概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Assembly Drawings
- Allegro Layout File
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0534-EBZ ($48.15) 5.8 GHz ISM Band Low Noise Receive Amplifier
デバイス・ドライバ
コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。
機能と利点
- ゲインが23.5dB
- 5.8GHzに最適化されたLNA
- ISMバンドで動作^
- USB駆動
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
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CN0534 User Guide2021/11/23WIKI
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CN-0534: 出力電力保護機能を備えた USB 駆動 5.8GHz RF LNA レシーバー2021/11/23PDF429 K
回路機能とその特長
国際電気通信連合(ITU)は、工業、科学、および医療(ISM)用に世界中で免許なしで使用できる無線周波数を 5.8GHz帯に割り当てています。ワイヤレス技術と規格における進歩、および最小限の規制コンプライアンス要件によって、この周波数帯域は短距離ワイヤレス通信システム向けに普及してきています。
5.8GHz 帯は、多くのチャンネル数と広い帯域幅が利用できることから、短距離デジタル・コミュニケーション・アプリケーション(WiFi など)に適しています。伝送範囲は 2.4GHz 帯と比べて短いものの、150MHz の帯域幅が確保されているため、最大 23 の WiFi チャンネルが重なることなく収容できます。更に一般的には、ソフトウェア無線、ワイヤレス・アクセス・ポイント、公共安全無線、ワイヤレス・リピータ、フェムトセル、およびマイクロ波アクセス(WiMAX)/4G の基地局(BTS)インフラ向けのロング・ターム・エボリューション(LTE)/世界規模の相互運用性などに使用されています。
この設計は、小型のフットプリントに高ゲイン、堅牢な過電力監視機能、および保護機能をすべて備えており、低い信号強度や距離が問題になることがあるすべての ISM バンドのアプリケーションに大きな付加価値を提供します。
図 1 に示す回路は、ゲインが+23dB の高性能 RFレシーバー・システムで、中心周波数 5.8GHzで動作するように最適化されています。入力にはフィルタがないため、2dB のノイズ指数が維持されます。一方、出力のバンドパス・フィルタが帯域外の干渉を減衰させます。
この回路は、レシーバー・システムに接続された下流の過電力に弱い装置を保護するために、高速の過電力ディテクタおよびスイッチを搭載しています。RF 電力レベルが許容可能な範囲内に低下したときは、レシーバー・システムも自動的に通常動作に戻ります。RF の入出力は SMA 規格のコネクタを介して行われ、設計全体には 1 個のマイクロ USB コネクタから給電されます。
回路説明
RF 低ノイズ・アンプ(LNA)
HMC717A は、ガリウム・ヒ素(GaAs)、擬似格子整合型高電子移動度転送トランジスタ(PHEMT)、モノリシック・マイクロ波集積回路(MMIC)で構成された LNA であり、ISM、MC-GSM、W-CDMA、TD-SCDMA などの様々な信号通信プロトコルを対象として4.8GHz~6.0GHzで動作するバックエンド・レシーバーに最適です。
図 2 に示すように、HMC717A のゲインは RF 動作帯域を通じて14.5dB です。ノイズ指数は 1.1dB です。また、アンプには 5V 単電源から給電されて合計で 68mA の電源電流が流れます。全体のゲインを 23dB にするため、2 個の HMC717A アンプがカスケード接続されています。HMC717A は、ノイズ指数が 1.1dB、3次インターセプト・ポイント(IP3)が 27dBm、圧縮ポイント(P1dB)が 15dBm であるため、LNA の初段および中間のゲイン段の両方に適しています。
LNA のインピーダンス・マッチング
HMC717AのRFINピン(2番ピン)とRFOUTピン(11番ピン)は、図 3 に示すように、4.8GHz~6.0GHz の周波数範囲で公称インピーダンスが50Ωのシングルエンドであるため、HMC717Aはインピーダンス・マッチング回路を付加することなく 50Ω の終端システムに直接インターフェースできます。
RFOUT には DC 阻止コンデンサが内蔵されているため、2 段目にコンデンサを外付けする必要がありません。また、マッチング回路を外付けすることなく、複数の HMC717A アンプを連続してカスケード接続できます。初段の RFIN にのみ、1.2pF のコンデンサで AC カップリングする必要があります。
バンドパス・フィルタ
LNA 出力は、バンドパス・フィルタによってフィルタリングされます。図 4 により、フィルタの通過帯域は 5400MHz~6400MHz であり、中心周波数 5.8GHz で、リターン・ロスが14.7dB(代表値)、挿入損失が1.6dBであることが分かります。
過電力保護
過電力に弱い回路は、比較的低い電力レベルで損傷する場合があります。例えば、AD9363 トランシーバーの RF 入力の絶対最大電力レベルは+2.5dBm です。CN0534 は、図 5 に示すように、過電力保護機能を搭載しています。この保護機能では、電力レベルが許容範囲内に低下した場合に、回路が自動的にリセットされるようになっています。
RF パワー・ディテクタと自動リトライ回路
ADL5904 は、DC~6GHz で動作する RF パワー・ディテクタです。ADL5904の入力には、470nFのACカップリング・コンデンサと、広帯域の入力マッチングを取るための 82.5Ω のシャント抵抗を外付けすることを推奨します。ADL5904 は、内部の RFエンベロープ・ディテクタとユーザ定義の入力電圧を使用し、RF 入力電力レベルに基づいてプログラム可能な閾値検出機能を実現します。RF エンベロープ・ディテクタからの電圧が、VIN−ピンのユーザ定義のスレッショールド電圧を超えると、内部のコンパレータはフリップ・フロップへのイベントをラッチします。RF 入力信号が、ユーザがプログラムした閾値を超えてから、出力がラッチされるまでの応答は 12ns という極めて短い時間で行われます。リセット・パルスが RST ピンに印加されるまで、ラッチされたイベントはフリップ・フロップに保持されます。
CN0534 上のバンドパス・フィルタ出力の電力レベルが、結合係数が+13dB である統合化薄膜結合器によってサンプリングされ、ADL5904 のRFINピンに送られます。ADL5904 の VIN−ピンの閾値レベルは、抵抗分圧器によって約 32mV の値に設定されます。この閾値レベルは、ADL5904 のデータシートに示されているように、5.8GHz のときに補正なしで動作している場合の閾値電力(−9dBm)に相当します。結合器の損失と、減衰が 0dB 状態のRF アッテネータの損失を組み合わせると、出力は過電力に弱いデバイスに対して安全なレベルに保たれます。
高精度の過電力閾値が必要な場合は、複数の周波数で簡単なキャリブレーション・ルーチンを実行して、システム内のデバイスのばらつきを補償することができます。キャリブレーション・ルーチンの詳細については、ADL5904 のデータシートを参照してください。
ADL5904 の Q 出力は、通常動作時に LTC6991 のプログラム可能な低周波タイマーをリセット状態に保持します。過電力イベントが発生すると、LTC6991 はイネーブルされ、4ms の遅延が始まります。4ms 経過後、ADL5904 はリセットされ、電力レベルが効率的に再度サンプリングされます。過電力状態が持続した場合、ADL5904 は再度作動し、アッテネータが−20dB の状態に保持されます。電力レベルが再度サンプリングされたとき、−20dB の状態が継続的に維持されるように、アッテネータ制御信号が遅延されます。過電力状態が収まると、図 6 に示すように、アッテネータは 0dB の状態に戻り、通常動作が再開されます。
RF アッテネータ
HMC802A は、広帯域双方向の 1 ビット GaAs IC デジタル・アッテネータです。このデバイスは、バイパス・モード時の 5.8GHzでの挿入損失が 1.5dB と低く、イネーブル時の減衰量が20±0.6dB と高精度になっています。5V 単電源で動作させた場合、IP3 は+55dBmになります。また、減衰制御信号は CMOS/TTL互換です。RF スイッチは、一般的に過電力保護アプリケーションで使用されますが、5.8GHz のときに HMC802Aを使用して 20dB減衰させた状態は、ほとんどの RF スイッチをオフにしたアイソレーション状態よりも優れています。
図 7 に示すデバイス性能において、バイパス・モード時の代表的な挿入損失が、中心周波数 5.8GHz で 1.5dB であることが分かります。図 8 において、減衰モード時のアイソレーションが、中心周波数 5.8GHz で−20.5dB であることが分かります。
バンドパス・フィルタ、結合器、および RFアッテネータでの挿入損失を組み合わせると、中心周波数 5.8GHz での全体の挿入損失は、通常動作状態の RFアッテネータ出力で約 3dBになり、減衰モードで動作時に約 21.5dB になります。
保護結果
過電力保護機能は、図 9 に示すセットアップを使用してテストしました。RF 信号発生器の出力周波数を 5.8GHz に設定し、CN0534 に入力する電力を−30dBm から−20dBm に増加しました。CN0534 の出力電力を ADL6010 高速エンベロープ・ディテクタでモニタし、過電力イベントから出力電力が減衰するまでの応答時間を正確に測定しました。
過電力保護機能が作動すると、ディテクタのラッチは周波数250Hz でリセットされます。また、出力電力が 2.5dBm 未満まで低下すると、出力スイッチはイネーブルされます。過電力状態が続いている場合に、スイッチのイネーブル信号が絶対にアサートされないようにするために、このイネーブル信号は遅延されます。両方の結果は、図 10 と図 11 で確認できます。
USB パワー・マネージメント
昇圧コンバータ
図 12 に EVAL-CN0534-EBZ のパワー・ツリーを示します。このパワー・ツリーでは、マイクロ USB ジャックから 5V 電源が供給されて 1.1W の電力が消費されます。
LT8335 は、電流モード DC/DC コンバータであり、1 本の帰還ピンを使用して、正または負の出力電圧を生成できます。このデバイスは、昇圧、SEPIC、または反転コンバータとして構成可能で、消費される静止電流はわずか 6µA です。低リップルのBurst Mode 動作により、非常に少量の出力電流まで高い効率を維持できると同時に、代表的なアプリケーションにおいて出力リップルを 15mV 未満に維持できます。内部で補償される電流モード・アーキテクチャにより、広い範囲の入力電圧および出力電圧にわたって安定した動作が得られます。ソフトスタート機能と周波数フォールドバック機能が内蔵されているため、起動時にインダクタ電流が制御されます。5.6V の出力を得る場合に、LT8335 の構成に必要な基本的な接続を図 13 に示します。
出力電圧は、出力と FBX ピンの間に抵抗分圧器を接続することで設定されます。式 1 に従って、正の出力電圧を得るための抵抗値を選択します。
超低ノイズ・リニア電圧レギュレータ
ADM7150(超低ノイズ、高 PSSR、RF リニア電圧レギュレータ)からの 5V 出力は、HMC717A のゲインを最大限に高めるために使用されます。ADM7150 は低ドロップアウト・リニア電圧レギュレータであり、固定出力電圧オプションの場合に、100Hz~100kHz で 1.0µV rms(代表値)の出力ノイズを実現し、また図 14 に示すように、10kHzより高い周波数で1.7nV/√Hz未満のノイズ・スペクトル密度を実現します。
ADP150 は、パワー・ディテクタと自動リトライ回路用の 3.3Vを生成するために使用されます。図 15 に示すように、このデバイスは高性能の低ドロップアウト・リニア電圧レギュレータであり、電源ノイズの影響を受けやすい RFアプリケーション向けに、超低ノイズと超高 PSRR を実現するアーキテクチャを備えています。
バリエーション回路
より広い動作帯域幅が必要な場合は、RF LNA の代替品としてHMC8411 を使用できます。HMC8411 は、0.01GHz~10GHzで動作する低ノイズで広帯域のアンプです。このデバイスは、15.5dB(代表値)のゲイン、1.7dB(代表値)のノイズ指数、および 34dBm(代表値)の出力 3 次インターセプト(OIP3)を実現し、5V の電源電圧から必要とする電流はわずか 55mA です。HMC8411 は、内部で 50Ω に整合した入出力も備えているため、表面実装技術(SMT)ベースの大容量マイクロ波無線のアプリケーションに最適です。
RF スイッチの代替品として、HMC550A を使用できます。このデバイスは、低挿入損失と低消費電流が要求されるアプリケーションで使用される低価格の単極単投(SPST)フェイルセーフ・スイッチです。これらのデバイスは、DC~6GHz の信号を制御でき、特に、RFID、ISM、オートモーティブ、バッテリ駆動タグ、携帯機器等の IF および RF のアプリケーションに最適です。
エンベロープ・ディテクタについては、ADL6010 が代替品になります。このデバイスは、検出範囲が 45dB、周波数範囲が0.5GHz~43.5GHz である高速応答のエンベロープ・ディテクタです。ADL6010 は、マイクロ波帯域をカバーする汎用の広帯域エンベロープ・ディテクタです。このデバイスはシンプルで使い易い 6 ピン構成で、消費電力が非常に低い(8mW)ことが特長です。出力は、無線周波数(RF)入力信号の瞬時振幅に比例したベースバンド電圧です。このデバイスは 0.5GHz~43.5GHzの範囲で、RF 入力からエンベロープ出力への伝達関数のスロープ変化を最小限に抑えます。
回路の評価とテスト
以下のセクションでは、CN0534 の性能を評価するための全体的なテスト・セットアップについて説明します。詳細については、CN0534 User Guide を参照してください。
必要な装置
- EVAL-CN0534-EBZ リファレンス設計ボード
- RF 信号源(R&S® SMA100B)
- 信号源アナライザ(Keysight E5052B SSA)
- ネットワーク・アナライザ(Keysight N5242A PNA-X)
- SMA - SMA ケーブル
- マイクロ USB - USB 変換ケーブル
- 5V AC/DC USB 電源アダプタ
テスト・セットアップ
図 16 に示すセットアップで位相ノイズと SFDR を測定するには、以下の手順を実行します。
- 信号源に対して、以下ように測定の設定を行います。
- SFDR の測定では、中心周波数を 5.8GHz、周波数範囲を5.79GHz~5.81GHz、および RF 振幅を 10dBm に設定します。
- F位相ノイズの測定では、中心周波数を 5.8GHz、オフセット周波数範囲を 10Hz~30MHz に設定します。信号源アナライザのデータシートに記載されている最大入力レベルを参照して、信号源アナライザがアンプ出力(0dBm 入力時に約 20dBm)に対応できるかどうかを確認してください。必要に応じて、アッテネータを信号源アナライザの入力に接続します。
- 信号源発生器のパワー・レベルを 0dBm に設定し、中心周波数を 5.8GHz に設定します。
- マイクロ USB ケーブルと、定格電力が 500mW より大きい 5V 電源アダプタを使用して、EVAL-CN0534-EBZに電源を供給します。
- 信号発生器の出力を EVAL-CN0534-EBZ の RF 入力(J2)に接続します。
- EVAL-CN0534-EBZ の RF 出力(J1)を信号源アナライザに接続します。
- 信号源アナライザで測定を実行します。
図 17 に示すセットアップで S パラメータとノイズ指数を測定するには、以下の手順を実行します。
- 以下の設定値を用いて、ベクトル・ネットワーク・アナライザに必要な測定条件を設定します。
- S パラメータの測定では、周波数範囲を 4.8GHz~6.8GHzに設定します。
- 位相ノイズの測定では、周波数範囲を 5.3GHz~6.8GHz に設定します。
- キャリブレーション・キットを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのフル 2 ポート・キャリブレーションを実施します。EVAL-CN0534-EBZ の RF 入力(J2)はテスト・ポートに直接接続できるため、テスト・セットアップにおいて測定ケーブルは 1 本だけ必要です。
- 5V 電源アダプタとマイクロ USB ケーブルを使用して、EVAL-CN0534-EBZ に電源を供給します。
- キャリブレーション済みのテスト・セットアップを使用して、ベクトル・ネットワーク・アナライザのテスト・ポートに EVAL-CN0534-EBZ を接続します。
- 目的の S パラメータを測定するための設定を行います。
- ベクトル・ネットワーク・アナライザのオートスケール機能を実行します。その後、必要に応じて、スケールを調整します。
RF 性能
EVAL-CN0534-EBZ は、RF 信号入力を約+23dB のゲインで増幅しますが、このとき、中心周波数 5.8GHz でのリターン・ロスは−15dB になります。EVAL-CN0534-EBZ におけるゲインを図 18に示し、リターン・ロスを図 19 に示します。
5.8GHz での単側波帯位相ノイズを図 20 に示します。
SFDR が約 78dBFS のときの狭帯域シングル・トーンの RF 出力を図 21 に示します。
図 22 は、これに対応するノイズ指数の周波数特性を示しており、中心周波数 5.8GHz で約 2dB になっています。