絶縁型の降圧コンバータで使用するトランスの選択方法
要約
本稿では、まず絶縁型の降圧コンバータの動作について説明します。その上で、同コンバータを設計する際に極めて重要なステップとなるトランスの選択方法について解説します。本稿により、考慮すべきパラメータ、従うべき理論式、各パラメータが回路全体に及ぼす影響についてご理解いただけるはずです。
絶縁型の降圧コンバータはどのように機能するのか?
図1は、絶縁型の降圧コンバータの概念図です。ご覧のように、非絶縁型の一般的な降圧コンバータと似たような形で構成されています。異なるのは、一般的な降圧コンバータのインダクタがトランスに置き換えられていることです。それにより、絶縁型の降圧コンバータを実現できます。なお、トランスの2次側ではグラウンドは独立した状態になります。
まず、ハイサイドのスイッチQHSがオン、ローサイドのスイッチQLSがオフになっている状態について考えます(図2)。このオン期間TONには、トランスの磁化インダクタンスLPRIが充電されます。図2の矢印は、電流が流れる方向を表しています。このとき、トランスの1次側の電流量は直線的に増加します。その増加の傾きは、VIN - VPRIとLPRIによって決まります。オン期間において、2次側のダイオードD1は逆バイアスされており、COUTから負荷に対して負荷電流が流れます。
次に、QHSがオフ、QLSがオンになっている状態について考えます。このオフ期間TOFFには、1次側のインダクタが放電され、QLSを介してグラウンドに電流が流れます。2次側ではD1が順方向にバイアスされ、2次側のコイルからCOUTと負荷に対して電流が流れます。その電流により、COUTは充電されます(QHSをオフ、QLSをオンにしても、電流の向きは変わりません。電流量の変化の傾きが変わるだけです。正の電流は0Aまで減少し、その後、負の電流が増加します)。
トランスに関連する仕様
絶縁型の降圧コンバータを設計する際には、以下に示すようないくつかの仕様を明確にする必要があります。
- 入力電圧範囲
- 出力電圧
- 最大デューティ・サイクル
- スイッチング周波数
- 出力電圧リップル
- 出力電流
- 出力電力
これらの仕様が明確になれば、選択すべきコンポーネントが決まります。トランスについても同じことが言えます。以下、これらの仕様とトランスの関係について俯瞰しておきましょう。
通常、最大デューティ・サイクルDは0.4~0.6の範囲内の値に設定します。最小入力電圧VIN_MINと最大デューティ・サイクルによって、1次側の出力電圧VPRIが決まります。このVPRIと2次側の出力電圧VOUTによって、トランスの巻数比が決まります。
出力電流IOUTと出力電力POUTは、トランスの選択に影響を与える重要なパラメータです。トランスの銅線の太さは、出力電流に応じて決まります。また、トランスのボビンとしてどのようなものを使用すべきなのかは出力電力によって決まります。ボビンの透磁率は、どの程度のエネルギーを蓄積でき、どの程度の電力を出力できるのかを表します。一般に、インダクタ(トランス)のリップル電流はDCの出力電流に係数を掛けた値として表現されます。TON時間は、デューティ・サイクルとスイッチング周波数によって算出されます。更に、VIN、VPRI、リップル電流の値によって1次側のインダクタンスが決まります。DCの出力電流に乗じる係数については、値が大きすぎても小さすぎても問題があります。係数の値が大きすぎると、おそらくはリップル電流が大きくなりすぎるでしょう。リップル電流が大きすぎてHブリッジの電流制限値の1/2に達すると、MOSFETに損傷が生じる可能性があります。また、等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)によって、出力コンデンサに大きなリップル電圧が印加されてしまうおそれもあります。リップル電流を極力小さく抑える必要がある場合には、インダクタンスの値が大きいインダクタ(トランス)を使用しなければなりません。コイルの巻数が多い場合、かさばるボビンが必要になります。インダクタンスの値が大きいと、ループ帯域幅が制限されて動的応答指数が低くなります。
トランスの選択方法
2次側のコイルにエネルギーが伝達されるのは、TOFFの期間だけです。巻数比は、以下の式によって求めることができます。
ここで、VDは2次側のダイオードにかかる順方向のバイアス電圧です。先述したように、最大デューティ・サイクルの値としては、通常0.4~0.6の値を指定します。その値を用いると、VPRIの値は次式のようにして求まります。
ここで、Dは最大デューティ・サイクル、VIN_MINは最小入力電圧です。上の式を利用すれば、巻数比を計算することができます。非絶縁型の降圧コンバータでは、リップル電流はインダクタの両側で同じ値になります。以下の式を使えば、必要なインダクタンスの値を簡単に計算できます。
ここで、fはスイッチング周波数、ΔIはリップル電流です。先述したように、リップル電流は、DC出力電流に係数を掛けた値として扱われます(以下参照)。
上式のKがその係数です。但し、絶縁型の降圧コンバータでは、インダクタではなくトランスを使用します。トランスについては、どのように考えればよいのでしょうか。ご存じのとおり、電流比は巻数比の逆数に等しいので、次式が成り立ちます。
ここで、IPRITOFFは、TOFFの期間に1次側の電流に変換される2次側の電流です。続いて、トランスの2つのコイルに流れる電流を加算することにより、等価インダクタ電流を求めます(以下参照)。
上式のILeqが等価インダクタ電流です。トランスの巻線が3つある場合には、次式のような計算を行うことになるでしょう。
以上の内容が正しいのかどうかを確認するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、絶縁型のDC/DCコンバータIC「MAX17682」を対象とし、シミュレーションを行ってみることにします。図4に示したのが、MAX17682を使用した代表的な回路の例です。この図は、「SIMetrix/SIMPLIS」を備える電源回路用のシミュレータ「EE-Sim® OASIS」を使って作成しました。トランスの両側にIPRIとISEC1というラベルを付けて電流プローブを配置しています。

図5に示したのは、2つのプローブによって取得したトランジェント・シミュレーションの結果です。2つの電流波形は、式(6)を使用して加算した結果に相当します。

電流を加算した結果(赤色)は三角波になっています。これは、非絶縁型の降圧コンバータのインダクタに現れる挙動に相当します。そのため、トランスの1次側のΔIは、以下の式によって簡単に計算することができます。
通常、負荷に対するリップル電流はDC出力電流の0.2倍に設定します。つまり、KはNSEC/NPRIの0.2倍に設定すればよいということになります。一方、1次側のピーク電流は、スイッチング電流の上限値未満に設定しなければなりません。ここで、IPKは次式で与えられます。
したがって、トランスの1次側のΔIは、次式によって簡単に計算することができます。
巻数比、1次側のインダクタンス、出力電力、出力電流、絶縁電圧を考慮すれば、どのようなインダクタを使用すればよいか判断できるはずです。
簡素化された式の使用方法
MAX17682のデータシートを見ると、図6のように記載されています。この式についてより深く理解して活用するにはどうすればよいのか、少し考えてみましょう。

先述した内容に従えば、TOFFの期間については、式(10)を次式のように書き換えることができます。
ここではDの値が0.6であるとします。すると、ΔIが0.4Aである場合には、(1 - D)とΔIの項を削除できることになります。その結果、式(11)と図6に示した式は同じになります。つまり、データシートに記載された式では、1次側のリップル電流の値を事前に設定し、その値を前提にしているということです。Dが0.6であるとすると、1次側のリップル電流の値は0.4Aだということになります。TOFFのデューティ・サイクルは、1次側のリップル電流によって決まると考えればよいでしょう。
まとめ
最後に説明したように、図6に示した簡素化された式を使えば、迅速に設計を行うことができます。つまり、1次側のリップル電流とTOFFのデューティ・サイクルが等価になるようにすればよいということです。1次側のリップル電流として異なる値を設定したい場合や、別のパラメータを使用したい場合には、本稿で説明した内容に従って必要な計算を行ってください。
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