概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Allegro Layout Files
- Assembly Files
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0522-EBZ ($41.20) 915 MHz Power Amplifier with Temperature Management System
機能と利点
- 915MHz ISM帯域向けに最適化
- 1Wパワー・アンプ
- 部品の損傷を防止する過熱管理機能
製品カテゴリ
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
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EVAL-CN0522-EBZ User Guide2020/10/26WIKI
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CN0522: 過熱管理機能付きの USB 駆動、915MHz ISM 無線周波数帯、1W パワー・アンプ (Rev. 0)2020/10/26PDF337 K
回路機能とその特長
国際電気通信連合(ITU)によって、免許不要の 915MHz の産業、科学、医療用(ISM)無線周波数帯が地域 2(地理的には南北アメリカ、グリーンランド、および一部の東太平洋諸島)での使用に割り当てられています。この地域においてこの帯域は長年にわたるワイヤレス技術や規格の進歩により、狭域ワイヤレス通信システムで広く使用されるようになってきました。この ISM 帯域には用途やデューティ・サイクルに関する制限がなく、一般的な用途としてはアマチュア無線、監視制御およびデータ取得(SCADA)システム、無線自動識別(RFID)などが挙げられます。
ただし用途に関わらず、この帯域で無線伝送を行うには、シグナル・チェーン回路の後に、アンテナを駆動するためのアンプ・ブロックを設置する必要があります。米国では、915MHzISM 帯域を使用するスペクトラム拡散トランスミッタの最大ピーク出力電力は、50 チャンネルのダイレクト・シーケンス・スペクトラム拡散(DSSS)または周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)を使用する無線システムの場合は36dBm、50チャンネル未満の FHSS を使用する無線システムの場合は 30dBmと FCC によって規定されています。
図 1 に示す回路は、915MHz ISM 帯域で動作するトランスミッタ・シグナル・チェーン向けに最適化された 1W(30dBm)RFドライバ・アンプ・ブロックです。この回路で使用されているデバイスの組み合わせでは、中心周波数のフォワード・ゲイン(S21)は約 20dB、入力リターン損失(S11)は約 11.5dB となります。この設計の RF 入力ポートと出力ポートは 50Ω に整合しています。
回路説明
915MHz ISM帯域での動作
回路への RF 入力信号は表面弾性波(SAW)フィルタを介して、ドライバ・アンプ入力を 902MHz~928MHz 周波数帯に制限する必要があります。フィルタの選択時には、帯域平坦度と帯域外除去性能のバランスをうまく取る必要があります。選択時にSAW フィルタを検討する場合は、これらのフィルタが、シグナル・チェーンのゲイン全体を低下させる挿入損失源になることにも注意してください。
このリファレンス設計では、使用されている SAWフィルタの標準的な最大挿入損失は 2.9dB、終端インピーダンスは 50Ω となります。
アンプ
2 段 RF パワー・アンプ ADL5605 は、700MHz~1GHz の動作周波数範囲、23.0dB(代表値)のゲイン、4.7dB の最小ノイズ指数、43.4dBm(881MHz ±13MHz)の最小出力 3 次インターセプト(IP3)が特長です。
ADL5605 は既にアクティブ・バイアスを内蔵しているため、VBIAS ピン、および RF チョーク・インダクタ(L1)を介してRFOUT ピンにそれぞれ 5V を加えるだけで、両アンプ段で最適なバイアス点を簡単に設定できます。また、18nH のインダクタンスの使用を推奨します。915MHz ISM 帯域に対する出力マッチングがある程度提供されるためです。ADL5605 では、電源ラインの RF信号と高周波ノイズを除去するために、出力段のバイアスに加え、VCC ピンと VBIASピンの両方に 3 つのデカップリング・コンデンサを使用する必要があります。
インピーダンス・マッチング
915MHz ISM帯域の場合、ADL5605 の RFINピンに外付けのマッチング・コンポーネントは必要ありません。RFOUT ピンの 50Ωへのマッチングは、マイクロストリップ・ラインをインダクタとして使用し、追加の直列インダクタ(L2)と 1 つのシャント・コンデンサ(COUT)を接続することで簡単に実施されます。RFIN ピンと RFOUT ピンの両方で、外付けの DC 阻止コンデンサが必要となります。
ADL5605 データシートによると、868MHz を超える周波数でアンプを作動させる場合の L2 および COUT の推奨値は、それぞれ1.6nH と 8.0pF です。マッチングには、これらの部品を適切に配置することが重要です。ただし、リファレンス設計のシミュレーションを Keysight の Advanced Design System(ADS)ソフトウェアで行うと、部品間隔の推奨値は λ1 = 94.5mil および λ2 =240mil になります(ADL5605 データシートに示されているように 925MHz~961MHz 帯域と同様)。これらの値は部品の中心からアンプの端までを計測したものです。
小信号性能と位相ノイズ
図 4 と図 5 には、この設計の結果として生じる S パラメータと位相ノイズの計測値を示しています。915MHz の中心周波数では、回路のゲインは 20dB、入力および出力のリターン損失はそれぞれ 11dB と 6dB を超える値となっています。このシステムは、周波数オフセットが 10kHz および 100kHz の場合は、−110dBc/Hz を下回る値の低位相ノイズを、周波数オフセットが1MHz および 10MHz の場合は、それぞれ−130dBc/Hz および−140dBc/Hz を下回る値の低位相ノイズを示しています。
図 6 には、この設計の出力電力(POUT)と入力電力(PIN)の関係を示したグラフを示しています。ここでは、1Wの最大出力レベルを、約 11dBm の入力レベルで実現できることを確認できます。
この設計の RF 入力は、SAW フィルタの最大定格とアンプの最大定格のいずれか低いほうに制限されます。デフォルトの内蔵SAWフィルタの場合、回路への最大入力は15dBmとなります。ADL5605 自体は、20dBm までの入力に対応できます。
過熱管理機能
過熱管理機能は、ADT6402 温度スイッチを使用して実装されています。この温度スイッチによってボード温度が監視され、設定された閾値に達するとアンプが無効化されるため、EVALCN0522-EBZを冷却することができます。±0.5°C(代表値)(最大+6°C、−45°C~+115°C)という高精度の定格により、温度センサーは定格温度範囲全体を通じて精度と直線性を維持できるため、ユーザによるキャリブレーションや補正が不要となります。
ADT6402の温度トリップ・ポイントとヒステリシスは、S0、S1、およびS2の各ピンの状態で選択します。CN0522では、ピンS2がVCCに配線されており、ピンS0とピンS1はハンダ・ジャンパJP1とJP2を使用してVCCまたはGNDのいずれかに接続できる(またはフロート状態にできる)状態になっています。これらのピン配置により、温度トリップ・ポイントとヒステリシスの選択肢が図1に示すように制限されます。
JP1 | JP2 | 温度トリップ・ポイント(°C) | ヒステリシス(°C) |
0 | 0 | +65 | 10 |
1 | 0 | +75 | 10 |
フロート | 0 | +85 | 10 |
0 | 1 | +95 | 10 |
1 | 1 | +105 | 10 |
フロート | 1 | +115 | 10 |
0 | フロート | +5 | 2 |
1 | フロート | −5 | 2 |
フロート | フロート | −15 | 2 |
1 0はピンがGNDに接続されている状態、1はピンがVCCに接続されている状態、フロートはピンがフロート状態のままになっていることを示しています。
ADL5605は放熱性が高いため、トリップ・ポイントを95°C以上に設定することを推奨します。
ADT6402 には、アクティブ・ハイのプッシュプル出力(TOVER/TUNDER)が備わっており、温度計測値がトリップ・ポイントを超えると有効になります。バッファ・ゲートを使用して、TOVER/TUNDER を ADL5605 の DISABLE ピンに接続した場合、温度スイッチがトリップするとアンプがオフになり、システムが冷却されて温度とヒステリシスがトリップ・ポイントを下回るまでオンになりません。バッファ・ゲートによって、アンプ(ADL5605)の DISABLE ピンの 5V ロジック・レベルと 1.4mA 電流条件が確実に満たされるようになります。
最適性能を得るには、ADT6402のGNDピンと、熱源のGNDピンの熱抵抗を最小限に抑える必要があります。そのため、ADT6402はEVAL-CN0522-EBZの2次側の、ADL5605の露出パドルに接続されているサーマル・ビアの近くに取り付けられています。
レイアウト時の考慮事項
パワー・アンプは使用時に大量の熱を発生させるため、回路の放熱には特に注意を払う必要があります。消費電力を低減するために、EVAL-CN0522-EBZは、3層の厚いグランド・プレーンと、ADL5605の下や周囲に配置されている複数のサーマル・ビアを使用して設計されています。
Cadence® Sigrity™ PowerDC™ ソフトウェアで行った CN-0522 設計のシミュレーションでは、通常動作中にアンプ周囲のプリント回路基板(PCB)の温度が 85°C 近くになることが示されています。小型化を実現するため、基板にはヒート・シンク用の構成は付加されていません。代わりに、CN0522 の設計には過熱管理機能が備わっており、EVAL-CN0522-EBZ の温度は最適なシステム性能が得られるレベルに維持されます。また、この機能は ADL5605 ダイが最大ジャンクション温度に達するのを防ぐこともできます。
LTM8045を使用したUSBパワー・マネージメント
CN0522への電力はmicroUSBポートを介して供給され、LTM8045 μModuleによって調整されます。この小型のスタンドアロンDC/DCコンバータには、低ノイズ・アンプ電源用の電流モード・コントローラとパワー・デバイスが既に内蔵されているため、レギュレータ回路の設計を簡素化できます。
この設計では、通常動作中に約307mAがを必要となり、とし、そのほとんどがADL5605に供給されます(ADT6402で必要な電流は30μAのみ)。ただし、出力レベルが高い場合は、ADL5605に必要な電源電流も増えることに注意してください。例えば、ADL5605データシートに記載されているように、30dBm出力の電流引き込み量は>560mAとなります。CN0522で使用するすべてのアクティブ・デバイスではで必要なのは、5VのDC単電源のみが必要のみです。
SEPIC(Single-Ended Primary-Inductor Converter)として構成されているLTM8045の出力電圧は、VOUT+ピンとFBピン間の帰還抵抗(RFB)の値によって設定され、式1を使用して計算されます。
ここで、
RFBは帰還抵抗(単位:kΩ)、
VOUTは、必要となる出力電圧
(単位:V)です。
出力電圧が 5V の場合、この式より、RFB 値は 45.3kΩ となります。これはCN0522で、帰還用の2 つの経路を提供するために並列に接続された 2 つの抵抗 60.4kΩ と 182kΩ として実装されます(図 9 を参照)。
LTM8045 のスイッチング・トランジェントがもたらすノイズを最小限に抑えるために、レギュレーション出力は減衰 LCフィルタとフェライト・ビーズを通過します。このフィルタは 80MHz~150MHz のスイッチング・ノイズを抑制できるように設計されています。図 10 に、LTspice®でシミュレーションされたLTM8045 出力ノイズの FFT プロットを示しています。
LTM8045のスイッチング周波数は、RTピンとGNDの間に接続された外付け抵抗によって設定され、その値は式2を使用して計算されます。
ここで、
RTは外付け抵抗(単位:kΩ)、
fOSCは、必要なスイッチング周波数(単位:MHz)です。
データシートで仕様規定されているように、5Vの入出力電圧レベルの場合、LTM8045の最適なスイッチング周波数は800kHzとなります。fOSCのこの値を式2に代入すると、外付け抵抗の値は115kΩと算出されます。この構成の入力コンデンサと出力コンデンサの推奨値は、それぞれ4.7μFと100μFです。
起動時に電源からの突入電流を制限するために、LTM8045はSSとGND間の外部容量を使ったソフト・スタート機能を使用するように設計されています。ソフト・スタート時間を計算するには、式3を使用します。
ここで、
tSSは、ソフト・スタート時間(単位:秒)、CSSは外部容量(単位:μF)です。
この設計では、並列接続した 2つの 0.1μFコンデンサをソフト・スタート容量用に使用しており、そのソフト・スタート時間は約 367ms となります。
バリエーション回路
1W の電力レベルが不要な場合は、HMC450 を 915MHz ISM 帯域の代替ドライバ・アンプとして使用できます。ADL5605 と比較した場合、HMC450 はゲイン、ノイズ指数、および入力リターン損失が高く、その代わりに出力マッチング条件は大きく、出力 IP3 および出力 1dB 圧縮ポイント(P1dB)は低くなっています。HMC450 の飽和出力レベルは 700mW ほどにとどまります。
HMC450 を使用する場合、温度スイッチを ADT6401 に置き換える必要があります。ADT6401 は、ADT6402 とピン互換性があり仕様は同じですが、アクティブ・ロー出力を備えています。
アナログ・デバイセズでは、2.45GHz ISM 帯域での送信に使用できる同様のアンプ設計も提供しています。詳細については、回路ノート CN0417 を参照してください。
回路の評価とテスト
ここでは、CN0522 の S パラメータおよび位相ノイズをテストするためのセットアップと手順について説明します。
詳細については、CN0522のユーザ・ガイドを参照してください。
必要な装置
テストを実施するには、次の装置が必要です。
- EVAL-CN0522-EBZ
- Keysight® E5061Bベクトル・ネットワーク・アナライザ
- Rohde & Schwarz® SMA100A信号発生器
- Rohde & Schwarz FSUP信号源アナライザ
- 5V AC/DC USB電源アダプタ
- USB Type A - microUSB変換ケーブル
- SMAケーブル
- 20dBアッテネータ(信号源アナライザの入力保護機能用で任意使用)
セットアップとテスト
Sパラメータを計測するには、以下の手順を実行します。
- ベクトル・ネットワーク・アナライザに必要な計測条件を設定します。902MHz~928MHz の帯域を含むように周波数範囲を設定し、ソース・レベルを 0dBm に設定する必要があります。
- キャリブレーション・キットを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのフル 2 ポート・キャリブレーションを実施します。EVAL-CN0522-EBZ の RF 入力(J1)はテスト・ポートに直接接続できるため、テスト・セットアップに必要な計測ケーブルは 1 つのみです。
- 5V電源アダプタとmicroUSBケーブルを使用して、EVAL-CN0522-EBZの電源を入れます。
- キャリブレーション済みのテスト・セットアップを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのテスト・ポートにEVAL-CN0522-EBZを接続します。
- 計測を目的の S パラメータに設定します。
- ベクトル・ネットワーク・アナライザでオートスケール機能を実行します。必要に応じて、後でスケールを調整します。
位相ノイズを計測するには、以下の手順を実行します。
- 信号源アナライザに必要な計測構成を設定します。
- 信号発生器出力の周波数を915MHzに、レベルを0dBmに設定します。
- 装置がアンプ出力(0dBm 入力時に最大 20dBm)に対応している場合は、信号源アナライザのデータシートで最大入力レベルを参照してください。必要に応じて、アッテネータを信号源アナライザの入力に接続します。
- 5V電源アダプタとmicroUSBケーブルを使用して、EVAL-CN0522-EBZの電源を入れます。
- 信号発生器出力をEVAL-CN0522-EBZのRF入力(J1)に接続します。
- EVAL-CN0522-EBZのRF出力(J2)を信号源アナライザに接続します。
- 信号源アナライザで計測を実行します。