160 −0.8 −0.658 −0.627 −0.8 −0.590 −0.626
−140 −0.7 −0.594 −0.569 −0.7 −0.530 −0.568
−120 −0.6 −0.523 −0.504 −0.6 −0.464 −0.503
−100 −0.5 −0.446 −0.432 −0.5 −0.392 −0.432
−80 −0.4 −0.365 −0.355 −0.4 −0.315 −0.354
−60 −0.3 −0.278 −0.272 −0.3 −0.235 −0.271
−40 −0.2 −0.188 −0.184 −0.2 −0.150 −0.184
−20 −0.1 −0.095 −0.093 −0.1 −0.063 −0.092
0 0 0.002 0.003 0 0.027 0.003
20 0.1 0.100 0.100 0.1 0.119 0.101
25 0.125 0.125 0.125 0.125 0.142 0.126
40 0.2 0.201 0.200 0.2 0.213 0.200
60 0.3 0.303 0.301 0.3 0.308 0.301
80 0.4 0.406 0.402 0.4 0.405 0.403
100 0.5 0.511 0.504 0.5 0.503 0.505
120 0.6 0.617 0.605 0.6 0.601 0.605
140 0.7 0.723 0.705 0.7 0.701 0.705
160 0.8 0.829 0.803 0.8 0.800 0.804
180 0.9 0.937 0.901 0.9 0.900 0.902
200 1 1.044 0.999 1 1.001 0.999
220 1.1 1.151 1.097 1.1 1.101 1.097
240 1.2 1.259 1.196 1.2 1.201 1.196
260 1.3 1.366 1.295 1.3 1.302 1.296
280 1.4 1.473 1.396 1.4 1.402 1.396
300 1.5 1.580 1.497 1.5 1.502 1.498
320 1.6 1.687 1.599 1.6 1.602 1.599
340 1.7 1.794 1.701 1.7 1.702 1.701
360 1.8 1.901 1.803 1.8 1.801 1.804
380 1.9 2.008 1.906 1.9 1.901 1.907
400 2 2.114 2.010 2 2.001 2.010
420 2.1 2.221 2.113 2.1 2.100 2.114
440 2.2 2.328 2.217 2.2 2.200 2.218
460 2.3 2.435 2.321 2.3 2.300 2.322
480 2.4 2.542 2.425 2.4 2.401 2.426
500 2.5 2.650 2.529 2.5 2.502 2.530
520 2.6 2.759 2.634 2.6 2.603 2.634
540 2.7 2.868 2.738 2.7 2.705 2.739
560 2.8 2.979 2.843 2.8 2.808 2.843
580 2.9 3.090 2.947 2.9 2.912 2.948
600 3 3.203 3.051 3 3.017 3.052
620 3.1 3.316 3.155 3.1 3.124 3.156
640 3.2 3.431 3.259 3.2 3.231 3.259
660 3.3 3.548 3.362 3.3 3.340 3.363
680 3.4 3.666 3.465 3.4 3.451 3.466
700 3.5 3.786 3.568 3.5 3.562 3.569
720 3.6 3.906 3.670 3.6 3.675 3.671
740 3.7 4.029 3.772 3.7 3.789 3.773
760 3.8 4.152 3.874 3.8 3.904 3.874
780 3.9 4.276 3.975 3.9 4.020 3.976
800 4 4.401 4.076 4 4.137 4.076
820 4.1 4.526 4.176 4.1 4.254 4.176
840 4.2 4.650 4.275 4.2 4.370 4.276
860 4.3 4.774 4.374 4.3 4.486 4.375
880 4.4 4.897 4.473 4.4 4.600 4.474
900 4.5 5.018 4.571 4.5 4.714 4.572
920 4.6 5.138 4.669 4.6 4.826 4.670
940 4.7 5.257 4.766 4.7 4.937 4.767
960 4.8 5.374 4.863 4.8 5.047 4.863
980 4.9 5.490 4.959 4.9 5.155 4.960
1000 5 5.606 5.055 5 5.263 5.055
1020 5.1 5.720 5.150 5.1 5.369 5.151
1040 5.2 5.833 5.245 5.2 5.475 5.245s
1060 5.3 5.946 5.339 5.3 5.581 5.339
1080 5.4 6.058 5.432 5.4 5.686 5.433
1100 5.5 6.170 5.525 5.5 5.790 5.526
1120 5.6 6.282 5.617 5.6 5.895 5.618
1140 5.7 6.394 5.709 5.7 5.999 5.710
1160 5.8 6.505 5.800 5.8 6.103 5.801
1180 5.9 6.616 5.891 5.9 6.207 5.891
1200 6 6.727 5.980 6 6.311 5.981
1220 6.1 6.069 6.1 6.070
1240 6.2 6.158 6.2 6.158
1260 6.3 6.245 6.3 6.246
1280 6.4 6.332 6.4 6.332
1300 6.5 6.418 6.5 6.418
1320 6.6 6.503 6.6 6.503
1340 6.7 6.587 6.7 6.588
1360 6.8 6.671 6.8 6.671
1380 6.9 6.754 6.9 6.754

著者

Reem Malik

Reem Malik

Reem Malikは、マサチューセッツ州ウィルミントンにあるアナログ・デバイセズの統合アンプ製品(IAP)グループのアプリケーション・エンジニアです。計測/工業/医療分野の顧客をサポートし、熱電対アンプと高精度のディファレンス/差動アンプを担当しています。ウースター工科大学で電気工学士と電気工学修士を取得し、アナログ・デバイセズには2008年6月に入社しました。