小型アセット・トラッカの寿命を延長

小型アセット・トラッカの寿命を延長

著者の連絡先情報

Anil Telikepalli

Anil Telikepalli

Nazzareno Rossetti

Nazzareno Rossetti

Simo Radovic

Simo Radovic

要約

この設計ソリューションでは代表的なアセット・トラッキング(資産追跡)ソリューションについて検討を行い、高効率で小型のMAX3864xナノパワー降圧コンバータ・ファミリが、小型ポータブル機器のバッテリ寿命をどのような形で延長するのかを示します。新たな低消費電力のデータ接続は、展開費用が安価なことから、アセット・トラッキング・ソリューションの普及に拍車をかけています。その効果は複数のアプリケーションに見ることができますが、特に輸送およびサプライ・チェーン管理の分野におけるものが顕著です。

はじめに

代表的なアプリケーションでは、センサーが所定の位置からの更新情報を提供し、温度、湿度、圧力、および動作に関するデータを伝送します。センサーが送信する必要があるのは少量のデータだけなので、対応できるデータ範囲が広がる上に消費電力も極めて小さく、デバイスの動作寿命を延長することができます。センサーのバッテリは、数週間から数年におよぶ範囲で使用できなければなりません。アセット・トラッキングにおいては、そのアプリケーションに応じて、複数のトラッカ・デバイスを展開する必要があります。したがってこれらのアセット・トラッカ・デバイスには、小型、携帯が容易、コスト効果が良いといった条件を満たすことも求められます。

この設計ソリューションでは、代表的なバッテリ駆動式アセット・トラッカ・デバイスが直面するパワー・マネージメント上の課題について検討を加え、小型の高効率コンバータを使った例を示します。

エッジと企業間の通信

代表的なトラッキング通信チェーンを図1に示します。追跡対象となる資産は発信機を介してデータを送信し、そのデータが専用のセルラ・ネットワークを通じてサーバーに達します。データは、資産の管理と分析のために、更にそこから企業ポータルへ送られます。

図1 リアルタイムGPSトラッキング
図1 リアルタイムGPSトラッキング

工場環境におけるアセット・トラッキングは、施設、車両設備、およびメンテナンスの管理を1つのプラットフォームにまとめ、安全性と生産性を向上させて資産寿命を延ばすという効果をもたらします。

アセット・トラッキング・ネットワーク

新世代の発信機は専用のセルラ・ネットワーク(LTE-M、NB-IoT)に直接接続するので、ゲートウェイとの通信にBluetooth®を使用する必要がありません。これらの技術にはそれぞれ大きな違いがありますが、低消費電力であるという点で共通しており、バッテリ寿命を数年間の範囲に延長することが可能です(表1)。

表1 ネットワークの特性
NB-IoT LTE-M 単位
帯域幅 180 1400 kHz
ピーク・データ・レート 100 384 kbps
U/D リンク速度 62.5 1000 Mbps
遅延 10 100 ms
バッテリ寿命 >10 10
音声 非対応 対応

代表的なアセット・トラッカ・システム

図2に、代表的なアセット・トラッカのブロック図を示します。3本直列に接続したアルカリ・バッテリは2000mAhの電荷を供給し、降圧レギュレータがオンボード・コントローラ、センサー、および無線機に電力を供給します。

図2 アセット・トラッカのブロック図
図2 アセット・トラッカのブロック図

要求の厳しいアセット・トラッキング・アプリケーションでは、システムは3本のアルカリ・バッテリで1年間継続して動作しなければなりません。ディープ・スリープ状態で消費する電流は100μAだけで、1日に一度、約2分間にわたり100mAの電流が流れます(図3)。LTE-MまたはNB-IoTアセット・トラッカの電力レベルとサポートされているその他のオプションによっては電流値がもっと高くなることもありますが、ここでは、この100μAから100mAの範囲で話を進めます。

図3 アセット・トラッカの電流プロファイル
図3 アセット・トラッカの電流プロファイル

高い使用性能を実現するには、各ブロックを慎重に選んで消費電力ができるだけ少なくなるようにする必要があります。降圧レギュレータは、100μA~100mAの広い範囲にわたって効率の良いものでなければなりません。例えば、降圧コンバータによる平均損失が4%だとすると、フィールド展開期間は約2週間短くなります。

超低静止電流

デバイスはほとんどの時間ディープ・スリープ・モードまたはクワイエット・モードにあり、その間の消費電流は100μA未満に過ぎないので、降圧コンバータの静止電流は特に重要です。VOUT = 1.8Vの場合、ディープ・スリープ時の出力電力はPOUT = 1.8V × 100μA = 180μWです。η = 90%の場合の入力電力は次の通りです。

数式1

降圧コンバータの選択が適切でなく、静止電流が3μA(代表値)、入力電圧が3.6Vだった場合は、以下の電力が余分に消費されます。

数式2

最終的なコンバータの効率は次の通りです。

数式3

静止電流が3μAの場合は降圧コンバータの効率が4ポイント低下し、バッテリの消耗が非常に早くなります。

一方、静止電流が300nAの場合は降圧コンバータの効率が低下しますが、その量はごくわずかで、0.5パーセンテージ・ポイント程度に過ぎません。アセット・トラッキング・アプリケーションの場合、システムはほとんどの時間クワイエット・モードにあり、なおかつバッテリに動作を依存しているので、超低静止電流の降圧コンバータを選ぶことが極めて重要です。

ナノパワー降圧コンバータ

高効率コンバータの一例として、図4に示す静止電流わずか330nAのナノパワー降圧DC/DCコンバータは、1.8V~5.5Vの入力電圧で動作し、最大175mAまでの負荷電流に対応しています。ピーク効率は96%です。スリープ・モードでは5nAのシャットダウン電流しか消費しません。このデバイスは、スペースを取らない1.42mm × 0.89mmの6ボール・ウェーハ・レベル・パッケージ(2 × 3ボールWLP、0.4mmピッチ)に収められています。NB-IoTまたはLTE-Mネットワークの電力レベルに基づき、これより高い電流が必要な場合は、電流値の大きい姉妹部品を選ぶことができます。

図4 集積化降圧コンバータ
図4 集積化降圧コンバータ

小型

このナノパワー降圧コンバータのアプリケーション・フットプリントを図5に示します。WLPパッケージ、高いスイッチング周波数での動作、小型の外付け受動部品などによって、この降圧コンバータの正味PC面積はわずか7.1mm2に止まります。

図5 アセット・トラッカ用降圧コンバータ・アプリケーション(正味面積7.1mm2)
図5 アセット・トラッカ用降圧コンバータ・アプリケーション(正味面積7.1mm2

効率面での利点

入力電圧3.6V、出力電圧1.8Vの降圧コンバータの効率曲線を図6に示します。高負荷時の同期整流動作と軽負荷時および超軽負荷時のパルス動作が、広い動作範囲にわたって高い効率を保証します。

100μA時に87.5%、100mA時に92%という高効率の動作によって、このICはアセット・トラッキング・アプリケーションに最適なデバイスとなっています。この降圧コンバータは、他の同様ソリューションと比較して、効率面で多くの利点を備えています。

 

図6 MAX38640の効率曲線
図6 MAX38640の効率曲線

高効率であることと小型であることが互いに影響し合うことで、発生熱量も少なくなります。これは、より小型で発熱量の小さいアセット・トラッカを設計する助けとなり、デバイス過熱の懸念を緩和します。

まとめ

アセット・トラッカは、その具体的なアプリケーションに応じ、小さいバッテリだけで数週間から数年間にわたりフィールドで動作することが求められます。このタイプの動作には、消費電力ができるだけ少なくなるよう各ブロックを慎重に選ぶ必要があります。降圧レギュレータには、数十マイクロアンペアから数百ミリアンペアまでの広い入力電流範囲にわたって、効率的に動作することが求められます。高効率で小型のMAX3864xナノパワー降圧コンバータ・ファミリは、アセット・トラッキング・アプリケーションに最適なパワー・ソリューションを提供します。