電力品質の監視【Part 2】規格に準拠した電力品質メータを設計する

概要

今回(Part 2)は、規格に準拠するように電力品質(PQ: Power Quality)用の測定器(以下、PQメータ)を効率的に設計する方法について説明します。具体的には、必要な作業を迅速に進めるために、即座に利用可能なプラットフォームをベースとする手法を取り上げることにします。また、IEC 61000-4-301のクラスAとクラスSに準拠したPQメータの設計に利用できる様々なソリューションも紹介します。特に、クラスSに対応し、PQメータの開発時間とコストを大幅に削減可能な統合ソリューションについて詳しく説明することにします。なお、IEC 61000-4-30で定められたPQに関連するパラメータなどについては、「電力品質の監視【Part 1】電力品質の測定の重要性、IEC規格の概要」を参照してください。

PQメータの実装時に直面する課題

図1は、PQメータの構成要素となる基本的なコンポーネントを示したものです。まず、電流と電圧のそれぞれに対応するトランスデューサは、PQメータの動作範囲を考慮し、A/Dコンバータ(ADC)の入力部の仕様に適合させる必要があります。既存のトランスデューサは、測定に不確実性を生じさせる第一の要因です。そのため、トランスデューサを適切に選択するのは非常に重要なことです。続いて、トランスデューサの出力信号はADCに入力されます。オフセット、ゲイン、非直線性誤差など、ADCの各特性は測定に不確実性をもたらす第二の要因になります。PQメータを設計する際には、最適なADCを選択するために多くの労力を割かなければならないでしょう。また、ADCの出力を受け取るDSP(デジタル信号処理)のブロックには、適切な信号処理を行うための一連のアルゴリズムが必要になります。つまり、入力信号から電気に関する測定値とその品質を示す値を取得するためのアルゴリズムを開発する必要があります。

図1. PQメータを構成する主なコンポーネント
図1. PQメータを構成する主なコンポーネント

電圧/電流用のトランスデューサに関する要件

公称電源電圧UNOM、公称電流INOM、周波数は、PQメータの設置位置とアプリケーションに応じて異なります。PQメータによって測定される公称値にかかわらず、IEC 61000-4-7ではPQメータが表1に示す精度を達成することを求めています。つまり、PQメータがこれらの要件を満たせるようにトランスデューサを選択する必要があります。

表1. IEC 61000-4-7で定められた電流/電圧/電力の測定精度に関する要件。
(表中のINOMはPQメータの公称電流範囲、UNOMはPQメータの 公称電圧範囲、UM、IM、PMは測定値を表します)
クラス 測定項目 条件 最大許容誤差
A 電圧 UM ≥ 1% UNOM
UM < 1% UNOM
±5% UM
±0.05% UNOM
電流 IM ≥ 3% INOM
IM < 3% INOM
±5% IM
±0.15% INOM
電力 PM ≥ 150 W
PM < 150 W
±1% PM
±1.5% W
S 電圧 UM ≥ 3% UNOM
UM < 3% UNOM
±5% UM
±0.15% UNOM
電流 IM ≥ 10% INOM
IM < 10% INOM
±5% IM
±0.15% INOM

IEC 61000-4-7では、以下の公称電圧UNOMと公称電流INOMに従って入力回路を設計することを推奨しています。

  • 50Hz のシステム:66V、115V、230V、400V、690V
  • 60Hz のシステム:69V、120V、240V、277V、347V、480V、600V
  • 0.1A、0.2A、0.5A、1A、2A、5A、10A、20A、50A、100A

電圧/電流に対応する各トランスデューサは、UNOMとINOMの1.2倍の値が連続的に印加された場合でも、特性と精度を維持する必要があります。また、公称電圧の4倍または1kVrmsのうちいずれか小さい方の信号が1秒間印加された場合でも、PQメータが損傷しないようにしなければなりません。同様に、INOMの10倍の電流が1秒間印加されても、損傷が生じないようにすることが求められます。

ADCに関する要件

IEC 61000-4-30では、サンプリング・レートに関する要件は定められていません。ただ、ADCはPQに関連する現象、特にある程度の振動が存在する高速な現象を測定できるだけの十分なサンプリング・レートを備えている必要があります。サンプリング・レートが不十分である場合、PQに関連するイベントを誤って判別してしまったり、検出の失敗を招いたりするかもしれません。IEC 61000-4-30では、PQメータの電圧/電流センサーは、最高9kHzまでの測定に対応できるものでなければならないと定められています。そのため、ADCのサンプリング周波数は、信号解析のルールに従って9kHzまでの成分を含む周波数信号の測定を実施できるように選択する必要があります。図2は、サンプリング・レートが不十分である場合の例を示すためのものです。左上の波形には10サイクル(200ミリ秒)あたり64サンプルが含まれています。一方、右上の波形には10サイクルあたり1024サンプルが含まれています。ご覧のように、左上のグラフでは電圧のディップが現れていることしか把握できません。一方、右上のグラフを見ると、そのディップがトランジェントによって誘起されていることがわかります。

IECの規格は、単相システムと3相システムを対象にしています。それらのシステムで使用するADCとしては、必要な数の電圧チャンネルと電流チャンネルを同時にサンプリングできるものを選択する必要があります。PQメータでは、すべての電圧チャンネルと電流チャンネルの測定を同時に行うことにより、すべてのパラメータについて分析を実施します。それにより、PQに関連するイベントが発生した際、即座にトリガすることが可能になります。

DSPに関する要件

PQメータ用のトランスデューサとADCを選択する際には、エンジニアリング分野の包括的な知識が必要です。一方、ADCで測定した未処理の値(データ)を処理するには、そのためのアルゴリズムを開発しなければなりません。PQメータの開発に伴う時間とリソースのうちのほとんどは、その作業に費やすことになるでしょう。規格に準拠するPQメータを実装するためには、まず適切なハードウェア(DSPやマイクロコントローラ)を選択する必要があります。次に、波形のサンプル・データからPQに関連するパラメータの値を算出するアルゴリズムを開発します。その上で、適切なテストを実施しなければなりません。IEC規格は、単に計算を行うだけでなく、クラスAでは24時間あたり±1秒未満、クラスSでは24時間あたり±5秒未満の時間精度で時間に依存する様々な集合値を算出することを求めています。そのためのアルゴリズムでは、高調波解析を行う必要があります。また、PQに関する各種のパラメータの値を求めるには、FFT(高速フーリエ変換)解析の利用が不可欠です。高調波、次数間高調波、メイン・シグナリング電圧、不平衡といったパラメータの値を求める必要があるからです。しかし、FFT解析の実装は必ずしも容易ではありません。FFT解析では、取得した波形を200ミリ秒(10サイクル)あたり最低1024サンプルでサンプリングする必要があります。加えて、ADCからの未処理の波形データを必要なレートにリサンプリングする場合には、高調波歪みやエイリアシングを起こさないよう注意しなければなりません。

アルゴリズムを開発したら、テストを実施します。IECの規格には、400種を超えるテストの包括的なリストが示されています。開発したPQメータが同規格に準拠しているという認定を得るためには、それらのテストに合格する必要があります。

図3は、PQメータに実装すべきDSPシステムについてまとめたものです。PQに関する測定値を生成するために必要となる最も重要な機能をブロック図の形で示しています。

図2. ADCのサンプル・レートがPQの測定結果に及ぼす影響
図2. ADCのサンプル・レートがPQの測定結果に及ぼす影響
図3. PQメータのDSPシステムで実現しなければならない重要な機能
図3. PQメータのDSPシステムで実現しなければならない重要な機能

アナログ・デバイセズが提供するPQメータ向けのソリューション

ここからは、アナログ・デバイセズが提供するPQメータ用のソリューションについて説明していきます。それらのソリューションを採用することで、PQメータを効率的に開発することができます。

クラスAに適した同時サンプリング対応のマルチチャンネルADC

クラスAのPQメータを開発する場合、シグナル・チェーン/システムに適したADC製品としてはどのようなものを選択すべきでしょうか。必要な精度、チャンネル数、サンプリング・レートの要件を考慮すると、「AD777x」または「AD7606x」の各製品ファミリが適しています。なお、これらのソリューションは、入力信号をデジタル化したデータを提供する処理だけを担います。PQメータにより、定められた測定値を得るためには、DSPシステムを開発する必要があります。

AD777xファミリのΣΔ ADC

AD777xは、同時サンプリングに対応する8チャンネル、24ビットのADCファミリです。8個のシグマ・デルタ(ΣΔ)型ADCを内蔵しており、16kSPS/32kSPS/128kSPSのサンプリング・レートに対応します。AD777xは入力電流が少ないため、センサーに直接接続することができます。各入力チャンネルは、ゲインを1、2、4、8に設定できるプログラマブル・ゲイン段を備えています。そのため、センサーから出力される振幅の小さい信号をADCのフルスケール入力範囲に対応させることができます。それにより、シグナル・チェーンのダイナミック・レンジを最大化することが可能になります。AD777xのVREFとしては1V~3.6Vの電圧を入力します。アナログ入力範囲は0V~2.5Vまたは±1.25Vです。アナログ入力は、真の差動信号、擬似差動信号、またはシングルエンドの信号に対応するように構成することができます。すなわち、様々なセンサーの出力方式に対応することが可能です。「AD7770」はサンプル・レート・コンバータを備えており、分解能を細かく制御することができます。この機能は、ライン周波数が0.01Hz変動しても、ODR(出力データ・レート)の分解能がコヒーレンシを維持する必要があるアプリケーションに最適です。また、AD777xは5kHzという広い入力帯域幅を備えています(「AD7771」は10kHz)。加えて、AD777xはデータ出力用のインターフェースと通信用のSPI(Serial Port Interface)を備えています。SPIは、ΣΔ変調データを出力するように構成することも可能です。動作温度範囲は-40°C~105°Cですが、電源電圧が3.3Vまたは±1.65Vの場合には125°Cまで機能します。

図4は、AD777xファミリのADCを使用して構成したPQメータ用の回路です。この回路は、標準的な3相システムに対応します。電流用のトランスデューサとして電流トランスを、電圧用トランスデューサとして抵抗分圧器を使用することで、PQメータの機能を実現しています。

16/18ビットのADCをベースとするデータ・アクイジション・システム

AD7606xは、同時サンプリングに対応する16/18ビットのADCを内蔵した8チャンネルのデータ・アクイジション・システム(DAS)です。各チャンネルには、16/18ビットの逐次比較型(SAR)ADC、アナログ入力のクランプ保護回路、プログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)、ローパス・フィルタが用意されています。また、AD7606xは、柔軟性の高いデジタル・フィルタ、ドリフトの小さい2.5V出力の高精度リファレンス、ADC用のリファレンス・バッファ、柔軟性の高いパラレル/シリアル・インターフェースも内蔵しています。

AD7606B」、「AD7606C」は5Vの単一電源で動作します。すべてのチャンネルで800kSPS(AD7606B)/1MSPS(AD7606C)のスループット・レートでサンプリングを行う場合、±10V、±5V、±2.5Vの真のバイポーラ入力範囲を実現することができます。入力クランプ保護機能により、ユーザが選択したアナログ入力範囲(±20V、±12.5V、±10V、±5V、±2.5V)に対応して様々な電圧に耐えることが可能です。AD7606xには、5Vの単一アナログ電源が必要です。単一電源による動作、内蔵するフィルタ機能、高い入力インピーダンスという特徴を備えることから、バイポーラ電源で動作する外付けドライバ・アンプは必要ありません。

AD7606xのソフトウェア・モードでは、以下の拡張機能を利用することができます。

  • オーバーサンプリング(OS)の追加オプション。最大 256 のOS 比に対応できます
  • システムのゲイン、システムのオフセット、システムの位相をチャンネルごとにキャリブレーションすることが可能です。
  • アナログ入力のオープン・サーキットを検出できます。
  • 診断用のマルチプレクサを利用可能です。
  • 各種監視機能を利用できます。具体的には、SPIの無効読み出し/書き込み、CRC(巡回冗長検査)、過電圧/低電圧のイベントの検出、ビジー・スタック・モニタ、リセット検出に対応可能です。

前掲の図4に示したように、AD7606xファミリを使用することでも標準的な3相システム向けの回路を構成できます。

図4. AD777X/AD7606xファミリのADCを使用して構成したPQメータ用の回路。3相システムに対応します。図中のAAFはアンチエイリアシング(折返し誤差防止)フィルタです。
図4. AD777X/AD7606xファミリのADCを使用して構成したPQメータ用の回路。3相システムに対応します。図中のAAFはアンチエイリアシング(折返し誤差防止)フィルタです。

クラスSの事前認証を取得したPQメータ向けソリューション

ADE9430」は、PQメータの構築に必要なあらゆる機能を内蔵した高精度の多相電力量計ICです。ホストとなるマイクロコントローラ上で動作するソフトウェア・ライブラリ「ADSW-PQ-CLS」と組み合わせることにより、IEC 61000-4-30のクラスSに準拠した完全なソリューションが実現されます。このソリューションを利用すれば、PQメータの開発時間とコストを大幅に削減できます。また、アクイジション用のエンジンと計算用のエンジンが緊密に統合されることになり、電力量とPQを監視するシステムの実装と認証が容易になります。図5に示したのは、ADE9430とADSW-PQ-CLSから成るソリューションを使用して構成した3相システム向けの回路です。電流用のトランスデューサとして電流トランスを、電圧用のトランスデューサとして抵抗分圧器を使用することで、PQメータを実現しています。

クラスSのPQメータ向けアナログ・フロント・エンド

ADE9430は、7つの入力チャンネルを備えています。そのため、3相システムまたは最大3つの単相システムに対応するPQメータを構成することができます。また、電流の測定用に外付けのアナログ積分器を使用することで、電流トランスやロゴスキー・コイルに対応することが可能です。加えて、同製品はPQの監視と電力量の測定に対応できるアナログ・フロント・エンドを提供します。更に、同等のアナログ性能や計測性能を備えた「ADE9000」、「ADE9078」とピン互換性を持ちます。以下、ADE9430の主な機能/性能についてまとめます。

  • 分解能が 24 ビットのΣΔ ADC を 7 個内蔵
  • 101dB の S/N 比
  • 広い入力電圧範囲:フルスケールは± 1V/707mVrms(ゲインが 1 のとき)
  • 差動入力
  • クラス 0.2 の精度の計測
  • 1 サイクルの実効値、ライン周波数、ゼロ・クロスなどの高度な計測
  • 波形データ用のバッファ
  • 連続したリサンプリング・データ:10/12 ライン・サイクルあたり 1024 ポイント
  • 50Hz/60Hz の基本周波数をカバーする高度な計測
  • 有効電力量の規格に対応:IEC 62053-21、IEC 62053-22、EN 50470-3、OIML R46、ANSI C12.20
  • 無効電力量の規格に対応:IEC 62053-23、IEC 62053-24
  • 高速通信ポート:20MHz の SPI

PQメータ用のソフトウェア・ライブラリ

ADSW-PQ-CLSは、ADE9430と統合して使用するソフトウェア・ライブラリです。両者を組み合わせたソリューションは、IEC 61000-4-30のクラスSで定められたPQの測定値を生成するよう特別に設計されています。同規格において、クラスSのPQメータ向けに定義されているすべてのパラメータに対応できるように機能が実装されています。ユーザは、PQに関するどのパラメータを使用するかを決定することができます。このライブラリを使用するために必要なCPUやRAMのリソースは少なく抑えられていることに加え、コアやOSの種類には依存しません(Arm® Cortex®-M以上が条件)。サポートしているマイクロコントローラのアーキテクチャとしては、Arm Cortex-M0、Cortex-M0+、Cortex-M1、Cortex-M3、Cortex-M4などがあります。エンド・ユーザ向けのディストリビューションは、Keil µVision、IAR Embedded Workbenchのバージョン8.x、アナログ・デバイセズのCrossCore® Embedded Studioで利用可能なCMSIS-Packファイル(.pack)として提供されます。ADE9430を購入した際、このソフトウェア・ライブラリのライセンスも供与されます。PC用のシリアル・コマンドライン・インターフェース(CLI)のサンプルが提供されているため、ライブラリとその機能の評価を容易に実施できます。図6は、このCLIによりPQに関するパラメータがどのように表示されるのかを示す例です。

図5. ADE9430とADSW-PQ-CLSを使用して構成したPQメータ用の回路。3相システムに対応します。図中のAAFはアンチエイリアシング・フィルタを表します。
図5. ADE9430とADSW-PQ-CLSを使用して構成したPQメータ用の回路。3相システムに対応します。図中のAAFはアンチエイリアシング・フィルタを表します。
図6. ADSW-PQ-CLSのシリアルCLIの使用例
図6. ADSW-PQ-CLSのシリアルCLIの使用例

ADE9xxxファミリの機能の概要

表2は、ADE9xxxファミリが備える機能についてまとめたものです。

表2. ADE9xxxファミリの機能の概要。電力量の測定機能とPQ用の測定機能についてまとめています。(「クラスS」の表示は、その機能がIEC 61000-4-30のクラスSに準拠していることを表します)
パラメータ 電力量計用のADE9078 PQ測定用のADE9000 ADE9430ADSW-PQ-CLS
W、Wh
Irms、Vrms、VA、VAh
総VAR/VARh
基本VAR/VARh
力率
電流位相角
電圧位相角
ライン周波数(3相) クラスS
位相シーケンス検出
半サイクルの実効値
1サイクルの実効値 クラスS
10/12サイクルの実効値 クラスS
150/180サイクルの実効値 クラスS
ディップ/スウェル クラスS
瞬停 クラスS
過電流
基本W/Wh/VA/VAh
急激な電圧の変化 クラスS
過大/過小な変動 クラスS
フリッカ クラスS
電圧/電流の不均衡 クラスS
電圧/電流の高調波、次数間高調波 クラスS(40次まで)
ITHD、VTHD クラスS
メイン・シグナリング電圧 クラスS(3kHz未満)
基本Irms/Vrms
データ・レート 16kSPS/4kSPS 32kSPS/8kSPS 32 kSPS/8 kSPS
データのリサンプリング 1サイクルあたり64ポイント 1サイクルあたり128ポイント 1サイクルあたり128ポイント、または10/12サイクルあたり1024ポイント
SPIの最高周波数 10 MHz 20 MHz 20 MHz

ADE9430の評価用キット

ADE9430には、評価用ボード「EVAL-ADE9430ARDZ」が用意されています。これを使用すれば、ADE9430ADSW-PQ-CLSをベースとするシステムの迅速な評価やプロトタイピングが可能になります。つまり、電力量の測定やクラスSのPQ測定を実際に試すことができます。ソフトウェア・ライブラリとアプリケーションのサンプルが提供されることから、大規模なシステムであっても容易に実装できます。これらの評価用キットを使用すれば、3相システムにおけるPQ関連のパラメータのテストをプラグ&プレイで実施可能です。

この評価用キットは、以下に挙げるハードウェア機能を備えています。

  • 電流トランスによる入力
  • 高電圧/大電流の入力
  • 240Vrms の公称値(分圧器を使用)
  • 80Arms の最大値(CT センサーを使用)
  • 2.5kV の絶縁
  • オンボードの RTC(リアルタイム・クロック)によるタイムスタンプ付きの計測
  • IEC 61000-4-30 のクラス S に準拠するという認証を事前に取得済み(ユーザによるキャリブレーションが必要)
  • ADSW-PQ-CLS とアプリケーションのサンプルを Arm Cortex-M4 上で実行可能
  • PC 用のシリアル CLI により、PQ 関連のパラメータの設定とロギングが行える

EVAL-ADE9430ARDZをPCと共に使用する場合には、図7に示したように接続を行います。

EVAL-ADE9430ARDZの基板には、次のような要素が実装されています。

  • 電流(4 個)/電圧(3 個)/中性線に対応する入力コネクタ
  • オンボードの ADE943024
  • アイソレータ
  • リアルタイム・クロック
  • ADSW-PQ-CLS のサンプル・アプリケーションを実装したCortex-M4(開発ボード「NUCLEO-413ZH」を使用)
  • オンボードの RTC(リアルタイム・クロック)によるタイムスタンプ付きの計測
  • 3 個の電流センサー
図7. EVAL-ADE9430ARDZとPCの接続
図7. EVAL-ADE9430ARDZとPCの接続

クラスSの認証

ADE9430とADSW-PQ-CLSによるソリューションは、IEC 61000-4-30のクラスSに準拠しています。つまり、同規格の要件に従ってPQに関連するパラメータの値を正確に測定できることが証明されています。

まとめ

規格に準拠するようにPQメータを設計するのは難易度の高い作業です。実際、IEC 61000-4-30のクラスSに準拠するPQメータを開発するためには、多くの時間とエンジニアリング・リソースが必要になります。ADE9430とADSW-PQ-CLSから成る完全なソリューションを利用すれば、それらの時間とリソースを大幅に削減することができます。即座に利用できるプラットフォームを採用することにより、設計上の多くの重要な課題を解決しつつ、開発を加速することが可能になります。

参考資料

1IEC 61000-4-30:2015: Electromagnetic Compatibility (EMC)-Part 4-30: Testing and Measurement Techniques-Power Quality Measurement Methods(IEC 61000-4-30:2015:電磁両立性(EMC)-第4-30部:テスト/計測技術-電力品質の測定方法)」 International Electrotechnical Commission、2015年2月

著者

Jose Mendia

Jose Mendia

Jose Mendiaは、アナログ・デバイセズのシニア・エンジニアです。英国エジンバラの設計センターでプロダクト・アプリケーションを担当しています。入社は2016年で、当初はエネルギー/産業システム・グループに所属していました。電子工学とコンピュータ理工学の学士号を取得しています。