概要
設計リソース
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0551-EBZ ($39.59) USB-Powered, 433 MHz RF Power Amplifier with Overtemperature Management
機能と利点
- ゲイン:+35dB
- 433MHz ISM帯域向けに最適化
- 入出力インピーダンス・マッチング:50Ω
- 過熱モニタリング
- 自動サーマル遮断・起動
参考資料
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EVAL-CN0551-EBZ User Guide2022/07/15WIKI
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CN0551: 過熱管理機能付きの USB 駆動、433.92MHz RF パワー・アンプ (Rev. 0)2022/07/15PDF571 K
回路機能とその特長
国際電気通信連合(ITU)によって、433.92MHz の産業、科学、医療用(ISM)帯域が地域 1(地理的にはヨーロッパ、アフリカ、ロシア、モンゴル、およびアラビア半島)での使用に割り当てられています。もともとは、無線通信以外のアプリケーションを対象としていましたが、長年にわたるワイヤレス技術や規格の進歩により、ISM 帯域は狭域ワイヤレス通信システムで広く使用されるようになってきました。
433.92MHz 帯域は、ITU 地域 1 のオペレータには免許不要で、ソフトウェア無線、医療機器、重機向けの産業用無線制御システムで多くのアプリケーションが広く使われています。米国では、433.92MHz 周波数帯域は免許を保有するアマチュア無線局によって使用されています。
いかなる無線伝送アプリケーションにおいても、アンテナの駆動には、高ゲイン・アンプが不可欠です。アプリケーションの条件によって、単一段または複数段で実装でき、出力電力値が高いほど、RF 伝送の範囲が広がります。ただし、最適な周波数応答を実現するには、適切なインピーダンス・マッチングやフィルタリング、温度管理など、設計におけるいくつかの要素を検討する必要があります。
図 1 の回路は、433.92MHz ISM 帯域で動作する伝送シグナル・チェーン用に最適化された 2 段の RF アンプ・ブロックです。中心周波数では、回路のゲインは約+35.8dB になります。RF 入出力ポートは、50Ω のインピーダンス・マッチで設計されており、回路と標準的な 50Ω システムとの直接接続が可能です。
過熱を防ぐため、ユーザ定義の温度トリップ・ポイントに達すると、温度モニタリング・スイッチ回路がRFアンプをディスエーブルします。このスイッチ回路はまた、温度がヒステリシス設定値を下回ると、自動的にアンプをイネーブルします。
回路説明
433.92MHz ISM 帯域での動作
CN0551 の RF シグナルは、ゲイン段を通過する前に、まず表面弾性波(SAW)フィルタを通過します。これは、不要な帯域外アンプの排除に役立ちます。フィルタの選択時には、帯域平坦度と帯域外除去性能のバランスをうまく取る必要があります。SAW フィルタは、挿入損失の原因ともなり、シグナル・チェーン全体のゲインを低下させるため、選択時にはこの点を考慮する必要があります。
このリファレンス設計では、使用されている SAW フィルタの標準的な最大挿入損失は 2dB、終端インピーダンスは 50Ω となります。
アンプ段
CN0551 は、RF シグナル・パスにおいて 2 つのアンプ段を使用します。初段は AD8353 RF ゲイン・ブロック・アンプで、433.92MHz ISM 帯域において 19.6dB(代表値)の固定ゲインを提供します。AD8353は 1MHz~2.7GHzで動作でき、周波数範囲全域にわたって示されるリターン・ロスは、10dB を超えています。
AD8353 の RF ピンは内部で 50Ω に整合しているため、外付けのマッチング回路がなくても、標準的な RFシグナル・パスに直接統合することが可能です。図 2 に示すように、RF ピンの DC 阻止コンデンサと、電源ピンのバイパス・コンデンサがあれば、AD8353 は適切に動作します。これらのコンデンサの推奨値を表1 に示します。
Function/Component | Component Values |
AC Coupling Capacitors | |
CIN | 1000 pF |
COUT | 1000 pF |
Bypass Capacitors | |
CBYP1 | 100 pF |
CBYP2 | 0.47 μF |
ADL5324 RFドライバ・アンプは、設計の第 2 段として機能します。このデバイスは、400MHz~4GHz の動作周波数範囲で18.2dB のゲイン、6.8dB のノイズ指数(それぞれの代表値)、38.4dBm の出力 3 次インターセプト・ポイント(OIP3)(433.05MHz~434.79MHz での代表値)を実現します。
ADL5324 は、RF チョークを介して RFOUT ピンに+5V を加えるだけで、バイアス・ポイントを設定できます。120nH のインダクタンスの使用を推奨します。これは、433.92MHz ISM 帯域に対する出力マッチング条件もある程度確保できるためです。ADL5324 では、電源ラインの RF 信号と高周波ノイズを除去するために、出力段のバイアスに 3 つのデカップリング・コンデンサを使用する必要があります。RF 出力段のバイアス・インダクタとコンデンサの適切な設定を図 3 に示します。
ADL5324 のインピーダンス・マッチング
最適な性能を実現するため、ADL5324 にはインピーダンスを目的の周波数帯域に合わせて調整した外付けのマッチング回路が必要です。入力マッチング回路には、RFIN ピンと直列に配置されたインダクタ(LIN)と抵抗(RIN)、ならびにシャント・コンデンサ(CIN)が含まれます。同様に、出力マッチング回路は直列インダクタ(LOUT)とシャント・コンデンサ(COUT)を使用します。RFIN ピンと RFOUT ピンはどちらも、外付けの DC阻止コンデンサが必要となります。図 4 は、ADL5324 における全部品を揃えたインピーダンス・マッチング回路を表しています。
CN0551 リファレンス設計は、ADL5324 データシートに記載されている 420MHz~494MHz チューニング帯域のものと同様の部品値を使用しています。推奨値については表 2 を参照してください。
マッチングには、これらの部品を適切に配置することも重要となります。そのため、CN0551 は ADL5324 データシートにある420MHz~433.92MHz チューニング帯域の推奨値に従います。
これらの値は部品の中心からアンプの端までを計測したものです。
Function/Component | Component Values |
AC Coupling Capacitors | |
CAC1 | 10 pF |
CAC2 | 20 pF |
Tuning Capacitors | |
CIN | 20 pF |
COUT | 6.2 pF |
Tuning Inductors | |
LIN | 1.6 nH |
LOUT | 5.6 nH |
Jumper | |
RIN | 2 Ω |
Component Spacing | |
λ1 | 419 mils |
λ2 | 438 mils |
λ3 | 248 mils |
λ4 | 311 mils |
RF 性能
図 5、図 6、および図 7 は、CN0551 の結果として生じる S パラメータ、位相ノイズ測定値、ならびに安定性測定を示しています。
433.92MHz の中心周波数では、CN0551 のゲインは 35.8dB になります。このシステムは、周波数オフセットが 10kHz および100kHz の場合は約−145dBc/Hz 前後の値、周波数オフセットが1MHz の場合は−130dB/Hz の低位相ノイズを示しています。1MHz を超える周波数オフセットでは、−130dBc/Hz を下回る値が維持されます。
システムは、433.92MHz ISM 帯域幅全体で安定しており、Rolletの安定係数(k)は 1 を超え、補助安定性測定(B1)は 0 を超えています。
図 8 は、CN0551 の出力電力(POUT)と入力電力(PIN)の関係を示すグラフです。CN0551 にデフォルトの SAW フィルタがインストールされている場合、−3dBm 入力では最大 1/2W の出力電力になります。絶対最大入力電力は、+10dBm です。損傷が生じるおそれがあるため、この入力レベルを超える回路で動作させることは推奨しません。
過熱管理機能
CN0551 には過熱管理機能が実装されており、基板の温度がプリセットされた閾値に達すると、アンプ回路が自動的にディスエーブルされます。温度がヒステリシス設定値を下回ると、CN0551 のアンプを自動的にイネーブルします。この機能は、ADT6401 温度スイッチのオープンドレイン出力(TOVER/TUNDER)を使用して行われます。このスイッチは、ADL5324 付近の温度をモニタし、ピン・プログラマブルなトリップ・ポイントと比較します。
ADT6401 の温度トリップ・ポイントとヒステリシスは、S0、S1、および S2 の各ピンの状態で選択します。CN0551 で使用できる温度トリップ・ポイントとヒステリシスの設定を、表 3 に記載します。
S0 | S1 | Temperature Trip Point | Hysteresis |
0 | 0 | +65 °C | 10 °C |
1 | 0 | +75 °C | 10 °C |
Float | 0 | +85 °C | 10 °C |
0 | 1 | +95 °C | 10 °C |
1 | 1 | +105 °C | 10 °C |
Float | 1 | +115 °C | 10 °C |
0 | Float | +5 °C | 2 °C |
1 | Float | –5 °C | 2 °C |
Float | Float | –15 °C | 2 °C |
デフォルトでは、CN0551 のリファレンス設計は+95ºC のトリップ・ポイントと、+10ºC のヒステリシス設定を使用します。
ADL5324 は、ADT6401 出力から直接制御できる内部パワーダウン機能を有していないため、この機能は、スイッチング回路を使用して外付けで実装する必要があります。CN0551 では、これを、ADG901 RF スイッチと ADP196 パワー・スイッチを使用して、ADL5324への RF入力と DCバイアスを切断することで行います。図 9 で示すように、ADT6401 出力を使用して両方のデバイスを同時にオン/オフすることができます。ADG901 の場合、CTRL ピンの 2.5V レベル条件を満たすため、比率 1:1 の抵抗分圧器を使用します。
最適性能を得るには、ADT6401 の GND ピンと、熱源の GND ピンの熱抵抗を最小限に抑える必要があります。そのため、ADT6401を ADL5324のできるだけ近くに配置することが重要になります。
レイアウト時の考慮事項
パワー・アンプは使用時に大量の熱を発生させるため、放熱には特に注意を払う必要があります。消費電力に関する考慮事項に対処するため、EVAL-CN0551-EBZ は、3 層の厚いグランド・プレーンと、ADL5324 の下や周囲に配置されている複数のサーマル・ビアを使用しています。
サーマル・カメラを使用して EVAL-CN0551-EBZ を観察したところ、図10に示すように、RF入力が−10dBmの場合に ADL5324周辺における基板温度のピークは約 46ºC であることがわかりました。レイアウトでの放射手法と過熱モニタリング回路を組み合わせることにより、ADL5324 が最大ジャンクション温度まで上昇することを防ぎます。
USB パワー・マネージメント
CN0551 は、マイクロ USB ポートを介して電力を供給し、LTM4693 µModule によって+5V に調整されます。この超薄型のスタンドアロン昇降圧 DC/DC コンバータには、低ノイズ・アンプ電源用のスイッチング・モード・コントローラとパワー・デバイスが既に内蔵されているため、レギュレータ回路の設計を簡素化できます。CN0551 の+5V デバイスは、通常動作時に約175mA を消費しますが、その大半は ADL5324 と AD8353 で消費されます。2 つのアンプ段はまた、高温時に追加の電源電流が流れます(各データシートに記載)。LTM4693 は最大連続出力電流が 2A であるため、CN0551 の電流条件を処理するのに十分です。
LTM4693 の適正な動作に必要なのは、バイパス・コンデンサが複数、帰還抵抗と RC 補償回路がそれぞれ 1 つだけです。図 11で示すように、CN0551 は LTM4693 データシートにあるバイパス・コンデンサと RC 補償回路の推奨値に従っています。SS ピンと MODE/SYNC ピンは、CN0551 の VINに接続します。これによって、デフォルトの 2ms ソフトスタート期間では低ノイズ、固定周波数パルス幅変調(PWM)動作で動作するようにデバイスが設定されます。
LTM4693 の出力電圧は、VOUT+ピンと FB ピンの間に接続された外付けの帰還抵抗(RFB)によって設定され、その値は式 1 を使用して計算されます。
ここで、
VOUTは、必要となる出力電圧(単位:V)、
RFBは帰還抵抗(単位:kΩ)です。
必要な出力電圧が+5V の場合、この式で導かれる RFB 値は15.1kΩになります。これは、15kΩ抵抗として設計に実装されています。
デフォルトでは、LTM4693 のスイッチング周波数は 1MHz です。ただし、FREQ ピンと GND の間に外部抵抗(RT)を接続すれば、値を増加させることが可能です。この値は、式 2 を使用して計算します。
ここで、
fSWは必要なスイッチング周波数(単位:MHz)、
RTは外部抵抗(単位:kΩ)です。
高いスイッチング周波数を使用すると、電力効率が下がりますが、出力電圧リップルも下がるため、アンプの電源電圧の安定性が向上します。図 12 に示すように、周波数が高いほど、近接位相ノイズを最小限に抑えるのに役立ちます。CN0551 では、スイッチング周波数は2MHzに設定されています。この値を式2で使用すると、RTは 110kΩ になります。
ADM7160 の低ドロップアウト(LDO)レギュレータは、ADG901 の RF スイッチに必要な+2.5V の電源電圧を生成します。このデバイスは、2.3V~6.5V の入力電圧範囲と、最大 200mA の電流を供給できる固定出力電圧を備えています。
LDOの安定性を確保するため、実効容量(CEFF)が0.7μFを超える高品質コンデンサ(X5R や X7R など)を使用する必要があります。これには温度や DC バイアスの影響を考慮する必要もあります。式 3 を使用し、選択したコンデンサの仕様に基づき、CEFFを計算することができます。
ここで、
CEFFは最も厳しい条件の容量(単位:μF)、
CBIASは動作電圧での実効容量(単位:μF)、
TEMPCO は最も厳しい条件のコンデンサ温度係数、
TOL は、最も厳しい条件のコンデンサ許容誤差です。
CN0551 では、ADM7160 で使用されるコンデンサの定格容量は4.7μF、最も厳しい条件の温度係数は 0.15、最も厳しい条件の許容誤差は 0.20 となります。容量と電圧バイアスとの関係を示すグラフによると、入力バイパス・コンデンサ(+5V バイアス)と出力バイパス・コンデンサ(+2.5V)の実効容量は、それぞれ約 2.13μF と 3.60μF です。式 3 でこれらの値を使用すると、最も厳しい条件の容量値が 1.45μF と 2.45μF となり、どちらも最低条件である 0.7μF を上回っています。
バリエーション回路
0.5W の電力レベルが不要な場合は、ADL5320 を 433.92MHz ISM帯域の代替ドライバ・アンプとして使用できます。ADL5324 と比較すると、このデバイスはゲインがわずかに高く、ノイズ指数は低くなりますが、その代わりに OIP3 は低くなっています。ADL5320 の飽和出力レベルは 250mW ほどにとどまります。
ADT6402 を、温度スイッチとして使用することも可能です。このデバイスはピン互換性があり、ADT6401 と仕様は同じですが、アクティブ・ロー出力を備えています。ADT6402 を使用する場合、反転バッファーが必要になります。
アナログ・デバイセズでは 915MHz、および 2.45GHz ISM 帯域での送信に使用できる同様のアンプ設計も提供しています。詳細については、CN0522 および CN0417の回路ノートを参照してください。
回路の評価とテスト
ここでは、CN0551 の S パラメータおよび位相ノイズをテストするためのセットアップと手順について説明します。詳細については、EVAL-CN0551-EBZ User Guide を参照してください。
必要な装置
テストの実施には、次の装置を使用します。
- CN0551 回路評価用ボード(EVAL-CN0551-EBZ)
- Keysight® E5061B ベクトル・ネットワーク・アナライザ
- Rohde & Schwarz® SMA100A 信号発生器
- Rohde & Schwarz FSUP シグナル・アナライザ
- 20dB アッテネータ(シグナル・アナライザの入力保護機能用で任意使用)
- 5V、≥0.5A の AC/DC 電源アダプタ(マイクロ USB ケーブル付き)
- SMA ケーブル
セットアップとテスト
図 13 は、CN0551 のベクトル・ネットワーク・アナライザへの適切なポート接続を示しています。S パラメータを測定するには、以下の手順を実施します。
- ベクトル・ネットワーク・アナライザの掃引範囲と周波数のステップ・サイズを設定します。開始周波数と停止周波数はそれぞれ 433MHz と 435MHz に設定します。掃引の周波数ステップ・サイズは 10kHz に設定します。
- キャリブレーション・キットを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのフル 2 ポート・キャリブレーションを実施します。EVAL-CN0551-EBZ の RF 入力はテスト・ポートに直接接続できるため、テスト・セットアップに必要な計測ケーブルは 1 つのみです。
- 5V 電源アダプタとマイクロ USB ケーブルを使用して、EVAL-CN0551-EBZ に電源を供給します。
- キャリブレーション済みのテスト・セットアップを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのテスト・ポートに EVAL-CN0551-EBZ を接続します。
- ネットワーク・アナライザを設定し、個々の S パラメータのパターンを表示します。
- ベクトル・ネットワーク・アナライザのオート・スケール機能を実行します。必要に応じて、後でスケールを調整します。
図 14 は、CN0551 の信号源アナライザと信号発生器への位相ノイズ・テスト用の適切なポート接続を示しています。位相ノイズを測定するには、以下の手順を実施します。
- 信号源アナライザを設定して位相ノイズを測定し、測定範囲を設定します。開始オフセットと停止オフセットはそれぞれ 1kHz と 30MHz に設定します。
- 信号発生器出力の周波数を 433.92MHz に、レベルを−10dBmに設定します。
- 信号源アナライザのデータシートに記載されている最大入力レベルを参照して、信号源アナライザがアンプ出力(−10dBm 入力時に約 25.85dBm)に対応できるかどうかを確認してください。必要に応じて、アッテネータを信号源アナライザの入力に接続します。
- 5V 電源アダプタとマイクロ USB ケーブルを使用して、EVAL-CN0551-EBZ に電源を供給します。
- 信号発生器の出力を EVAL-CN0551-EBZ の RF 入力に接続します。
- EVAL-CN0551-EBZ の RF 出力を信号源アナライザに接続します。
- 信号源アナライザで新しい測定を開始します。