概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematics
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Assembly Files
- Allegro Layout Files
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0509-EBZ ($41.73) Wide Input Range USB Charger
機能と利点
- DC入力電圧範囲(5V~100V)の広いUSBチャージャ
- 逆極性保護
- 2つの充電可能ポートのうち1つが専用充電ポート(DCP)
参考資料
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CN0509 User Guide2021/05/06WIKI
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CN0509: 入力電圧範囲の広いデュアル USB ポート・チャージャ (Rev. 0)2021/05/06PDF258 K
回路機能とその特長
自然災害や広範囲にわたる停電といった非常事態のとき、携帯電話やその他の USB コミュニケーション・デバイスに充電する電源を見つけるのが困難な場合があります。AC 電源で動作するチャージャはどこにでもありますが、電力網が利用できない場合や、最後の USB バッテリ・バックアップ・チャージャ・システムが底を突いてしまった場合に、これ以外の方法で USB 駆動の重要なデバイスに充電をすることができるでしょうか。
図 1 に示す回路は、入力電圧範囲の広い USB デバイス・チャージャで、5V、2Aを供給でき、ソーラー・パネル、フル充電またはハーフ放電されたカー・バッテリ、−48V の電気通信バックアップ電源、アルカリ・バッテリ・セルのランダムなスタック、ジェネレータとして動作する改造されたモータ、風力タービンといった様々な DC 電源に対応できます。CN-0509 は、5V、2Aを供給できる USB 充電ポートを 2 つ搭載しています。一方のポートは、専用充電ポート(DCP)コントローラを搭載し、ほとんどのメーカ製のデバイスに対して急速充電モードで充電できます。
この回路は、5V~100Vの DC電圧を入力し、USB タイプ A規格のコネクタを介して絶縁された 5V電源を生成します。絶縁によって、電源とアース・グラウンドの関係が分からない場合の故障を防止できます。これは、多くの携帯電話やその他の携帯機器の筐体が電気的に USB グラウンドに接続されていることが多いためです。
図 1 に示す回路は、逆電圧状態からも保護できます。緊急に使用する電源の極性が分からない可能性があるため、この回路はDC 電源に対して極性を逆に接続した場合でも耐えられます。この設計には、電圧源が正しく接続されているか、または極性を逆にして接続しなければならないかを示す発光ダイオード(LED)が搭載されています。
回路説明
CN-0509 は、5V~100V の多様な DC 電源を 5V、2A の安定化電源に変換し、USB タイプ A の 2 つのレセプタクルを介して USB充電デバイスを充電できます。
2 つの出力ポートを備えており、一方のポートでは、汎用充電用に USB の D+信号と D−信号をオープンのままにし、もう一方のポートには、ほとんどのメーカ製のデバイスに対して大電流充電モードが可能な USB DCP コントローラを搭載しています。両ポートは同時に使用できます。ただし、最大負荷電流は合計2A です。
この設計では、高効率ステップダウン(降圧)DC/DC コンバータ(LTC7103)、パススルー動作機能、および絶縁型フライバック・コンバータ(LT8302)を組み合わせて使用しています。したがって、この構成では、降圧コンバータの高い電力効率と広い動作範囲、およびフライバック・コンバータの絶縁と優れた調整能力が組み合わされています。
入力電圧保護と LED ドライバ
CN-0509 の電力入力段を図 2 に示します。高電圧ショットキー・ダイオードとヒューズによって、回路は逆電源接続状態や過電流状態から保護されます。
2 個の LED は入力電力を示し、緑は極性が正しいことを示し、赤は逆接続であることを示します。赤 LED が点灯した場合は、入力の極性を逆にして接続し、回路を動作させなければなりません。ブリッジ整流器を使用すると、極性に関係なく動作させることができますが、400mV の電圧降下が加わって最小動作電圧が上がります。このため、ソーラー・パネルやアルカリ・バッテリ・セルなどの電圧の低い電源から充電する場合は問題が起こることがあります。
回路の全動作範囲でアクティブな一定電流駆動回路が、明るさの変化を最小限に抑えながら LED 電流を維持します。2 つの回路は直列に接続されていますが、極性は逆になっています(図3 を参照)。
電源が印加されると、R1 に電流が流れ、トランジスタ Q3 がオンになります。続いて Q3 のエミッタ、LED、および R2 に電流が流れます。R2に流れる電流が増加するにつれて、R2の両端の電圧も増加します。R2 の両端の電圧降下がトランジスタ Q1 のベースとエミッタ間の電圧(VBE)(約 0.7V)に達すると、Q1がオンし始めます。この結果、R1 を流れる電流が Q1 へのベース駆動を弱め、LED への電流を効果的に制限します。この帰還ループは、11V~100Vの電圧範囲で緑LEDの電流を約2.41mA、赤 LED の電流を約 2.432mA に維持します。
LTC7103 降圧コンバータ
電力入力回路の後段には、LTC7103 同期整流式降圧コンバータがあります。降圧コンバータ、つまり降圧スイッチ・モード電源は、DC の高電圧を低電圧に効率的に降圧し、同等の電流性能のリニア電圧レギュレータと比べて小さなパッケージで低消費電力と高電力密度を実現できます。
DC 入力は、合計 4.8μF でフィルタリングとバイパスが行われてから降圧コンバータに入力されます。その後、LTC7103 は、12V~105V という広い範囲の入力電圧を 12V の安定した出力電圧(VOUT)に効率的に降圧すると同時に、300kHz のスイッチング周波数(fSW)で最大 2.3A の出力電流を供給します。
LTC7103 は選択可能な高精度の帰還分圧器を内蔵しているため、高精度の抵抗を外付けする必要はありません。VPRG1 ピンとVPRG2ピンのデジタル状態によって、出力電圧が 1.0V~15V の範囲で 9 種類の固定オプションのいずれかに設定されます。CN-509 では、VPRG1ピンを INTVCCピンに接続し、VPRG2ピンをオープンのままにすることで出力電圧を 12V に設定していることに注意してください。
CN-0509 は LTC7103 の機能を利用し、入力電圧が 4.4V~12V の場合にパススルー・モードで動作します(図 5 を参照)。LTC7103 に続く絶縁型フライバック段は 12V に最適化されていますが、出力電流能力を低下させた状態で 5Vという低電圧まで動作し続けます。パススルー動作によって、回路は非常用電源の電圧が低下し始めたような場合でも、できるだけ長く動作し続けることができます。
LTC7103 のアーキテクチャは、短絡状態に対する固有の保護回路を備えており、出力電流と発振周波数をどちらも折り返す必要がありません。この保護が可能なのは、パルス幅変調(PWM)コンパレータがインダクタ電流の情報を平均電流アンプから絶え間なく受け取っているからです。この結果、上側スイッチの最小オン時間が長すぎてスイッチング周波数が最大のときにインダクタ電流の制御を維持できない場合、短絡状態ではサイクルが自動的にスキップされます。代表的な回路制限動作を図 6に示します。
LT8302 フライバック・コンバータ
降圧段の後段にはフォトカプラ不要のマイクロパワー絶縁型フライバック・コンバータ LT8302 があります。LT8302は、1次側のフライバック波形をサンプリングし、出力電圧を間接的にセンシングすることでレギュレーションを維持します。このため、フォトカプラや結合されたインダクタの 3 次センス巻線が不要になります。
このアプリケーションでは絶縁は必須です。なぜなら、緊急に使用する電源の極性とグラウンド接続が分からなかったり、設計上、充電アプリケーションに本質的に向いていなかったりする可能性があるためです。−48V の電気通信電源が一般的な例です(図 7 を参照)。
電気通信電源は、ワイヤのガルバニック腐食を防ぐためにアース・グラウンドに対して負極性になっています。したがって、非絶縁型降圧コンバータをベースにしたチャージャでは、携帯電話の筐体が−48V に接続されているときに、この筐体が接地された物体と接触すると危険な状態になります。ソーラー・パネルやジェネレータの配線が不適切な場合にも同様な事態が発生する可能性があります。
LT8302 は絶縁機能を実現する他に、降圧コンバータからの 12V出力を 5Vに降圧します。VOUTは、以下のように外付け抵抗 2 個と第 3 の温度補償抵抗 1 個(オプション)を使用して設定できます。
ここで、
RFBは LT8302 の帰還抵抗、
RREFは LT8302 のリファレンス抵抗、
NPSはトランスの 1 次対 2 次の実効巻数比、
VOUTは出力電圧、
VF(T0)は出力ダイオードの順方向電圧(25°C で約 0.3V)、
VREFは LT8302 の内部電圧リファレンスです。
一般的な巻数比で入力電圧を変化させた場合に、5V VOUTを出力するときの代表的な最大出力電力を図8に示します。CN-0509のトランスの巻数比が 3:1 の場合に、最大の VOUTが約 10W になります。
最大 2A までの急速充電
USB はデバイス充電においてデファクト・スタンダードになっており、USB 2.0 規格に準拠した代表的なチャージャは 500mA以上の電流を供給できます。デバイスに自身を認識させ、電源から引き出せる最大充電電流を決定できるように、チャージャは USB データ・ライン上に専用の電圧シグネチャを生成する必要があります。この最大充電電流は、最低基準の 500mA よりも大きくなる場合があります。
U3 は DCP コントローラで、USB データ・ラインの電圧(D+および D−)をモニタし、一般的な複数のデバイス・メーカの急速充電モードを実現するシグネチャを生成します(図 9 を参照)。両ポートは同時に使用でき、合計 2Aの最大負荷電流を供給できますが、DCP ポートを使用しているときは、もう一方のポートは取り外しておくことを推奨します。
USB ケーブルの品質には大きなばらつきがあることに注意してください。長く細いケーブルは、負荷での電圧降下が大きくなる場合があります。
システム性能
絶縁型コンバータへの入力が 12V で一定であるため、CN-0509の動作は、12V~100V の入力電圧でほぼ一定です。入力電圧が下がると、図 10 に従って供給できる充電電流が減少します。
逆入力に対する耐性
CN-0509 は最大 100V までの逆入力接続に耐えられます。CN0509 への逆入力と LTC7103 VINの関係を図 11 に示します。
負荷レギュレーション
図 12 により、12V を超える入力電圧での CN-0509 の負荷レギュレーションは 65mV 以内であることが分かります。これは、負荷が 0.1A から 2A に増加するためであり、出力インピーダンスは約 32.3mΩ に相当します。
負荷接続トランジェント
CN-0509 の電源をオンにしたときの携帯電話(電話 A)における電流と USB データ・ラインのトランジェント・カーブを図 13に示し、USB パワー・バンク(パワー・バンク B)における電流とUSBデータ・ラインのトランジェント・カーブを図14に示します。
熱性能
図 15 は、周辺温度が 25°C で自然空冷のとき、作業台上に CN-0509 ボードが水平に置かれた状態で、1 時間にわたって 5.62V、2A で負荷を充電しているときの CN-0509 の熱応答を表示しています。EVAL-CN0509-EBZ ボードの最高温度はダイオード D3 の83.8°C で、最高動作温度の 150°Cをはるかに下回っています。
バリエーション回路
主電源が利用できる場合には、EVAL-CN0509-EBZ は様々なオフライン電源を USB チャージャに変えることができます。そのような電源には、ラップトップ・チャージャ、ゲーム・コンソール・チャージャ、コンピュータ・ペリフェラル電源などがあります。
電源入力にショットキー・ブリッジ整流器を使用すると、入力の極性に関係なく動作させることができます。ただし、この入力構成では、1 個の保護ダイオードを使用する代償として最小動作電圧が0.4V増加します。例えば、2Aの最大出力電流を得るには VINを 12.4V にする必要があります。
回路の評価とテスト
CN-0509 のセットアップやその他の詳細については、CN0509 ユーザ・ガイドを参照してください。
必要な装置
以下の装置類が必要になります。
- DC 電源(5V~100V の任意電圧)
- EVAL-CN0509-EBZ 評価用ボード
- Klein Tools® ET910 USB マルチメータ・テスタ(または同等品)
- マイクロ USB − USB タイプ A ケーブル
- USB 充電機能のあるデバイス(携帯電話、タブレット、または携帯パワー・パック)およびデバイス用の USB 充電ケーブル
テスト・セットアップと機能ブロック図
テスト・セットアップの機能ブロック図を図 16 に示します。
セットアップとテスト
テスト・セットアップは以下の手順で行います。
- 入力 DC 電源を CN-0509 の P1 に接続します。高い入力電圧を接続する際は細心の注意を払ってください。
- DC 入力をオンにし、CN-0509 の電源をオンにします。この回路は、DS1 または DS2 の点灯によって入力の接続が正しい極性であるかどうかを判定します。
- DS1(緑 LED)が点灯した場合は、入力が正しい極性になっており、この回路は USB 出力ポート P2 から最大 10W を給電します。
- DS2(赤 LED)が点灯した場合は、入力電源をオフにして電源入力を取り外し、電源のリード線の極性を逆にして電源出力を P1 に接続し直し、手順 2 を繰り返します。
- ET910 USB マルチメータ・テスタと EVAL-CN0509-EBZ の下側 USB ポートの間を USB ケーブルで接続します。
- ET910 USB マルチメータ・テスタと急速充電可能デバイスの間をデバイス用の充電ケーブルで接続します。
- ET910 USB マルチメータ・テスタの表示を見て、500mA~2A の範囲の電流がデバイスに流れ込んでいることを確認します(図 17 を参照)。
- EVAL-CN0509-EBZ 上の USB ポートに接続されているケーブルを、下側(DCP)ポートから上側 USB ポートに差し替えます。
- ET910 USB マルチメータ・テスタの表示を見て、約 500mAの電流がデバイスに流れ込んでいることを確認します(図17 を参照)。