絶縁設計の隠れたコストを回避する――次世代ソリューションにより、プロジェクトのリスクを管理
自動車の電動化
新たに導入される電動システムには、小型化と軽量化が求められます。典型的な例が車載システムです。プロフェッショナル・サービス・ファームであるPwCは、2024年までに自動車の世界売上高のうち40%は、ハイブリッド車と完全な電気自動車で占められるようになると予測しています。自動車の電動化が進むということは、より多くの電気部品や電動システムが使われるようになるということです。それに伴い、絶縁技術に対するニーズが急速に高まっています。例えば、最近では、400VDC のバッテリ・スタックを備えた電気自動車が一般的になってきました。このような高い電圧を使用する車で安全の確保が必須の要件になるのは当然のことです。
電動化に伴い高まる絶縁の必要性
次世代の絶縁ソリューションを提供するには、数多くの多様な課題に対応しなければなりません。車載電動システムには、特に絶縁に関して、アジリティと柔軟性の面で制約になる複雑なアーキテクチャとプロセスが含まれています。つまり、それらは絶縁に関する変更を適用する上での障壁になるということです。競争とグローバル化のペースが加速したことから、企業は、製品を市場に投入するまでの期間(TTM)と投資対効果(ROI)をより重視せざるを得なくなりました。このことは、開発部門は従来よりも厳しいスケジュールに完璧に対応しなければならないということを意味します。設計や開発については、リソーシングの精査と強化が進められています。ただ、重要なすべての領域に、経験豊富な人員が存在するというわけではありません。ROIの目標を達成するためには、繰り返し作業を最小限に抑える必要があります。例えば、何らかの事情で設計をやり直すといった事態は、極力避けなければならないということです。また、競合他社からの圧力を受け、製品の差別化を更に推し進めるために、短期間のうちに性能目標が押し上げられてしまうこともあります。更に、規制機関の新設や規制の強化に伴って、アプリケーションの試験や認証の面で、新たなハードルが生じてしまうこともあります。絶縁に対する需要が急増している一方で、リスクはより高まっているということです。
絶縁設計について理解する
絶縁設計という言葉で一括りにされがちですが、個々のアプリケーションで実際に求められる事柄は非常に複雑です。絶縁設計を行う際には、まず絶縁に対する要求レベルを決定します。次に、絶縁を施したデータ・パスを適切に機能させるために、絶縁された電源を供給する手段を検討します。更に、このような事柄を踏まえたソリューションを、定められたスペース内に収められるようにしなければなりません。こうした過程では、設計上の多くのトレードオフに対処する必要があります。しかも、新たなプロジェクトでは、設計上の要件を満たすだけでなく、個々の設計目標も達成しなければならないはずです。技術的な難易度、過去の設計との類似性、スケジュール、リソーシングといった複数の要素を結びつけ、再利用する部分と新規設計を行う部分を決定します。新規設計の部分については、その実現方法も選択しなければなりません。一般に、過去の設計やアーキテクチャに最小限の変更を加えて再利用すれば、開発期間の短縮やリスクの低減を図ることができます。しかし、新たな機能を追加したり性能を改善したりするためには、多くの場合、新たなアプローチについて検討しなければなりません。つまり、設計に付加価値を加えるためには、新たな技術や改善された技術の評価が必要になるということです。その作業に、貴重な開発リソースが費やされてしまうことが問題になる可能性もあります。
従来のアプローチの限界
現在では、上述した事柄のうちの多くを容易に解決できるようになっています。なぜなら、IC化された絶縁型DC/DCコンバータが登場したからです。言い換えれば、安全規格に適合することが実証された、小型で使いやすいソリューションが提供されるようになったということです。ここで、新たなプロジェクトが承認されるまでの1つのシナリオを考えてみます。そのプロジェクトでは、過去の設計を再利用することを前提とします。ただし、新たな機能を追加すると共に、より高い性能を達成しなければなりません。設計チームのメンバーは、直ちに業務に取り掛かれる状態にあります。しかし、プロジェクトのリーダーは、失敗の可能性のある技術的な事柄について懸念を持っています。しかも、予算とスケジュールが厳しいという条件の下で、複雑化が進む状況に対処しなければなりません。
このようなプロジェクトを管理する際には、1つの大きな課題に直面することになります。それは、より厳しい条件が課せられるEMC(電磁両立性)の規格を満たすことです。新たに誕生した市場やアプリケーションでは、より多くのEMC規格に準拠することが求められます。性能の限界を追求するたびに、そのハードルはより高く設定されるようになります。
絶縁型フライバック・コンバータなど、ディスクリート部品を使用する既存のソリューションには、BOMコストを抑えられるといった長所があります。ただ、短所も併せ持っています。図1に、一般的なフライバック・コンバータの回路図を示しました。この回路は、2次側で整流とフィルタ処理を担う絶縁トランスを駆動するためのコントローラを備えています。また、光学手法で絶縁を実現した帰還回路を備えています。この回路において、エラー・アンプの部分には、電圧ループを安定化するための補償回路が必要になります。これを開発するためには、それなりの技術的な労力が必要になります。なぜなら、フォトカプラの性能のばらつきに対応しなければならないからです。フォトカプラは、電源回路で使用できる安価なアイソレータだと捉えられることがよくあります。ただ、フォトカプラは電流伝導率(CTR:Current Transfer Ratio)にばらつきがあるという欠点を持ちます。このことにより、電圧帰還性能と有効動作温度範囲の面で制約が生じます。CTRは、LEDの入力電流に対するトランジスタの出力電流の比として定義されます。その特性は非線形で、デバイスごとにかなりばらつきます。通常、フォトカプラは初期CTRについて、2:1の不確実性を持ちます。それが、大出力/高密度の電源のような高温環境で数年間使用すると、最大50%ほど劣化することがあります。プロジェクト・マネージャにとって、ディスクリート構成のフライバック手法はコストの点では優れているように見えるはずです。しかし、技術的な労力と技術的なリスクの面で、トレードオフが存在することを認識しておかなければなりません。
ディスクリート部品を使用する手法については、もう1つの懸念があります。それは、安全基準への準拠に関することです。安全性に関する認証機関は、ディスクリート部品を使用した設計については、非常に詳細な検査を実施します。その種の設計によって必要な認証を得るには、再設計と再検査を繰り返さなければならないことが少なくありません。
システムに絶縁を適用すると、電源の設計が複雑になります。絶縁を必要としない標準的な設計では、入出力電圧範囲、最大負荷電流、ノイズとリップル、トランジェント性能、起動時の特性といった事柄が設計上の条件になります。一方、絶縁バリアを適用するということは、入力と出力の状態を同時に監視することが、本質的に難しくなるということを意味します。言い換えると、絶縁バリアを適用すると、必要な性能を満たすことがより困難になるということです。また、分離されたグラウンド領域は、ダイポール・アンテナを形成します。絶縁バリアを越えるコモン・モード電流は、ダイポールを励起して不要な放射エネルギーを発生させます。
試験に合格するための労力
先述したように、ディスクリート構成の電源設計によってEMCの認証を得るには、多くの場合、基準を満たすために数回の繰り返し作業が発生します。当然のことながら、EMCの試験には時間と費用がかかります。また、開発チームは、外部のEMC認証施設で行われる試験の準備などに多くの時間を費やさなければなりません。問題が発生した場合には、実験室に戻ってトラブルシューティングと修正を行います。更に、修正によって基本性能が低下しなかったことを確認するために、設計内容のすべてを再評価しなければなりません。その作業が完了したら、再試験のためにEMC施設に戻ることになります。
ディスクリート構成の絶縁型電源を開発する際、最終段階では安全性に関する認証も得る必要があります。これも時間と費用がかかる工程です。認証を得るには、外部機関に試験を依頼しなければなりません。それに向けて、設計チームは大量のドキュメントを用意します。それらのドキュメントは、認証機関によって慎重に精査されます。新規の部分は追加で調査されることになるので、過去に認証済みの回路をできるだけ再利用することが望ましいとも言えます。認証機関から、安全性を確保するための要件を満たしていないという判断が下された場合には、回路に変更を加えることもあるでしょう。そうなると、変更後の設計を再評価し、EMC試験からやり直さなければならなくなります。
より優れたソリューション
上述した問題に対する答えは、完全に集積化され、EMC性能に関するドキュメントが用意されており、安全規格に準拠するという認証を取得済みのコンポーネントを採用することです。そのようなコンポーネントの例としては、アナログ・デバイセズの「ADuM5020」、「ADuM5028」が挙げられます。これらの製品は、isoPower®技術を適用した絶縁型DC/DCコンバータです。EMC性能に優れることを特徴とします。-40°C~125°Cの動作温度で、5VのDC電圧から最大0.5Wの絶縁出力を供給することが可能です。また、UL、CSA、VDEから、システム・レベル/コンポーネント・レベルの複数の安全規格を満たすという認証を得ています。図2に、簡素な2層プリント回路基板にADuM5020を実装した例を示しました。この基板を全負荷の状態で使用しても、CISPR 22/EN 55022のクラスBで定められた放射性エミッションの要件を満たすことができます。
16ピン/8ピンのワイド・ボディSOICという小型のパッケージを採用しているため、わずかな実装面積しか必要としません。また、放射性エミッションの目標を満たすための安全容量も不要です。例えば、ディスクリート構成で組み込みスティッチング・コンデンサを使用するという場合には、正確に容量値を実現するためには、間隔をカスタマイズした4層以上の基板が必要になります。ADuM5020/ADuM5028を採用すれば、ディスクリート構成の場合よりも、小型で安価に絶縁型電源を実現できます。
複雑化を排除し、多くの絶縁ニーズに対応
自動車をはじめとする輸送機器の電動化が進むにつれ、絶縁に対するニーズも高まっています。それに伴い、競争が激化することから、コストの削減と市場投入までの期間の短縮がより重要な課題になっています。また、絶縁設計は元来複雑なものですが、現在ではより厳しい規格への準拠も求められています。こうした需要と課題に対応するには、従来の絶縁手法では不十分です。より適切な対処方法は、完全に集積化され、EMC性能に関するドキュメントが用意されており、安全規格に準拠するという認証を取得済みのコンポーネントを採用することです。すなわち、絶縁型DC/DCコンバータICこそが、システム設計者にとっての最適なソリューションになります。そうしたICを使用することにより、設計の複雑さが劇的に解消され、より容易にEMC規格の認証を得ることができます。つまり、再設計、再評価、再試験に費やす時間が大幅に削減されます。その結果、設計者は、基板面積の削減、リスクの低減、コストの削減、開発期間の短縮に注力できるようになります。
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