はじめに
ワイヤレス充電はケーブルを必要とせず、デバイスにコネクタを設ける必要もないことから、小型のウェアラブル・デバイスで利用されるケースが増えています。充電電流が10mAに満たないアプリケーションは消費電力が小さいので、ワイヤレス・チャージャ・レシーバーとトランスミッタ間のクローズドループ制御は必要ありません。しかし、充電電流がこれより大きい場合は、レシーバー側が必要とする電力量、および、レシーバーとトランスミッタの間のカップリング係数に基づき、トランスミッタ側で出力を能動的に調整することが不可欠になります。これを行わない場合、レシーバーが熱の形で余分な電力を消費することを強いられ、使い勝手に影響を与えたりバッテリを劣化させたりする結果となります。通常、このようなクローズドループ制御を行うには、レシーバーからトランスミッタへのデジタル通信が使われますが、デジタル制御を行うと全体的な設計が複雑になり、アプリケーションのサイズも大きくなります。
本稿では、レシーバー・ボード上の部品点数(および貴重な全体的フットプリント)を増やすことなく、レシーバーとトランスミッタ間でクローズドループ制御を行う方法を紹介します。この概念を実証するために、LTC4125 AutoResonant™トランスミッタとLTC4124ワイヤレス・リチウムイオン・チャージャ・レシーバーを1個ずつ使って、クローズドループ制御ワイヤレス・チャージャのプロトタイプを作成します。
デューティ・サイクル制御入力を備えたAutoResonantトランスミッタ
LTC4125はモノリシック、フルブリッジ、AutoResonant方式のワイヤレス・パワー・トランスミッタで、レシーバーが最大限の電力を使用でき、また全体的な効率が向上すると共に、ワイヤレス充電システムが十二分に保護されるよう設計されています。
LTC4125は、送電コイル(LTX)と送電コンデンサ(CTX)で構成される直列共振タンクを駆動するためのAutoResonantコンバータを実装しています。このAutoResonantドライバは、ゼロ交差検出器を使用して、その駆動周波数をタンクの共振周波数に合わせます。SW1ピンとSW2ピンは、LTC4125内にある2つのハーフブリッジの出力です。SWxピンが、負側から正側へゼロ交差する出力電流の方向を検出すると、SWxピンは、対応するPTHxピン電圧に比例するデューティ・サイクルのVINに設定されます。SWxピンがVINに設定されると、トランスミッタの共振タンクに流れる電流が増加します。したがって、各ブリッジ・ドライバのデューティ・サイクルはタンク電流の振幅を制御します。この振幅は送電電力と比例関係にあります。デューティ・サイクルが50%未満の場合のタンク電流と電圧の波形を図1に示します。タンク電流振幅の絶対値は、ワイヤレス・レシーバーからの反射負荷インピーダンスを含む全体的なタンク・インピーダンスによって決まります。
通常動作時のLTC4125は、PTHx電圧を設定する内蔵の5ビットDACを使ってSWxのデューティ・サイクルを掃引し、有効な負荷を探索します。FBピンが特定の電圧変化パターンを検出すると掃引が停止され、デューティ・サイクルは設定された時間(通常は3秒から5秒程度)だけそのレベルに維持されます。その後は新しい掃引サイクルが開始されて、同じステップが繰り返されます。ある掃引周期中に負荷条件が変化した場合、LTC4125は次の掃引周期開始時にこれに対処します。
クローズドループを形成するには、制御入力に基づいてブリッジ・ドライバの送電電力を調整する必要があります。LTC4125の特徴の1つは、PTHxピンがブリッジ・ドライバのデューティ・サイクルのインジケータであるだけでなく、このピンをデューティ・サイクルを設定するための入力としても駆動できることです。内蔵の5ビットDACは、内部プルアップ抵抗によってPTHxピンの電圧目標値を設定します。ただし、図2に示すように、FETと直列に接続した外付けのプルダウン抵抗を使ってPTHxピンのコンデンサを能動的に放電させ、PTHxピンの平均電圧を下げることができます。このプルダウンFETのゲートにおけるPWM信号のデューティ・サイクルが、PTHxピンの平均電圧を制御します。
LTC4125は、条件に適合するレシーバーに5W以上の電力を供給できるように設計されています。LTC4124レシーバーと組み合わせる場合は、ハーフブリッジ・ドライバの一方をオフにして送電電力を小さくすることができます。これは、SW2ピンをオープン状態にし、PTH2をGNDに短絡することによって行います。更に、SW1ピンとGNDの間に送電共振タンクを接続できます。これにより、LTC4125をハーフブリッジ・トランスミッタとして使用し、PTH1ピンのゲインを小さくして制御範囲を広げることができます。
LTC4124を使ってワイヤレス・チャージャ・レシーバーからの帰還信号を生成
LTC4124は、スペースに制約のあるアプリケーション用に設計された高集積の100mAワイヤレス・リチウムイオン・チャージャです。効率的なワイヤレス・パワー・マネージャ、ピン接続による設定が可能なフル機能のリニア・バッテリ・チャージャ、および理想的なダイオードPowerPath™コントローラを内蔵しています。
このLTC4124に内蔵のワイヤレス・パワー・マネージャをACINピン経由で並列共振タンクに接続すれば、リニア・チャージャは、送電コイルによって生成される交流磁界からワイヤレスで電力を受け取ることができます。LTC4124が、プログラムされたレートでバッテリを充電するために必要とするよりも多くの電力量を受電した場合は、VCCピンに接続されたリニア・チャージャの入力コンデンサが充電されて余剰電力量を吸収します。VCCピンの電圧がバッテリ電圧VBATより1.05V高い電圧に達すると、ワイヤレス・パワー・マネージャは、VCCがVBATより0.85Vだけ高い値に低下するまでレシーバーの共振タンクをグラウンドにシャントします。これにより、リニア・チャージャの入力は常にその出力よりわずかに高い値に保たれるので、高い効率が維持されます。
このLTC4124のシャント動作は、送電共振タンクへの反射負荷インピーダンスを減らす役割も果たし、送電タンクの電流と電圧の振幅が大きくなります。このシャント動作はレシーバーがトランスミッタから十分な電力を受け取っていることを示しているので、送電タンクのピーク電圧の上昇は、トランスミッタがその出力を調整するための帰還信号としての役割を果たします。
帰還信号の復調とクローズドループ制御
このように、レシーバー側からの帰還信号をトランスミッタ側で使用できるので、クローズドループ制御を行うには、この帰還信号を変換してトランスミッタの制御入力へ送る必要があります。ピーク・タンク電圧は、図6に示すように、ダイオードとコンデンサCFB1で構成される半波整流回路から得ることができます。この電圧は、更に抵抗RFB1とRFB2によって分圧されます。ピーク電流の変化を検出するために、ピーク電圧信号は、抵抗(RAVG)とコンデンサ(CAVG)によって形成されるローパス・フィルタを介して平均されます。この平均信号をオリジナルのピーク電圧信号と比較することによって、矩形波パルスを生成できます。更にこのパルスは、トランスミッタの出力を調整するためにLTC4125のデューティ・サイクル制御入力に送られます。
レシーバーに十分な電力量が供給されていない場合、LTC4125は出力電力を上げる必要があります。これは、PTHxピンの内部電圧目標を設定することによって実現できます。PTHMピンはLTC4125の探索期間開始前に5ビットDACの初期電圧レベルを設定するので、内部電圧目標はこのピンによって設定できます。動作中のPTHxピン目標電圧を初期値に固定したまま、1V電圧リファレンスをIMONピンに接続すれば、探索をディスエーブルすることができます。LTC4124レシーバーがより多くの電力を必要とする場合はシャント動作が停止され、PTHx放電FETは動作しなくなります。PTHx電圧は、LTC4124に十分な電力が供給されてシャント動作が開始されるようになるよう、内部電圧目標値まで上げられます。
最大送電電力は、レシーバーがそのアプリケーションの最も厳しいカップリング係数位置で最大充電電流を調整しているときのPTHx電圧を測定することによって決定されます。PTHMピン電圧は、最大送電電力条件を満たせるように設定する必要があります。
LTC4124とLTC4125をベースとするクローズドループ・ワイヤレス・チャージャの機能と性能
LTC4125ベースのクローズドループ制御トランスミッタと、LTC4124ベースの100mAレシーバーの全体配線図を図7に示します。配線図に示すように、受電側に必要な部品数はごくわずかで、レシーバーのコスト削減と小型化を実現できます。送電側では、LTC4125の標準的なアプリケーションと比較して、わずかな追加部品を使用するだけでクローズドループ制御を実現できます。AutoResonantスイッチング、複数の異物検出方法、過熱保護、共振タンク過電圧保護を含め、LTC4125のほとんどの機能はそのまま使用可能です。これらの機能の詳細についてはLTC4125のデータシートを参照してください。
LTC4125ベースのクローズドループワイヤレス・トランスミッタは、レシーバーが必要とする電力に合わせて出力を動的に調整することができます。受電コイルが送電コイルの中心からずれてすぐに元の位置に戻ったときの、このワイヤレス・チャージャの動作を図8に示します。LTC4125トランスミッタの出力はピーク送電タンク電圧VTX_PEAKによって示されますが、この出力は2つのコイル間のカップリング係数の変化にもスムーズに応答しており、充電電流は一定に保たれています。
充電電流上昇トランジェント時はLTC4124のシャント動作が停止し、LTC4125がそのPTH1ピンを内部で充電できるようにします。その結果、LTC4125は、トランスミッタの出力を上げるために、そのハーフブリッジ・ドライバのデューティ・サイクルを増やします。トランスミッタの出力がLTC4124による充電電流の調整に十分な大きさになると、シャント動作が再開されてデューティ・サイクルが最適なレベルに保たれます。充電電流下降トランジェント時は、LTC4124のシャント動作の頻度が増します。LTC4125はPTH1ピンのコンデンサを速やかに放電してデューティ・サイクルを減らし、送電電力を小さくします。
送電される電力とレシーバーが必要とする電力が常に一致しているので、クローズドループ制御を行わないLTC4124およびLTC4125ベースのワイヤレス・チャージャの標準的構成と比較して、全体的な効率が大幅に向上します。効率曲線はスムーズで、LTC4125のOptimum Power Search動作時に見られる内蔵DACステップもありません。また、電力損失が大幅に減少するので、LTC4124チャージャとバッテリの温度は充電時間全体を通じて室温に近い値に維持されます。
まとめ
LTC4125は、制御入力を持つ出力調整可能なトランスミッタとして構成することができます。トランスミッタに帰還信号を提供するためには、LTC4124ワイヤレス・チャージャ・レシーバーのシャント動作が使用できます。この帰還信号は、半波整流回路、分圧回路、ローパス・フィルタ、およびコンパレータを使って復調できます。更に、この処理された信号を出力調整可能なLTC4125ベースのトランスミッタに入力して、クローズドループ制御を行うことができます。ここでは、この概念を実証するためにプロトタイプを作成しました。このプロトタイプは、カップリング係数と充電電流の変化に対して高速かつスムーズに応答します。この方法を使用すれば、トランスミッタとレシーバーの間に大きな位置ずれがあったとしても、エンドユーザはレシーバーが必要な電力を得られるかどうかを心配することなく、トランスミッタの上にレシーバーを置いて充電を行うことができます。更にこのクローズドループ法は、トランスミッタの出力電力とレシーバーが必要とする電力を常に一致させることによって全体的な効率も改善し、全充電時間を通じてはるかに安全で信頼性の高い状態を維持します。