概要
設計リソース
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0555-EBZ ($40.00) EVAL-CN0555-EBZ
機能と利点
- 433MHz ISM帯の受信用に最適化
- 40dBの受信ゲイン
- 自動ターン・オフ/オン機能を備えた過電圧保護回路
- USBケーブルで給電
参考資料
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EVAL-CN0555-EBZ User Guide2022/11/23WIKI
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CN0555: 過電力保護機能を備えた、USB 駆動 433.92MHz RF 低ノイズ・アンプ・レシーバー2022/11/23PDF1 M
回路機能とその特長
国際電気通信連合(ITU)によって、433.92MHz の産業、科学、医療用(ISM)無線帯域が地域 1(地理的にはヨーロッパ、アフリカ、ロシア、モンゴル、およびアラビア半島)での使用に割り当てられています。もともとは、無線通信以外のアプリケーションを対象としていましたが、長年にわたるワイヤレス技術の進歩や規格の改定により、ISM 帯は狭域ワイヤレス通信システムで広く使用されるようになってきました。
433.92MHzの帯域は、ITU地域1のオペレータには免許不要で、ソフトウェア無線、医療機器、重機向けの産業用無線制御システムで多くのアプリケーションが使われています。米国では、433.92MHz の周波数帯域は、周波数範囲が 420MHz~450MHz の70cm アマチュア無線帯域に入るため、免許を保有するアマチュア無線基地で用いられる場合があります。また、この周波数帯域は、ガレージ・ドア・オープナ、ヘッドフォン、ベビー・モニタ、電源スイッチや調光器具のリモコンなど、低消費電力の短距離アプリケーションで広く用いられています。
図1 の回路は、433.92MHz ISM帯のレシーバー・シグナル・チェーン用に最適化された 2 段の RF 低ノイズ・アンプ(LNA)です。中心周波数では、回路のゲインは約 40.5dB になります。RF 入出力ポートは、50Ω のインピーダンス・マッチで設計されており、回路と標準的な 50Ω システムとの直接接続が可能です。入力にはフィルタがないため、1.4dBのノイズ指数が維持されます。一方、出力の SAW フィルタが帯域外の干渉を除去します。
この回路は、レシーバー・システムに接続された下流の過電力に弱い装置を保護するために、高速の過電力ディテクタおよびシャットダウン・スイッチを内蔵しています。RF 電力レベルが許容可能な範囲内に低下すると、レシーバー・システムも自動的に通常動作に戻ります。RF の入出力は標準的な SMA コネクタを介して行われ、設計回路全体には 1 個のマイクロ USB コネクタから給電されます。
回路説明
Rev.0 を翻訳したものです。最新版は英語資料をご覧ください。
RF アンプ段
CN0555 では、2 つの ADL5523 低ノイズ・アンプを使用して RF信号パスを形成します。ADL5523 は、高性能ガリウム・ヒ素(GaAs)擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(pHEMT)RF 低ノイズ・アンプで、高ゲイン低ノイズ指数が特長です。図2 に代表的な S パラメータ性能を示します。ゲインの代表値は21.5dB、反射損失は全周波数範囲で 10dB よりも大きくなっています。.
ADL5523 の代表的なノイズ指数は 0.8dB、1dB 圧縮ポイント(P1dB)は 21dB、3 次インターセプト・ポイント(OIP3)は34dB です。2 つの ADL5523 アンプがカスケード接続され、全体ゲインは 40dB になっています。
インピーダンス・マッチング・ネットワーク
最高の性能を発揮するために、ADL5523 には、目的の周波数に対しインピーダンスを調整した外部マッチング・ネットワークが必要です。入力マッチング・ネットワークには、インダクタがRFINピンと直列に配置され、またシャント・コンデンサが接続されています。同様に出力側に対しても、マッチング・ネットワークはバイアス・ラインにインダクタとコンデンサを使用しています。図 3 にインピーダンス・マッチング・ネットワークの全体と、カスケード接続した 2 つの ADL5523 アンプの構成を示します。
入出力インピーダンス・マッチングには、これらの部品を適切に配置することも重要となります。そのため、CN0555はADL5523データシートにある 500MHz のチューニング帯域に対する推奨レイアウトおよび部品サイズ値に従います。
SAW フィルタ
CN0555 の LNA 出力は、表面弾性波(SAW)フィルタによってフィルタリングされます。これは不要な帯域外アンプの除去に役立ちます。フィルタの選択時には、帯域平坦度と帯域外除去性能のバランスをうまく取る必要があります。SAW フィルタは、挿入損失の原因ともなり、シグナル・チェーン全体のゲインを低下させるため、選択時にはこの点を考慮する必要があります。CN0555 で用いている SAW フィルタの挿入損失の代表値は 2dB、終端インピーダンスは 50Ω です。
RF ディレクショナル・カプラ
CN0555 は、薄型で超小型の高性能 3dB 90º ハイブリッド・カプラを備えています。このデバイスの動作周波数は 400MHz~900MHz、入力および出力インピーダンスは 50Ω、代表的な挿入損失は 0.3dB(433.92MHz)です。
RF スイッチ
ADG901 は、CMOS プロセスを使用した広帯域 RF スイッチで、高絶縁と低挿入損失が特長です。これは、50Ω 終端の入出力を備えた吸収スイッチです。このスイッチにより、DC 阻止コンデンサを使用せずに最大 0.5V の DC 信号を通過させることができます。
ADG901 は DC~4.5GHz の範囲で動作し、4.5GHz での挿入損失は 3dB です。中心周波数が 433.92MHz の場合、図 4 に示すように「オン状態」での代表的な挿入損失は約 0.4dB です。また図 5に示すように「オフ状態」での代表的な挿入損失は約 70dB です。
フィルタ、カプラ、RF スイッチからの挿入損失を組み合わせると、通常動作状態の RF スイッチ出力で挿入損失の合計は約2.7dB になります。
RF 性能
CN0555 の S パラメータ、位相ノイズ測定、スプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)、ノイズ指数、安定性指標を以下に示します。
433.92MHzの中心周波数では、CN0555のゲインは40.5dB、入力および出力の反射損失は 10dB よりも小さくなっています。図 6に動作範囲全体の S パラメータ値を示します。
433.92MHzでの単側波帯位相ノイズを図 7に示します。オフセットが 10Hz の場合約−98dBc/Hz、1MHz の場合約−131dBc/Hz、10MHz の場合約−149dBc/Hz となっています。
SFDR が 58.38dBFS のときの狭帯域シングル・トーンの RF 出力を図 8 に示します。
図 9 に、中心周波数を 433.92MHz とし、約 0.8dB の周波数範囲にわたり対応するノイズ指数を示します。
システムは、433.92MHz ISM 周波数帯域幅全体で安定しており、Rollet の安定係数(k)は 1 を超え、補助安定性指標(B1)は 0を超えています(図 10 参照)。そのため、CN0555 は、ソース・インピーダンスと負荷インピーダンスの任意の組み合わせに対し無条件に安定です。
過電力保護
CN0555 には過電力保護機能が実装されており、出力電力がプリセットされた閾値を超えた場合に基板の RFパスが自動的に絶縁されます。この機能は、ADL5904 RFパワー・ディテクタを使用して実行されます。
ADL5904 は、抵抗で設定可能な検出閾値を持ち、内部のエンベロープ・ディテクタからの電圧とユーザ定義の入力電圧を比較します。エンベロープ・ディテクタからの電圧が、VIN−ピンでのユーザ定義スレッショールド電圧を超えると、内部コンパレータがこのイベントを検出し、セット/リセット(SR)フリップ・フロップによってこれをラッチします。図 11 に CN0555 の過電力保護回路を示します。
図 11 に示すように、増幅された RF 入力は、3dB 90º ハイブリッド・カプラでサンプリングされます。この電力は、ADL5904 のRFIN ピンに転送され、次いで内部エンベロープ・ディテクタでサンプリングされます。ADL5904 の VIN−ピンでのスレッショールド電圧は、抵抗分圧ネットワークで設定され、その値は式 1を用いて計算できます。
ここで、
VIN−は ADL5904 の VIN−ピンの電圧レベル、
R10はユーザ設定抵抗値、
R11はユーザ設定抵抗値、
IBIASは入力バイアス電流です。
CN0555 は、0dBm の入力閾値電力で設定され、レシーバー・システム下流に接続された敏感な機器を保護します。表 1 に示すように、0dBm の閾値電力は、900MHz で動作する場合、241mVの VIN−電圧レベルに相当します。
Input Threshold Power (dBm) | Threshold Voltage (mV) | ||
100 MHz | 900 MHz | 1900 MHz | |
-2.0 | 193 | 193 | 192 |
-1.0 | 216 | 216 | 215 |
0 | 239 | 241 | 241 |
1.0 | 268 | 272 | 270 |
2.0 | 300 | 304 | 303 |
VIN−の閾値レベルは抵抗分圧器で設定されます。R10 および R11の絶対値は、3.3V レールへの負荷を最小限に抑えると同時にリークやバイアス電流の影響を受けない出力インピーダンスとなるよう、選択されます。R10 を 13.7kΩ に設定すると、R11 の値は1.02kΩ となります。これによる分圧器電流は 224µA という無視できる小さな値となり、出力インピーダンスは 991Ωとなります。
VIN- = 241 mV
IBIAS = 20 μA
R10 = 13.7 kΩ
R11 = 991Ω または 1.02kΩ(標準抵抗器の値を使用)
最も近い標準抵抗器の値を用いて式1を解くと、VIN−の電圧レベルは 241.9mV になります。電力が閾値を超えると、過電力イベントが生じ、RF パスを絶縁します。
ADL5904 では RF 閾値電力に最大+2.5dBm の誤差レベルが生じますが、この値はデバイスによって異なる場合があります。正確な閾値電力が必要な場合は、簡単なキャリブレーション・ルーチンを実行してデバイスごとの違いを補償する必要があります。キャリブレーション・ルーチンの詳細については、ADL5904 のデータシートを参照してください。
自動リセット機能
CN0555 には、電力レベルが許容可能な範囲に復帰した場合に動作する、自動リセット回路も備わっています。この機能は、プログラマブルな低周波数タイマ LTC6991 によって実行されます。
図 12 に示すように、通常動作時は、ADL5904 のQ出力によりLTC6991 はリセット・モードに保持されます。過電力イベントが発生すると、LTC6991 はイネーブルされ、4ms の遅延が始まります。4ms 経過後、ADL5904 はリセットされ、実質的に電力レベルはリサンプリングされます。過電力状態が続いている場合、ADL5904 は再度トリップし、RFスイッチの制御信号は低電圧状態になります。このシフト・イン信号が ADG901 スイッチの RF入出力を絶縁します。過電力イベントが終了すると、ADL5904は電力レベルのリサンプリングを開始し、通常状態に復帰します。
過電力保護テスト
図 13 に、CN0555 の過電力保護機能をテストするために用いるセットアップを示します。このテストでは、RF 信号発生器の中心周波数を 433.92MHz に設定し、入力電力を−50dBm から−40dBm へ増加させました。CN0555 の出力電力は、高速オシロスコープでモニタしました。このオシロスコープにより、過電力イベントが生じてから出力電力が減衰するまでの応答時間が示されます。
図 14 に過電力保護の応答時間を示します。このグラフによると、通常動作から RF 出力電力が減衰するまでの CN0555 の出力応答時間は約 9ns です。図 15 には、過電力状態が終了してから電力レベルが受け入れ可能な範囲に戻るまでの回復時間を示します。このデータは、減衰した RF出力が通常動作に戻るまでの遅延が7ns であることを示しています。
USB パワー・マネージメント
CN0555 は、マイクロ USB ポートを介し 5V 1A(代表値)を供給するマイクロ USB アダプタを通じ、電力を供給します。通常動作時、この回路には約113.61mAの電流が必要です。この電力条件は 2 つの電源電圧を用いて実現できます。1 つめの電源はADL5523 低ノイズ・アンプ、ADL5904 RF ディテクタ、およびLTC6991 低周波数タイマ用に、3.3V の電力を供給します。もう1 つの電源は、ADG901 RF スイッチ用に 2.5V を供給します。図16 に CN0555 パワー・ツリーの全体を示します。
LT3042 は、超低ノイズと超高電源電圧変動除去比(PSRR)を特長とする高性能の低ドロップアウト(LDO)リニア電圧レギュレータで、ノイズに敏感な RFアプリケーションへの給電に用いることができます。高性能電圧バッファを伴う高精度電流リファレンスとして設計された LT3042 は並列化が容易であるため、更なるノイズの低減、出力電流の増加、プリント回路基板上の熱の分散が可能です。図 17 に LT3042 を 3.3V 出力用に設定するために必要な基本構成を示します。
LT3042 は、SET ピンに 100µA の高精度電流源を内蔵しており、またこの電流源はアンプの反転入力にも接続されています。図17 では、SETピンと GNDの間に抵抗を接続してリファレンス電圧が生成する構成が示されています。このリファレンス電圧は、式 2 に示すように、SET ピン電流 100µA と SET ピンの抵抗を単に掛け合わせたものです。
ADM7170-2.5 LDO レギュレータは、ADG901 RF スイッチに必要な電源電圧を生成するために用いられています。このデバイスは、入力電圧範囲が 2.3V~6.5V、固定出力電圧が 2.5V です。ADM7170-2.5 が適切に動作するために必要なのは、入力コンデンサと出力コンデンサのみです。特に、ADM7170-2.5 は、入力ピンと出力ピンに 4.7µF の小型デカップリング・コンデンサを使用することができます。
バリエーション回路
ADL5521 は、433.92MHz ISM 帯を用いるアプリケーション向け低ノイズ・アンプの代替品として使用できます。このデバイスは、わずかにゲインが低く、また、ノイズ指数、OIP3、OP1dBが大きくなっています。ADL5521 は、ADL5523 と同じ電力レベルで動作できます。どちらのデバイスもフットプリントは同じです。
ADG902 を、RF スイッチとして使用することも可能です。このデバイスは ADG901 とピン互換性があり仕様も同じですが、これは反射スイッチであり、より低い絶縁損失を提供できます。
アナログ・デバイセズでは、5.8GHz ISM 帯で動作するレシーバー・アンプ向けのリファレンス設計も同様に提供しています。詳細については、CN0534 回路ノートを参照してください。
回路の評価とテスト
このセクションでは、CN0555 を評価するためのセットアップと手順を説明します。回路評価のセットアップの詳細については、EVAL-CN0555-EBZ ユーザ・ガイドを参照してください。
必要な装置
- EVAL-CN0555-EBZ 回路評価用ボード
- Rohde & Schwarz® SMA100B 信号発生器
- Keysight® E5052B シグナル・アナライザ
- Keysight N5242A PNA-X ベクトル・ネットワーク・アナライザ
- 5V のマイクロ USB 電源アダプタまたはマイクロ USB - USBケーブル
- SMA - SMA ケーブル
セットアップとテスト
図 18 に、EVAL-CN0555-EBZ とベクトル・ネットワーク・アナライザの間の適切なポート接続を示します。
S パラメータおよびノイズ指数の測定手順は次のとおりです。
- 次のように、ベクトル・ネットワーク・アナライザに必要な測定条件を設定します。
- 周波数範囲を 400MHz~500MHz に設定します。
- 周波数ステップ・サイズを 10kHz に設定します。
- パワー・レベルは−45dBm 以下にする必要があります。
- キャリブレーション・キットを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのフル 2 ポート・キャリブレーションを実施します。EVAL-CN0555-EBZ の RF 入力はテスト・ポートに直接接続できるため、テスト・セットアップに必要な測定ケーブルは 1 つのみです。
- キャリブレーション済みのテスト・セットアップを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのテスト・ポートに EVAL-CN0555-EBZ を接続します。
- 5V 電源アダプタを使用して、EVAL-CN0555-EBZ に電源を供給します。
- ベクトル・ネットワーク・アナライザを設定し、個々の S パラメータとノイズ指数のパターンを表示します。
- 測定値と予想値を比較します。433.92MHz の中心周波数では、入力の反射損失値は約 16dB、出力の反射損失値は約20.4dB です。ゲインの値は約 40dB、ノイズ指数の値は1.2dB となります。
図19 に、位相ノイズとSFDR をテストするための、EVAL-CN0555-EBZとシグナル・アナライザおよび信号発生器の間の適切な接続を示します。
同じテストを実行するには、次の手順に従います。
- シグナル・アナライザに必要な測定設定を次のように行います。
- SFDR の測定では、中心周波数を 433.92MHz、周波数範囲を 400MHz~500MHz、RF 振幅を 10dBm に設定します。
- 位相ノイズの測定では、中心周波数を 433.92MHz、オフセット周波数範囲を 10Hz~30MHz に設定します。
- 信号発生器のパワー・レベルを−50dBm~−40dBm の間に設定し、中心周波数を 433.92MHz に設定します。
- 信号発生器の出力を EVAL-CN0555-EBZ の RF 入力に接続します。
- EVAL-CN0555-EBZ の RF 出力をシグナル・アナライザに接続します。
- 定格電力が 500mW より大きい 5V 電源アダプタを使用して、EVAL-CN0555-EBZ に電源を供給します。
- シグナル・アナライザで測定を実行します。
- シグナル・アナライザを使用して位相ノイズ値を取得し、10kHz オフセット時に約−125dBc/Hz になっていることを確認します。
- SFDR のテストを実行し、結果を予測値と比較します。予測値は約 60dBc です。