トランス:船の錨みたいなものとは限らない

質問:

最も過小評価されているアナログ部品 は何でしょうか?

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回答:

トランスでしょう。大学時代から多くの技術 者が覚えていると思いますが、トランスといえば 電源の中にある大きな部品で、大量の鉄と 銅で出来ていて、間違えて足の上に落とし たら大変なことになるほど重たいもので した。

これは、大型の低周波(50Hz か60Hz)の電源トランスにつ いては確かにそのとおりです。 軽蔑して「船の錨」などと呼ば れていました(発電所のトランス を戦艦の上に落としたら壊滅的な損傷を与えるは ずです)。しかし、今では多種多様な安価なトラン スが出回っており、それはアスピリン錠に匹敵す るくらい小型です。

スイッチング電源は、入力が50/60Hz 電源であっ たとしても、はるかに高い周波数で動作します。 同じ電力定格の従来の電源に比べて、はるかに小 さく、軽く、安価なトランスを使用できるため、 現在では、電源に使用するトランスでさえ軽量に なっています。アナログ・デバイセズでは、この ようなスイッチング電源向けのコントローラを製 造していますが、これについては今回のRAQ では 触れないでおきましょう。

無数のAC アナログ・アプリケーションにとって、 トランスは最適な部品です。このことは60 ~ 80 年前にはよく知られており、当時のアンプは、段 間結合のためやシングルエンド回路とプッシュプ ル回路間の位相スプリッタとしてトランスをよく 使用していました。およそ40 ~ 50 年前にトラン ジスタ、そして間もなく集積回路がDC 段間結合 を使い始めたため、信号トランスの利用はほとん ど忘れられてしまいました。

多くのアプリケーションでは、こうしたDC 結合 技術はまさに最適なソリューションです。しかし、 AC 信号が絶縁バリアを越えなければならない場合 たとえば、システム内のさまざまなデバイスの信 号回路間に大きく異なる電位差があるとき)や、 ひどいグラウンド・ノイズがある場合には、トラ ンスを使用することが設計の簡素化にも性能改善 にも役立ちます。通常、トランスには絶対最大値 が数百から数千ボルトの巻線間電圧があります。 さらに、一次/二次容量が数pF を超えることはま れであり、シールド・トランスの場合はさらに小 さくなります。

グラウンド・ノイズがある状態でAC 信号を送信す る距離がかなり長くなる場合、トランスのほうが 差動アンプよりずっと優れたAC 同相ノイズ除去 (CMR)性能を発揮します。また、差動AC アンプ にシングルエンド信号を供給する場合、最高の位 相スプリッタとなるのはトランスでしょう。

そして、AC 信号の電流測定用としてはカレントト ランス(CT)もあります…


著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。