ホット・スワップ・コントローラを活用し、システムの信頼性を高める

概要

システム・レベルのアプリケーションにホット・スワップ・コントローラを適用すれば、様々な効果やメリットが得られます。実際、ホット・スワップ・コントローラは、電子デバイスの活線挿抜を実現するための洗練されたソリューションだと言えます。つまり、システムの電源を投入したままの状態で、電子デバイスの着脱を可能にする役割を果たします。それに向けて、ホット・スワップ・コントローラは、システムの継続的な動作を保証しつつ、過電流に対する保護を実現し、リアルタイムの監視を実行するための機能を提供します。本稿では、ホット・スワップ・コントローラを利用することにより、システムの信頼性を高める方法を紹介します。それを通して、ダウンタイムの最小化、敏感な装置の保護、システムの性能の最適化、保守コストの削減など、ホット・スワップ・コントローラによってもたらされるメリットについて説明します。解説を進めるにあたっては、ホット・スワップ・コントローラ製品のリファレンス設計を具体的な例として取り上げます。リファレンス設計を活用すれば、ホット・スワップ・コントローラ製品の主要な機能や、その適用可能性、重要性について理解を深めることができます。

はじめに

エレクトロニクスの分野において、ホット・スワップ(活線挿抜)は非常に重要な機能として位置づけられています。実際、電子デバイス(の電源モジュール)に対し、システムの動作を中断させることなく安全に着脱できることが求められるケースは少なくありません。データ・センターや通信システムといった数多くのアプリケーションでは、ホット・スワップ1は基本的な機能として位置づけられています。稼働中のシステムの安全性と完全性を確保するには、適切なホット・スワップ・コントローラを選択して適用しなければなりません。非常に優れたホット・スワップ・コントローラ製品の例として挙げられるのが、アナログ・デバイセズの「LTC4287」です。本稿では、システム・レベルのアプリケーションに同製品を適用した場合に、どのような機能、性能、メリット、優位性が得られるのかを明らかにします。

傑出したホット・スワップ・コントローラ

LTC4287は、性能が高く汎用性に優れるホット・スワップ・コントローラです。システムの稼働中にコンポーネントを追加したり交換したりする際、システムとコンポーネントの両方を保護することを目的として設計されています。その包括的な機能セットと高い堅牢性により、極めて重要な多くのアプリケーションにとって最適な選択肢となります。

ホット・スワップの実現に必要な機能

上述したように、ホット・スワップとは、システムを稼働させたままで、カード、電源、ドライブといったコンポーネントを着脱することです。これを安全に実施できるようにするのは容易ではありません。電源レールを適切に制御し、電圧レベルを安全な範囲内に確実に維持しなければならないからです。システムに適用するホット・スワップ・コントローラは、そうした課題に適切に対処できるものでなければなりません。LTC4287の場合、以下に示すような機能によって課題を解消します。

RCサーマル回路を使用した高精度の電流制限

一般に、ホット・スワップ・コントローラは、高い精度で電流制限を実行する役割を担います。ホット・スワップでは、この機能が非常に重要な意味を持ちます。この機能により、システムに対して着脱されるコンポーネントに流れる電流が安全な範囲内に確実に維持されるからです。LTC4287は、大きな突入電流が突発的に流れた場合や障害が発生した場合、速やかにそれらの事象に対応します。つまり、過電流からシステムを保護するように機能します。ユーザは、RCサーマル回路(RC thermal circuit)を活用することによって、電流制限の精度を更に高めることができます。RCサーマル回路としては、プリント回路基板とMOSFETの接合部をモデル化したものを使用することになります。

障害の検出、保護

適切な対策を施すことなくホット・スワップを実行すると、ミスアライメントやコンポーネントの損傷などが原因となって大きな障害が発生するおそれがあります。LTC4287は、低電圧や過電圧に対する保護などを含めて、障害を検出するための包括的なメカニズムを備えています。入力側と出力側の電圧レベルを継続的に監視し、障害に相当する事象を隔離する形でシステムを保護するための処置を即座に実行します。

突入電流の制御

デバイスの電源ユニット(PSU:Power Supply Unit)をシステムに挿入する際には、容量性の負荷に起因して多くの突入電流が発生します。それにより、電圧のサグが生じ、システムの安定性に影響が及びます。LTC4287は、そうした突入電流を制御するための仕組みを備えています。それによって、PSUを挿入する際に生じる電流が滑らかに増加するよう制御します。その結果、電圧の乱れが緩和されます。つまり、穏やかな起動が実現されるということです。結果的に、システム内の他のコンポーネントは、動作を中断することなく確実に稼働し続けることが可能になります。

出力電圧/出力電流の監視

挿入されたPSUが正しく機能することを保証するにはどうすればよいのでしょうか。これを実現するために、LTC4287は、PMBus®に対応する内蔵機能を介して、出力電圧と出力電流をリアルタイムに監視します。取得したデータをパワー・マネージメント製品用の開発環境であるLTpowerPlay®に送信すれば、詳細な評価/解析を実施できます。このような監視機能により、PSUの動作に異常が発生した場合、直ちにその内容を把握して潜在的な問題に迅速に対応することが可能になります。

包括的な制御

LTC4287は、高いレベルの柔軟性と構成可能性(コンフィギュラビリティ)を備えています。つまり、ホット・スワップに対応するシステムの具体的な要件に応じ、その構成をカスタマイズすることが可能です。この適応性は、PSUに関するニーズが変化するアプリケーションに対して特に大きな価値をもたらします。

システム・レベルの性能への寄与

LTC4287をアプリケーションに組み込めば、システム・レベルの効果が得られます。以下では、同ICによって得られるメリットについて説明します。システム・アプリケーションの具体的な例としては、図1に示した54V入力/12V出力の回路(リファレンス設計)を取り上げることにします。

図1. 54V入力/12V出力に対応するシステム・アプリケーションの回路図
図1. 54V入力/12V出力に対応するシステム・アプリケーションの回路図

図1の回路は、パラレル・モード機能を対象として特別に設計/最適化されています。ホット・スワップ・コントローラとしてLTC4287を適用していることから、稼働中のバックプレーンを対象として54V入力/12V出力のPSUモジュールを安全に着脱することができます。通常動作を行っている際には、チャージ・ポンプとゲート・ドライバによってM1、M2の両MOSFETがオンになり、負荷に対して電力が供給されます。各ゲート・ドライバは、LTC4287の電源(VDD)ピンから電力を得て動作します。また、各ゲート・ドライバは外付けのMOSFETを保護するために、ゲート‐ソース間の電圧を14V未満にクランプする機能を備えています。LTC4287は、低電圧(UV)、過電圧(OV)、イネーブル(EN)に対応するものを含む一連のコンパレータを内蔵しています。それらによって、ゲートをイネーブルにする前に外部の状態を確認します。低電圧ロックアウトの機能は、UVLO1、UVLO2、UVLO3の3つの内蔵回路によって実現されます。それらの回路によって入力電源の値が検証され、LTC4287の内部で5Vの電源電圧(INTVCCとDVCC)が生成されます。また、UVLO3はロジック回路がパワーアップする際の初期化処理をトリガします。そして、DVCCが閾値を上回るとEEPROM上のデータがオペレーティング・メモリに読み込まれます。通常動作を行う場合、LTC4287は起動時にデバウンス遅延にあたる時間が経過した後、外付けのNチャンネルMOSFETをオンにします。

LTC4287は、デュアルレベルの過電流保護機能を備えています。この機能では、ケルビン電流入力ピン(SENSE+、SENSE-)を使用してセンス抵抗に流れる負荷電流を監視します(直接的には電圧を検出します)。また、同ICは、アクティブ電流制限に使用するコンパレータと高速電流制限に使用するコンパレータを備えています。両コンパレータにより、閾値をベースとする制御が行われます。高速電流制限に使用する閾値は、常に電流制限の公称値の3倍に設定されています。検出した電圧(電流量に対応)が電流制限用の閾値に達すると、アクティブ電流制限用のループを作動させるために、対応するゲート電圧が引き下げられます。突然の短絡や入力スパイクが原因で、電流量が高速電流制限に使用するコンパレータの閾値に達したとします。その場合、それに対応するゲート電圧が即座にソース電圧まで引き下げられます。その結果、ピーク電流が制限されます。検出した電圧が電流制限の閾値まで戻ったら、アクティブ電流制限用のループに処理が引き継がれます。

システムの信頼性の強化

一般に、ホット・スワップに対応するシステム・アプリケーションでは、高い信頼性を実現することが非常に重要です。54V入力/12V出力のPSUモジュールについて言えば、ホット・スワップは非常にデリケートな処理になります。その際にミスや不備が生じると、システムのダウンタイムやコンポーネントの損傷につながる可能性があるからです。したがって、ホット・スワップ・コントローラは、高精度の電流制限や障害の検出を実現するための仕組みを備えていなければなりません。それにより、ホット・スワップの処理が安全に行われることが保証されます。つまり、システムの中断やコンポーネントの故障といったリスクが抑えられるということです。

図2に示したのは、本稿で取り上げるリファレンス設計のハードウェアです。先述したように、このシステム・アプリケーションは、LTC4287を使用して実現されています。図2のボードには、同ICの他に、最大4kWの電力に対応する54V入力/12V出力のPSUモジュールが2つ実装されています。また、LTpowerPlay®を介してアクセスすることが可能なPMBusベースの通信機能も備えています(PMBusに対応するコントローラ「DC1613」を利用)。それにより、制御と監視の機能の強化が図られています。

図2. リファレンス設計(「BR-080064」)のハードウェア。54V入力/12V出力のシステム・アプリケーションを実現します。
図2. リファレンス設計(「BR-080064」)のハードウェア。54V入力/12V出力のシステム・アプリケーションを実現します。

シームレスな保守の実現

多くの場合、継続的な稼働が重要なアプリケーションでは、定期的な保守やコンポーネントの交換などが必要になります。リファレンス設計のPSUは、LTC4287が備える突入電流の制御機能とリアルタイムの監視機能により、スムーズに着脱できるようになっています。つまり、システム全体をシャットダウンすることなく、保守作業を実施することが可能です。そのため、ダウンタイムを最小限に抑え、システムの可用性を最大限に高めることができます。

所有コストの削減

システムの動作を中断することなくコンポーネントのホット・スワップを実施できるようにすれば、30%~50%もの大幅なコスト削減を図れる可能性があります。実際、極めて重要性の高いアプリケーションでダウンタイムが生じると、収益や生産性が大きく損なわれてしまうかもしれません。LTC4287のようなホット・スワップ・コントローラを利用する形でシステムを設計すれば、そうした中断を最小化したり、排除したりすることが可能になります。長期的には全体的な所有コストが大幅に削減されます。

多様なアプリケーションに対応可能な汎用性

LTC4287は、特定の業界やアプリケーションを対象とした製品ではありません。データ・センター、通信、産業用オートメーションといった広範な分野のシステムに組み込むことができます。その適応性の高さから、多様なシナリオにおける保護と制御を実現することが可能です。LTC4287は、システム・レベルのアプリケーションに対する汎用性の高いソリューションです。

リアルタイムの監視、データの収集

LTC4287は、保護機能だけではなく、リアルタイム対応の監視機能も備えています。これを使用すれば、豊富な情報を得ることができます。監視によって取得されたデータは、システムの診断、性能の最適化、予知保全などに大いに役立ちます。それらのデータを分析することにより、システム・オペレータは情報に基づいた判断を下すことが可能になります。また、潜在的な問題が深刻化する前に、プロアクティブな対処を図ることができます。

本稿で例にとっているシステム・アプリケーションは、ホット・スワップ・コントローラとしてLTC4287を採用しています。同ICは、PMBusのプロトコルに対応する通信機能を備えています。それにより、ユーザフレンドリなアクセシビリティが実現されています。例えば、GPIO(General Purpose Input/Output)ピンの構成が行われている場合、図3のような形でA/Dレジスタのデータの読み出し、障害の検出、ALERT#割り込みによるリアルタイムの応答といったタスクを実行できます。PMBusに対応するデバイスのセカンダリ・アドレスは、ADR0ピンまたはADR1ピンによって決まります。どちらのピンにも3つの状態(グラウンドに接続、INTVCCに接続、オープン)が存在し、計9つのデバイスのアドレスを指定できます。

図3. LTpowerPlayの操作画面。図2に示したリファレンス設計を接続しています。
図3. LTpowerPlayの操作画面。図2に示したリファレンス設計を接続しています。

システム設計の簡素化

LTC4287は、包括的な機能セットを備えています。そのため、これを採用すればシステムの設計を簡素化できます。設計者としては、ホット・スワップの処理の管理を同ICに任せることが可能になります。つまり、システムにおいてそれに関連する部分の複雑さが緩和されます。このようにして設計が簡素化されることから、開発サイクルを短縮したり、設計作業の負荷を軽減したりすることが可能になります。

システムの機能/性能の評価結果

リファレンス設計を利用すれば、様々な条件の下でLTC4287の機能や性能を評価することができます。ここからは、その評価結果を示していくことにします。なお、基本的な条件は、以下のように設定しました。

パラメータ:システム・アプリケーションの電気的メトリクス
入力電圧範囲:40V~60V
負荷電流:0A~130A
動作温度:0℃~60℃

ホット・スワップ・コントローラの評価を実施する際には、アプリケーション固有の要件に応じ、複数の主要なパラメータとメトリクスについて考慮しなければなりません。以下では、評価すべき重要な項目を列挙しつつ、LTC4287を使用した場合の結果を紹介していきます。

過電流保護

LTC4287では、複数の段階から成るアプローチによって堅牢性の高い過電流保護を実現します。1つ目の段階で行われるのは、アクティブ電流制限(ACL:Active Current Limit)です。この機能については、閾値があらかじめ設定されています。負荷電流がその閾値を超えると、LTC4287は出力電圧をプロアクティブに調整し、電流がそれ以上増加することを防ぎます。

2つ目の段階では、高速電流制限の機能が働きます。これは、アクティブ電流制限の機能を補完するものです。高速電流制限に用いるコンパレータは、短絡などによって発生する突発的かつ振幅の大きい過電流に即座に反応します。MOSFETのゲート電圧を直ちに引き下げることにより、ピーク電流を制限して回路の損傷を防ぎます。また、LTC4287は障害の報告と障害からの復旧をサポートします。過電流が発生した場合、指定されたGPIOピンを介して障害の報告が行われます。また、それらのピンは障害の発生を受けて点灯するLEDに接続することが可能です。障害が解消されたら、LTC4287の制御下で復旧処理が行われます。すなわち、負荷への電力供給を徐々に回復させて、安全な状態で通常動作に戻ります。図4に示したのは、過電流保護に関連する信号の波形です。このリファレンス設計は、入力ラインの電流が128Aを超えた場合、LTC4287が即座に反応して潜在的な被害を防ぐために出力をラッチするようプログラムされています。また、電流量が閾値に達すると、LTC4287のフォルト・ピンがアクティブになります。

図4. 過電流保護に関連する信号の波形。入力電圧は40V、負荷電流は0A~130Aです。
図4. 過電流保護に関連する信号の波形。入力電圧は40V、負荷電流は0A~130Aです。

短絡保護

LTC4287は、短絡が発生した際にPSUモジュールの安全性を確保するための機能を備えています。短絡保護も、複数の段階から成るアプローチによって実現されます。短絡が発生した際には、振幅の大きい電流信号が突発的に生じます。1つ目の段階では、それに即座に反応する高速電流制限の機能が働きます。この機能で使用するコンパレータが速やかに反応し、MOSFETのゲート電圧が即座に引き下げられます。それによりピーク電流が制限され、回路の保護が実現されます。また、LTC4287はアクティブ電流制限のメカニズムも備えています。このメカニズムでも、通常の動作から逸脱したことを検出するための閾値が使用されます。短絡による電流があらかじめ設定された閾値を超えると、LTC4287は出力電圧をアクティブに調整し、安全なレベルまで電流量を引き下げます。

図5に示したのは、短絡保護に関連する信号の波形です。通常の動作を行っている際に短絡が生じたら、LTC4287は入力と出力を瞬時に切り離します。それにより、システムが保護されます。続いて、LTC4287はフォルト信号とパワー・グッド(PGOOD)信号を利用して、障害がトリガされたことを示す信号を送信します。それにより、複数の入力ラインの間の十分な隔離が実現されます。このような包括的なアプローチにより、短絡が発生した際のシステムの安全性とレジリエンスが保証されます。

図5. 短絡保護に関連する信号の波形。入力電圧は40V、負荷電流は100A~130Aです。
図5. 短絡保護に関連する信号の波形。入力電圧は40V、負荷電流は100A~130Aです。

突入電流の制御

LTC4287は、サーマル突入電流(thermal inrush current)の管理機能を備えています。この機能の役割は、パワーアップの際に生じる電流サージによって、熱に関連する障害がMOSFETに生じないよう制御することです。それにより、安全な起動が保証されます。この機能では、直列に接続された電流センス抵抗の両端の電圧を測定します。それにより、電流量の増大を検出します。LTC4287のソフト・スタート回路は、出力電圧を徐々に増加させていきます。電圧の増加速度を抑制しつつ、MOSFETの安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)を超えないよう電流スパイクを最小限に抑えます。起動時に短絡が検出された場合、タイマー(TMR)ピンにプログラムされたSOA用のタイマーの出力が徐々に増加して閾値(2.56V以上)に達します。図6に示すように、LTC4287は保護用のMOSFETをオフに維持することによって入力ラインを自動的に切り離します。その結果としてシステムの安全な動作が確保されます。このような重要な動作により、スムーズかつ安定したパワーアップが実現されます。電圧スパイクやサージが抑えられることにより、システムの信頼性が高まり、寿命が長くなります。

図6. 40Vの入力電圧により起動する短絡保護の機能
図6. 40Vの入力電圧により起動する短絡保護の機能

まとめると、LTC4287はサーマル突入電流を管理してサージを抑制することにより、安全な起動を保証します。センス抵抗を使用して電流量の増大を検出し、ソフト・スタート回路によってスパイクを最小限に抑えます。起動時に短絡が生じた場合には、自動的に入力ラインを切り離すことでシステムの安全性を確保します。これらの機能により、スムーズなパワーアップが保証されます。電圧スパイクが抑えられることで、システムの信頼性が高まり、寿命が長くなります。

電圧の監視

LTC4287は、電圧の監視機能を備えています。この機能により、12V系のシステム・アプリケーションに入力される電圧が安全なレベル(54Vが標準値)にあり、なおかつ安定していることが保証されます。つまり、電圧のレベルを継続的に追跡することにより、低電圧と過電圧を検出するという重要な保護機能が提供されます。ホット・スワップ用のMOSFETの入力電圧と出力電圧の両方を評価し、低電圧の閾値を下回る場合には、それに対応して動作上の問題を防ぎます。同様に、過電圧の閾値を超える電圧を検出した場合には、それに対応する保護用の処理を開始してコンポーネントの損傷を防止します。このようなプロアクティブな対応により、電圧の変動による性能の問題を防ぎます。その結果、システムの信頼性と耐久性が確保されます。なお、電圧の監視によって得られたデータは、LTC4287が内蔵するEEPROMに保存されます。

図7に示す各波形は、LTC4287の低電圧保護のメカニズムを表しています。UVピンの電圧が閾値(2.14V。PVINの電圧が33Vである場合に相当)を下回ると、LTC4287はデバイスの動作を停止します。一方、図8に示す各波形は過電圧保護のメカニズムを表すものです。OVピンの電圧が閾値(2.47V。PVINの電圧が64Vである場合に相当)を上回ると、LTC4287はデバイスをシャットダウンします。入力電圧が正常な値に戻ると、LTC4287は自律的に再試行して復旧を図ります。各閾値は、UVピン/OVピンに接続する抵抗分圧器の抵抗値を変更することによって調整できます。

図7. 33Vの入力電圧によってトリガされる低電圧保護(UVP)機能
図7. 33Vの入力電圧によってトリガされる低電圧保護(UVP)機能
図8. 64Vの入力電圧によってトリガされる過電圧保護(OVP)機能
図8. 64Vの入力電圧によってトリガされる過電圧保護(OVP)機能

温度の監視

LTC4287は、温度をリアルタイムに監視する機能を備えています。この機能では、リモートのトランジスタをセンサーとして利用します。それにより、システムの状態の評価とシステムの保護を実現するための温度データを収集することができます。

障害の報告/表示

LTC4287を利用する場合、LTpowerPlayを併用することで、システム内のあらゆる障害や異常を効率的に監視して対処することができます。つまり、管理と保守を効果的に実施することが可能です。

負荷過渡応答

LTC4287は、負荷過渡応答に優れた製品です。そのため、負荷が動的に変化している間もシステムの安定性を確保することができます。出力電圧の継続的な監視が実現されるので、電圧の変動に対応してシステム内の敏感なコンポーネントを保護することが可能です(図9)。

図9. 2kWの負荷に対する負荷過渡応答。入力電圧が40Vと60Vの場合の例です。
図9. 2kWの負荷に対する負荷過渡応答。入力電圧が40Vと60Vの場合の例です。

精度と再現性

LTC4287は、高い精度と優れた再現性を提供する製品です。この特徴は、品質の高いコンポーネント、キャリブレーション、温度補償、ノイズの低減手法、フィードバック・ループ、デジタル通信機能を組み合わせることで実現されています。同ICを採用すれば、信頼性と一貫性に優れた測定が可能になり、システム・アプリケーションの精度と再現性を高められます。図10は、LTC4287の出力電力の読み取り値と試験装置からの測定データを比較したものです。

図10. 電力負荷が2kW、4kWの場合の正確度(パーセント誤差)
図10. 電力負荷が2kW、4kWの場合の正確度(パーセント誤差)

信頼性と一貫性に優れるデータが不可欠なシステム・アプリケーションでは、ホット・スワップ・コントローラによる測定が高い精度、高い再現性で行われるようにしなければなりません。そのためにはキャリブレーションが非常に重要です。LTC4287の場合、製造時にキャリブレーションが実施されます。また、ユーザに対してはキャリブレーション用のオプションが提供されます。それにより、精度が高く再現性に優れる電圧/電流の測定を実現できます。このような形で、LTC4287はシステム・アプリケーションとPSUモジュールの全体的な性能と信頼性の向上に貢献します。

利用可能なパラメータやテストの条件については慎重に検討しなければなりません。それにより、システム・アプリケーションや大電流を扱うその他のアプリケーションの要件を満たす形でLTC4287を活用することが可能になります。

また、システム内の様々なペリフェラルに対して効率的に電力を供給するためには、別の手段が必要になる可能性があります。堅牢性の高い補助用の回路を採用すべきか否かを検討することが非常に重要です。例えば、本稿で例にとったリファレンス設計では、安定した5Vの電圧を供給するために降圧レギュレータ「LT8631」を使用しています。また、信頼性の高い3.3Vの電圧を供給するためにLDOレギュレータ「LT3009」を活用しています。

まとめ

本稿では、ホット・スワップ・コントローラの活用方法を紹介しました。ホット・スワップ・コントローラとしてアナログ・デバイセズのLTC4287を採用すれば、システムの信頼性を高めることができます。具体的には、システムのダウンタイムを削減することが可能になります。それ以外にも、システム・レベルの数多くのメリットがもたらされます。LTC4287は、障害に対する保護機能、突入電流の制御機能、リアルタイム対応の監視機能など、多彩な機能を備えています。そのため、広範な分野の重要なアプリケーションに適用することが可能です。LTC4287を採用すれば、スムーズで効率的なホット・スワップを実現できることが保証されます。その結果、システムの可用性を高めつつ、総所有コストを削減することが可能になります。LTC4287は、ホット・スワップの用途に特化した最高レベルのパワー・マネージメント製品だと言えるでしょう。

本稿では、54V入力/12V出力に対応するPSUモジュールのリファレンス設計も紹介しました。筆者らのチームは、その先進性や長所について解説する記事の提供にも注力していきます。

参考資料

1Understanding, Using, and Selecting Hot-Swap Controllers(ホット・スワップ・コントローラの理解/使用/選択)」Analog Devices、2003年12月

著者

Karl Audison Cabas

Karl Audison Cabas

Karl Audison Cabasは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション開発エンジニアです。2020年9月から電源アプリケーションに携わっており、DC/DCコンバータの分野で4年以上の経験を有しています。現在は、クラウド/データ・センターのアプリケーションで使用される電源システムを担当。以前は、DC/DCコンバータに関するお客様からの問い合わせや設計上の問題に対応する業務を担っていました。フィリピン工科大学で電子工学の学士号、マプア工科大学でパワー・エレクトロニクスに関するポストグラデュエート・ディプロマを取得しています。

Ralph Clarenz Matocinos

Ralph Clarenz Matociños

Ralph Clarenz Matociñosは、アナログ・デバイセズのアソシエイト・プロダクト・アプリケーション開発エンジニアです。2022年に入社しました。現在は、クラウド/データ・センターのアプリケーションで使用される電源システムを担当。バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システムやDC/DC電力変換システムの開発など、パワー・エレクトロニクスの分野で1年以上のエンジニアリング経験を有しています。フィリピンのマニラ市立大学(PLM)で電子工学の学士号を取得しました。

Christian Cruz

Christian Cruz

Christian Cruzは、アナログ・デバイセズ(フィリピン)のプロダクト・アプリケーション・スタッフ・エンジニアです。2020年に入社しました。現在は、コンスーマ/クラウド・ベース・インフラストラクチャ事業部門やシステム通信アプリケーション向けのパワー・マネージメント・ソリューションを担当。14年間にわたり、パワー・マネージメント・ソリューションの開発、AC/DC電力変換、DC/DC電力変換などを含むパワー・エレクトロニクスの設計や電源制御用ファームウェアの設計に携わってきました。ザ・イースト大学(フィリピン マニラ)で電子工学の学士号を取得しています。