超低ノイズのμModuleレギュレータに適用する2次の出力フィルタを最適化する方法

質問:

超低ノイズのμModule®レギュレータについて検討しています。出力スイッチング・ノイズを更に低減することは可能でしょうか?

How to Optimize a Second-Order Output Filter for an Ultralow Noise µModule Regulator

回答:

可能です。超低ノイズのμModuleレギュレータに2次の出力フィルタ(LCフィルタ)を適用すれば、出力ノイズを90%以上低減することができます。ただ、応答が高速で安定した制御ループを維持するためには、十分な配慮の下、適切なコンデンサとインダクタを選択しなければなりません。そのように設計した回路は、ワイヤレス・アプリケーションやRFアプリケーションに対しても最適なものになります。それらのアプリケーションにおいて、高速な過渡応答が得られれば、システムのブランキング時間を最小限に抑えられます。それにより、信号処理の効率を最大限に高めることが可能になります。上記の方法を採用すれば、LDO(低ドロップアウト)レギュレータに匹敵するノイズ・レベルを達成しつつ、スイッチング・レギュレータならではの効率を実現できます。

はじめに

ノイズに敏感なデバイスの消費電力は、以前にも増して増加する傾向があります。例えば、医療用の超音波画像診断システムや、5G対応のトランシーバー、ATE(自動試験装置)などのアプリケーションには共通の課題があります。それは、プリント回路基板の面積を小さく抑えつつ、ノイズのレベルを低減し、広い帯域幅を確保しながら、多くの出力電流(5A以上など)を供給できるようにしなければならないというものです。より多くの出力電流が求められることから、以前から使われてきた2段構成(降圧スイッチング・レギュレータ+LDOレギュレータ)のソリューションでは対応が難しくなりました。その方法では、プリント基板が大きくなると共に、電力損失が増えてしまうからです。

アナログ・デバイセズは、超低ノイズのμModuleレギュレータとして「LTM4702」を提供しています。この製品には、当社独自のSilent Switcher®技術を適用しています。このアーキテクチャにより、超高速な過渡応答と極めて高いノイズ性能を両立しています。その結果、LTM4702はノイズに敏感でありつつ大電流を必要とするアプリケーションに最適な製品となりました。また、同製品は、同期式のスイッチング・レギュレータならではの高い効率も達成しています。実際、このソリューションを採用した場合、多くのアプリケーションではLDOレギュレータを併用する必要はありません。そのため、LDOレギュレータのコスト(約60%)、LDOレギュレータによる電力損失(4W以上)、LDOレギュレータの実装スペース(2cm2+クリアランス)を削減可能です。

アプリケーションによっては、スイッチング周波数に依存するリップルを非常に小さく抑えることが求められます。そのような場合、インダクタとコンデンサ(L/C)から成る2次フィルタを適用する方法が有効です。それにより、出力電圧に現れるスイッチング周波数の高調波を低減できるからです。しかし、その設計には課題があります。帯域幅が広く安定した制御ループを維持しながら、スイッチングに伴うリップルを最小限に抑えるのは容易ではありません。多くの場合、最適化されていないLCフィルタを追加すると、制御ループが不安定になります。その結果、出力に発振が生じます。本稿では、まず2次LCフィルタのループの解析方法を簡単に示します。次に、コンデンサの容量の配分とインダクタンスの計算に関する指針として役立つ直感的な設計方法を紹介します。最後に、LTM4702を例にとり、上記の設計方法の効果を検証します。

2次LCフィルタの制御ループの解析

電流モードの降圧レギュレータでは、出力インピーダンスが制御の対象になります。図1は、μModuleレギュレータに適用する2次LCフィルタの回路図とその代表的なボーデ線図です。負荷に対してDC電圧を正確にレギュレートするためには、VOUTの遠隔ノードであるBの電圧を確認する必要があります。

図1. 2次LCフィルタを適用した電流モードの降圧レギュレータ。同フィルタの一般的なボーデ線図も示してあります。
図1. 2次LCフィルタを適用した電流モードの降圧レギュレータ。同フィルタの一般的なボーデ線図も示してあります。

VOUTからiLOまでの伝達関数は次式のようになります。

数式 1

上の式から、2次LCフィルタには、共振周波数を持つ2重極(double poles)が生じることになります。つまり、以下の式が成り立ちます。

数式 2

図1に示した代表的なボーデ線図では、この共振周波数において90°の急激な位相の遅れが生じます。安定性を確保するためには、共振周波数が制御ループの帯域幅の4~5倍になるようにしなければなりません。それにより、安定性を欠く原因となる可能性がある90°の位相遅れの影響を回避します。また、スイッチング周波数に依存するリップルを十分に減衰させるには、この共振周波数の値をスイッチング周波数の値の1/5~1/4に設定します。それにより、LCフィルタによって十分なフィルタリングを実現できるようにします。スイッチング周波数におけるゲインの減衰量と制御ループの帯域幅の間にはトレードオフが存在します。それでも、上記のアプローチは、最適なL/Cの値を選択して共振周波数を調整する上で十分に役立ちます。

2次LCフィルタを追加する前後で同等の負荷過渡応答が得られるようにするには、出力インピーダンスを一定に保つ必要があります。つまり、出力容量はLCフィルタの有無にかかわらずほぼ同じでなければなりません。経験則として、図1のコンデンサC2の容量は、LCフィルタを追加しない場合と同等に保つことができます。一方、コンデンサC1については、共振周波数の位置を制御できるよう、はるかに小さい値を選択することが可能です。C1の値はC2と比べてはるかに小さいので、式(2)は以下のように簡略化することができます。

数式 3

C1の値は、少なくともC2の値の1/10に設定することが推奨されます。C1の値を選択したら、インダクタLfの値は式(3)を使用することで求められます。実際に入手可能な製品を確認することで、C1とLfの最適な値が決まります。

L/Cを選択する際に考慮すべき事柄

効果的な2次LCフィルタを設計するためには、コンデンサとインダクタを適切に選択することが非常に重要です。2次LCフィルタは、スイッチング周波数において十分な減衰量が得られるようにしなければなりません。超低ノイズのμModuleレギュレータでは、高いスイッチング周波数を使用できます(1MHz~3MHz)。そのため、2次LCフィルタのインダクタとコンデンサには、優れた高周波性能が求められます。C2を選択する際の要件は、LCフィルタを追加しない場合と同様です。そのため、C2に関する説明は割愛します。以下、C1とLfを選択する際の基準を示します。

  • C1の選択基準

    まず、C1を選択する際には、以下のような事柄を基準として使用します。

    1. C1 の自己共振周波数は、スイッチング周波数よりも高くなければなりません。スイッチング周波数におけるC1 のインピーダンスは、2 次LC フィルタを設計する上での重要な要素です。C1 の種類としてはセラミック・コンデンサが推奨されます。そのインピーダンスと周波数の関係を表す特性曲線を参照すれば、自己共振周波数を特定することが可能です。通常は、0603 サイズや0805 サイズの一般的なセラミック・コンデンサが理想的な選択肢になるでしょう。それらの自己共振周波数は、3MHz より高くなければなりません。
    2. 定格RMS 電流の値は、実際の回路の電流量に耐えられるよう十分に高くなければなりません。ここで、すべてのACリップルがC1 を通過すると仮定しましょう。その場合、大きなRMS リップル電流に対処できるセラミック・コンデンサを選択しなければなりません。電流とセラミック・コンデンサの温度の関係を表す特性曲線を参照すれば、電流に対する能力を特定することができます。0603 サイズのコンデンサの場合、約4A rms が確実な目安になるでしょう。
  • Lfの選択基準

    続いて、Lfの選択基準を示します。以下の基準を満たす製品を選ぶことが重要です。

    1. 出力電流が8A 未満の場合、フェライト・ビーズの使用が推奨されます。フェライト・ビーズは、高周波特性が非常に優れていることに加え、小型であるからです。また、非常に周波数の高いスパイクを減衰させることにも役立ちます1。出力電流が8A を超える場合、または大きなインダクタンスが必要な場合には、適切なフェライト・ビーズを見いだすのは難しいかもしれません。その場合には、従来のシールド付きインダクタの使用が推奨されます。
    2. 十分な定格RMS 電流を備えるフェライト・ビーズ/インダクタを選択してください(例えば、出力電流が8A 未満の場合には電流定格が8A rms といった具合)。インダクタの値は、μModule レギュレータが備えるインダクタの10% 未満であることが推奨されます。

超低ノイズのμModuleレギュレータを用いた設計例

図2に示したのは、ここまでに説明した内容を反映した設計例です。つまり、LTM4702に2次LCフィルタを適用しています。この回路の特徴としては、EMI(電磁干渉)性能が高くRMSノイズが極めて小さいことが挙げられます。スイッチング周波数は、300kHzから3MHzまでの範囲で調整可能です。この設計例では、同周波数を2MHzに設定しています。そして、入力が12V、出力が1Vという条件でノイズ性能を最適化しました。本稿で説明した設計方法に従い、2次LCフィルタの共振周波数は、スイッチング周波数の1/5~1/4となる400kHz~500kHzに設定しています。

図2. LTM4702に2次LCフィルタを適用した回路の例。基板の写真も示してあります。
図2. LTM4702に2次LCフィルタを適用した回路の例。基板の写真も示してあります。

ここでは、制御ループの帯域幅の目標値を100kHzとします。これは、LC共振周波数の1/5~1/4です。C1としては、0603サイズで値が4.7μFのコンデンサを2個使用しています。Lfとしては、0603サイズのフェライト・ビーズ「BLE18PS080SH1」(村田製作所製)を選択しました。C2としては、1206サイズで値が100μFのセラミック・コンデンサを2個使用しています。以下の式から、共振周波数は424kHzとなります。

数式 4

図3は、スイッチング周波数が2MHzという条件でノイズの測定値を比較したものです。LCフィルタを追加しない場合、スイッチング周波数に現れる出力リップルは234μVでした。一方、0603サイズのフェライト・ビーズを追加すると、その値は15μVまで大幅に低下しました。

図3. LCフィルタを追加した場合と追加しない場合のスイッチング・ノイズ。それぞれの値は15μV、234μVとなっています。
図3. LCフィルタを追加した場合と追加しない場合のスイッチング・ノイズ。それぞれの値は15μV、234μVとなっています。

この設計では、ノイズを最小限に抑えるために2次LCフィルタを追加しています。それでも、制御ループの帯域幅は100kHzに維持されています。これにより、10マイクロ秒未満で出力電圧の回復が可能な高速過渡応答が実現されます。これについても、LCフィルタを追加した場合と追加しない場合の実測評価で確認しました。10マイクロ秒以内に回復が可能であれば、ブランキング時間を無視できます。これはワイヤレス・アプリケーションやRFアプリケーションにおいて重要な意味を持ちます。つまり、LTM4702を使用すれば、負荷過渡応答のブランキング時間によって信号処理の効率が低下するというシステム設計上の課題が解決されるということです。

図4に示したのは負荷過渡応答の波形です。これを見れば、2次LCフィルタを追加した後にも高速過渡応答が得られ、10マイクロ秒以内の回復を実現できることがわかります。なお、これについては、フィルタを追加しない場合と同様の結果になります。

図4. 負荷過渡応答の測定結果。LCフィルタを追加した場合と追加しない場合を比較しています。いずれの場合も、10マイクロ秒以内に出力電圧が回復しています。
図4. 負荷過渡応答の測定結果。LCフィルタを追加した場合と追加しない場合を比較しています。いずれの場合も、10マイクロ秒以内に出力電圧が回復しています。

まとめ

大電流を必要とするアプリケーションにおいて、高い効率と安定性を確保しつつ、ノイズを最小限に抑えるのは容易ではありません。そのような場合、μModuleレギュレータに2次LCフィルタを追加すれば、ノイズを大幅に低減できます。但し、適切に最適化を実施しなければ、電源回路全体が不安定な状態になる可能性があります。安定性を損なわずにノイズを最小限に抑えるには、最適化された2次LCフィルタを使用しなければなりません。スイッチング周波数、制御ループの帯域幅、共振周波数に基づいてL/Cの値を慎重に選択することが重要です。それにより、高速な過渡応答と広い帯域幅を維持しつつ、スイッチング・ノイズを最小限に抑えることが可能になります。

参考資料

1 Jim Williams「厄介なスパイクを除去して、リニア・レギュレータの出力に残るスイッチング・レギュレータのアーチファクトを最小化」Linear Technology、2005年7月

著者

George Qian

Zhijun (George) Qian

Zhijun Qianは、アナログ・デバイセズのアナログ設計エンジニアリング・シニア・マネージャです。2010年初頭に入社しました。パワー・モジュール製品であるLTM80xxのすべてとLTM46xx/LTM47xxの一部を担当しています。浙江大学でパワー・エレクトロニクスを専攻し、学士号と修士号を取得。その後、セントラルフロリダ大学で博士号を取得しました。

Jennifer Florence Joseph Benedicto

Jennifer Florence Joseph Benedicto

Jennifer Josephは、アナログ・デバイセズのシニア設計評価エンジニアです。産業/マルチマーケット・グループでパワー・モジュールを担当しています。入社は2021年で、それ以前は3年間にわたりプロダクト・エンジニアとして就業していました。2015年にジェッピアー工科大学(インド)で電気/電子工学の学士号を取得。2018年にアリゾナ州立大学で電気工学の修士号を取得しています。