質問:
バックアップ・システムで使用するエネルギー・ストレージとして、スーパーキャパシタ(電気二重層キャパシタ)の採用を検討しています。貯蔵できるエネルギー量を簡単に計算する方法はありますか?
回答:
簡単な計算では不十分です。スーパーキャパシタの寿命が尽きるまでの間に貯蔵量に影響を及ぼす要素について、詳細に検討しなければなりません。
はじめに
電源のバックアップ・システムやホールドアップ・システムでは、BOM(Bill of Materials)コストの中でエネルギー・ストレージが占める割合が非常に大きくなります。エネルギー・ストレージがBOMコストを上昇させる最大の要因であることも少なくありません。ソリューションの最適化を図る上では、エネルギー・ストレージ用のコンポーネントを慎重に選択する必要があります。その際には、必要なホールドアップ時間を満たしつつ、過剰なスペックのストレージを選択してしまうことがないように注意しなければなりません。つまり、過剰にマージンを確保することなく、アプリケーションの稼働期間にわたってホールドアップ時間/バックアップ時間の条件を満たせるようにする必要があります。そのためには、詳細な検討を行った上で、必要なストレージ容量を算出しなければなりません。本稿では、スーパーキャパシタとバックアップ・コントローラを適切に選択するための戦略を紹介します。スーパーキャパシタの寿命までが尽きるまでに生じ得る経年変化を考慮しつつ、所定のホールドアップ時間/ホールドアップ電力に対応するためにはどうすればよいのかを明らかにします。
スーパーキャパシタは、大きくて重いバッテリ・システムとバルク・コンデンサの間の機能的なギャップを埋める効率的なエネルギー・ストレージ・デバイスです。充電が可能なバッテリと比べると、かなり高速な充電/放電サイクルを実現できます。そのため、扱うエネルギー量が比較的少ないバックアップ電源システムにおいては、バッテリよりも優れた選択肢となります。また、エネルギー・リカバリ・システムなどで使われるストレージには、ピークの負荷電流をバッファする役割を果たし、短時間で充電できることが求められます。このようなシステムで使用するストレージとしても、スーパーキャパシタはバッテリより優れています(表1)。現在では、バッテリとスーパーキャパシタを併用するハイブリッド・システムも利用されています。その種のシステムでは、充電に長い時間を要する小型のバッテリの能力を、より多くの電流を出力でき、短時間で充電が可能なスーパーキャパシタが補完しています。
*適切な寿命を保つため | ||
項目 | スーパーキャパシタ | リチウムイオン・バッテリ |
充放電時間 | 1秒未満のものから10秒以上のものまで | 30分~600分 |
充電終止/過充電 | — | あり |
充電/放電の効率 | 85%~98% | 70%~85% |
サイクル寿命 | 100,000+ | 500+ |
セル電圧の範囲〔V〕 | 0~2.3* | 3~4.2 |
重量エネルギー密度〔Wh/kg〕 | 1~5 | 100~240 |
出力密度〔W/kg〕 | 10,000+ | 1000~3000 |
温度〔℃〕 | -40~45* | 0~45(充電時*) |
自己放電率 | 高 | 低 |
本質的な安全性 | 高 | 低 |
スーパーキャパシタでは、温度やセル電圧が高いほど寿命が短くなります。このことには注意が必要です。セル電圧については、温度と電圧が定格を超えることがないようにしなければなりません。スーパーキャパシタを積層したり、入力電圧が十分にレギュレートされていなかったりするアプリケーションでは、温度や電圧が規定のレベル内に確実にとどまるようにすることが重要です(図1)。
ディスクリートの部品を使って堅牢かつ効率的なソリューションを実現するのは容易ではありません。それに対し、スーパーキャパシタに対応するチャージャICやバックアップ・コントローラICは、使いやすいソリューションになります。そうしたICは、以下のような必要な機能を提供します。
- 入力電圧の変動に依存することなく、セル電圧を十分にレギュレートします。
- セル間のミスマッチに依存することなく、すべての動作条件で確実に電圧がマッチングするよう、スタックされた個々のセルの電圧を動的にバランシングします。
- 与えられたスーパーキャパシタによってシステムが最大のエネルギー量を確実に得られるようにするために、セル電圧の導通損失とドロップアウト電圧を小さく抑えます。
- ボードの活線挿抜が行えるようにするために、突入電流を制限します。
- ホスト・コントローラと通信するための機能を提供します。
適切なICソリューションを選択する
アナログ・デバイセズは、バックアップ・システムの基本的な機能を実現するために必要なあらゆる回路を単一のICとして集積した数多くのソリューションを提供しています。表2は、スーパーキャパシタ向けの代表的なチャージャ製品の仕様をまとめたものです。
*4 個以上のキャパシタ向けに構成可能 | |||||
LTC3110 | LTC4041 | LTC3350 | LTC3351 | LTC3355 | |
VIN〔V〕 | 1.8~5.25 | 2.9~5.5(60Vに対応するOVP) | 4.5~35 | 4.5~35 | 3~20 |
チャージャ(VIN→VCAP) | 2A/昇降圧 | 2.5A/降圧 | 10+A/降圧コントローラ | 10+A/降圧コントローラ | 1A/降圧 |
セルの数 | 2 | 1~2 | 1~4* | 1~4* | 1 |
セル・バランシング | あり | あり | あり | あり | — |
VCAP〔V〕 | 0.1~5.5 | 0.8~5.4 | 1.2~20 | 1.2~20 | 0.5~5 |
DC/DC(VCAP→VOUT) | 2A/昇降圧 | 2.5A/昇圧 | 10+A/昇圧コントローラ | 10+A/昇圧コントローラ | 5A/昇圧 |
VOUTの範囲〔V〕 | 1.8~5.25 | 2.7~5.5 | 4.5~35 | 4.5~35 | 2.7~5 |
PowerPath | 内蔵FET | 外付けFET | 外付けFET | 外付けFET | 昇圧(セパレート) |
突入電流の制限 | — | — | — | あり | — |
システムの監視 | — | 電源の障害、PG | V、I、容量、ESR | V、I、容量、ESR | VIN、VOUT、VCAP |
パッケージ | 24ピンTSSOP、24ピンQFN | 4mm×5mm、24ピンQFN | 5mm×7mm、38ピンQFN | 5mm×7mm、38ピンQFN | 4mm×4mm、20ピンQFN |
電源電圧が3.3V/5Vのアプリケーション向けのものとしては、以下の製品が適しています。
- LTC3110:2A出力で双方向/昇降圧に対応するDC/DCコンバータ。チャージャ機能とバランサ機能を内蔵しています。
- LTC4041:スーパーキャパシタを使用するバックアップ・システム向けのパワー・マネージャ。2.5A の出力に対応します
電源電圧が12V/24Vのアプリケーションまたは10W以上の電力に対応するバックアップ電源に適したものとしては、以下の製品が挙げられます。
- LTC3350:スーパーキャパシタを使用するバックアップ・システム向けのコントローラ。大電流に対応することが可能です。システム・モニタ機能も備えています。
- LTC3351:スーパーキャパシタを使用するバックアップ・システム向けのコントローラ。ホットスワップ機能、チャージャ機能、システム・モニタ機能を備えています。
単一のスーパーキャパシタなどのエネルギー・ストレージを使って一時的なバックアップやライドスルーを実現するシステムも存在します。そうしたシステムにおいて、電源電圧が3.3V/5Vで、バックアップ用昇圧コンバータを内蔵した降圧レギュレータが必要な場合には、以下の製品が適しています。
- LTC3355:スーパーキャパシタ用のチャージャとバックアップ用レギュレータを内蔵する20V入力/1A出力の降圧DC/DCシステム
アナログ・デバイセズは、単一のスーパーキャパシタ、電界コンデンサ、リチウムイオン・バッテリ、ニッケル水素バッテリの充電に対応する定電流/定電圧(CC/CV)のソリューションを数多く提供しています。スーパーキャパシタ向けのソリューションの詳細についてはanalog.com/jpをご覧いただくか、お近くのサポート部門やフィールド・アプリケーション・エンジニアにお問い合わせください。
ホールドアップ時間/バックアップ時間の算出
スーパーキャパシタを使用するエネルギー・ストレージ・システムを設計する場合、どの位の大きさの容量を用意すれば十分だと言えるのでしょうか。ここでは、検討の範囲を限定するために、以下のようなバックアップ/ホールドアップ・アプリケーションに焦点を絞ることにします。
- ハイエンドの民生用電子機器
- 可搬型の産業用機器
- エネルギー用のメーター
- 防衛用アプリケーション
ここで、より簡単な状況を例にとって考えてみます。ある人が、日帰りのハイキングに持っていく水の量を決定したいと考えているとします。水の量を少なめにしておけば坂を上るのが楽になります。しかし、より険しい道が待っている場合には、水がすぐになくなってしまうかもしれません。大量の水を持っていく場合には、その重さに耐える必要があります。しかし、脱水状態に陥る心配はなくなるでしょう。加えて、暑い日には多めの水、涼しい日には少なめの水といった具合に、天候についての考慮も必要であるかもしれません。
スーパーキャパシタの選択についても同様のことが言えます。ホールドアップ時間、負荷に加え、周囲温度も重要です。また、スーパーキャパシタの公称容量の経年劣化や等価直列抵抗(ESR)についても考慮しなければなりません。一般に、スーパーキャパシタに関するパラメータの1つである製品寿命(EOL:End-of-Life)は、以下のように定義されます。
- 規定の(初期)容量が公称値の70%まで減少したとき
- ESRが規定の初期値の2倍になったとき
これら2つのパラメータは、以下に示すような計算を行う場合に重要な意味を持ちます。
コンポーネントの大きさを決める上では、ホールドアップ時間やバックアップの対象となる負荷の仕様を理解することが重要です。例えば、システムの電源に障害が発生した場合、揮発性メモリに保存しているデータを不揮発性メモリに移動するといった重要な機能を担う回路にエネルギーを供給することを優先したいでしょう。そのためには、それほど重要ではない負荷はディスエーブルにするといった動作が必要かもしれません。
電源の障害は様々な形で現れます。この問題に対応するために、システムによってはバックアップ電源/ホールドアップ電源を用意することになります。それにより、継続的な障害に対してグレースフルにシャットダウンを行ったり、一時的な障害が発生している間も動作を継続したりすることが可能になります。
エネルギー・ストレージ用のコンポーネントの容量値は、バックアップ/ホールドアップの実行中にサポートが必要なトータルの負荷と、サポートしなければならない時間に基づいて算出しなければなりません。
システムのホールドアップ/バックアップに必要なエネルギーの量は、以下の式で表されます。
スーパーキャパシタに蓄えられるエネルギー量は、以下の式で表されます。
一般的な設計としては、スーパーキャパシタに蓄えられるエネルギー量は、ホールドアップ/バックアップに必要なエネルギー量よりも多くなければならないはずです(以下参照)。
これにより、スーパーキャパシタに求められる容量値を見積もることができます。但し、この見積もり方法は、真に堅牢なシステムを構築する上で十分なものではありません。様々なエネルギー損失源など、カギになる要素について詳細に検討/判断する必要があります。最終的には、より大きな容量が求められるという結果になるでしょう。
エネルギー損失は、DC/DCコンバータの効率によって生じるものと、キャパシタ自身によって生じるものの2つに分類されます。DC/DCコンバータの効率は、スーパーキャパシタがホールドアップ/バックアップの実行中に、負荷に電力を供給するための条件として明らかになっているはずです。DC/DCコンバータの効率は、デューティ・サイクル(ラインと負荷)の条件に依存します。その値は、DC/DCコントローラのデータシートで確認できるでしょう。表2で取り上げたデバイスは、最大効率が85%~95%です。この値は、ホールドアップ/バックアップ中の負荷電流やデューティ・サイクルに依存して変動することがあります。
スーパーキャパシタでエネルギー損失が生じるということは、スーパーキャパシタから取り出せないエネルギーが存在するということを意味します。この損失は、DC/DCコンバータの最小入力電圧によって決まります。この電圧は、DC/DCコンバータのトポロジに依存するものであり、ドロップアウト電圧とも呼ばれます。これは、ICソリューションを比較する際に考慮すべき重要なパラメータです。
上述した方法でキャパシタのエネルギー量を算出し、VDropout以下の利用できないエネルギーを差し引くとすると、次のような式が得られます。
ここで、VCapacitorについて検討してみましょう。VCapacitorの値を最大定格の近くに設定すれば、より多くのエネルギーを蓄積できるように思えます。しかし、この考え方には重大な欠陥があります。多くの場合、スーパーキャパシタの絶対最大定格電圧は2.7Vですが、代表値は2.5V以下です。この値は、アプリケーションの寿命に関する考察と、指定された周囲動作温度を考慮して設定されています(図2)。VCapacitorを高い値に設定して高い周囲温度の中で使用すると、スーパーキャパシタの寿命は短くなります。動作寿命を延伸することや比較的高い周囲温度で動作させることが求められる堅牢なアプリケーションでは、VCapacitorは低く設定するべきです。通常、スーパーキャパシタのサプライヤは、クランピング電圧と温度に基づいた推定寿命を表す特性曲線を公開しています。
最大電力伝送の定理
考慮すべき3つ目の影響は、最大電力伝送の定理についてです。ESRを伴うスーパーキャパシタから最大の電力を得るには、負荷の抵抗とソースの抵抗の値を等しくする必要があります(図3)。本稿では、アウト、バックアップ、負荷という言葉を同じ意味で使っています。実際、このケースでは、3つすべてが同じことを意味しています。
図3の回路をテブナン等価回路と考えると、次式のように、負荷で消費される電力量を簡単に求めることができます。
最大電力伝送が可能な条件を見いだすために式(5)を微分し、それがゼロになる条件を求めます。そのときにRSTKとRLOADが等しくなります。
そこでRSTK = RLOADとすると、次式が得られます。
これにより、直感的なアプローチを採用することができます。つまり、負荷抵抗がソース抵抗よりも大きければ、回路全体の抵抗値が大きくなるので、負荷で消費される電力は削減されます。逆に負荷抵抗がソース抵抗よりも小さいとすると、回路全体の抵抗値が小さくなります。すると、ほとんどの電力はソースで消費されることになり、負荷での消費電力も削減されます。まとめると、供給可能な電力量は、ソースと負荷のインピーダンスが所定の容量の電圧とスタック抵抗(スーパーキャパシタのESR)にマッチしている場合に最大になります。
利用できるエネルギー量は設計に依存します。スタックされたスーパーキャパシタのESRの値は固定なので、バックアップ動作の際には、スタックの電圧と電流が変化します。
バックアップ・システムにおける負荷の条件を満たすためには、スタックの電圧が低下した際、負荷に対する電流が増加することになります。残念ながら、定義した最適なレベルを超えて電流が増えると、スーパーキャパシタのESRにおける損失が増加します。そのため、バックアップに利用できる電力が減少します。DC/DCコンバータが最小入力電圧に達する前にこの現象が起きると、利用できるエネルギーが損失として消費されることになります。
図5は、利用できる電力と25Wのバックアップ電力の関係を表したものです。利用できる電力は、VSTKの関数として表され、抵抗は負荷に対して最適にマッチングしていると仮定しています。また、このグラフは単位のない時間ベースのものとして見なされます。スーパーキャパシタは、求められるバックアップ電力である25Wという条件を満たしています。スタック電圧は、負荷に対する放電が進むに連れて低下します。3Vの部分に負荷電流が最適なレベルを超える変曲点が存在し、負荷で利用できるバックアップ電力が低下していきます。ここが、システムによって供給可能な最大電力ポイントです。このポイントから、スーパーキャパシタのESRによる損失が増加します。この例の場合、3Vという電圧は、DC/DCコンバータのドロップアウト電圧よりもかなり高いと言えます。そのため、利用できないエネルギーは完全にスーパーキャパシタによるもので、レギュレータは十分に使われないままになっています。理想的な状態は、スーパーキャパシタがドロップアウト電圧に達し、システムの電力供給能力が最大になることです。
PBACKUPを基に、VSTK(MIN)を求めることができます。同様に、昇圧コンバータの効率も考慮すると、以下のような式を考えることもできます。
VSTK(MAX)とVSTK(MIN)により、以下のようにしてキャパシタの利用率αBを求めることができます。
バックアップ時間を算出する上では、スーパーキャパシタの容量だけでなく、ESRも極めて重要な要素になります。スーパーキャパシタのESRは、スタック電圧のどれだけをバックアップの対象となる負荷に使用できるか(利用率)を決める要素です。
バックアップのプロセスは、入力電圧、出力電流、デューティ・サイクルの面から動的なものだと言えます。そのため、必要なスタック容量を表す式は複雑なものになります(以下参照)。
ここで、ηはDC/DCコンバータの効率です。
スーパーキャパシタを利用するバックアップ・システムの設計方法
ここまでに説明したことを踏まえると、スーパーキャパシタを利用するバックアップ・システムの設計手法は、以下のようなものになるでしょう。
- PBackupとtBackupの条件を定めます。
- キャパシタの所望の寿命に対する最大セル電圧VSTK(MAX)を決定します。
- スタック内のキャパシタの数nを決めます。
- スーパーキャパシタに求められる利用率αBを定めます(例えば80%~90%)。
- 以下の式によって、容量CSCを算出します。
- 十分なCSCを備えるスーパーキャパシタを選択し、以下に示す最小RSCの式が満たされているかどうかを確認します。
適当なキャパシタを入手できない場合には、容量が大きいキャパシタやセル電圧が高いキャパシタを選んだり、スタック内のキャパシタの数を増やしたり、利用率を低くしたりして計算を繰り返します。
スーパーキャパシタの寿命を考慮する
いずれは一定の寿命に達するシステムに対し、上述した方法を適用する場合には、一般にCNOMの70%とESRNOMの200%とされているEOL値に応じた変更を施さなければなりません。それによって数式は更に複雑になります。ただ、アナログ・デバイセズのスーパーキャパシタ用マネージャ製品については、Webサイトに表計算ツールが用意されています。
以下、LTC3350を使用する場合を例にとり、適用すべき手法を簡素化して示します。
- 求められるバックアップ電力は、4秒間で36Wであるとします。
- VCELL(MAX)は長い寿命、高い周囲温度に対応するために2.4Vに設定します。
- 4個のスーパーキャパシタを直列にスタックするとします。
- DC/DCコンバータの効率ηは、90%であるとします。
- 初期の推定容量値が25Fであるとすると、表計算ツールによって図6に示す計算結果が得られます。
初期の推定容量値が25Fであるとすると、公称値を使うことで、求められる4秒間のバックアップ時間(25%のマージンを追加)を達成することができます。但し、ESRと容量のEOL値を考慮すると、バックアップ時間はほぼ1/2に短縮されてしまいます。スーパーキャパシタのEOL値を踏まえて4秒という値を得るためには、入力パラメータのうち少なくとも1つの値を変更しなければなりません。ほとんどが固定値であることから、最も柔軟に変更できるパラメータである容量値を増やすことになります。
- そこで、容量値を45Fに増やすと、表計算ツールによって図7に示す計算結果が得られます。
公称値に基づいて9秒ものバックアップ時間が達成されるのであれば、かなりの余裕があるように感じられます。むしろ、45Fに変更するのでは容量値を増やしすぎだとも思えるでしょう。しかし、CAPEOLとESREOL、そしてその結果として得られる6.2Vという最小スタック電圧を反映させると、EOLにおけるバックアップ時間は1/2まで急激に短縮されます。とはいえ、この値は求められるホールドアップ時間である4秒を5%のマージンを確保した状態で満たしています。
スーパーキャパシタ用マネージャの付加機能
LTC3350/LTC3351は、内蔵A/Dコンバータを利用したテレメトリ機能を備えています。両製品を使えば、システムの電圧、電流、容量、スーパーキャパシタ・スタックのESRの値を測定できます。容量値とESR値の測定は、オンラインの状態でシステムへの影響を最小限に抑えつつ実行されます。デバイスの構成や測定は、I2C/SMBusを介して行います。それにより、システムで使用するプロセッサは、アプリケーションの寿命が尽きるまで重要なパラメータをモニタすることができます。その結果を利用し、プロセッサは利用できるバックアップ電力が確実にシステムの条件を満たすように制御を行います。
LTC3350/LTC3351は、スーパーキャパシタのスタックの容量とESRをリアルタイムで測定する機能を備えています。それにより、キャパシタが新しい間はクランプ電圧を低減しつつ、バックアップの条件を容易に満たすことができます。テレメトリによってデータを受信するプロセッサは、先述した計算を実行するようにプログラムすることが可能です。それにより、システムは、リアルタイムで容量とESRの値を考慮しつつ、バックアップ時間を満たすために必要な最小クランプ電圧をオンザフライで計算することができます。このアルゴリズムは、スーパーキャパシタを利用するバックアップ・システムの寿命を更に延伸することに貢献します。図2に示したように、高温の環境下では、スーパーキャパシタの寿命はクランプ電圧のわずかな低下によって大幅に延びることがあるからです。
更に、LTC3351は、システムの保護に向けたホットスワップ・コントローラ機能も備えています。ホットスワップ・コントローラは、バック・ツー・バック接続されたNチャンネルMOSFETの制御を担います。それにより、可用性の高いアプリケーションにおいて、突入電流を抑えるホールドバック電流制限や短絡保護を実現することができます。
まとめ
バックアップ・システムの仕様を満たすためには、必要な容量値を算出する必要があります。公称値をベースとするエネルギー伝送の基礎理論を使うことで、必要な電力と蓄積する電力という簡素化された問題を対象として検討を進めることができます。しかし、実際には、最大電力伝送、キャパシタのEOL、ESRの影響も考慮しなければなりません。したがって、そのようなシンプルな方法だけでは不十分です。これらの要素は、システムが寿命に達するまでに利用できるエネルギー量に大きな影響を及ぼします。アナログ・デバイセズは、スーパーキャパシタ向けICソリューションの一部として、バックアップ時間の計算ツールを数多く提供しています。それらを使うことで、コストへの影響を最小限に抑えつつ、スーパーキャパシタを利用するバックアップ/ホールドアップ・ソリューションを設計/構築することができます。完成したソリューションは、アプリケーションの寿命が尽きるまで求められる条件を満たすことが可能な信頼性の高いものになるはずです。