アプリケーション・エンジニアに尋ねる- 28 ログ・アンプとは何なのか?

Q. アナログ・デバイセズが提供しているログ・アンプ製品のデータシートを確認しています。ただ、結果としてやや混乱を来たしてしまいました。ログ・アンプについて詳しく教えてください。

A. ログ・アンプについて混乱しているのはあなただけではありません。その種のICの機能や設計コンセプトは製品によって異なります。そのため、これまでにも数多くの問い合わせが寄せられてきました。最初に確認したいのですが、あなたはログ・アンプに対してどのような出力が得られることを期待しているのですか?

Q. Nonlinear Circuits Handbook」 や「Linear Design Seminar」で解説されているのと同様に、入力電圧や入力電流の対数値に比例する出力が得られることを期待しています。

A. なるほど、出発点としては良い回答です。ただ、もう少し内容を明確にする必要があります。ログ・アンプについて、通信技術の分野では一般的に入力信号のエンベロープを算出するデバイスであると理解されています。これは、具体的にはどのような意味なのでしょうか。下に示した信号波形をご覧ください。上側に表示されているのは、10MHzの正弦波を100kHzの三角波で変調した結果です。一方、下側に表示されているのは、これに対するログ・アンプの対数応答です。ログ・アンプとしては、動作周波数が500MHz、ダイナミック・レンジが90dBの「AD8307」を使用しています。10MHzの入力信号は、オシロスコープのtime/divノブを使って多数のサイクルを圧縮した結果であることに注意してください。このようにしている理由は、繰り返し周波数がはるかに低い100kHzの信号のエンベロープを示したいからです。信号のエンベロープが直線的に増加するとき、ログ・アンプの出力にはlog (x)の特徴的な形状が現れます。それとは対照的に、測定用のデバイスとしてリニア・エンベロープ検出器(信号をフィルタリング/整流して出力します)を使用した場合、出力は単なる三角波になります。

Figure 1

Q. つまり、得られるのは瞬時信号の対数値ではないということですか?

A. そのとおりです。そして、このことが多くの混乱を招いている原因です。ログ・アンプは、信号のエンベロープ(つまりは振幅)に瞬間的かつ継続的に現れる低い周波数の変化を対数領域の値として示します。その動作は、デジタル電圧系の動作に似ていると言えます。デジタル電圧計の測定モードをAC電圧に設定し、振幅が一定の正弦波を入力すると、測定結果としては一定(直線)の値が得られます。また、振幅を調整するとそれに応じて測定値が変化します。ログ・アンプは、これと同様に動作します。入力信号の瞬時的な対数値を計算するデバイスとは、(特にバイポーラの信号に対しては)動作が全く異なります。

ここで、下の図をご覧ください。AC入力信号がゼロを横切って負になるときに、何が起きるのかを考えます。log xという算術関数は、ゼロ以下の実数x、つまり絶対値がゼロ以上の負の値は取り得ません。一方、逆双曲線正弦関数SINH-1 xは原点を通り、原点に対して対称な軌跡を描きます。

Figure 2

また、図に示したように、特に¦x¦の値が大きい場合、log 2xと-log (-2x)の両方を適切に近似することができます。そして、このようなログ・アンプであれば実現可能です。かなり前の話になりますが、アナログ・デバイセズは温度補償に対応したログ・ダイオード・モジュール「Model 752 N&P」を製造/販売していました。このモジュールは、上記の機能を実現する相補型のフィードバック・ペアを備えていました。この種のデバイスは、入力信号の瞬時対数値を計算するものであり、ベースバンド・ログ・アンプ(またはトゥルー・ログ・アンプ)と呼ばれています。一方、本稿で取り上げているのはエンベロープを検出するログ・アンプです。この種のデバイスは、復調ログ・アンプとも呼ばれます。この種の製品を使用することにより、通信用のRF回路やIF回路において興味深いアプリケーションが実現されています。

Q. 復調ログ・アンプとも呼ばれるとのことですが、今のお話からすると、ログ・アンプは信号を復調するために使われるものではないと思うのですが?

A. そのとおりです。復調という語が使われるようになったことには別の理由があります。ログ・アンプでは、信号のエンベロープの対数を復元する処理が行われます。それが、AC信号の復調処理にやや似ているため、復調ログ・アンプとも呼ばれているのです。

一般に、ログ・アンプを使用するアプリケーションで行いたいことは、信号の内容を検出することではありません。そうではなく、信号の強度を測定することが目的となります。アプリケーションによっては、周波数の高い入力信号の振幅の範囲が何ディケードにも及ぶことがあります。ログ・アンプを使えば、そうしたダイナミック・レンジに対応して、比較的狭い範囲の信号を出力することができます。そのため、ログ・アンプはゲインの調整によく使われます。典型的な例としては、ログ・アンプをAGC(Automatic Gain Control)ループに適用し、可変ゲイン・アンプのゲインを調整するというものが挙げられます。例えば、セルラーの基地局で使われるレシーバーは、ログ・アンプからの信号を使用してレシーバーのゲインを調整することがあります。また、トランスミッタにおいても、送信電力の測定と調整にログ・アンプが使われます。

上では、ログ・アンプは信号の復調に使用するためのデバイスではないという話をしました。ただ、信号の復調にログ・アンプを使用するアプリケーションも存在します。下の図は、受信信号がASK(Amplitude Shift Keying)によって変調される様子を表しています。このシンプルな変調方式は、初期のレーダー・パルス送信と似ています。その種の通信では、デジタルの情報を伝達するために、一連のRFバースト信号を送信していました。つまり、論理レベルの1をバーストで表し、同0をバースト以外の部分で表していたということです。その信号をログ・アンプに入力すると、出力はパルス列になります。そのパルス列をコンパレータに入力することで、デジタル出力が得られます。この場合、バースト信号の振幅はあまり重要ではありません。必要なのは、バーストが存在するか否かを検出することです。ログ・アンプを使用すれば、広いダイナミック・レンジ(ここでは10mV~1V)にわたって変化する信号を、はるかに小さい範囲(1V~3V)で変化する信号に変換できます。これは、その種のアプリケーションでログ・アンプを使用すれば大きなメリットが得られるということを意味します。

Figure 3

Q. 機能については理解できましたが、それはログ・アンプ内部のどのような動作によって実現されているのでしょうか?

A. 下に示したのは、ログ・アンプの簡単なブロック図です。このデバイスでは、カスケード接続されたアンプの列(ゲイン・チェーン)が中核的な要素になります。これらのアンプはリニアなゲインを備えています。その値は、通常10dB~20dBの範囲内にあります。説明を簡略化するために、ここでは、ゲインが20dB(10倍)のアンプが5個並んでいると仮定します。そして、振幅の小さい正弦波を最初のアンプに入力するとします。すると、そのアンプは信号を10倍に増幅して2番目のアンプに引き渡します。同様に、後続の各段を通るごとに信号は20dBずつ増幅されます。

このゲイン・チェーンを通過する間に、いずれかの段で信号が大きくなりすぎた状態になります。つまり、図に示したようなクリッピングが生じます。このクリッピングは、振幅が制限されると表現することもできます。この簡単な例では、(望ましい効果である)クリッピングが起きるレベル(ピーク値)として1Vが設定されています。各アンプは、同じレベルで正確に信号を制限するように設計されています。

Figure 4

信号がいずれかの段で制限値に達したら(図では3段目の出力でこの状態に達しています)、制限された信号(各段でクリッピングされて1Vのピーク振幅を維持した状態)がシグナル・チェーンを伝わっていきます。

同時に、各アンプの出力信号は全波整流器にも伝達されます。整流器の出力は図に示すような形で加算されます。そして、全波整流信号のリップルを除去するためにローパス・フィルタに入力されます。この処理において、最初の方に位置する段の寄与分は非常に小さく、無視できるレベルになります。最終的に得られる出力(通常はビデオ出力と呼ばれます)は、定常状態のAC入力信号に対する定常状態の疑似対数DC出力となります。実際のデバイスは、ディケードの区切りの間で滑らかかつ正確な対数信号を生成できるよう実装されています。つまり、ゲインと制限機能を実現する回路には、設計上のイノベーションが盛り込まれています。最終的には、制限された出力の合計値が対数の指標に相当し、制限されなかった出力の合計値が対数の仮数に相当することになります。

このような変換処理により、なぜ入力信号のエンベロープの対数値が得られるのか、もう少し考察してみます。ここでは、入力信号を1/10にした場合(20dB小さくする場合)に何が起きるのか考えてみましょう。図に示したように、加算器の部分にあるフィルタの前では、出力のピーク値は約4Vとなります(制限がかかる後半3つの段と、制限が正にかかり始める2段目の出力の合計)。ここで、入力信号を1/10にすると、2段目の出力も無視できるようになります。つまり、制限がかかる段が1つ少なくなります。その段からの電圧がなくなることから、加算器の出力は約3Vに低下します。入力信号を更に20dB減衰させると、加算器の出力は約2Vに低下します。

このように、入力信号の振幅が10倍(20dB)になるごとにログ・アンプの出力は1V変化します。したがって、このログ・アンプの出力におけるスロープは、50mV/dBだと考えることができます。

Q. 対数変換については、理解できました。ところで、ログ・アンプのデータシートを見ると、スロープやインターセプトという言葉が使われています。それぞれどのような意味なのでしょうか?

A. スロープとインターセプトは、ログ・アンプの伝達関数(出力電圧と入力信号レベルの関係)を定義する2つの指標です。ここでは、100MHz~2.5GHz、65dBに対応するログ・アンプ「AD8313」を例にとります。下に示した図は、900MHzにおける同アンプの伝達関数を示したものです。3種の温度条件の下、伝達関数がどのようになるのかを示しています。ご覧のように、入力が10dB変化すると出力電圧が約180mV変化することがわかります。つまり、この伝達関数のスロープは約18mV/dBです。

入力信号が約-65dBmよりも小さくなると、デバイスの動作範囲の下限(ここでは約0.5V)に達し、応答が平坦になり始めます。ここで、伝達関数の直線の部分を横軸と交差する(理論上の出力が0Vになる)ところまで外挿すると、インターセプトと呼ばれる点が得られます(この例では約-93dBm)。デバイスのスロープとインターセプトがわかれば(それぞれの値はデータシートに必ず記載されています)、リニアな動作範囲内(ここでは約-65dBm~0dBm)で任意の入力レベルに対する公称出力電圧を予測することができます。それには、以下に示す簡単な式を使用します。

Vout = Slope × (Pin - Intercept)

例えば、入力信号が-40dBmの場合、出力電圧は次のように求められます。

18 mV/dB × (-40 dBm - (-93 dBm))

= 0.95 V

インターセプトの値が大きくなると、出力電圧の値は小さくなることに注意してください。

Figure 5

上の図には、-40°C、25°C、85°Cにおける理想とのずれ(すなわち対数適合性)を表す曲線も示してあります。例えば、25°Cの場合、-2dBm~-67dBmの入力に対する対数適合性は±1dB以内になっています(範囲を狭くすれば、対数適合性は更に高くなります)。このことから、AD8313を65dBに対応するログ・アンプと呼ばれています。同様に、対数適合性が3dB以内になるのは、AD8313のダイナミック・レンジが73dBである場合だということも簡単にわかります。

Q. 測定を行った際に、出力電圧が平坦になる出力レベルが、データシートに規定されている値よりも高かったことがあります。つまり、ダイナミック・レンジの下限側を十分に活用できていないようです。なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

A. 私もその問題にはかなり頻繁に遭遇します。通常、この現象は入力に混入した外部ノイズが測定されていることによって生じます。当社のログ・アンプの場合、入力帯域幅は最高で2.5GHzにも達します。また、ログ・アンプはユーザが関心を持っている信号とノイズを区別することはできません。ノイズの混入は、信号源が複数存在する可能性のある実験環境ではかなり頻繁に発生します。例えば、隣の実験机で同僚が新たな携帯電話システムのテストを実施していたとします。そのシステムから生じる-60dBmのノイズによって、ログ・アンプのダイナミック・レンジのうち下限側の20dBが無駄になるといったことが起こり得ます。

良好な結果を得るには、ログ・アンプの両方の差動入力をグラウンドに接続します。一般にログ・アンプの入力はAC結合で使用されます。したがって、入力とグラウンドの接続は、カップリング・コンデンサを介して行う必要があります。

通常、ノイズの混入という問題を解決するには、何らかのフィルタを使用しなければなりません。入力部にマッチング回路を設ければ、間接的にフィルタリングが適用されます。狭帯域のマッチング回路はフィルタ特性を備えているからです。また、対象とする信号をいくらか増幅する効果も有しています。マッチング回路の詳細については、AD8307、AD8313、「AD8309」のデータシートをご覧ください。

Q. 出力段のローパス・フィルタでは、一般にコーナー周波数としてどのような値が使われますか?

A. これについては、設計上のトレードオフが存在します。オンチップのローパス・フィルタについては、加算器の出力として得られる全波整流信号のリップルを適切に除去できるようにしなければなりません。したがって、コーナー周波数の値は十分に低く設定する必要があります。そのリップルの周波数は、入力信号周波数の2倍になります。ただ、ローパス・フィルタのRC時定数は、出力の最大立上がり時間を左右します。コーナー周波数としてあまりにも低い値を設定すると、高速に変化する入力エンベロープに対するログ・アンプの応答が遅くなります。

Figure 6
Figure 7

高速に変化する信号に対するログ・アンプの応答能力は、短いRFバースト信号を検出するアプリケーションにおいて非常に重要です。先述したASKもそうですが、レーダーも典型的な例だと言えます。左の図は、100MHzの短いバーストに対するAD8313の応答を示したものです。一般に、ログ・アンプの応答時間は振幅が10%から90%に達するまでの立上がり時間で規定されます。下の表は、アナログ・デバイセズが提供するログ・アンプ製品を比較したものです。立上がり時間をはじめとする重要な仕様を取り上げています。

品番 入力帯域幅 10%から90%までの 立上がり時間 ダイナミック・レンジ 対数適合性 リミッタ出力
AD606 50MHz 360ns 80dB ±1.5dB あり
AD640 120MHz 6ns 50dB ±1dB あり
AD641 250MHz 6ns 44dB ±2dB あり
AD8306 500MHz 67ns 95dB ±0.4dB あり
AD8307 500MHz 500ns 92dB ±1dB なし
AD8309 500MHz 67ns 100dB ±1dB あり
AD8313 2500MHz 45ns 65dB ±1dB なし

ここで、右の図をご覧ください。これは、入力信号の周波数が出力フィルタのコーナー周波数よりも低い場合に何が起きるのかを表したものです。想像どおりの結果だと思いますが、全波整流信号がフィルタリングされずに出力に現れています。これについては、ローパス・フィルタを出力に追加することによって簡単に改善できます。

Q. 先ほどの図の出力信号には、通常とは異なるテール部分が存在しています。なぜ、このようなことが起きているのでしょう?

A. これは、実施された対数変換の性質に起因する興味深い影響だと言えます。伝達関数(出力電圧と入力レベルの関係)のグラフをもう一度見ると、入力レベルが低い場合には、入力信号の小さな変化が出力電圧に大きな影響を及ぼすことがわかります。例えば、入力レベルが7mVから700µV(約-30dBmから-50dBm)に変化すると、70mVから7mVに変化する場合と同じ影響が生じます。これが、ログ・アンプに期待される性質です。しかし、入力信号(RFバースト)を目視で観測しても、mVのレベルの小さな変化は確認できないことも多いでしょう。先ほどの図には、バーストが瞬時に停止するのではなく、あるレベルまで低下してから指数的に減衰してゼロになるという現象の影響が現れています。指数的に減衰する信号の対数値をプロットすると、このグラフのテール部分のような直線になるということです。

Q. ログ・アンプの出力の立上がり時間を短縮する方法はありますか?

内蔵ローパス・フィルタがバッファリングされている場合は不可能です。また、ほとんどの製品がこのような実装を採用しています。但し、図に示すような例外も存在します。この図では、バッファを備えていないAD8307の出力段が2µA/dBの電流源として示されています。この電流源は、12.5kΩの内部負荷に接続されています。この電流源と抵抗により、スロープの公称値は25mV/dBになります。12.5kΩの抵抗とそれに並列に接続された5pFのコンデンサにより、ローパス・フィルタのコーナー周波数は2.5MHzになります。その場合、10%から90%までの立上がり時間は約500ナノ秒です。

AD8307の出力には、1.37kΩのシャント抵抗が追加されています。それにより、トータルの負荷抵抗は約1.25kΩに低減されます。その結果、立上がり時間は1/10に短縮されます。但し、トータルのスロープも1/10になります。したがって、25mV/dBのスロープに戻すためには外付けのゲイン段が必要になります。

これについては、AN-405も参考にしてください。同アプリケーション・ノートには、「AD606」の応答時間を改善する方法が記されています。

Figure 8

Q. 標準的なログ・アンプの構造の話に戻りますが、ゲイン・チェーンの終端に現れる大きくクリッピングされた信号は何の役に立つのですか?

A. リニアなゲイン・チェーンの終端の信号は1つの性質を持ちます。それは、ログ・アンプのダイナミック・レンジ内に含まれるすべての信号レベルに対して振幅が一定になるというものです。この種の信号は、位相復調/周波数復調のアプリケーションにおいて非常に有用です。位相変調方式(QPSKやブロードキャストFMなど)において、信号の振幅には有用な情報は含まれていません。つまり、情報はすべて位相に含まれています。ところが、信号の振幅の変化は、復調処理の難易度をかなり高める可能性があります。したがって、リニアなゲイン・チェーンの出力信号は、リミッタ出力を提供するために利用できるようになっているケースが少なくありません。この信号は、位相復調器または周波数復調器の入力として使用できます。

Figure 9

入力レベルの変化に対する出力信号の位相の変化の度合いを、位相スキューと呼びます。入力と出力の間の位相差は、一般的にはさほど重要ではありません。より重要なのは、ダイナミック・レンジの範囲内で入力信号を掃引する場合に、入力から出力の間で位相が一定に保たれることです。図に示したのは、AD8309のリミッタ出力の位相スキューです。この結果は、100MHzで測定することによって取得しました。ご覧のように、同ICの場合、ダイナミック・レンジの範囲内における入力レベルと温度の変化に対し、位相は約6° 変化します。

Q. ログ・アンプに方形波を入力すると、何やらおかしな現象が生じることに気づきました。

A. 通常、ログ・アンプは正弦波が入力されることを前提としています。それとは異なる波形の信号を印加すると、ログ・アンプのインターセプトの実効値が上下にシフトするという影響が生じます。その結果、図のように、ログ・アンプの伝達関数が垂直に移動することになります。これはAD8307の伝達関数を示したものです。変調されていない正弦波と、rms電力が等しいCDMA(Code Division Multiple Access)チャンネル(9チャンネル)の信号を交互に印加することで取得しました。同ICのダイナミック・レンジの全範囲で、出力電圧には3.55dB(88.7mV)に相当する差が生じています。

Figure 10

続いて、表をご覧ください。これは、ログ・アンプによって各種の信号を測定する場合に適用する必要のある補正係数をまとめたものです。これらの係数は、入力が正弦波であることを前提とするログ・アンプによって、様々な種類の信号のrms信号強度を測定する場合に使用します。例えば、方形波のrms電力を測定する場合、表中のdB単位の値(-3.01dB)と等価なmV単位の値(AD8307の場合は75.25mV)を、ログ・アンプの出力電圧から差し引く必要があります。

信号の種類 入力帯域幅
正弦波 0dB
方形波またはDC -3.01dB
三角波 +0.9dB
GSMのチャンネル
(全タイム・スロットをオン)
+0.55dB
CDMAのフォワード・リンク
(9チャンネルをオン)
+3.55dB
CDMAのリバース・チャンネル 0.5dB
PDCのチャンネル
(全タイム・スロットをオン)
+0.58dB
ガウス・ノイズ +2.51dB

Q. データシートを見ると、入力レベルがdBm単位で記載されている製品もあれば、dBV単位で記載されている製品もあります。これはなぜですか?

A. 通常、通信アプリケーションでは、信号のレベルはdBmを単位でして規定されます。dBm単位の値は、1mWを基準とした電力のdB値を表します。つまり、以下のように定義されます。

Power (dBm) = 10 log10 (Power / 1 mW)

W単位の電力の値は、rms電圧の2乗を負荷インピーダンスで割った値に等しくなります。そのため、上の式は次のように書き換えることもできます。

Power (dBm) = 10 log10((Vrms2 / R)/1 mW)

上の式から、例えば0dBmは1mW、10dBmは10mW、30dBmは1Wに対応することがわかります。また、上の式にはインピーダンスが含まれています。そのため、dBm単位のレベルについて語る場合には、必ず負荷インピーダンスを指定しなければなりません。

Figure 11

但し、ログ・アンプは基本的に電圧に応答するデバイスです。言い換えれば、電力に応答するものではありません。図に示すように、ログ・アンプの入力にはトータルの入力インピーダンスが約50Ωになるように、約50Ωの終端抵抗が外付けされます(ログ・アンプの入力インピーダンスは比較的高く、一般的には300Ω~1000Ωです)。ログ・アンプが200Ωの信号で駆動されていて、入力の終端抵抗が200Ωである場合、ログ・アンプの出力電圧は50Ωの入力信号によって同じ量の電力を供給する場合よりも高くなります。そのため、ログ・アンプの入力は電圧で扱う方が便利です。その場合の適切な単位はdBVであるということになります。dBV単位の値は、1Vを基準とする電圧レベルのdB値を表します。つまり、以下のように定義されます。

Voltage (dBV)= 20 log10(Vrms / 1 V)

但し、1Vのリファレンスという言葉の意味については、業界において1Vのピーク値(振幅)のことを指すのか、それとも1Vrmsを指すのかという意見の相違が存在します。ほとんどの計測器(信号発生器やスペクトラム・アナライザなど)では、1Vrmsがリファレンスとして使用されています。この定義に従うと、dBVの値に13dBを加えれば、dBmの値に変換できます。つまり、-13dBVは0dBmに等しいということになります。

現実的には、業界では今後も(完全に正しいことではないとしても)インピーダンスは50Ωであるという暗黙の仮定に基づいて、ログ・アンプの入力レベルはdBm単位で表すという状況が続くと考えられます。とはいえ、dBm単位の値とdBV単位の値の両方をデータシートに記載するのが賢明だと言えます。

図に示したのは、50Ωの負荷インピーダンスに対するmV、dBV、dBm、mWの関係です。例えば、負荷インピーダンスが20Ωである場合、V(p-p)、V(rms)、dBVの目盛りが、dBmとmWの目盛りに対して下方向にシフトします。また、rms値に対するピーク値の比(クレスト・ファクタと呼ばれます)が√2(正弦波のrms値に対するピーク値の比)以外の値である場合には、V(p-p)の目盛りがV(rms)の目盛りに対してシフトします。

Figure 12

著者

Eamon Nash

Eamon Nash

Eamon Nashは、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアリング・ディレクタです。衛星通信やレーダーで使用されるRFアンプやビームフォーマを担当しています。30年間にわたり、フィールドや工場で様々な業務に従事。主に、ミックスドシグナル製品や高精度製品、RF製品を扱ってきました。アイルランドのリムリック大学で電子工学の学士号を取得。5件の特許を保有しています。