質問:
電流検出に用いる回路の例として図1のようなものを目にしました。この回路では、なぜR2として150Ωの抵抗を使用しているのでしょうか? この抵抗の値を選択する際に生じる重要なトレードオフがあれば、それについても教えてください。
回答:
図1の回路でR2が果たす役割について適切に説明するには、まず同抵抗がセンス抵抗(シャント抵抗)であるR1との間でどのような相互作用を示すのかを明らかにする必要があります。
この回路では、電流検出アンプとして「LTC6102」を使用しています。このアンプのデータシートを見ると、センス抵抗の選択方法について詳しく説明されています。それによれば、同抵抗を選択する際には、同アンプの最大入力範囲を超えないようにしつつ、電圧降下、測定精度、熱損失の間のトレードオフを実施しなければなりません。特に大電流を検出したい場合、これらのパラメータの調整は複雑化することがあります。その結果、使用できるセンス抵抗の選択肢が少なくなります。
図1の回路の抵抗R2は、簡単に言えば回路の微調整を行うための手段として用いられます。
LTC6102はトランスコンダクタンス・アンプであり、センス抵抗の両端の電圧(本稿では、この電圧を「シャント電圧」と呼ぶことにします)を出力電流に変換します。その電流は、OUTピンに接続されている抵抗R3によって電圧に変換されます。ここで、回路のトランスコンダクタンスを決めるために使用されるのがR2です。R1の両端の電圧(シャント電圧)とR2の両端の電圧は等しいので、R2の値を小さくするとトランスコンダクタンスが高くなります。その結果、OUTピンの出力電流が増加します。LTC6102の最大出力電流は1mA、最大出力電圧は(V- + 9V)です。例えば、OUTピンの電流を500μA未満に保つとすれば、それに応じて所望の出力電圧を得るためのR3の値を導出することができます。その結果、R2の値も決まります。
はじめに
多くのアプリケーションでは、電流の値を正確に測定する方法が必要になります。例えば、デジタル・マルチメータを使用すれば10Aまでの電流を高い精度で測定できるでしょう。しかし、10Aを超える電流を測定しなければならない場合には、他の方法を用意しなければなりません。広く使用されているのは、負荷と直列にセンス抵抗を配置する方法です。このように回路を構成すると、負荷に供給される電流によって同抵抗で電圧降下が生じます。このシャント電圧の値を測定すれば、どれだけの電流が流れたのかを算出できます。この電流検出の概念は決して難しいものではありません。しかし、実際の回路ではトレードオフが生じます。というのも、この回路ではシャント電圧が十分に小さくなるように配慮しなければなりません。なぜなら、シャント電圧が大きいと、負荷に加わる電圧が大きく低下してしまうからです。また、シャント電圧が大きいということは、センス抵抗で多くの熱損失が生じるということを意味します。その一方で、高い精度の測定を実現するためには、シャント電圧がある程度大きくなるようにしなければなりません。それだけでなく、アース・リードがグラウンド基準ではないオシロスコープによって電圧を測定する必要があるといった問題も生じます。本稿で紹介する回路は、増幅されたグラウンド基準の出力電圧を高い精度で生成します。そのため、シャント電圧の値が小さくても容易に測定を実施できます。
回路の動作原理
先述したとおり、図1の回路では電流検出アンプとしてLTC6102を使用しています。また、センス抵抗(R1)としてはIsabellenhütte*が提供する50μΩの製品を採用しています。上述したように、負荷に流れる電流量に応じてR1の両端には電圧が生じます。また、この回路では電流検出アンプを使用してフィードバック・ループを構成しています。そのため、-INFピンで電流をシンクすることにより、+INピンと-INSピンの電圧が同じ値に保たれます。したがって、R1の両端の電圧とR2の両端の電圧は同じ値になります。このとき、R2に流れる電流はR1に流れる電流のR1/R2というわずかな値になります。この電流がOUTピンに流れることによってR3の両端の電圧が生成されます。最終的には、電流検出の結果として、このOUTピンの電圧を測定することになります。
この出力電圧は、以下の式で表されます。
これを変形すると、以下の式が得られます。
*豆知識になりますが、Isabellenhütteは世界最古のエレクトロニクス企業だと言われています。
DC測定
ここでは、大電流を用いないで図1の回路の評価を実施する方法を考えます。それに向けて、50μΩのセンス抵抗を1Ωの高精度抵抗に置き換えることにします。置き換え後の回路によって元の回路と同じ値の出力電圧を生成する場合、負荷抵抗の値を2万倍に設定できることになります。値の大きい負荷抵抗を使用すれば、評価用のリードのインピーダンスが抵抗の測定値に影響を及ぼすことはありません。また、負荷抵抗の両端の電圧と負荷の抵抗値を標準的なマルチメータで測定できることになります。それにより、負荷電流の値を高い精度で算出することが可能になります。
上記のようにすれば、様々な値の負荷電流に対するセンス抵抗(1Ω)の両端の電圧を計算できます。回路の出力電圧は、オシロスコープまたは電圧計を使用することで測定可能です。図2に、値が1Ωで公差が1%のセンス抵抗を使用し、様々な負荷抵抗を対象として測定を実施した結果を示しました。列A、B、Dの値はマルチメータ(キャリブレーション済み)を使用して測定した結果です。列Cの値は、負荷の両端の電圧(列A)を負荷抵抗の測定値(列B)で割った結果にセンス抵抗の値を掛けることによって算出しました。列Eに示したのは、シャント電圧の値を150(R2の値)で割った結果に4990(R3の値)を掛けることで算出した値です。列Fの値は、出力電圧の測定値(列D)から出力電圧の計算値(列E)を引いた結果を出力電圧の計算値で割ることにより算出しました。
図3は、シャント電圧を横軸にして出力電圧をプロットしたものです(縦軸は左側)。図中の緑色のプロットは、出力電圧の計算値と測定値を基にパーセント単位で算出した誤差(以下、パーセント誤差)を表しています(縦軸は右側)。
シャント電圧の測定結果には、電流検出アンプの入力オフセット電圧に起因する誤差が含まれます。したがって、シャント電圧がオフセット電圧よりもはるかに大きくなるようにしなければなりません。例えば、シャント電圧が100mV、入力オフセット電圧が1mVである場合、測定値には1%の誤差が生じます。シャント電圧が高いほど正確な結果が得られますが、その場合、負荷に供給される電圧が低下することになります。それだけでなく、センス抵抗による熱損失が増大します。一方、オフセット電圧が大きいと、負荷電流を正確に測定するためのダイナミック・レンジが制限されます。また、負荷電流が少ないほどシャント電圧は小さくなります。それに比例して、入力オフセット電圧に起因する誤差は大きくなります。
LTC6102の入力オフセット電圧は10μVです。そのため、測定結果にはほとんど誤差は加わりません。また、広範な動的負荷電流を対象として測定を実施できることが保証されます。図2、図3からもわかるように、シャント電圧が55μVを下回ると、オフセット電圧に起因する誤差が大きくなり始めます。
キャリブレーション
図2を見ると、負荷抵抗が985Ωの場合のシャント電圧は12.2234mVになっています。入力オフセット電圧はシャント電圧と比べて非常に小さいので、測定誤差には寄与しません。システムのキャリブレーションはこの条件で実施するとよいでしょう。具体的には、電圧の測定値が出力電圧の計算値である406.63mVと等しくなるようにR3の値を調整してください。それにより、R1、R2、R3に起因する誤差を排除できます。
図2を見ると、電流が多い場合の誤差は-0.65%、電流が少ない場合の誤差は3.94%となっています。R3を調整してシステムのキャリブレーションを実施すると、電流が少ない場合の誤差は4.59%に達します。その結果、出力電圧の測定値は1.935mVになるはずです。出力電圧の計算値とこの新たな測定値の差から、入力オフセット電圧の値を計算できます(以下参照)。
この計算値は、データシートに記載されている約3μVという入力オフセット電圧の値とよく一致しています。
AC測定
ここまでに示したとおり、LTC6102は高精度のDC測定に対して有用な製品です。では、AC測定に対してはどのような性能を示すのでしょうか。例えば、降圧コンバータの入力電流には大きなAC成分が含まれているケースが多いでしょう。そのコンバータの効率を求めるには、入力電流の値を高い精度で測定しなければなりません。つまり、LTC6102を使用する場合、それによるAC測定の性能が重要な意味を持つということです。
図4に、LTC6102の周波数応答を示しました。
多くのDC/DCコンバータでは、200kHz~500kHzのスイッチング周波数が使用されます。図4からわかるように、その周波数範囲ではほとんど減衰は生じません。そのため、LTC6102を使用して降圧コンバータの入力電流を測定した結果にはリップルが現れるはずです。ただ、図1に示した回路を見ると、R3と並列にコンデンサが配置されています。これにより、リップルは大きく減衰します。
上記の内容を検証するために、DC/DCコンバータの入力電流を測定する回路を構成しました。DC/DCコンバータとしては、入力電圧が15V、出力電圧が3.3Vの降圧コンバータ「LTC3891」を使用します。また、同コンバータには4.3Aの負荷を接続することにしました。このように構成した回路の入力ラインに、図1の回路を適用します。ここでは、50μΩのセンス抵抗を、1Ωの抵抗を7個並列接続したものに置き換えました。つまり、センス抵抗の値は142.8mΩになります。図5に示したのは、このように構成した回路でシャント電圧を測定した結果です。
次に、47Ωの抵抗と10μFのコンデンサから成るRCフィルタをセンス抵抗と並列に接続しました。その状態で、同コンデンサ(10μF)の両端の電圧を測定しました。図6に示したのが、その結果です。同コンデンサの両端の電圧は143.6mV、入力電流の測定結果は1.005Aとなりました。このようなフィルタを使うことで、センス抵抗の値を変更することなく、入力電流をマルチメータでより正確に測定できるようになりました。
次に、LTC6102の出力電圧を測定しました。図7に示したのは、フィルタを適用しないで測定した結果です。
続いて、R3と並列に0.1μFのコンデンサを追加しました。そうすれば、LTC6102の出力電圧をより正確に測定することが可能になります(図8)。
R3の両端の電圧(出力電圧)をマルチメータによって測定したところ、その値は4.75Vでした。このことから、シャント電圧は142.79mV、DC/DCコンバータの入力電流は0.999Aとなります。つまり、先ほどの測定結果である1.005Aに近い値が得られています。注目すべきは、これら2つの電流値のパーセント誤差が-0.57%であることです。つまり、図2に示した誤差の値とほぼ一致しています。
ここで、出力電圧の測定値である3.28Vを使用すれば、以下の式のようにLTC3891の効率を求めることができます。

大電流の測定
続いて、図1の回路を使用して大電流の測定を実施しました。それに当たり、4.7Ωの抵抗を30個並列に接続して156.6mΩの負荷抵抗を作成しました。それらの抵抗の接続には、長さが10cm、断面積が10mm2の銅線を使用しました。銅の抵抗率ρは1.68×10-8mΩmです。この値を使えば、以下のようにして銅線の抵抗値を計算できます。

この計算結果から、負荷抵抗に加わる銅線の抵抗は無視できることがわかります。
図9は、上記のようにして構成した電流検出回路を車載バッテリに接続した様子を表しています。この例では、ホット・エア・ガンを使用して同回路に銅線を半田付けしました。
負荷と並列に電圧計を接続し、LTC6102の出力を測定しました。図10に示した115.4mVという出力電圧は、69.38Aの負荷電流に相当します。一方、10.76Vのバッテリに対する負荷電流の計算値は68.68Aです。つまり、この電流検出回路による電流の測定精度は1%です。
ここで精度について解説を加えます。図1のR2の公差は5%で、50μΩのセンス抵抗の公差も5%です。大電流を用いてシステムのキャリブレーションを実施する場合、各負荷抵抗の値を測定して並列抵抗の実効的な値を算出する必要があります。負荷抵抗の値を高い精度で把握できれば、負荷電圧を測定することが可能になり、大電流で動作する場合のシステムの真の精度を求めることができます。
まとめ
本稿で示したとおり、LTC6102を使用すれば、大電流の値を測定してグラウンド基準の出力を生成するための省スペースのソリューションを構成できます。図1の回路で使用した50μΩのセンス抵抗は、最大36Wの電力に対応できます。したがって、同回路は800Aまでの負荷電流を高い精度で測定するために使用可能です。LTC6102の定格電圧は60V(「LTC6102HV」は105V)なので、多様なアプリケーションに対応できる優れたソリューションが得られます。







