モバイル・バッテリ用のチャージャ・システム、ACアダプタ/PVパネル/バックアップ用Li-ionバッテリに対応する
要約
筆者らは、アナログ・デバイセズの製品を活用してスマートなモバイル・バッテリ(パワー・バンク)用のチャージャ・システムを設計しました。そのシステムは柔軟性の高さを特徴とします。複数の入力電源に対応可能なことに加え、インテリジェントなパワー・マネージメント機能により、負荷に電力を供給しながらバッテリを充電することができます。この新たな設計では、主要な機能を統合し、小型のフォーム・ファクタに収めることに成功しました。高い性能とインテリジェントなパワー・マネージメント機能を提供するだけでなく、より商用アプリケーションに適したものになっています。
はじめに
ポータブルな電子機器に対する需要は引き続き高まっています。それに伴い、効果的かつポータブルなパワー・マネージメント・システムがより強く求められるようになりました。特に、モバイル・バッテリは、スマートフォンやタブレット端末などを使用する上で不可欠なものになっています。モバイル・バッテリは、USB充電に対応する機器に適した信頼性の高いバックアップ電源として機能するからです。筆者らは、モバイル・バッテリ向けのモジュール式チャージャ・システムを構築しました。最初に行ったのは、概念実証用のプロトタイプを構築することです。そのプロトタイプは、各種ICの評価用ボードやリファレンス設計の評価用ボードを互いに接続する形で組み立てました。その次に、性能などを改善するために設計に変更を加えました。その結果、プロトタイプをシングルボードのソリューション(以下、単にシングルボードと呼びます)へと進化させることができました。このシングルボードは、バッテリ、太陽光発電(PV:Photovoltaic)パネル、ACアダプタ(AC/DC変換アダプタ)など複数の入力電源に対応可能です。また、電力の流れをインテリジェントに管理することで、バッテリの充電と負荷への給電の両方を同時に実行できます。
アナログ・デバイセズは、PowerPath™技術を採用したIC製品を提供しています。それらのICでは、同技術を活用することによって、電源の供給経路を管理するためのインテリジェントな機能が実現されています。本稿の目的の1つは、このPowerPathの機能について解説することです。この機能を活用することにより、シングルボードでは、性能の低下を招くことなくコンパクトな設計を実現することができました。上記の目的に向けて、本稿ではシングルボードについて詳しく説明します。具体的には、設計時に考慮した事柄、設計コンセプト、性能の評価結果などについて解説します。また、複数の評価用ボードを使用した概念実証用のプロトタイプからの改善点も明らかにします。
シングルボードのブロック構成
図1に示すように、シングルボードはいくつかのブロックから成ります。システムの設計に当たっては、コンパクトで合理化されたアーキテクチャを採用しました。シングルボードにはPVパネルとACアダプタという入力電圧範囲の広い2つの電源を接続できるようにします。そのために、このボードには入力電源をインテリジェントに管理する機能を実装することにしました。具体的には、「LTC4416」と「LTC4162-L」を組み合わせています。LTC4416は、電源経路の切り替え(2つの電源のうち一方を選択する)を管理するためのコントローラICです。一方、LTC4162-Lはリチウム・イオン・バッテリ(Li-ionバッテリ)用の降圧チャージャICです。これらのICは、いずれもPowerPath技術を採用しています。これにより、4S1P(4直列、1並列)構成までのLi-ionバッテリを効率的に充電することができます。
図1に示したように、このシステムでは昇降圧コンバータ「LTC3115-1」も使用しています。このICは、負荷に対する出力電圧を動的にレギュレートする役割を果たします。バッテリの充電レベルはLTC4162-Lによって監視し、最大出力を一定(5V/2A)に保ちます。
各ICを使用する回路の設計
上述したように、シングルボードは3つの主要なICを使用して構成しました。各ICを使用する5つのブロックにより、システム全体の性能が最適化されています。各ICを選択するに当たっては、システムの効率の向上、電力損失の最小化、基板面積の削減、全体のコストの削減を目標としました。図2に各ICを使用した回路の詳細を示します。以下では、図1に示した5つのブロックについて順に説明していきます。
1. LTC4416によって選択される2つの入力電源
一般的に言えば、2つの入力電源の切り替え(一方を選択する)はダイオードを利用することで実現できます。この用途で使用するダイオードはORingダイオードと呼ばれています。しかし、この方法には大きな欠点があります。その欠点とは、順方向の電圧降下が小さいショットキー・ダイオードを使用したとしても、その電圧降下によって多くの電力損失が生じてしまうというものです。それに対し、LTC4416を使用すれば、電圧降下を非常に小さく抑えつつ、2つの入力電源をシームレスに切り替えることができます。つまり、ORingダイオードを使用する場合と比べて電力損失が減少します。同ICを使用する場合、外付けのPチャンネルMOSFETを制御して理想的なダイオードに相当する動作/特性を実現します。導通損失が大幅に減少するので、システム全体の効率と信頼性が向上します。
LTC4416は、6種類の動作モードを備えています。詳細はデータシートに記載されていますが、入力ピンE1、E2の設定によってどのモードを選択するのかが決まります。シングルボードでは、E1をSenseに、E2を0に設定することにしました。これにより、「V1 is Greater Than V2」(V1がV2より高い)というモードが選択されます。この場合、LTC4416はV1の電源を優先し、15V~35Vの広範な入力電源(ACアダプタからのDC電源)を選択するように構成されます。一方、V2の電源に相当するPVパネル(3.6V~15V)は、バックアップ電源として使用します。V1が15V以上である場合、E1はV1を主電源として有効にします。この場合、V1がV2よりも高いので、V2の電源は遮断されます(出力から切り離される)。
ここで、何らかの問題が生じてV1が13.4Vまで低下したとします。その場合、V1が出力から切り離され、V2が主電源として選択されます。PVパネルからの電圧が3.6V~15Vであれば、V1が復旧するまでV2から負荷への給電が継続されます。図2に示したように、V1の復旧ポイント(restoration point)は15Vに設定しています。
V1の障害ポイント(fail point)と復旧ポイントは、図2の抵抗R1、R2、R3の値を変更することで調整できます。データシートに記載されている以下の式を用いれば、障害ポイントと復旧ポイントの値を設定することが可能です。
V1が特定されたら、最適な構成を保証できるようにV2を選択することが可能になります。V1が機能不全/使用不能に陥った場合、V1 > V2である限り、システムは自動的にV2に切り替えて復旧ポイントに達するまで給電を維持します。出力は高い方の電源に追従するので、V2 > V1であれば復旧処理は生じません。
2. 電源経路のインテリジェントな管理
モバイル・バッテリなどの機器では、バッテリの使用と充電を同時に実行できるようにする必要があります。そのようなアプリケーションに対しては、PowerPath技術を採用したICを使用する実装が理想的なソリューションになります。この手法では、システムとバッテリの間の電力分配が効率的に管理されます。それにより、バッテリの性能を最適化しつつ寿命を延ばすことが可能になります。本稿で紹介しているシングルボードは、ACアダプタ、PVパネル、バッテリの3つの電源に対応します。インテリジェントな管理機能により、それらの電源を対象とした適切な選択を行います。なお、ACアダプタとPVパネルは、主としてバッテリの充電に使用されます。
ACアダプタに障害が発生すると共に、PVパネルの電圧が最小値を下回ったとします。その場合、バックアップ用のバッテリによって給電が行われます。つまり、シングルボードのシステムが自動的に充電済みのバッテリを選択し、負荷に対して電力を供給します。
電源経路コントローラであるLTC4416からの出力は、最大35Vの入力電圧に対応するLTC4162-Lに供給されます。LTC4162-Lは、バッテリが放電済みの状態になったり、バッテリが存在しなかったりする場合でも即時に動作します。同ICは、PVパネルのエネルギー変換の効率を高めるために、最大電力点追従(MPPT:Maximum Power Point Tracking)の機能を備えています。
PVパネルは、明るい太陽光の下にある場合、定電圧/低インピーダンス、定電流/高インピーダンスの2つの領域で動作します。この動作により、同ICの制御ループは、低インピーダンス(高電圧の領域など)で動作している場合にも安定した状態に維持されます。ただ、LTC4162は入力電圧を使用してMPPTを実行します。そのため、インピーダンスが高くなると(低電圧の領域など)、PVパネルの電圧が低下して制御ループが不安定になります。シングルボードの設計では、PVパネルからの入力は高インピーダンス(12V未満の領域)の挙動を示します。この問題に対処するために、図2に示すように抵抗R4とコンデンサC1から成るRC回路を使用しています。この回路によって、特に日照条件が変動する状況下で制御ループが不安定になった場合に補正をかけられるようになっています。出力電力が少ないPVパネルを使用する場合、MPPTが高い性能を発揮できるよう、C1の値は高く設定する(100μF~1000μF)ことが推奨されます。
3. バックアップ用のLi-ionバッテリ
バッテリ・チャージャICであるLTC4162は、Li-ionセルの構成として最大8S(8直列)までに対応できます。また、様々なバッテリのケミストリに対して最適化された複数の派生品種が用意されています。例えば、LTC4162-LはLi-ion、「LTC4162-F」はリン酸鉄リチウム(LiFePO4)、「LTC4162-S」は鉛蓄電池に対応する製品です。シングルボードは、最大4Sの構成(1S~4S)のスタック型Li-ionセルに対応できるように設計しました。
| CELLS1 (J1) | CELLS0 (J2) | セル数 |
| INTVCC | INTVCC | 1 |
| INTVCC | VCC2P5 | 2 |
| INTVCC | GND | 3 |
| VCC2P5 | VCC2P5 | 4 |
セル数については、表1に従い、CELLS1ピンとCELLS0ピンを用いて設定します。
4. スイッチング・レギュレータ
LTC4162-Lの出力は、昇降圧コンバータであるLTC3115-1によってレギュレートされます。LTC3115-1は、高効率、モノリシック型、同期整流方式の製品です。広い入力電圧範囲と高いノイズ性能が求められるアプリケーション向けに設計されています。2.7V~40Vの入力電圧に対応し、最大2Aの連続電流を供給することが可能です。出力電圧の値はプログラムすることができます。降圧モードと昇圧モードの間の移行はシームレスであり、堅牢性の高い保護機能を内蔵しています。このような特徴を備えていることから、産業分野のアプリケーションやバッテリ駆動のアプリケーションに適しています。
シングルボードの設計では、効率とノイズ性能に優れていることからLTC3115-1を採用しました。同ICは、入力電圧が6Vを超えていれば最大2A、入力電圧が3.6Vを超えていれば1Aの電流を供給できます。そのため、様々な電力の条件に対して高い適応性を示します。図2に示したように、すべてのバッテリ構成(1S、2S、3S、4S)に対し、コネクタJ5を介して低電圧ロックアウト(UVLO:Undervoltage Lockout)の機能を設定できるようになっています。
5. USB Type-Cの出力
システムの出力部は、PD(Power Delivery)に非対応のUSBType-Cの規格に準拠するように設計しました。レギュレートされた5Vの電源(最大電流は2A)を必要とするあらゆるポータブル機器を充電できます。表2は、USB Type-Cのポートからの出力電流の値と抵抗R24、R25の値の関係についてまとめたものです。
| 電流値 | 4.75V~5Vに対応するプルアップ抵抗の値(R24、R25) |
| 最大1.5A(5V) | 22 kΩ ±5% |
| 最大3.0A(5V) | 10 kΩ ±5% |
シングルボードの性能
シングルボードは、4層プリント基板を使用して特別に設計しました(図3)。目標としていたのは、優れたノイズ性能、高い効率で安定した動作が得られるようにすることです。基板のレイアウトにおいては、信号/電源 - グラウンド - グラウンド - 信号/電源という積層構造を採用しています。コンポーネントの配置については、各製品のデータシートに記載されている推奨事項に従いました。先述したとおり、このシングルボードは、バッテリの充電と負荷への給電に使用する2つの入力電源(V1とV2)から電力を受け取ります。ACアダプタに障害が発生した場合、日照強度が強い間はPVパネルが選択され、負荷に電力を供給しながらバッテリを充電します。夜間や日照強度が弱く、PVパネルの電圧が低下した場合には、そのことをシステムが自動的に検知します。そして、負荷の動作を維持するために、バッテリから給電するための切り替え処理を実行します。
バッテリの構成が1Sのケースを考えます。その場合、バッテリの電圧が3.3Vを下回ると、LTC3115-1は自動的にシャットダウンします。その際には、UVLO機能が働いてバッテリが保護されます。このメカニズムにより、バッテリの損傷や過放電(寿命が短くなるおそれがある)を防止します。UVLOの閾値は、バッテリの構成に応じ、抵抗R7、R19、R27、R21の値を変更することで微調整できます。その際には、LTC3115-1のデータシートに記載されているUVLOの計算式を使用します。それにより、アプリケーションの要件に応じて、最小電圧の制限値を3.0Vまで下げることができます。
シングルボードには、バッテリの逆接続から回路を保護するための方策も適用しています。具体的には、ダイオードD3とヒューズ(Fuse)を使用して逆極性保護の機能を実装しています。また、システムの入力部では、MOSFETのQ1、Q3、Q4のボディ・ダイオードによって逆電圧の状態に対する保護が働きます。各MOSFETは、意図せぬ電流の流れに対するバリアの役割を果たします。
負荷の条件が変動すると、システムの動的な挙動はどのように変化するのでしょうか。これについては、ステップ応答と過渡応答を評価することによって確認できます。図4を見ると、様々な動作条件における制御ループの性能がわかります。また、適用した補償用回路が有効であることも見てとれます。図5は、LTC4416による電源の切り替え動作の様子を示したものです。この例では、V1がより高い電圧から15Vまで低下しています。同ICは、V2(8V)をシームレスに選択し、電源に関する変化が負荷に対する出力に影響を与えないように機能します。V1の復旧ポイントは16.8Vに設定されています。
マルチボードとシングルボードの比較
ここでは、複数の評価用ボードで構成したプロトタイプ(以下、マルチボードと呼ぶことにします)と新たに開発したシングルボードを包括的に比較します(図6)。マルチボードでは、3種の評価用ボードを使用しました。1つ目は、理想ダイオードによって電源経路を制御するLTC4416の評価用ボードです。2つ目は、バッテリの充電とパワー・マネージメントを担うLTC4162-Lの評価用ボードです。3つ目は、USB対応チャージャの機能を提供する評価用ボード「CN0509」です。CN0509は、5V~100Vという広い入力電圧範囲に対応することを特徴とします。レギュレートされた5Vの出力電圧、最大2Aの出力電流を供給できます。その構成要素として、降圧コンバータ「LTC7103」と絶縁型フライバック・コンバータ「LT8302」を使用しています。これらを組み合わせることで、入出力間のガルバニック絶縁を実現しています。
それに対し、シングルボードでは、マルチボードで使用していたLTC7103とLT8302を、単一のデバイスであるLTC3115-1に置き換えました。LTC3115-1により、LTC7103とLT8302の主な機能を提供するということです。この変更により、効率の向上、物理的なサイズの縮小、より費用対効果の高い部品の使用など、システム全体の改善が得られます。但し、絶縁型の出力といった一部の機能は使用できなくなります。それでも、メリットとデメリットのトレードオフにより、拡張性の高いアプリケーションに適した合理性の高い実用的な設計を実現できました。
ボードのサイズ
シングルボードでは、部品表(BOM:Bill of Materials)に含まれる部品の点数がマルチボードと比べて約30%削減されました。また、図6に示したようにサイズも小型になります。つまり、システム全体の設計が大幅に合理化されています。
シングルボードで果たされた小型化は、より効率的な電源システムのアーキテクチャの実現に寄与します。複数の機能を単一のプラットフォームに統合することで、実装スペースの削減を1つの目標として設計を進められます。つまり、性能を損なうことなく、より小型のフォーム・ファクタを実現できるということです。このことは、ポータブルな電子機器など、スペースの面で厳しい制約が課せられるアプリケーションにとって非常に大きなメリットになります。
効率
シングルボードにおける最も重要な改善点は、高い効率で電力を供給できるようになったことです。電力の供給方法が最適化された結果、エネルギーの損失を最小限に抑えられています。このことは、機器の動作時間の延長や熱性能の向上につながります。バッテリ駆動の機器では、電源の効率が高いことが重要です。消費電力の削減はバッテリの寿命の延長に直結します。無駄な消費電力を最小限に抑え、エネルギーを最大限に活用できるようになることから、シングルボードのソリューションはシステムの性能の向上という面で重要な役割を果たすことになります。図7を見ると、シングルボードは入力電圧が8Vの場合で92.94%、10Vの場合で91%のピーク効率を達成していることがわかります。一方、マルチボードのピーク効率は入力電圧が10Vの場合でわずか73.79%でした。マルチボードの効率が低いのは、複数のボードを接続するために使用したケーブルでエネルギー損失が生じるからです。また、フライバック・コンバータ部での損失が原因の1つであることも明らかだと言えます。
両方の入力電源に障害が発生した場合、バッテリから負荷に対して電力が供給されるようになります。この切り替えは自動的に行われます。公称電圧が7.4Vの2S構成のバッテリを使用した場合、シングルボードでは94.52%のピーク効率を達成できます。それに対し、マルチボードでは77.12%の効率しか得られません。図7からわかるように、シングルボードでは、システムの動作中にバッテリの電力をより効果的に節約できます。
最適化されたシングルボードのソリューションでは、入力電圧が6Vという条件で2Aの最大出力電流が得られます。一方、マルチボードでは、2Aの最大出力電流を得るには12Vの入力電圧が必要になります。
まとめ
本稿では、モバイル・バッテリ用のチャージャの設計例を紹介しました。そのシングルボード版は、アナログ・デバイセズのICを活用したコンパクトで統合度の高いソリューションとなっています。その洗練された設計により、物理的なフットプリントを削減した合理的なレイアウトが実現されています。また、プロトタイプ(マルチボード版)と比べて全体的な効率も向上しています。シングルボードのアーキテクチャは汎用性と適応性にも優れています。そのため、バッテリ駆動の機器に関連する多様なアプリケーションに適しています。電源経路のインテリジェントな管理機能をサポートしているので、バッテリの寿命の延長にも貢献します。
この設計コンセプトは、組み込み車載システムにも適用できます。その場合、PVパネルからの入力電源、他の入力電源、バックアップ用の大規模なバッテリを組み合わせることになります。その場合には、大電力に対応可能なバッテリ・チャージャ「LTC4020」などの製品を使用するとよいでしょう。
参考資料
Carey Diarmuid「既存のボードを組み合わせるだけで、パワー・バンク用チャージャのプロトタイプを構築する」Analog Dialogue、2023年2月
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