医療機器の設計における電子較正と製造公差の補正

2010年11月29日
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要約

このアプリケーションノートは、トリミング、調整、および較正回路を適切に設計することによっていかにシステム誤差が補正され、医療機器をより安全で、高精度、かつ手頃にすることができるかを解説します。最終試験の較正を使用して部品公差を補償、パワーオンセルフテストおよび連続的/定期的な較正によって信頼性を向上、正確な自動調整を実現、機械トリミングを完全に電子化されたトリミングに移行、ディジタル較正で高精度電圧リファレンスの活用などの較正の題目を取り扱います。

電子較正によって医療機器の正確性と安全性を向上し低価格化を実現

医療機器は、誰もが高精度と安全性を求める分野です。同時に、この機器は低価格でなければなりません。どうすれば製造業者は手ごろな価格で「完璧」な機器を用意することができるのでしょうか。一言で言えば、「較正」です。

実際の部品には、機械部品にも電子部品にもすべて製造公差があります。公差が緩ければ、それだけ部品は低価格になります。部品を組み立ててシステムにすると、個々の公差が合計されてシステム全体の誤差になります。トリミング、調整、および較正の回路を適正に設計することで、このようなシステム誤差を補正することができるため、安全、正確、および低価格な機器に仕上げることができます。

較正によってさまざまな場面でコスト削減が可能になります。較正を使用することで、製造公差の除去、より低価格な部品の指定、試験時間の削減、信頼性の向上、顧客満足度の向上、顧客返品の減少、品質保証費用の削減、および製品出荷までの時間の短縮を実現することができます。

多くの医療システムにおいて、ディジタル制御の較正装置やポテンショメータ(ポット)が機械式ポットに取って代わりつつあります。このディジタル手法は、信頼性を高め患者の安全性を向上させます。このように信頼性を高めることによって製品責任に関する懸念を少なくすることができます。別の利点として、人為ミスを排除することによって試験の時間やコストを削減することができます。自動試験装置(ATE)は、何度でも、迅速かつ正確に試験機能を実行することができます。さらにディジタル 装置は、機械式ポットで不具合を起こすおそれのあるほこり、ごみ、および湿度の影響を受けません。

試験と較正は、生産ラインにおける最終試験、定期的なセルフテスト、および継続的な監視と再調整の3つの分野に大きく分類されます。実際の製品は、上記の試験方法のいくつかを使用する場合もあれば、すべてを使用する場合もあります。

最終試験の較正を使用して部品公差を補償

最終試験の較正では、多数の部品の公差が結合されて生じた誤差を補正します。被試験デバイス(DUT)を較正して製造業者の仕様を満たすようにするには、1回または複数回の調整が必要になる場合があります。

簡単な例を挙げます。ある機器がいくつかの回路で公差5パーセントの抵抗器を使用するとします。設計では、回路をシミュレートし、モンテカルロテストを実施します。つまり、抵抗器の値を公差の範囲内でランダムに変更し、出力信号に対する影響を調査します。シミュレーションの結果は、抵抗器の公差によって生じるワーストケースの誤差を示した一連の曲線となります。この知識を元に設計者は、回路を現状のまま使用し、最終試験時に簡単にオフセットと利得を調整してシステム仕様を満たすことに決めます。したがって、最終製造試験で測定を行い、2台の機械式ポットを使って人の手でスパンやオフセットを設定します。較正は以上で完了ですが、これで問題は解決されたのでしょうか、あるいは問題を隠したのでしょうか、それとも、さらに大きな未知の問題を加えたのでしょうか。

経験豊富な生産技術者は、人為ミスが真の問題であることを理解しています。うっかりした間違いは、どんなに優れた計画をも台無しにしてしまいます。人に退屈な繰り返し作業を頼むということは、問題を起こすことを頼むようなものです。改善策は、このような作業を自動化することです。電気的に調整可能な較正装置によって、すばやく自動的に試験を実施することができ、人為ミスの要因を除去することで再現性を向上し、コストを削減し、安全性を強化することができます。

パワーオンセルフテストと連続的/定期的な較正によって信頼性と長期的な安定性を向上

製造公差は、最終製造試験時に較正によって補償され、このデータはシステム起動時に利用されます。フィールドでの環境パラメータによっても試験や較正の必要性が生じます。このような環境要因としては、回路部品の経年劣化、温度、湿度、および信号レベルとバイアスがあります。一部の回路には制御に関する情報や通常の情報が含まれています。このような情報は定期的に記録することができます。パワーアップ時のセルフテストと、連続的または定期的な試験とを組み合わせると、このような環境的要因を明らかにすることができます。フィールド試験は温度を検出してそれに応じて補償するという簡単な試験もあれば、より複雑な試験もあります。

多くの製品は内部にマイクロプロセッサを搭載しており、試験をサポートすることができます。たとえば、重量計は、注射器、ビニール袋、またはガラス瓶などの製品パッケージの重さを補償することができます。はかりに乗せた物質の正味重量を正しく測定するには、総重量からパッケージの重量(風袋重量)を減算する必要があります。パッケージの重量は、製造上のばらつきやベンダの変更によって時間経過とともに変わる可能性があるため、風袋重量または容器重量の情報をときどき更新する必要があります。

もう1つの例として、スイッチを使用してアンプ入力をグランドに短絡させてオフセット電圧を測定する場合があります。これは、パワーオンセルフテスト時に実施して部品の経年変化を補正することができます。あるいは、定期的に実施して温度によって誘発されるドリフトを補償することができます。温度ドリフトの発生が予想可能で、繰り返されるようであれば、マイクロプロセッサで温度を測定し、開ループで較正装置を制御することで試験をサポートすることができます。

システムの利得誤差は、早い段階で既知の信号を機器に切り替えて、出力レベルを測定することで較正可能です。これはパワーアップのタイミングで実施するか、稼動中の一時停止の間に定期的に実施します。

較正DACや較正ポットを用いて正確な自動調整を実現

較正ディジタル-アナログコンバータ(CDAC)や較正ディジタルポット(CDPot)はともに、トリミング、調整、および較正を可能とする独自の特性を備えています。1つ目の利点は不揮発性メモリを内蔵していることで、メモリはパワーアップ時に自動的に較正設定値を復元します。図1は2つ目の利点、 すなわち較正の精度や医療安全のための場所をカスタマイズ可能であることを表しています。

図1. 通常のDACとCDACの較正範囲の比較
図1. 通常のDACとCDACの較正範囲の比較

電圧(VREF)だけを加えることができます。このリファレンス電圧は通常、DACの最大設定値となります。DACの最小設定値は固定電圧で、一般的にはグランドです。中心付近の調整には、VREFとグランド間の範囲の大部分は無視して使用すべきではありません。設定可能なステップサイズは範囲内に均等に分配されるからです。たとえば、VREFを4Vに設定すると、10ビットDACによってステップサイズは0.0039V/ステップとなります。医療機器では、起こり得る誤差をすべて取り除くことが非常に重要なことです。使用しない調整範囲を除去することで、回路に著しい誤調整が発生する可能性がなくなります。

CDACとCDPotはどちらも、DACの最大電圧と最小電圧を任意の電圧に設定可能であるため、過剰な調整範囲を除去します。図1では、1Vの低値と2Vの高値を例として選択しています。1Vから2Vの範囲で0.0039Vのステップサイズを実現するには、8ビットの装置で十分です。回路が誤調整される可能性がなくなって安全性が向上します。CDACの高電圧と低電圧は任意であるため、回路の較正が必要な場所であればどこにでも中心を設定することができます。回路の公差分析で、1.328V~1.875Vの範囲が較正に必要であることが明らかになっても対応可能です。256ステップの装置であれば、0.00214Vの精度が得られることになります。このように、調整の精度は特定の医療回路に合わせて最適化することができます。

機械トリミングを完全に電子化されたトリミングに移行することによってコスト削減と精度向上

ディジタル制御の調整可能な装置には、医療システムでの機械装置に比べていくつかの利点があります。最大の利点はコストを最小限に抑えることができるということです。ATEは、何度も較正を正確に実施することができるため、誤りを起こしやすい手動調整に伴う多大なコストが削減されます。また、ディジタルポットは5万回の書込みサイクルが保証されているため、定期的な試験をより頻繁に実施可能で、あるいは寿命が延長された機器について実施可能です。最も優秀な機械式ポットでも数千回の調整しか行うことができません。

配置の柔軟性や大きさも、機械式ポットと比較した場合の利点です。ディジタル調整可能なポットは、回路基板上の信号経路の搭載すべき位置に正確にそのまま搭載することができます。一方、機械式ポットは人手の介入が必要な場合があり、長い回路トレースや同軸ケーブルが必要となることがあります。高感度回路では、電気容量、時間遅延、またはケーブルによるノイズのピックアップによって装置性能が低下する場合があります。

ディジタルポットは長期にわたって較正値を保持することができますが、機械式ポットは密封した後でも細かく動きます。ポットが温度サイクル下にある場合、あるいは輸送で振動を受けている場合、摺動子のばねが緩むにつれて摺動子が動きます。ディジタルポットに保存した較正値はこのような要因の影響を受けません。

安全性を強化するためにワンタイムプログラマブル(OTP) CDPotを使うこともできます。このポットは較正設定値を永久に記憶して固定し、オペレータがこれ以上の調整を行わないようにします。較正値を変更するには、OTP CDPotを物理的に交換する必要があります。特別改良型のOTP CDPotでは、操作時にオペレータの判断で限られた範囲での調整が可能ですが、パワーオンリセットによって必ず保存した値に戻ります。

ディジタル較正で高精度電圧リファレンスの活用

高精度アナログ-ディジタルコンバータ(ADC)でのセンサーや電圧の測定は、比較にリファレンス電圧が使用されている場合に限り有効です。同様に、出力制御信号は、DAC、アンプ、またはケーブルドライバにリファレンス電圧が供給されている場合に限り正確です。

共通の電源は高精度電圧リファレンスとしては適切ではありません。標準的な電源は、5~10パーセントの精度にすぎません。電源は負荷や配線の変更によって変化します。また電源にはノイズが含まれる可能性が高くなります。

小型、低電力、低ノイズ、および低温度係数の電圧リファレンスは手頃な価格で操作も容易です。また、温度センサーを内蔵するリファレンスもあり、環境変動を追跡するのに役立ちます。

通常、シリアル較正電圧リファレンス(CRef)には3つのタイプがあり、それぞれがさまざまな医療アプリケーションに独自の利点を提供しています。シリアル電圧リファレンスを自由に選べることで、設計者は正確な回路を最適化して較正することができます。

1つ目のタイプのリファレンスでは、小さな範囲(一般的には3~パーセント)のトリミングが可能です。これはメディカル画像システムでの利得トリミングに有利です。2つ目のタイプは調整可能なリファレンスであり、広範囲(たとえば1V~2V)にわたる調整が可能です。これは、公差の広いセンサーを備え、不安定な電力で稼動する必要のあるメディカルデバイスに有利です。バッテリ、自動車用電源、または緊急発電機によってポータブル装置を稼動させる必要がある場合があります。E²CRefと呼ばれる3つ目のタイプは、メモリを内蔵しており、シングルピンのコマンドを発行して0.3Vと[VIN - 0.3V]の間の電圧をコピーし、このレベルを無限に保持することができます。E²CRefはベースラインまたは警告アラートのスレッショルドを設定する必要がある医療試験デバイスに有益です。

図2は、E²CRefを使用した製造の利点を示しています。この例では、電源の製造業者は、E²CRefを使用して、最終製造試験時に確定した設定値を保存する、手頃な価格の電源を製造しています。製造業者は標準的な電源を製造し、一時的に在庫保管します。顧客注文を受けたら、自動試験装置で出力電圧を調整してから注文品を発送します。

図2. E²CRefを使用した製造での利点の説明
図2. E²CRefを使用した製造での利点の説明

電源の製造業者は最終試験の較正を利用することで2つの大きな利点を提供します。1つ目に、最終試験の較正で累積する誤差を補正するため、公差の緩い各部品を使用してコストを削減しています。2つ目に、標準製品にカスタム調整を行うため、顧客への納品が早くなります。

短納期が条件となって注文が決まる場合もあるため、今日では、「ジャストインタイム」の在庫管理がこれまで以上に重要となります。競争相手が納品することができないときに注文を獲得すれば再注文につながる可能性があります。さらに、在庫を増やすことで増大した収益がそのまま純利益になります。

まとめ

較正は目的達成のための手段です。実際のデバイスには部品の製造公差があり、研究所グレードの外部試験装置を用いて最終製造試験時に較正することができます。時間、湿度、または温度による環境ドリフトはフィールド較正を必要とします。電子的に調整可能な較正パーツを使用すると、パワーオンセルフテストや連続的または定期的な較正も含めた、迅速なフィールド較正が可能です。定期的な較正には、広く認められた標準化団体に起因する基準に沿って、研究機器に対して実施する較正も含まれる場合があります。電子較正によって目標を達成することができるようになります。このおかげで手頃で安全かつ正確な医療機器を使用することができるのです。

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