給電の中断を防ぐためのスマートなバッテリ・バックアップ【Part 5】:補助電源システム

概要

この記事シリーズのパート5では、アナログ・デバイセズのバッテリ・バックアップ・ユニット(BBU)のリファレンス設計で用いられている補助電源の重要性について説明します。補助電源は、様々な部品と機能を補助するために主電源出力と共に使われる、補完的な電源レールを包含しています。BBUリファレンス設計モジュールに組み込まれた電源デバイスの信頼できる合理的な動作をサポートする上で、その重要性は極めて高いと言えます。

はじめに

電源ユニット(PSU)とBBUは、最先端のOpen Compute Project(OCP)のOpen Rack Version 3(ORV3)アーキテクチャにおいて、データ・センター、ネットワーク、サーバー、ストレージ・デバイスの動作を支える、血液のような役割を果たします。セントラル・パワー・コンバータは、必要とされる電気的エネルギーの大部分を供給します。しかし影の主役は補助電源部品で、これらの部品は、PSUとBBUを含む電力供給エコシステム全体の堅牢性、信頼性、およびセキュリティを維持する上で、極めて重要な役割を果たします。

以下の詳細な解説では、BBUモジュールのリファレンス設計の中で補助電源が果たす役割を確認し、その機能と内部構造を調べていきます。その目的は、補助電源の複雑さを詳しく掘り下げることによって、連続的な電源供給を維持して重要な技術的リソースを損傷の危険から保護する上で、補助電源が果たす重要な役割を明らかにすることにあります。

待機電源

補助電源はBBU内で2次的な電源を確保するため使われます。バックプレーンの電源が動作を中断したり使用できなくなったりした場合でも、補完的な電源がモジュール内部のデバイスへの電源供給を続けて、BBU内に保存されている重要機能がスムーズに動作するようにします。この待機電源機能は、安全な遷移プロセス、注意深いモニタリング、複雑な制御回路の管理、低消費電力デバイスの合理的な利用などの重要な機能を維持継続することを可能にします。補助電源は、停電時も中断することなく電力を供給することによって、必要とされるときに電力を供給するというモジュールの能力を確保します。更にこれは、電気的な擾乱が発生した場合にもバッファとして機能し、データの喪失を防ぎます。

電圧レギュレーション

安定した平衡状態と一定の電圧を確保することは、BBU内部のデバイスが最適性能を発揮できるようにする上で非常に重要です。このようなシナリオにおいて補助電源を持つことの重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。その理由は、補助電源が重要な保護機能としての役割を果たし、BBUモジュールの精巧なアーキテクチャ内で、電圧制御の鋭敏な部分の監視を行うからです。補助電源は出力電圧を継続的にモニタし、細心の注意を払って定められた許容範囲に正確に設けた境界内で、バランスの取れた調整と安定化を行います。

このレギュレーションはいわば盾のような役割を果たし、BBUとその関連デバイス間の相互動作を強化します。補助電源は確実で信頼できるエネルギー源を確保し、機能不全、データ破損、または物理的損傷を招くおそれのある電圧変動に対する保護機能を提供します。

補助電源を必須機能として使用できるようにするには、正確なキャリブレーションが必要です。これはモジュールの効率的な動作を維持するだけでなく、接続したデバイスを保護する役割も果たします。この精度と信頼性の組合せは、PSU、BBU、およびデータ・センター内にある一連の関連デバイスの寿命を延ばして有効性を向上させ、その動作を持続させるための基礎となります。

冷却とファン制御

電気装置の過熱を防止するには、効果的な冷却管理が極めて重要です。補助電源はBBU内でファンを駆動し、その動作を統括します。この冷却プロセスは、BBUとサポート・デバイスを維持していく助けとなります。この構成は補助電源を利用してファンの回転を管理し、スムーズで効率的な冷却環境を作り出します。これによりバランスの取れたシステムが実現され、最適な動作温度を維持して過熱によるシステムの損傷を防ぐことができます。

熱の放出には複数の熱力学的要素が複雑に作用しますが、このシステムは熱を管理して過熱による故障を防ぎます。慎重な温度レギュレーションと補助電源は、性能と信頼性を向上させます。

保護機能と安全機能

BBUは数々の重要なセキュリティ特性と安全特性を備えており、接続デバイスとパワー・コンバータの両方を保護します。補助電源の組込みは、これらの機能の展開と監視の中心となるものです。補助電源は、過電圧、過電流、および短絡保護、更には温度モニタリングなどの安全機能を含む、様々な障害防止策を補強します。補助電源によるこのリアルタイムの監視は、継続的なパラメータ・チェックを通じて、異常や問題に素早く対応することを可能にします。このような保護メカニズムの迅速な起動は、PSUやその接続デバイスへの障害を効果的に回避して電気的な危険を軽減し、システムの全体的な安全性を大幅に向上させます。

診断による評価

BBUは、接続されたデバイスに電力を供給する前に、定期的な自己診断テストを行ってその機能を確認します。補助電源はこのプロセスにおいて、診断ルーチンの開始と終了に必要な電圧信号と制御信号を供給します。この自己評価は、部品に関わる問題や電圧の異常など、BBU内の潜在的な不具合を素早く検出する助けとなります。補助電源の関与は、不具合を早期に検出してそれを正確に特定することによって、PSUの性能向上と寿命延長に寄与します。この予防的アプローチは、PSUの信頼性とリスク対応能力を向上させて中断のない電源供給を実現し、システム故障のリスクを大幅に減らします。

アナログ・デバイセズの電源設計ツールLTpowerCAD®は、BBU補助電源用に特化することを意図された特別な技術的知見と部品性能データを提供します。この知見とデータの強力な組合せは、電気的評価の複雑なプロセスを迅速化して試作段階の時間を短縮し、補助電源回路の全体的な開発計画を大幅に加速させます。結果として設計確認に費やされる時間が目に見えて短縮され、回路設計の複雑さも緩和されます。

図1は、充電および放電モードのBBU動作におけるエネルギーの流れを最適化するために設計された補助回路で、広範な技術的成果が反映されています。逆に、図2はBBUスリープ・モード用の低消費電力補助回路で、低ドロップアウト(LDO)レギュレータとシングル降圧コンバータを使用しています。

図1. 充電および放電動作時用のBBUモジュール向け補助回路設計

図1. 充電および放電動作時用のBBUモジュール向け補助回路設計

図2. スリープ・モード時用のBBUモジュール向け補助回路設計

図2. スリープ・モード時用のBBUモジュール向け補助回路設計

これらのパワー・コンバータ、マイクロコントローラ、およびその他の周辺機器に電源を供給するために、BBUモジュールの補助回路は、表1に示す6つの電圧レールで構成されています。

表1. BBUの電圧レール
充電または放電モード動作時 スリープ・モード動作時
➤  12Vバイアス・レール  
➤  5V、3.3V、1.8V、および1.2Vバイアス・レール ➤ 3 . 3V、1 . 8V、および1.2Vバイアス・レール
➤  –3.0Vバイアス・レール  

BBUの充電モード動作時または放電モード動作時の補助電源

12Vバイアス・レール

LT8645Sは高電圧の同期整流式降圧コントローラで、最大8Aという優れた負荷能力を備えています。その主な機能は48Vのバックプレーン電圧源を12Vの補助電圧源に効率的に変換することで、このデバイスは高い精度でこれを行います。このデバイスが他の高電圧降圧コンバータと異なるのは、バイパス・コンデンサを内蔵していることです。これはフットプリントの大きいPCBを不要にするだけでなく、高速電流ループや電磁干渉(EMI)放射などの難題も巧妙に解決する戦略的な選択です。このような特徴の組合せによって全体的な効率が大幅に改善され、コントローラの消費電力最適化能力も向上しています。

12Vのバイアス・レールは、パワー・コンバータ、ファン電源、および電流分担バス回路などを含む基本的な部品をサポートするために使われるようになったものです。これらの重要な部品用の主要な電力供給経路としての役割を果たすことによって、12Vバイアス・レールはシームレスな動作と性能を実現します。これらの部品は1つの電源の下で合成的に結合されており、LT8645は効率向上や機能強化において非常に重要な役割を果たします。

5V、3.3V、1.8V、および1.2Vバイアス・レール

4チャンネル同期整流式降圧コントローラであるLT8692Sの採用は、5V、3.3V、1.8V、1.2Vという幅広い出力の生成を目的とした熟考の末の選択でした。この調整は、低い補助電圧に合わせて電圧を下げ、バス電圧に揃える上で特に重要です。コントローラは、2MHzで動作する単一の発振器にその出力を同期させ、高い精度で調整します。

このデバイスを真に際立たせている点はコンデンサを内蔵していることで、これは、レイアウトのEMIに対する感度を最小限に抑えて厳格なEMI要求を満たすことに貢献しています。この点は、ノイズの影響を受けやすい設定やアプリケーションに対する適合性を大幅に向上させます。高集積度を特徴とする4チャンネル・アーキテクチャはスペースを節約するだけでなく、より簡潔で効率的な設計アプローチを促進します。

その使用法を説明すると、5Vレールは、アンプのレール電源、Modbus UARTドライバ、デジタル温度センサー、およびパワー・マネージメント・デバイスに電力を供給します。3.3V、1.8V、および1.2V出力は、それぞれEEPROMデバイス、メイン・マイクロコントローラ・ユニット(MCU)、およびバッテリ・マネージメント・システム(BMS)MCUに電力を供給します。

–3.0Vバイアス・レール

LTC1983は、極めて重要な負の3V電源レールをBBU駆動用オペアンプに供給するので、チャージ・ポンプ・インバータとして適切な選択です。100mAの強力な出力負荷を生じるこのデバイスの能力に必要なものは2つの追加コンデンサだけであり、このことは、その本質的な効率の高さを示しています。特に、この効率は小さいフォーム・ファクタによって更に助長されています。この小さいフォーム・ファクタは、わずか1mmのフットプリントでBBUの電源ボード上にその機能を実現するという、特別な利点を提供する設計上の特徴です。

BBUがスリープ・モードで動作するときの補助電源

3.3V、1.8V、および1.2Vバイアス・レール

MAX17551は優れた同期整流式降圧コンバータであり、バッテリ・スタックの48Vの電圧を安定した3.3Vの出力に変換します。この電圧は重要な伝達路としての役割を果たし、スリープ・モードにあるメインMCUとBMS MCU両方のデジタル汎用ピンに電力を供給します。この降圧コンバータを選択したのは、4V~60Vの入力電圧範囲をカバーする汎用性、小さくスペース効率の良いフォーム・ファクタ、そして10mW未満の最小消費電力を誇る傑出した動作効率、という長所を持っているためです。このような数々の特性の組合せによって、このデバイスは、バッテリ・スタックの耐久性と持続時間を向上させるトップ・ソリューションとなっています。

ADP165 LDOレギュレータは更に精巧な降圧を行い、電源電圧を正確に3.3Vから1.2Vに下げます。降圧後の電圧は、メインMCUとBMS MCU両方の中核的動作用電力を供給する、主要なエネルギー源として機能します。LDOレギュレータをマイクロコントローラ回路へ戦略的に組み込むことで、電圧レギュレーションの改善、ノイズの大幅な削減、合理的な設計アーキテクチャ、優れた動作効率、そして信頼性の向上を実現できます。更に、ADP165の消費電力は15μW未満で、省エネルギーに大きく貢献すると共に、結果としてバッテリの持続時間を延長します。

最後に、アナログおよびUSB電源電圧、およびその他いくつかの電源電圧をパワー・アップするために、MAX38911を利用して電源電圧を正確に3.3Vから1.8Vに降圧しています。このLDOレギュレータは最大500mAの負荷電流を出力できますが、これはマイクロコントローラに必要な負荷電流を供給するのに十分な値です。パワー・コンバータが低消費電力モードで消費する電源電流は約19.2μAなので、このコンバータはスリープ・モード動作に適したものとなっています。

充電または放電動作時で94%、スリープ・モード動作時で62%という補助電源の優れた効率を考えると、安定した最適性能を維持する上で、応答性の高い熱管理の重要性は強調してもしすぎることはありません。補助電源回路用に最良のデバイスを選択することの重要性は一般的な機能性の重要度を上回るものであり、BBUの動作領域全体を通じた設計の完全性の基盤となるものです。この戦略的な選択により、全体的な使用電力の予測とバッテリ寿命の計算が可能になります。更にこれは、コスト効果の高い方法で補助電源の性能を向上させることを可能にし、最終的にはユニット全体の効率の徹底的な改善を実現します1

まとめ

シリーズ最後となるこの記事では、様々な重要機能の調整を行うBBUの極めて重要なコンポーネントである、補助電源について解説しました。その機能には多くの重要な役割が含まれており、これらのユニットのスムーズで信頼できる動作、そしてセキュアな動作にとっては、そのすべてが極めて重要です。待機電源はいわば盾としての役割を果たし、電圧レベルの調整、冷却のためのファン電源管理、保護機能の展開、そしてパワーオン・セルフテストを実行します。これら各種動作の高度な連携が、無停電電源機能、デバイス保護、そしてシステム寿命延長を実現します。

補助電源は、アナログおよびデジタル・デバイス用の信頼できる補完的な電源として、極めて重要なものです。補助電源技術の進歩は常に効率を改善して電力損失を減らし、データ・センターのPSUとBBUの安全性を向上させて、新たなレベルへの革新を推進します。この継続的な進歩は、常に変化するテクノロジーの世界によって増大し続ける電力需要への確固たる回答であって、私たちの現在と、電気化された未来の両方に影響を与えます。

このシリーズ記事の各回は幅広いリソースとしての役割を果たすもので、OCP ORV3 BBUの高度な仕様に基づいて、より高度なスマート機能と信頼性を備えたコスト効果の高いソリューション作成するために必要な知見を示すことで、設計エンジニアとアプリケーション・エンジニアに正確なガイダンスと支援を提供します。これは、慎重な部品選択プロセス、予め用意されたガイドライン、各種の技術的方法、推奨手順などを示すことによって実現されています。

参考資料

1 David Sun. “Open Compute Project Open Rack V3 48 BBU Rev: 1.3.” Open Compute Project, November 2022.

著者

Christian Cruz

Christian Cruz

Christian Cruzは、アナログ・デバイセズ(フィリピン)のプロダクト・アプリケーション・スタッフ・エンジニアです。2020年に入社しました。現在は、コンスーマ/クラウド・ベース・インフラストラクチャ事業部門やシステム通信アプリケーション向けのパワー・マネージメント・ソリューションを担当。14年間にわたり、パワー・マネージメント・ソリューションの開発、AC/DC電力変換、DC/DC電力変換などを含むパワー・エレクトロニクスの設計や電源制御用ファームウェアの設計に携わってきました。ザ・イースト大学(フィリピン マニラ)で電子工学の学士号を取得しています。

Ralph Clarenz Matocinos

Ralph Clarenz Matociños

Ralph Clarenz Matociñosは、アナログ・デバイセズのアソシエイト・プロダクト・アプリケーション開発エンジニアです。2022年に入社しました。現在は、クラウド/データ・センターのアプリケーションで使用される電源システムを担当。バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システムやDC/DC電力変換システムの開発など、パワー・エレクトロニクスの分野で1年以上のエンジニアリング経験を有しています。フィリピンのマニラ市立大学(PLM)で電子工学の学士号を取得しました。