質問:
POLコンバータは、どのような理由で使用されるのですか?

回答:
変換効率と精度を高められるからです。但し、POLコンバータを利用したい場合には、いくつかの点に注意して回路を設計する必要があります。
電源は負荷のなるべく近くに配置する――。これは、供給電圧の精度、変換効率、電源レールの良好な動的応答を得るための有効な手段です。POL(Point of Load)コンバータは、それを具現化する手法の1つです。DC/DCコンバータを負荷のできるだけ近くに配置することにより、上記の目標を達成します。POLコンバータが特に有効に働くのは、高性能のCPU、SoC(System on Chip)、FPGAなどに給電する場合です。これらのICには、より多くの電力を供給する必要があります。例えば、車載分野ではADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)で使われるセンサーの数がどんどん増えています。具体的には、レーダー、LIDAR(Light Detection and Ranging)、ビジョン・システムなど、より多くのセンサーが使われるようになっています。それらを利用し、遅延時間を最小限に抑えて周囲の物体を検出/追跡するには、データ処理をより高速に行う必要があります。これは、より多くの電力が使われるということを意味します。
CPU、SoC、FPGAといったデジタル・システムは、低い電源電圧で動作し、多くの電流を消費します。このことからも、電源から負荷となるそれらのICまでの距離を最小化する必要性が高まります。消費電流が多いと、明らかな問題が生じます。それは、プリント基板において、DC/DCコンバータから負荷までのパターンによって電圧降下が生じてしまうというものです。図1、図2をご覧ください。これらは、DC/DCコンバータによってCPUに給電する場合の回路例です。ご覧のように、電源と負荷をつなぐ配線の抵抗値を最小化すれば、それによる電圧降下を抑制できます。これらの例では、まず、パターンの幅の違いによって生じる差を示しています。また、DC/DCコンバータは、スイッチング方式のコントローラICと外付けのMOSFETを組み合わせて構成しています。
図2のように、パターンの幅が広ければ電圧降下を抑えることができ、供給電圧の精度に関する要件を満たすことが可能です。但し、幅が広いパターンを使用する場合には、寄生インダクタンスについて配慮する必要があります。図2のパターンの場合、約14.1nHの寄生インダクタンスが存在すると想定できます。図3に示したパターンのモデルを使用すれば、LTspice®によってシミュレーションを実施することができます。
寄生インダクタンスは、負荷の変動に伴う電流の動的変化(di/dt)を抑制します。つまり、寄生インダクタンスを流れる電流がその時定数によって制限され、過渡応答に影響が及びます。図4に示したシミュレーション結果をご覧ください。寄生インダクタンスが原因で、電圧ドループが生じていることがわかります。
パターンの幅を広げるのではなく、パターンを短くすれば、配線抵抗を抑えて電圧降下を最小化することが可能になります。つまり、DC/DCコンバータをできるだけ負荷(CPU)の近くに配置すれば、パターンの抵抗と寄生インダクタンスの影響を抑えられるということです。ここで、図1、図2の例では、コントローラICと外付けMOSFETによってDC/DCコンバータを構成している点に注目してください。つまり、大きな負荷電流に対応するために従来型の電源ソリューションを採用しているということです。確かに、この種のソリューションであれば、アプリケーションに必要な大電流を供給することができます。しかし、このソリューションには、外付けMOSFETを配置するためのスペースが必要になるという問題があります。つまり、図5に示したような配置(レイアウト)を実現することができません。つまり、真のPOLコンバータを実現できるとは言えないということです。
この問題に対する解決策の1つが、コントローラとMOSFETを一体化したモノリシックのソリューションです。アナログ・デバイセズは、そうした降圧レギュレータとして「LTC3310S」を提供しています(図6)。この製品では、サイズを3mm×3mmに抑えています。また、最大10Aの負荷に対応できます(図6)。更に、同製品を2個並列接続で使用すれば、20Aの負荷に対応するPOLソリューションを実現可能です(詳細は後述)。

LTC3310Sは、パッケージのサイズが小さいことに加え、最高5MHzのスイッチング周波数に対応します。スイッチング周波数が高ければ、出力コンデンサ、インダクタとして値の小さいものを使用できます。つまり、ソリューション全体のサイズの小型化を図れます。図8に示したのは、LTC3310Sの負荷過渡応答です。負荷電流が8A変化した場合でも、それに伴う出力電圧の変動は±40mV未満に抑えられます。わずか110μFの出力コンデンサを使用することで、このような結果が得られるのです。
一般に、大電力に対応するモノリシック型のPOLコンバータを採用すれば、明らかなメリットが得られます。但し、製品によっては熱の問題が看過できない欠点になる可能性があります。あまりにも多くの熱を生成するPOLコンバータでは、既に高温に達しているシステム内での使用には耐えられないからです。
LTC3310Sは高い効率で動作します。そのため、同ICの内部温度の上昇は最小限に抑えられます(図9)。したがって、CPU、SoC、FPGAといった消費電力の多いICを使用する厳しい温度条件の下でも、確実な動作が得られます。また、LTC3310Sは高精度な温度センサーを内蔵しており、SSTTピンを介して内部のジャンクション温度を測定することが可能です(図10)。この温度センサーによって内部温度を測定すると、その動作と温度には図11のような関係があることがわかります。
モノリシック型のDC/DCコンバータICの中には、マルチフェーズの並列動作によって、より大きな負荷に対応できるものがあります。LTC3310Sは、そうした製品の1つです。図12では、2個のLTC3310Sを並列に接続しています。それぞれを逆位相で動作させることによって、2倍の出力電流を実現することができます。
LTC3310Sのスイッチング周波数は、RTピンに接続する1個の抵抗によって設定します。2個のLTC3310Sを並列動作させる場合、RTピンに対する設定(抵抗分圧器を付加するなど)によって相対位相をプログラムすることが可能です。図12の回路では、下側のLTC3310SのRTピンをグラウンドに接続しています。この場合、2つのLTC3310Sは180°の位相差で動作します。
図13は、図12の回路のインダクタ電流と出力電流を示したものです。(a)は同位相(シングルフェーズ)の動作、(b)は逆位相(デュアルフェーズ)の動作を表しています。逆位相の動作では、外付けのフィルタを追加することなく、(キャンセル効果によって)出力電流のリップルが減少します。同位相の場合、出力電流のピークtoピークの値は14Aです。逆位相の動作では、それが6Aまで低減されます。
まとめ
LTC3310Sは、高効率で小型のDC/DCコンバータICです。消費電力の多いCPU/SoC/FPGA向けのPOLコンバータの用途に適した製品です。最適化された電力効率によって自己発熱が抑えられていることに加え、小型化が実現されているので、負荷のすぐ近くに配置することが可能です。また、LTC3310Sを複数個並列に接続してマルチフェーズで動作させることにより、出力電流を簡単に増やすことができます。