ハイサイドの電流検出、その原理と回路の実装方法を解き明かす

2001年11月19日
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要約

スマートフォンやタブレット端末、ノート型PC、USBアクセサリなどは、バッテリで駆動できるようにする必要があります。そのためには、バッテリの充放電に伴う電流の値を測定しなければなりません。電流検出アンプや差動アンプ、計装アンプを使用してその測定を実現するにはどうすればよいのでしょうか。本稿では、まず差動アンプを使用したハイサイドの電流検出とローサイドの電流検出に関する比較を行います。続いて、ハイサイドの電流検出を実現する回路の例を示します。次に、電流検出抵抗を選択する際に考慮すべき事柄について解説します。その上で、可変リニア電流源と0A~5Aに対応するプログラマブル電流源を実現するアプリケーション回路例を紹介します。更に、障害や短絡に起因する過電流からシステムを保護するために使用可能な高電圧対応のサーキット・ブレーカについて説明します。

電子回路に流入する電流や流出する電流を監視するにはどうすればよいのでしょうか。そうした電流の測定は、多様なアプリケーションで必要になります。そのための回路を実現することは、設計者にとって不可欠なスキルだとも言えるでしょう。電流の測定を必要とするアプリケーションの例としては、過電流保護、4~20mAのシステム、バッテリ・チャージャ、高輝度LEDの制御、携帯電話基地局の電源などが挙げられます。それ以外にも、再充電が可能なバッテリの流入電流と流出電流の比率を把握(ゲージ機能)しなければならないHブリッジ・モータ制御なども代表的なアプリケーションだと言えます。

最近では、可搬型のアプリケーションに対するニーズが高まっています。それに伴い、電流の検出と値の測定を担う電流モニタについては新たな要件が課せられるようになりました。すなわち、小型のパッケージを採用し、少ない自己消費電流で処理を完遂できる専用の電流モニタが求められるようになっているのです。以下では、ローサイドとハイサイドの電流モニタについて説明します。特に、それぞれのアーキテクチャとアプリケーションについて詳しく解説します。

ハイサイドか、ローサイドか?

電流の測定が必要なアプリケーションでは、主に2つの方法のうちどちらかが使われます。1つは、グランド・パスと直列に電流検出抵抗(センス抵抗)を接続するローサイド方式です(図1)。もう1つは、ホット・ワイヤと直列に電流検出抵抗を接続するハイサイド方式です(図2)。これら2つの方式には、それぞれ異なる部分にトレードオフの要因が存在します。前者の方式では、グランドのパスに、望ましくないローサイドの外部抵抗を追加することになります。一方、ハイサイドの電流検出抵抗を使用する回路では、比較的大きなコモン・モードの信号に対処しなければなりません。図1の回路において、オペアンプのGNDピンはRSENSEの+側を基準として使用しています。この場合、ゼロよりも低い値、つまり(GND - (RSENSE×ILOAD))を含むコモン・モード入力範囲に対応する必要があります。

図1. ローサイドの電流モニタ

図1. ローサイドの電流モニタ

図2. ハイサイドの電流モニタ

図2. ハイサイドの電流モニタ

図1と図2を見比べた結果、ローサイド方式の方が簡単そうに感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ハイサイド方式の長所を見逃してはなりません。ローサイド方式の電流モニタは、様々な障害を見過ごしてしまう可能性があります。その結果、負荷が、検出されなかった危険なストレスにさらされてしまうかもしれません。図3を例にとると、負荷がパスAを介して接続される場合には適切に監視が行われます。しかし、パスBに負荷が偶発的に接続された場合、電流モニタがバイパスされてしまいます。一方、ハイサイドの電流モニタは電源に直接接続されます。そのため、下流のすべての障害を検出することができます。それにより、障害に対応するための適切な機能をトリガすることが可能になります。また、ハイサイドの電流モニタは、シャシーがグランド電位になる車載アプリケーションにも非常に適しています。

図3. ローサイド方式の欠点。誤って負荷がグランドに接続された場合、危険なレベルの電流がパスBに流れるおそれがあります。

図3. ローサイド方式の欠点。誤って負荷がグランドに接続された場合、危険なレベルの電流がパスBに流れるおそれがあります。

ハイサイド方式を実現する従来の回路

従来、ハイサイド方式/ローサイド方式の電流モニタは、いずれもディスクリート部品やセミディスクリート回路を使用して実装されていました。ハイサイドの電流モニタの最も簡単な実現方法では、1個の高精度のオペアンプと複数の高精度の抵抗を使用します。特に、ハイサイド方式では、標準的な差動アンプを使用する方法が一般的だと言えます。その場合、差動アンプは、ハイサイドからグランドへのゲイン・アンプ兼レベル・シフタとして機能します(図4)。このディスクリート構成の実装方法は広く使用されています。しかし、この回路には以下に示す3つの欠点が存在します。

  • 入力抵抗R1の値が比較的小さい
  • 通常、入力は入力抵抗の大きな差を示す
  • 許容できる同相モード除去比(CMRR)を得るためには、抵抗が厳密にマッチングしていなければならない。いずれかの抵抗の値が0.01%ずれているとCMRRは86dBに低下する。0.1%ずれていると66dB、1%ずれていると46dBまで低下する

ハイサイドの電流検出では、これらの欠点を解消しなければなりませんでした。そのために、数多くのICが開発されました。一方、ローサイドの電流検出向けに有用なICが数多く開発されることはありませんでした。

図4. 差動アンプをベースとするハイサイドの電流モニタ

図4. 差動アンプをベースとするハイサイドの電流モニタ

集積型の差動アンプ

ハイサイドの電流検出の用途に向けて、高精度のアンプと、マッチングのとれた抵抗の両方を集積したICが数多く登場しました。それにより、アプリケーションにおいて差動アンプをより容易に使用できるようになりました。そうしたICは、105dB程度のCMRRを達成しています。「MAX4198」、「MAX4199」の場合、パッケージとして8ピンのμMAXを使用しています(図5)。CMRRの代表値は110dB、ゲイン誤差は0.01%未満です。

図5. MAX4198/MAX4199のブロック図。これら集積型の差動アンプは、非常に高いCMRRを達成しています。

図5. MAX4198/MAX4199のブロック図。これら集積型の差動アンプは、非常に高いCMRRを達成しています。

ハイサイドの電流検出専用のIC

ハイサイドの電流検出では、もう1つの方法を利用することができます。それは、測定に必要なすべての要素を集積したICを使用するというものです。その種のICを使用すれば、最大32Vのコモン・モード電圧が存在する条件下でもハイサイドの電流を検出できます。そして、その電流に比例するグランド基準の電流出力/電圧出力を得ることが可能です。パワー・マネージメントやバッテリの充電など、電流量を正確に測定する必要があるアプリケーションには、このような電流検出専用のアンプICが最適です。 

Maximは、ハイサイドの電流検出に対応する数多くのアンプ製品を提供しています。それらのICを使用する場合、電源の+端子と監視の対象となる回路の電源入力の間に電流検出抵抗を配置します。つまり、グランド・プレーンに外部抵抗が追加されることはありません。また、基板レイアウトが大幅に簡素化され、一般的に回路全体の性能が向上します。Maximの電流検出ICの中には、単方向の電流に対応するものと双方向の電流に対応するものがあります。また、双方向に対応するICの中には、電流検出抵抗を内蔵しているものと内蔵していないものがあります。なお、双方向に対応する製品には、電流の方向を表すSIGNピンが設けられています。 

単方向/双方向に対応するそれらの電流検出ICには、ゲインを調整可能なもの、内部ゲインが20V/V、50V/V、100V/Vで固定のもの、内部ゲインに加えて1個または2個のコンパレータを搭載するものなどがあります。それらのICは、サイズを可能な限り抑えることが必要なアプリケーションに対応できるよう小型のパッケージで提供されています。 

ハイサイドの電流検出に向けたMaximの全ICには1つの共通点があります。それは、追加の部品をほとんどあるいは全く使用しなくても、グランド基準の電圧/電流出力が得られることです。出力信号の大きさは、測定されたハイサイドの電流値に比例します。コモン・モード電圧としては最大32Vに対応できます。図6~図9は、ハイサイドの各種電流検出ICが採用しているアーキテクチャを示したものです。例えば、「MAX4172」の場合、その電流出力はRSENSEの両端の電圧に比例します。

これらのICを使用したハイサイドの電流モニタでは、もはや外部抵抗がCMRRに及ぼす影響は問題にはなりません。CMRR(一般的に90dB以上)は、集積しているアンプだけによって決まるからです。電流検出の機能に必要な要素を単一のICに集積すると、以下のようなメリットが得られます。

  • 集積されている能動部品/受動部品の許容誤差が厳格に規定される
  • 優れた温度係数(TC)が得られる
  • サイズが小さい
  • 消費電力が少ない
  • 使いやすい

図6. 双方向に対応するハイサイドの電流モニタ。MAX9928/MAX9929を使用して構成しています。これらのICは、電流の方向を表すSIGNピンを備えています。

図6. 双方向に対応するハイサイドの電流モニタ。MAX9928/MAX9929を使用して構成しています。これらのICは、電流の方向を表すSIGNピンを備えています。

図7. MAX4372をベースとする単方向のハイサイド電流モニタ

図7. MAX4372をベースとする単方向のハイサイド電流モニタ

図8. MAX4172をベースとする単方向のハイサイド電流モニタ

図8. MAX4172をベースとする単方向のハイサイド電流モニタ

図9. MAX4173をベースとする単方向のハイサイド電流モニタ

図9. MAX4173をベースとする単方向のハイサイド電流モニタ

電流検出抵抗を選択する際に検討すべき事柄

どのような種類の電流モニタを設計する場合にも、電流検出抵抗RSENSEについては慎重に検討しなければなりません。RSENSEの値は、以下の事柄に照らし合わせて選択する必要があります。

  • 電源電圧の低下:RSENSEの値が大きいと、IR損失によって電源電圧が大きく低下します。RSENSEの値が小さいほど、電源電圧の低下を抑えられます。
  • 精度:RSENSEの値が大きければ、微少な電流であってもより正確に測定することができます。検出された電圧に対する電圧オフセットと入力バイアス電流オフセットの影響を小さく抑えられるからです。
  • 効率と消費電力:電流量が多い場合、RSENSEにおけるIR損失がかなり大きくなる可能性があります。そのことを踏まえて、抵抗の値と定格消費電力(W単位)を決定しなければなりません。電流検出抵抗が過剰な熱を発すると、抵抗値にドリフトが生じる可能性もあります。
  • インダクタンス:検出する電流ISENSEの高周波成分が大きくなる場合、RSENSEの寄生インダクタンスの値を低く抑えなければなりません。インダクタンスが最も大きくなるのは巻線抵抗です。金属皮膜抵抗の場合、寄生インダクタンスの値はそれよりもやや小さくなります。ただ、金属皮膜抵抗の中でもインダクタンスを低く抑えたものを選択するべきです(1.5Ω以下の値のものが提供されています)。金属皮膜抵抗や巻線抵抗(金属線を芯にらせん状に巻き付けたもの)とは異なり、インダクタンスの小さい金属皮膜抵抗はまっすぐな金属バンドから成ります。
  • コスト:アプリケーションによっては、RSENSEにかかるコストも削減したいというケースがあります。その場合、プリント基板の配線パターンを電流検出抵抗として使用するという代替策が考えられます(図10)。その場合、銅線の抵抗値はばらつくので、ポテンショメータを使用してフルスケールの電流値を調整する必要があります。銅の抵抗値の温度係数は約0.4%/℃なので、温度が広い範囲で変化するシステムでは注意が必要です。

図10. 基板の配線パターンを電流検出抵抗として使用する例。MAX4172をベースとしてハイサイドの電流モニタを構成しています。

図10. 基板の配線パターンを電流検出抵抗として使用する例。MAX4172をベースとしてハイサイドの電流モニタを構成しています。

ハイサイドの電流検出を利用するアプリケーション

図11に示したのは、可変リニア電流源の構成例です。この回路では、IC1(MAX4172)によって抵抗R1に流れる電流がそれに比例する出力電圧に変換されます。IC2としては、LDO(低ドロップアウト)レギュレータ「MAX603」を使用しています。この電圧源により、レギュレートされた出力電流IOUTを生成することができます。IOUTを0mA~500mAの特定の値に設定するには、5V~0Vの電圧を印加します(5Vを印加した場合のIOUTは0mA、0Vを印加した場合のIOUTは500mAに設定されます)。電圧を印加する手段としては、図に示すようにD/Aコンバータ(DAC)を使用します。それにより、IOUTの値をデジタルで制御できます。12ビットの分解能が必要な場合(LSBあたり60μA)、DACとしてはパラレル入力の「MAX530」やシリアル入力の「MAX531」を使用できます。必要な分解能が10ビット(LSBあたり250μA)の場合には、DACとしてパラレル入力の「MAX503」やシリアル入力の「MAX504」を使用可能です。

図11. 可変リニア電流源。MAX4172、MAX603を使用して構成しています。

図11. 可変リニア電流源。MAX4172、MAX603を使用して構成しています。

図12に示したのは、0A~5Aに対応するプログラマブル電流源です。この回路を使用すれば、4V~28Vに対応しつつ0A~5Aの電流を生成できます。この回路には2つの長所があります。1つは、分解能が12ビットのDACによって、デジタル的に出力電流の値をプログラムできることです。もう1つは、スイッチング方式の降圧レギュレータ(IC1)を使用しているので、リニアなパス・トランジスタを使用する電流源よりも高い効率が得られることです。この回路は、過電流保護、4~20mAのシステム、バッテリ・チャージャ、高輝度LEDの制御、携帯電話基地局の電源、Hブリッジ・モータ制御などのアプリケーションに適しています。

図12. 0A~5Aに対応するプログラマブル電流源。MAX4173を使用しています。

図12. 0A~5Aに対応するプログラマブル電流源。MAX4173を使用しています。

USBが広く普及したことから、2.7V~5.5Vの電源向けには様々な過電流保護回路が提供されるようになりました。ただ、それよりも高い電圧を対象とした製品はほとんど存在しません。図13に示したのは、最大26Vの電源電圧に対応して動作するサーキット・ブレーカです。この回路は、プログラムされた電流閾値でトリップすることで過電流保護を実現します。

図13. 高電圧に対応するサーキット・ブレーカ。MAX4172を使用しており、最大26Vの電源電圧に対応して過電流保護を実現できます。

図13. 高電圧に対応するサーキット・ブレーカ。MAX4172を使用しており、最大26Vの電源電圧に対応して過電流保護を実現できます。



この記事に関して

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MAX44284
製造中

36V入力コモンモード、高精度、低電力電流検出アンプ

MAX603
製造中

5V/3.3Vまたは可変、低ドロップアウト、低消費電流、500mAリニアレギュレータ

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製造中

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