要約
実環境の工業用/計測用(I&I)アプリケーションでは、RS-485インターフェース・リンクは過酷な電磁環境下で使用されます。落雷、静電放電などの電磁界現象によって大きな過渡電圧が生じると、通信ポートが損傷するおそれがあります。こうしたデータ・ポートが最終設置環境下で適正に動作するには、電磁両立性(EMC)規制に適合する必要があります。
これらの要件には静電放電、電気的高速過渡現象、サージという過渡現象に関する3つの主要な耐性規格が含まれます。
多くのEMC問題は単純でも明瞭でもないので、製品設計の最初の時点でその問題を検討しておく必要があります。この作業を設計サイクルの最後まで放置しておくと、エンジニアリング予算のオーバーやスケジュール遅れになるおそれがあります。
本稿では、これらの主要な過渡現象についてそれぞれ説明し、RS-485通信ポートの3種のコスト/保護レベルに対応した3種のEMC適合ソリューションをご紹介します。
アナログ・デバイセズ社とボーンズ社は、システム志向ソリューション製品の拡張を目指して提携し、IEC61000-4-2ESD、IEC61000-4-4EFT、IEC61000-4-5サージに対する最高4の保護レベルを提供する業界初のEMC適合RS-485インターフェース設計ツールを共同開発しました。これによって、設計者は必要な保護レベルや利用できる予算に応じてさまざまな設計オプションを選択できます。このような設計ツールがあれば、設計サイクルの初期段階で対応できるため、EMC問題でプロジェクトが遅延するリスクが小さくなります。
RS-485規格
I&Iアプリケーションは、複数のシステム間でデータを送信する必要があり、通信距離がかなり長い場合もまれではありません。電気規格RS-485は、産業オートメーション、プロセス制御、モーター制御、モーション制御、リモート端末、ビル・オートメーション(暖房、換気、空調[HVAC]など)、セキュリティ・システム、再生可能エネルギーなどのI&Iアプリケーションで最も広範に採用されている物理層仕様のひとつです。
RS-485をI&I通信アプリケーションに最適なものとする主な特長としては、たとえば以下があげられます。
- 長距離リンク—最大1200メーター
- 1対のツイスト・ケーブルで双方向通信が可能
- 差動伝送によるコモンモード・ノイズ耐性の強化とノイズ放出の削減
- 複数のドライバとレシーバを同じバスに接続可能
- 広いコモンモード・レンジ(–7V~+12V)により、異なるグラウンド電位のドライバとレシーバにも対応
- TIA/EIA-485-Aにより、最大数十Mbpsのデータレートが可能
TIA/EIA-485-AはRS-485インターフェースの物理層を規定し、通常、Profibus、Interbus、Modbus、BACnetのような高レベルのプロトコルと組み合わせて使用されています。このため、比較的長い距離で堅牢なデータ送信が可能です。
しかし、実世界のアプリケーションでは、落雷、電力誘導/直接接触、電源変動、誘導スイッチング、静電放電などによって大きな過渡電圧が生じると、RS-485トランシーバが損傷します。設計者は、装置が理想的な条件下だけではなく「実世界」でも正常に機能するよう保証する必要があります。電気的に厳しい環境下でも回路が有効に利用できるように、さまざまな政府機関や規制団体がEMC規制を実施しています。エンドユーザは、これらの規制に準拠した設計であれば過酷な環境下でも正しく機能すると判断できます。
電磁両立性
電磁環境には放射エネルギーと誘導エネルギーという2つの要素があり、これに応じてEMCには放射と耐性という2つの側面があります。EMCは当該アプリケーションの電磁環境において過度の電磁妨害を引き起こすことなく、電子システムがその機能を十分に発揮できることを意味しています。この記事では、3つの主要なEMC過渡現象に対するRS-485ポートのEMC耐性の保護レベル向上について説明します。
国際電気標準会議(IEC)はすべての電気、電子および関連技術の国際規格を準備、発表する世界的な組織です。1996年以降、EU向けまたはEU内で販売される電子機器はすべて、IEC61000-4-x仕様に規定されているEMCレベルに適合しなければなりません。
IEC61000仕様では、住宅、商業および軽工業環境での使用を目的とした電気/電子機器に適用するEMC耐性要件を規定しています。この一連の仕様には、データ通信線に関して電子設計者が考慮しなければならない3種類の高電圧過渡現象が含まれます。
- IEC61000-4-2静電放電(ESD)
- IEC61000-4-4電気的高速過渡現象(EFT)
- IEC61000-4-5サージ耐性
各仕様では、規定の現象に対する電子/電気機器の耐性を評価する試験方法を定めています。以下にそれぞれの試験の概要を示します。
静電放電
ESDは、異なる電位の2つの物体が近接したか、または静電界の誘導によって物体間で突然静電荷が移動する現象です。これには短期間で高電流が発生するという特性があります。IEC61000-4-2試験の主な目的は、システムの動作中に外部でESDイベントが発生したときのESD耐性を判定することです。IEC61000-4-2では、接触放電とエアギャップ放電という2種類の結合方法を用いる試験を定義しています。接触放電は、放電ガンと被試験ユニットが直接接触することを意味します。エア放電の試験では、空気中にアーク放電が発生するまで放電ガンの帯電電極を被試験ユニットのほうに接近させます。放電ガンは、被試験ユニットに直接接触することはありません。エア放電試験の場合、湿度、温度、気圧、距離、被試験ユニットに接近する速度など、さまざまな要素が試験結果や再現性に影響を与えます。この方法のほうが現実のESDイベントに近いのですが、再現性は劣ります。したがって、試験方法としては接触放電のほうがよく利用されます。
被試験データ・ポートは、最低10回ずつ、パルス間の間隔を1秒として正電極と負電極の単発放電にさらされます。試験電圧の選択はシステムの最終環境に依存します。規定されているテストの最高レベルは4であり、この場合の接触放電電圧は±8kV、エア放電電圧は±15kVです。
図1は、仕様に規定されている8kV接触放電の電流の波形です。重要な波形パラメータとしては、1ns未満の立ち上がり時間、約60nsのパルス幅などがあります。これは、総エネルギーが数十mJの範囲にあるパルスに相当します。
電気的ファーストトランジエント
電気的ファーストトランジエントの試験では、数多くのファースト・トランジエント・インパルスを信号線に結合させ、外部スイッチング回路からの過渡現象が通信ポートに容量結合する現象を構成します。この現象には、リレー/スイッチ接点バウンスや誘導負荷や容量性負荷のスイッチングに起因する過渡現象などがあり、いずれも工業環境でありふれた現象です。IEC61000-4-4に規定されているEFT試験では、このような種類のイベントに起因する干渉をシミュレートします。
図2はEFT50Ωの波形です。EFT波形は、出力インピーダンス50Ωの信号発生器からのもので、50Ωインピーダンス端の電圧を表しています。出力波形は、300ms間隔で繰り返される2.5~5kHzの高電圧過渡現象の15msバーストで構成されています。各パルスは立ち上がり時間が5ns、パルス幅が50nsであり、波形の立ち上がりエッジの50%ポイントと立下りエッジの50%ポイントの間で測定しています。単一EFTパルスの総エネルギーは、ESDパルスの総エネルギーと同じくらいです。1パルス当たりの総エネルギーは一般に4mJです。データ・ポートにかかる電圧は最大2kVになります。
これらの高速バースト過渡現象は、容量性クランプを介して通信線に結合されます。EFTは、直接接触ではなくクランプによって通信線に容量結合します。これによってEFT発生器の低い出力インピーダンスに起因する負荷が低下します。クランプとケーブル間の結合容量は、ケーブルの長さ、シールド、絶縁によって異なります。
サージ過渡現象
サージ過渡現象は、スイッチング/雷過渡現象による過電圧に起因します。スイッチング過渡現象は電源システムのスイッチング、給電システムの負荷の変化、各種のシステム障害(短絡回路など)によって発生します。雷過渡現象は、近くに落雷があって回路に高電圧/高電流が注入されると発生します。IEC61000-4-5は、このような破壊的なサージに対する耐性を評価するための波形、試験方法、試験レベルを規定しています。
波形は、開回路電圧と短絡電流という波形発生器の出力として規定されています。ここでは、2つの波形が説明されています。10/700μsコンビネーション波形は、対称通信回線(電話交換回線など)に接続するためのポートを試験するのに使用します。1.2/50μsコンビネーション波形(発生器)はほかのすべてのケースで使用され、特に短距離信号接続で使用されます。RS-485ポートの場合は、1.2/50μs波形が主に使用されます。ここでは、この波形について解説します。波形発生器は実効出力インピーダンスが2Ωであるため、サージ過渡現象では高い電流値が発生します。
図3は、1.2/50μsのサージ過渡電圧波形です。ESDとEFTは立上り時間、パルス幅、エネルギー・レベルが同じくらいですが、サージ・パルスは立上り時間が1.25μsでパルス幅が50μsです。また、サージ・パルスのエネルギーは最大でほぼ90Jに達し、ESDパルスやEFTパルスのエネルギーより3~4桁大きな値になります。したがって、サージ過渡現象は、EMC過渡現象のうち最も過酷なものと考えられています。ESDとEFTには類似性があるため、回路保護の設計も似たようなものになりますが、サージはエネルギーが大きいため別途対応する必要があります。これは、保護機能を開発する場合の大きな問題の1つです。コスト効率を下げずに3つのすべての過渡現象に対してデータ・ポートの耐性を改善する保護機能を考えなければなりません。
サージ過渡電圧は抵抗を介して通信回線に結合します。図4に、半二重RS-485デバイスのカップリング・ネットワークを示します。抵抗の並列合計値は40Ωです。半二重デバイスの場合、各抵抗値は80Ωです。
サージ試験では、それぞれ5つの正と負のパルスを各パルス間の最大時間間隔を1分としてデータ・ポートに注入します。規定に従うと、デバイスは試験中に通常動作状態でセットアップする必要があります。
合否基準
被試験システムに過渡現象を発生させ、その結果を4つの合否基準に分類します。以下に、RS-485トランシーバの場合を例として合否基準を示します。
- 通常性能:過渡現象の発生中または発生後にビット・エラーが生じない。
- オペレータを必要としない一時的な機能喪失または一時的な性能劣化:過渡現象の発生中または発生後の一定時間内にビット・エラーが生じることもある。
- オペレータを必要とする一時的な機能喪失または一時的な性能劣化:パワーオン・リセットで解消するラッチアップ・イベントが発生することがあるが、デバイスの致命的な損傷や劣化はない。
- 回復不能な損傷による装置の機能喪失:デバイスは試験に不合格。
基準Aの判定は最も望ましく、基準Dの判定は不合格です。回復不能な損傷によって、システム・ダウン時間、修理/交換の費用が発生します。ミッションクリティカルなシステムの場合は、カテゴリBやCでも不合格となります。そのようなシステムは過渡現象イベント中でもエラーなしに動作しなければなりません。
過渡現象保護
過渡現象の保護回路を設計するときは、主に以下の点を検討する必要があります。
- 回路は過渡現象に起因する損傷を防止または制限する必要があり、性能への影響を最小限に抑えてシステムを通常動作に復帰させなければならない。
- 保護方式は、現場でシステムに影響を及ぼす過渡現象や電圧レベルのタイプに対応できるような十分な堅牢性を備えたものでなければならない。
- 過渡現象の持続時間は重要な要素となる。過渡現象の時間が長いと、発熱の影響で保護方式が無効になるおそれがある。
- 通常の条件下では、保護回路はシステム動作に干渉してはならない。
- オーバーストレスで保護回路に障害が発生した場合でも、システムを保護するような方向で保護回路がフェイルしなければならない。
図5に、一次保護機能と二次保護機能を備えた代表的な保護方式を示します。過渡現象エネルギーの大部分をシステムから逃す一時保護機能は、一般にシステムと環境の間のインターフェース部に配置されます。この機能は、過渡現象をグラウンドに流して大部分のエネルギーを除去します。
二次保護機能は、一次機能で対処できなかった過渡電圧や過渡電流からシステム内のさまざまな部品を保護します。この機能は、上記の残留過渡現象に対する保護を行って、システムの影響を受けやすい部品が正常に動作するように最適化されています。重要なのは、一次と二次の両方の設計がシステムI/Oと連携して一体的に機能することによって被保護回路に対するストレスが最小になるように仕様規定することです。これらの設計では、一般に一次と二次の保護デバイス間に非線形の過電流保護デバイスや抵抗などの調整素子を配置して調整処理を行います。
RS-485過渡現象抑制ネットワーク
EMC過渡現象は、その性質上、時間の経過とともに変化します。このため、被保護デバイスの入出力段と保護部品の動的性能や動的特性のマッチングがEMC設計の成功の決め手となります。部品のデータシートには一般にDCデータしか記載されていませんが、動的ブレークダウンとI/V特性がDC値とかなり異なっていることを考えると、DCデータには限界があります。回路がEMC基準を満たすには、慎重な設計や特性評価、それに被保護デバイス入出力段の動的性能や保護部品の理解が必要となります。
図6の回路は、完全に特性評価を行った3種類のEMC適合ソリューションです。各ソリューションは、外部の独立したEMCコンプライアンス試験機関から認証されており、それぞれがアナログ・デバイセズのADM3485E3.3VRS-485トランシーバに対して、異なるコスト/保護レベルを持つ高度なESD保護機能を、Bourns社の外付け回路保護部品で提供します。使用したBourns社の外付け回路保護部品は、過渡電圧サプレッサ(CDSOT23-SM712)、過渡現象遮断ユニット(TBU-CA065-200-WH)、サイリスタ・サージ・プロテクタ(TISP4240M3BJR-S)、ガス放電管(2038-15-SMRPLF)です。
各ソリューションは、保護部品の動的I/V性能によってADM3485ERS-485バス・ピンの動的I/V特性を守り、ADM3485Eの入出力段と外部保護部品との連携によって過渡現象イベントに対する保護が行われるように特性評価されています。
保護方式1
前述したように、EFTとESDの過渡現象はエネルギーのレベルが同じくらいですが、サージ波形のエネルギーは3~4桁大きくなります。ESDやEFTに対する保護は同じような方法を使用しますが、高レベルの保護、すなわちサージに対する保護の場合はさらに複雑なソリューションが必要です。ここに示す最初のソリューションは、レベル4までのESD/EFT保護とレベル2のサージ保護を提供します。1.2/50μs波形は、この記事に示すすべてのサージ試験で使用されています。
このソリューションは、2個の双方向TVSダイオードを備えたBournsCDSOT23-SM712過渡電圧サプレッサ(TVS)アレイを使用します。TVSダイオードは最小のオーバーストレスでRS-485システムを保護し、RS-485トランシーバ上でフルレンジのRS-485信号/コモンモード振幅(–7V~+12V)を利用できるように最適化されています。表1に、ESD、EFT、サージ過渡現象の保護電圧レベルを示します。
表1.ソリューション1の保護レベル
ESD (-4-2) | EFT (-4-4) |
Surge (-4-5) |
|||
Level | Voltage (Contact/Air) |
Level | Voltage | Level | Voltage |
4 | 8 kV/15 kV |
4 | 2 kV |
2 | 1 kV |
TVSはシリコン・ベースのデバイスであり、通常動作条件下ではグラウンドへの高インピーダンス・パスとなり、理想的には開回路です。保護動作では、過渡現象による過電圧を電圧制限値にクランプします。これは、PN接合の低インピーダンスのアバランシェ・ブレークダウンによって行います。TVSのブレークダウン電圧を上回る過渡電圧が発生すると、TVSは被保護デバイスのブレークダウン電圧より小さな所定のレベルに過渡電圧をクランプします。過渡電圧は瞬時(<1ns)にクランプされ、過渡電流は被試験デバイスに入らずにグラウンドに流れます。
重要なのは、TVSのブレークダウン電圧を被保護ピンの通常動作範囲外の電圧値にすることです。CDSOT23-SM712の独自の特性としては、トランシーバのコモンモード電圧範囲+12V~–7Vにマッチングする+13.3Vと–7.5Vという非対称のブレークダウン電圧です。これによって最適な保護機能を提供するとともにADM3485ERS-485トランシーバの過電圧ストレスを最小限に抑えることができます。
保護方式2
前述したソリューションは、最高レベル4のESD/EFT保護を提供しますが、サージに対してはレベル2にとどまります。サージ保護レベルを向上するためには、保護回路はもっと複雑になります。次の保護スキームは、レベル4までのサージ保護を提供します。
CDSOT23-SM712は、RS-485データ・ポートのために特別に設計されています。次の2つの回路はCDSOT23-SM712をベースにして、より高いレベルの回路保護を実現します。CDSOT23-SM712が二次保護機能を提供し、TISP4240M3BJR-Sが一次保護機能を提供します。一次と二次の保護デバイス間の調整や過電流保護には、TBU-CA065-200-WHを使用します。表2に、この保護回路によるESD、EFT、サージに対する保護電圧レベルを示します。
表2.ソリューション2の保護レベル
ESD (-4-2) | EFT (-4-4) |
Surge (-4-5) |
|||
Level | Voltage (Contact/Air) |
Level | Voltage | Level | Voltage |
4 | 8 kV/15 kV |
4 | 2 kV |
2 | 4 kV |
過渡電圧が保護回路に入ると、TVSはブレークダウンし、グラウンドへの低インピーダンス・パスとなってデバイスを保護します。大きな電圧と電流が存在する場合は、TVSを通る電流を制限して保護しなければなりません。これには、アクティブ高速過電流保護素子である過渡現象遮断ユニット(TUB)を使用します。このソリューションのTBUは、Bourns社のTBU-CA065-200-WHです。
TBUは、電流をグラウンドにシャントするのではなく、電流を遮断するデバイスです。直列部品であるため、インターフェース上の電圧ではなくデバイスを通る電流に反応します。TBUは高速過電流保護デバイスであり、電流を特定の設定値に制限する機能や高電圧に耐える機能を備えています。過電流が発生し、過渡現象イベントによってTVSがブレークダウンすると、TBU内の電流は事前に設定された電流制限レベルまで上昇します。この時点で、TBUは1μs未満で瞬時に被保護回路をサージから分離します。残留の過渡現象が存在する間、TBUは保護された遮断状態を維持し、被保護回路には微小な電流(<1mA)しか流れません。通常の動作条件下ではTBUは低インピーダンスであり、通常回路動作への影響は最小限に抑えられています。TBUが遮断モードになると、インピーダンスが非常に高くなり、過渡現象のエネルギーを遮断します。過渡現象イベントが終わると、TBUは自動的に低インピーダンス状態に戻り、通常のシステム動作を再開することができます。
あらゆる過電流保護技術がそうであるように、TBUにも最大ブレークダウン電圧があり、このため一次保護デバイスによって電圧をクランプし、過渡現象エネルギーをグラウンドに流す必要があります。これには、一般に完全統合サージ・プロテクタ(TISP)などのソリッドステート・サイリスタやガス放電管といった技術を使用します。TISPは一次保護デバイスとして機能します。このデバイスは、事前に設定した保護電圧を超えると、グラウンドへの低インピーダンスのパスとなるようなクローバー形状の特性となり、システムやその他の保護デバイスに大部分の過渡現象エネルギーが入らないようにします。
TISPは非直線の電圧・電流特性を備えており、発生した電流を外へ逃して過電圧を制限します。サイリスタ製品のTISPは、高電圧領域と低電圧領域間の切換え動作によって電圧・電流が不連続となる特性を備えています。図8に、このデバイスの電圧電流特性を示します。アバランシェ・ブレークダウン領域によりクランプ動作が発生すると、TISPデバイスが低電圧状態になり、グラウンドへの低インピーダンス・パスとなって過渡現象エネルギーをシャントします。過電圧の制限時には、被保護回路が瞬間的に高電圧にさらされます。このとき、TISPデバイスはブレークダウン領域にあり、その後に低電圧保護のオン状態になります。TBUは、この高電圧に起因する高電流に対して下流側回路を保護します。外に流れた電流が基準値を下回ると、TISPデバイスは自動的にリセットされ、通常のシステム動作を再開することができます。
前述したように、3つの部品はすべてシステムI/Oと連携して一体的に機能し、高電圧/高電流の過渡現象に対してシステムを保護します。
保護方式3
レベル4以上のサージ保護レベルが必要になることもよくあります。この保護方式では、最大6kVのサージ過渡電圧に対してRS-485ポートを保護します。保護方式2と同じような動作ですが、この回路ではTISPの代わりにガス放電管(GDT)を使ってTBUを保護し、TBUが二次保護デバイスTVSを保護します。GDTは、前述の保護方式に示したTISPより高い過電圧/過電流ストレスに対する保護機能を提供します。この保護方式で使用するGDTは、Bourns社2038-15-SM-RPLFです。TISPの定格が1導体当たり220アンペアであるのに対し、GDTの定格は5kAです。表3に、この設計で提供する保護レベルを示します。
表3.ソリューション3の保護レベル
ESD (-4-2) | EFT (-4-4) |
Surge (-4-5) |
|||
Level | Voltage (Contact/Air) |
Level | Voltage | Level | Voltage |
4 | 8 kV/15 kV |
4 | 2 kV |
X | 6 kV |
主に一次保護デバイスとして使用されるGDTは、グラウンドへの低インピーダンス・パスとなって過電圧過渡現象に対して保護します。過渡電圧がGDTスパークオーバ電圧に達すると、GDTは高インピーダンスのオフ状態からアーク・モードに移行します。アーク・モードのGDTは仮想短絡となり、グラウンドへのクローバー電流パスとなって被保護デバイスの外へ過渡電流を流します。
図9に、GDTの代表的な特性を示します。GDTの電圧が増大すると、管内のガスが発生した電荷によってイオン化し始めます。これはグロー領域と呼ばれます。この領域において電流の増大によってアバランシェ効果が生じ、GDTが仮想短絡状態に遷移し、電流がデバイスを流れます。短絡イベント中、デバイス両端で生じた電圧はアーク電圧と呼ばれています。グロー領域とアーク領域間の遷移時間は、デバイスの物理特性に大きく依存します。
結論
この記事では、過渡耐性に関する3つのIEC規格について説明しました。産業用アプリケーションの実環境では、過渡現象が発生するとRS-485通信ポートが損傷するおそれがあります。製品の設計サイクルが進んだ段階でEMC問題を発見すると、設計のやり直しとなり、コストもかかり、スケジュール遅れとなることもよくあります。したがって、EMC問題は設計サイクルの後の段階ではなく最初に検討しておく必要があります。対応が遅すぎると、必要なEMC性能を実現できないおそれがあります。
RS-485ネットワークのEMC適合ソリューションを設計する場合、外部保護部品の動的性能をRS-485デバイスの入出力構造の動的性能にマッチングさせることが大きな課題となります。
この記事では、RS-485通信ポートのための3種類のEMC適合ソリューションを紹介し、必要な保護レベルに応じたオプションを示しました。EVAL-CN0313-SDPZは、業界初のEMCに適合したRS-485の顧客向け設計ツールであり、ESD、EFT、サージに対して最高のレベル4の保護レベルを提供します。表4に、各保護方式で可能な保護レベルをまとめました。これらの設計ツールの機能は、当然行うべき注意義務やシステム・レベルでの必要な性能評価に代わるものではありませんが、設計サイクルの開始時点でEMC問題によるプロジェクト遅延のリスクを小さくし、設計にかかる時間や市場投入までの期間を短縮することができます。詳細については、次のサイトをご覧ください。www.analog.com/RS485emc.
表4.3つのADM3485EEMC適合ソリューション
ESD (-4-2) |
EFT (-4-4) |
Surge (-4-5) |
||||
Protection Scheme |
Level |
Voltage
(Contact/Air)
|
Level | Voltage | Level | Voltage |
TVS | 4 | 8 kV/15 kV |
4 | 2 kV | 2 | 1 kV |
TVS/TBU/TISP |
4 | 8 kV/15 kV |
4 | 2 kV |
4 | 4 kV |
TVS/TBU/GDT |
4 | 8 kV/15 kV |
4 | 2 kV |
X | 6 kV |
参考資料
ADM34085E データシート
Bourns Telecom Protection Guide. https://www.bourns.com/data/global/pdfs/bourns_circuit_protection_selection_guide.pdf.
電磁両立性(EMC)第4-2 部: 試験および測定技術—静電放電耐性試験(IEC61000-4-2:2008 (Ed. 2.0))
電磁両立性(EMC)第4-4 部:試験および測定技術—電気的高速過渡現象/バースト耐性試験(IEC61000-4-4:2012 (Ed. 3.0))
電磁両立性(EMC) 第4-5 部:試験および測定技術—サージ耐性試験(IEC61000-4-5:2005 (Ed. 2.0))
GDT First Principles. www.bourns.com/pdfs/bourns_gdt_white_paper.pdf.
Hein Marais、AN-960 アプリケーション・ノート「RS-485/RS-422 回路の実装ガイド」、2008 年4 月