スイッチング・レギュレータの出力に現れる突入電流を低減し、起動時の問題を回避する

概要

スイッチング・レギュレータ(スイッチング方式の DC/DC コンバータ)を使用する場合、出力に大きな突入電流が現れることがあります。そのことが原因で、レギュレータの起動が遅れたり、全く起動しなかったりすることがあります。この突入電流は、スイッチング・レギュレータの出力フィルタの設計が不適切である場合に生じます。突入電流を最小限に抑えるには、ソフト・スタートの時間を長くとる、スイッチング周波数を高くする、出力容量を削減するといった対策を施す必要があります。本稿では、スイッチング・レギュレータの出力に現れる過大な突入電流が原因で、起動時に発生する諸問題を防止する方法について論じます。実用性を念頭に置き、設計時に検討すべき事柄について詳しく解説します。

はじめに

スイッチング・レギュレータの回路については、出力ノイズに対して非常に厳しい要件が課されることが少なくありません。そのため、ノイズの低減するために複数のコンデンサを使ったフィルタを出力部に付加して対処しようとするケースが見受けられます。しかし、出力部に付加される容量値が大きくなりすぎると、レギュレータの起動時に過大な突入電流(詳細は後述)が生じる恐れがあります。その結果、インダクタの飽和やパワー・スイッチの破損といった問題が生じてしまうことにもなりかねません。

スイッチング・レギュレータ向けの製品としては、制御機能のみを IC 化した DC/DC コントローラ製品が一般的だと言えるでしょう。それとは別に、パワー・スイッチも内蔵したモノリシック型の DC/DC コンバータ IC も存在します。このタイプの製品は、POL(Point of Load)コンバータの用途に最適です。プリント回路基板上での実装面積を抑えられる、ゲート駆動回路をより適切に設計できるといったメリットが得られるからです。ただ、この場合、スイッチだけでなく、コントローラ部も含めて破損を防止する手段が必要になります。つまり、過電流に対する保護が必要になるということです。図 1 にモノリシック型の DC/DC コンバータ IC「ADP5070」を使用して構成したスイッチング・レギュレータの例を示しました。同 IC は、高性能のデュアル品です。

Figure 1
図 1. ADP5070 を使用して構成したスイッチング・レギュレータ

レギュレータを起動した時や、出力が過負荷の状態にある時、大電流が流れることによって、スイッチが破損してしまう恐れがあります。それを防ぐために、モノリシック型のスイッチング・レギュレータ IC には、さまざまな電流制限手法が適用されています。それにもかかわらず、スイッチング・レギュレータでは、起動時に意図したとおりに動作しないということが起こりえます。詳細は後述しますが、電流制限による保護手法の 1 つに Hiccupモードというものがあります。出力コンデンサが完全に放電された状態でスイッチング・レギュレータが起動し、この Hiccup モードに移行したとします。そうすると、レギュレータの起動に時間がかかったり、全く起動しなかったりすることがあります。出力コンデンサに対し、負荷電流に加えて過剰な突入電流が流れ込むことにより、インダクタを流れる電流が増加し、Hiccup モードの電流制限機能が働く閾値に達するケースがありえます。

過電流保護

スイッチング・レギュレータ IC にパワー・スイッチを集積した場合、電流制限をベースとする保護機能は基本機能とて利用されることになります。一般的に適用されている電流制限方式には、固定電流制限、フォールドバック電流制限、Hiccup モード電流制限の 3 種類があります。

固定電流制限

固定電流制限では、過負荷の状態が生じた場合に出力電流を特定の値 ILIMIT に固定します。その結果、出力電圧が低下します。この方式は、サイクル単位で電流制限を適用するという形で実装されます。パワー・スイッチを介して流れるインダクタのピーク電流値の情報を利用して過負荷の状態を検出します。

Figure 2
図 2 . サイクル単位の固定電流制限

図 2 は、ピーク電流制限方式を採用した降圧コンバータについて、通常動作時と過負荷時の一般的なインダクタの電流の様子を示したものです。過負荷の状態に陥った時には、あらかじめ定められた閾値 ILIMIT を超えるピーク電流が検出されるとスイッチング・サイクルが停止します。

固定電流制限では、出力電流が ILIMIT に維持されます。そして、レギュレータ内では大きな電力損失が生じます。この電力損失によってジャンクション温度が上昇し、温度が上限値を超えてしまう恐れがあります。

フォールドバック電流制限

フォールドバック電流制限を使用すれば、固定電流制限が抱える問題の一部を解消することができます。この機能は、過負荷を含む何らかの異常が生じた場合に、トランジスタを安全な動作領域内に維持するように働きます。図 3 は、固定電流制限とフォールドバック電流制限の両方式における出力電圧 VOUT と出力電流 IOUT の応答曲線を示したものです。フォールドバック電流制限では、固定電流制限とは異なり、IOUT を低下させることによって電力損失を抑制します。それにより、スイッチング・レギュレータに対する熱ストレスを緩和します。

Figure 3

 

図 3 . 固定電流制限とフォールドバック電流制限の比較。VOUT と I OUT をグラフとして示しています。

この方式の欠点は、完全に自己修復が可能なわけではないということです。フォールドバックという処理の性質から、また負荷の性質にも依存して、電流制限のための閾値に一度到達するかそれを超えると、動作点が、短絡動作点に向かうフォールドバック領域に陥る可能性があります。その場合、通常動作の状態に戻すには、電源の投入サイクルを経たり、再度イネーブルに設定したりすることが必要になります。

Hiccup モード電流制限

Hiccup モード電流制限では、レギュレータはまずスリープ時間を迎えることになります。その時間が終了すると、一連の短いパルスでスイッチングが行われる状態に移行します。Hiccup( しゃっくり) と呼ばれるのはそのためです。過負荷の状態が生じると、レギュレータはHiccup モードに入ります。そして、レギュレータのスイッチは、あらかじめ定められた時間だけオフになります。その時間をスリープ時間と呼びます。スリープ時間が終了すると、レギュレータはソフト・スタートによる再起動を試みます。異常に端を発する電流制限が解除されていれば、デバイスは通常動作を再開します。解除されていなければ、Hiccup モードに移行します。

Hiccup モード電流制限は、先ほど述べた 2 つの過電流保護方式の欠点を解消します。まず、スリープ時間を設けていることから平均負荷電流が抑えられます。それによりレギュレータの放熱が進み、温度の問題が解消されます。また、過負荷の状態が解消された時点で、スムーズに自動修復することが可能です。

ただし、起動時に Hiccup モード検出器が動作していると、いくつかの問題が生じる恐れがあります。負荷電流に加えて過大な突入電流が流れると、インダクタの電流が電流制限の閾値を超えるケースが考えられます。そうすると、Hiccup モードに移行し、レギュレータが起動しなくなる可能性があります。例えば、「ADP5071」は反転レギュレータの機能を備えています。それによる負の出力について、約 63 µF の総出力容量に対して -15 Vの出力電圧、100 mA の出力電流という設定が行われているとします。その場合、3.3 V の電源で電力を供給しても、正しく起動することはありません。図 4 に示すように、大きな突入電流が出力に生じ、負の電源レールは Hiccupモードに入ります。インダクタの電流のピークは約 1.5 Aに達し、電流制限機能において標準的に使われる約 1.32A という閾値を超えます。

Figure 4
図 4 . ADP5071 の動作。Hiccup モードにおける反転レギュレータの動作を示しています。

また、大きな出力容量に起因して過大な突入電流が生じたとします。すると、図 5 に示すように、レギュレータの起動時間が予期せぬ長さに達する可能性があります。

Figure 5
図 5 . ADP5070 の動作。反転レギュレータの起動が遅れている様子を示しました。

スイッチング・レギュレータのインダクタの電流

インダクタの平均電流

非絶縁型のスイッチング・レギュレータでは、インダクタの位置によってレギュレータのトポロジが決まります。入力と出力の間に共通のグラウンドがある場合、インダクタを配置できる個所は、入力レール、出力レール、グラウンド・レールの 3 つしかありません。

図 6 に、3 つの基本的なスイッチング・トポロジを示しました。インダクタを出力レールに配置する場合、そのトポロジは降圧型になります。入力レールに配置する場合、トポロジは昇圧型です。グラウンド・レールに配置する場合は、反転昇降圧型になります。

Figure 6
図 6 . 基本的なスイッチング・トポロジ

安定した状態では、コンデンサに流れる平均電流はゼロになります。そのため、出力レール上の平均電流 IOUTRAIL は出力電流と等しいはずです。降圧型トポロジの場合、ILAVE= IOUT です。一方、昇圧型と反転昇降圧型のトポロジでは、ID-AVE = IOUT となります。

昇圧型と反転昇降圧型のトポロジでは、スイッチがオフの間だけダイオードに電流が流れます。したがって、スイッチがオフの間は ID-AVE = IL-AVE となります。ここで、図 7 を参考にして、出力電流に対するインダクタの平均電流を求めてみます。スイッチがオフの間は水色の四角形で示されています。その面積が、ダイオードを流れる平均電流 ID-AVE です。矩形の高さは IL-AVE、幅は TOFF です。この電流がすべて出力に流れるので、平均化を用いれば四角形の面積は、幅 T、高さ IOUT で表すことができます。

Equation 1
Figure 7
図 7. 昇圧型または反転昇降圧型のトポロジにおけるダイオードの電流

表 1 は、インダクタの平均電流 IL-AVE とスイッチングのデューティ・サイクル D についてまとめたものです。各式から、入力電圧が最小でデューティ・サイクルが最大になる時と、出力電流が最大になる時に、インダクタの電流が最大になることがわかります。

表 1. インダクタの平均電流とデューティ・サイクル
トポロジ インダクタの電流 デューティ・サイクル
降圧 Table 1 Equation 1 Table 1 Equation 3
昇圧  Table 1 Equation 2  Table 1 Equation 4
反転昇降圧 Table 1 Equation 5 

インダクタのピーク電流

図 8 に示したのは、連続導通動作モードで安定した状態にある反転昇降圧コンバータにおけるインダクタの電圧と電流の波形です。どのスイッチング・トポロジでも、インダクタの電流リップル ΔIL は、理想的なインダクタの性質を表す以下の式(2)に基づいて計算できます。

Figure 8
図 8 . インダクタの電流に生じる“スイング”
Equation 2

スイッチング・レギュレータでは、インダクタの電流が三角波で、変化率が一定である場合、誘導電圧が一定(ΔIL/Δt)になります。これを式(2)に代入して変形すると、式(3)が得られます。インダクタの電流リップルは、インダクタに印加された電圧、時間、インダクタンスによって決まります。

Equation 3

スイッチがターンオンするのにかかる時間は、式(4)に示すように、デューティ・サイクルとスイッチング周波数で簡単に表すことができます。以降で示す式では、スイッチがターンオフする際ではなく、ターンオンする際の電圧と時間の積の方が便利に利用できます。

Equation 4

表 2 は、3 つのトポロジにおけるインダクタの電流リップルについてまとめたものです。式(3)に基づく電圧と時間の積の項 tON は、式(4)によって置き換えました。また、VL-ON の項は、トポロジに基づいてインダクタに生じる誘導電圧で置き換えました。

表 2. インダクタの電流リップル
トポロジ インダクタの電流リップル
降圧 Table 2 Equation 1
昇圧 Table 2 Equation 2
反転昇降圧

ここでもう一度、図 8 をご覧ください。安定した状態におけるインダクタの電流についてもう一度確認してみます。すると、インダクタの平均電流は、Δ I L/ 2 における波形の傾斜、または振幅の幾何学的な中央値であることがわかります。したがって、式( 5) に示すように、インダクタのピーク電流は、インダクタの平均電流と電流リップルの 1/2 の和になります。

Equation 5

コンデンサに対する突入電流

コンデンサに対する充電電流(または変位電流)は、式( 6) で定義されます。この式は、コンデンサを流れる電流は、コンデンサにかかる電圧の変化量に比例するということを表しています。

Equation 6

スイッチング・レギュレータ用の出力コンデンサの値を選択する際には、コンデンサの充電電流について考慮する必要があります。レギュレータの起動時に、コンデンサの電圧がゼロである(コンデンサに電荷が蓄積されていない)とします。その場合、出力コンデンサは、充電が開始されて電圧が安定な状態に達するまで、コンデンサの総容量とコンデンサの電圧の変化量に応じて、できるだけ多くの電流を引き込みます。

スイッチング・レギュレータの出力電圧については、その上昇の度合いが固定の傾斜で制御されます。そのため、変化率の式は式(7)に示すように簡素化できます。出力電圧の変化 ΔV は、安定した状態における出力電圧に相当します。また Δt は、レギュレータの起動時に出力が最終的な値に達するまでの時間に相当します。この時間のことを、一般にソフト・スタート時間と呼びます。

Equation 7

出力容量 COUT が大きすぎるか、ソフト・スタート時間が短すぎる場合、レギュレータで必要な電流量 ICAP があまりにも多くなります。その結果、レギュレータの動作に問題が生じる可能性があります。この大きなインパルス電流こそが、突入電流です。図 9 は、反転昇降圧コンバータの起動時に、コンデンサに対して生じる突入電流と出力電圧を示したものです。出力電圧は 15 V、出力コンデンサは 10 µF、ソフト・スタート時間は 4 ミリ秒という条件です。

Figure 9
図 9 . 出力コンデンサに対する突入電流

起動時におけるインダクタのピーク電流

図 10 は、シンプルな昇圧コンバータの回路図です。図中のスイッチはトランジスタです。このスイッチが閉じている場合、電流はインダクタを流れ、出力レールには流れません。これは COUT の放電フェーズに当たります。放電電流 ICAP は出力へと流れ、逆バイアスのダイオードには全く流れません。スイッチが開いている場合には、ダイオードに電流 ID が流れます。

Figure 10
図 10 . 昇圧コンバータの回路図

キルヒホッフの電流則から、出力レールを流れる電流 IDは、出力コンデンサを流れる電流 ICAP と出力負荷を流れる電流 IOUT の和になるはずです。つまり、式(8)に示す関係があります。

Equation 8

この式は、すべての充電フェーズ、つまりコンデンサの電圧が上昇する時に成り立ちます。したがって、スイッチング・レギュレータが起動する際にも成立します。スイッチング・レギュレータの起動時には、出力コンデンサが放電された初期状態にあるか、または出力電圧が安定した値に達していない状態にあります。

レギュレータの起動時におけるインダクタのピーク電流は、式( 5) によって定義することができます。これには、出力コンデンサに起因する突入電流の影響が含まれています。式( 8) を表 1 の IL-AVE の式に適用し、IOUTを IOUT + ICAP に置き換えます。起動時におけるインダクタのピーク電流の式は、表 3 に示したようになります。

表 3. 起動時におけるインダクタのピーク電流
トポロジ インダクタのピーク電流
降圧 Table 3 Equation 1
昇圧 Table 3 Equation 2
反転昇降圧

いずれのトポロジにおいても、インダクタのピーク電流は IOUT に比例します。出力電流の観点からは、最大負荷の状態を想定して出力コンデンサの値を決定する必要があります。

ここでアプリケーションにおける入力電圧範囲について考えてみます。入力電圧について、降圧型とそれ以外の2 つのトポロジには、インダクタの電流の DC 成分と AC成分の大きさという点で違いがあります。図 11 は、このことをわかりやすく示したものです。降圧型の場合、入力電圧が高くなるにつれて、AC 成分が大きくなります。平均電流は出力電流に等しいので、DC 成分は一定になります。したがって、インダクタのピーク電流は、入力電圧が最大の時に最大になります。

Figure 11
図 11. インダクタの電流と入力電圧の関係

昇圧型または反転昇降圧型の場合、入力電圧が高くなるにつれて、AC 成分が大きくなります。一方、表 1 に示したように、デューティ・サイクルによる影響が平均電流に加わるため、DC 成分は低下します。DC 成分の方がはるかに大きいので、インダクタのピーク電流は、入力電圧が最小の時に最大になります。入力電圧の観点からは、降圧型の場合は最大入力電圧、昇圧型または反転昇降圧型の場合は最小入力電圧を前提として出力コンデンサの値を設定する必要があります。

突入電流の影響の緩和

出力コンデンサをベースとするフィルタ

上述したように、出力容量が大きすぎると、大きな突入電流が生じます。また、インダクタのピーク電流が、レギュレータの起動時に電流制限用の閾値を超える可能性があります。そのため、出力電圧のリップルを最小限に抑えつつ、レギュレータの良好な起動性能を得るためには、容量値を適切に設定する必要があります。

降圧コンバータの場合、COUT とピーク to ピークの電圧リップルの関係は、式(9)で定義されます。

Equation 9

昇圧コンバータと反転昇降圧コンバータでは、COUT とピーク to ピークの電圧リップルの関係は、以下の式(10)で定義されます。

Equation 10

上記の式では、コンデンサとインダクタに対する寄生要素の影響は無視しています。この点には注意してください。出力に付加するコンデンサについて検討するうえでは、これらの式をレギュレータの定格仕様と照らし合わせるとよいでしょう。出力フィルタと突入電流の間の適切なバランスを図るのは、重要な検討事項になります。

2 段目の LC フィルタ

図 12 に示すように、スイッチングに伴うトランジェントが出力電圧に生じることがあります。その振幅が大きいと、出力負荷に問題が生じます。スイッチングに伴うスパイクは、主に出力レールにおいてスイッチングに伴う電流( 昇圧型/反転昇降圧型の場合はダイオードの電流)の遷移に起因して生じます。また、それがプリント回路基板の銅パターンの浮遊インダクタンスによって増幅される場合があります。スパイクの周波数は、レギュレータのスイッチング周波数よりもはるかに高くなります。その結果、出力フィルタのコンデンサだけではピーク to ピークのリップルを低減できないことがあります。その場合、フィルタをさらに強化しなければなりません。

Figure 12
図 12 . スイッチングに伴うトランジェントによって生じる出力電圧のリップル

図 12 では、昇圧コンバータのインダクタに現れる周期的なスイッチングの影響が青色で、出力電圧リップルが黄色で示されています。インダクタの電流がスイッチングに伴って遷移する際、高周波のトランジェントがリップル電圧に現れることがわかります。

アナログ・デバイセズのウェブサイト(analog.com/jp)には、Kevin Tompsett が執筆した「Designing SecondStage Output Filters for Switching Power Supplies(スイッチング電源に向けた 2 段目の出力フィルタの設計)」という記事があります。2段目 の LC フィルタによって、高周波のトランジェントを低減する方法が詳しく解説されています。

リップルの測定

出力電圧のリップルについて把握するには、正しい測定方法が必要です。誤った測定方法では、結果が不正確になります。電圧リップルが実際よりも大きな値として測定されて、出力コンデンサの値を不適切に設定してしまう恐れがあります。トレードオフについて考慮せず、電圧リップルを抑制することだけを考えて出力に付加する容量を過大な値に設定してしまうというというのは、ありがちな過ちです。

Aldrick Limjoco が執筆した「スイッチング・レギュレータの出力リップルとスイッチング・トランジェントの測定」というアプリケーション・ノートが参考になるはずです。詳細については、稿末をご覧ください。

ソフト・スタート機能

昇圧型または反転昇降圧型のレギュレータでは、インダクタの電流の DC 成分が増加するに伴って影響が大きくなります。入力電圧が低い場合、デューティ・サイクルが大きくなると、表 3 の式の(1-D)の項からわかるように、インダクタの平均電流が大きく増加します。このことは、図 11 にも示されています。つまり、出力コンデンサの突入電流をかなり低減する必要があるということです。これは、式(7)のソフト・スタート時間 tSS を長くとることにより実現できます。

Figure 13
図 13 . インダクタの電流とソフト・スタート時間の関係

ほとんどのスイッチング・レギュレータはソフト・スタート機能を備えています。それにより、起動時の出力電圧の立上がり時間を調整できるようになっています。多くの場合、ソフト・スタート時間 tSS は、1 つの抵抗の値を変更することで簡単に調整できます。図 13 は、反転昇降圧コンバータの起動時の波形です。ソフト・スタート時間を 4 ミリ秒から 16 ミリ秒に変更することで、インダクタのピーク電流が 25 % も削減されていることがわかります。

スイッチング周波数を高める

図 14 は、スイッチング周波数 fSW の変更がインダクタの電流に与える影響を示したものです。デューティ・サイクル D と出力電流が一定であるとすると、インダクタの電流の AC 成分、つまり ΔIL/2 は、fSW の変更による影響を受けますが、DC 成分は影響を受けません。インダクタのピーク電流はスイッチング周波数に反比例し、スイッチング周波数が高いほど少なくなります。

Figure 14
図 14 . インダクタのピーク電流に影響を与える要因

ADP5070 の例

出力容量の上限

ADP5070 は、昇圧レギュレータと反転昇降圧レギュレータで構成されるモノリシック型のデュアル・レギュレータです。過電流保護機能として Hiccup モードの電流制限を採用しています。出力容量が大きすぎる場合、どのようなトレードオフが生じるでしょうか。これについての検討を怠っている人は少なくありません。特に、高いデューティ・サイクルで動作する場合や、入力電圧が最小値である場合には、出力容量が大きすぎると、反転出力において起動時の問題が一般的に生じることになります。電流制限の閾値は、昇圧レギュレータよりも反転昇降圧コンバータの方が低く設計されているからです。

図 15 に、ADP5070 に関する評価結果を示しました。これらは、同 IC において、どれだけの容量を出力に付加できるのかを把握するために活用することができます。つまり、起動時の問題が生じない最大の容量値はいくつなのかという検討に利用可能です。表 3 には、突入電流を含めて、インダクタのピーク電流と出力電流の関係を示しました。入力電圧と出力電圧の複数の組み合わせを対象として、最大 COUT と最大 IOUT の関係を把握することができます。式(9)または式(10)により、VOUT の最適なリップル性能について検討した後、出力コンデンサの上限値を決定する際に役立ちます。

どちらのグラフも、tSS の最小値と、電流制限に使用する閾値に基づいて算出されています。外付け部品としては、レギュレータよりもはるかに大きな電流に対応できるものを選択しました。グラフに示した各値は、tSS を大きくすると間違いなく増加します。

Figure 15
図 15 . 最大 COUT と最大負荷電流の関係

出力負荷に対し大電流を供給することが求められるアプリケーションでは、ADP5071 の採用を検討することをお勧めします。ADP5071 は、昇圧レギュレータとして使う場合も反転昇降圧レギュレータとして使う場合も、電流制限については ADP5070 よりも閾値を高く設定できるように設計されています。

計算結果と測定結果

図 16 は、反転レギュレータの起動時におけるインダクタの電流と誘導電圧の波形を示したものです。図 17 には、表 3 に示した式によって計算したインダクタの電流値と、実測した電流値を示しました。

Figure 16
図 16 . 反転レギュレータの起動時におけるインダクタの電流と誘電電圧

 

Figure 17
図 17 . インダクタの電流の計算結果と測定結果

これらのデータは、tSS を長くとることでインダクタのピーク電流を抑えれば、突入電流が著しく減少するということを示すものです。tSS が 4 ミリ秒の場合、反転レギュレータの電流はすでに電流制限の閾値である 0.6 A に達しています。つまり、起動時に問題が生じる可能性があるということです。tSS を 16 ミリ秒に設定し、インダクタのピーク電流に十分なマージンを設けることにより、その問題を回避することができます。

まとめ

本稿では、スイッチング・レギュレータを設計する際、コンデンサをベースとする出力フィルタを慎重に設計することがいかに重要であるかを示しました。インダクタのピーク電流に影響を及ぼす要因について十分に理解することで、レギュレータの起動時に生じる問題を回避することが可能になります。特に、昇圧コンバータや反転昇降圧コンバータで Hiccup モードの電流制限を採用した場合、そうした問題が生じやすくなります。

本稿では、インダクタのピーク電流と出力に現れる突入電流の間の直接的な関係を示しました。電流制限に使用する閾値に対してインダクタのピーク電流がどのように変化するのかということが、出力コンデンサの値を決定する際に役立つはずです。同じ出力条件の下で、ソフト・スタート時間を長くとるか、スイッチング周波数を高くすれば、突入電流を最小限に抑えることができます。

アナログ・デバイセズは、モノリシック型のスイッチング・レギュレータ IC として、ADP5070、ADP5071 のほかに、「ADP5073」、「ADP5074」、「ADP5075」も提供しています。これらの製品を使用して DC/DC コンバータを設計する際には、本稿で説明した事柄を活用できるはずです。

参考資料

R.B. Erickson、D. Maksimovic「Fundamentals of PowerElectronics, Second Edition(パワー・エレクトロニクスの基礎 第2版)」Springer、2001年

Gustav Kirchhoff「Kirchoff ’s Current Law(キルヒホッフの電流則)」Electronic Tutorials

Aldrick S. Limjoco、アプリケーション・ノート AN-1144「スイッチング・レギュレータの出力リップルとスイッチング・トランジェントの測定」Analog Devices、2013年1月

Kevin Tompsett 「Designing Second Stage Output Filters for Switching Power Supplies( スイッチング電源に向けた 2 段目の出力フィルタの設計)」AnalogDevices、2016年2月

Fil Paulo Balat

Fil Paulo Balat

Fil Paulo S. Balatは、アナログ・デバイセズのパワー・マネージメント製品や DC/DC 変換製品を担当するアプリケーション・エンジニアです。17 年にわたり、スイッチング電源の設計に携わってきました。携帯電話の充電器で使用する AC/DC 疑似共振フライバック・コンバータなど、多様な製品を開発した経験を持ちます。フィリピンのザビエル大学アテネオ・デ・カガヤンで電子工学の学士号を取得しています。

Jefferson A Eco

Jefferson Eco

Jefferson A. Ecoは、2011年5月にADIのフィリピン支社に入社しました。現在はアプリケーション開発エンジニアとして、主にパワーマネジメント製品に携わっており、スイッチング電源リップルフィルタリングに関する特許を申請中です。フィリピンのカマリネス・ポリテクニック大学で電子工学の学士号を取得しています。

James Macasaet

James Macasaet

James Jasper Macasaetは、2013 年 4 月にフィリピンのマニラにある聖トマス大学で電子工学の学士号を取得しました。現在はリムリック大学で工学分野の修士課程に取り組んでいます。同時に、アナログ・デバイセズのフィリピン支社でシステム・アプリケーション開発エンジニアとして勤務しています。アナログ・デバイセズでは、D/A コンバータや A/D コンバータといったミックスド・シグナル製品、高性能のパワー・マネジメント製品の特性評価を担当しています。単電源のシステムにおいて、両電源の高精度 D/A コンバータに給電する方法をまとめたアプリケーション・ノートを共同執筆した経験も持ちます。